大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 昭和38年(わ)348号 判決 1963年12月12日

被告人 岩田辰雄

大九・四・一二生 無職

主文

被告人を懲役三年に処する。

未決勾留日数中六〇日を右の本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和三八年九月二日午前零時ごろ、伊勢崎市八坂町五五一番地岩木まき方に赴き、同家玄関ガラス戸を足で蹴りつけ、ガラス二枚(時価六〇〇円相当)を破壊し、もつて同女所有の器物を損壊し、

第二、前同日午前一一時ごろ、同市南町三番地株式会社「和か奈寿司」こと河端実方店舗において、同人の妻河端喜代子(当時三七才)に対し「駒形に行くのだから一〇〇円貸してくれ」と要求し、同女からこれを拒絶されるや「それじやあまたやつて警察へ行くかな」などと同女に申し向け同年一月八日同店舗において木製椅子をもつて同店舗のガラス戸や鏡を破壊したことを想起せしめて同女を畏怖させ、同女がその要求に応じないときは同店舗を再度破壊する旨を暗示するなど同女方の財産に危害を加えるような気勢を示して同女を脅迫し、

第三、同月七日午後一一時三〇分ごろ、前記第一記載の岩木まき方に赴き、同女方において留守番中の同女の長男岩木秀夫(当時一八才)に対し「勝負をつけべえや」といいながら、やにわに所携の薪で同人の頭部を殴打して暴行し、

第四、同月一〇日午後六時三〇分ごろ、前記岩木まき方において、同女所有の柱時計一個(時価二、五〇〇円相当)を窃取し、

たものである。

(累犯前科)

被告人は(一)昭和三三年二月六日当裁判所において恐喝未遂、傷害、住居侵入罪により懲役八月に処せられ、同年九月五日右刑の執行を受け終り(二)昭和三四年二月三日同裁判所において恐喝未遂罪によつて懲役一〇月に処せられ、同年一一月二日右刑の執行を受け終り(三)昭和三五年二月二五日同裁判所において住居侵入、器物損壊罪により懲役一〇月に処せられ、同年一一月二四日右刑の執行を受け終り(四)昭和三五年一二月二六日同裁判所において器物損壊罪により懲役一年に処せられ、昭和三六年一二月二五日右刑の執行を受け終り(五)昭和三七年四月二六日同裁判所において恐喝未遂罪により懲役八月に処せられ、同年一二月一〇日右刑の執行を受け終り(六)昭和三八年二月一五日同裁判所において器物毀棄罪によつて懲役六月に処せられ、同年七月二五日右刑の執行を受け終つたものである。

(確定裁判を経た罪)

被告人は昭和三八年八月二八日東京簡易裁判所において傷害罪によつて罰金一万円に処せられ右の裁判は同年九月一二日確定したものである。

(情状)

被告人は伊勢崎市内において大工をしていた岩田正内の次男とて生育し小学校を卒えた後は同市内の糸屋に小僧となり約二年位、桐生市内の加工業者方に数年稼働し昭和一五年頃から終戦迄兵役に服し戦後復員し伊勢崎市内等で闇米のかつぎ屋等する内同二二年頃岩木まき方に入婿となり岩木方に入籍し同女との間に一男一女を儲けたが、その頃から競輪や賭博等の遊興にふけるに至り家出し、高崎、前橋等を転々し昭和二四年頃金銭に窮して自転車窃盗を犯し、その後も犯罪をかさね服役し、その間昭和三一年六月頃岩木まきとは離婚し岩田姓に復したのであるが、飲酒遊興の資金に窮する毎に同女方等に赴むいて金員を強要し拒絶せられるや乱暴狼籍に及ぶため被告人が刑を終えて出所する度毎に同女は子女を抱えて逃げまどう状態である。

被告人の自供によれば、「日本酒はいくら飲んでも酔わないからもつぱら焼酎を飲む。」

「焼酎で一升から一升五合位までは飲んだのを憶えている」という状況であり、酔えば正に酒乱となり、従前の前科もその殆んどが酔余の犯行である。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法第二六一条、罰金等臨時措置法第三条第一号に、判示第二の所為は刑法第二二二条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、判示第三の所為は刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、判示第四の所為は刑法第二三五条にそれぞれ該当するが、所定刑中判示第一ないし第三の罪については情状によつて所定刑中、いずれも懲役刑を選択し、判示第一および同第二の罪は前記累犯前科の(一)ないし同(六)の前科と七犯であり、また判示第三および第四の罪は前記累犯前科の(二)ないし同(六)の前科と六犯であるから、同法第五九条、第五六条第一項第五七条により累犯の加重をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、(判示確定裁判を経た罪について同法第四五条後段、第五〇条を適用)同法第四七条、第一〇条により最も重い判示第四の罪の刑に、同法第一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲において被告人を懲役三年に処する。未決勾留日数については同法第二一条によつてそのうち六〇日を右の本刑に算入する。

訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書によりその全部を被告に負担させない。

(量刑)

検察官の科刑意見は懲役一年を相当とするというのであるが、被告人は前記情状欄記載の如く酒癖極めて悪く、本件犯行の各被害者である岩木まきならびに岩木秀夫らに対し、前示の前科欄記載の如く、本件犯行と同種の事犯を反覆暴行し、被告人と岩木まきとの間に生まれ、同女の保護下にある子女(絹代一五才、昇八才)等の生活や就学等に脅威と支障を与えていること、および本件脅迫罪の被害者である河端喜代子および同人の夫である河端寒らに対しては、右前科欄記載(六)の如く、本年一月ごろ、同被害者方店舗において器物を損壊し、さらにその余の他人に対しても同種の犯罪を反覆しており、以上は毎回懲役五月乃至一年程度の実刑を繰り返えし受けていることならびに服役出所後極めて短日月の間に次の犯行に及んでいること等本件各証拠により認められる諸般の情状を考慮し、被告人の矯正および社会防衛の見地から考察すれば懲役一年というが如き短期の自由刑を科するにすぎないことは当を失するものであつて被告人の如き常習犯人に対しては相当長期の隔離が必要である、それ故、特に前記の様にその刑を量定する。

以上によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例