前橋地方裁判所 平成14年(行ウ)7号 判決 2004年12月17日
主文
1 被告A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18は,同B1とそれぞれ連帯して,群馬県に対し,各金1万2500円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告A19は,同B1と連帯して,群馬県に対し,金1万2000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告B1は,同A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18と各金1万2500円ずつ連帯して,群馬県に対し,金22万5000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告B1は,同A19と連帯して,群馬県に対し,金1万2000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告B1は,群馬県に対し,金8万9103円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告B2は,群馬県に対し,金82万0206円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告B3は,群馬県に対し,金19万1113円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告B4は,群馬県に対し,金7万5000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9 被告B5,同B6,同B7,同B8及び同B9は,群馬県に対し,各金1万5000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 被告B10及び同B11は,群馬県に対し,各金1万5000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11 被告B12は,群馬県に対し,金1万5000円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
12 被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17,同A18,同B1,同B10,同B11及び同B12に対するその余の請求をいずれも棄却する。
13 訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の1と,被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17,同A18,同B1,同B10,同B11及び同B12に生じた費用の5分の1を原告の負担とし,原告に生じた費用の20分の2と,被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18に生じた費用の5分の4を同被告ら19名の負担とし,原告に生じた費用の20分の2と,被告B1に生じた費用の5分の4を同被告の負担とし,原告に生じた費用の20分の10と,被告B2に生じた費用の全部を同被告の負担とし,原告に生じた費用の20分の2と,被告B3に生じた費用の全部を同被告の負担とし,原告に生じた費用の20分の1と,被告B4に生じた費用の全部を同被告の負担とし,原告に生じた費用の20分の2を被告B5,同B6,同B7,同B8,同B9,同B10,同B11及び同B12の負担とし,被告B5,同B6,同B7,同B8及び同B9に生じた費用の全部を同被告ら5名の負担とし,被告B10及び同B11に生じた費用の5分の4を同被告ら2名の負担とし,被告B12に生じた費用の5分の4を同被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18は,同B1とそれぞれ連帯して,群馬県に対し,各金1万5300円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告B1は,同A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18と各金1万5300円ずつ連帯して,群馬県に対し,金29万0700円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 主文5ないし9項と同旨
4 被告B10及び同B11は,群馬県に対し,各金1万7600円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告B12は,群馬県に対し,金2万0200円及びこれに対する平成14年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,群馬県の住民である原告が,平成13年に群馬県議会の景気対策・科学技術特別委員会及びこども未来特別委員会が行った県内調査のためにされた旅費等の公金支出は違法であると主張して,地方自治法等の一部を改正する法律(平成14年法律第4号)による改正前の地方自治法(以下,単に「地方自治法」という。)242条の2第1項4号により,群馬県に代位して,①群馬県議会議員であって,上記県内調査に参加した被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18に対しては,民法703条に基づく受領した金員の不当利得返還を,②群馬県議会事務局長であって,上記公金支出の一部の支出負担行為及び支出命令の権限委任を受けていた被告B1に対しては,地方自治法243条の2に基づく損害金の支払を,③群馬県知事であって,上記公金支出の一部の支出負担行為及び支出命令の権限を有していた被告B2に対しては,民法709条に基づく損害金の支払を,④群馬県教育委員会教育長であって,上記公金支出の一部の支出負担行為及び支出命令の権限委任を受けていた被告B3に対しては,地方自治法243条の2に基づく損害金の支払を,⑤群馬県企業管理者であって,上記公金支出の一部の支出負担行為及び支出命令の権限を有していた被告B4に対しては,民法709条に基づく損害金の支払を,⑥群馬県の出先機関(試験場)の長であって,上記公金支出の一部の支出負担行為及び支出命令の権限委任を受け,上記県内調査の際に行われた懇談会に出席した被告B5,同B10,同B6,同B12,同B7,同B11,同B8及び同B9に対しては,民法703条に基づく受領した金員の不当利得返還又は民法709条に基づく損害金の支払をそれぞれ求めるとともに,各被告に対し,支払義務に係る各金員に対する本件訴状送達の日の後である平成14年9月14日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は各当事者間に争いがない。ただし,(9)の事実は当裁判所に顕著である。)
(1) 当事者(被告らの役職はいずれも平成13年6月ないし7月当時のものである。)
ア 原告は,群馬県の住民である。
イ 被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8,同A9,同A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18(以下,まとめて「被告議員ら」という。また,被告議員らを除く被告らを「被告知事ら」という。)は,群馬県議会(以下,単に「県議会」という。)議員であった。
被告A1は,県議会景気対策・科学技術特別委員会(以下「委員会①」という。)の委員長であり,被告A2は,委員会①の副委員長であり,被告A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8及び同A9は,委員会①の委員であった。
被告A10は,県議会こども未来特別委員会(以下「委員会②」という。また,委員会①と委員会②をまとめて「本件各委員会」という。)の委員長であり,被告A11は,委員会②の副委員長であり,被告A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18は,委員会②の委員であった。
ウ 被告B1は,群馬県議会事務局長であった。
エ 被告B2は,群馬県知事であった。
オ 被告B3は,群馬県教育委員会教育長であった。
カ 被告B4は,群馬県企業管理者であった。
キ 被告B5は,群馬県農業試験場長であった。
ク 被告B10は,群馬県蚕業試験場長であった。
ケ 被告B6は,群馬県畜産試験場長であった。
コ 被告B12は,群馬県水産試験場長であった。
サ 被告B7は,群馬県園芸試験場長であった。
シ 被告B11は,群馬県林業試験場長であった。
ス 被告B8は,群馬県工業試験場長であった。
セ 被告B9は,群馬県繊維工業試験場長であった。
(2) 本件各委員会の設置等
ア 本件各委員会は,平成11年5月21日,群馬県議会委員会条例に基づき,県議会の議決により設置された。
イ 委員会①の設置目的は,「景気対策及び,21世紀に向けて,強い群馬の経済構造をつくるための環境整備と,産業を支え,新産業創出を図るための科学技術振興について,必要な調査検討を行う」ことであり,その関係部局は,企画部,環境生活部,農政部,林務部,商工労働部,土木部,出納局及び企業局であった。
ウ 委員会②の設置目的は,「少子化時代に対応し,21世紀を担うこどもたちのために,幼稚園や保育所等,学校教育や子育て環境づくりなど,総合的な施策について調査検討を行う。」ことであり,その関係部局は,総務部,保健福祉部及び教育委員会であった。
((2)全体につき,乙1)
