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前橋地方裁判所 昭和50年(わ)354号 判決 1976年3月11日

本籍

群馬県前橋市表町一丁目六番地

住居

右同町一丁目六番一一号

会社役員

岸富夫

大正一四年一月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官岩崎栄之出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役四月および罰金八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、群馬県前橋市表町一丁目六番一一号に居住し、同市表町二丁目二七番二一号に本店をおく株式会社大岸商店の代表取締役をしている者であるが、同会社よりうける給与所得などのほか、なお横浜生糸取引所取引員の武州商事株式会社の横浜支店や蚕糸共同株式会社あるいは上毛撚糸株式会社横浜営業所の手を通じ生系の先物取引を行ない、また、前橋乾繭取引所仲買人の株式会社西田三郎商店の高崎出張所や山文産業株式会社の前橋営業所あるいは大山商事株式会社の手を通じ乾繭の先物取引を行なつていた者であるが、

第一  昭和四七年一月一日より同年一二月三一日までの間に、前記大岸商店より受けた給与による給与所得金額一、一八七、〇〇〇円、前記武州商事からの外務員報酬による事業所得金額二、一一六、八〇〇円のほか、なお、右生糸の先物取引による所得が一九、三四七、七六〇円あつて、総所得金額は二二、六五一、五六〇円となり、これに対する納付すべき所得額は納税済の源泉徴収税額を差引いて九、二四一、〇〇〇円であつたのに、昭和四八年三月一五日までに申告すべき所得税確定申告を、昭和四八年三月一〇日、群馬県前橋市表町二丁目一六番七号所在前橋税務署において、同署長に対した際、右年分の総所得金額を右のうち給与所得金額および事業所得金額の合計三、三〇三、八〇〇円のみである旨偽りその所得税額は源泉徴収税額を差引くと七五、一〇〇円であるとの虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により実際の所得金額と申告税額の差額九、一六五、九〇〇円の所得税を免れ、

第二  昭和四八年一月一日より同年一二月三一日までの間に、前記大岸商店より受けた給与による給与所得金額一、九三一、四〇五円前記武州商事からの外務員報酬による事業所得金額二、八八三、九七二円、神戸生糸株式会社・本田技研株式会社・株式会社大岸商店からの株主に対する利益配当による配当所得金額一七九、六二二円、宅地賃貸借の賃料による不動産所得金額四二、一八六円のほか、なお右生糸および乾繭の先物取引による所得が八八、五五〇、五五七円あつて、総所得金額は九三、五八七、七四二円となり、これに対する納付すべき所得税額は納税済の源泉徴収税額を差引いて五四、一一三、七〇〇円であつたのに、昭和四九年三月一五日までに申告すべき所得税確定申告を、昭和四九年三月一一日、前記前橋税務署において同署長に対しした際、右年分の総所得金額を右のうち給与所得金額、事業所得金額、配当所得金額および不動産所得金額の合計五、〇三七、一八五円のみである旨偽り、その所得税額は源泉徴収税額を差引くと二三四、二〇〇円であると虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により実際の所得金額と申告税額の差額五三、八七九、五〇〇円の所得税を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一、被告人の当公判延における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書三通

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書と題する供述録取書(昭和四九年四月二四日付、同月二五日付、同月二六日付、同月二七日付、同年五月一〇日付、同月一一日付、同年一〇月九日付、同月一五日付、同年一一月八日付)

一、被告人作成の答申書四通

一、米沢朝雄、大林正夫の検察官に対する各供述調書

一、前橋税務署長作成の昭和四九年八月二九日付証明書(岸富夫、岸真三郎、岸偉彦、岸けい子の各昭和四六年ないし四八年分岸 彦の昭和四七年および四八年の各所得税確定申告書写添付)

一、大蔵事務官作成の昭和四九年四月二七日付「武州商事株式会社横浜支店調査書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の「蚕糸共同株式会社調査関係書類」と題する書面

一、大蔵事務官作成の「上毛撚糸株式会社横浜営業所調査関係書類」と題する書面

一、大蔵事務官作成の昭和四九年一〇月二日付「株式会社大岸商店従業員に対する福分け明細調査書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の昭和五〇年二月四日付「国税査察官作成書類別表綴書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の昭和四九年一〇月一四日付「地代収入調査書」と題する書面

判示第一の事実について

一、大蔵事務官作成の「自昭和四七年一月一日至昭和四七年一二月三一日脱税額計算書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の「自昭和四七年一月一日至昭和四七年一二月三一日調査所得(調査による増減金額)の説明書」と題する書面

一、前橋税務署長作成の昭和五〇年二月七日付証明書(岸富夫の昭和四七年分所得税修正申告書写添付)

判示第二の事実について

一、大蔵事務官作成の「自昭和四八年一月一日至昭和四八年一二月三一日脱税額計算書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の「自昭和四八年一月一日至昭和四八年一二月三一日調査所得(調査による増減金額)の説明書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の昭和四九年四月二七日付「大山商事株式会社との取引による損害調査書」と題する書面

一、大蔵事務官作成の「山文産業株式会社前橋営業所調査関係書類」と題する書面

一、大蔵事務官作成の昭和四九年四月二七日付「株式会社西田三郎商店高崎出張所調査書」と題する書面

一、前橋税務署長作成の昭和五〇年二月七日付証明書(岸富夫の昭和四八年分所得税修正申告書写添付)

(法令の適用)

(1)  該当法条

判示第一および第二の各所為いずれも所得税法二三八条一項。

(2)  刑種の選択 いずれも懲役刑および罰金刑を併科する。

(3)  併合罪の処理 右は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については刑法四七条本文、一〇条によつて犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の、罰金刑については刑法四八条二項によつて各罪所定の罰金の合算額の各範囲内で処断する。

(4)  宣告刑 懲役四月および罰金八〇〇万円(脱税額は高額であるうえ、査察が始まつたことを知り修正申告したときにもなお所得を少額にみせており、かつ、本件犯行の動機についても、先物取引による所得は被告人のような場合雑所得とされ、損益通算が認められない不利な扱いを法制上うけることについて、先物取引はいわゆる浮き沈みのはげしい取引で、ある年度の取引に区切つて利益に課税することは、損失のあつた年度になんの手当もないことと対比すると著るしい不均衡であると称し、自己の行動を幾分か正当化しようとしているか、生計のもととなる職業活動による所得とそうでないものとの間に税制上の差異のあるのは当然であり、被告人としては投資活動を始めるに当り右のような税制についてはこれを承知したうえで先物取引を始めるか否かを決めるべきであり、なお右のような法制度に納得できないのであれば、行政訴訟その他によつて堂々とこれを主張すべきであつて、不実な申告によつてこれを免れようとすることは、許されないところであるなどの不利な情状はあるが、とはいえ右のような被告人の心情もある程度理解できるところであり、また被告人は、本件犯行自体、これを素直に認め、再びかゝる過ちは犯さない旨言明し、納税について努力を払つていることや被告人のこれまでの生活歴・性格・家庭状況などにはとくに非難に値するようなものはないなど有利な情状を総合勘案する。)

(5)  労役場留置 右罰金を被告人が完納することができないときは、刑法一八条によつて金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

(6)  右懲役刑の執行猶予 情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右のうち懲役刑の執行の猶予。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 谷川克)

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