前橋地方裁判所高崎支部 昭和44年(ワ)195号 判決 1971年8月09日
原告(建物明渡請求及び中間確認の各訴につき) 島方定吉
原告(建物明渡請求の訴につき) 島方美代
右原告両名訴訟代理人弁護士 平山林吉
補助参加人(中間確認の訴につき) 石在煥
被告 金清吉
<ほか一名>
右被告両名訴訟代理人弁護士 笹原桂輔
主文
一、原告島方定吉、補助参加人石在煥及び被告金清吉を組合員とする組合風俗営業遊技場いこいホールが昭和四四年六月三〇日解散したことを確認する。
二、被告李重錫は原告らに対し、別紙目録記載の家屋のうち別紙図面に示す地階の玉磨場(七、四〇平方米)、一階の客室(二六九、六一平方米)、自転車置場、二階の従業員室(二一七、六三平方米)、事務室の各部分を明渡せ。
三、被告金清吉は原告島方定吉に対し、右家屋のうち第二項掲記の各部分において遊技場の営業に属する一切の行為をしてはならない。
四、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五、訴訟費用は、原告らと被告李重錫との間に生じた分は同被告の、原告島方美代と被告金清吉との間に生じた分は同原告の、補助参加人と被告金清吉との間に生じた分は同被告の、各負担とし、原告島方定吉と被告金清吉との間に生じた分は、之を四分し、その一を同原告の、その余を同被告の負担とする。
六、この判決は、原告らにおいて被告李重錫のため金三〇万円の担保を供するときは、第二項に限り仮に執行することができる。
事実
(当事者の求める裁判)
第一、原告ら
一、被告らは原告らに対し別紙目録記載の家屋のうち別紙図面に示す地階七、四〇平方米の玉磨場、一階二六九、六一平方米の客室自転車置場、二階二一七、六三平方米の従業員室、事務室の各部分を明渡せ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
右判決並びに仮執行の宣言。
二、主文第一項と同旨の判決。
第二、被告ら
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
(当事者の主張)
第一、原告らの主位的請求原因
一、別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という)は原告らの共有(持分は各六分の三)である。
二、原告島方定吉、補助参加人石在煥及び被告金清吉の三名が昭和三九年六月一日組合契約により風俗営業遊技場(ぱちんこ店いこいホール)を経営するに際し、右家屋のうち別紙図面に示す地階を玉磨場、一階を店舗、二階を事務所兼従業員室として、それぞれ組合において使用することを原告らは許容した。
三、右組合契約においては、原告定吉は同美代の同意を得て、組合契約の存続期間中本件家屋のうち前記図面表示の部分を営業用に使用させること、営業用資金として、被告金が四五〇万円、参加人石が一〇〇万円を出資すること、営業許可名義人は被告金とすること、損益分配の割合は原告定吉、被告金が各一〇分の四、参加人石が一〇分の二、組合の存続期間は発足の日より五年間とすること、等を定め、昭和三九年六月二二日いこいホールは開店した。
四、その後右営業は順調に成績を挙げて来たが、昭和四四年六月三〇日を以て組合の存続期間が満了し、事業が成功裡にその目的を達成したこと、最近になって被告金が従業員から排斥されたり、被告金と原告定吉、参加人石との間に不和を生じたこと、等の事情があったので、第一次的には「組合の目的たる事業の成功」したこと、予備的には「已むことを得ざる事由ある」ことを理由として、同年六月三〇日付、同日到達の書面で、被告金に対し右組合解散の請求をしたので、組合は同日限り解散した。
五、次いで同年七月七日いこいホール事務所において組合総会が開催され、組合員三名中二名の過半数を以て、清算人として訴外吉本福治郎を選任し、同人は直ちに就任を承諾した。
六、ところが同年七月三日被告金は、組合解散により閉鎖されてあった本件家屋の店舗のシャッターをこぢ開け、ロッカーの施錠を取外すなどして強引に開店し、その後勝手に造作を変え、機械の入れ替えをし、又本件店舗は自分が賃借したものであると主張して家賃を供託するなど、本件家屋の別紙図面表示の部分を不法に占有し、営業を継続して今日に至っている。
七、被告李は組合契約に無関係な者であるが、一部の出資をした組合員であると主張し、被告金と共に本件家屋のうち別紙図面表示の部分を占有し、営業に関与している。
