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前橋地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 2002年9月11日

原告

同訴訟代理人弁護士

上野操

伊藤嘉健

椎野秀之

被告

藤岡税務署長事務承継者

高崎税務署長 瀬下武夫

同指定代理人

茂木善樹

磯野宏

金子正人

大澤栄二

栗原要

町田道昭

鈴木茂夫

櫻井保晴

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  藤岡税務署長が原告に対し平成7年3月6日付でなした下記各処分をいずれも取り消す。

(1)  昭和62年分所得税の更正処分のうち、総所得金額1335万9644円、納付すべき税額339万2500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(2)  昭和63年分所得税の更正処分のうち、総所得金額1654万4713円、納付すべき税額440万5600円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(3)  平成元年分所得税の更正処分のうち、総所得金額1750万3938円、納付すべき税額477万2000円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(4)  平成2年分所得税の更正処分のうち、総所得金額1912万5865円、納付すべき税額542万0800円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(5)  平成3年分所得税の更正処分のうち、総所得金額2482万3654円、納付すべき税額809万4000円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(6)  平成4年分所得税の更正処分のうち、総所得金額2649万3107円、納付すべき税額889万5500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(7)  平成5年分所得税の更正処分のうち、総所得金額2523万8561円、納付すべき税額829万8500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

2  藤岡税務署長が原告に対し平成7年3月6日付でなした所得税の青色申告の承認取消処分を取り消す。

3  藤岡税務署長が原告に対し平成7年3月6日付でなした下記各処分をいずれも取り消す。

(1)  平成2年分消費税の更正処分のうち、普通乗用自動車分に係る課税標準額3859万7000円、その他の課税分に係る課税標準額10億7194万3000円、納付すべき税額258万5500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(2)  平成3年分消費税の更正処分のうち、普通乗用自動車分に係る課税標準額4742万5000円、その他の課税分に係る課税標準額13億3375万8000円、納付すべき税額193万8500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(3)  平成4年分消費税の更正処分のうち、普通乗用自動車分に係る課税標準額1518万3000円、その他の課税分に係る課税標準額15億8353万1000円、納付すべき税額343万9700円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

(4)  平成5年分消費税の更正処分のうち、普通乗用自動車分に係る課税標準額3059万8000円、その他の課税分に係る課税標準額15億2917万3000円、納付すべき税額609万3200円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分

4  藤岡税務署長が原告に対し平成8年2月8日付でなした平成6年分の所得税の更正処分のうち、純損失の金額1億5840万5559円を下回る部分を取り消す。

5  藤岡税務署長が原告に対し平成8年5月28日付でなした平成7年分の所得税の更正処分のうち、純損失の繰越控除額294万0817円を下回る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  本件は、原告が、①別紙処分目録1・(1)ないし(3)記載の各処分については、調査手続が違法で家族が行った株式の取引を原告の取引とした誤りがあるから処分は違法であると、②同目録2記載の処分については、経営の実態は大幅な赤字で各帳簿書類において所得隠しや財産の隠蔽をした事実はなく処分の理由付記にも不備があり、また仮に所得隠しや財産の隠蔽に当たる行為があったとしてもそれによる取消は権限の濫用に当たるから処分は違法であると、③同目録1・(4)ないし(7)記載の各処分については、売上金額と仕入れ金額を調整し経営の実態に近づける申告をしたもので、車両売上等の隠蔽、仕入れや棚卸し等の操作を行った事実はないから処分は違法であると、④同目録3記載の処分については、車両売上や工賃収入、車両仕入れの隠蔽等を行った事実はないのにこの事実があるとした誤りがあるから処分は違法であると、⑤同目録4及び5記載の各処分については、青色申告の承認取消処分は違法であるから、青色申告の承認が取り消されたことに基づく各処分も違法であると各主張して、処分を行った藤岡税務署長の事務承継者である被告に対し各処分の取消を求めた事案である。

2  争いのない事実等(証拠により認定した事実は末尾にその証拠を掲げた。)

(1)  原告は、藤岡市本郷外同市内の5か所においてA商会の名称で中古自動車販売業等を営む者である。

乙(以下「乙」という。)は原告の妻、丙(以下「丙」という。)は原告の長男、丁(以下「丁」という。)は原告の次男、戊(以下「戊」という。)は長男丙の妻、B(以下「B」という。)は次男丁の妻である(以下、この5名を「乙ら」といい、原告と乙らを合わせて「原告ら」という。)

(2)  別表につき、以下の事実は当事者間に争いがない。

ア 別表1につき、昭和62年から平成元年分までの事業所得(申告所得)、所得控除及び申告納税額、平成2年から平成6年分までの事業所得のうち申告所得額、所得控除及び申告納税額、平成7年分の不動産所得のうち申告所得額、所得控除及び申告納税額

イ 別表2の1につき、課税標準額の内普通乗用自動車分(6.0%分)及び普通乗用自動車分(4.5%分)及びその他課税分のうちの申告金額、申告納税額

ウ 別表10の2及び3の原告記帳額等、別表11から13の原告記帳額

エ 別表14の計算

(3)  藤岡税務署長は、別紙処分目録記載の各処分を行った(各処分の内容は甲1ないし14により認定、以下、同目録1・(1)から(3)記載の各処分を「本件(1)から(3)の各処分」と、同目録1・(4)から(7)記載の各処分を「本件(4)から(7)の各処分」と、同目録2記載の処分を「本件青色取消処分」と、同目録3記載の各処分を「本件3の各処分」と、同目録4記載の処分を「本件4の処分」と、同目録5記載の各処分を「本件5の各処分」という。)。

なお、別紙処分目録1・(2)記載の処分は、審査請求に基づく裁決によって、本税の額83万4600円、重加算税の額29万4000円の各部分が取り消されている(乙206)。

3  争点と当事者の主張

(1)  本件(1)から(3)の各処分の適法性

(被告の主張)

ア 原告を調査した経緯とその適法性

(ア) 関東信越国税局(以下単に「国税局」という。)課税第一部資料調査課において、原告の確定申告書等を検討したところ、原告は、従前からあった展示場(藤岡市本郷、調査時では「パート1」と称され、同所には原告名義の建物があり、丙が平成6年12月18日から居住している。)に加え、昭和61年に、パート5(同市本郷)と新町営業所(同市立石、同所には丁が居住している。)を、同63年にパート3(同市藤岡宇山崎)を、平成元年にパート2(同市神田、同所には原告の居宅がある。)を各開設するほか、事業用土地等を取得しており、原告の申告所得金額が実態を反映していないのではないかとの疑問が生じ、また、本件調査の前に行われた税務調査によると、原告が有価証券売買を手広く行っている旨の資料情報があり、引き続いて原告が有価証券売買を行っていた場合には、その実態を解明する必要がある等から、原告の所得税及び消費税の税務調査を実施することとした(以下、この調査を「本件調査」という。)。

(イ) 平成6年10月5日における主な調査

a 原告の販売先にはサラリーマン等の一般消費者が多数含まれ、現金取引が主体であり、初回の調査で営業実態や帳簿書類の保存の現況等を効率的に把握する必要があったことから、平成6年10月5日、事前連絡をせずに国税局の6名の係官は、パート1、パート2、パート3及び新町営業所等へ分担して臨場した。

b 原告は、パート2において係官の本件調査に応じ、原告の顧問税理士C(以下「C税理士」という。)に税務調査がある旨の電話連絡をし、同税理士が到着するまでの間、係官の事業概況の聴取に対し、次の説明を行った。

(a) 各展示場等に来場した客の注文に合った車種を各展示場から探し出し、売買交渉はパート1で行っていること

(b) 仕入は、主にオークションで原告自身が落札するという方法で行い、走行既距離の短いものや修理、整備等の負担が見込まれない優良中古車は、価格が高くなっても落札することとしていること

(c) 平成5年からパソコンで在庫車の管理を行っているが、調査日現在では、400台から500台の在庫車を抱え、その管理は十分とはいえないこと

(d) 帳簿等の記帳事務は、原告の長男の妻戊が主に行っていること

c C税理士がパート2に到着した後、係官が、原告の同意を得て帳簿書類等の確認を行っていたところ、乙がD新聞社発行の会社情報を手提げ袋に入れて移動したため、係官は同人の同意を得てその現物を確認した。すると、前記複数の会社情報の裏表紙には、E証券前橋支店やF証券本庄支店(以下「E証券」、「F証券」という。)の記載があった。

係官は、前記各証券会社を通じた有価証券の取引が想定されたため、証券会社名やその所在地、電話番号等を控え始めると、原告は、「そこまでつかまれたらしょうがない。株の売買はやっていた。白状したのだからもういいでしょう。」と述べ、更に係官が原告の所持する有価証券の現物確認を行いたい旨申し入れると、原告は、再度「株を白状したのだからもう続ける必要はないでしょう。」といって有価証券売買に関する調査を避けようとした。

d そこで係官は、有価証券の取引明細書の所在を質問し、その譲渡所得については、売買の株数や回数の非課税基準があること、税法改正により平成元年4月1日以後の譲渡については、源泉分離課税を選択した場合、申告の必要がなくなった等の説明を行った。

これに対し原告は、「以前、名義書換を行ったところ、配当の関係で税務署に書類が回り、税務調査が行われ、それに懲りて記録に残るものは全て処分し、名義書換は一切行っていない。」と述べ、取引している証券会社は、前述の証券会社2社のほか、G証券高崎支店(以下「G証券」という。)のみである旨説明した(なお、本件調査の結果では、取得株式の名義書換は一切なされていないことが判明している。)。

e また、証券会社3社を通じた株取引は原告が行ったのかとの係官の質問に、原告が「そうです。」と答述したことから、係官がその旨を文章にしてほしい旨依頼したところ、原告は、「E証券及F証券、Gの凡ての株の取引は私がやって居りました」、「追伸 これ以外の取引証券はありません」(原文のまま)と記載して、署名し、指印を押した国税局長あての念書を提出した。

f 係官は、原告の同意を得て平成3年分から同5年分の中古車販売等に関する帳簿書類等を借用してパート2を辞去した。

(ウ) 平成6年10月6日における主な調査

a 平成6年10月6日の原告の自宅における係官と原告との応接状況は、次のとおりである。

(a) 係官の有価証券売買に関する質問に対し、原告は、G、F及びEの各証券会社以外との取引は過去にもないとの答述をし、「3社以外にはない。自分の首をかけてもよい。」と明言した。

