前橋地方裁判所 平成11年(ワ)393号 判決 2001年10月25日
主文
1 被告らは,各自,原告に対し,金587万1713円及びこれに対する平成10年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は2分し,その1を原告,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することが出来る。
事実及び理由
第1請求
1 被告らは,原告に対し,各自,金1312万0753円及びこれに対する平成10年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2事案の概要
原告は,被告木村運輸株式会社(以下「被告木村(運輸)」という。)の従業員であったが,被告オーエム技研株式会社(以下「被告オーエム(技研)」という。)から被告木村への依頼により,チゼルハンマー等(掘削用機材)の運搬をすべく,平成10年7月22日午後3時30分頃,被告オーエム資材置場(後記)において,被告オーエムから受け取ったハンマーを被告木村のトレーラー荷台上の水槽に入れようとし,同被告のクレーン(運転手A)と協力して,被告オーエムの従業員Bと一緒にハンマーを吊り上げ,これを下ろす作業中,同Bがハンマーの上に飛び乗ったため,フックとワイヤー(別紙図面1ないし3参照)の間に指を挟み,その結果,右手の指を切断し,後遺障害12級の怪我をしたとして,被告らに対し,(共同)不法行為に基づき損害賠償請求したのに対し,被告木村は,被告オーエムの依頼の趣旨は,ハンマー等上記機材を運搬することだけであり,玉掛け等の作業は被告木村の仕事(受任範囲)に入っておらず,原告が勝手に危険な行為をしたまでである等と主張し,また,被告オーエムは,その従業員Bにおいて原告主張にかかる飛び降り等の行為はしておらず,そもそも,被告オーエムには運搬に付随する本件玉掛け等の作業は予定(作業)に入っていない等と主張し,共に,本件作業につ安全配慮等の義務ないし責任はないと争った。
1 争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1) 被告木村運輸は,貨物自動車運送業等を目的とし,被告オーエムは,土木建築工事の設計,請負等を目的とする株式会社であり,原告は,平成10年1月14日,被告木村運輸に運転手として入社した同社の従業員であり,本件労災事故発生後の平成11年3月13日退職した。
(2) 労災事故の発生(別紙図面1ないし3参照)
ア 原告は,平成10年7月22日,被告木村運輸より,被告オーエム北関東営業所(a市b町c)からd市へ掘削用機材(ハンマー等。甲2)を運搬する業務命令を受け,大型トレーラーを運転し,被告木村運輸(肩書地)から同営業所へ出向いた。
イ 同日午後3時30分頃,原告は,被告オーエム営業所資材置場において,大型トレーラーの荷台上に置かれた水槽内(甲3)に同ハンマーを積載する補助作業に従事した。
ウ 同積載作業は,被告オーエムの従業員B(以下「B」という。)と共同で行われたが,ハンマーに巻き付けたワイヤーにクレーン車両(甲1)のフックを掛け(玉掛け),次いで,クレーンによりハンマーを吊り上げ,これをトレーラー荷台上の水槽内に下ろすものである。
エ 上記作業中,クレーンにより吊り下げられたハンマーが,先に積載されたスライムバケツの横の適当な位置に下ろすことが出来ず,当該ハンマーの先端がスライムバケツの一部に重なる状態になったことから,原告は,ハンマーに巻かれたワイヤーの位置をずらすべく,ワイヤーをクレーンのフックから外そうとした際,当該ハンマーがずれる形で落下し,その結果,ワイヤーが強く下部に引かれ,原告は,右手人指指と中指を挟まれ受傷した。
(3) 原告の受傷,入通院経過及び後遺障害
ア 受傷
右手人指指,中指外傷。一部切断。
イ 入通院経過(甲4)
① 平成10年7月22日から同年8月12日までの22日間,C病院に入院
② 同年8月23日から平成11年3月2日まで同病院に通院(実日数17日)。
ウ 後遺障害(甲7,8の1~3)
① 平成11年3月2日症状固定。
② 右手人指指先端切断,同中指先端切断。
