大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 平成14年(わ)629号 判決 2003年4月09日

主文

被告人A1を懲役5年6月に,被告人A2を懲役3年10月に,被告人A3を懲役3年にそれぞれ処する。

被告人3名に対し,未決勾留日数中120日をそれぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

別表1被告人欄記載の被告人らは,同表共犯者及び名義人欄記載の者らと共謀の上,小企業等経営改善資金融資制度に定められた経営改善に必要な設備資金の融資名下にC公庫を欺いて金員を交付させようと企て,同表申込年月日欄記載のとおり,平成11年10月1日ころから平成14年2月12日ころまでの間,前後23回にわたり,前橋市a町b丁目c番d号の同公庫e支店において,被告人A2が,同支店職員を介して,同支店の同表担当者欄記載の者に対し,同各名義人がD商工会の地区内で同表業種欄記載の各事業を営んでいる事実も,同商工会から経営指導を受けた事実もなく,同各名義人に上記融資を受ける資格がないのに,あたかもこれらがあるように装って,真実は,その融資金を被告人らの借入金返済等に費消する意図であるのに,その情を秘し,いずれも被告人らが作出したその内容が虚偽である,同各事業に使用する同表物品欄記載の各物品の購入代金に充てるための設備資金として550万円の融資を希望する旨の小企業等経営改善資金貸付借入申込書,同商工会長が同各名義人らに対する上記融資を上記融資制度に適するものと認証し推薦する旨の小企業等経営改善資金融資推薦書及び同商工会審査会が同融資への推薦を適正であると認める旨の「推薦審査結果について」と題する書面等を提出するなどして,上記融資制度に基づく550万円の融資をそれぞれ申し込み,同各担当者らをして,その旨誤信させて,同各名義人に対する550万円の融資を決定させ,よって,別表2振込年月日欄記載のとおり,平成11年10月8日から平成14年2月25日までの間,前後23回にわたり,同支店職員らをして,同表振込先金融機関欄記載の各金融機関の同表口座名義人欄記載の各名義人の普通預金口座にそれぞれ549万9790円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。

(事実認定の補足説明)

1  なお,被告人A3(以下「A3」という。)の弁護人丸山和貴は,A3の判示別表1及び2の番号9の犯行(以下「本件第9の犯行」という。)に対する関与は共同正犯には該当せず,幇助にとどまる旨主張するので,この点につき,判示のとおり判断した理由を補足して説明する。

2  関係証拠によれば,次のとおりの事実を認めることができる。

(1)  A3が,A1及びA2と共謀して,平成12年12月21日ころ,自らがf村内で造園業を営んでおり,小企業等経営改善資金融資制度(以下「本件融資制度」という。)に基づく融資を受ける資格があることを仮装して,A3名義でC公庫(以下「公庫」という。)に対して本件融資制度に基づく融資を申し込み,公庫の担当者をしてその旨誤信させて,同月27日A3名義の口座に送金を受けて融資名下に金員を詐取する判示別表1及び2の番号8の犯行(以下「本件第8の犯行」という。)を行った。その際,A3は上記融資にかかる借入推薦申込書を記入したほか,融資を受けた金員を実際に受領した。

(2)  A1,A2及びB9が共謀して,平成13年2月26日ころ,B9がf村内で圧送業を営んでおり本件融資制度に基づく融資を受ける資格があることを仮装して,B9名義で公庫に対して本件融資制度に基づく融資を申し込み,公庫の担当者をしてその旨誤信させて,同年3月7日,上記融資としてB9名義の口座に振込送金を受けて融資名下に金員を詐取する本件第9の犯行を行った。

(3)  A3は,同年2月ころ,本件第8の犯行により取得した金員を費消し,同犯行にかかる融資の第1回の返済原資に窮したことから,A1に借金の相談をした。すると,A1は,A3に対し,B9名義の本件第9の犯行にかかる融資推薦書及び推薦付属書に記載するように依頼したので,A3はこれを引き受けて,A1の指示を受けながら,上記各書類のうち融資申込人の氏名,商号,業種等,取引関係,業歴,略歴,最近の営業概況等について,記入できる範囲で記入した。A3は,融資推薦書及び推薦付属書の記載内容を見て,それが融資を申し込む者の具体的な事業内容についてその経営状態を含めて記入するものであったから,その書面によって,商工会が公庫へその者に対する融資を推薦し,公庫が融資の適否を判断するものと理解できた。A3は,その際に,本件第8の犯行において,自己名義で公庫から金員を詐取したときと同様に,A1がB9名義で商工会を通じて公庫から融資名下に金員を詐取しようとしていることを知った。A3には,当時,A1のほかに借金の相談をできる相手がおらず,A3がA1の上記の依頼に応じたのは,それによってA1に借金の相談に応じてもらえることを期待していたからであった。実際に,A3は同月下旬,A1から10万円を借り受け,同月28日,本件第8の犯行にかかる融資の第1回目の返済を行った。A1は,A3に対し,その数日後,上記の貸金はB9名義の書類を書いてもらった謝礼として精算する旨を述べた。