八、以上の通り本件組合は昭和四四年六月三〇日解散したにも拘らず被告らは之を争い、原告らに対抗し得る何らの権原なくして本件家屋中右図面表示部分を占有し営業を継続しているので、原告定吉は、被告金に対しては、右組合が同日解散したことの確認を又原告らは被告両名に対し所有権に基き、本件家屋のうち別紙図面表示部分の明渡を求めて本訴に及ぶ。
第二、原告定吉の予備的請求原因
原告定吉は同美代の承諾を得て、本件家屋の使用権を組合に出資したものであるが、仮に組合の解散以後、なお清算の結了に至る迄右使用権が組合員の準共有に属するとしても、準共有の権利の目的物に侵害を加える者が有る場合には、その者が他の準共有者であると第三者であるとを問わず、各準共有者は単独で準共有の権利の目的物全部に対する妨害の除去又は占有の返還を求め得るものと解すべきところ、本件の場合、準共有者の一人である被告金において、組合解散後も他の準共有者である原告定吉及び参加人石を全面的に排除して本件家屋を占有し、勝手な振舞に及んでいるのであって、被告金が準共有者の一人として、その持分に応じ、準共有の権利の目的物を使用、収益すべき権能を有するとしても(本件の場合既に解散後であるから事情を異にする)、その具体的な使用収益の方法については他の準共有者との協議によることを要し、之無くしては他の準共有者に対する関係において、準共有の権利の目的物を使用、占有すべき正権原を有するものではない。しかもその事によって、組合の清算事務の遂行そのものを不可能ならしめているのであるから、原告定吉は、被告金に対し、準共有者としての権限に基き、本件家屋の同被告占有部分の明渡を求める次第である。
第三、被告らの答弁
一、主位的請求原因について
(一) 原告ら主張の第一、一、の事実は認める。
(二) 同第一、二、の事実は否認する。
(三) 同第一、三、の事実中いこいホールが営業許可名義人を被告金として原告ら主張の日に開店したことのみ認め、その他は否認する。
(四) 同第一、四、の事実は、被告金に対して原告ら主張の如き解散請求があったことのみ認め、その他は争う。
(五) 同第一、五、の事実は争う。
(六) 同第一、六、の事実中被告金が営業を継続し、本件家屋の原告ら主張の部分を占有していること、家賃を供託していることは認めるが、その他は争う。
(七) 同第一、七、の事実中被告李が組合と無関係であるとの点を争い、その他は認める。
二、予備的請求原因について、
原告定吉の主張はすべて之を争う。
第四、被告らの抗弁
一、被告らはいこいホール経営の必要上原告らからその所有の本件家屋を賃借したのである。すなわち、被告らが当初右家屋を賃借する際に、原告らに権利金として二〇〇万円を支払い、期間の定めなく、賃料は毎月定額の一〇万円を毎月末日限り支払う。
ほかに、被告らの営業上の収益高に応じて一定の割合を付加して支払うという約定で賃借し、以後右賃借権に基き本件家屋を店舗として適法に使用占用している。
二、仮に右主張が認められず、いこいホールが組合であるとしても、原告ら主張の如き解散事由は存在せず、右組合は解散されることなく存続しているから、その組合員である被告らは、組合財産として出資された本件家屋の使用権に基き、之を店舗として使用、占有する権原を有する。
三、仮に右主張が認められず、いこいホールの組合が原告ら主張の如く解散されたとしても、未だ清算は為されていない。そして原告定吉によって出資された本件家屋使用権は組合財産を構成しており、しかも本件組合は原告定吉、参加人石のほか被告両名をも組合員とするものであって、被告らは右組合財産に対し準共有権を有するものである。被告らは、組合財産たる本件家屋の使用権に基き、保存行為の範囲内で之を使用占有しているにすぎず、又組合財産の清算による残余財産の分配を受ける迄は、その占有物を留置する権利を有するものであるから、原告らの明渡請求には応じられない。
(証拠)≪省略≫
理由
第一、原告らの主位的請求について、
一、本件家屋が原告らの共有に属することは当事者間に争いのないところ、≪証拠省略≫を総合すれば、昭和三九年五月頃原告定吉、補助参加人石及び被告金が共同して遊技場(パチンコ店)を経営することを協議し、原告定吉は本件家屋の共有者で妻の原告美代の承諾を得て家屋の使用権を出資してその店舗に提供すること、被告金が四五〇万円、参加人石が一〇〇万円の金銭を出資すること、利益分配の割合は、原告定吉、被告金が各四割、参加人石が二割とすること、名称をいこいホールとすること等を決定して、右三名による組合契約を締結し、之に基き原告定吉がそれ迄「甲子」という屋号で営む食堂に使用していた本件家屋をその店舗に提供し、金と石とが約定の額の金銭を出資し、之を担保に銀行から借財して右家屋をパチンコ店(遊技場)に改装し、被告金名義で営業許可を得た上同年六月二二日いこいホールとして開店したことが認められる。