(3) 県内調査の実施その1(日付はいずれも平成13年である。)
ア 6月8日,委員会①は,県議会閉会中の7月5日及び同月6日に県内調査を行うことを決定した。ただし,具体的な調査事項及び調査先については,委員会①の正副委員長へ一任された。
その後,上記の県内調査について,桐生市所在の西場工業株式会社(以下「西場工業」という。)及び太田市所在の株式会社オギハラ(以下「オギハラ」という。)の各本社並びに昭和村所在のキヤノン電子株式会社(以下「キヤノン電子」という。)赤城工場が調査先として選定された。
(ア全体につき,乙27,28)
イ 6月22日,被告A1は,委員会①の関係部局の長に宛てて,上記の県内調査に当該関係部局所属の群馬県職員(以下「県職員」という。)らを出席させるよう要請した(乙8ないし15の各1・2)。
ウ 7月5日及び同月6日,次の日程で,県内調査が行われた(以下「県内調査①」という。)。
7月5日
10時00分
議事堂(前橋市)を出発
11時00分から12時00分まで
西場工業(群馬県桐生市以下略)を視察
12時20分から13時00分まで
ウェディングパレス大安閣(群馬県新田郡笠懸町以下略)にて昼食
13時40分から14時40分まで
オギハラ(群馬県太田市以下略)を視察
17時00分
ホテル天坊(群馬県北群馬郡伊香保町以下略)に到着
18時00分から20時00分まで
ホテル天坊2階「五万石」にて懇談会
7月6日
8時30分
ホテル天坊を出発
9時20分から10時20分
キヤノン電子赤城工場(群馬県利根郡昭和村以下略)を視察
11時30分
議事堂に到着
(ウ全体につき,甲2,乙8ないし15の各2,弁論の全趣旨)
エ 委員会①の委員であった被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A6,同A7,同A8及び同A9は,県内調査①に参加し,被告B8を含む関係部局所属の県職員らの一部は,その視察に同行した。
7月5日に「五万石」にて行われた懇談会(以下「懇談会①」という。)は,酒食を伴うものであり,県内調査①に参加した上記県議会議員らのうち,被告A1,同A2,同A3,同A4,同A19,同A5,同A7,同A8及び同A9,及び,同日の視察には同行しなかった被告B5,同B10,同B6,同B12,同B7,同B11及び同B9を含む,別表1(略)の1ないし3,別表2(略)の1ないし48,別表4(略)の1ないし5及び別表5(略)の1ないし8の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(別表記載の県職員の所属部署及び役職は平成13年6月ないし7月当時のものである。以下同じ。),さらにはC群馬県企画部長(役職名は平成13年6月ないし7月当時のものである。以下「C企画部長」という。)が出席した。なお,被告A6は,懇談会①には欠席した。
そして,同日,県内調査①に参加した上記県議会議員らのうち,被告A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A6,同A7,同A8及び同A9,及び,被告B8,同B5,同B10,同B6,同B12,同B7,同B11及び同B9を含む,別表1(略)の1ないし3,別表2(略)の1ないし48,別表4(略)の1ないし5及び別表5(略)の1ないし8の各「旅費受領者」欄記載の県職員らは,ホテル天坊に宿泊した。なお,被告A19及びC企画部長は,ホテル天坊に宿泊しなかった。
(4) 県内調査の実施その2(日付はいずれも平成13年である。)
ア 6月8日,委員会②は,県議会閉会中の7月3日及び同月4日に県内調査を行うことを決定した。ただし,具体的な調査事項及び調査先については,委員会②の正副委員長へ一任された。
その後,上記の県内調査について,甘楽町所在の甘楽第一中学校,富岡市所在の富岡東高等学校,下仁田町所在の青倉保育園及び富岡市所在のいずみ保育園が調査先として選定された。
(ア全体につき,乙29,30)
イ 6月21日,被告A10は,委員会②の関係部局の長に宛てて,上記の県内調査に当該関係部局所属の県職員らを出席させるよう要請した(乙16ないし18の各1・2)。
ウ 7月3日及び同月4日,次の日程で,県内調査が行われた(以下「県内調査②」という。また,県内調査①と県内調査②をまとめて「本件各県内調査」という。)。
7月3日
10時00分
議事堂を出発
10時40分から12時00分まで
甘楽町立第一中学校(群馬県甘楽郡甘楽町以下略)を視察
12時10分から13時00分まで
甘楽ふるさと館(群馬県甘楽郡甘楽町以下略)にて昼食
13時20分から14時30分まで
群馬県立富岡東高等学校(群馬県富岡市以下略)を視察
15時20分から16時30分まで
青倉保育園(群馬県甘楽郡下仁田町以下略)を視察
17時15分
富岡ナウリゾートホテル(群馬県富岡市以下略)に到着
17時30分から19時30分まで
割烹藤屋(群馬県富岡市以下略)にて夕食,懇談会
7月4日
8時30分
富岡ナウリゾートホテルを出発
9時00分から10時00分
いずみ保育園(群馬県富岡市以下略)
10時40分
議事堂に到着
(ウ全体につき,甲3,乙16ないし18の各2,弁論の全趣旨)
エ 委員会②の委員であった被告A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18は,県内調査②に参加し,関係部局所属の県職員らの一部は,その視察に同行した。
7月3日に割烹藤屋において行われた懇談会(以下「懇談会②」という。また,懇談会①と懇談会②をまとめて「本件各懇談会」という。)は,酒食を伴うものであり,県内調査②に参加した上記の県議会議員ら,及び,別表1(略)の4ないし6,別表2(略)の49ないし54,別表3(略)の1ないし13の各「旅費受領者」欄記載の県職員らが出席した。
そして,同日,上記の懇談会②の参加者は,富岡ナウリゾートホテルに宿泊した。
(5) 県内調査①に関する支出
ア 被告A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A7,同A8及び同A9(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した県議会議員。以下「グループ①Aの被告ら」という。)に対するもの
グループ①Aの被告らに対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万2500円及び2日分の日当5600円(1日当たり2800円)の合計1万8100円が支出された。グループ①Aの被告らは,いずれも,この金員の中から,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)に相当する1万5000円をホテル天坊に支払った。
イ 被告A19(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊しなかった県議会議員)に対するもの
被告A19に対しては,群馬県から,宿泊料1万2500円及び2日分の日当5600円(1日当たり2800円)の合計1万8100円が支出された。被告A19は,この金員の中から,懇談会①の飲食代金に相当する1万2000円を,ホテル天坊に支払った。
しかし,その後,被告A19に関して,群馬県から,懇談会①の飲食代金に相当する食糧費1万2000円が支出されてホテル天坊に支払われ,同日,ホテル天坊は,被告A19に対し,1万2000円を返戻した。そして,被告A19は,群馬県に対し,当初支出された宿泊料1万2500円及び1日分の日当2800円の合計1万5300円を戻入した。
ウ 被告A6(懇談会①を欠席し,ホテル天坊に宿泊した県議会議員)に対するもの
被告A6に対しては,群馬県から,宿泊料1万2500円及び2日分の日当5600円(1日当たり2800円)の合計1万8100円が支出された。被告A6は,この金員の中から,宿泊代金に相当する1万2000円をホテル天坊に支払った。
エ 別表1(略)の1ないし3の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した県議会事務局職員。以下「グループ①Bの者」という。)に対するもの
グループ①Bの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万5000円が支出された。グループ①Bの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)として,ホテル天坊に支払った。
オ 別表2(略)の1ないし48の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した県職員。以下「グループ①Cの者」という。)に対するもの
グループ①Cの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万5000円が支出された。グループ①Cの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)として,ホテル天坊に支払った。
カ C企画部長(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊しなかった県職員)に関するもの
C企画部長に関しては,群馬県から,懇談会①の飲食代金に相当する食糧費1万2000円が支出されてホテル天坊に支払われた。
キ 別表4(略)の1ないし5の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した群馬県企業局(以下「企業局」という。)職員。以下「グループ①Dの者」という。)に対するもの
