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前橋家庭裁判所 平成5年(少)998号 決定 1993年8月19日

少年 H・M子(昭53.5.31生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

押収してあるシンナー様液体3本(平成5年押第82号の1ないし3)、ビニール袋に入った乳白色のもの3袋(同号の4ないし6)はいずれもこれを没取する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  触法少年A子(13歳)と共謀して、平成4年10月30日午後4時ころ、群馬県渋川市○○××番地B方庭先において、同人所有の原動機付自転車一台(時価3万円相当)を窃取した

2  少年C子と共謀して、平成4年12月24日午後9時30分ころ、群馬県勢多郡○○村大字○○××番地の×H・M子の自室において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物として政令により定められたトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入した。

3  少年D子と共謀して、平成4年12月25日午前5時ころ、群馬県勢多郡○○村大字○○××番の4H・M子の自室において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物として政令により定められたトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入した。

4  平成4年12月25日午前10時ころ、群馬県勢多郡○○村大字○○××番地の4H・M子の自室において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物として政令により定められたトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入する目的で所持した

ものである。

なお、少年については、平成5年7月1日群馬県中央児童相談所長より児童福祉法第27条第1項4号、少年法第6条1項によりぐ犯として事件送致(平成5年少第839号ぐ犯保護事件)され、その審判に付すべき事由は、別紙送致書記載の通りであるが、本件各記録によれば、前記認定の本件1ないし4の非行事実は、上記ぐ犯性が現実化したものであって、ぐ犯については、上記各犯罪行為に吸収されるから、ぐ犯は、上記各犯罪行為に関する処分に際し、情状として考慮することとして、処分に付さない。

(法令の適用)

1の事実につき、刑法235条、60条

2ないし4の事実につき、毒物及び劇物取締法第3条の3、第24条の

3、同法施行令第32条の2、刑法60条(但し、

4の事実につき、刑法60条を除く)

(処遇の理由)

1  少年の家庭は、その父において、少年が幼少の頃ギャンブル癖があり、そのため、両親が不和で葛藤の多い家庭であって、少年は、その精神的安定を母に依存していたが、そのうち母は、父に対する不満をアルコールで紛らすようになり、少年が小学4年当時、既に母は、アルコール依存が進み、一旦飲み出すと醜態を晒す日常であった。

少年が中学に入学し、自我が確立されてくると少年は、家庭内の不満や父母に対する不信感、反発を発散させる方法として、少年を承認し、受容してくれる素行不良の少年達と交遊するようになり、次々と逸脱行動に走り、現在では少年は、家庭では満たされない愛情、依存欲求を不良仲間らに強く親和し、それに依存することで代償的に満たし、先を見通した行動がとれず、快、不快のレベルで判断し、後記するように、その安易、逃避的かつ、ぐ犯的な行動は、簡単にはおさまらない状態にある。

2  少年は、中学1年の夏休み後から不良少年らと付き合うようになり、喫煙、シンナー吸引を覚え、中学2年時には、無断外泊、不純異性交遊、怠学多く、シンナー吸引及び原付バイクの無免許運転も常習化した。中学2年の夏頃には、女子暴走族「甲」に加入し、シンナー吸引は売人から購入して一人で吸うことも多く、中学2年の後半から幻覚を見るようになり、その耽溺、依存はかなり進んでいる。

3  (1)少年は、平成5年3月9日、児童相談所に一時保護された後、教護院への措置が適当とされたが、教護院入所を拒否したため「登校する、夜12時までに帰宅する」等を誓約して在宅での児童福祉司の指導を受けることとなり、同月22日、一時保護は解除された。

(2)少年は、平成5年4月中学3年に進級したが、登校の意思は希薄で、相変わらず夜間徘徊や無断外泊、シンナー吸引、バイクの無免許運転を繰り返していたので、平成5年5月26日、一時保護され、同月28日、教護院「群馬学院」に入所した。

