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前橋地方裁判所 昭和49年(ワ)237号 判決

原告

鹿沼賢

ほか一名

被告

長塩輝明

ほか二名

主文

一  被告長塩輝明は原告らに対し、各金八九万八、七〇一円およびこれに対する昭和四九年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その一を原告らのその余を被告長塩輝明の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告鹿沼賢、鹿沼よ志えに対しそれぞれ金四六一万五、二七〇円宛、及び各金員に対する昭和四九年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四九年四月二四日午前七時五〇分頃

(二) 場所 前橋市笂井町二六番地の四先路上

(三) 加害車両 普通小型乗用自動車(群五ね一五八八号)

運転者 被告長塩輝明

(四) 被害車両 自動二輪車(前橋市ま第三三号)

運転者 訴外亡鹿沼秀夫(以下、秀夫という。)

(五) 態様 秀夫が右路上を東方から西方に向けて進行中、対向車線を進行してきた加害車両が急に右折し、被害車両の進路に侵入したため被害車両は加害車両の左側中央部に衝突し、秀夫は転倒した。

(六) 傷害の部位・程度 秀夫は顔面挫傷・頭、胸部打撲・急性心不全等の傷害を受け、同年五月二日、富沢整形外科医院で死亡した。

2  責任原因

(一) 被告長塩輝明(以下、被告長塩という。)の責任

被告は、自動車運転者として、運転中は絶えず前方を注視し、右折に際しては直進車の進行を妨害せず安全に運転すべき注意義務があるのに漫然これを怠たり、急に右折して被害車の進路に侵入した過失により、被害車に衝突し、本件事故を惹起したものであるから民法第七〇九条により損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告大嶋盛雄(以下、被告大嶋という。)の責任

被告は、加害車両の所有者であり、自賠法第三条の運行供用者に該当するので、同法第三条により、原告らの損害を賠償すべき義務がある。

(三) 被告細野工業株式会社(以下、被告会社という。)の責任

被告会社は、土木建設工事請負を業とし、被告長塩を雇傭していたものであるが、同人が同社の業務の執行として加害車両を運転して同社構内に進入するに際し、急に右折したことにより本件事故が発生したもので被告会社は被告長塩の使用主として、本件事故により生じた原告らの損害を民法第七一五条により賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 秀夫の逸失利益 一、二九〇万〇、四七一円

(1) 秀夫は、当時群馬県立前橋商業高等学校第二学年に在学していた健康な男子であるので高校卒業後満二〇才で労働につき、満六三才までの四三年間就労可能であり、その間、一般的勤労者と同程度の収入を得ると考え、この間の生計費消分は五割とみるのが相当であるから、同人の事故時における逸失利益の現価は、一、二九〇万〇、四七一円である。

25,800,943×1/2=12,900,471円

(2) 原告両名は、秀夫の両親として右逸失利益を二分の一ずつの割合で相続した。

(二) 慰藉料 六〇〇万円

原告らは、唯一の息子で長男である秀夫を失つた悲しみは大きく将来の生活の支柱を失つたも同然であり、その慰藉料は原告各々三〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用 二〇万円

(四) 治療費 一二万五、九六〇円

秀夫が富沢整形外料医院で昭和四九年四月二四日から同年五月二日に死亡するまでに要した治療費

(五) 自動二輪車修理代 四万四、〇〇〇円

(六) 文書代 四、一〇〇円

(1) 診断書 四、〇〇〇円

(2) 事故証明書 一〇〇円

(七) 弁護士費用 一〇万円

(八) 損害の填補

自賠責保険から原告両名は一、〇一四万三、九九〇円の支払を受けた(各自五〇七万一、九九五円宛充当する)。

よつて、被告らに対し、原告両名は各四六一万五、二七〇円宛、及びこれらに対する昭和四九年四月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認める。