中指末節骨の長さの2分の1以上を失ってはいないが,利き腕である中指の遠位指節間関節が完全硬直し,内側に折れ曲がったままである。また,黒褐色に変色し,半化膿状態である。
原告は,人指指も含め,疼痛等に悩まされている。
③ 平成11年4月30日,労災障害等級14級7号の認定を受けている。
2 原告の主張
(1) 被告木村運輸の責任
ア 被告木村運輸は,原告に対し,業務命令として積荷作業を具体的に指示したものではない。
しかし,原告は,積荷作業を行なわない場合,同被告の顧客(本件では被告オーエム)から苦情申出(時には出入禁止通告)を受け,積荷作業を行うことは運転手としての当然の業務とされていた。
イ 従って,同被告は,危険な積荷作業については,予め,顧客の了解を取り付け,これに従事させないようにするか(本件のような玉掛けについては,資格を有する者以外は行ってはならないものと思われる。),すくなくとも,顧客と共同して労災事故防止のための安全配慮(本件のような状況下においては,少なくとも積荷の上に飛び乗ってはならないものとすること等)をなすべき義務を負っていたというべきである。
ウ しかるに,被告木村運輸には,上記義務を怠った過失があるから,民法709条,715条,415条により,原告が被った損害を賠償する責任を負う。
(2) 被告オーエム技研の責任
ア 本件のような玉掛け作業は,危険なものであるから,被告オーエム技研は,他社(被告木村)の従業員をしてかかる作業に従事させるべきではなかった。
イ 少なくとも,被告オーエムは,労災事故防止のための安全配慮をなすべき義務を負っていた。即ち,前記状況下において,被告オーエムの従業員(B)が当該ハンマーの上部に飛び乗ったため,当該ハンマーがずれる形で落下し,これにより原告が外そうとしていたワイヤが強く下部に引かれたものである。従って,被告オーエムの従業員Bは,前記ハンマーの置かれた状況下においては,ハンマーの上に飛び乗るなどの行為をするべきではなかった。
ウ しかるに,同被告には,上記ア,イの義務を怠った過失があるから,民法709条,415条により,原告が被った損害を賠償する責を負う。
(3) 後遺障害
右中指末節骨の2分の1以上を失った場合は,12級9号の扱いとなる。
原告は,前記のとおり,末節骨の2分の1以上を失っていないものの,前記後遺障害の実質は,末節骨の2分の1以上を失った場合を超える不都合を生じている。
(4) 原告の損害
ア 治療関係費(甲5) 97万0469円
イ 休業損害 76万6555円
原告は,事故発生の日の翌日である平成10年7月23日から同年10月25日までの95日間,就労することが出来なかった。
原告の事故前年度の1日当たりの所得は8069円であったから(甲6),この間の休業損害は76万6555円となる。
ウ 入院付添費 13万2000円
原告の治療方法は,腹部を切開し,右手指をその中に入れたままにしておくというもので,現実には妻の付添看護が不可欠であった。1日当たり6000円で計算した額(22日)。
エ 入通院慰謝料 95万0000円
原告は,入院中,右腕全体を全く動かすことが出来なかった。
オ 逸失利益 901万7760円
原告は,症状固定時満25歳の若年であった。したがって,原告の逸失利益を算定するについては,賃金センサス平成9年男子労働者全年令平均賃金年収額575万0800円を基礎とすべきである(ちなみに,同賃金センサス男子労働者満25歳から29歳までの平均賃金年収額は330万8500円である。)。原告の労働能力喪失率については,原告の後遺障害は実質上労災後遺障害等級12級9号と同等というべきであるが,控え目に労働省労働基準局長通牒(昭和32.7.2基発第551号)の労働能力喪失率に従い9パ-セント(13級の場合),就労可能期間を満67歳までの42年間とし,この間の中間利息をライプニッツ係数17.4232を乗じることにより控除すると901万7760円となる。
なお,現今の低金利状況の下において,ライプニッツ係数を採用することは,本来合理性がない。
計算式 575万0800×0.09×17.4232=901万7760円
カ 後遺障害慰謝料 170万円