少年は、児童相談所、学校の教師及び両親から右入所することの説得に応じないと、家庭裁判所送りになる旨、言い渡されていたため、消極的に右一時保護及び群馬学院への入所に応じたものである。

(3)少年は、群馬学院に入所7日目の同年6月5日、同学院に入所中の児童と二人で群馬学院を無断外出し、同月23日、自宅に帰宅した。少年は、無断外出中の18日間、不良仲間ら宅を泊り歩き、その間も喫煙、不純異性交遊及びシンナー吸引があった。

しかるに、少年は、自宅に帰宅後も頑強に群馬学院への帰院を拒んだため、児童相談所では、少年をぐ犯として家庭裁判所へ送致することとし、同月29日、群馬学院への措置を解除した。少年は、家庭裁判所送致により観護措置をされることをおそれて、同月7月より登校を始めたが、登校したのは登校日の3分の1程であり、夜間徘徊や不良交友は続いていた。

4  少年は、現在では刹那的な快刺激を求めて、不良交友及び逸脱行動を広げており、それらに対する親和が進み、改善意欲が乏しいため、少年に対しての規制、指導には、強い抵抗感や不満を抱く状態にある。

父母も、少年に対し、機嫌を伺ったり、体面を気にしたりで厳しい態度をとることなく、少年の非行に対し、一致協力して対処する姿勢も整わず、具体的な監護方針も有していない。

以上によれば、少年に対し、在宅処遇による指導ではその限界を越えていることは明らかであるが、少年がこれまでの児童相談所や教護院での規則、指導を悉く無視していたこと、少年は、その改善意欲が乏しく、規範意識も希薄で自己本位な態度も顕著であり、非行性がかなり進んできていること及び少年が収容された時点よりその父と母との関係改善を図り、少年が仮退院する時には少年にとって家庭が安定の場となり得るよう、保護環境の調整を図ることが望ましいこと等の点を考慮すると、少年を教護院よりも、むしろ初等少年院に送致して、少年に規範意識の内面化と健全な生活観を身に付けさせることが相当であると考える。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条2項を適用し、没取について、少年法24条の2第1項1号、2号、第2項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 原昌子)

〔参考1〕平成5年第839号ぐ犯保護事件の送致書記載の送致する事由

本児は、現在北群馬郡○○村立○○中学校3年に在学中であるが、中学1年の後半より保護者の正当な監護に服さず不良交友の上、喫煙、怠学、夜間浮浪、家出、無断外泊、不健全行為、バイク盗、バイクの無免許運転、シンナー吸引等を繰り返し、教師や保護者の再三の指導にもかかわらず改善が身受けられないため、関係者から当所での指導について相談を受け、今後の処遇を検討する為、平成5年3月9日より一時保護を加える。一時保護所での生活は、比較的安定していたが、本児のいままでの生活を改め改善に向けて、仲間との関係を断ち切る程の強い意志もなく、その上に父親の放任、母親のアルコール依存症等周囲の環境も劣悪のままであり、学校での指導も限界があり家庭復帰後の不安も多く、再び問題行動を起こす可能性は高く、今後を考えると、教護院での指導により中学生にふさわしい生活態度を身につけさせ、社会規範の内面化を図ることが必要であり、教護院への処遇が適当と決定された。

しかしながら、保護者の教護院入所への強い希望もあり、関係者が再三の説得を試みるが、家庭復帰後の生活の改善を盾に本児は教護院入所について強固に反発し、家に帰る旨を申し立てるのみであったため、やむえず誓約書を提出させ、平成5年3月22日付けにて法27-1-2により児童福祉司指導とした。

本児はこのような中で中学3年に進級するが、登校をはじめ、その後の生活態度も全く改まらず、勝手気ままな生活を繰り返し、以前の仲間と不良交友、喫煙、怠学、夜間浮浪、無断外泊、バイクの無免許運転、シンナー吸引等の逸脱行為を繰り返えし、関係者の再三に及ぶ指導にも従う意欲も示さず、感情的に反発するのみで、改善の意欲は身受けられない。