グループ①Dの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万5000円が支出された。グループ①Dの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)として,ホテル天坊に支払った。
ク 被告B5,同B6,同B7,同B8及び同B9(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した群馬県の出先機関(試験場)の長の一部。以下「グループ①Eの被告ら」という。)に対するもの
グループ①Eの被告らに対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万5000円が支出された。グループ①Eの被告らは,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇親会①の代金も含む。)として,ホテル天坊に支払った。
ケ 被告B10及び同B11(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した群馬県の出先機関(試験場)の長の一部。以下「グループ①Fの被告ら」という。)に対するもの
グループ①Fの被告らに対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万5000円及び1日分の日当2600円が支出された。グループ①Fの被告らは,いずれも,この金員の中から,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)に相当する1万5000円をホテル天坊に支払った。
しかし,その後,グループ①Fの被告らは,いずれも,群馬県に対し,当初支出された1日分の日当2600円を戻入した。
コ 被告B12(懇談会①に出席し,ホテル天坊に宿泊した群馬県の出先機関(試験場)の長の一部。)に対するもの
被告B12に対しては,群馬県から,宿泊料1万5000円及び2日分の日当5200円(1日当たり2600円)が支出された。被告B12は,この金員の中から,宿泊代金(懇談会①の代金も含む。)に相当する1万5000円をホテル天坊に支払った。
しかし,その後,被告B12は,群馬県に対し,当初支出された2日分の日当5200円を戻入した。
(6) 県内調査②に関する支出
ア 被告A10,同A11,同A12,同A13,同A14,同A15,同A16,同A17及び同A18(懇談会②に出席し,富岡ナウリゾートホテルに宿泊した県議会議員。以下「グループ②Aの被告ら」という。)に対するもの
グループ②Aの被告らに対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万2500円及び2日分の日当5600円(1日当たり2800円)の合計1万8100円が支出された。グループ②Aの被告らは,いずれも,この金員の中から,宿泊代金(懇談会②の代金も含む。)に相当する1万4701円を割烹藤屋と富岡ナウリゾートホテルに支払った。
イ 別表1(略)の4ないし6の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会②に出席し,富岡ナウリゾートホテルに宿泊した県議会事務局職員。以下「グループ②Bの者」という。)に対するもの
グループ②Bの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万4701円が支出された。グループ①Bの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会②の代金も含む。)として,割烹藤屋と富岡ナウリゾートホテルに支払った。
ウ 別表2(略)の49ないし54の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会②に出席し,富岡ナウリゾートホテルに宿泊した県職員。以下「グループ②Cの者」という。)に対するもの
グループ②Cの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万4701円が支出された。グループ②Cの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会②の代金も含む。)として,割烹藤屋と富岡ナウリゾートホテルに支払った。
エ 別表3(略)の1ないし13の各「旅費受領者」欄記載の県職員ら(懇談会②に出席し,富岡ナウリゾートホテルに宿泊した群馬県教育委員会(以下「教育委員会」という。)職員。以下「グループ②Dの者」という。)に対するもの
グループ②Dの者に対しては,それぞれ,群馬県から,宿泊料1万4701円が支出された。グループ②Dの者は,いずれも,この金員を,宿泊代金(懇談会②の代金も含む。)として,割烹藤屋と富岡ナウリゾートホテルに支払った。
(7) 支出負担行為及び支出命令(権限は,いずれも平成13年6月ないし7月当時のものである。)
ア 被告B1は,県議会事務局長であって,群馬県知事から,県議会に関する支出負担行為及び支出命令をする権限の委任を受けていた(群馬県財務規則3条)。
そして,被告B1は,上記(5)ア,イ,ウ,エ,(6)ア,イの支出(なお,上記(5)イについては,食糧費の支出も含む。)について,関県議会総務課長に県議会に関する支出負担行為及び支出命令を専決させており,これらの支出は,いずれも,関県議会総務課長の専決に係る支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。
イ 被告B2は,群馬県知事であって,群馬県の支出負担行為・支出命令をする権限を有していた(地方自治法149条)。
そして,被告B2は,まず,上記(5)オ,(6)ウの支出について,それぞれ,別表2(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者に支出負担行為及び支出命令を専決させ,又は専決させていた者により代決させており,これらの支出は,それぞれ,上記「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。また,被告B2は,上記(5)カの支出について,D企画課長に対し,支出負担行為及び支出命令を専決させ,D企画課長は,同課のE次長にこれを代決させており,この支出は,E次長代決に係る支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。
ウ 被告B3は,教育委員会教育長であって,群馬県知事から,教育委員会に関する支出負担行為及び支出命令をする権限の委任を受けていた(群馬県財務規則3条)。
そして,被告B3は,上記(6)エの支出について,それぞれ,別表3(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者に支出負担行為及び支出命令を専決させ,又は専決させていた者により代決させており,これらの支出は,それぞれ,上記「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。
エ 被告B4は,群馬県企業管理者であって,企業局に関する支出負担行為及び支出命令をする権限を有していた(地方公営企業法8,9条)。
そして,被告B4は,上記(5)キの支出について,それぞれ,別表4(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者に支出負担行為及び支出命令を専決させ,又は専決させていた者により代決させており,これらの支出は,それぞれ,上記「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。
オ 被告B5,同B10,同B6,同B12,同B7,同B11,同B8及び同B9は,それぞれ,群馬県の出先機関(試験場)の長であって,群馬県知事から,各出先機関(試験場)に関する旅費の支出負担行為及び支出命令をする権限の委任を受けていた(群馬県財務規則3条)。
そして,上記(5)ク,ケ,コの支出は,いずれも,その支出を受けた者自らの支出負担行為(旅行命令)及び支出命令に基づいてされたものである。
(8) 住民監査請求
原告は,平成14年6月19日,上記(5)及び(6)の各支出が違法な公金の支出であると認め,群馬県監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき住民監査請求を行った。これに対し,群馬県監査委員は,同年8月16日,監査請求を棄却する旨の決定をし,この決定は,同月17日,原告に通知された。
(9) 本件訴えの提起
原告は,平成14年8月30日,本件訴えを提起した。
2 本案前の主張(被告議員ら)
本件各県内調査は,地方自治法に従い,群馬県条例及び同規則に基づいて正式に決定されて行われたものであり,特別委員会の県内調査活動としての実質を備えた有意義なものであった。そして,被告議員らに対する支出は県議会議員の報酬等支給条例4条に基づき費用弁償として行われたものである。
県民代表機関である県議会の特別委員会が法令に基づき正規に行った調査活動の当否の判断は,最終的には県民による選挙によって評価・判断されるべきである。
県内調査の日程及び調査先の選択,宿泊代金や食事代金の多寡等の当否の判断は,全て県議会の裁量の範囲内に属するものであるから,原告の被告議員らに対する訴えは,不適法であり,却下されるべきである。
3 本案前の主張(原告)
本件各県内調査についての被告議員らに対する支出の適法性につき,司法審査をすることは認められるべきである。
被告議員らの主張は,県民は県議会議員のすることに文句を言うな,というに等しい。
4 本案の主張(原告)
(1) 前提事実(5)及び(6)の支出全体の違法性について