(b) また、係官の顧客勘定元帳の写しを各証券会社から取り寄せてもらいたい旨の要請に対し、原告は、「あんた、それでも男か」とやや声を荒らげ、「株券と信用保証金を併せて約2億円あるので、金額(雑所得の金額及び税額の意味と推察される。)はC先生と相談してその範囲内でやってくれ、残れば営業資金に回せる。」と述べ、顧客勘定元帳の取り寄せ要請には明確な答述を行わなかった。

b また、前同日、パート1で係官と面接した原告の長男丙は、係官に対し「株取引は一切父がやっている。自分は分からないから親父に聞いてくれ。」と述べている。

(エ) 平成6年10月14日における主な調査

a 係官は、原告から借用した帳簿書類等を調査したところ、売上の過少計上や仕入の過大計上の存在が判明し、その疑問を原告に確認するため、平成6年10月14日、原告の自宅に臨場し、原告及び原告の妻乙と面接した。

b 係官の前記疑問点に対し、原告は、売上過少計上や仕入過大計上の事実を認め、次の答述を行った。

(a) 売上帳と現金出納帳は、戊が当初鉛筆で記入し、2ないし3か月後に原告が金額を見直し、ボールペンで書き直しているが、その際、売上の一部を減らしたり、現金買取車の仕入金額を増やしていたこと

(b) 売上減算や仕入水増しを行った理由は、2年以上の長期在庫となった中古車の評価損を出すため、また、決算書(損益計算書)の差益率(売買損益率)を概ね15パーセントとするためであったこと

(c) 棚卸資産の評価方法について、低価法(所得税法施行令99条2項参照)の申請を行ったことはないこと

(d) 実地棚卸は、各年分とも実施していなかったこと

(e) 平成5年分においては、決算調整の経緯を記載した書類を見れば、原告が正当額を修正した金額は判明するが、平成4年分以前の書類は保存していないから修正した金額は不明であること(なお、バインダーに綴られた原告記載の決算調整のメモには、売上除外、仕入水増し、工賃収入除外等の記載があった。)

c すなわち、原告の説明によって、各年分中の2ないし3か月毎に売上過少や仕入過大計上を行い、更に各年分の決算調整と称して売上除外や仕入水増し等を行っていたことが判明した。

(オ) 平成6年11月1日における主な調査

a 係官が、平成6年11月1日、原告の自宅に臨場したところ、原告及び乙のほか、原告の実弟であるH税理士(公認会計士、以下「H税理士」という。)が調査に立会い、同税理士は、今後調査等の連絡は全て同税理士に行ってもらいたいと係官に要請し、その時点までの調査状況の説明を求めた。

b そこで、係官が売上除外と仕入水増し等を説明したところ、同税理士は、「今日初めて聞く話もありますし、書類を検討してみないと何ともいえません。」と応答した。

c 平成2年分以前についても、同3年分ないし5年分と同様の売上除外や仕入水増し等の事実が想定されたことから、係官が原告に平成2年分以前の書類を探すよう要請したところ、原告は、「廃棄してしまったと思う。」と述べた。

平成2年分以前も平成3年分以降と原告の業種、業態に変更がないことから、係官が、平成2年分以前については金額が不明ではあるが、平成5年分等と同様の行為(売上除外と仕入水増し等)を行っていたかとの質問に、原告は、「長期在庫の評価損を出すために行ったが、以前はそれほどの金額はやっていない。」と述べたところ、H税理士は、「証拠もないのに誘導尋問みたいなことはやめてくれ。」と発言し、原告の答述を遮ることとなった。

d また、原告は、取引のあった証券会社は前述の3社のほか、過去にはI証券高崎支店及びe証券本店(東京都中央区日本橋)があった旨を申し立てた。

なお、係官は、調査によって、K証券本店(以下「K証券」という。)の原告、乙及び丙、また、新潟県長岡市のL証券長岡支店(以下「L証券」という。)の前記乙名義の各取引を把握した。

(カ) 平成6年11月9日における主な調査

a 平成6年11月9日、係官がパート1に赴き、原告の平成2年分以前の売上関係書類、領収証控及び仕入関係領収証綴り等の書類の提示を依頼したところ、応対した原告の長男の妻戊は、保存書類はパート1以外には置いてなく、探したが、領収証控及び仕入関係領収証は見当たらず、廃棄したものと思うと申し立てた。

b そこで係官は、平成2年分については、原告が保存していた一部の売上関係書類等から調査を進めることとした。

(キ) 平成6年11月11日における主な調査

a 平成6年11月11日、係官が原告から借用した書類等の返還にパート1へ赴いたところ、原告が在所し、原告から「おちおち眠れないので、早急に調査を終わらせてほしい。」との要請があった。

b また、有価証券取引について、係官からその売買利益の概算額の説明を受けた原告は、「63年から元年の株の利益が億単位であったとは思ってもみなかった。gで大儲けをしたのが癖になり、その分を再投資して結果的には殆どなくなってしまった。調査額については弟(H税理士)とよく検討してほしい。納税は資産を処分しても納付するつもりである。」と係官に説明した。

c なお、前記g株は、原告が昭和62年から、原告らの各名義で現物及び信用取引を行っていたものであり、原告は、有価証券売却益(雑所得)に係る納税を行いたい旨明言し、更にその取引が各名義人に帰属する旨の申立てはしなかった。

(ク) 平成6年11月18日における主な調査

a 係官は、事業所得(中古車販売等に係る所得)及び雑所得(有価証券売買に係る所得)の調査の概要の説明のため、平成6年11月18日、原告の自宅に赴き、原告及びH税理士、M公認会計士(以下「M公認会計士」という。)と面接し、前記調査概要を説明した。

b 前記説明に対し、H税理士は、それ以前の原告の答述があるにもかかわらず、「株式売買益の全てを原告の所得として課税しようとしているが、口座開設当初からそれぞれの名義人が資金を出しており、各個人の取引である。あなた方は、どうして乙、丙、丁、B名義の取引を本人のものとしているのか。資金源泉を調べたのか。昭和62年分から平成元年分のものが課税できるのか。取引回数等を調べたのか。」等と係官を詰問した。

また、原告は、「あの時の念書は、事前の調査連絡がなく、耳が遠い私に強制的に書かせたものである。」と述べた。

c 前記詰問等に対し、係官は、原告の行った事実と税法上の取扱いを説明した。また、係官は、原告には隠ぺい又は仮装の事実(所得税法150条1項3号該当の青色申告の承認の取消し事由)があることから、青色取消処分を検討していることを原告に伝えた。

(ケ) 平成6年12月20日における主な調査

a 係官は、平成6年12月20日、H税理士及びM公認会計士と国税局にて面接した。H税理士は、平成3年分から同5年分の営業(事業)所得について、係官提示の金額どおりであると述べた後、その中の不明な2点(平成4年分の架空売上の内訳、平成5年分の平成4年分架空売上に係る期末在庫の内訳)を問いただしたため、係官はその内訳を説明した。

b また、有価証券取引の帰属者の判断に関し、係官が昭和60年6月にG証券の4口座が丙名義1本に集約された事実も、名義のいかんにかかわらず原告本人に帰属する取引理由の1つである旨説明すると、H税理士は、「取引手数料簡素化(節約の意味か)であり、今ではこのような取引は許されないが、当時はそれでもよかった。(原告の)子供たちの株をまとめ甲(原告)が管理委託していただけであって、甲のもの(取引)ではない。」と自己の見解を述べた。

c さらに、各名義人の取引とすれば、原告が取引損益や資金の分配を行っていることが想定されたことから、係官が利益又は損失の分配、負担の事実があるか、あれば教えてほしいと要請したところ、H税理士は「調べてみなければ分からない。」と答え、続けて係官が名義人間の株券の移動事実等を示し、それも原告に帰属する理由の1つであると説明すると、同税理士は、「その事実はあるが、(原告以外の各名義人の取引は)甲のものではない。]と答え、更に「何をいっても水掛け論であり、各人が出資して取引をしている。素直なものの見方を取っていない。」等と係官の調査から導き出した見解を批判した。

なお、同税理士は、具体的かつ客観的な証拠を示して有価証券取引が各名義人に帰属する取引であるとの説明は行わず、同取引の原告側の主張が受け入れられない限り、修正申告は行わない旨明言した。

(コ) 平成7年1月27日における主な調査

a 係官は、平成7年1月27日、H税理士及びM公認会計士と国税局にて面接した。H税理士は、前回の調査時等と同様に有価証券取引の帰属者認定の根拠を係官に問いただし、係官はそれに応じた。

b 係官が各名義人の取引のみを抽出したとしても、各名義人には確定申告の必要があった旨説明すると、H税理士は、「何ともいえないが、本人(原告)は税に関して無知で知らなかったと思う。」と述べ、また、収益等のメモや利益の配分事実の有無の質問には、「ないと聞いている。また、分配するような売買益は、結果的には株の損失に消えてしまった。」と答述した。

c なお、同税理士が平成6年12月20日に提出した株式取引の各名義人の資金出所について、同税理士は、各名義人から口頭で聞き取ったものである旨述べた。

(サ) 平成7年2月14日における主な調査

平成7年2月14日、係官は、原告自宅においてH税理士及びM公認会計士と面接したが(原告本人は不在であった。)、有価証券取引の帰属者等の問題について、互いに従前の見解を述べるだけで、何らの進展もなかった。

なお、当日、H税理士から、原告の確定申告に記載された事業所得における減価償却費計算の誤り(別表14)について具体的な説明があった。

(シ) 本件調査の適法性

以上のとおりであり、本件調査は、所得税法234条及び消費税法62条に従って適正に行われているから適法である。

イ 本件調査により判明した事実

(ア) 本件調査の結果、原告らの名義で、別表4,5の有価証券取引(以下「本件有価証券取引」という。)が行われていることが判明した。なお、原告は、当初は本件有価証券取引が行われたこと自体は認めていたのに、その後その認否を不知と改めたが、この認否の変更は自白の撤回に当たるから、被告はこれに異議をのべる。

