大判例

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前橋地方裁判所 昭和26年(行モ)1号 決定

申請人 高橋喜三郎

被申請人 群馬県知事

一、主  文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、理  由

申請代理人は「申請人より被申請人に対する行政処分取消請求事件の判決確定に至るまで被申請人が前橋市片貝町七十番所在の工作物につき、移轉の代執行をなすことを停止する」との決定を求め、その申請の理由として、一、申請人は申請の趣旨表示の土地所有者である。二、被申請人は昭和二十五年六月二十一日申請人に対して申請人所有にかかる前橋市片貝町乙六十九番宅地七十五坪一合一勺、同町七十番の一宅地百六十七坪六合七勺の土地につき、特別都市計画法に基き換地予定地として同町乙六十九番、同七十番の一合計百八十四坪三合四勺の指定通知書を発し同年十月十三日右予定地に昭和二十六年一月二十日迄に移轉すべき旨の命令を発し、同二十六年一月二十三日申請人がこれを履行しないからとして、右七十番の土地に十日以内に移轉すべき旨の戒告書を発した。三、申請人は当七十六年の老齢で昭和二十一年以來中風のためずつと病床にあり、妻かね(当六十三年)は申請人の介抱につききりであり、独り娘澄江が右手がきかぬため左手一本で前記土地と澄江の所有地六十坪弱を併せて耕作し、辛うじて最低限度においてその日その日を生きながらえている。かゝる状況において前記の如き区画整理を施行されれば約六十坪の耕作地を削減されることになり、申請人等三名の生存権を侵害されるので右は憲法第二十五條に違反する。四、又本件区画整理のねらいは前記土地の東北側を南北に連なる縣道の幅員拡張と、それに伴いその路面略々中央に位する三角地の三軒家を申請人の土地に移轉するにあるが、この三軒家の移轉は右縣道の東北側岩内啓太郎所有宅地に十分なる空間を存するので、その空地になすことがより適当で、この処置に出でない前記の如き指定は不当に財産権を侵害するもので、憲法第二十九條違反の処分である。五、更に前記土地区画整理の施行については特別都市計画法施行令第十條、第十一條の告示を欠き、又同令第十一條の通知もなく違法であり、結局右処分は取り消さるべきものである。六、以上の理由により申請人は前記換地予定地指定処分には不服なので、被申請人を被告として御廳にこれが取消の訴(昭和二十五年(行)第十二号)を提起し目下審理中であるが、本案判決の確定する迄には相当の日子を要するばかりでなく、被申請人が右代執行をなすにおいては償うことのできない損害を生ずる虞れがあり、且つ、右代執行の停止は公共の福祉に重大なる影響を及ぼす虞れがないばかりでなく緊急の必要に迫られているので本申請に及んだと陳述した。

(疎明省略)

被申請代理人は右に対する意見として「本件申請を却下する」との裁判を求め、その理由として、申請人主張の第一、二項の事実は認める、第三項の事実は認めるが、本件が憲法第二十五條に違反するものであるとの点は認めない。第四項の事実については、本件に関する計画は南北に通ずる道路(通称天ぐ坂)は現在幅員約五米半を十米に拡幅するものであるが、この道路の西側は人家密集し、從つて東側に拡幅の余儀なきため、申請人のいう岩内啓太郎の土地をこれに充当するものと、なお、これが拡幅予定地上にある人家をも收容しなければならないので申請人のいうように措置することは到底不可能である。第五項の事実については、計画法施行令第十條の告示は昭和二十一年十月七日戰災復興院第二〇七号を以て、同令第十一條の告示は昭和二十二年三月二十五日群馬縣告示第一一二号を以て施行してある、而して同令第十一條には他に法規上通知を求められていない。或は本件換地指定通知と言わるるならば、それは昭和二十五年六月二十一日付で書留郵便に付して発送してあるので必着している。第六項の事実については本件について行政訴訟の提起されておることは認める、申請人は本件代執行は申請人に大なる財産上の損害を與えるし、その停止は公共の福祉に重大の影響はないといわるゝが申請人に関する減歩は五十八坪四合八勺であり、この土地は現在麦が作付してあるが、一部は通路であり、その他には燒材木等が置いてあつて実際耕作されてあるのは三十坪内外に過ぎず、これからの收穫は多く見ても一俵には充たないものである、從つて申請人の生活を左右するとは認められない。本件地区は昭和二十五年度事業であつて、しかも、これに関聯する他の部分は全部進捗してあるのに、本件土地の施行ができないので他の関聯部分が施行を停止され、公共の福祉を確保するために行われる本件区画整理の進捗を阻害する実情であつて、申請人の本件代執行停止を求める理由は全部認められないと述べた。

よつて按ずるに、本件行政代執行処分が被申請人の企図する特別都市計画の一環として爲されるものであることはその意見に徴して明らかであり、当該計画は戰爭で災害を受けた前橋市の交通、保安上公共の安寧を維持し、又は福利を増進するための重要且つ緊切な施設の計画であるものというべく、從つて本件代執行処分を停止することは公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞れがあるものと認められるから、行政事件訴訟特例法第十條第二項但書、民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 黒沢信夫)

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