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前橋地方裁判所桐生支部 昭和47年(ワ)10号 判決 1974年3月13日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告から原告に対する前橋地方法務局所属公証人荒巻今朝松作成昭和四四年第九三七号債務承認および弁済契約公正証書の執行力ある正本に基いて、別紙目録記載の物件につきなしたる強制執行はこれを許さない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、請求原因

(一)  原・被告間には被告を債権者、原告を債務者とする請求の趣旨記載の公正証書(以下本件公正証書という)が存在し、本件公正証書には(1)原告が被告に対し、金三八五、五〇五円の債務が存することを承認し、右債務を昭和四三年一一月から同四五年二月まで毎月七日限り各金二二、六〇〇円、同年三月七日限り二三、九〇五円に分割して弁済すること、(2)利息は年一・四六割、損害金は日歩九銭とすること、(3)原告は被告に対し、右分割金又は利息金の支払いを一回にても遅滞したとき、原告が他の債務のため所有財産に対し強制執行又は執行保全の手続を受け若しくは、競売破産の申立があつたときは未済金全額を直ちに弁済しなければならず、履行しないときは催告を要しないで強制執行を受けても異議がないことを認諾することなる記載がある。

(二)  しかし、本件公正証書は左の事由により、その効力がない。

1 本件公正証書は被告の従業員である佐藤融、大沢洋が公証人荒巻今朝松と共謀の上、原告の印鑑を乱用して委任状を偽造し、偶々被告の手元にあつた原告の印鑑証明書とともにこれを行使して、原告が全く知らないうちに作成されたものである。

2 仮に右主張が容れられないとするも、本件公正証書の金三八五、五〇五円の内訳は(1)原告が被告から昭和四二年一二月一一日自動車(ニツサンサニーダツトサンバン)(以下本件自動車という)を代金四三二、〇〇〇円で買受けた残代金三四〇、〇〇〇円、(2)同四三年一一月七日から同四五年三月七日までの右残代金に対する利息金四二、一〇五円、(3)手形取立料金三、四〇〇円からなるものであるところ、原告は被告に対し、本件自動車の売買契約(以下本件売買契約という)に際し、昭和四三年一一月から同四五年二月まで各月七日を満期とする額面各二二、六〇〇円の約束手形および同年三月七日を満期とする額面金二三、九〇五円とする約束手形を振出し、前記売買代金は右各手形金の支払いで行う旨約した。そうすると、原・被告間の本件売買契約は割賦販売法第六条の適用を受け、右三四〇、〇〇〇円に対する利息は年六分をもつて計算さるべきであり、又、手形取立料も手形一枚当り一〇〇円をもつて相当とする。しかし、原・被告間の本件売買契約は昭和四四年四月中に合意解約されたから、原告は被告に対し、右元金三四〇、〇〇〇円、これに対する六ヶ月分の利息金一〇、二〇〇円および手形取立料五枚分五〇〇円、合計三五〇、七〇〇円を支払えば足りることになる。ところで、原告は被告に対し、同四三年一一月から同四四年二月まで前記各手形金二二、六〇〇円および同年四月、二二、六〇〇円、合計一一三、〇〇〇円を支払い、一方被告は、原告から本件自動車を引き上げ、金二八〇、〇〇〇円で換価して、原告の本件公正証書上の債務に充当したから、結局、本件公正証書上の債務は全部消滅している。

3 (1)原告は被告に対し、昭和四四年三月初め、前記手形中同年三月七日満期以降の手形の支払いができないので、本件売買契約を解約し、車輌を第三者に売却して残債務の弁済に充当してもらいたい旨の意思表示をし、右意思表示はその頃被告に到達している。従つて、被告は直ちに原告の意にそうように、自動車の換価措置をすべきであつたにもかかわらず、被告は原告振出しの前記手形を不渡りにし、原告に対し致命的損害をこうむらしめた。これにより、原告が受けた精神的苦痛が慰藉されるには、金五〇万円が支払われなければならない。(2)更に、被告は原告に対し、本件売買契約解約後の自動車損害賠償責任保険契約の残存期間八ヶ月分の保険料七、〇八〇円を返還しなければならないから、原告は、右各債権をもつて、本件公正証書上の債務と対当額において相殺する。従つて、本件公正証書上の債務は存在しない。