(イ) 本件有価証券取引の名義人は原告らに分散されているが、以下の理由により本件有価証券取引は原告が行った取引でその所得は原告に帰属していたことを推認することができる。

a 原告は、係官に対し、本件調査の初日の平成6年10月5日、「そこまでつかまれたのならしょうがない。株の売買はやっていた。」、「以前、名義書換を行ったところ、配当の関係で税務署に書類が回り、税務調査が行われ、それに懲りて記録に残るものは全て処分し、名義書換は一切行っていない。」と述べ、また、係官の有価証券取引の非課税基準の説明の後、「E証券及F証券、Gの凡ての株の取引は私がやって居りました。これ以外の取引証券(会社)はありません」と記載した国税局長あての念書を提出した。他方、丙は、「株取引は一切父がやっている。自分は分からないから親父に聞いてくれ。」と述べている。

さらに、原告は、係官に対し、平成6年10月6日に「株券と信用保証金を併せて約2億円あるので、金額(雑所得の金額及び税額の意味と推察される。)はC先生と相談してその範囲内でやってくれ、残れば営業資金に回せる。」と述べ、本件有価証券取引から生じた所得の申告と納税を申し出ている。

b 原告らのK証券との取引は、藤岡税務署が本件調査により把握できたものであるが、昭和62年ないし平成元年3月までの各証券会社とその取引名義人をみると、原告はK証券とのみ取引があるだけで、F証券及びG証券の各証券会社との取引は原告の妻乙らの名義で行われている(しかし、念書には、F証券とG証券における取引は原告がやっていたと記載されている。)。

c 本件有価証券取引において、取引名義人が原告らに分散されたうえ、原告ら各名義人間で資金及び株券の移動が頻繁に行われているが(別表6.7.9)、その貸借や精算、返済等を証する証拠は存せず、H税理士も「ないと聞いている。」と答述し、原告以外の各名義人の株券や資金を原告が管理していたという証拠も何ら存しない。

(ウ) また、前記各事実から、原告に、各証券会社が配当所得に関する支払調書を税務署に提出すること(所得税法225条1項2号、当該調書は支払者が税務署長に提出)を防止したり、自己名義による有価証券取引を隠匿して、税務署に本件有価証券取引の実態を把握させない意図があったことが認められる。したがって、原告が、有価証券取引の非課税基準を熟知し、本件有価証券取引から生じた所得が課税対象となることを知りながら、その取引名義を分散し、所得税申告をしなかったことは明らかで、原告は、本件有価証券取引から生じた所得を隠匿するために、自己の取引を原告ら各名義に分散していたにすぎないものと推認することができる。

(エ) 本件有価証券取引は、合計すると、昭和62年分にあっては売買回数50回及び売買株数20万株以上となり、昭和63年及び平成元年分にあっては、売買回数30回及び売買株数12万株以上となっており、いずれの年分も非課税基準を上まわる。したがって、本件有価証券取引から生ずる所得は、所得税法(昭和63年法律109号による改正前のもの。)9条1項11号及び同法施行令(昭和62年分については、昭和62年政令356号による改正前のもの。昭和63年及び平成元年分については、昭和63年政令362号による改正前のもの。)26条により、雑所得に該当する。

(オ) 原告は、本件有価証券取引により昭和62年分から平成元年分において別表1雑所得欄記載の各雑所得を得ていた(雑所得の内訳は別表4、5の1から3のとおり。なお、現物取引売買損益の算定は、所得税法48条3項、同法施行令118条の規定により、同法施行令105条1項1号に定められた総平均法に準ずる方法によって行った。)。

ウ 原告が、前記各年分において納付すべき税額は、別表1の納付すべき税額欄に記載された各金額である。また、原告は、取引名義を分散し、所得税の申告をしなかったものであるが、その行為は国税通則法(以下「通則法」という。)68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」に当たり、これによる前記各年分にかかる重加算税の金額は別表1の重加算税欄に記載された金額になる。また、原告の前記行為は、通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」に該当するから、藤岡税務署長は昭和62年分の所得税にさかのぼって更正処分決定ができる。したがって、本件(1)から(3)の各処分の内容はいずれも許容された範囲内にあるからすべて適法である(なお、別紙処分目録1・(2)記載の処分については、争いのない事実等(3)の裁決後の額になる。)。

(原告の主張)

ア 本件調査の違法性

(ア) 本件調査を担当した係官は、調査初日でほとんど事実関係の調査も行われていない段階の午後1時に、突然の調査で混乱している原告本人を、株式の売買取引には税金が課されないと欺罔し、その一字一句を口授し、調査担当者の言いなりの、原告の意思に基づかず真意ではない念書を作成して提出させたのであるが、これは予断に基づいた詐欺的調査であって、このような行為は税務職員の裁量を著しく逸脱したもので、調査手続そのものが違法である。

(イ) 平成6年10月5日に、原告が、係官に対し、「そこまでつかまれたらしょうがない。株の売買はやっていた。白状したのだからもういいでしょう。」、「以前名義書換を行ったところ、配当の関係で税務署へ書類が提出され税務署の調査があり、それに懲りて記録に残るものは全て処分し、名義書換も一切やっていない。」、「取引している証券会社は、2社(F証券・E証券)のほか、G証券高崎支店のみである。」などと述べた事実はない。また「会社情報」をいれた紙袋が、係官から提出を要請されまとめてあった帳簿書類とたまたま同じ机の上に置いてあったため、調査の邪魔になってはいけないと思い移動させただけのことである。

(ウ) 平成6年10月6日に、原告が、係官に対し、「G、F及びE以外の証券会社との取引は過去にもない。」、「自分の首をかけてもよい。」などと述べた事実はないし、そのように述べる必要もない。原告はK証券とも取引をしているが、地元の証券会社であり長年の取引であるので、あえてこれを秘匿する必要がない。そもそも藤岡税務署は昭和60年にも原告の株取引について税務調査をし、過去の株取引についても把握し、原告がK証券と取引のあることを十分承知している。従って前記のような答述をさせること自体あり得ない話で、被告の主張は不自然極りない。また、「あんたそれでも男か。」や「約2億あるので・・・C先生と相談してその範囲でやってくれ。」とかいう趣旨の発言をした事実もない。丙が、「株取引については、一切父がやっているので自分はわからないから親父に聞いてくれ。」と述べた事実もない。

(エ) 平成6年10月14日に、原告が、係官に対し、棚卸資産の評価方法について、低価法の申請を行ったことはないと述べた事実はない。原告は、C税理士から評価損の計上はできないと誤った指導をされ、これを盲信していたのであり、「低価法」という語など全く知らなかったので、このように述べる筈がない。低価法が原告と係官の間で議論されるようになったのは、H税理士が委任を受けた平成6年11月1日以降のことである。また、原告が、「実地棚卸は、各年分とも実施していなかった。」と述べた事実もない。中古自動車は古物営業法にいうところの古物に該当するから、同法16条により古物台帳の備置が義務づけられ、また1台あたりの価格が高価なので単品管理をしており、当然実地棚卸はしていたから、被告が主張するような答述をする筈がないし、原告はそのような発言はしていない。原告は、あくまでも評価損を計上する目的で「決算調整」として数学上の調整をしたことを説明したのである。

(オ) 平成6年11月1日以降の調査については以下のとおりである。

a 乙ら各名義人の資金の問題については、H税理士からも調査にあたった関東信越国税局職員に対し指摘し、課税にあたってはこの点の調査を期すように申入れたが、同局職員はそれを果さないまま、本件処分を強行した。

b 例えば、平成6年11月18日の調査において、H税理士は「乙、丙らが原告の事業の青色専従者として長期勤続し、かなりの所得があり、株式の口座開設当初からかなりの株式購入資金があったことは、原告の所得税申告書からも容易に知りうる客観的事実であり、口座開設当初からそれぞれの名義人本人が実名で株取引を行っていたのに、何故、株式売買益の全てが原告の所得として課税されるのですか」と同局職員に対し質問したが、これに対して明確な回答はなかった。更にH税理士が「どういうことから、原告の所得と認定したか、その根拠について具体的に答えて下さい。」と述べたところ、同局職員は、各名義人本人が当時株式購入資金があったことは推測されても、実際の株式取引口座への入金が各人の名義人の預金の解約とかの確たる証拠がなければ、各名義人の株取引かは分からないと述べた。これは、驚くべき態度であると言わなければならない。原告以外の名義人の取引がどうして原告の収益になるのか、仮に、その購入資金が原告の資金だというなら、その点を課税庁の側で明らかにすべきが当然であるのに、この職員は、名義人本人の資金があっても、それが株取引口座に入金されたことを証拠で確認しなければ、あくまでも原告の取引とみなして課税処分を強行しようというのである。

c それでも、少しでも、係官の誤解を解くためにH税理士は次のように対処したのである。

係官が、乙、丁、甲、丙の証券会社の株取引口座の入金額の多額なものを抽出し、その日付と金額を述べ、H税理士にこの入金額の具体的な資金の源泉について後日回答するように求めたので、まずH税理士は、平成6年12月20日の調査において、株式取引口座への入金額の多額なものに基づいて検討した書面のコピーを渡し、その内容を説明した。

更に、その原資となる資金についても、平成6年12月20日の調査において、H税理士は、「乙らは、株式口座開設のため、長期にわたって専従者給与等を預けていた藤岡郵便局の郵便貯金を解約したが、そのことはそれぞれが明確に記憶していた。」と述べたが、同局職員は、郵便貯金の解約の明細がなければ認められないと述べたので、H税理士は「藤岡郵便局経由で本局に依頼しているが、古すぎて回答は難しいとのことであったので、調べてもらえば事実であることが判明するので、是非職権で郵便局への調査を願いたい。」と要請した。しかし、結局この調査もなされないまま、課税処分は強行された。

(カ) 被告が、前記のような経緯があっても、それでもなお本件処分を強行したのは、やはり「念書」の存在ゆえであろうと考えられる。しかし、念書の問題については、前記のほか、H税理士が立会うようになった期日以降も、平成6年11月18日の調査において、原告自身、「あの時の念書は、事前の調査連絡がなく、気が動転していて補聴器も耳に入れていない私(通常は補聴器を入れないと殆ど聞こえない)に強制的に書かせたものです。」と事実を述べている。原告が、この日、このように述べたことについては、被告も認識している。