(二)  同1の(五)の事実中、被告車に秀夫運転の自動二輪車が衝突したことは認める。具体的態様は否認する。

(三)  同1の(六)の事実中、傷害の点は不知。秀夫が富沢整形外科医院で死亡したことは認めるが、同人の死は本件事故と何ら因果関係を有しない。

2(一)  請求原因2の(一)の事実中、被告長塩の過失態様につき否認し、責任があるとの点は争う。

(二)  同2の(二)は否認する。

(三)  同2の(三)の事実中、事故の態様及び被告長塩による被告車の運転が被告会社の業務執行中であるとの点は否認し、被告会社に責任があるとの点は争う。その余は認める。

3  請求原因3の(八)の事実は認める。その余は不知

三  抗弁

(過失相殺)

秀夫にも減速徐行義務・前方注視義務違反の過失があり、被告長塩の過失に比べると、本件事故の発生に寄与した割合は秀夫の方が多く、原告らは、既に自賠責保険から一、〇〇〇万円余りを受領しているから更に被告らに対し請求するものはない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の(一)ないし(四)の事実、加害車両と被害車両とが衝突した事実、及び秀夫が富沢整形外科医院で死亡した事実については、当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  本件事故の状況

〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められる。

本件事故現場は、二之宮方面から女屋町方面にほぼ東西に通じる国道五〇号線路上で交通量は多い。被告長塩は事故現場付近の被告会社へ通勤のため、二之宮方面に向け、本件加害車両で進行中事故現場付近に至り、右折して道路南側にある被告会社の駐車場へ進入しようとしたが、対向車線に車が連なつていたため、センターライン寄りに一時停止した。二分程して現場より西側にある信号が青に変わり、対向車線に連なつていた車は発進したが、丁度、加害車両の約七メートル前方に停車していた対向車がそのまま発進せず、同車運転者が被告長塩に対し手で通過合図をしたことに気を許し、同人は他の直進対向車の有無・動静等に注意を払うことなく、漫然右折態勢に入り、そのまま時速約五キロメートルで右駐車場に侵入しようとした。

折りから、前記停止対向車の後方左側を被害車両が女屋町方面に向け進行中であつたが、前記認定の如く、加害車両が急に右折して、被害車両の進路に侵入してきたため、同車は加害車両の左側方中央部に衝突し右衝突の衝撃により、秀夫は路上に転倒したものである。

〔証拠略〕によると、秀夫は本件事故により顔面挫傷・頭、胸部打撲等の傷害を負つたことが認められる。

〔証拠略〕によると、右認定に反する部分も一部あるが(一度に右折したのではなく、対向車の前で一旦停止し、他の直進対向車の確認をした)、前記各証拠によれば、現場は片側一車線となつており、せまいため自車後方車両の走行との関係で対向車による通過合図に気を許し、他の直進対向車の有無等に注意を払うことなく、急いで右折したことが容易に推認され、前記認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠もない。

2  本件事故と秀夫の死亡との因果関係

〔証拠略〕によれば本件事故により、秀夫は胸部打撲等の傷害を負い、富沢整形外科医院で入院加療中のところ、胸部打撲が悪化し、心臓のタンポナーゼを惹起し、それがため心臓が圧迫され、心不全を起し、よつて死亡するに至つたものと認定するのが相当である。本件事故の際、秀夫は頭部打撲も受けており〔証拠略〕によれば、同人には本件事故以前にも頭部に既往症のあることが認められるが、〔証拠略〕によると、心タンポナーゼは主に外傷性のものでなければ生じないことのみならず頭部打撲だけからは生じないと認められること、及び本件事故の際、秀夫には意識障害もなかつたと認められるから、〔証拠略〕と照し合わせてみると、頭部既往症は秀夫の死亡に寄与していないと認めるのが相当である。

前記認定の因果関係の存在につき、被告らは否認し、〔証拠略〕によれば、被告らの主張に沿うかの如き部分も認められるが、〔証拠略〕を総合すると、前記認定事実を覆すに足りる程のものではない。