保護者は、本児の性格、その非行歴、交友関係等から、これ以上の在宅での処遇に限界を感じており、一日も早く教護院での指導を受ける事を強く望んではいることもあって、再度関係者の粘り強い説得をかさねた結果、平成5年5月28日一時保護を経てようやく法27-1-3群馬学院措置となる。入院後すぐに修学旅行に参加するが、旅行中の指導にも素直に従えず反抗的態度がしばしば見受けられ、帰院直後に同年の女児と無断外出し、以前からの不良仲間のところを転々と逃げ隠れし、その間も不良交友、喫煙、シンナー吸引等を繰り返し、無断外出後19日目に、「群馬学院には戻さない。家から学校へ通う」ことを親たちに半ば強迫した形で条件つけて家に戻る。本児に対し群馬学院でも、帰院するように説得するが、頑なに拒否するのみで、自分の思い通りにしようとする態度に終始する。両親は教護院での指導を強く望みながらも、本児からの攻撃を恐れて、毅然とした態度がとれないまま、群馬学院へ戻る事すら言い出せず、ただ手をこまねいている状態である。

本児の非行性は著しく高く、その性格、非行歴、交友関係及び、保護者の監護能力、その他等を考慮すると、現状では、児童福祉法に基づく処遇においては、その性格を改め生活の安定を図る事は著しく困難な状態にある事から、少年法3条1項3号に基づき家庭裁判所の審判に附し、少年法に基づく保護処分が適当と認られる。

〔参考2〕 抗告審決定(東京高平5(く)202号 平5.10.4決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立ての趣意は、申立人作成名義の抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、「少年を初等少年院に送致する。」との原決定の処分は著しく不当であり、在宅による処遇で足りる、というのである。

一 原決定は、<1>少年の家庭環境、殊に父母の状況、<2>少年が家庭内の不満や父母に対する不信感、反発を発散させる方法として、少年を受け容れてくれる素行不良の少年達との交遊を深め、無断外泊、不純異性交遊、シンナー吸引、原付自転車の無免許運転などの逸脱行動を広げてきたこと、<3>児童相談所による一時保護の措置、在宅での児童福祉司による指導によっても事態はいっこうに改善されなかったこと、<4>少年は周囲の説得によりようやく教護院「群馬学院」に入院したものの、わずか一週間ばかりで無断外出し、その後も不純異性交遊、シンナー吸引などの逸脱行動を繰り返したこと、<5>少年の意識、更生の意欲の程度、少年に対する両親の対応などの保護環境、などを指摘して「在宅処遇による指導ではその限界を越えていることは明らかであるが、少年がこれまでの児童相談所や教護院での規則、指導を悉く無視してきたこと、少年は、その改善意欲が乏しく、規範意識も希薄で自己本位な態度も顕著であり、非行性がかなり進んできていること及び少年が収容された時点よりその父と母との関係改善を図り、少年が仮退院する時には少年にとって家庭が安定の場となり得るよう、保護環境の調整を図ることが望ましいこと等の点を考慮すると、少年を教護院よりも、むしろ初等少年院に送致して、少年に規範意識の内面化と健全な生活観を身に付けさせることが相当である」と結論付けている。