原告は,労災後遺障害等級14級7号の認定を受けているが,原告の後遺障害は同等級12級9号と同等というべきである。
13級の場合(東京三弁護士会交通事故処理委員会外共編損害賠償算定基準1999年版)に従った。
キ 合計 1353万6784円
ク 既払金(甲5) 160万6031円
ケ 未払金 1193万0753円
コ 弁護士費用 119万円
サ 請求額 1312万0753円
(5) よって,原告は,被告らに対し,不法行為ないし債務不履行を理由として,損害賠償として,各自金1312万0753円及びこれに対する本件労災事故発生の日である平成10年7月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告木村運輸の主張
(1) 原告の主張は争う。
(2) 被告木村運輸は,その従業員(運転手)が積荷作業を補助的に手伝うこが多いが,危険が伴う場合や運転手に当該作業能力が乏しい場合などは,作業現場において,顧客(荷主)担当者と話し合い,従事しないよう指示している。
当時,被告木村運輸は,原告に対し,荷主である被告オーエム技研の指示を受けて慎重に積荷作業を補助的に手伝うよう指示していた。
(3) 被告木村運輸は,専ら運送業務に関しての責任主体である。前記のとおり,被告木村運輸運転手が荷主の指示により積荷作業を手伝うことはあるが,それは,あくまで補助的なものに過ぎない。従って,積荷作業に関する責任主体は,荷主に存するものである。
4 被告オーエム技研の主張
(1) 原告の主張は争う。
(2) 被告オーエム技研が被告木村運輸に発注した仕事は,オーエム技研e営業所資材置場からd市の山本建設株式会社本社ビル新築工事現場に直径1800の水槽2個,同1500のスライムバケツ各1個,同2000のシェル1個,チゼルハンマー1個を運送するものであった。
(3) 原告運転にかかる大型トレーラーに上記資材を積み込む作業は,本来木村運輸がすべきところ,同社のラフター運転手以外の作業員が原告1人のため,被告オーエム技研従業員のBがこれを手伝ったものである。
(4) 積荷作業は,先ず,トレーラーに水槽2個を重ねて入れて積み込み,その中にシェル,スライムバケツを積み,最後にチゼルハンマーをラフターのクレーンで吊り上げて空いている処に下ろすものである。
ところで,原告とBは,チゼルハンマーにワイヤーを掛け,クレーンで吊り上げて水槽内の空いている箇所に下ろそうとしていたが,チゼルハンマーに巻いたワイヤーが真中からずれたため,チゼルハンマーが水平にならず,スライムバケツに斜めに寄りかかる状態で下ろされた。そこで,合図によりクレーンは止められたが,2人は,同じスライムバケツの上にいたところ,原告が下りてワイヤーの位置を真中に直そうと指を掛けた際,チゼルハンマーのバランスが崩れて,ワイヤーが締まり,原告の指を挟んだ(図面4参照)。
従って,Bがハンマーの上部に飛び乗ったこと(過失行為)はなく,また,そのようなことなど出来ない。
(5) 木村運輸請負にかかる仕事の中には,単なる運送だけではなく,当然積荷作業も入っている。即ち,原告は,被告木村運輸の指導監督のもとに上記仕事に従事しており,被告オーエム技研がさせたものではない。
被告オーエム従業員Bは,玉掛技能者の資格はなく,あくまで好意で原告が1人で出来ないところを手伝っただけである。
(6) 被告オーエム技研と原告との間には,雇用契約ないしこれに準ずる法律関係(雇用契約に類似する使用従属関係)はなく,また,被告オーエム技研が原告に対し具体的な指導監督をしていた事実もない。従って,被告オーエム技研は原告に対し,安全配慮義務を負ってはおらず,被用者のBにも何ら過失行為はない(前記)。
5 争点
(1) 本件労災事故の態様
(2) 被告木村運輸の責任の有無
(3) 被告オーエム技研の責任の有無
(4) 過失相殺
(5) 原告の怪我の程度
(6) 具体的損害額
第3争点に対する判断
1 原告及び関係証拠(甲1ないし7,8の1~3,9,10,丙1,2,5等)によれば次の事実が認められる。