(キ) 更に、本件株取引が名義如何にかかわらず原告の取引ではないかと疑念を持った事情であると思われる次の各点においても、平成6年12月20日の調査において、H税理士は、その疑念を解消すべく事実を説明した。

a G証券の4口座が丙名義1本に集約された事実について、H税理士は、「G証券の証券外務員の話によると、取引手数料節約のために、当時はまとめる取引を勧めており、丙名義1本に集約されたのも、この勧めに従ったからである。」と説明した。

b 預り証の署名について、本人以外のものがあるとの疑念に対しても、H税理士は、「証券会社の話によると『当時は本人が不在の場合、記名押印で良いので印鑑が本人のものであれば他の人に署名してもらっていた』とのことであった。また、他の人の代わりに署名したからと言って名義人本人ではなく署名した人の取引とするのはおかしいでしょう。」と反論した。

c 原告及び乙らは同じ時期に同一の銘柄で取引を行っていたとの疑念に対しても、H税理士は、「通常株式を購入する場合、その時点で一番値上り益が見込まれる銘柄を購入するので同一銘柄となってしまう。また、売却する場合にも、同様である。さらに同一銘柄の方が管理しやすいので、このような取引になってしまう。このようなことは普通一般に行われていることである。」と説明した。

d 名義書換も行われていなかったとの疑念も、H税理士は、「当時は名義書換を行うと、証券代行会社の手続が数週間位かかり、株の売却の時期を逸してしまうことがあるので、名義書換をしなかったと原告は言っている。これはその当時の株取引においては、よく行われていることである。」と述べた。係官は何ら反論はしなかった。

e 各名義人の取引のみを抽出したとしても、各名義人は確定申告の必要があったとの点に対しても、H税理士は、除斥期間である旨同局職員に説明したところ、同局職員もうなずいたのである。このように、係官の疑念に対しては、全て回答し説明を尽している。

イ 乙らには、別紙Ⅰ・Ⅱ記載のとおり本件有価証券取引を行う資金があり、本件有価証券取引は各名義人のそれぞれの取引に他ならない。これが全て原告の取引であるという証拠はなく、藤岡税務署は、原告ら名義の株取引すべてが原告の株取引であると一方的に判断して課税していると推測される。

ウ ところで、そもそも商法205条により、株券の占有者は、適法な所持人と推定される。したがって、名義人がその株式を譲渡すれば、信託的に他人名義にしておいた等の特別の事情が証明されない限り、その名義人の資産を譲渡したものと推定されるのであるから、課税庁があえて家族名義の株式も原告の資産だとしてその譲渡益に課税しようとする以上は、名義にかかわらず、原告の資産であることの立証責任はすべて課税庁にあることは明らかである。しかるに、被告は、原告らの株取引が原告の資金によるものであることを客観的に立証できていない。そこで、原告の納付すべき税額は、既に確定申告をしたとおりである。また、国税通則法70条5項により、過去5年以上7年まで遡って更正するためには、「偽りその他不正の行為」があったことが要件であるところ、この立証もなされていない。

(2)  本件青色取消処分の適法性

(被告の主張)

ア 原告は、平成2年分の売上に関する領収証控や仕入に関する書類を廃棄して保存せず、また、売上の一部を過少に、仕入の一部を過大に、それぞれ帳簿書類に記載し(別表10の1、同12の1)、取引の一部を隠ぺい又は仮装していた。そのうち、青色取消通知書に具体的に記載した取引についての詳細は、以下のとおりである。

(ア) Sに対する売上は、売上帳に82万1775円と記帳されているところ(なお、売上金額については、係官が売上帳から確認した金額である。)、正当な売上金額は、取引先である車両購入者である前記Sに対する文書照会の回答及び見積書により把握した金額102万1775円である(前記文書照会の回答は、102万1745円となっているが、原告の計上漏れの方法が、端数をつけない方法が主であることから、前記見積書の102万1775円が正当な金額と認められる。)。

よって、20万円が売上計上漏れ額であるなお、前記文書照会においては、諸経費を含めた金額を照会しているが、被告の求める売上計上漏れ額は、原告が売上帳に記帳した売上金額と正当な売上金額の差額であり、原告記帳の売上金額は諸経費を含んだ金額である以上、正当な売上金額も諸経費を含んだ金額で把握しなければ正確な売上計上漏れ額が把握できないのは当然のことである。

(イ) Nに対する売上は、売上帳に25万6380円と記帳されているところ(なお、売上金額については、係官が売上帳から確認した金額である。)、正当な売上金額は、取引先である購入者の前記Nに対する文書照会の回答により把握した金額45万6380円である。

よって、20万円が売上計上漏れ額である。

(ウ) Oからの車両仕入について、仕入帳の平成2年3月9日の仕入金額が50万円で、同月9日に20万円及び同月31日に30万円を支払ったと記帳されているが、原告が行った車両仕入過大計上の改ざんの方法は、仕入帳の支払金額欄の2段目に架空の支払金額を計上するものであることから、2段目に記帳された前記同月31日の30万円は架空に計上されたものと認められる。

よって、前記Oからの車両仕入については、20万円が正当な仕入金額であって、30万円が過大計上額である。また、仕入帳の仕入金額欄に記載の50万円から平成2年3月9日の支払金額20万円を差引くと差引残高欄は30万円となるはずであるが、「0」と記帳されていることから、20万円の仕入金額を改ざんするときに、差引残高欄の改ざんを忘れたものと認められることからも、20万円が正当な仕入金額であって、30万円が過大に計上されたものと認められる。

(エ) Pからの車両仕入について、仕入帳の平成2年3月14日の仕入金額が40万円で、同日に10万円及び同年4月30日に30万円を支払ったと記帳されているが、原告が行った車両仕入過大計上の改ざんの方法は、仕入帳の支払金額欄の2段目に架空の支払金額を計上するものであることから、2段目に記帳された前記4月30日の30万円は架空に計上されたものと認められる。

よって、前記Pからの車両仕入金額については、10万円が正当な仕入金額であって、30万円が過大計上額である。また、仕入帳の仕入金額欄に記載されている10万の位の「4」は不自然であり、受入金額欄の40万の「4」と相違することからも、「1」を「4」に改ざんした形跡が認められ、10万円が正当な仕入金額であって、30万円は過大に計上したものと認められる。

(オ) Qからの車両仕入について、仕入帳の平成2年7月17日の仕入金額が117万円で、同日に67万円及び同月31日に50万円を支払ったと記帳されているが、原告が行った車両仕入過大計上の改ざんの方法は、仕入帳の支払金額欄の2段目に架空の支払金額を計上するものであることから、2段目に記帳された同月31日の50万円は架空に計上されたものと認められる。

よって、前記Qからの車両仕入金額については、67万円が正当な仕入金額であって、50万円が過大計上額である。

(カ) Rからの車両仕入について、仕入帳の平成2年11月29日の仕入金額が81万円で、同日に41万円及び同年12月16日に40万円を支払ったと記帳されているが、原告が行った車両仕入過大計上の改ざんの方法は、仕入帳の支払金額欄の2段目に架空の支払金額を計上するものであるから、2段目に記帳された前記12月16日の40万円は架空に計上されたものと認められる。

よって、前記Rからの車両仕入金額については、41万円が正当な仕入金額であって、40万円が過大計上額である。

イ 前記行為は、所得税法150条1項1号及び3号に該当することから、被告は、原告の平成2年分以降の青色取消処分を行ったものであり、本件青色取消処分は適法である。

ウ なお、本件青色取消処分の通知書の記載内容は、処分の起因となった取引、科目及び記帳内容を特定しているのであり、原告がどの取引を仮装したことにより処分を受けたのか具体的事実を知ることができる程度に理由が付記されているから、本件青色取消処分通知書の理由付記は適法である。

(原告の主張)

ア 別紙処分目録2の本件青色取消処分通知書記載の6件の取引については、いずれも金額を仮装して帳簿に記載した事実はない。

(ア) Sに対する売上につき、正当額は102万1775円であるのに、82万1775円としか記帳しなかったと指摘され、その正当額の根拠は、Sに対する金額の照会書、見積書であるとされている。しかし、Sに対する購入価格の照会・回答書及びNに対する購入価格の照会・回答書には、いずれも、被告作成の照会書の部分に「Aから購入した自動車の価格はいくらでしたか。(諸経費も含めてください。)」とあるが、「諸経費」には、通常「登録料」「保険料」「重量税」その他預り金として原告の収入にはならない性質のものが含まれる。そうだとすると、「諸経費も含めた購入価格」を照会し、その回答額を収入額とする被告の主張は正しくない。

前記Sに対する見積書の見積総額は、被告が正当額であると主張する価格102万1775円であるが、この中にも「登録料」「保険重量税」「税金」等の原告の収入とすべきでない預り金としての性格のものが含まれている。しかし、前記「諸経費」は原告の所得ではなく、所得税額は、課税されるべき所得をもとに算定されるべきであり、税務署のなす更正処分といえども同一であるから、被告の主張は失当である。

念のため、Sに関する記帳についてあえて説明しておけば、見積書では、車両の本体価格は89万8000円とあるが、見積書はあくまで見積であるから、その後実際の売買にはない本体価格が値引かれることもあるし、見積書にある整備費2万円もサービスすることがある。原告は、売上帳に記載してあるとおり、車両を82万1775円で売却し、平成2年12月14日に1万円、同月18日に71万円の計72万円の現金による入金があり(これは現金出納帳にもそのとおり記載されている)、更に下取車を10万1775円と評価して引取り充当し(これも売上帳に正しく記載してある)、申告額どおり、計82万1775円で売却した。前記は諸経費を含まない車両本体価格であり、原告の申告すべき売上額、所得相当額を正しく記載してある。したがって、その記帳額は正当なものである。

(イ) Nに対する売却額についても、被告の言っている正当額45万6380円は、照会書に基づく主張と考えられるが、前記照会書はやはり諸経費も含めて回答させているから、前記Sの場合と同様、この金額は記帳すべき正当額ではない。

原告は、車両を12月29日に25万6380円で売却し、売上帳にも、その額をそのまま記帳した。

(ウ) Oからの仕入れについて、被告の、原告が行った車両仕入過大計上の改ざんの方法は、仕入帳の支払金額欄の2段目に架空の支払金額を計上するものであることから、2段目に記帳された同月31日の30万円は架空に計上されたものと認められるとの主張には、これを裏付ける客観的な証拠がなく、一方的な推論の域を出ない。

