函館地方裁判所 昭和47年(ワ)157号 判決 1974年2月14日
原告
白山政幸
ほか二名
被告
国
ほか一名
主文
被告安岡は、原告白山政幸に対し、金三万二、七一一円および内金二万二、七一一円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告高橋房江に対し、金二一万四、二四〇円および内金一九万四、二四〇円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告白山松太郎に対し、金二一万九、二〇〇円および内金一八万九、二〇〇円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。
原告らの被告国に対する請求および原告白山政幸、同白山松太郎の被告安岡に対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用のうち原告らと被告安岡との間に生じたものは被告安岡の負担とし、原告らと被告国との間に生じたものは原告らの負担とする。
この判決は原告ら勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自白山政幸に対し、金七万五、〇一五円および内金六万五、〇一五円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは各自原告高橋房江に対し、金二一万四、二四〇円および内金一九万四、二四〇円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、各自原告白山松太郎に対し、金三四万八、三〇〇円および内金三一万八、三〇〇円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(一) 被告安岡政雄
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
(二) 被告国
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決および担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 事故の発生
1 発生日時 昭和四六年二月四日午前一一時二〇分ころ
2 発生場所 北海道山越郡長万部町字二股知来陸橋附近道路上
3 加害車 イ 普通貨物自動車(函一は四五七七号、以下加害貨物車という)
右運転者訴外金沢一男(以下訴外金沢という)
右所有者被告安岡政雄(以下被告安岡という)
ロ 除雪自動車(以下加害除雪車という)
右運転者訴外本杉誠三(以下訴外本杉という)
右所有者被告国
右管理者北海道開発局函館開発建設部
4 被害車 普通乗用自動車(函五ひ八五七九号。以下被害車という)
右運転者原告白山政幸
右所有者原告白山松太郎
同乗者原告高橋房江(以下原告高橋という)
5 事故の態様
(1) 本件事故発生当時、加害除雪車が、国道五号線上の本件事故発生場所附近(以下本件道路という)を長万部方面から黒松内方面に向かつて右側車線上を進行しながら左側車線越しに投雪していたため右加害除雪車の附近一帯は飛散する粉雪のため吹雪のような状態になり見透しが著しく困難となつた。
(2) そこで、長万部方面から黒松内方面に向けて本件道路の左側車線上を進行中であつた被害車は、右の状態を認めて最徐行した。
(3) ところが、本件道路を黒松内方面から長万部方面に向かつて進行して来た加害貨物車は、右除雪車を避けて反対車線上に侵入して来て被害車に正面衝突した。
6 結果
(1) 原告白山政幸は全身打撲頸椎挫傷の傷害を受け昭和四六年二月四日から同年同月一七日まで北海道勤労者医療協会黒松内診療所において入院加療を受け同年同月一八日より同年六月一七日まで通院し、加療を受けた(実日数一一日)、その間同年二月二三日、同月二四日札幌医大病院に通院し、さらに同年三月一日札幌市南二一条西九丁目の土田病院で通院加療を受けている。
