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前橋地方裁判所 平成7年(わ)556号 判決 1996年2月20日

本店所在地

群馬県新田郡新田町大字赤堀五二六番地の一

協和パーツ株式会社

(右代表者代表取締役 白濱菊男)

本店所在地

三重県上野市小田町二三〇番地の一

キンキパーツ株式会社

(右代表者代表取締役 中島清)

本籍

群馬県太田市熊野町二二番地

住居

同市熊野町二二番三号

会社役員

白濱菊男

昭和一一年一二月一二日生

本籍

群馬県館林市西本町三番

住居

同県邑楽郡大泉町大字古氷一〇七番地の一七、久保田ハイツ三〇七号

会社役員

中島清

昭和二六年四月三〇日生

右四名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官畔柳章裕並びに私選弁護人根本伯眞及び鈴木武志各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人協和パーツ株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人キンキパーツ株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人白濱菊男を判示第一の一及び判示第二の一の罪について懲役八月に、判示第一の二及び第二の二の罪について懲役一年六月に、被告人中島清を懲役一年六月にそれぞれ処する。

未決勾留日数中、被告人白濱菊男に対しては六〇日を判示第一の二及び第二の二の罪の刑に、被告人中島清に対しては三〇日をそれぞれの刑に算入する。

被告人中島清に対し、この裁判確定の日から五年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人協和パーツ株式会社は、群馬県新田郡新田町大字赤堀五二六番地の一に本店を置き、労働者派遣業等を営む資本金一、四〇〇万円の株式会社であり、被告人白濱菊男は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの、被告人中島清は、同会社の取締役総務部長としてその経理全般を管理しているものであるが、被告人白濱及び同中島は共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、雑収入を除外し、支払手数料を水増し計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

一  平成二年五月一日から同三年四月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得額が五五、三五六、五一六円であり、これに対する法人税額が一九、〇一八、三〇〇円であったにもかかわらず、同三年七月一日、同県館林市仲町一一番一二号所轄館林税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が三二、一六〇、五九九円で、これに対する法人税額はなく、還付を受ける所得税額が九八〇、一四九円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額に還付を受けた所得税額を加えた一九、九九八、四〇〇円を免れ、

二  平成三年五月一日から同四年四月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得額が二〇七、三一四、九〇〇円であり、これに対する法人税額が七五、三七四、一〇〇円であったにもかかわらず、同四年六月三〇日、前記館林税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二〇、四四三、五一七円であり、これに対する法人税額が五、二九七、五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額七〇、〇七六、六〇〇円を免れ、

第二  被告人キンキパーツ株式会社は、三重県上野市小田町二三〇番地の一に本店を置き、労働者派遣業を営む資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人白濱菊男は、同会社の実質的経営者としてその業務全般を統括しているもの、被告人中島清は、同会社の代表取締役としてその経理全般を管理しているものであるが、被告人白濱及び同中島は、共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、雑収入を除外し、外注費を水増し計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

一  平成二年六月一日から同三年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が四三、八五二、四三一円であり、これに対する法人税額が一五、六四六、八〇〇円であったにもかかわらず、同三年七月二五日、同市緑ヶ丘本町一六八〇番地所轄上野税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が三、九一五、五五二円で、これに対する法人税額はなく、還付を受ける所得税額が三七、六四七円である旨の内容虚偽の法人税確定申告署を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額に還付を受けた所得税額を加えた一五、六八四、四〇〇円を免れ、

二  平成三年六月一日から同四年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得額が一二九、六二三、六一〇円であり、これに対する法人税額が四七、八一一、六〇〇円であったにもかかわらず、同四年七月二八日、前記上野税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一八、二二一、七九二円であり、これに対する法人税額が六、〇三五、八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四一、七七五、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人白濱の検察官に対する平成七年一一月五日付、同月七日付、同月一〇日付、同月一二日付各供述調書

一  被告人中島の検察官に対する同年一一月八日付、同月一三日付各供述調書

一  大屋義則、川島紀三雄、白濱昌伸、白濱冴子及び牧野雄二(二通)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の「報告書(ブラジルルートのコミッション金額について)」と題する書面

判示第一の事実について

一  被告人白濱の検察官に対する平成七年一一月六日付、同月九日付各供述調書

一  被告人中島の検察官に対する平成七年一一月九日付、同月一〇日付(二通)、同月一一日付(一二〇丁のもの)各供述調書

一  山口典子、岩田こと矢島なか江、中田真弓及び深田幸雄の検察官に対する各供述調書

一  小林勝子、遠藤アルフォンソ、能瀬薫及び能瀬詠子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の給料手当調査書(作成者三谷孝之)、福利厚生費調査書(作成者小林正博)、支払手数料調査書(作成者三谷孝之)、接待交際費調査書(作成者三谷孝之)、旅費交通費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書(作成者須藤和英)、雑損失調査書、道府県民税利子割額調査書、交際費等の損失不算入額調査書、事業税認定損調査書(作成者三谷孝之)、その他所得(犯則損金)調査書

一  検察事務官作成の「協和パーツの福利厚生費の金額異動について」、「支払手数料の金額異動について」、「雑収入の金額異動について」、「雑損失調査書の訂正について」、「事業税認定損の金額異動について」、「捜査報告書」(館林税務署の所在地についてのもの)と題する各捜査報告書