被告は、仕入帳で支払いが2回に亘っているものについて主に抽出し過大計上額と断定しているようであるが、そもそも中古自動車の店頭買取に関しては支払いが2回に亘ることが一般的である。すなわち顧客が店頭で車両を引渡す時に手付金が授受され、その後に印鑑証明書等の車両の名義変更のための書類がそろった時に残金が授受されるのである。

また、買取車両にローンの残債があるときには、買取代金はローンの会社と顧客のそれぞれに支払われるものである。したがって、仕入帳では通常、手付金と残金が、またローンの場合には、ローン会社への支払いと顧客への支払いが2回に亘り記帳されるのである。

(エ) Pからの仕入については、現金出納帳よれば、車を持参してきた3月14日にローンの残債10万円をローン会社に振込むため、相手の預金口座に10万円を振込み、4月30日に残金30万円が現金で支払われたものである。したがって仕入金額は40万円であり記帳額が正しい。

(オ) Qからの仕入については、現金出納帳によれば、車を持参してきた7月17日に手付金が現金で67万円支払われ、7月31日に残金50万円が現金で支払われたものである。したがって仕入金額は117万円となる。

(カ) Rからの仕入については、現金出納帳によれば、11月29日、12月16日の2回に分けて計81万円が支払われている。

イ 本件青色取消処分通知書の「その他942万余円相当の売上原価についても仮装して帳簿に記載した。」との理由は、処分の理由を処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならないとされる理由付記の要件を満たしていない。したがって、本件青色取消処分は違法である。

ウ 所得税法150条1項1号に係る事項は、本件青色取消処分の理由となっておらず、その通知書にも記載されていない。そして、いずれにしても、原告は、現金出納帳、仕入帳、売上帳等を事実に基づき正確に作成し、保存している。そして、これらの帳簿等は、被告の調査時には被告の指示に従って閲覧され、さらに、原告は被告にこれらの書類を貸し出し、調査を受けている。したがって、所得税法150条1項1号を理由とする本件青色取消処分は違法である。

エ 国税庁長官名で、国税局長、沖縄国税事務所長宛に示された平成12年7月3日付「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」において、青色申告の承認を取消す場合の所得金額の基準について「決定又は更正をした場合において、当該決定又は、更正後の所得全額(以下「更正等に係る所得金額」という。)のうち隠ぺい又は仮装の事実に基づく所得金額(以下「不正事実に係る所得金額」という。)が当該更正等に係る所得金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該不正事実に係る所得金額が500万円に満たないときを除く。)」と明記されている。

本件青色取消処分がなされた平成2年分の更正前の所得金額は、1912万5865円であり、更正後の所得金額(青色専従者給与の加算等は除く)は、2641万4521円である。被告が青色申告承認取消通知書によって「不正事実に係る所得金額」と主張している金額は、車両売上計上漏れ40万円(「申告額」と「売上額」との差額)と車両仕入過大計上716万6440円(同様の差額)の合計756万6440円である。これは更正等に係る所得金額の約28%であり、50%よりはるかに少ない割合である。この事務運営指針の要件に照らしてみれば、仮に百歩譲って被告の主張が全部正しいとしても、本件青色取消処分は職権を濫用するものであり、違法である。

(3)  本件(4)から(7)の各処分の適法性

(被告の主張)

ア 本件調査と本件青色取消処分により、原告の平成2年分から平成5年分の事業所得金額について別表1の加算・減算事由のあること(その内訳は別表10から14)、原告は、2ないし3か月毎に売上過少や仕入過大計上を行い、更に決算調整と称して売上除外や仕入水増し、棚卸除外等を行っていたことが判明した。

イ 原告が、前記各年分において納付すべき税額は、別表1の納付すべき税額欄に記載された各金額である。また、原告は、売上過少や仕入過大計上、売上除外や仕入水増し、棚卸除外を行っていたが、その行為は通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」に当たり、これによる前記各年分にかかる重加算税の金額は別表1の重加算税欄に記載された金額になる。したがって、本件(4)から(7)の各処分はいずれも許容された範囲内にあるからこれらの各処分はすべて適法である。

ウ 原告の主張する所得税法施行令102条2項の規定は、居住者が棚卸資産につき選定した評価方法(届出のない場合の最終仕入原価法を含む。)により評価しなかった場合でも、その者が行った評価方法が、税務上認められている評価方法のうちいずれかの方法に該当し、かつ、その行った評価方法によってもその者の各年分の事業所得の金額の計算を適正に行うことができると認められるときは、その行った評価の方法により計算した各年分の事業所得の金額を基礎として、更正又は決定をすることができるというものである。この規定は、事業の実態に即応するため、自ら選定した評価方法によっていないが他の評価方法によって評価している場合でも、事業所得の計算が適正に行われている場合には、それをできる限り認めることにより、税制簡素化を企ることを意図しているものである。したがって、原告が行った売上金額及び仕入金額の調整、すなわち、架空売上・仕入の計上は、税務上認められている評価方法ではないから、仮に評価損を計上するために行ったとしても、当然ながらそのような評価方法は認められるものではない。まして、売上金額の除外であるとか過大の仕入計上は粗利を15パーセント程度にするために行ったものであり、そもそも、評価損の計上とは何ら関係ないものであるから、原告の主張は失当というほかない。

(原告の主張)

ア 原告は、申告当時の顧問税理士Cに粗利益を一定にするように指導され、また、棚卸資産の評価方法について低価法を採用することができないと誤った指導を受けた。そこで、やむを得ず、売上金額及び仕入金額を調整し、経営の実態に近づける申告額としていた。原告の経営の実態は厳しい状況であったため評価損の計上と同様の結果を得るために、やむを得ず、売上金額及び仕入金額を調整し、経営の実態に近づける申告額としていたので、その会計処理は所得隠しとか財産の隠ぺいを意図したものではない。むしろ、平成2年分の所得は評価損を考慮すれば2000万円を超す大幅な赤字であった。しかも、原告は、その処理について克明にメモをとっていた。ところが被告は、これをいかにも税務調査により仮装隠ぺいを発見したかのごとく主張し、原告が所得を隠していたものときめつけて、更正処分に及んだのである。

ところで、所得税法施行令第102条2項の規定は、低価法の届出をしていれば当然に評価損が認められるのに、このことについて無知な納税者が不利益を被ることがないように定められたものである。そして、そもそも、評価損の計上は商法においても、また企業会計原則においても営業の実態を正しく表示するために、不可欠なものとして当然に認められているところである。中古車業界の場合もその一方法としていわゆる「イエローブック」に従って、評価損を計上することが認められている。原告は莫大な評価損が生じていたため、これを経営実態に反映させるため前のような数値上の処理を行った。したがって、所得税法施行令第102条2項の趣旨からも、また所得税法の根底にある「実質課税」の観点からも原告のなした会計処理は当然認められるべきである。更に従業員用及び台車に係る減価償却についても原告は必要経費への計上漏れをしていたが、減価償却は所得税法上強制償却であるので当然必要経費として認められるべきである。

ちなみに、低価法による評価損の数値は、被告にも提出済であるが、平成4年末のイエローブックによる正規の評価損は1億0401万2771円である。

イ 平成2年分から平成7年分までの所得税の更正処分、重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分については、処分理由の付記がなされていないが、これは藤岡税務署が原告を白色申告者と扱っていることによる。しかし、本件青色取消処分が違法である以上、原告は依然青色申告者なのであるから、前記各処分は、理由付記がないという理由だけで違法となる。

(4)  本件3の各処分の適法性

(被告の主張)

ア 前記のとおり、原告の平成2年分から平成5年分の事業所得金額について別表1の加算・減算事由があったから、原告が納付すべき平成2年から平成5年までの各課税期間分における消費税の額は別表2の1のとおりになる。

イ 原告は、2ないし3か月毎に売上過少や仕入過大計上を行い、更に、決算調整と称して売上除外や仕入の水増し、棚卸除外等を行っていたが、原告のこの各行為は、通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」に当たり、これによる前記各課税期間分にかかる重加算税の金額は別表2の1のとおりになる。

ウ したがって、本件3の各処分はいずれも許容された範囲内にあるからすべて適法である。

(原告の主張)

ア 消費税の更正処分は違法であり、また、原告が各年分の申告において、隠ぺい又は仮装をした事実もない。

イ したがって、本件各処分はすべて違法である。

(5)  本件4の処分の適法性

(被告の主張)

本件青色取消処分がなされたから、平成6年分における原告の所得金額及び税額の計算は別表1のとおりとなる。そして、本件4の処分はこの内容に沿うものであるから、本件4の処分は適法である。

(原告の主張)

原告は青色申告者なのであるから、本件4の処分は理由付記がないという理由だけで違法となる。

(6)  本件5の各処分の適法性

(被告の主張)

本件青色取消処分がなされたから、平成6年分における原告の所得金額及び税額の計算、これに伴う過少申告加算税の金額は別表1のとおりとなる。そして、本件5の各処分はこの内容に沿うものであるから、本件5の各処分は適法である。

(原告の主張)

原告は青色申告者なのであるから、本件5の各処分け理由付記がないという理由だけで違法となる。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  本件調査は適法か否か

ア 証拠(乙1、47、48、73の1及び2、74、114の1ないし5、118、145、150、158、243の1及び2、244の1ないし36、330の1ないし25、412、413、証人U及びVの各証言)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(ア) 平成6年9月中旬ころ、国税局課税第一部資料調査課において、原告から提出された確定申告書や所得税青色申告決算書等を検討したところ、原告は、昭和61年、昭和63年及び平成元年にそれぞれ展示場を開設して事業規模を拡大しており、相当の収入が見込まれたが、その割には申告所得金額が少なく、申告所得金額が実態を反映していないのではないかとの疑問が生じ、また、原告が有価証券の売買を手広く行っているとの資料情報があり、有価証券売買の実態を解明する必要もあったことから、同課の係官U(以下「U係官」という。)をチーフとする調査班が、原告の所得税及び消費税の調査を行うこととなった。

(イ) 平成6年10月5日午前9時30分ころ、資料調査課の6名の係官が、原告の経営する中古車販売店、通称「パート1」、「パート2」、「パート3」と称されるそれぞれの展示場、新町営業所及び原告の自宅へ分担して臨場した。