少年調査記録を含む一件記録を調査して検討すると、原決定の右の認定及び判断は、当裁判所も、これを正当として是認することができるのである。

二 所論は、少年の更生にかける意欲及び少年の保護環境についての原裁判所の認識、認定に関し、種々反論しているので、以下において、若千付言しておく。

所論は、少年を社会内で処遇する事に足りる保護環境が整っている、とし、(1)原決定は、少年の両親が監護能力を失い、少年を監護することを放棄したように認識しているようであるがこれは誤りであり、児童相談所へ相談したのは両親が少年の監護を一切放棄して任せきりにすることを意図したものではなく、何らかの解決策になるかと積極的に利用する意図を有してのことであった、今回の窃盗の非行事実に関して共犯者の保護者と協力して被害弁償をし、示談をしたという事実があるのであり、このことは、両親が少年の非行に対し常に気を配っていたことの証左である、(2)父親も決して放任的な態度をとってきたわけではなく、必要があると判断すれば少年を叱ったり、学校の送り迎えもしたのであって、世間一般の父親と比較してその果たしてきた役割が極端に小さいとまではいえない、(3)母親について、アルコール依存症であるという原決定の認識は事実に反する、(4)少年には18才の兄がおり、以前から兄弟のコミュニケーションは良好であったし、学校の先生も親身になって心配してくれており、少年の友人の保護者との情報交換も可能であるから、このような環境を十二分に利用すれば、今後非行仲間との関係を断つことも不可能ではない、などという。

しかし、原裁判所を初め関係機関が、少年の両親が児童相談所に相談したことを捉えて両親が少年の観護を一切放棄して他に任せ切りにすることを意図したものであるなどと理解したわけではないことは、一件記録上明らかなところである。そして、原裁判所は、本件審判に至るまでの間の少年の両親の対応状況などの全体を総合的に考察して保護環境についての認定、判断をしていることが明らかであり、また、仮に原裁判所が、審判の時点において所論の母親の示談の努力、父親の態度、学校の先生の協力等の周囲の環境などのうち一部の事情について把握していない部分があったとしても、そのことが本件の保護環境についての認定、判断に決定的な影響を及ぼすわけではないことも明らかなところである。なお、原決定は母親をアルコール依存症であると認定しているわけではなく、「アルコール依存が進み」と認定しているにすぎないのであり、一件記録を検討すると、原決定の右認定は正当なものといえる。

少年の保護環境に関するその他の所論及び少年の更生の意欲に関する所論のほとんどは、少年を初等少年院に送致するという原決定を受けたことに伴って、その後に芽生えつつある両親及び少年の反省、自覚などについての指摘であるところ、本件審判に至るまでの少年及び両親の状況からすれば、右のような反省や自覚が原決定後短時日のうちに確実なものとなり、既に社会内処遇で足りるような事態の改善がなされたものとは認められず、所論指摘の点を以て、遡って原決定の処分が著しく不当であるとの判断に至ることは到底できないのであり、むしろ、この機会に、前示のそれぞれの反省や自覚をより確固としたものとし、原決定も説示するとおり、少年と両親との関係の改善を図り、少年にとって家庭が安定の場となり得るよう、保護環境の調整を図ることが望ましいものというべきである。

いずれにせよ、少年の更生の意欲及び両親の監護能力等少年の保護環境に関する原決定の認定、判断には誤りはない。

三 所論は、少年と交際のあった他の少年らとの間の処分の不均衡を主張するが、少年の保護処分は、非行性の程度、少年の資質、保護環境等を総合的に考慮して判断するのであり、極めて個別的なものであるから、他の少年らが少年院送致の処分を受けていないからといって、処分に不均衡があるとはいえない。なお、所論は、本件非行事実のうち窃盗の事実に関し、他にも共犯者がいるのに除外されているのは不公平である、と主張するが、一件記録を検討すると、関係証拠、殊に、A子の平成4年10月31日付け、同5年1月2日付け司法警察員に対する各供述調書謄本、E子の同4年10月31日付け司法巡査に対する供述調書謄本及び少年の同4年11月7日付け司法巡査に対する供述調書によれば、原決定が認定するとおり、窃盗の事実そのものについては少年及びA子の2名のみによる共謀の事犯であることが明らかなのである。

四 以上のとおり、少年を初等少年院に送致する旨の原決定の処分は正当なものとして是認することができるのであり、論旨は理由がない。

よって、本件抗告は理由がないから少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 森眞樹 浜井一夫)

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