大判例

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前橋家庭裁判所 事件番号不詳 決定

少年 H(昭和一四・二・二七生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

犯罪事実

少年は

昭和三二年五月一三日午後三時四〇分頃、同人に対する前橋家裁昭和三二年少第一二三八号窃盗並びに贓物牙保保護事件(身柄付)につき前橋家庭裁判所第二号審判室において、同裁判所裁判官神村三郎より中等少年院送致決定の言渡を受けたところ、漫然帰家できるものと期待していた少年は失望して激こうし、とつさに審判廷を混乱させ、その間に逃走しようと企て自己の着席していた木製椅子を振りあげ、これを同裁判官の頭部目がけて投げつけて暴行を加えもつて同裁判官の公務の執行を妨害したものである。

法令の適用

刑法第九五条第一項。

保護処分に付する理由

少年は二才の折母に死別し、その後は父方の祖母が母代りとなつて少年を保育した。

永年古物商を営んでいた少年の父は少年の小学二年生(昭和二一年)頃から衣類行商に転業し、ほとんど家を外にして働くようになつた。

勢い少年は甘やかされ放任されて生育し、学校は欠席も少なく卒業したもののその成績はおおむね不良であつた。中学校卒業後少年は二年ほどの間に、製菓会社の工員、食堂、八百屋、そば屋の店員等を転々としたが、どこでも持前の倦き易く我儘な性格から永続きがせず、その後は土工として新潟、横浜、秩父方面に気儘に出稼ぎにいくようになつた。

そうして次第に少年は勤労の意欲を失い、家にあつて徒食の間素行不良の者と交わり、前件窃盗、贓物牙保の非行を犯し、当庁に事件係属して中等少年院送致の保護処分を受けるに至つたものである。

前橋少年鑑別所の鑑別結果によると少年は意志が薄弱で不定、欲求を社会生活に適応した手段で解決する方向をとらず、短絡的に非行を反復する傾向を持つている。又中学校における担任教師の回答書によれば学習態度は極めて消極的でその性格所見は短気粗暴で持続性がなく、且つ、親しい交友関係もなかつたことが認められる。

このような少年の性格は母を欠損し、明るい雰囲気に欠けた家庭と共に終戦前後の荒廃、混乱した時代の風潮とから大きな影響を受けたことは否めない事実である。

少年の人格形成について重要な時機がこのような環境にあつたことは少年にとつてまことに不幸であつた。

少年にとつてこれらの悪条件が少年の非行の縁由として存在していることは当裁判所もこれを認めるが、しかし最終的にこれらにいかに処するかは少年自身の問題であつて、これをもつて少年の非行に対する責任を解除するものではない。

本件少年は自己の非行に対し何等反省自覚するところがなく、裁判所の処遇に関し漫然臆測を加え、自己の意に満たない故をもつて決定裁判官に対し本件非行を犯すに至つた。

このように、おおむね正常の知能を有し且一八才にも達した少年が合法的手段によらずして敢えて裁判所の権威を冒涜したことはただに少年の未成熟、思慮の浅薄の故をもつて恕しえないところである。

思うに本件非行は少年の自己中心的で罪責感の薄い性格負因を露呈したものであり、その犯罪的傾向が深く潜在しているものに外ならない。

そこで少年の処遇について考えてみるのに、当裁判所は一般予防の面を軽視しえないものではあるが、少年を現段階において刑事処分に付するのは一層少年の心情を歪め、その将来を図る上に妥当でなく、且、少年には未だ可塑性があるのでより強度な矯正教育によつて自己内省と忍耐心を養い、その非行性を改善しうるものと認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項後段、少年院法第二条第四項に則り主文のとおり決定した。

(裁判官 高野一郎)

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