(三)  しかるに、被告は原告に対し、昭和四七年一月一七日、本件公正証書に基ずいて、別紙目録記載の物件につき強制執行をした。

(四)  よつて、本件公正証書は真実の権利関係に符合しないから、原告は請求の趣旨記載の判決を求めるものである。

二、請求原因に対する答弁および主張

(一)  答弁

請求原因(一)および(三)の事実は認める。同(二)1の事実は否認する。同(二)2の事実中、本件売買契約が存在したこと、右売買契約が解約されたこと、原告主張のとおりの金員支払いの約束があつたこと、原告が合計一一三、〇〇〇円を支払つたこと、被告が当該自動車を売却して換金したことを認めるが、その余の主張は争う。同(二)3の事実中原告が手形金の支払いを怠つたことは認めるが、その余の主張は争う。

(二)  主張

原・被告間に本件公正証書並びに本件公正証書上の債権が存在する事情は次のとおりである。

1 原告は被告に対し、昭和四二年一二月一一日現在、本件売買契約に基ずく自動車代金等合計四一一、〇七〇円の債務があつたところ、これを返済するため、訴外株式会社富士銀行から右金員に銀行利子を加えた四五九、九一〇円を借受け、同銀行に対し、右借入金を昭和四三年二月六日限り金二〇、六一〇円、同年三月から同四五年一月まで毎月六日限り各一九、一〇〇円に分割(二四回払い)して支払う旨約し、被告および訴外日産信用保証株式会社が、右原告の債務を連帯保証した。しかし、原告は右分割払い債務を三回目まで(合計五八、八一〇円)は弁済履行したが、四、五回目の(合計三八、二〇〇円)の支払いを遅延して支払い、六回目以降は不履行であつた。そのため、原告が六、七回目の分割債務(合計三八、二〇〇円)を弁済し、訴外日産信用保証株式会社が三〇五、三二九円(期限の利益を失つたため、第八回分以降二四回分迄の弁済合計三二四、七〇〇円から金利返還分一九、三七一円を差引いた残額)を弁済し、次いで、被告が訴外日産信用保証株式会社から三〇五、三二九円の求償権を取得し、被告の原告に対する求償債権は合計三四三、五二九円となつた。そこで、被告は原告に対し、右金三四三、五二九円の支払いを請求したところ、原告は被告に対し、昭和四三年一〇月七日三、五二九円を弁済し、残金三四〇、〇〇〇円については、本件公正証書に記載のとおり分割して弁済するものとし、各期限を満期とする手形を振出すこと並びに分割弁済のための金利四二、一〇五円および手形取立料三、四〇〇円を支払うことを約した。

2 そして原告は右約旨を公正証書とするため、請求の趣旨(一)中の(1)ないし(3)記載と同一内容の意思表示をして、その旨の公正証書を作成するため、訴外大沢洋を代理人に選任し、委任状および印鑑証明書を交付したので、右大沢および被告の代理人佐藤融および公証人荒巻今朝松により本件公正証書が作成されたのである。

3 そして、原・被告間には、本件売買契約の際「原告が債務不履行の場合は、被告は本件自動車を回収し、自動車の価額(被告が日本自動車査定協会の査定を受けたときはその査定価額とする。)をもつて求償債権と対当額において相殺する。」との約束がなされており、被告は右約旨に従い、原告から本件自動車を回収し、日本自動車査定協会の査定を受けたところ、その査定価額は一七七、〇〇〇円であつたので、被告は昭和四四年四月二〇日、右査定価額と求償債権とを対当額において相殺した。従つて、本件公正証書上の債権は三八五、五〇五円から被告の弁済金一一三、〇〇〇円に査定価額一七七、〇〇〇円を加えた二八〇、〇〇〇円を減じた九九、五〇五円が存続しているのである。

三、当事者双方の証拠(省略)

(別紙)

物件目録

<省略>

<省略>

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