ア 県内調査のうち,日中の視察を行うことの是非について
(ア) 県議会の特別委員会の活動は,原則として会期中に限られる(地方自治法110条3項本文)。しかし,特に必要がある場合には,県議会の議決により「付議された特定の事件」について,議会閉会中に特別委員会を開催して引き続き審査させることが認められている(同項但書)。また,特別委員会は,固有の権能として調査活動を行うことが予定されておらず,調査活動を行う場合には,その調査活動は,審査の必要性から計画され,その審査の一環と評価し得るものでなければならない。なお,一般的に県政で話題となっているとか,一般質問で取り上げられたというだけでは,特別委員会の調査活動の目的とはなり得ない。
(イ) 県議会において,平成13年6月12日付けで,議会閉会中の本件各委員会の活動についての議決がされたが,本件各委員会の各所管事項と「付議された特定の事件」はいずれも同一であって,これでは何も特定していないのと同じであり,地方自治法110条3項但書が予定した特定事件の付議がされたとはいえない。
したがって,本件各委員会の調査活動の根拠となる上記議決は,形式だけのものであった。
(ウ)a 平成13年5月29日に委員会①の委員が選任された後,県内調査①の前に委員会①の審議がされたのは同年6月8日の1回だけであるが,その審議の際には,被告らが県内調査①の目的と主張する科学技術振興等について,一切審議されなかった。また,県内調査①の結果について,その後,委員会①で審議された形跡もない。
また,被告らは,県内調査①が海外調査の実施先企業等についての事前研修のための調査であるとも主張するが,県内調査①には海外調査に参加しなかった2人の県議会議員も参加したし,海外調査に参加した被告A19及び同A7の2人は県内調査①の一部にしか参加しなかった。その上,県内調査①の起案書や復命書に,海外調査の事前研修であることなど一切記載されていない。さらに,平成13年6月8日の委員会①の審議において,上記海外調査について一切審議されておらず,この海外調査も審議の必要性から計画されたものではない。
県内調査の日程は,県議会の各委員会の正副委員長等により構成される正副委員長会議で決めるのが慣例となっており,県内調査①を1泊2日で行うという日程は,実際には同年5月29日に開催された正副委員長会議において決められていた。後記ウのとおり,県内調査①で行われた懇談会①は公務上の必要性に欠けるものであったが,県内調査①の調査内容や調査先が決定する以前に,1泊2日の調査で懇親会を実施することが決まっていたことになる。
したがって,県内調査①は,委員会①の審査の必要性から計画されたものではない。
b 平成13年5月29日に委員会②の委員が選任された後,県内調査②の前に委員会②の審議がされたのは同年6月8日の1回だけであるが,その審議の際には,小中学校関連の問題として,「障害児の修学指導や放課後教育」,「不登校や引きこもり」,「学校給食における地元農産物の使用について」,高校関連の問題として,「県立高校における障害児の受け入れ状況について」が審議された。審議の必要性から県内調査②が計画されたのであれば,調査先において,上記の項目について質疑がされるであろうが,実際にはこれらの項目についての質疑は一切行われなかった。また,県内調査②の結果について,その後,委員会②で審議された形跡もない。
また,県内調査②を1泊2日で行うという日程も,実際には同年5月29日に開催された正副委員長会議において決められており,県内調査②の調査内容や調査先が決定する以前に,1泊2日の調査で懇親会を実施することが決まっていたことになるのは,上記aと同様である。
したがって,県内調査②は,委員会②の審査の必要性から計画されたものではない。
(エ) 審査の必要性から本件各県内調査が計画,実施されたとしても,調査のための旅行は,電信,電話,郵便等の通信による連絡手段によっては公務の円滑な遂行を図ることできない場合に限られる(群馬県職員等の旅費に関する条例(以下「旅費条例」という。)4条2項)ところ,それぞれの調査結果を示す復命書の「調査の概要」には,事前に分かっていたことや電信,電話,郵便等の通信による連絡手段で容易に分かることしか記載されておらず,この点からも,本件各県内調査には公務上の必要性がなかったといえる。
(オ) 以上のとおり,本件各県内調査は,いずれも,公務上の必要性に欠け,泊まりがけで懇親会をするための口実として実施されたものである。
イ 県内調査を2日間にわたり実施すること及び県内調査に際し宿泊することの是非について
(ア) 県議会議員の報酬等支給条例4条により準用される旅費条例8条但書は,公務上の必要性や天災等によるやむを得ない場合を除いて,路程400kmを超えない限り宿泊は許されないと規定している。ここでいう「公務上の必要性」とは,距離的要素を除いたものをいい,「路程が400kmを下回るが遠いから宿泊する」ということは上記条例上許されない。そして,県内調査①に参加した委員会①の委員で路程が最も長い被告A1でもその路程は219.7kmであり,県内調査②に参加した委員会②の委員で路程が最も長いFでもその路程は144.1kmであり,いずれも400km未満である(なお,これらの路程は,委員の出発地から宿泊地までの移動を含むものであり,宿泊をしなければさらに短くなる。)。
(イ) 県内調査①の1日目の調査は,オギハラの視察をもって14時40分に終了し,2日目に行われたキヤノン電子赤城工場の視察時間は1時間であった。オギハラの視察に引き続いてその日のうちにキヤノン電子赤城工場の視察を行う場合,オギハラの所在地からキヤノン電子赤城工場までの所要時間を加味しても,遅くとも18時前には県庁(議事堂)に戻ることができる。
県内調査②についても,1日目に行われた群馬県立富岡東高等学校の視察の前後に,2日目に行われたいずみ保育園の視察を行えば,10時に県庁(議事堂)を出発した場合には19時に県庁(議事堂)に戻ることができる。19時では遅いというなら,10時の出発時間を早めることで十分対応できる。
したがって,本件各県内調査は,いずれも,1日で十分実施可能であった。
(ウ) 以上のとおり,本件各県内調査に際し宿泊することは許されず,本件各県内調査は,いずれも,2日間にわたり実施すること及び宿泊をすることの公務上の必要性に欠けるものであった。
ウ 県内調査のうち,懇談会の公務上の必要性について
(ア) そもそも,県職員と意見交換や政策論議をすることが県議会議員の職務であり,そのために議事堂があり,そこで議会が開催される。そして,県議会の委員会は,本会議での意見交換や政策論議を円滑に進めるために設置されている。委員会での意見交換や政策論議を円滑に進めるために懇談会を開催することは,上記委員会の設置目的を忘れたものとしかいいようがない。
次に,公金支出権限を有する県職員と執行機関の事務執行について検閲検査を行う県議会議員(この中には,監査委員も含まれる。)との間には適度な緊張関係が必要であって,宿泊して酒食をともにすることは,このような緊張関係の維持には不適切であり,少なくとも,公金を使って行うべきものではない。
さらに,県議会議員と県職員とは,職務上,日常的に意見交換及び交流をする関係にあり,初顔合わせの懇談などする必要はない。
したがって,本件各懇談会のような懇談会には公務上の必要性はない。
(イ) 仮に,食事を伴った懇談会に公務上の必要性があるとしても,それは,調査の遂行に随伴して行われたと評価し得るものに限られる。
しかし,まず,日中の調査には参加しない多くの県職員らが本件各懇談会だけに参加し,宿泊をした。
次に,本件各懇談会では日中の調査内容についての話題は避け,自由な話題について懇談がされたのであって,日中の調査と懇談会とは,別の目的に出たもので,内容的にはこれらを同日に実施する必要のないものであった。
したがって,本件各懇談会は,それぞれの調査の遂行に随伴して行われたと評価することができず,やはり公務上の必要性はなかったといえる。
(ウ) 実際に行われた懇談会の実態をみても,本件各懇談会に公務上の必要性がなかったといえる。
まず,懇談会①が行われた「五万石」では,一人当たり3000円で飲み放題となるが,懇談会①においては,飲み物代として一人当たり3000円が消費された。また,懇談会②が行われた割烹藤屋は,一人当たりの飲み物代としては2000円で充分と述べているが,懇談会②においては,飲み物代として一人当たり3000円が消費された。このように多量のアルコールを摂取することを伴う懇談会で,緊張感と節度をもった,建設的な意見交換や政策論議を行うことは不可能である。
次に,本件各懇談会のいずれについても,意見交換のために必要となる資料作成費,OHPやスライド機器等の使用料など,飲食以外の経費の支出は一切なかった。また,本件各懇談会のいずれにおいても,何らの議事や式次第はなく,事前の資料配付などもなく,委員長と5人の部長が挨拶をした後,直ちに宴に入ったのであり,出席者の自己紹介もされなかった。そして,本件各懇談会における意見交換の結果が集約された形跡もない。
さらに,被告A6は,県内調査①に参加しながら,懇談会①には欠席したが,その際,具体的な欠席の理由が示されていない。
したがって,本件各懇談会は,その実態からみても単なる遊興でしかなかったのであり,公務上の必要性がなかった。
(エ) 以上のとおり,本件各懇談会は公務上の必要性に欠けるものであった。
エ 上記アないしウのとおりであって,本件各県内調査自体,公務上の必要性に欠けることなどから行うべきでなかったし,これらを2日間にわたり行い,その際に宿泊し,また本件各懇談会を行うことも,同様に公務上の必要性に欠けることなどから行うべきでなかった。
したがって,前提事実(5)及び(6)の支出は,その全体が違法であり,少なくとも被告議員らに対する1日分の日当(1日目の日当に相当するもの)の支出を除く部分はいずれも違法である。