3  以上認定の各事実を総合すれば,A3は,A1,B9らが,B9名義で公庫から融資名下に金員を詐取しようとしていることを認識した上で,その犯行のための重要書類の作成に関与し,これにより自らの利益をも期待していたもので,これらを併せ考慮すれば,A3には本件第9の犯行について共同正犯が成立するものと認めるのが相当であって,弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人A1の判示別表1及び2の番号1ないし4及び6ないし23の各行為,A2の判示の各行為並びにA3の判示別表1及び2の番号8ないし23の各行為はいずれも刑法60条,246条1項に該当するところ,以上はそれぞれ同法45条前段の併合罪であるから同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示別表1及び2の番号23の罪の刑にそれぞれ法定の加重をし,それぞれその刑期の範囲内で,A1を懲役5年6月に,A2を懲役3年10月に,A3を懲役3年にそれぞれ処し,それぞれ同法21条を適用して被告人3名に対して未決勾留日数中120日をそれぞれその刑に算入し,A3について発生した訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してA3に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は,被告人らが,共犯者とともに,本件融資制度に基づく融資名下に多数回にわたって公庫から金員を詐取した一連の詐欺の事案である。

2  A1及びA3は自己の借入金の返済等のために,A2はEと称する暴力団関係者,本件の共犯者であるB1,A1らから融資の相談を受け,これを断るとEらから自己の女性関係を暴露されることを恐れるなどして,本件各犯行に及んだもので,A1及びA3の利欲的で自己中心的な犯行の動機に酌量の余地はないし,A2の自己保身のためには商工会の経営指導員という自己の地位を利用して公金の詐取に加担してもやむを得ないという犯行の動機にも酌量の余地はない。

3  被告人らは,公庫の本件融資制度に基づく融資が商工会からの融資推薦に基づき運用されている実情にあるとともに,A2がD商工会作成名義の内容虚偽の融資推薦関連書類を作出しうる立場にあることを利用して,本件の各犯行に及んだものである。すなわち,本件の各犯行において,A1,A3らは,公庫からの融資を自己名義で受けることに同意する名義人を探し,その名義人がf村内で事業を営んでいることを仮装するため,名義人が住居等を置いたことを仮装する場所を探したり,名義人にf村への内容虚偽の転入届や印鑑登録を行わせたり,その虚偽の住居等について賃貸借契約等を締結したり,電話を設置するなどしたほか,借入推薦依頼書等の融資関連書類に名義人がf村内で事業を行っており本件融資制度に基づく融資を必要とする理由等を記載したり,名義人に公庫からの融資を受け入れるための口座の開設を行わせるなどしたものであるし,A2は,その名義人が本件融資制度に基づく融資に適することを認証し,推薦する旨の同商工会作成名義の融資推薦関連書類を作出し,公庫に提出したものであって,その態様は組織的で計画的かつ巧妙であって悪質である。

4  A1及びA2は,平成11年10月ころから,A3は,平成12年12月ころからいずれも平成14年2月ころまでの長期間にわたって,継続的に本件の各犯行を重ね,A1については合計約1億2100万円の,A2については合計約1億2650万円の,A3については合計約8800万円の公金の詐取にそれぞれ関与したもので,被告人らがその関与した本件各犯行によって公庫に与えた財産的被害自体が大きいことに加え,本件各犯行は本件融資制度に対する社会の信頼をも失わせかねないもので,その与えた社会的影響は大きく,本件各犯行の結果は重大である。それにもかかわらず,本件各犯行による被害金の大部分は未だ回復されていない。

5  A1は,本件で起訴された合計23件の融資のうち22件の合計約1億2100万円の融資に関与し,名義人らにこれらの犯行への関与をあっせんしたり,A3,共犯者,名義人らに指示するなどして,名義人がf村内で事業を営んでいることを仮装したり,本件融資制度による融資の返済が滞って本件が発覚しないように配慮したり,A2に公庫への融資の申込みを依頼するなど,本件の各犯行において主導的役割を果たし,またこれにより合計約6000万円を実際に取得するなど最も大きな経済的利益を得たものである。A2は,本件の犯行方法を最初に考案し,起訴された合計23件の融資すべてに関与したほか,本件の各犯行がA2において作出した商工会作成名義の内容虚偽の融資推薦関連書類なしには行われ得なかったことを併せ考えると,A2は本件の各犯行において極めて重要な役割を担ったものと言うべきである。A3も本件の各犯行のうち合計16件の融資に関与し,少なくとも数百万円以上の財産的利益を得たもので,名義人に直接指示等したことも多く,本件において重要な役割を果たし,また大きな財産的利益を得たものと言うべきである。

6  これらの,被告人らの本件各犯行の動機,態様,結果,役割等を併せ考慮すれば,被告人らの刑事責任はいずれも重い。

7  他方,被告人らはいずれも本件の各事実を素直に認め,反省していること,被告人らは,当公判廷において,いずれも被害弁償する旨を述べていること,被告人らがいずれも本件により新聞等による報道を受けたほか,A2については本件によりD商工会の経営指導員の職を懲戒解雇されるなどいずれも社会的な制裁を受けていること,A2は上記の暴力団関係者やB1らの働きかけを受けて本件各犯行に加担するようになったもので,本件によって経済的な利益は全く得ていないこと,A1には妻及び子が,A2には形式的に離婚した妻及び子があって,それぞれA1又はA2を必要としていること,A1には幼少のころの事故が原因の身体障害があること,A1には罰金前科はあるものの体刑前科はないこと,A2及びA3には交通罰金前科のほかに前科はなく,本件に関与するまでおおむね真面目に働いてきたこと,A1についてはその実兄が,A2についてはその父親が当公判廷に各被告人のために情状証人として出廷したこと,A3の母親についてもA3の更生に協力する意思があることが窺われることなど被告人らのために酌むべき事情も認められる。

8  そこで,これら一切の事情を総合考慮して,主文のとおり量刑した。

(求刑 被告人A1につき懲役7年,A2につき懲役5年,A3につき懲役4年)

(裁判官 吉井隆平)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例