3  被告長塩の責任

自動車運転者は、右折の際、対向車が連続して進行しており、その前方を横断することになる場合、対向車両の有無、及び動静を注視し、対向車に対して危害を加えないよう十分に安全を考慮して運転すべき義務があるというべきところ、前記認定事実によれば、被告は対向車線中央付近に停止していた対向車運転手が手で通過合図をしたことに気を許し、他の直進対向車の有無・動静に何ら注意を払うことなく漫然右折を開始し、対向車線に進入したため、本件事故を発生させたもので安全確認を怠つた過失があるといわねばならず、民法第七〇九条により過失責任がある。

4  被告大嶋の責任

(一)  〔証拠略〕によると、本件加害車両は、訴外長塩榮子が昭和四七年一二月に購入したもので、同人はその際車庫証明が必要なため、被告大嶋に依頼して、大嶋名義で車庫証明をとり、かつ大嶋名義で買受けたものであり、同車は所有者として大嶋名義で登録され、大嶋名義で自賠責保険にも加入していることが認められる。

また長塩榮子は被告大嶋の単なる知人に過ぎず、両者の間には特別の身分関係・従属関係もなく、被告大嶋としても、本件車両について、名義料を徴収したり、車庫証明をとつた車庫に格納していたということもなく、長塩榮子に単に名義を貸与していたにすぎないことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二)  前記認定によると、被告大嶋は本件車両の売買契約につき長塩榮子のために買主たる名義を貸与したものであつて、自賠責保険の締結、及び官庁への届出等の諸手続が被告大嶋の名をもつてなされたことも、同人が本件車両の買主名義になつていたからに他ならない。被告大嶋は右のように、自己の名義の使用を許したとはいえ、それは全く恩恵的なものに止まり、自動車の運行を支配し、またその運行により利益を享受しているものではないから、この事実のみでは、いまだ被告大嶋が、本件車両の運行供用者に該当するものとするには十分ではなく、他の本件全証拠をもつてするも、これを肯認するに足りない。

5  被告会社の責任

(一)  被告会社は土木建設請負を業とする会社で、被告長塩を従業員として雇傭し、同社の業務に従事させていたこと、及び被告長塩運転による本件加害車両が被告会社構内に進入する際、本件事故が発生したことについては、当事者間に争いがない。

(二)  被告会社代表者及び〔証拠略〕によると、被告長塩は本件加害車両(前記認定によると所有者は長塩榮子である)を通勤の便宜のために使用していたものであること、本件事故も通勤途上であつたこと、被告会社としては被告長塩に対し、通勤のための交通機関を指定している訳ではなく、又通勤のために交通費を支給していること、及び被告会社の仕事に関し本件車両の使用を命じたこともなければ、現に仕事に使用したこともないことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(三)  ところで民法第七一五条の「事業ノ執行ニ付キ」は厳密な意味での事業内容そのものの執行だけではなく、客観的・外形的にみて事業の執行行為と認められるような行為やこれと密接な関連をもつ行為を含むと解するのが相当である。しかし、被用者の自家用車による通勤途上の事故については使用者責任は否定さるべきであり、例外として責任を負うためにはその自動車の運行が使用者の業務とかなり密接に結びついていること、使用者がその使用を命令し、助長し、又は少なくとも容認していたこと等の特別の事情が必要である。

前記認定事実によれば、本件事故は被告長塩が母榮子所有の車によつて、ただ単に通勤する途上において生ぜしめたものというべきであり、他に特別の事情も存しないのであるから、これらの事実のみでは、いまだ被告長塩の本件加害車両の運転が客観的・外形的に見るも被告会社の事業の範囲に属するというには足らず、従つて本件事故が被告会社の事業の執行につきなされたとするには十分でなく、他の本件全証拠をもつてしても、これを肯認するに足りない。

三  過失相殺

前記認定事実によると、本件事故は、被害車両の直進進路上で対向車線から急に右折して進入した加害車両との衝突事故であるが、本件道路は自動二輪車制限速度三〇キロメートルのところ、〔証拠略〕によれば被害車両運転者たる秀夫も時速約四〇キロメートルで走行していたことが認められ、かつ〔証拠略〕によると、秀夫は、本件被害車両のハンドルを法規に違反して通常市販されているものより高く上に持上げた形に改造しており本件被害車両は安定性が悪く、とつさの時にバランスを崩し易くしていたことが認められる。右の違法は本件事故と因果関係があつたものと認められ、秀夫の右不注意は、損害賠償額の算定につき斟酌すべきところ、右事故の状況、双方の車の種類、結果の重大性その他諸般の事情を考慮すると秀夫の過失二、被告長塩の過失八の割合と認めるのが相当である。