(2) 前提事実(5)及び(6)の支出の一部の違法性について
ア 宿泊料増額調整について
県職員らに対する宿泊料は,旅費条例によると各1万1800円の定額とされているが,県内調査①においては各1万5000円,県内調査②においては各1万4701円に増額調整されて支給されている。そして,本件各県内調査で宿泊した県職員らについては,一般職員が特別職の職員(県議会議員を含む。)に随行した場合に当たり,その場合の宿泊料の増額調整は,当該特別職の職員に支給する宿泊料に相当する額を限度とする旨定められている(旅費条例32条の委任により定められた群馬県旅費支給規則15条2項1号)ところ,本件各県内調査に参加した県議会議員に対して支給された宿泊料は各1万2500円である。
したがって,本件各県内調査について県職員らに対して支給された宿泊料は,増額調整の限度を超えており,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,増額調整の限度を超えた部分の支出は違法である。
イ 旅費支給の目的について
本件各県内調査における各宿泊は,専ら本件各懇談会の費用を旅費の宿泊料から捻出する目的で行われたものである。仮に本件各懇談会に公務上の必要性があるのであれば,その費用は,食糧費から直接ホテル等に支払われるべきである。食糧費で支出すべきものを旅費で支出することはできないと解されるから,本件各県内調査において,県議会議員らや県職員らに対して旅費を支給し,これを懇談会の費用に充当させるべきでない。
したがって,本件各懇談会の費用を旅費の宿泊料から支出することは,旅費支給の目的を逸脱したものであり,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,宿泊料の支出は違法である。
ウ 懇談会費用及び宿泊料の金額について
本件各県内調査において宿泊した県職員らの中には,日中の視察には参加しなかった者がいたが,このような県職員らに対して,県内調査①においては各1万5000円,県内調査②においては各1万4701円が宿泊料として支払われ,飲食・宿泊費用として充てられた。県内調査①において宿泊しなかった被告A19及びC企画部長には,各1万2000円の食糧費が支出された。
仮に本件各懇談会に公務上の必要性があるとしても,このような高額の飲食・宿泊費用の支出は社会通念上相当の範囲を超えるから,裁量権の濫用に当たる。地方自治体内部の関係者間の飲食費用として公金からの支出が許されるのは,食卓料2600円の範囲である(旅費条例21条)。
したがって,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,上記食卓料の範囲を超えた宿泊料及び食糧費の支出は違法である。
エ 県職員らに対する出席要求の手続について
県議会の委員会が本件各県内調査に参加した県職員らのような幹部職員に対して出席要求をするときは,議長を経てしなければならない(群馬県議会委員会条例18条)。しかし,本件各県内調査に県職員らを出席させる際には,本件各委員会の各委員長名で出席要求がされており,上記条例の定める手続に従っていない。
したがって,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,県職員らに対する支出は違法である。
(3) 群馬県の損害と被告らの責任
ア 被告議員らについて
(ア) グループ①Aの被告ら及び被告A6について
前提事実(5)ア及びウの支出のうち1日目の日当を除く部分については,公務上の必要性がないにもかかわらず支出されたものであり,グループ①Aの被告ら及び被告A6がこれを受領したことにより,群馬県は損害を被った。
したがって,グループ①Aの被告ら及び被告A6は,それぞれ,群馬県に対し,上記支出部分に相当する金員を返還する責任を負う(ただし,被告B1との連帯責任である。)。
(イ) 被告A19について
前提事実(5)イの食糧費の支出については,公務上の必要性がないにもかかわらず支出されたものであり,被告A19がこれを受領したことにより,群馬県は損害を被った。
したがって,被告A19は,群馬県に対し,上記食糧費の支出に相当する金員を返還する責任を負う(ただし,被告B1との連帯責任である。)。
(ウ) グループ②Aの被告らについて
前提事実(6)アの支出のうち1日目の日当を除く部分については,公務上の必要性がないにもかかわらず支出されたものであり,グループ②Aの被告らがこれを受領したことにより,群馬県は損害を被った。
したがって,グループ②Aの被告らは,それぞれ,群馬県に対し,上記支出部分に相当する金員を返還する責任を負う(ただし,被告B1との連帯責任である。)。
イ 被告知事らについて
(ア) 被告B1について
被告B1には,前提事実(5)ア,ウ,(6)アの支出のうち1日目の日当を除く部分,前提事実(5)イの食糧費の支出,前提事実(5)エ,(6)イの支出全部についての関県議会総務課長の専決に係る支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止すべき指揮監督上の義務があったところ,被告B1は,故意又は重過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えた。
したがって,被告B1は,群馬県に対し,上記支出(部分)に相当する損害金を支払う責任を負う(ただし,前提事実(5)ア,ウ,(6)アの支出のうち1日目の日当を除く部分,前提事実(5)イの食糧費の支出に各相当する損害金の支払については,これら支出金を受領した各被告議員らとの連帯責任である。)。
(イ) 被告B2について
被告B2には,前提事実(5)オ,(6)ウの支出全部について別表2(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為及び支出命令がされ,前提事実(5)カの支出全部についてE次長の代決に係る支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止すべき指揮監督上の義務があったところ,被告B2は,故意又は過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えた。
したがって,被告B2は,群馬県に対し,上記支出に相当する損害金を支払う責任を負う。
(ウ) 被告B3について
被告B3には,前提事実(6)エの支出全部について別表3(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止べき指揮監督上の義務があったところ,被告B3は,故意又は重過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えた。
したがって,被告B3は,群馬県に対し,上記支出に相当する損害金を支払う責任を負う。
(エ) 被告B4について
被告B4には,前提事実(5)キの支出全部について別表4(略)の「旅費受領者」欄記載の県職員に対応する「支出負担行為・支出命令専決(代決)者」欄記載の者の専決又は代決に係る支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止べき指揮監督上の義務があったところ,被告B4は,故意又は過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えた。
したがって,被告B4は,群馬県に対し,上記支出に相当する損害金を支払う責任を負う。
(オ) グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12について
a 前提事実(5)クの支出全部,前提事実(5)ケ,コの支出のうち日当を除く部分については,公務上の必要性がないにもかかわらず支出されたものであり,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12がこれを受領したことにより,群馬県は損害を被った。
したがって,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12は,それぞれ,群馬県に対し,上記支出(部分)に相当する金員を返還する責任を負う(ただし,下記bと選択的である。)。
b また,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12は,故意又は過失により,前提事実(5)クの支出全部,前提事実(5)ケ,コの支出のうち日当を除く部分の支出についての支出負担行為及び支出命令をして,群馬県に損害を与えた。
したがって,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12は,上記支出(部分)に相当する損害金を支払う責任を負う(ただし,上記aと選択的である。)。
5 本案の主張(被告議員ら)
(1) 前提事実(5)及び(6)の支出全体の違法性について
ア 県内調査のうち,日中の視察を行うことの是非について
(ア) 県議会の特別委員会は,複雑多様化する社会事象に対応するべく,県議会が条例を制定して設置するものである。
特別委員会の調査権能については,地方自治法上必ずしも明文の規定がないが,特別委員会の審査の必要上調査活動を行うことを禁止する理由はない上,そもそも本件各委員会は,いずれも,その所定事項の調査検討を行うことを設置目的にしているのであるから,県議会の議決で付議された事件であれば,議会閉会中に調査を行い得る。
(イ) 地方自治法110条但書の「付議された特定の事件」とは,特別委員会の設置目的からして,議会が継続して審査する必要性を認めた事項であれば足りる。
そして,本件各委員会の調査について適法に継続審査の議決を得た上で,本件各県内調査が行われた。