(2) 原告高橋は頭部打撲、脳震盪症、上歯齦部打撲、歯牙欠潰損(二本)等の傷害を受け昭和四六年二月四日から同年同月二七日まで二四日間長万部町四五一の三葛西産婦人科外科医院に入院した。ついで昭和四六年七月一五日から同年七月二七日まで同所四四六番地寺崎歯科医院に通院し歯牙欠潰損の治療手術を受けた。
(3) 原告白山松太郎はその所有する被害車および後記部品が大破し修理不可能な状態にさせられた。
(二) 責任原因
1 被告安岡の責任
被告安岡は加害貨物車を所有し、訴外金沢を使用して、これを運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条により原告白山政幸と同高橋の後記損害を賠償する責任があり、かつ本件事故は運搬業を営む被告安岡の被用者である訴外金沢がその業務の執行として加害貨物車を運転中前方不注意によつて惹起させたものであるから、民法七一五条により訴外金沢の使用者として原告白山松太郎の後記損害を賠償する責任がある。
2 被告国の責任
被告国は加害除雪車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条により原告白山政幸と同高橋の後記損害を賠償する責任があり、かつ本件事故は当時、北海道開発局函館開発建設部職員であつた加害除雪車の運転者訴外本杉が、前記の態様で除雪作業中加害除雪車の前方および後方より自動車が接近したものであるから、その安全運行を図るため直ちに除雪作業を中止し、右各自動車の通過をまつて除雪作業を開始する等の注意義務があるのにこれを怠つた過失により惹起されたものであるから、国家賠償法一条により原告白山松太郎の後記損害を賠償する責任がある。
(三) 損害
1 原告白山政幸関係
(1) 治療費
黒松内診療所に金八万〇、八五四円、札幌医大病院に金七、三一三円、土田病院に金一万二、一五六円以上合計金一〇万〇、三二三円を治療費として支払つた。
(2) 入院雑費
入院期間中一日金二〇〇円の雑費を要し、その一四日分の合計金二、八〇〇円。
(3) 慰藉料
原告白山政幸は本件事故によつて重大なる精神的苦痛を蒙むつたので、これを慰藉するためには金一〇万円が相当である。
(4) 弁護士費用
本件訴訟を追行するため弁護士費用として金一万円の出費を余儀なくされた。
(5) 損害の填補
原告白山政幸は自動車損害賠償保険金一三万八、一〇八円を受領しているので、これを治療費金一〇万〇、三二三円、入院雑費金二、八〇〇円、慰藉料の内金三万四、九八五円に充当したので残損害は金七万五、〇一五円となる。
2 原告高橋関係
(1) 治療費
葛西産婦人科外科医院に金四、四四〇円、寺崎歯科医院に金三万五、〇〇〇円を治療費として支払つた。
(2) 入院雑費
入院期間中一日金二〇〇円の雑費を要しその二四日分の合計金四、八〇〇円。
(3) 慰藉料
原告高橋は本件事故によつて重大な精神的苦痛を受けたので、これを慰藉するには金一五万円が相当である。
(4) 弁護士費用
本件訴訟を追行するため弁護士費用として金二万円の出費を余儀なくされた。
右合計金二一万四、二四〇円
3 原告白山松太郎関係
(1) 次の物件の滅失毀損による損害
(イ) 被害車
購入価格は金二八万円であつたが六ケ月走行していたので減額分を金三万円として現存価格は金二五万円であつた。
(ロ) カーステレオ時価金三万円
(ハ) スノータイヤ四本時価合計金一万五、〇〇〇円
(2) 対人任意保険料
被害車は修理不能な大破により使用することができなくなつたので対人任意保険は無意味なものとなり、その保険料金二万三、三〇〇円が損失するところとなつた。
(3) 弁護士費用
本件訴訟を追行するため弁護士費用として金三万円の出費を余儀なくされた。
右合計金三四万八、三〇〇円
(四) 結論
よつて被告ら各自に対し
