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前橋地方裁判所 平成6年(ワ)391号 判決 1995年1月25日

原告

三興繊維株式会社

右代表者代表取締役

飯島勝政

右訴訟代理人弁護士

神谷保夫

被告

株式会社商工ファンド

右代表者代表取締役

大島健伸

主文

関塚メリヤス株式会社と被告との間における別紙債権目録記載の債権の平成五年一二月二七日付け譲渡契約を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

一  原告は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

1  原告は、関塚メリヤス株式会社に対し、平成五年一二月三〇日当時、繊維製品売買によって生じた約束手形金債権一八七〇万七五一二円売買代金三二二万八九二二円との合計二一九三万六四三四円の債権を有していた。

2  関塚メリヤスは、当時、三共生興株式会社に対し、別紙債権目録記載の債権を有していたが、平成五年一二月三〇日、被告に対し、右債権を譲渡した。

3  関塚メリヤスは、平成五年一二月二五日第一回目、平成六年一月五日第二回目の手形不渡事故を起こし、銀行取引停止処分を受け、事実上倒産したものであって、右2の債権譲渡をした平成五年一二月二七日当時には、右の債権のほかにはみるべき資産がなかった。

4  関塚メリヤスは、前記2の債権譲渡の当時、仮に右債権を他に譲渡すれば、債権者である原告を害することとなることを知っていた。

5  よって、原告は、民法四二四条所定の債権者取消権に基づき、前記2の債権譲渡契約の取消しを求める。

二  被告は、適式の呼出しを受けながら答弁書その他の準備書面を提出しないから請求の原因事実を自白したものとみなされるところ、同事実に基づけば、原告の請求は理由がある。

なお、本件については、請求棄却の判決を求め、請求の原因事実の一部についてこれを争う旨が記載された被告代理人支配人矢嶌茂雄作成名義の答弁書が提出されているが、これをもって、被告が請求の原因事実を争ったものとみることはできない。その理由は、次のとおりである。

本件記録中の被告の登記簿謄本によれば、被告は商業手形の割引業務及び資金の貸付業務等を営業の目的とする会社であり、右矢嶌茂雄を含め一九名の者が支配人として登記されていることが認められる。

ところで、支配人は、営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者をいい(商法三八条一項)、一般には、本店の営業部長あるいは支店の支店長などがこれに当たるものと解されているが、会社の一営業所に一九名もの本店営業部長あるいは支店長に相当する商業使用人が置かれるということは通常はあり得ないことであると考えられる。

そうすると、このことと前記のような被告の営業目的に照らせば、被告が同一の営業所に一九名もの支配人を置く登記手続をしたのは、自己の営業が訴訟によって債権を回収する等の事案の多いことから、商法三八条一項が支配人に裁判上の代理権を付与していることに着目し、実質上は支配人でない単なる従業員についてこれを支配人とする旨の登記手続をし、右の従業員に訴訟行為を行わせることを目的として行ったものであるとみるのが相当である。

しかしながら、民訴法七九条一項によれば、法令によって裁判上の行為をすることのできる代理人のほかは弁護士でなければ訴訟代理人となることができないものとされているところ、被告の右の措置は、同項の規定の趣旨を潜脱し、弁護士でない者に裁判上の行為をさせることを目的として、本来は支配人ではなく裁判上の行為をすることができない者についてこれを支配人とする旨の登記手続をしたものであるから、右の一九名を支配人とする登記は、同項の適用の関係においては無効であり、右の登記された支配人一九名は、同項所定の「法令ニ依リテ裁判上ノ行為ヲ為スコトヲ得ル代理人」には当たらないものといわなければならない。

右によれば、本件の矢嶌茂雄は、民訴法七九条一項所定の「法令ニ依リテ裁判上ノ行為ヲ為スコトヲ得ル代理人」ではなく、答弁書の陳述等の裁判上の行為をすることができない者であるから、同人作成名義の答弁書について民訴法一三八条の規定を適用し、同人がこれを陳述したものとみなした上、請求の原因事実を争ったものとみることはできない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官山口忍)

別紙債権目録

関塚メリヤス株式会社の三共生興株式会社に対する売掛代金債権九八〇万四〇二七円(弁済期・平成六年五月三一日)

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