前橋地方裁判所 平成13年(わ)589号 判決 2002年5月07日
主文
被告人を懲役12年に処する。
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1 強姦の目的で,平成13年2月17日午前5時ころ,群馬県佐波郡a町b番地c号室のA(当時24歳)方居室に無施錠腰高窓から侵入し,驚いてその場に仰向けに倒れた同女の身体に覆い被さった上,「静かにしないと殺すぞ」などと言って,その頚部を両手で押さえつけて接吻するなどの暴行を加え,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女がその場から外に逃げだしたため,その目的を遂げなかった。
第2 同年4月12日午後7時30分ころ,前記d号室のB(当時19歳)方玄関前において,水道局員を装って呼び出した同女の姿を見て劣情を催し,強いてわいせつな行為をしようと決意し,その口を手で塞ぐなどの暴行を加えたが,助けを求める同女の悲鳴を聞きつけた近隣者が非常ベルを鳴らしたので,その場から逃げ出し,その目的を遂げなかった。
第3 強姦の目的で,同年8月9日午前0時ころ,前記e号室のC(当時19歳)方居室に無施錠の玄関から侵入し,同女の背後から手を回しその口を塞ぎ,「声を出すな。静かにしろ」などと言って包丁(刃体の長さ約18.5センチメートル。平成13年押第109号の1)を振り上げ,その顔面に突き付けるなどした上,「死にてえのか。殺されたくなかったら黙れ。やらせろ」などと言って,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,これを拒絶し姦淫を思いとどまるよう懇願する同女が,上記暴行・脅迫により反抗を抑圧されて「お金を出しますから,帰ってください」と申し出たことに乗じ,金品を強取しようと決意し,同女に対し上記包丁を突き付け,「ああ,寄こせ。有り金全部だぞ」「じゃ,下着を寄こせ」「もっとあるだろ。ベッドの上にあるのを寄せ」などと言って脅迫し,さらにその反抗を抑圧して,同女所有の現金8000円及びパンティー3枚を強取した上,なおも「やらせろ。なめてんのか」などと言って脅迫し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女が頑なに拒絶したためその目的を遂げなかった。
第4 強姦の目的で,同年8月10日午前5時30分ころ,群馬県佐波郡f町g番h号室のD(当時22歳)方居室に無施錠の掃き出し窓から侵入し,就寝中の同女に馬乗りになり,手でその口を塞いだ上,「殺されたくないだろう。言うことを聞け。おとなしくしろ」などと言って脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫した。
第5 強姦の目的で,同年9月5日午前3時10分ころ,同町i番地j号室の(当時22歳)方居室内に無施錠腰高窓から侵入し,「黙れ,静かにしろ。殺すぞ」などと言って同女の両肩を掴んだ上,押し倒して強いて姦淫しようとしたが,同女に激しく抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第6 強姦の目的で,同年9月9日午前3時20分ころ,同町k番地lのF(当時22歳)方居室にトイレの無施錠窓を外して侵入し,背後から同女に両腕を回し抱きついた上,「殺されたいか」「俺とそんなにやりたくないんか」などと言って脅迫し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女に激しく抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第7 同年9月22日午前3時ころ,同町m番地n号室のG(当時27歳)方居室に南側無施錠掃き出し窓から侵入し,同女の両手首を掴んで床に押し倒して馬乗りになり,その口腔内に衣服を突っ込んで塞ぐなどの暴行を加えた上,「声を出すな。殺されるのとやられるのとどっちがいいんだ」「殺されたくないんだろ。じゃ,やらせろ」などと言って脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫した。
第8 自らが敢行した判示第1,第2,第4ないし第6事実記載の5件の住居侵入,強姦未遂,強制わいせつ未遂,強姦事件につき,警察官がその犯人を捜査中であることを知り,自己の犯罪の発覚及び逮捕を免れようと企て,同年11月初旬ころ,同県伊勢崎市今泉町1丁目1204番地群馬県伊勢崎警察署留置場5室において,同房者であったHにその情を打ち明け,「罪を被ってくれたら100万円をやる」などと言って,上記各事件につき身代わりとなってくれるよう依頼して同人を教唆し,その結果同人をして,同月15日及び18日に,同警察署において,司法警察員警部補Iに対し,上記各事件の犯人は上記Hである旨申告させ,もって犯人を隠避させた。
(法令の適用)
該当罰条
第1,5及び6の各行為
住居侵入の点
刑法130条前段
強姦未遂の点
刑法179条,177条前段
第2の行為
刑法179条,176条前段
第3の行為
住居侵入の点
刑法130条前段
強盗強姦未遂の点
刑法243条,241条前段
第4及び7の各行為
住居侵入の点
刑法130条前段
強姦の点
刑法177条前段
第8の行為
刑法61条1項,103条
科刑上一罪の処理 第1,第3ないし第7の各行為につき,いずれも刑法54条1項後段,10条(第1,第5及び第6については1罪として重い各強姦未遂の罪の刑で,第3については1罪として重い強盗強姦未遂の刑で,判示第4及び第7については1罪として重い各強姦の罪の刑で処断)
刑種の選択 第3の罪につき有期懲役刑
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,平成13年2月からの約7か月の間に,1件の住居侵入・強盗強姦未遂,2件の住居侵入・強姦,3件の住居侵入・強姦未遂,1件の強制わいせつ未遂を連続して敢行し,そのうちの1件で逮捕,起訴後,上記事件のうち5件について,留置場の同房者に身代わり犯人となるよう教唆をしたという事案である。