(1) 原告は,平成10年1月,被告木村に運転手として就職し,当初は,トラック(10トン車)で鉄骨や鋼材等を,荷主のところで積載(積荷)して指定場所に運搬したが,積載(積荷)は,殆どクレーン車,ラフター等の機械を用いて積み上げ,そのときの都合で,同行した被告木村運輸の同僚や荷主の従業員と一緒にこれらをなした。そして,平成10年6月頃から,原告は,トレーラーの運転に従事するようになり,本件事故当日(平成10年7月22日)は,車中,電話で,配車係のDから,被告オーエム技研の積み場に行くよう指示され,以前ケーシングを運搬したので,そのときも運搬対象をケーシング(丙5)と予測して臨んだ。
なお,指示にかかる仕事の内容がきつく,また,経験が浅くもあり,原告は,当時,複数での作業を期待したが,先輩等の援助は得られなかった。
(2) 原告は,上記指示により,同日午後3時頃,被告オーエム技研の資材置場に到着し,前記の指示に基き,以下の行動に移った。
即ち,現場には,上記2人の他,被告木村運輸のクレーン車(ラフター)の運転手がいたが,3人は,最初,トレーラーの荷台に,鉄製水槽(写真参照。丙5)2個をラフターで吊り上げて積んだ(なお,1回り小さい方を,大きい方の中に積み上げた。)。因みに,通常,フックは水槽の4箇所に掛けるところ,本件では2箇所だったため,不安定な積み上げとなり,水槽の位置が斜めとなった。
(3) 上記水槽積込に次いで,幾つかの機材の吊上(積荷)がなされ,最後に,チゼルハンマー(丙5)の積み込みとなったものであるところ,原告が水槽の中におり,Bが地面にあるチゼルハンマーをフックに引っかけ(玉掛し),同ハンマーが吊り上げられて,水槽に下げられる状態となったが,この段階で,ワイヤーのかけ方が拙劣で重心が一定せず,チゼルハンマーが水平でなく,不安定であったことから,2回,3回と予定スペースへの積み上げが上手くいかなかった。そこで,原告は,ハンマーを水平状態に保つべく,ワイヤーの位置をずらして中心に移動させようとしたところ,本件事故惹起となった(丙5)。
即ち,チゼルハンマーは一旦下ろされたが,ハンマーの一部がバケツに引っかかっていたことから,原告は,ワイヤーを緩めるべく,フックを外そうとしたが,外れなかったため,Bが手伝おうとして,チゼルハンマーの上に乗ったところ,引っかかっていたチゼルハンマーが下に落ち,その際,原告は,フックとワイヤーの間に指を挟まれた。Bは,ハンマーの上に乗ると同時に,ハンマーが下に落ちたため,一緒に落ちて転んだが,その際,Bに異変はなく,他方,原告の方が指を挟まれて怪我をした。
(4) 原告は,本件事故により,人指指の先端が若干取られ,また,中指がやはり先端,第1関節からもげて,第2関節のところから90度曲がっているが,最初の手術では,指を再生するため,腹中に指を入れる状態を2週間継続し,労災の手続を取った後,怪我の影響で,従前の仕事,即ち,荷物を積み,荷台に上がり,荷台の上で作業すること等が困難となったため,被告木村運輸を退職し,その後,バス会社の運転手をしたが,運転,車両整備,洗車等に不便を来たし,間もなく同社も辞め,現在,自動車教習所に勤務しているところ,やはり,運転に若干不便である等し,今後,曲がっているところから切る等の再度の手術が必要となることもあり得る。
2 証人B,同松若政則及び関係証拠(丙1ないし5,6の1~6,丙7等)によれば,以下の事実が認められる。
(1) Bは,平成10年4月から,被告オーエム前橋営業所に勤務しており,被告木村に,工事資材の運搬を月2,3回電話で依頼し,同被告従業員がトレーラー等で同営業所に来て運搬業務を行ったが,同業務につき,被告オーエム技研が立ち会うこともあった。
被告木村は,通常,積み込み業務には持参にかかるラフターを用い,ラフターの運転者(オペ)及び一緒に来た同被告の車の運転手2人以上が協力して同業務をこなしたが,本件当日は,最初トラックが2台とラフター1台,後からトレーラー1台(原告運転)が来たものであるところ,Bは,トラック到着の際は,立ち会わず,トレーラーのときは,原告が事務所に顔を出したので,積載荷物を指示し,暫くして事務所から出てみると,ラフター運転手と原告の2人だけで作業をしていて人手不足を感じて,積み込みを手伝うこととし,合図等に従事した。