一  館林税務署長作成の「回答書」と題する書面

一  前橋地方法務局太田支局登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一の一及び判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の平成七年一一月一三日付査察官報告書

判示第二の事実全部について

一  被告人白濱の検察官に対する平成七年一一月一一日付供述調書

一  被告人中島の検察官に対する平成七年一一月一一日付(八九丁のもの)、同月一二日付各供述調書

一  界外房美こと松田房美の検察官に対する供述調書

一  界外房美(二通)、松田巳之、後藤正、ジョン・ミチオ・ヤマダ、松岡オサム及び吉田傑(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の外注費調査書、給料手当調査書(作成者小林正博)、福利厚生費調査書(作成者酒井廣至)、接待交際費調査書(作成者酒井廣至)、支払手数料調査書(作成者酒井廣至)、雑収入調査書(作成者酒井廣至)、交際費損金不算入額調査書、事業税認定損調査書(作成者酒井廣至)

一  検察事務官作成の「キンキパーツの福利厚生費の金額異動について」、「捜査報告書」(上野税務署の所在地についてのもの)と題する各捜査報告書

一  津地方法務局上野支局登記官作成の商業登記簿謄本

判示第二の一の事実について

一  上野税務署長作成の「証明書」と題する書面二通

(確定裁判)

被告人白濱菊男は、平成四年五月一九日前橋地方裁判所で法人税法違反の罪により、懲役一年六月(三年間執行猶予)に処せられ、右裁判は同年六月三日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書及び判決書謄本によって認める。

(法令の適用)

被告人協和パーツ株式会社の判示第一及び被告人キンキパーツ株式会社の判示第二の各所為は、法人税法一六四条一項、一五九条に該当するところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、被告人協和パーツの判示第一及びキンキパーツの判示第二の各所為はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により罰金額を合算し、各所定金額の範囲内で、被告人協和パーツ株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人キンキパーツ株式会社を罰金二〇〇〇万円にそれぞれ処し、被告人白濱菊男の判示各所為は、それぞれ刑法六〇条、法人税法一五九条に該当するところ、各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、刑法四五条前段及び後段によれば、被告人白濱の判示第一の一及び判示第二の一と前記確定裁判のあった罪とは併合罪の関係にあるので、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示第一の一及び判示第二の二の各罪について更に処断することとし、なお右の各罪も同法四五条前段により併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、また判示第一の二、第二の二の各罪も同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をし、それぞれの刑期の範囲内で、被告人白濱を判示第一の一及び判示第二の一の罪について懲役八月に、判示第一の二及び第二の二の罪について懲役一年六月に処し、被告人中島清の判示各所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条に該当するところ、所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人中島を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して各未決勾留日数中、被告人白濱に対し、六〇日を判示第一の二及び第二の二の罪の刑に、被告人中島に対し、三〇日をその刑にそれぞれ算入することとし、被告人中島に対しては情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

今日、我が国の財政はそのほとんどを国民の税金に頼っていることは周知のとおりであって、税金の適正な徴収は国民全体の関心事であるところ、これを逃れようとする脱税行為は、それ自体税収の減少をもたらし、国家にとって有害であるのみならず、誠実な納税者に不公平感を抱かせ、その納税意欲を喪失させることになり、国家財政の根幹をゆるがしかねないものであるから、かかる行為に関しては厳しい非難は免れえないところである。被告人らの本件脱税は、計画的かつ長期間にわたり法人税の支払いを免れたものである上、その脱税額も両被告会社合計で一億四七五三万五二〇〇円、ほ脱税率も九〇パーセントを超える高率にのぼるものであり、その犯情は悪質である。特に、被告人白濱は、平成二年九月に被告協和パーツに対して税務当局による強制調査が入り、同社の脱税が発覚した直後から、平成四年右脱税により当庁において有罪判決を受けるまでの間においてさえも公判廷では、反省の情を示し、不再犯を誓いながら、その裏では、何のためらいもなく、脱税を繰り返し、しかも脱税行為により取得した金員の一部を自己個人のために消費して私腹を肥やしていたものであって、かかる被告人白濱の行為は、税務調査や捜査、裁判を愚弄する極めて悪質な犯行というべきである。

従って、被告人白濱が、公判廷において一応反省の態度を示し、今後は経営から退くことを約束していること、糖尿病を患っており、体調も良くないこと等の事情を考慮しても主文程度の実刑はやむを得ないところである。

一方、被告人中島についても高額の役員報酬を得ているなど悪質な面もあるが、中島の本件脱税行為は雇用主である白濱の指示によるものであって脱税分から直接は利得していない等を考慮して、主文のとおり刑責を明らかにした上でその刑の執行を猶予するのが相当と思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人協和パーツ株式会社・罰金三〇〇〇万円、被告人キンキパーツ株式会社・罰金二〇〇〇万円、被告人白濱菊男・判示第一の一及び判示第二の一懲役一年判示第一の二及び判示第二の二懲役二年、被告人中島清・懲役一年六月)

(裁判官 廣瀬健二)

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