函館簡易裁判所 昭和31年(ハ)1026号 判決 1957年7月23日
函館市堀川町四十一番地
原告(反訴被告)
宮松まつ江
右訴訟代理人弁護士
桐田喜久造
被告(反訴原告)
国
右代表者
法務大臣 唐沢俊樹
右指定代理人
林倫正
同
波岡五十三
同
布施幸治
右当事者間の昭和三十一年(ハ)第一、〇二六号差押登記抹消登記手続請求事件および昭和三十二年(ハ)第八九一号反訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の本訴請求を棄却する。
反訴被告(原告)は別紙目録記載の建物について昭和三十年十月二十六日函館地方法務局受付第一〇四九二号をもつてなされた同年同月二十日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記及び昭和三十一年四月十四日同地方法務局受付第四〇二七号を以てなされた同三十年十一月十日の売買を原因とする所有権移転登記の各抹消登記手続を為すべし。
訴訟費用は本訴並びに反訴に依り生じたる分も共に原告(反訴被告)の負担とする。
事実
原告(反訴被告以下単に原告と略称す)訴訟代理人は本訴に付き
一、被告は別紙目録の建物に対し、函館地方法務局昭和三十一年三月二十六日受付第三千四十七号を以て為したる滞納処分による差押登記の抹消登記手続を為すべし。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、反訴に付き被告(反訴原告以下単に被告と略称す)の請求を棄却するとの判決を求め、本訴請求の原因並びに反訴の答弁として別紙目録記載の建物は元訴外亀田栄喜の所有なる処原告は昭和三十年十月二十六日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を為したるに被告は訴外亀田栄喜に対する国税滞納処分として昭和三十一年三月二十六日差押登記を為した。
二、原告は昭和三十一年四月十四日売買による所有権移転の本登記を為した。
三、右本登記の結果仮登記の日たる昭和三十年十月二十六日に遡り所有権移転の効果発生したるにより被告の差押登記は原告に対し対抗力なきに至りたるにより之が抹消登記手続を求むる為め本訴提起に及ぶと陳述し、
反訴原因中、一、訴が繋属中なること、二、別紙目録の建物は亀田栄喜の所有で昭和三十年十月二十日売買の予約同月二十六日右仮登記、同年十一月十日の売買を原因として昭和三十一年四月十四日函館地方法務局受付第四千二十七号所有権移転登記が為されたことを認めるが、三、右各登記は(1)実質的要件を欠く故に無効である、仮りにそれが容れられないとしても、(2)被告が知らない間に法律行為が為されたもので意思表示がない。売買予約自体が成立しない。仮りに成立したとしても右予約は訴外亀田栄喜と原告と相通じて為した虚偽の意思表示であるから無効であり仮登記の抹消登記を為す可き義務があることを否認し、四、被告は租税債権金を有するものであるから被告は該債権を保全するため債務者たる訴外亀田栄喜に代位して原告に対し本件抹消登記手続を求めることには不知と述べ、その余の被告の主張は原告の主張に反する部分を否認すると陳述し、立証として甲第一、二各号証を提出し、乙第一乃至第二〇号証の成立を認めた。
被告指定代理人は本訴並びに反訴につき主文同旨の判決を求め、答弁として請求原因中第一項第二項は認める第三項は争うと述べ、且つ反訴に於て別紙目録記載の建物について昭和三十年十月二十六日函館地方法務局受付第一〇四九二号をもつてなされた同年同月二十日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記及び昭和三十一四月十四日同地方法務局受付第四〇二七号を以てなされた同三十年十一月十日の売買を原因とする所有権移転登記については仮装の売買にて即ち訴外亀田栄喜が国税の徴収を免れる手段として被告との間に通謀して為した虚偽の意思表示であり右各登記は無効なり依て各登記の抹消登記をなすべき義務があるし、被告は租税債権を有するものであるから右債権保全のため債務者訴外亀田栄喜に代位して本件抹消登記手続を請求するため反訴提起に及ぶと陳述し立証として乙第一号証乃至乙第二〇号証を提出し、証人亀田栄喜、同阿部島康夫、原告本人の訊問を求め、甲号各証の成立を認めた。
理由
別紙目録記載の建物は元亀田栄喜の所有なる処原告は昭和三十年十月二十六日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を為したるに被告は訴外亀田栄喜に対する国税滞納処分として昭和三十一年三月二十六日差押登記を為したことおよび原告は昭和三十一年四月十四日売買による所有権移転の本登記を為したことは当事者間に争がない。
本件につき按ずるに証人亀田栄喜及び原告本人訊問の結果と成立に争のない甲第一、二各号証を綜合しても原告の主張事実は全部認容できない。
証人亀田栄喜、同阿部島康夫および原告本人訊問の結果と成立に争のない乙第一号証乃至第二〇号証を綜合して考察すると訴外亀田栄喜と原告との間に瞭かに悪意通謀により、訴外亀田栄喜の滞納国税の徴収を免れる手段としての虚偽の意思表示による仮装の法律行為であることを認めることができる。即ち無効のものであり被告の反訴請求事実の全部を認めることができる。右認定に反する証人亀田栄喜および原告本人の各証言は措信しない。
依て原告の本訴請求は失当なりと謂うべく、被告の反訴請求は其の理由あるを以て之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大沼文雄)
目録
函館市千代ヤ岱町八十二番地
木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建住家一棟
建坪 五十一坪二合五勺
の内
家屋番号 同町五四九番の三
一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平屋建住家
建坪 三十坪七合五勺
以上