二、被告らは、本件家屋を原告らから賃借したと主張するのであるが、前掲証拠によれば、組合として本件家屋で遊技場を開業するについて、原告定吉が前に「甲子」という屋号で食堂を営業していたのを廃業し、その店舗であった本件家屋をいこいホールの営業用店舗として提供するにつき、補償として定吉に二〇〇万円を支払ったこと、その後一年位してから家賃名義で毎月五万円宛、昭和四一年一月からは毎月一〇万円宛を原告らに支払っていたこと、そのほかに収益高に応じて、原告定吉に毎月約四〇万円、時としてはそれ以上の金額の利益を配当していたこと、がそれぞれ認められるのであって、右の事実からすれば、組合が本件家屋の使用権を取得する法形式は、一面において賃貸借たる性格を否定し得ないのであるが、他面、本件家屋が遊技場経営に極めて好適な位置に在って、大きな収益を生む見込があるので、かような場所に在る本件家屋が、単なる定額の賃料の支払を以て補償し切れぬ余剰の価値を保有するところから、かような価値を保有する本件家屋の使用権が遊技場の店舗の為出資の目的となされたものと考えられるが、いずれにせよ、本件家屋の使用権の主体は、被告ら個人ではなく、組合であることに変りはないのである。
三、原告らは、本件組合は原告定吉の解散請求により解散し被告金の占有権原は消滅したと主張するので、その当否を検討する。
(一) 原告らは、右組合の存続期間を五年と定めたと主張し、≪証拠省略≫中には同趣旨のものがあるけれども、他方右証拠により、原告定吉や参加人石としても、五年を経過した後に、条件によっては営業を継続しても差支ないと考えていたことが認められるので、右の期間は必ずしも確定的なものとは云えないのである。
次に、民法六八二条の定める解散事由としての「目的たる事業の成功」とは、予定した事業が完了し、もはや組合を存続させる理由が無くなったことを意味するものと解すべきであるが、前掲証拠によれば、本件パチンコ店は開業後順調に成績を挙げ、五年を経過した頃も依然として繁昌を続けていたことが認められるのであって、かような事実は、今後も営業を継続する理由とはなっても、目的を終了したとして、組合を解散する理由とはならないというべきであるから、目的たる事業の成功を理由とする原告定吉の組合解散請求は理由がないといわねばならない。
(二) 更に前掲証拠によれば以下の事実が認められる。すなわち、本件組合は、原告定吉、参加人石及び被告金の三名で発足したものであって、被告李は、同金の依頼により、金の出資金の一部に当る一五〇万円を拠出したけれども、それは李と金との内部関係にすぎず、他の組合員たる原告定吉や参加人石から正式に組合員として承認されたものではなかった。それにも拘らず被告李は、時々いこいホールに出入して店員を指図したり、帳簿を見たりするなど、店の仕事に関与していたが、昭和四〇年一二月頃、岐阜から高崎に店を移してからは、屡々店に出入して経営に容喙し、恰も共同経営者であるかの如く振舞い、原告定吉や参加人らのひんしゅくを買うことが多かった。そこでいこいホールの開店から五年を経た昭和四四年六月、原告定吉は被告金に対し、同李がいこいホールの仕事に関与することを禁止するよう申入れたところ拒否されたので、組合員でない被告李が今後もいこいホールの経営に介入するならば、組合を解散して手を引く旨を主張し、石も之に同調したので、飽く迄被告李と共にいこいホールの経営を続けることを主張して止まない被告金との間で意見が真向から対立し、屡々折衝を重ねたけれども意見を調整することができないまま益々対立が激化し、茲に組合の運営を円満に続けることは困難な情況に立至ったのである。
以上の事実が認められるのであるが、かような場合民法六八三条にいう「已ムコトヲ得サル事由」ありと云えるから、組合員たる原告定吉や参加人石は組合の解散請求を為し得るものというべきである。そして同年六月三〇日原告定吉と参加人石から被告金に対し対本件組合解散請求の意思表示を為したことは争いないので、同日限りいこいホールは解散したと認められる。そうすると、被告金は組合員であっても、以後通常の営業の目的の為本件家屋を使用、占有し得ないことは明かである。
四、原告らは、組合の解散により被告らの本件家屋の占有が不法となったと主張するのに対し、被告らは、組合員として、組合財産としての家屋に対する使用権に基き清算結了迄はなお明渡請求に応じられないと抗争するので、この点について判断を進める。
(一) 前認定のように、被告李は終始組合員でなかったのであるから、組合の店舗等に使用される本件家屋に対し何らの占有権原を有しないこと明かであって、同被告に対する原告らの明渡請求は理由がある。