(ウ)a 県内調査①の調査目的は次のとおりである。
すなわち,経済のグローバル化やIT革命が進む中,群馬県の企業が世界経済との関わりの中でどのように景気を回復し,持続的成長を成し遂げるかを考えるとき,世界経済の状況を把握し,先進地の状況や動向を調査することが必要であることから,委員会①の設置目的のために海外調査を実施することになり,この海外調査の実施先企業等について事前研修するため,県内調査①を実施した。
b 県内調査②の調査目的は次のとおりである。
すなわち,委員会②の設置目的において調査検討を行うこととされた総合的な施策の調査を行うため,県内調査②を実施した。
(エ) 委員会の調査においては,委員各自が所管事項について単に知識を取得するだけでなく,現地に赴き,現場を見,関係者と直接話をすることによって,いわば肌感覚として現状を理解することが極めて重要であり,このような現実を理解することなくして,委員ないし県議会議員としての責任ある活動は不可能である。
県内調査における質問及び調査の第一義的な意義は,その場での現地の状況を委員が直接見て,聞いて,感じることによって,それを議員としての活動に生かすことであり,そのことが委員会の充実した審査にもつながる。したがって,県内調査は書類に逐一やりとりを記録することを目的として行われるのでもない。
(オ) 原告は,県内調査の日程が正副委員長会議で決定されていたと主張する。しかし,常任委員会と特別委員会の日程が重複すると,調査に参加できない委員が生じてしまう。また,県内調査の場合,交通手段としては県議会のバスが利用されるが,議会バスは2台しかない。そのため,委員会間での日程の調整が必要であった。そして,委員会等の団体での行動においては,その性質上最初に大まかな所要日数を決め,それを踏まえて調査先等を検討することが必要である。そのため,正副委員長会議においては,委員会間での日程調整をし,県内調査が2日間にわたっても対応できるように日程を設定した。
イ 県内調査を2日間にわたり実施すること及び県内調査に際し宿泊することの是非について
(ア) 旅費条例8条但書は,旅行中公務のために滞在した日数や天災等により,やむを得ず滞在した日数については,現に要した日数により計算し,当該滞在を除いた日数,すなわち移動のみの日数について路程による制限を規定している。したがって,公務の必要上から宿泊が必要な場合は,路程400kmに関係なく宿泊ができる。そして,公務上の必要は,用務の日程,内容,当該用務地への経路等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ) 本件各県内調査は,十分な調査を効果的に実施するために,委員の出発地,調査先の所在地等を考慮して1泊2日の日程で実施した。単に計算上行程を1日で消化できるから1泊2日で行う必要はないというのは,県内調査の実質を無視した形式的な議論である。
ウ 県内調査のうち,懇談会の公務上の必要性について
(ア) 本件各懇談会は,本件各委員会の委員らと担当部課長らとの初顔合わせの機会であった。
県議会は,執行機関と一定の距離を置き緊張感をもって対処することが必要であるとともに,県民のための行政推進の観点から執行機関との協同が要請される。県議会議員及び県職員にとって,必要とされる施策について率直かつ直接に建設的な意見交換ができる場をもつことは極めて重要である。
(イ) 本件各懇談会が夕食をとりながらの懇談会形式をとったのは,会議形式での一方的な説明と異なり,重点的・個別的な説明や意見交換ができること,関係者が一堂に会することにより,各委員には同時並行的に効率よく県職員と意見交換等ができることによる。その際,多少のアルコールが伴ったが,格式張らずに忌憚のない形で政策論議できる場であったことから,問題となるようなものではなかった。
(ウ) 原告は,懇談会①が飲み放題であったことを問題とするが,これは,料金設定上,飲み物3000円のコースが選ばれただけであって,被告らがアルコールを含んだ飲み物を大量に飲みたいために選択したわけではない。
(2) 前提事実(5)及び(6)の支出のうち,懇談会費用について
懇談会の費用は,1泊2日の旅費及び日当の範囲の中から支払われており,懇談会のために特別の費用負担を行ったものではない。
(3) 上記(1)及び(2)のとおりであって,本件各県内調査は適法,適正に行われたものである。
6 本案の主張(被告知事ら)
(1) 前提事実(5)及び(6)の支出全体の違法性について
ア 上記5(1)と同旨
イ 群馬県議会委員会条例18条は,委員会は,審査又は調査のため,知事並びにその委任又は嘱託を受けた者に対し,説明のため出席を求めようとするときは,議長を経てしなければならないと定めており,これは委員会の知事等の県職員らに対する出席要求権能及び知事等の県職員らの一般的出席義務を当然の前提とした規定である。そして,委員会は,閉会中も審査,調査を行うことができるのであるから,本件各県内調査のような閉会中の調査についても,出席の要求を受けた知事等の執行機関は,特段の事情のない限りこれに応ずる一般的義務がある。
また,県議会議員の所属する全ての党会派の世話人会は,平成11年5月12日,委員会(特別委員会を含む。)の県内調査について,年度当初の調査は1泊2日で行い,その際には,初顔合わせとしての懇談会を実施し,執行部の関係職員らに出席を要請する趣旨の申し合わせを行った。
このようなことからすると,県内調査について出席要請を受けた県職員は,特段の事情のない限り,できるだけこれに応じるべきである。
ウ もとより,県内調査に際して行われる懇談会が,その趣旨,規模,内容,費用等に鑑みて,社会通念上相当性を欠き,単に職務に藉口して行われているような特段の事情がある場合には,出席要請を受けた執行機関にその出席を拒むべき義務があることは否定しない。しかし,本件各県内調査への出席要請については,上記特段の事情は窺われず,本件各懇談会の内容などに照らしても上記特段の事情はない。
エ したがって,前提事実(5)及び(6)の支出がおよそ許されないとはいえない。
(2) 前提事実(5)及び(6)の支出の一部の違法性について
ア 宿泊料増額調整について
県議会議員の旅費(日当及び宿泊料)は,県職員の場合より若干高額に定められており,本件各県内調査の宿泊先は,その旅費を前提に選定されたと思われる。そして,県職員らに対する旅行命令は,宿泊先を指定した本件各委員会の委員長の出席要請に応じてなされた。したがって,群馬県旅費支給規則15条2項2号に従い,職員の宿泊料を増額調整したのであり,この手続に違法はない。
原告は,上記規則15条2項1号を適用すべきとするが,正しくない。
イ 旅費支給の目的について
県議会議員の報酬等支給条例及び旅費条例に定める宿泊料とは,1泊2食(夕食及び朝食)の費用と解される。本件各県内調査のように,宿泊を伴う形で懇談会が実施された場合,懇談会の飲食代については本来の宿泊料に含まれることとなる。なお,県内調査②の場合,宿泊先と懇談会先が異なるが,宿泊先以外で夕食をとった場合でも,夕食代が他の費用で支弁されない限り,宿泊料が減額されるわけではない。
したがって,宿泊料の支出について違法はない。
ウ 懇談会費用及び宿泊料の金額について
旅費条例21条の食卓料とは,例えば,船中泊,機中泊にて公務出張する場合のように,宿泊料が支給できない場合に支給される食事料(夕食,朝食)のことをいう。
したがって,地方自治体内部の関係者間の飲食費用として公金からの支出が許されるのは食卓料2600円の範囲であるとの原告の主張は正しくない。
第3当裁判所の判断
1 本案前の主張について
被告議員らは,本件各県内調査が,地方自治法,県条例及び同規則に従ったものであること,県内調査の当否の判断が全て県議会の裁量の範囲内に属するものであることを根拠に,原告の被告議員らに対する訴えが不適法になると主張する。
しかしながら,この点に関し被告議員らが根拠とするものは,いずれも,本件各県内調査ないしそのためにされた公金支出が違法でないこと,すなわち,本案の請求に理由がないことをいうものであって,原告の被告議員らに対する訴えを不適法とする根拠にはならないといわざるを得ない。
また,本件各委員会の調査活動の当否が,選挙によって評価されるものであるからといって,それとは別に,本件訴えのような住民訴訟によって評価されることを妨げるべき根拠にはならないというべきである。
そして,前提事実に本件全証拠を併せても,原告の被告議員らに対する訴えを不適法とするべき事情を他に見出すことができない。
したがって,本案前の被告議員らの主張は採用することができない。
2 本案の主張について
(1) 県内調査のうち,日中の視察を行うことの是非について
ア 本件各委員会の調査権能と県議会閉会中の調査活動の可否
普通地方公共団体の議会に置かれる特別委員会について規定する地方自治法110条には,常任委員会についての定め(同法109条3項)とは異なり,調査活動を行う明示的な権能が定められていないが,特別委員会は,議会の議決により付議された事件を審査する旨定められている(同法110条3項本文)ことからして,その審査のための必要性を欠く場合はともかく,裁量により調査活動を行うことができると解される。そして,特別委員会は,議会閉会中においても,議会の議決により付議された特定の事件については,これを審査することができる(同項但書)。
これを本件についてみるに,前提事実のとおり,本件各委員会は県議会に設置された特別委員会であり,本件各県内調査は県議会閉会中に行われたが,証拠(乙5)によれば,平成13年6月12日,県議会の議決により,委員会①に対しては「景気対策・産業の活性化,雇用の創出に関すること」「科学技術の振興に関すること」「リサイクル社会の創出等,環境施策に関すること」の3事件が,委員会②に対しては「学校教育と家庭教育に関すること」「こどもたちのための社会基盤づくりに関すること」「子育て環境づくりに関すること」の3事件が,それぞれ付議されたと認められる。この点,証拠(乙2の1・2,乙5)によれば,原告主張のとおり,本件各委員会に対して付議された上記各事件は,いずれも,その所管事項と同一であったと認められるが,県議会閉会中における審査のために要求される特定の事件の付議に該当しないとまではいえない。