2 強盗強姦未遂,各強姦,各強姦未遂,強制わいせつ未遂について
・※ 犯行動機について
被告人は,自己の性欲を満足させるためだけにその欲望の赴くまま,被害者の性的自由を無視して本件各犯行に及んでおり,その動機は女性の人格を無視した真に身勝手なものであって,厳しく非難されなければならず酌量の余地は全くない。
・※ 犯行態様について
被告人は,女子大周辺に女性の一人暮らしが多いことに目を付け,深夜徘徊し女性の部屋の覗きをしては無施錠箇所を見つけ,強姦目的で室内に侵入し,居住女性に対し,判示強盗強姦未遂,各強姦,各強姦未遂に及んでいる。強盗強姦未遂においては,包丁を突き付け「死にてえのか。前に何人かやってるから同じだぞ。殺されたくなかったら黙れ」などと脅迫し,その他の犯行においても「殺されたくないんだろ」などと強度の脅迫を加えている。各強姦既遂の場合,いずれも被害者が恐怖の余り抵抗すらできなくなっているのに乗じて,姦淫に及び,口淫をさせるなどし,姦淫行為が終わってからも,警察に届けないように働きかけたり,後日も関係を持とうとしたりするために,長時間室内に居座り被害者と話をしたりし,姦淫が未遂の判示各事案においては,いずれも被害者の必死の抵抗により被告人は姦淫行為等に至らなかったものの,室内に居座り被害者と話をしてなおも姦淫の機会を窺ったり警察に後で届けないよう働きかけたりすることもあり,判示強制わいせつ未遂の事案でも,住居侵入には至っていないものの,水道局員を装って玄関の外に誘い出すなど,いずれの犯行態様も,計画的,卑劣かつ執拗であって女性を性欲の捌け口としかみていない極めて悪質なものであると言わざるを得ない。
・※ 犯行結果
被害者らは,いずれも何の落ち度もなく,最も安心できるはずの自室にいたにも関わらず被害に遭っており,姦淫行為の既遂未遂にかかわらず,その被った精神的な苦痛,衝撃には大きなものがある。強姦既遂の被害者らが被った大きな身体的苦痛については言うまでもない。被害者らは供述調書において,それぞれ「もしかしたら本当に殺されてしまうのではないかと思った程です」「一番怖かったのはレイプされそうになるという恐怖でした」「お願いだから殺さないで,殺さないで,殺さないで」「自分の部屋で安心して眠っていたのに,目を開けたら目の前に全く知らない男の顔があって,口を塞がれていたのですから,どんなに驚いて怖かったか」などとその恐怖の大きさについて述べており,被害後の影響についても,それぞれ「誰もいない部屋に入るときに,本当に誰もいないか注意深く確認してしまいます。犯人の顔を思い出すとものすごい生理的嫌悪感を感じ,気持ちが悪くなります」「自分を責める気持ちと恐怖とで,どうしても前向きになれず,仕事を辞めたのが昨年8月終わりでした」「この被害にあって男の人自体が嫌だと思うようになってしまい」「異常に物を食べては吐いてしまう過食状態に陥り,そのために生理不順となり」などと述べており,その深刻さが窺われる。強盗強姦未遂の財産上の被害についても,現金8000円及びパンティー3枚と決して少ないとは言えない。また,女子大周辺の狭い地域で,連続して住居侵入・強姦等が行われたことにより,付近住民に与えた不安や恐怖等の影響についても軽視できない。
・※ その他事情について
被告人は,前記各強姦等を連続的に敢行していることや,その供述から常習的に覗きや下着泥棒等をしていた様子も窺えることから,被告人にはこの種性犯罪に及ぶ傾向が看取され,再犯の虞も懸念されるところである。また被告人は,後述する犯人隠避教唆に及んだり,捜査段階において不合理な否認を続けるなどし,さらに被害者らの尊厳を傷つけたとも言え,犯行後の情状も芳しくない。現在に至るまで,被害者らに対し何ら慰謝の措置はとられておらず,これからも損害賠償等のなされる見込みは少ないことや,被害者らはいずれも被告人に対する厳しい処罰を求めており,その被害感情が峻烈であることも重視されるべきである。
3 犯人隠避教唆について
上記の各犯行の捜査を混乱させひいては刑事責任を免れようとして犯人隠避教唆に及んでおり,その動機は,我が身可愛さだけの真に身勝手としか言いようのないものであって,酌量の余地は全くない。資力もないのに,100万円払うから身代わり犯人になってくれなどと被教唆者に持ちかけ,約1週間かけて自ら犯した犯行について繰り返し教え込み,大丈夫かどうか確認した上で,同人が犯人であるかのように警察官に申告させており,その犯行態様は狡猾かつ悪質である。幸いなことに短時間で発覚したため,結果的には捜査に対する影響は最小限で済んだものの,捜査を害する危険が大きかったことや,被教唆者を犯人隠避という犯罪へ引きずり込んだことからもその結果は重大であったと言える。
4 以上のとおりの諸事情を併せ考えると,本件各犯行についての被告人の刑事責任は極めて重い。
5 他方,被告人は捜査段階では不合理な弁解を続けていたものの,公判廷において素直に罪を認め,反省の様子が窺われること,7件中5件については,幸いにも姦淫行為・わいせつ行為が未遂に終わっていること,その母親が被告人のため公判廷に情状証人として出廷していること,小中学校時代いじめを受けたり,父親を早くに亡くす等,その生育歴に不遇な面も見受けられることなど被告人のために酌量すべき事情もある。
6 そこで,これらの事情一切を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断する。
(求刑 懲役18年)
(公判出席 検察官干川亜紀 国選弁護人吉村駿一)
(裁判長裁判官 長谷川憲一 裁判官 丹下将克)
裁判官阿部浩巳は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 長谷川憲一
<編注:『※』部分は原文のとおり。>