1 原告白山政幸は金七万五、〇一五円および弁護士費用を除く内金六万五、〇一五円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 原告高橋房江は金二一万四、二四〇円および弁護士費用を除く金一九万四、二四〇円に対する昭和四六年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 原告白山松太郎は金三四万八、三〇〇円および弁護士費用を除く金三一万八、三〇〇円に対する昭和四六年二月四日より支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 被告安岡
(一)の1ないし4の事実は認める(但し加害除雪車の運転者名は不知)、5の事故の態様は争う、6の事実は不知。
(二)の1の事実は認める。
(三)の1のうち(2)、(4)、(5)の事実は認める。(1)、(3)の事実は争う。
(三)の2のうち(2)、(4)の事実は認める。(1)、(3)の事実は争う。
(三)の3のうち(3)の事実は認める。(1)、(2)の事実は争う。
(二) 被告国
(一)の事実のうち1ないし4の事実は認める。5の事故の態様は争う。6の事実は不知。
(二)の2の事実のうち、加害除雪車が被告国の所有であることおよび本件事故当時北海道開発局函館建設部職員である訴外本杉が加害除雪車を運転し、除雪作業に従事していたことは認めるが、その余の事実は全て争う。
(三)の事実は不知。
三 抗弁
(一) 被告安岡
本件事故について、当時加害貨物車を運転していた訴外金沢に前方不確認の注意義務違反の責任は免れないにしても、当時被害車を運転していた原告白山政幸にも前方不確認と操車誤りの過失がある。したがつて損害の算定に当り、この点を斟酌すべきである。
(二) 被告国
1 被告国及び訴外本杉誠三には、加害除雪車の運行につき過失はなかつた。
2 本件事故は、訴外金沢と原告白山政幸の運転上の過失によつてのみ発生したものである。
3 加害除雪車には構造上の欠陥および機能上の障害は存しなかつた。
四 抗弁に対する認否
被告安岡の抗弁は否認し、被告国の抗弁中2の訴外金沢の過失の点は認め、その余の事実は全て否認する。
第三証拠〔略〕
理由
第四
(事故の発生)
一 原告主張の日時、場所において長万部方面から黒松内方面に向つて左側車線(以下右、左の区別はその車の進行方向を基準としていう)上を進行してきた原告白山政幸運転の被害車と黒松内方面から長万部方面に向つて進行してきて当時右場所の左側車線上において除雪作業に従事中の加害除雪車を避けて右側車線上に進路を変えて進行した訴外金沢運転の加害貨物車とが衝突したことは当事者間に争がない。
二 〔証拠略〕を綜合すると本件事故により原告が請求原因(一)の6で主張するとおりの結果が発生したことが認められる。
(被告国の責任)
一 加害除雪車が被告国の所有であることは当事者間に争がなく、本件事故発生当時被告国の被用者である北海道開発局函館開発建設部の職員訴外本杉が加害除雪車を運転し除雪作業に従事していたことは〔証拠略〕によつて認められる。そこで被告国につき自賠法三条ないし国家賠償法一条の責任の有無について判断する。
〔証拠略〕を綜合すると次の各事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
函館開発建設部八雲出張所所属の運転手である訴外本杉は、昭和四六年二月四日午前八時三〇分頃国道五号線の山越郡長万部町字二股と同町字蕨岱間の拡幅除雪作業に従事すべく、同所非常勤職員運転手江口紀雄(以下訴外江口という)を助手として同乗させ加害除雪車を運転して山越郡長万部町字大浜の函館開発建設部八雲出張所長万部除雪センターを出発し、途中同町字長万部一一六番地の小林鉄工場に立寄つて加害除雪車のプロテクターの修理を行つたうえ、午前九時四〇分頃同所を出発、黒松内方向に進行した。午前一〇時一五分頃国道五号線の基点函館駅から約一一七・二キロメートルの地点にある寿橋附近に達し、そこから道路左側の車線の除雪を開始した。加害除雪車の車体屋上に設備してある黄色点滅灯を点灯し、かき込んだ雪を左側に排雪しながら約一・一キロメートル進行したところ道路左側には拡幅除雪を要する積雪がなくなつた。しかして午前一一時一五分頃国道五号線の国鉄線路上に架けられている知来跨線橋(函館基点から約一一八・四キロメートルの地点)の手前約五〇メートルの地点に達したところ、道路右側部分に除雪すべき雪があつた。