以上によれば,本件各委員会は,本件各県内調査が行われた当時,付議された上記各事件の審査のための必要性を欠く場合を除き,その裁量により調査活動を行うことができたというべきである。
イ 本件各県内調査のうち,日中の視察の必要性について
(ア) まず,県内調査①の視察先についてみるに,前提事実に証拠(乙24,26)を併せると,西場工業は,群馬県桐生市に本社を置き,鉄鋼事業部,樹脂事業部,自動車販売サービス部の3部門を擁し,1987年には,アメリカのカリフォルニア州サンディエゴに現地法人を開設し,生産拠点をメキシコに展開するなど,海外進出も行っている会社であり,オギハラは,群馬県太田市に本社を置く金型メーカーで,同社に国内9社,海外4社,海外事務所1か所を加えたオギハラグループの中核となっている会社であり,キヤノン電子は,キヤノン株式会社のグループ企業であり,レーザービームプリンタ及びユニット,カメラ用ユニット,磁気ヘッド,マイクロ機器,ハンディターミナル等の製品を製造し,群馬県利根郡昭和村に赤城工場を置く会社であり,同社赤城工場は,レーザービームプリンタ製造の国内主力工場としての役割を担っていると認められる。そして,上記アの認定のとおり,委員会①に対しては「景気対策・産業の活性化,雇用の創出に関すること」との事件が付議されていたのであるから,委員会①の委員らが,群馬県内に本社又は工場を置く会社に赴き,その活動状況を視察することには合理性が認められ,上記付議された事件の審査のための必要性を欠くものとはいえず,委員会①の調査活動についての裁量を逸脱するものではないと考えられる。
(イ) 次に,前提事実のとおり,県内調査②の視察先は,群馬県内の中学校,高等学校,保育園であって,上記アの認定のとおり,委員会②に対しては「学校教育と家庭教育に関すること」「こどもたちのための社会基盤づくりに関すること」「子育て環境づくりに関すること」との事件が付議されていたことに照らすと,委員会②の委員らが,県内調査②の視察先に赴いて,その教育ないし保育の現場を視察することには合理性が認められ,上記付議された各事件の審査のための必要性を欠くものとはいえず,委員会②の調査活動についての裁量を逸脱するものではないと考えられる。
(ウ) 上記各視察には,単に情報収集をするに留まらず,委員会①にとっては企業活動の現場,委員会②にとっては教育ないし保育の現場にそれぞれ実際に赴いた上で,委員らが,自ら現場の状況を観察し,関係者と直接対話することそのものにも意味があることは当然のことである。そうすると,原告が主張する如く,上記各視察を行うことが,電信,電話,郵便等の通信による連絡手段によっては公務の円滑な遂行を図ることができない場合に当たらないとはいえないし,本件各県内調査の結果について本件各委員会で審議された形跡がないとしてもやむを得ないことであるというべきである。
また,本件各県内調査の日程が,それぞれの調査内容や調査先が決定する以前に決められていたとしても,そのことから直ちに上記各視察の必要性を否定することはできない。
(エ) 以上によれば,本件各県内調査のうち,日中の視察は,本件各委員会のそれぞれの審査の必要に欠けるものでなく,これを行うべきでなかったとはいえない。
(2) 県内調査を2日間にわたり実施することの是非について
原告は,本件各県内調査の日程から,各県内調査を1日で実施することが可能であって,2日間にわたってこれを実施するべきでなかったと主張する。しかしながら,調査の日程を決める段階においては,視察先における調査が予想外に長引き,1日で日程を終わることができなくなる可能性など,予測困難な事情も考慮して日程を決めることも各別不合理なことではないし,そもそも,1日のうちどの程度の時間を割いて調査を実施するかということについても,これを実施する者の裁量に委ねられてよいと考えられる(ただし,宿泊の要否については措く。)。そして,前提事実のとおり,本件各県内調査において実際に行われた視察時間等をみると,本件各県内調査は,いずれも1日で実施することが不可能なものではなかったとはいえるが,その場合には相当に余裕のない日程になったともいうことができ,2日間にわたって行うことが本件各委員会の裁量を超えるものであったとまでは考えられない。そうすると,本件各県内調査を2日間にわたって実施することが公務上の必要性に欠けるとはいえず,これを行うべきでなかったともいえない。
(3) 小括(日当支出に相当する部分についての被告議員らの責任及び日当支出の違法性)
以上のとおりであるから,被告議員らは,群馬県に対し,2日分の日当に相当する部分を不当利得として返還する義務を負わないし,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,本件各県内調査に参加した被告議員らへの2日分の日当の支出が違法であったともいえない。
(4) 県内調査に際し宿泊することの是非について
前提事実(5)及び(6)の支出のうち,本件各県内調査に参加した被告議員らへの2日分の日当の支出を除いた部分のほとんどが,県内調査①又は②に際しての宿泊料であり,その余は懇談会①についての食糧費の支出であるから,以下においては,本件各県内調査に際し宿泊することの是非について検討し,その検討と併せて,本件各懇談会を実施することの是非も検討することとする。
ア 懇談会の実施を除いた場合の検討
前提事実のとおり,本件各懇談会は,それぞれ,本件各県内調査の日程に組み込まれていたが,被告らは,本件各懇談会が本件各委員会の調査活動そのものの一部であるとまでは主張しないし,本件証拠上そのような事実を認めるに足りる証拠もない。
そこで,本件各県内調査に際し宿泊することの是非について判断するに当たっては,まず,懇談会が実施されたことをさしあたり検討対象から除き,本件各県内調査を本件各委員会の調査活動としてのみ捉えた上で,本件各県内調査に際し宿泊する必要性について検討することとする。なお,上記(2)のとおり,本件各県内調査を2日間にわたって実施することは許容されていたといえるが,そうであるからといって,直ちに,本件各県内調査を2日連続で行うことまでも許容されることにはならず,本件各県内調査に際し宿泊することができることにもならない。
前提事実のとおり,本件各県内調査においては,それぞれ抽象的には同種の視察先への視察を内容としていたが,1日目と2日目で同一の場所に赴くということはなく,他に視察内容の点から2日間の視察を連日行う必要性があったことを示す事情を認めるに足りない。そして,遠方に所在する複数の視察先への視察を内容とする調査であればともかく,前提事実のとおり,本件各県内調査の視察先は,いずれも文字どおり群馬県内に所在していたのであるから,別の2期日に,それぞれ日帰りで視察を行うことに何ら支障はなかったし,仮に2日連続で視察を行うにしても,それぞれ日帰りで視察を行うことは可能であったといえる。
以上のとおり,本件各懇談会が実施されたことを除いて検討した場合には,本件各県内調査に際し宿泊する必要性に乏しいということができ,前提事実のとおり,県議会議員や県職員が出張した際に支給される宿泊料が日当と比較して相当高額であることも考慮すると,本件各県内調査に際し宿泊することは,本件各委員会の調査活動についての裁量を逸脱したもので,これを行うべきでなかったといえる。
イ 懇談会実施等の必要性
上記アの検討を踏まえると,結局,被告議員らと県職員らが本件各県内調査に際し宿泊することが是認されるためには,本件各懇談会を実施する公務上の必要性があったことを示す事情があることを要するといえる。
前提事実に証拠(甲30,乙28,30)を併せると,本件各懇談会は,本件各委員会の委員らと県職員である担当部課長らとの初顔合わせの機会として設けられたこと,県職員らのほとんどは,本件各県内調査のうち日中の視察に同行せず,本件各懇談会に出席して宿泊したのみであったこと,本件各懇談会においては,酒食を伴う夕食の席で,特段の議題が定められることなく,被告議員らと県職員らが酒食をともにするなかで,共通の話題として県政問題についても語り合ったことが認められる。
上記認定事実をもとにすると,正式な会議等を行うことなく,本件各懇談会のような酒食を伴う懇談会を行い,そのためだけに,あえて伊香保町や富岡市のホテルに宿泊することに公務上の必要性があったといえれば,本件各懇談会を実施する公務上の必要性があったということになるが,県議会議員らにとっても,県職員らにとっても,そのような公務上の必要性がなかったことは明らかである。
なお,本件各委員会の委員らと県職員である担当部課長らとの初顔合わせの機会が設けられることや,その機会を酒食を伴う懇談会として執り行って,県政問題について語り合うことにより,委員会審議が円滑となるという効果が得られる可能性があることは否定できない。しかしながら,地方自治体内部の者同士による懇談会について,各出席者が自費を投じてこれを催すというならともかく,その費用を公金から支出するだけの必要性はないといわざるを得ない。
ウ 上記ア及びイによれば,結局,本件各県内調査の際に宿泊すること及び本件各懇談会を実施することは,いずれも公務上の必要性を明らかに欠き,これらを行うべきでなかったといえる。
(5) 小括(宿泊料等支出に相当する部分についての被告議員ら,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12の責任及び宿泊料等支出の違法性)