(2) Bは,タンク2個,スライムバケツ2個の積載のときワイヤーを掛けてやり,次いで,本件チゼルハンマーの番が来て,先ず,原告がワイヤーを掛けてタンク(水槽)に入り,次いで,Bがラフターへの合図をした後やはりタンクに入り,両者がバケツ上に立った状態のところ,ラフターによりワイヤーが下がってハンマーがタンクの中に下ろされたが,その際,ハンマーがバケツに寄りかかって斜めとなった(丙5)。この時点で,Bがラフターに合図して止めさせ,原告は,ハンマーが水平になるように,ハンマーに掛けられてあったワイヤーをずらそうとしたところ,ハンマーとバケツが動揺し,Bはタンクの縁に手をかけて体を支え,そのとき,原告は怪我をし,救急車騒ぎとなったが,Bはハンマーの上への跳び降り等をしていない。
Eの認識としては,原告がハンマーとワイヤーの間に指を入れたことが本件事故の原因と推測する。
(3) Fは,当時,被告オーエム技研d営業所長の職にあり,各地から基礎工事の依頼(注文)を受けると,機材を現場に持ち込む必要が生じ,その場合,電話やファックスで被告木村運輸に搬送先と積み込む機材(品物,重量等)を知らせて運搬を依頼するところ,一般には,被告オーエム技研では,Fの指示(メモ等)に基づき,同営業所G(女性)が積載物品等を指示し,これにより被告木村運輸において機材積み込みをなしているが,Fは,同積み込みに立ち会ったことはなく,Bには,日頃,積荷作業には手を出さないように言ってある。
(4) Fは,本件前日の7月21日,電話とファックスで被告木村運輸に運搬を発注し,大型車両3台,トレーラー2台が来るとの返事があり,当日はf県にいた関係で,積み込み資材の指示は,Bにメモを渡してなしていたところ,当日午後4時頃,Bより,運転手がハンマーとワイヤーの間に指を挟まれたとの事故を知らされ,本件営業所に帰り,詳しい事故報告をBから受けたが,Bがハンマーの上に跳び降りたとは聞いていない。
3 証人A及び関係証拠(乙1ないし6等)によれば,以下のとおりである。
(1) Aは,本件事故当時,被告木村運輸の運行管理者,安全衛生管理者をしていたところ,本件事故前日頃,被告オーエム技研から,電話とファックスで,運送とクレーンのリースの発注を受けたが,積荷作業は契約内容には入っておらず,日頃,玉掛け等の危険な作業は厳禁されていた。
本件にあっては,原告は,現場に人がいなかったため,例外的に,補助的作業として積荷(玉掛け)に従事したが,本来被告オーエム技研(荷主)が玉掛け作業員を用意すべきものと認識している。
(2) 結局,Aの認識としては,運転業務に付随する積み荷作業等は危険が伴うものであるところ,荷主側の的確な指示があれば事故の発生はないが,今回は,被告オーエム技研のBが無資格で経験も浅いこと,被告木村運輸の管理外のこと等に照らし主原因はBか,原告自身にあるというべく,また,本件怪我の直接の原因は,ワイヤーとフックの間に指を挟まれたことにあり,原告は基本的注意を欠いている。
4 上記1ないし3認定の事実及び弁論の全趣旨に基づき,次のように判断する。
(1) 原告は,被告木村運輸の従業員(トレーラー運転手)として,その指示により,被告オーエムg営業所からd市まで同被告所有にかかるチゼルハンマー等掘削機材を運搬するように業務を命じられ,トレーラーを運転して現場に到着し,移動式クレーン運転手A(被告木村運輸従業員)及び被告オーエム従業員Bとの協力の下に,ラフター(クレーン付属)等を用いて,運搬対象である上記チゼルハンマーを,トレーラー荷台に積み上げる作業に従事した。
(2) 即ち,原告と被告オーエム従業員Bが先に積み上げられたトレーラー荷台上の水槽の中にいて,被告木村運輸従業員Aにおいてラフターを操作し,吊り上げられた物品(チゼルハンマー)を水槽内の適当な位置に下ろそうとした際,当該ハンマーがスライムバケツに引っかかった状態となったことから,原告においてラフターのフックとチゼルハンマーを繋いでいるワイヤーを緩めるべく,フックとワイヤの間に右手を入れて操作を試みたとき,チゼルハンマーが動揺した(動いた)ため,原告は手の右指を上記間に挟まれて,原告主張の怪我をしたものである。