ところで、その部分にはガードワイヤー、縁石、水切り等除雪車のロータリーにひつかかり易いものがあつたので、訴外本杉は見透しのよい除雪車の右側で作業することにし車の進行方向を変えずに道路の右側部分に移動し時速〇・五キロメートルないし一キロメートルの速度で進行しながら、雪をかき込み排雪用ブロワから右側に雪を飛ばしながら約一メートル進行したが、そのまま除雪を継続すると道路下方の国鉄函館本線の線路上に排雪した雪が飛散することとなるため、投雪方向をかえることにし、加害除雪車を一旦停止し、排雪用ブロワを左に向け替え、再び発進し、前記速度で進行し雪をかき込み排雪用ブロワから左側車線の路肩にある雪提越しに投雪しながら前進した。三、四メートル進行したとき訴外江口が約一五〇メートル前方に蕨岱方向から長万部方向に走行してくる訴外金沢運転の加害貨物車を発見し、その旨を訴外本杉に告げた。訴外本杉も前方約一三〇メートルに同車を認めたので、直ちに加害除雪車を停止し、作業を中止して右車両の通過を待つた。加害貨物車は時速約四〇ないし五〇キロメートルで加害除雪車に接近し、やや速度を落して反対車線に移り加害除雪車の横を通過していつた。加害貨物車が加害除雪車をかわし、訴外金沢はハンドルを左に切つて進行し、加害除雪車の後方約一〇メートルの道路中央附近地点に達したとき折から対面進行してきた原告白山政幸運転の被害車と衝突した。
二 ところで(加害)除雪車は道路上の通行の妨げとなる積雪を除去し、もつて交通の確保およびその安全を維持するという公共目的に資するものであるから、その作業は他の車両の通行を不当に妨げない限りこれを継続し得るものであるが、その作業方法等においてはできる限り他の車両の通行の妨げとならないよう配慮し、いやしくも事故発生の原因とならないよう適切な方法でなすべき注意義務の存することは勿論であるが、前認定事実によると、加害除雪車を運転していた訴外本杉は除雪作業を開始するに当り、法令に定められた作業中であることを示す黄色点滅灯を点灯し、本件事故当時も継続して点灯していたことは明らかであり、また、事故現場において除雪方法として道路を越えて左側に投雪したことも、右側に投雪すると国鉄の線路上に散布し鉄道の通行に支障をきたす恐れがあつたことによるものであるからその除雪作業方法としては何ら不当なものとは認められず、さらに加害貨物車が前方約一三〇メートルに接近してきたことを発見したとき(当時被害車も同程度の距離で後方に接近してきたものと認められる)直ちに除雪作業を停止して右車両の通過を待つたものであるから、加害除雪車の運行およびその作業には何ら違法な点は認められず、また本件事故発生について、責任原因となるような過失ある行為は何ら認められない。
しかも本件事故は後記認定のとおり訴外金沢と原告白山政幸の運転上の過失によつてのみ発生したものであり、かつ加害除雪車に当時機能の障害および構造上の欠陥がなかつたことは〔証拠略〕によつて認められる。
以上の次第であるから被告国は本件事故に関し国家賠償法一条および自賠法三条の責任を負うべき理由はない。
(被告安岡の責任)
本件加害貨物車が被告安岡の所有であり、事故当時これを運行の用に供していたこと、および当時加害貨物車を運転していた訴外金沢が被告安岡の従業員であり、被告安岡の運搬業務に従事中本件事故を惹起したことは当事者間に争がない。
〔証拠略〕を綜合すると、本件加害貨物自動車を運転していた訴外金沢は事故当日本件事故現場に差しかかつた際約一五〇メートル手前で加害除雪車が自己の進路上で除雪作業をしているのを発見、それまで時速約四〇ないし五〇キロメートルで走行してきたが加害除雪車に接近し速度を若干落しながら加害除雪車の手前約一〇メートルの地点で右にハンドルを切り反対車線に入つて加害除雪車の横を通過した。加害貨物車が加害除雪車に接近した際加害除雪車は排雪を中止したが、その横を通過しようとした際には空中に飛散している雪がおさまらず、見透しはよくなかつた。しかるに訴外金沢は対向車はないものと思い、あまり前方に注意を払うことなく反対車線に入り、加害除雪車の横を通過した。