ア 上記(4)によれば,前提事実(5)及び(6)の支出の違法性に関する原告のその余の主張について判断するまでもなく,次のイないしオのとおりとなるというべきである。
イ まず,被告A19を除く被告議員ら(グループ①Aの被告ら,被告A6及びグループ②Aの被告ら)が本件各県内調査に際して宿泊したことは,公務上の必要性を欠き,職務とはいえないから,この被告らは,群馬県から支出を受けた宿泊料(前提事実(5)ア,ウ,(6)アの宿泊料)につき,法律上の原因なくしてこれを利得したものというべきであり,それぞれ,群馬県に対し,受領した宿泊料に相当する金員を不当利得として返還する義務を負う。
ウ また,被告A19が懇談会①に出席したことは,公務上の必要性を欠き,職務とはいえないから,被告A19は,その費用として群馬県から支出された食糧費(前提事実(5)イ参照)によって懇談会①の費用を免れ,法律上の原因なくしてこれを利得したものというべきであり,群馬県に対し,支出された食糧費に相当する金員を不当利得として返還する義務を負う。
エ さらに,県職員らにとっても,懇談会①には公務上の必要性がなかったことが明らかであって,グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12が自らに対して発した旅行命令には重大かつ明白な瑕疵があり,この被告らが懇談会①に出席して宿泊したことは職務とはいえないから,この被告らは,群馬県から支出を受けた宿泊料(前提事実(5)クないしコのうち,宿泊料の部分)につき,法律上の原因なくしてこれを利得したものというべきであって,それぞれ,群馬県に対し,受領した宿泊料に相当する金員を不当利得として返還する義務を負う。なお,原告の主張のうち,この項の被告らに群馬県への損害賠償義務があるとする点については,以上のとおり不当利得返還義務が認められるので,これを判断しない。
オ そして,上記(4)イのとおり,被告議員ら及び県職員らが本件各懇談会に出席すること及び本件各県内調査に際して宿泊することには公務上の必要性がないことが明らかであって,著しく合理性を欠くものであったから,前提事実(5)及び(6)の支出のうち,宿泊料及び食糧費の支出に相当する部分についての支出負担行為(旅行命令)及び支出命令は,全て違法である。
(6) 被告B1,被告B2,被告B3及び被告B4の責任について
ア 被告B1について
前提事実に証拠(甲4,5,乙6,7の1・2)を併せると,被告B1は,県議会事務局長として,本件各県内調査が実施される前に,これらが実施されることと,本件各懇談会の実施も含めた本件各県内調査の内容及び日程を知っていたと認められる。そうすると,被告B1は,本件各懇談会の実施及び本件各県内調査に際して被告議員ら及び県議会事務局職員らが宿泊することが著しく合理性を欠くものであったことを容易に知ることができたといえるから,前提事実(5)ア,ウ,(6)アの支出のうち宿泊料の部分,前提事実(5)イの食糧費の支出,前提事実(5)エ,(6)イの支出全部について,違法な支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止すべき指揮監督上の義務があるにもかかわらず,重過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えたというべきである。
したがって,被告B1は,群馬県に対し,地方自治法243条の2に基づき,上記支出(部分)に相当する損害金を支払う義務を負う(ただし,被告A19を除く被告議員らへの支出(前提事実(5)ア,ウ,(6)アの支出のうち宿泊料の部分)及び被告A19に関しての支出(前提事実(5)イの食糧費の支出)に相当する損害金の支払については,この支出について不当利得返還義務を負う各被告議員らと連帯して責任を負うというべきである。)。
イ 被告B2について
証拠(甲30)によれば,平成11年の時点で,県議会の常任委員会及び特別委員会が実施する県内調査において懇談会を行うことの要否について,県議会の各派世話人会で議論されたことが認められる。また,証拠(甲13)によれば,被告B2は,平成14年4月22日の記者会見において,本件各県内調査を含む県議会の常任委員会及び特別委員会が実施する県内調査において懇談会が行われている問題について,記者の質問に回答し,「議会のほうから,年度の変わり目で意思の疎通を図りたいということから執行部に対して出席要求がありまして,それに応えて出席しているものだと理解しております。」などと述べたことが認められる。
以上の認定事実によれば,被告B2としては,本件各県内調査が実施される前の段階においても,県議会の常任委員会及び特別委員会が実施する県内調査において懇談会が行われ,宿泊も伴うことを知り,又は知るべきであったといえる。そうすると,被告B2は,本件各懇談会の実施及び本件各県内調査に際して県職員ら(県議会事務局職員ら,教育委員会職員ら,企業局職員ら,出先機関(試験場)の長らを除く。)が宿泊することが著しく合理性を欠くものであったことを知ることができたといえるから,前提事実(5)オ,カ,(6)ウの支出全部について,違法な支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止すべき指揮監督上の義務があるにもかかわらず,過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えたというべきである。
したがって,被告B2は,群馬県に対し,民法709条に基づき,上記支出に相当する損害金を支払う義務を負う。
ウ 被告B3について
前提事実に証拠(乙16の1・2)を併せると,被告B3は,教育委員会教育長として,県内調査②が実施される前に,これが実施されることと,懇談会②の実施も含めた県内調査②の日程を知っていたと認められる。そうすると,被告B3は,懇談会②の実施及び県内調査②に際して教育委員会職員らが宿泊することが著しく合理性を欠くものであったことを容易に知ることができたといえるから,前提事実(6)エの支出全部について,違法な支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止べき指揮監督上の義務があるにもかかわらず,重過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えたというべきである。
したがって,被告B3は,群馬県に対し,地方自治法243条の2に基づき,上記支出に相当する損害金を支払う義務を負う。
エ 被告B4について
前提事実に証拠(乙15の1・2)を併せると,被告B4は,群馬県企業管理者として,県内調査①が実施される前に,これが実施されることと,懇談会①の実施も含めた県内調査①の日程を知っていたと認められる。そうすると,被告B4は,懇談会①の実施及び県内調査①に際して企業局職員らが宿泊することが著しく合理性を欠くものであったことを知ることができたといえるから,前提事実(5)キの支出全部について,違法な支出負担行為及び支出命令がされるのを阻止すべき指揮監督上の義務があるにもかかわらず,過失によりその義務を怠り,群馬県に損害を与えたというべきである。
したがって,被告B4は,群馬県に対し,民法709条に基づき,上記支出に相当する損害金を支払う義務を負う。
3 結論
以上の次第で,原告の請求は,
(1) 民法703条に基づき,
ア 被告A19を除く被告議員らに対して,被告B1とそれぞれ連帯して,受領した宿泊料に相当する各1万2500円,
イ 被告A19に対して,被告B1と連帯して,支出された食糧費に相当する1万2000円,
ウ グループ①Eの被告ら,グループ①Fの被告ら及び被告B12に対して,受領した宿泊料に相当する各1万5000円の各不当利得返還金及びこれらに対する請求の日の後であることが明らかな平成14年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,
(2) 地方自治法243条の2に基づき,
ア 被告B1に対して,被告議員らについての各認容部分においてはその者と各連帯して,被告A19を除く被告議員らへ支出された宿泊料(小計22万5000円),被告A19に関して支出された食糧費(1万2000円)及び県議会事務局職員らへ支出された旅費(県内調査①に関し小計4万5000円,県内調査②に関し小計4万4103円)の合計に相当する32万6103円,
イ 被告B3に対して,教育委員会職員らへ支出された宿泊料の合計に相当する19万1113円の各損害賠償金及びこれらに対する各義務違反の日の後であることが明らかな平成14年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,
(3) 民法709条に基づき,
ア 被告B2に対して,県職員ら(県議会事務局職員ら,教育委員会職員ら,企業局職員ら,出先機関(試験場)の長ら及びC企画部長を除く。)へ支出された宿泊料(県内調査①に関し小計72万円,県内調査②に関し小計8万8206円)及びC企画部長に関して支出された食糧費(1万2000円)の合計に相当する82万0206円,
イ 被告B4に対して,企業局職員らへ支出された宿泊料の合計に相当する7万5000円の各損害賠償金及びこれらに対する各義務違反の日の後であることが明らかな平成14年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を群馬県に支払うことを求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却し,仮執行宣言は相当でないので付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 東條宏 裁判官 櫛橋直幸 裁判官 大竹敬人)