V係官(以下「V係官」という。)とW係官が原告の自宅に臨場したところ、原告と乙が在宅していたので、V係官らは、原告から調査の承諾を得た。原告が顧問税理士であったC(以下「C税理士」という。)に電話し、約1時間後、C税理士が事務所の職員を伴って原告宅に来た。V係官らが、30分くらい、同職員から原告の所得税等の申告への関与の状況を聴取すると、C税理士は辞去した。V係官らが帳簿等の書類の確認をするため原告の承諾を得て帳簿等が保存されている部屋に行ったところ、会社情報と題する冊子2冊を見つけた。V係官が原告に株式の売買を行っているかどうか聞いたところ、原告は、株式の売買はしておらず、会社情報は証券会社の外交員が置いていったものである旨答えた。V係官は、乙にも株式の売買を行っているか聞いたが、乙は行っていない旨答えた。

V係官らが帳簿等を確認していた際、乙が会社情報を手提げ袋に入れて隣の台所方向に移動し始めたので、V係官は、会社情報に何か記載があるのかと考え、乙に手提げ袋の中身を見せていただきたいと申し出て、手提げ袋を受け取り、会社情報をめくって見た。V係官は、1冊の会社情報の裏表紙に、所在地及び電話番号を付したE証券前橋支店のスタンプを、もう1冊の会社情報の裏表紙に、所在地及び電話番号を付したF証券本庄支店のスタンプを見つけ、後日反面調査をする必要があると考え、それぞれの証券会社名、住所及び電話番号をメモし始めた。すると、原告は、「そこまでつかまれたらしょうがない。株の売買はやっていた。白状したのだからもういいでしょう。」と言った。

V係官は、原告に対し、株の売買を行っていても売買株数によって一概に課税されるとはいえないこと、平成元年4月以降、源泉分離課税を選択した場合には、申告の必要はないことなどを説明して、株取引について取引明細書等の書類を見せてくれるように説得した。また、V係官が、原告に対し、E証券及びF証券との取引について尋ねたところ、E証券については原告及び乙名義の各口座があり、10年ほど前から取り引きしている旨、F証券については丁名義の口座がある旨の回答を得た。V係官が、さらに、原告に対し、他の証券会社との取引はないかと尋ねたところ、G証券高崎支店との取引があるが、その他には取引がない旨の回答を得た。そして、V係官が、原告に対し、家族以外の名義の取引を誰が行っているのか尋ねたところ、全て原告が取引を行っている旨の回答を得た。そこで、V係官が、原告に対し、これまでの回答の内容を申述書として書面にして欲しい旨述べたところ、原告は、「念書」と題し、「E証券及F証券、Gの凡ての株の取引は私がやって居りました 平成6年10月5日 甲 関東国税局長殿」との記載がある書面を作成し指印した。また、V係官が、原告に対し、原告が取り引きしていると述べた3証券会社以外には取引証券会社がない旨の記載も求めたところ、原告は、「追伸 これ以外の取引証券はありません」との記載を念書に付け加えた。

(ウ) 平成6年10月12日、U係官はC会計事務所に臨場し、原告の決算を担当していたX部長に原告の決算方法を確認したところ、X部長は、「甲さんの所得税の確定申告書、所得税の青色申告決算書及び消費税の申告書は毎年申告期限の直前に甲さんからバインダーに綴られていた帳簿書類やほとんど完成している青色申告決算書を提出してもらい、この帳簿書類等を基に作成しており、領収証等の原始記録と帳簿の照合は行っておらず、また、甲さんが作成する帳簿も甲さん独自の方法で作成したもので、甲さんは、自分の助言など全く聞き入れてくれない。」などと答えたが、「平成5年分からは、自分の助言により、売上帳の記載方法についてのみ、売上金額を車体価格、法定諸費用及び消費税等を区分して記帳するようになった。平成4年分以前については、車両の売上金額を法定諸費用及び消費税を含んだ金額で記帳していた。」などの説明があった。

(エ) U係官は、平成6年10月5日及び同月6日に原告から預かった帳簿書類等の中に平成5年分の決算調整をしたと思われるバインダーを見つけ、これを検討したところ、原告が車両売上の圧縮及び除外、工賃収入の圧縮及び除外、仕入れの水増し、長期間在庫となっている車両に対する架空仕入れ等の計上等、帳簿の改ざんを行っている疑いを持った。そこで、U係官は、平成6年10月14日、原告宅に臨場し、原告に対し、①売上帳に記載されている受入金額より領収証の控に記載されている金額の方が多いもの、②領収証の控があるにもかかわらず売上帳に売上が記帳されていないもの、③仕入帳に仕入が過大に計上されているもの、④売上帳に架空の売上を記載しているものがあるが、どうしてこのようなものがあるのかを尋ねたところ、原告は、売上を過少に計上した事実や仕入を過大に計上した事実を認め、次の答述を行った。

a 売上帳と現金出納帳は、長男の妻戊が当初鉛筆で記入し、2ないし3か月後に原告が金額を見直し、ボールペンで書き直しているが、その際、売上の一部を減らしたり、現金買取車の仕入金額を増やしていたこと

b その売上減算や仕入水増しを行った理由は、2年以上の長期在庫となった中古車の評価損を出すため、また、決算書(損益計算書)の差益率(売買損益率)を概ね15パーセントとするためであったこと

c 棚卸資産の評価方法について、低価法の申請を行ったことはないこと

d 実地棚卸は、各年分とも実施していなかったこと

e 平成5年分については、決算調整の経緯を記載した書類を保存してあるが、平成4年分以前の決算調整の経緯を記載した書類は作成していたが保存していないこと

(オ) そして、原告は、平成4年分以前の売上金額等を調整した金額について「すぐには分からないが、売上帳等の帳簿を見ればどれが売上を除外した取引か、仕入を水増しした取引か、架空に売上を計上した取引かは分かる。」と述べたので、係官が、原告に対し、どうして帳簿等を見れば分かるのかを尋ねたところ、原告は、「帳簿に架空の取引を書くときは身内の名前を使っているが、それが多くなると不自然になるので、その場合は過去に取引をしたことのある人の名前を使って架空取引を計上していたり、仕入水増しの場合は、仕入帳の2段目に水増しした仕入金額を書くので見れば分かる。」などと答えた。

(カ) U係官は、平成5年分の工賃収入に関する決算調整メモを見つけ、現金出納帳及び領収証と照らし合わせた。その結果、領収証とその決算調整メモの額が一致したが、現金出納帳の額とは一致しなかったことから、同係官は、原告が、現金出納帳に工賃収入を過少に記載することにより、売上を除外している事実を把握した。さらに、U係官が平成3年分から平成5年分の領収証の控えと現金出納帳を照合したところ、現金出納帳に記載されている金額が領収証の控えの金額より過少になっているものや領収証の控えがあるにもかかわらず、現金出納帳に記載のない入金があった。U係官は、このようにして工賃収入の除外について調査していった。

(キ) U係官は、原告から預かった書類の中から、平成5年12月から平成6年3月くらいまでにかけての売上取引が記載された売上帳が、平成6年分の売上帳とともにバインダーに綴られているのを見つけた。U係官は、この売上帳には、鉛筆による記帳や、売上金額に線を引き、書き直している形跡があり、また、原告がこの売上帳により、売上金額を調整している様子が窺えること、既に原告から「売上帳、仕入帳及び現金出納帳は、当初戊が鉛筆で記入していたものを、2ないし3か月後に自分が見直してボールペンで書き直す際に、売上の一部を売上帳や現金出納帳に記載せず除外したりしていた。」旨を聴取していたことから、この売上帳は、原告が改ざんする前に戊が正当な売上取引を記載した売上帳であると考えた。そこで、U係官は、これら各帳簿を検討し、平成5年12月に行った取引の売上を平成6年の売上として利益を調整していると判断し、原告にそれを確認したところ、原告は、差益率を概ね15パーセントにするために売上を除外している旨述べて、平成5年分の売上計上漏れの事実を認めた。

U係官が、原告の平成5年分の決算調整メモを精査したところ、日付、車種、年式、氏名、仕入値が記載されているものがあった。そして、その日付が平成3年や平成4年となっていたことから、平成3年分及び平成4年分の仕入帳と照合したところ、決算調整メモに記載されている日付と同じ日付の欄に、決算調整メモに記載されている車両と同一の仕入取引の記載があり、決算調整メモの仕入値欄に記載されている金額と仕入帳に記載されている仕入金額が一致していた。このようにして、U係官は、平成5年分の架空車両仕入計上の事実を把握した。

U係官は、決算調整メモの丁数欄に3桁の数字が記載されているのを見つけ、同じ番号の売上取引を平成5年分の売上帳で確認したところ、決算調整メモに記載されている氏名、車両が記載された売上取引があり、決算調整メモの売値欄に記載されている金額と売上帳に記載されている売上金額が一致していた。また、決算調整メモの中に、「長期在庫より売上」と記載されているメモがあり、このメモには売上金額の数字の改ざんと思われる跡があり、さらに、売上帳とこのメモに記載されている一連番号や売上金額が同じであるにもかかわらず、売上帳に記載されている氏名とこのメモに記載されている氏名が違っているものがあった。そこで、これらの取引について領収証の控えを照合したところ、売上帳の受入金額欄に記載されている領収証の控えがなかった。このようにして、U係官は、平成5年分の架空車両売上計上の事実を把握した。これらの点につき、U係官が原告に尋ねたところ、長期間在庫となっている車両の評価損を出すために架空の売上を計上したことを認めた。

U係官は、平成4年分以前については、決算調整メモがなかったことから、売上帳、見積書及び領収証の控えを照合した。その結果、売上帳に記載されている売上取引の中に、領収証の控えのないものがあり、また、通常、見積書には車両本体価格、税金、登録料等が細かく記載されているが、領収証の控えのない取引については、合計金額の記載だけ、あるいは、車両本体価格の記載だけというように見積書の記載が簡易になっていたことから、このような取引は、売上を架空に計上したものであると判断した。このようにして、U係官は、平成4年分の架空売上計上を把握した。また、U係官は、平成4年及び平成5年に売却されたとして架空の売上が計上された車両について、各年末の棚卸帳を確認したところ、これらの車両が計上されていなかったことから、棚卸計上漏れの事実を把握した。