四  損害

1  逸失利益

〔証拠略〕によると次の事実が認められ、これに反する証拠はない。秀夫は、昭和三四年五月一四日生れの男子で、事故当時、群馬県立前橋商業高等学校第二学年に在学し、満一六才で健康に成育しており、同校卒業後は労働者として稼働する予定であり、本件事故がなければ、満一八才より六七才に達するまで少くとも四九年間は労働して収益を挙げることができるものと推認しうる。「賃金センサス」昭和四八年度第一巻第二表によれば昭和四八年度における満一八歳から一九歳の一般男子労働者の平均年間給与額は、八一万七、六〇〇円となつており、秀夫の収入も、同人が満一八歳で就労したとすれば、右程度の金額を下まわるものではないと認めるのを相当とする。

秀夫の生活費はその収入の半分と認めるのが相当である。よつて秀夫の逸失利益の現価を求めるため前記平均給与額を基準とし年別ホフマン方式により、年五分の割合により中間利息を控除すると、九四五万二、六八二円となる。

81万7,600円×23,123×1/2(新ホフマン係数)=945万2,682円

注 新ホフマン係数は、就労の終期(67歳)までの年数51年(67年-16年)に対応する係数24.984から就労の始期(18歳)までの年数2年(18年-16年)に対応する係数1.861を差引いて算出したものである。

原告主張の収入上昇については、現今の労働・賃金事情等に照らしいずれも推測の域を出ないものというべく採用できない。

よつて、原告らは秀夫の父母として各二分の一に相当する四七二万六、三四一円宛の被告長塩に対する損害賠償請求権を相続したことになる。

2  葬儀費用

〔証拠略〕によると、原告らは、秀夫の死亡による葬儀を執行し、葬儀費用として約二〇万円を支出し、損害を受けたものと認められ他にこれに反する証拠はない。右金額は諸般の事情に照らし、社会通念上相当な支出と認められ、従つて、本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

3  治療費

〔証拠略〕によると、本件事故により秀夫は富沢整形外科医院に九日間入院し、その間の治療費として一二万五、九六〇円支払つたことが認められる(但し自賠責保険から支払われている)。

4  諸雑費

〔証拠略〕によれば、原告らは、本件事故により故障した自動二輪車修理代として四万四、〇〇〇円、診断書、事故証明書等文書代として四、一〇〇円を支払つていることが認められ、これに反する証拠はない。

よつて、以上損害合計は九八二万六、七四二円(各四九一万三、三七一円宛)(円未満切捨て)となるところ、前記過失割合を斟酌すると、そのうち原告らが被告長塩に請求しうる額は七八六万一、三九三円(各三九三万〇、六九六円宛)と認められる。

5  慰藉料

秀夫の父母である原告らが秀夫の死亡によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉すべき額は、本件事故の態様等諸般の事情を斟酌すると、慰藉料としては、原告ら各二〇〇万円宛とするのが相当である。

よつて損害合計は一、一八六万一、三九三円(各五九三万〇、六九六円宛)となるところ当事者間に争いのない自賠責保険金の填補額一、〇一四万三、九九〇円(各五〇七万一、九九五円宛)を控除すると一七一万七、四〇三円(各八五万八、七〇一円宛)となる。

6  弁護士費用

〔証拠略〕によると原告らは、訴訟代理人弁護士に本件訴訟を委任するにあたり金一〇万円を支払つたことが認められるが、被告らの抗争の程度、本件事案の性質、審理経過、前記認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告らの請求しうる相当因果関係にある損害費用としての弁護士費用は八万円(各四万円宛)が相当と認められる。

五  結論

よつて原告らの本訴請求のうち、被告長塩に対して原告らに対し各八九万八、七〇一円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和四九年四月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部逸夫)

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