(3) 上記(本件)事故は,本来,吊り上げ役(ラフター操作)の他,専門の(資格ある)玉掛けがいて,物品(ハンマー)を適切な場所に誘導させる等の配慮がなされておれば防止出来たというべきところ,原告,被告双方において,かかる防止義務を欠いたまま,重量物の本件チゼルハンマーの積み上げ,積み下ろしをさせたことから事故惹起となったものである(安全配慮義務違反)。
(4) 被告木村運輸は,受託(受任)業務は運搬であり,機材積み込みは荷主(委託者)である被告オーエムのすべきことであって,本件では,原告において被告木村運輸から指示されていない積み込み行為を勝手になしたものである等と主張し,証人Aもこれに沿う供述をするが,前記認定の事実によれば,本件事故発生以前も,運搬に従事する運転手が荷主従業員と共同して積み上げ業務をしており,被告木村運輸の原告への運搬指示の中には,積み上げ行為も含まれていたというべきである。
結局,本件事故は,被告木村運輸の業務作業中に発生したものであり,同被告に安全配慮義務違反のあることは明らかというべく,債務不履行違反と不法行為責任が競合する場面である。証人Aの証言中これに反する部分は採用しない。
(5) 被告オーエム技研は,本件では,荷主であり,確かに,運搬業務を依頼した側であって,運搬のための物品吊り上げは,運搬担当の側の仕事に入っていることを否定出来ないが,被告両名(会社)は,日常的に,協同して積み込み業務に当たっており,現に,本件でも,被告オーエム従業員Bは,玉掛け業務をしており,本件事故時点では,ラフターへの合図等をした後,原告と一緒に,本件トレーラー荷台内の本件水槽に入って,本件チゼルハンマーの吊り上げ,吊り下ろし作業(状況)を見守り,もって,危険状態に応じた態勢を取っていたものであるところ,被告オーエム側にも本件作業に当たっては,運搬者側への協力義務の一環として,積み上げ業務に際しての安全配慮義務は課せられていたというべく,ただ,原告と被告オーエム技研との間には,雇用関係がなので,不法行為責任のみが問われると言うべきである。証人B,同Fの前記証言中これに反する部分は採用しない。
(6) 以上によれば,被告らは,本件事故の発生につき,共同不法行為者として,原告が被った損害を賠償すべき責任があるといわざるを得ない。
(7) もっとも,被告らは,過失相殺を主張するところ,原告にも,本件作業に当たっては,前記B,Aらと共同して,より慎重に本件玉掛け等の作業をなし,もって本件事故発生防止に努める手段を講ずべきであったというべく,かかる意味で,本件事故発生には,原告の過失も一部原因があったというべく,その割合は,2割とすべきである。
5 損害
(1) 証拠(原告,甲4ないし7,8の1~3,甲9,乙4ないし6等)によれば,以下の事実が認められる。
ア 治療関係費(甲5) 97万0469円
イ 休業損害 70万1385円
原告主張のとおり,95日間就労出来なかった。そして,原告の事故前年度の1日当たりの所得は,7383円(269万5057円÷365日=7383円)であったから(甲6),この間の休業損害は,70万1385円となる。
ウ 入院付添費 13万2000円
原告主張のとおり。
エ 入通院慰謝料 95万0000円
原告主張のとおり。
オ 逸失利益 422万6086円
269万5057円(甲6)×0.09(13級)×17.4232(42年間のライプニッツ係数)=422万6086円
カ 後遺障害慰謝料 170万0000円
原告主張のとおり(13級)。
キ 合計 867万9940円
ク 過失相殺(2割控除分) 173万5988円
ケ 差引き 694万3952円
コ 既払金(甲5) 160万6031円
サ 小計 533万7921円
シ 弁護士費用 53万3792円
ス 合計 587万1713円
(2) そうすると,被告らは,各自,原告に対し,587万1713円及びこれに対する本件不法行為発生の日である平成10年7月22日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第4結論
よって,原告の請求は上記限度で理由があるので認容し,その余は失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 東條宏)