(ク) U係官をチーフとする調査班は、以上のような経過で本件有価証券取引、別表1の加算減算事由について調査した。

イ 原告は、調査の初日に、いつ、どれだけ、誰が株取引をしたのか、それが課税対象なのか非課税枠内なのかもわからない時点で、しかも株取引に関し何ら課税されない可能性もあるのに、「凡ての株取引は私がやって居りました。」という念書を取ったのは極めて不自然であり、原告が「そこまでつかまれたらしょうがない。株の売買はやっていた。白状したのだからもういいでしょう。」と述べたというくだりはあまりに唐突で不自然であり、「そこまでつかまれたら・・・」は具体的に取引時期・銘柄・金額・証券会社を示して質問し、被調査者がもはや隠しきれないと観念したときに言う言葉であって、係官が会社情報の裏表紙にある証券会社名を控え始めたというだけでこのような発言をするとは考えられないなどと主張する。しかし、原告は、V係官から株取引の有無について尋ねられた際、株取引はしていない旨答えており、V係官が控え始めた証券会社を後日調査されれば、原告の回答が虚偽であることがすぐに明らかになるのだから、V係官が証券会社名等を控え始めた際に「そこまでつかまれたらしょうがない。株の売買はやっていた。白状したのだからもういいでしょう。」と原告が述べたとしても何ら不自然ではない。また、前記認定の被告の調査目的からすれば、課税される可能性がある取引等が発覚すればそれに関し調査を行うのは当然であるし、その調査の結果、関係者から重要と思われる陳述を得られればそれを書面化しておこうと考えるのも当然であるから、念書の作成について原告主張の不自然さはない。そこで、前記アの認定事実によれば本件調査は適法であり、これが違法であるとする原告の主張には根拠がない。

(2)  本件有価証券取引に基づく所得の帰属とその所得額について

ア 自白の撤回について

原告らの名義で本件有価証券取引が行われたことは課税要件を認定する上での主要事実であり、この事実については第4回口頭弁論期日における原告の「争わない。」旨の陳述により自白が成立した。原告は、本件有価証券取引が原告の資金で行われたことが本件における主要事実であり、各名義の有価証券取引が行われたかどうかそれ自体は主要事実ではなく、原告のした認否の変更が自白の撤回に当たることはないと主張する。しかし、この主張は採用できない。そして、自白が錯誤によるもので真実に反するとの立証もないから、原告の自白の撤回は認められない。

イ 前記(1)・アで認定した事実、証拠(甲32、33、53、58、62、乙1、10の1ないし3、11の1ないし3、12の1ないし3、乙37、39、40、43、44、49、51、396、397、398、399の2、400の1及び2、402の1ないし3、403、404、408、410、412、416、証人丙、Y、V及びUの各証言、原告本人の供述)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 原告は、大正14年1月2日生まれで、昭和38年に中古車販売業を始めた。丙は、昭和29年4月1日生まれで、昭和52年3月にh大学経済学部を卒業し、i株式会社に就職したが、昭和54年4月から原告の元で働いている。丙は、戊と昭和55年11月30日に婚姻し、戊も丙と婚姻してから原告の元で働いている。そして、丙と戊の間に、昭和57年に長男が、昭和60年に二男が誕生している。丁は、昭和32年11月16日生まれで、昭和55年にグラフィックデザイン学校を卒業し、その後、東京で株式会社jに就職し、昭和58年6月18日にBと婚姻している。丁とBは、昭和62年2月1日から原告の元で働いている。

(イ) 丁名義のG証券の口座は昭和55年5月2日に、丙名義の同証券の口座は同月6日に各開設され、各口座において開設直後から有価証券の取引が行われた。K証券における乙及び丙名義の口座は、昭和56年5月10日以前に開設されている。

(ウ) K証券において、丙を委託者とする昭和56年7月4日付の、乙を委託者とする昭和60年6月12日付の、原告を委託者とする昭和60年9月18日付の各信用取引口座設定約諾書が作成されているが、これらの各約諾書に押印されている「甲」の印影は同一であった。そして、昭和62年5月28日ころ改印された。K証券からの預かり金残金等の原告、乙、丙名義の受領書の筆跡は原告の筆跡と酷似しており、その印影は、いずれも前記信用取引口座設定約諾書の印影(ただし改印前のもの)と同じであった。

(エ) G証券における戊名義の取引において、有価証券売却代金を引き出した際に使用された引出請求書(兼受領書)に押印されている印影は、G証券の丙名義の届出印の印影と同一であり、また、F証券におけるB名義の取引において作成された受領書に押印されている印影は、G証券の丙名義の届出印の印影と同一である。

(オ) 昭和60年6月17日にG証券の丙名義口座にG証券の乙名義口座及びG証券の戊名義口座から資金が、昭和60年7月15日にG証券の乙名義口座及びG証券の丁名義口座から株券が各移動し、以後これらは丙の口座において処理された。

(カ) 乙のG証券の口座から、昭和60年7月20日付でZ株10万株が引き出され、同年7月15日付でこの10万株が丙のG証券の口座に信用の代用として入庫された(なお、顧客勘定元帳の引出日欄には、現実に株式が引き出された日が記載されることとされていたが、昭和60年当時は、出庫依頼があって現実に引き出されるまでに5から6営業日を要していた。他方、顧客勘定元帳の受渡日欄には、顧客が現実に有価証券を持ち込み入庫した日ではなく、預り証が作成された日が記載されることになっていた。そこで、G証券において、乙の口座におけるZ株10万株の出庫依頼と丙の口座におけるその株の入庫依頼が昭和60年7月15日にあった場合、同日付けの預かり証が発行されて入庫が同日付になり、他方、出庫においては現実に株式が引き出されるのが20日になるため引出の日が20日付になるという事態が発生するから、前記のような日付の逆転はこの認定を妨げる事由にならない。)。

(キ) 原告のK証券の口座において、昭和63年10月26日、g株8000株(入庫日昭和62年8月5日)のうち、6000株が他人名義で一部出庫され、残りの2000株については原告の口座に留保された。そして、同日、乙のK証券の口座に、このg株6000株が入庫されている。

(ク) 昭和63年10月31日にF証券の乙の保護預かり口座にa株8万株が入庫されたが、同年11月1日に出庫され、そのうちの5万株がいったん保護預かりとなり(なお、F証券の乙に関する保護預かり有価証券顧客元帳の6段目には、a株3万株が入庫された旨の記載があるが、5万株の誤記と認められる。)、同日信用取引の証拠金とされた。残りの3万株は、同日、丁のF証券の口座に入庫された。

(ケ) U係官らが、平成7年1月27日にH税理士と面接した際、H税理士に対し、仮に原告が本件有価証券取引の管理委託を受けていたとすればその収益等を精算するためのメモがあるのか、また、実際に収益を分配したことがあるのかと尋ねたところ、H税理士は、「ないと聞いている」などと答えた。さらに、U係官が、原告にメモはなくても各名義人にはメモがあるのか尋ねたところ、H税理士は、「各名義人に聞かないと分からないが、たぶんないと思う。また、分配するような売買益はなく、結果的には損失に消えてしまった」などと答えた。

(コ) 本件有価商取引において、各証券会社に対する指示を現実に行ったのは原告である。

ウ 原告は、本件有価証券取引のうち、乙ら名義の取引は乙らの資金で行われたから乙らの取引であると主張し、証拠(甲19ないし30、59ないし63)及び弁論の全趣旨によれば、乙らが、原告の営む中古自動車販売業の青色専従者給与として別紙Iの記載に沿う収入を確保していたことを認めることができる(ただし、金利込み額を除く。)。しかし、原告が、自分の有価証券取引とは別に家族の取引も委託され行っていたのであれば、それが各名義人の取引であることを明確にし、その損益を個々に算出できるように各名義人の口座において取引を行うことになる筈であるが、原告は、前記イで認定したとおり各名義人の口座間で資金や株式を移動したりして、これに逆行するような行動をとっている(なお、証人Yは、原告に対し、有価証券取引の手数料を安くするため各名義の取引を1つの口座にまとめるよう自分が提案したと証言するが、この証言を全体としてみると、証人Yは本件有価証券取引が各取引名義人ごとの個別の取引であったとは認識していなかったと推測できる。)。また、本件において、原告が原告らの有価証券の損益を明確にし、その利益や損失を各人に配分するためにメモの作成や計算等を行ったという形跡は全く認められず、証人丙の証言によれば、原告が、丙らに対し、有価証券取引による所得について申告の要否を検討させたという事実もないと認めることができる(原告は、申告の必要性についての知識がなかったと主張するが、この主張は不自然であり採用できない。)。原告は、各名義人の株券を処分した際、原告が売却代金を集め、それを各名義人に配ったのではなく、各名義人が証券会社から直接お金を受け取っていると供述し、証人丙は、本件有価証券取引において、自分名義のものについて最終的に3000万円前後が残ったので、自分で引き出した旨供述している。しかし、証人丙の証言は、前記の約3000万円は原告から株式で分配されたとか、原告から現金で分配されたとかその重要な部分で変遷し、その3000万円をどのように処理したかについてもその供述は曖昧である。また、原告の主張によれば、少なくともG証券の口座にかかる収益については、乙や丁らの分も含まれていたから、証人丙が同人らに対して収益を分配しなければならなかった筈であるが、同証人の証言からは、収益を分配しなければならないという認識すらなかったことが窺える。そして、それだけでなく、同証人は自分の給料のほとんどを原告に委託して本件有価証券取引を行っていたと証言しているにもかかわらず、その証言からは、本件有価証券取引によって得た収益についての関心を持っていなかったという様子が窺え、この点も不自然である。