その通過の際も加害除雪車との接触の有無に注意を多く奪われていた。バツクミラーで自己の車体の約半分が過ぎたことを確認し、自己の進行車線上に戻るべく左にハンドルを切つて前方を注視した際、はじめて四、五メートル前方に被害車を発見、危険を感じて、急制動の措置をとつたが間に合わず、加害貨物車の右前部を被害車の右前部に衝突させ、本件事故となつた。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によると訴外金沢は本件加害貨物車を運転し加害除雪車に接近し、自己の進行車線が加害除雪車によつて塞がれていたため、反対車線に進入して進行しようとした。しかも、その際散布された雪のため見透しがよくなかつたのであるから、このような場合、反対車線に移行する以前一且停止して飛散している雪がおさまるのを待ち、見透しがよくなつてから前方をよく注視して対向車のないこと、少なくとも対向車と衝突する危険のないことを確認してから進行すべき注意義務があるものというべきである。しかるに訴外金沢はこの点について充分な配慮を払うことなく漫然と反対車線に移動し、進行したという過失のあること右認定事実によつて明白である。
よつて被告安岡が自賠法三条および民法九一五条により、本件事故によつて原告らに生じた後記認定の損害を賠償すべき責任がある。
四 損害の発生
1 原告白山政幸
〔証拠略〕によると原告白山政幸は次の(一)、(三)の損害を蒙むつたことが認められ、また(二)、(四)の損害を蒙むつたことは原告白山政幸と被告安岡との間に争がない。
(一) 治療費 金一〇万〇、七二三円
右内訳
黒松内診療所関係 金七万三、二六二円
黒松内町国民健康保険病院関係 金七、五九二円
札幌医大附属病院関係 金七、七一三円
土田病院関係 金一万二、一五六円
(二) 入院雑費 金二、八〇〇円
(三) 慰藉料 金一〇万円
前認定の傷害の程度、通院日数等諸般の事情を考慮すると、原告白山政幸が本件事故により蒙むつた精神的苦痛に対する慰藉料としては金一〇万円が相当である。
(四) 弁護士費用 金一万円
本件訴訟追行を原告代理人に依頼し、それに要した費用。
以上合計金二一万三、五二三円
2 原告高橋
〔証拠略〕によると、原告高橋は、本件事故により次の(一)、(三)の損害を蒙むつたことが認められ、また次の(二)、(四)の損害を蒙むつたことは原告高橋と被告安岡との間に争がない。
(一) 治療費 金三万九、四四〇円
右内訳
葛西産婦人科外科医院関係 金四、四四〇円
寺崎歯科医院 金三万五、〇〇〇円
(二) 入院雑費 金四、八〇〇円
原告高橋が葛西産婦人科外科医院に二四日間入院し、一日金二〇〇円の割合による入院雑費。
(三) 慰藉料 金一五万円
前認定の受傷の程度、通院日数等諸般の事情を考慮すると、原告高橋が本件事故により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としてはその主張どおり金一五万円が相当である。
(四) 弁護士費用 金二万円
本件訴訟追行を原告代理人に依頼し、それに要した費用。
以上合計金 二一万四、二四〇円。
3 原告白山松太郎
本件事故により原告白山松太郎が次の(三)の損害を蒙むつたことは同原告と被告安岡との間に争がなく、また、(一)、(二)の損害を蒙むつたことはその項に記載の各証拠によつて認められる。
(一) 本件被害車の価格金二二万円
〔証拠略〕によれば、本件被害車は原告白山松太郎の所有するものであつたが本件事故により大破し、修理不能となり、スクラツプ同様のものとなつたこと、しかしてその購入価格は金二八万円であり、本件事故当時までに約六ケ月間経過していたこと、が認められる。ところで、本件被害車程度の車両の時の経過による減価額は一ケ月につき金一万円と見るのを相当と解せられるので、本件事故当時の被害車の価格は金二二万円であると認められる。
(二) カーステレオ 金二万四、〇〇〇円