(二) しかし乍ら本件組合は解散後においてもなお清算の目的の為存続するのであって、之に帰属する財産は清算の対象となる組合財産として、組合員の共有又は準共有に属するといわねばならない。そしてかような組合財産の清算は清算人の職務権限に属するのであって、組合解散後と雖も各組合員が勝手に自己の出資した組合財産を手許に回収することは許されないのである。けだし、組合財産は、清算手続の過程において、或は組合債務の弁済の必要上他に譲渡その他の処分が為されることがあり、或は残余財産として分割されるべき場合に、之を評価して、他の組合員との間に公平に配分されなければならないからである。この事は本件家屋の賃借権乃至使用権(以下包括して単に使用権という)が組合財産を構成する場合も同様であって、清算手続を進める為、清算人において之を譲渡又は転貸することもあり得るし、又残余財産として家屋使用権を分割する場合に、之を評価して、所有者たる組合員には使用権を回収させ、準共有権を有する他の組合員に対しては、当該権利に相当する額の金銭を支払う等の方法を執ることもあるであろう。そしてかような手続が清算人の権限に属すべきことは云う迄もないのであるから、組合員が自己の出資した組合財産を各自単独で手許に回収することは、組合財産を散逸させ、清算手続を著しく困難にすることとなり、許されないというべきである。
本件において、原告らが明渡を求める本件家屋は、その使用権が出資されて組合財産を構成し、原告定吉、参加人及び被告金が右使用権を準共有しているのであるから、原告らの有する右家屋所有権は、組合財産の清算結了に至る迄、なお清算の目的の為拘束を受けており、その清算手続を経ることなくして原告定吉が単独で被告金に対し使用権の目的となっている家屋の明渡を請求することは許されない。
又原告美代としても、本件家屋の共有持分につき使用権を出資することを承諾しているのであるから、組合員たる被告金に対して明渡請求をすることは許されないのである。
第二、原告定吉の予備的請求について、
一、遊技場の営業を目的とする本件組合が昭和四四年六月三〇日解散したことは前認定の通りであって、以後組合は清算の目的の為にのみ存在するのであるから、組合の店舗である本件家屋における一切の営業行為が停止されねばならないことは当然である。しかるに被告金がその後も営業を継続し、その為右家屋のうち原告ら主張の部分を占有していることは同被告の認めるところである。
ところで、組合が解散した後に組合員の一人が組合財産を使用して営業を行なう行為は、その財産の価値を減損し、他の組合員の之に対して有する持分権を直接侵害する行為と云えるから、その組合員は自己の持分権に基き右侵害行為の排除を請求し得べきである。そして被告金の供述その他弁論の全趣旨によれば、同被告が本件家屋で行なっている営業は保存行為の範囲を超えているものと認められるので、原告定吉は本件組合員として有する本件家屋の使用権に対する準共有権(持分権)に基き、被告金が本件家屋において行なう一切の営業活動の停止を求め得るのである。
二、なお原告定吉は、被告金に対し本件家屋占有部分の明渡を請求しているが、組合の解散後組合員は営業活動を行なうことはできなくても、清算結了に至る迄は、組合財産につき持分権を有し、又清算事務を監視する権限を有する(民法六七三条類推)のである。本件において被告金は、弁論の全趣旨により本件家屋に存すると認められる他の組合財産(機械、器具、什器、備品等)につき持分権を有し、且つ右家屋に立入って組合財産を検査したり、帳簿を閲覧する等の行為を為し得るのであるから、同被告としては、本件家屋の占有部分につき依然として占有権原を失わないというべきである。
三、しかし乍ら本件家屋占有部分の明渡請求は、その前提として、右家屋において現在行なわれている営業活動の停止の趣旨を包含するものと解されるので、同被告の、右家屋における一切の営業行為の停止を求める部分に限り正当と認められる。
第三、結論
以上の次第であるから、原告らの被告らに対する本訴請求は、原告定吉と被告金との間において、本件組合が昭和四四年六月三〇日解散したことの確認を求める部分及び被告李に対し本件家屋占有部分の明渡を求める部分並びに、原告定吉より被告金に対し右家屋占有部分における遊技場の営業に属する一切の行為の停止を求める部分に限り正当としてこれを認容すべきであるが、その余はいずれも失当として棄却すべきものである。
よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小西高秀)
<以下省略>