前記イで認定したよぅに、丙は、昭和52年3月にh大学経済学部を卒業し、昭和54年4月からは原告の元で働き、昭和55年11月30日に戊と婚姻した。そして、戊も、婚姻後、原告の元で働き始めた。また、丁は、昭和55年にグラフィックデザイン学校を卒業し、Bと昭和58年6月18日に婚姻した。丁とBは、昭和62年2月1日から原告の元で働き始めた。原告の主張によれば、原告から、丙は平成元年ころまでその青色専従者給与分とは別に生活費の援助を受け、丁は昭和61年ころまで生活費の仕送りを受けていた。また、乙は原告の妻であるから、青色専従者給与分ではなく、それ以外の原告の収入で生活していたと推測できる。このような状況があり、他方で、本件有価証券取引にあたって、原告が、乙らの有価証券取引の損益を明確にし、その利益や損失を各人に配分するためにメモの作成や計算等を行ったという形跡が全く認められず、丙は自分の給料のほとんどを使用して原告に本件有価証券取引を委託していると証言しているにもかかわらず、その証言からは、本件有価証券取引によって得た収益について全く関心がない等の様子が窺えるのであるが、以上の全体と前記(1)・アで認定した本件調査における原告の言動によれば、本件有価証券取引の資金中に、原告が主張する乙ら名義の貯金からの引出金があっても、原告と乙らには、その取引が各人の取引であるとの認識もなく、本件有価証券取引はすべて、原告が、原告の判断と計算で行った原告の取引であると推認することができる(原告が最終的に本件有価証券取引による利益を各名義人間で分配するつもりであったとしても、それはこの推認を左右する事実ではない。また、本件有価証券取引における指示を現実に行ったのは乙らではないから、本件有価証券取引と商法205条との関わりはあまりない。)。

(3)  前記(2)で説示したとおりであるから、本件有価証券取引の所得は原告に帰属する。そして、争いのない事実等(2)・ア、証拠(乙412、別表4及び別表5の1ないし3の各証拠欄に記載された証拠、証人U及びVの各証言)によれば、本件有価証券の取引回数は別表8の1ないし3記載のとおりで、別表1に記載された雑所得の金額と税額も適正なものと認められる。また、前記(1)・アで認定した本件調査における原告の言動によれば、原告は、本件有価証券取引による所得が課税対象となることを知りながら、取引名義の分散を図り、所得税の申告をしなかったものと推認することができ、原告のこの行為は通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」に当たり、通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」にも当たるから、これによる過去7年前にさかのぼる更正及び別表1の重加算税の賦課も適法である。したがって、本件(1)から(3)の各処分はいずれもこの範囲内のものであるから適法である。

2  争点(2)について

(1)  前記1・(1)・アで認定した事実及び証拠(括弧内に記載した各別表の各順号欄に記載された各乙号証、乙73の1及び2、74、412、証人V及びUの各証言)によれば、次の事実を認めることができる。

ア 原告は、平成4年分までの車両の売上帳においては、車両本体の価格と諸経費とを分けることなく合計額を車両の価格として記載していた。

イ 原告は、車両の売上帳において、平成2年12月1日のSに対する売上代金を102万1775円と記帳すべきところ、82万1775円と(別表10の1の順号2)、同年12月19日のNに対する売上金額を45万6380円と記帳すべきところ、25万6380円と(同表順号3)各記載した。

ウ 原告は、車両の仕入帳において、平成2年3月9日のOからの仕人金額を20万円と記帳すべきところ、50万円と(別表12の1の順号3)、同年3月14日のPからの仕入金額を10万円と記帳すべきところ、40万円と(同表の順号4)、同年7月17日のQからの仕入金額を67万円と記帳すべきところ、117万円と(同表の順号10)、同年11月29日のRからの仕入金額を41万円と記帳すべきところ、81万円(同表の順号22)と各記帳した(なお、本件青色取消処分における「T」との記載は「R」の誤記と認めることができる。)。

エ 原告は、別表12の1の順号1、2、5ないし9、11ないし21、23の各取引において、これら各取引における仕入金額を各正当額欄記載の金額と記帳すべきところ、各原告記帳額欄記載の金額と記帳した(原告記帳額の合計は1881万5880円、正当額の合計は1174万9440円、その差額は706万6440円)。

(2)  原告は、関東信越国税局が、各購入者に対し、原告から購入した自動車の価格を照会するに当たって、価格に諸経費を含めるよう求めたことが誤りで、その照会に対する回答書(乙73の1、74)の金額も正確ではないと主張する。しかし、前記アで認定したように、原告は、平成4年分までの売上帳においては、車両本体の価格と諸経費とを分けることなくその合計額を車両価格として記帳していたのであるから、関東信越国税局が各購入者に対し諸経費を合む金額の照会をしたことに誤りはない。また、原告は、中古自動車の店頭買取においては支払が2回になることが一般的で、平成2年分における仕入帳の2段にわたる記載は、2回にわたる支払いを記載したもので仕入れ金額の仮装との関わりはないと主張するが、前記1・(1)・アで認定した事実に照らすと、別表12の1における各2段の記帳(順号1ないし4、6、7、9、10、13、14、16ないし23)が原告の主張する趣旨での2回にわたる支払の記帳であると認めることはできない。原告は、仕入帳や金銭出納帳等の帳簿類における記帳内容の整合性を前提にした主張もするが、この主張は、前記1・(1)・アで認定した各事実に照らして採用できない。

(3)  前記1・(1)・ア及び前記(1)の認定事実によれば、原告は、平成2年分の車両販売等にかかる事業所得について、売上の一部を過少に、仕入れの一部を過大に帳簿に記帳して利益の調整を行い、取引の一部を隠蔽・仮装していたことが認められ、これらの行為は、所得税法150条1項3号に規定する「その年における第一号に規定する帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある。」場合に当たる。

(4)  青色申告承認の取消通知書には、所得税法150条各号のいずれに該当するのかを附記しなければならず(所得税法150条2項)、その理由の附記の程度については、特段の理由がないかぎり、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを、処分の相手方においてその記載自体から了知しうるものでなければならないと解されているが(最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)、本件においては、本件青色取消処分の通知書に、その理由として平成2年分の事業所得にかかる売上の額について、原告の帳簿記載が仮装であったこと及び平成2年分の事業所得にかかる売上原価の額について原告の帳簿記載が仮装であったことが各記載されており、そのそれぞれについて年月日、取引者、申告額(仮装した額)、売上の額(正当額)または売上原価の額(正当額)が例示され、かつ、売上原価についてはその他の欄で仮装した額の総額が示されているから、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用してその処分がなされたかを、原告においてその記載自体から了知しうるものと認められるから、本件青色取消処分においては理由付記の程度に違法はない。

(5)  原告主張の事務運営指針は、本件青色取消処分後に示された指針であるが、いずれにしても、原告が行った隠蔽・仮装行為の内容に照らすと、本件青色取消処分に裁量の範囲を超えた違法性があるということにはならない。また、原告の主張する金額調整が、所得税法施行令99条1項に規定された評価の方法に当たらないことは明らかで、原告が主張する金額調整に所得税法施行令102条2項を類推適用する余地もないから、原告の所得税法102条2項に関する主張は失当である。

(6)  したがって、本件青色取消処分は適法である。

3  争点(3)について

(1)  前記1・(1)・アの認定事実及び証拠(別表10の1ないし3、別表11の1ないし3、別表13のその1からその4の各証拠番号欄、同表その5の原始記録等欄、同表その5の証拠番号欄に各記載した各乙号証、乙412、証人V及びUの各証言)によれば、原告の車両売上金額において、別表10の1(平成2年分)、別表10の2(平成3年分)、別表10の3(平成4年分)、別表13(平成5年分)に記載した各計上漏れが生じ、原告の工賃収入において、別表11の1(平成3年分)、別表11の2(平成4年分)、別表11の3(平成5年分)に各記載した各計上漏れが生じたことを認めることができる。

また、前記1・(1)・アの認定事実及び証拠(別表12の1ないし4の各証拠番号欄に記載された各乙号証、別表12の3順号18につき乙192、114の1ないし5、118、412、証人Uの証言)によれば、原告が、別表12の1(平成2年分)、別表12の2(平成3年分)、別表12の3(平成4年分)、別表12の4(平成5年分)に各記載した各仕入額の各過大計上をしたことを認めることができる。

(2)  争いのない事実等(2)、前記(1)の認定事実、証拠(別表13のその1からその4の各証拠番号欄、同表その5の原始記録等欄、同表その5の証拠番号欄に各記載した各乙号証、244の1ないし36、330の1ないし25、412、426、427、429の1ないし3、431及び432の各1、2、証人V及びUの各証言)によれば、平成2年から5年分において別表1の加算・減算事由が生じていたこと、これにより同各年分における税額が別表1のとおりになったことを認めることができる。

原告は、申告当時の顧問税理士Cに粗利益を一定にするように指導され、また、棚卸資産の評価方法について低価法を採用することができないと誤った指導を受け、やむを得ず、売上金額及び仕入金額を調整し、経営の実態に近づける申告をしていたのにすぎないから、その申告額が正当であると主張するが、C税理士がそのような指導をしたという主張に沿う的確な証拠はなく、また、原告がそのような指導に従うというのも不自然である(粗利益を一定にするための原告が主張するような会計操作が正常な方法でないことは容易に理解できることであり、また、原告が申告額と経営の実態が異なるということに疑問があるのであれば、そのことをH税理士等に相談することも容易であった筈である。)

(3)  前記1・(1)・ア及び前記(2)の認定事実によれば、原告は、2ないし3か月毎に売上過少や仕入過大計上を行い、更に決算調整と称して売上除外や仕入の水増し、棚卸除外等を行い、これにより前記(2)で認定した加算減算事由が発生したと認められるから、その行為は、通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」にあたり、藤岡税務署長は別表1の各重加算税の賦課決定処分を行うことができる。したがって、本件(4)から(7)の各処分はいずれも許容された範囲内にあるからすべて適法である。

4  争点(4)について

(1)  前記(3)で認定したとおり、原告は、2ないし3か月毎に売上過少や仕入過大計上を行い、さらに、決算調整と称して売上除外や仕入の水増し、棚卸除外等を行い、その結果、原告の平成2年分から平成5年分の事業所得金額について別表1の加算・減算事由が生じた。

(2)  そうすると、原告が納付すべき平成2年から平成5年までの各課税期間分における消費税の額は別表2の1のとおりになると認められる。また、原告の前記(1)で認定した各行為は、通則法68条1項の「隠ぺい又は仮装行為」に当たり、これによる重加算税の金額は別表1のとおりになる。

(3)  したがって、本件3の各処分はいずれも許容された範囲内にあるからすべて適法である。

5  争点(5)及び(6)について

争いのない事実等(2)・イの事実と前記2のとおり本件青色取消処分は適法なものであることから、本件4の処分と本件5の各処分はいずれも適法な処分であると認めることができる。

第4結論

1  以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がない。

2  よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野智明 裁判官 丹羽敏彦)

裁判官 山﨑威は転補のため署名できない。 裁判長裁判官 中野智明

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