〔証拠略〕によれば、原告白山松太郎が、昭和四五年九月に金三万円で購入し被害車に設置してあつたカーステレオ一台が本件事故により破壊して使用不能になつたこと、右カーステレオの事故当時の価格は右購入価格からその二割を減じた金二万四、〇〇〇円をもつて相当と認められる。
(三) 弁護士費用 金三万円
本件訴訟追行を、原告代理人に依頼し、それに要した費用。
(四) なお、原告白山松太郎はスノータイヤ四本と、対人任意保険料との損害を請求しているが、〔証拠略〕によれば、スノータイヤ四本は、本件事故によつて破損したものではなく、原告白山松太郎において保管中その保管方法が適当でなかつたため盗難にあつたものであること、また、本件被害車には、原告白山松太郎において昭和四五年九月一〇日ごろ金二万三、三三四円で期間一年間の対人任意保険をかけていたことは認められるが、本件事故後原告白山松太郎において解約手続を怠つていたため、保険料の返還を受けることができなくなり、右返還保険料と同額の損害を蒙むつた事実がそれぞれ認められるので、右スノータイヤ四本および保険料の損害は本件事故と相当因果関係にある損害とは認められない。
以上合計金二七万四、〇〇〇円
(過失相殺)
前認定のように本件事故は加害貨物車を運転していた訴外金沢の不注意によつて惹起されたものであり同人の右行為が本件事故発生の大部分の原因をなすものであると思われるが、しかし、〔証拠略〕を綜合すると、原告白山政幸は本件事故現場にさしかかつたとき約六・七〇メートル手前の反対側車線に本件加害除雪車があり、飛散した雪のため見透しがよくなかつたのに、これまで道路中央を進行してきたのを左側に寄つただけで、時速約四五キロメートルのまま加害除雪車の脇を通り抜けようとして接近したところ、反対方向から除雪車の横を通つてきた加害貨物車と衝突したもので、それまで加害貨物車の存在に気付かなかつたことが認められる。
右認定のように自己の反対車線に除雪中の車両があり、しかも飛散した雪のため前方視界が良くなかつた場合はその除雪車によつて進路を塞がれた反対方向から来る車両が自己の進路上を進行して来ることが当然予想されるものであるから、徐行しながらこのような車両の有無を充分確認してから進行すべき注意義務があるものというべく、原告白山政幸は右の注意を怠つて進行した過失あること右認定事実により明らかであり、この過失も本件事故発生の一原因をなしているものである。
しかして、訴外金沢一男との過失割合は前記認定事実を勘案すると訴外金沢八割、原告白山政幸二割とするのが相当と認められる。
しかして〔証拠略〕によると、両名は同居の父子関係にあり、生計を同じくしていることが認められるので、原告本人白山松太郎の損害の算定に当つても原告本人白山政幸の過失を斟釣し、相殺するのが公平の観点から相当と認められる。
(損害の填補)
原告本人白山政幸が自動車損害賠償保険から損害の填補として金一三万八、一〇八円を受領していることは当事者間に争がない。
五 結論
以上の次第で、原告高橋の被告安岡に対する本訴請求の全部、および原告白山政幸の被告安岡に対する本訴請求のうち、前認定の損害額金二一万三、五二三円から過失相殺により減ずべき金四万二、七〇四円と損害の填補された金一三万八、一〇八円を減じた金三万二、七一一円と弁護士費用を差引いた内金二万二、七一一円に対する事故発生の日である昭和四六年二月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める範囲内、ならびに被告白山松太郎の被告安岡に対する本訴請求のうち前認定の損害額金二七万四、〇〇〇円から過失相殺により減ずべき金五万四、八〇〇円を差引いた金二一万九、二〇〇円と弁護士費用を差引いた内金一八万九、二〇〇円に対する事故発生の日である昭和四六年二月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める範囲内でそれぞれ理由があるのでこれを認容し、原告らの被告国に対するすべての請求および原告白山政幸、同白山松太郎の被告安岡に対するその余の請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 長浜忠次)