前橋地方裁判所 平成3年(わ)337号 判決 1992年3月10日
本店所在地
群馬県前橋市東片貝町八八番地
法人の名称
萩原鉄工株式会社
代表者の住居
群馬県前橋市東片貝町八八番地
代表者氏名
萩原修身
本籍
群馬県前橋市東片貝町八八番地
住居
右同
会社役員
萩原修身
昭和一九年一月一五日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人萩原鉄工株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人萩原修身を懲役一年二月にそれぞれ処する。
被告人萩原修身に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人萩原鉄工株式会社は、群馬県前橋市東片貝町八八番地に本店を置き、重軽量鉄骨の製作並びに組立業等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人萩原修身は、同会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人萩原修身は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上するなどして簿外預金を蓄積するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度における右会社の実際所得金額が三六一四万四一三三円であったのにかかわらず、昭和六二年一二月二六日、群馬県前橋市表町二丁目一六番七号所在の所轄前橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五五一万七一七四円で、これに対する法人税額が一〇八万三四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三六一万七六〇〇円と右申告税額との差額一二五三万四二〇〇円を免れ、
第二 昭和六二年一一月一日から昭和六三年一〇月三一日までの事業年度における右会社の実際所得金額が五一八三万三七一七円であったのにかかわらず、昭和六三年一二月二六日、右前橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七二八万四六九六円で、これに対する法人税額が一七五万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇三八万二九〇〇円と右申告税額との差額一八六二万四七〇〇円を免れ、
第三 昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの事業年度における右会社の実際所得金額が七〇八四万六六一四円であったのにかからわず、平成元年一二月二八日、右前橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一六〇万六七七四円で、これに対する法人税額が三一〇万四二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二七九八万五〇〇〇円と右申告税額との差額二四八八万〇八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(三通)及び大蔵事務官(一七通)に対する各供述調書
一 前橋地方法務局登記官作成の登記簿謄本
一 萩原正子の検察官に対する供述調書
一 中澤三郎(二通)、浜氏龍幸(二通)、浜氏礼子、浅見秀男(二通)、小保方しづ、小鮒勝次、小鮒つたえ、篠田久雄、荻野芳樹、井田弘樹、星野信夫、石原量司、柴﨑宏、堀口邦夫の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、材料仕入高調査書、期首材料棚卸高調査書、期末材料棚卸高調査書、外注費調査書、賃金調査書、減価償却費調査書、期首仕掛工事調査書、期末仕掛工事調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、支払利息割引料調査書、事業税認定損調査書、預金調査書、現金調査書、代表者貸付金調査書
一 前橋税務署長作成の回答書
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六二年度一〇月期のもの)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六三年度一〇月期のもの)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成元年度一〇月期のもの)
(法令の適用)
判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するので、被告人会社については情状に照らして同法一五九条二項を適用し、被告人萩原修身については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金二〇〇〇万円に、被告人萩原修身については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした量刑の範囲内で懲役一年二月にそれぞれ処し、被告人萩原修身に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、架空外注費の計上並びに外注費の繰上及び売上の繰延による利益操作をすることなどにより、所得を秘し、脱税をなしたという事案であるが、そのほ脱所得額は昭和六二年度一〇月期から平成元年一〇月期の三期分について合計一億三四四一万円余であり、税額においては三期合計で五六〇四万円近くをほ脱したものである。そのほ脱所得率は、昭和六二年度一〇月期が約八五パーセント、同六三年度が約八六パーセント、平成元年一〇月期が八四パーセントであり、またほ脱税率は、昭和六二年度一〇月期が約九二パーセント、同六三年度が約九一パーセント、平成元年一〇月期が八九パーセントであり、ほ脱所得率、ほ脱税率が著しく高率である。被告人らの刑事責任は重いものといえる。
しかしながら、本件脱税は被告人萩原鉄工株式会社の経営安定を主眼とするものであり、本件脱税で形成された資産は遊興費等にあてられることなく大部分が預金として残っており、消費されたものについても、その使途は保険料支払や親族の治療等にあてられており、また今回の摘発によって被告人らは修正申告をし、それに基づく納税を完了していること、被告人らは結局のところ今回脱税によってなんら見るべき資産形成をすることもなく、被告人萩原修身は今回の犯行を深く反省していると認められることなど被告人らに有利に斟酌すべき諸般の事情も認められるので、主文のとおり量刑することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 沼里豊滋)