前橋家庭裁判所桐生支部 昭和39年(少)1035号 決定 1965年5月08日
少年 I・R(昭二二・二・二〇生)
主文
少年を満二〇歳に達するまで特別少年院に戻して収容する。虞犯、窃盗、賍物収受、銃砲刀剣類等所持取締法違反、住居侵入、道路交通法違反保護事件については少年を保護処分に付さない。
理由
(戻収容申請理由)
戻し収容申請の理由によれば、本人は関東地方更生委員会第二部の決定により昭和三八年六月一〇日東京医療少年院を仮退院して母のもとに帰住し、以来昭和四二年二月一九日を保護観察の終了日として前橋保護観察所の保護観察を受けているものであるが、前橋保護観察所では、本人が知能低格(I・Q・51新田中B式)であり、自制力に乏しく、人と打ちとけにくい性格を有していること等を十分考慮し、保護者と連絡を保ち、不良交友させないよう意をもちい、正業に励ませるよう、適時適切な指導監督、補導援護のもとにその更生に効めてきた。
本人は当初家業の農業を手伝つて、まじめに働いていたが、
一、昭和三八年一〇月頃から仕事を怠けだし、以後本件により引致されるまでの間、農業手伝、大工手伝、鳶職見習等に従事するもいづれも短期間で離職して殆んど徒食の生活をつづけ
二、昭和三八年一二月頃兄Nと共謀して自宅から米約一斗五升を盗み出し、換金の上パチンコ遊びに費消し
三、昭和三九年七月一四日頃から約一週間、桐生市内の○戸某方に無断外泊をつづけて、パチンコ遊び等に耽つて徒食し
四、同年八月○日頃、無断で家出上京し、同年九月○日頃帰宅するまでの間、その所在を明らかにせず
五、同年一二月○○日頃、無断家出して山田郡○○町の○野○二方に赴き、昭和四〇年一月○日頃帰宅するまでの間、その所在を明らかにすることなく、同人方に泊つてパチンコ遊び等に耽つて徒食し
ていたものである。
前記の事実は昭和四〇年二月一二日づけ前橋保護観察所長からの戻し収容申出書及び同書添付の関係書類によつて明らかであり、仮退院に際して本人が誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項の第一、第二、及び第四の各号並びに同法第三一条第三項にもとづき前記委員会第二部が定めた遵守事項の
三、二〇〇粁以上ある地に旅行し、または三日を越えて住居をあけるときは、前もつて受持者の許可を受けること。
四、絶対に家出、放浪や盗みをしないこと。
五、母のいうことをきいて、素直な心でまじめに働くこと。
のそれぞれに違反している。
これら本人の行状を綜合検討するに、昭和三八年一〇月以降兄N(一卵性双生児、保護観察中)の影響をうけ、頓に勤労意欲を喪失し昭和三九年一月一四日少年法第二五条の家庭裁判所調査官の観察に付せられた後においても、仕事に永続きせず前記の如く徒食生活をつづけて家に落ちつかず、無断外泊、家出をかさね、飲酒、パチンコ遊び等に金銭を浪費し、また自己の身体に文身をする等放縦遊惰な生活をつづけ、少年院送致前と同様な生活状態に戻つているものであり、その間担当保護司、保護観察官の再三にわたる説示にも反省の念なく、その恣意的行状は深化の一途を辿り、保護者の保護能力に期待できない現在、このまま放置すれば罪を犯す虞は濃厚であり、保護観察の限界にあるものと認められる。
よつて、この際すみやかに少年院に戻して収容し、本人にふさわしい矯正教育を施すことによつて反社会性を除去し、勤労意欲を喚起し、あわせて将来帰住すべき環境特に兄Nとの分離を図り、次の機会において更生の実を挙げることが妥当であると認め、この申請に及ぶというのである。
(当裁判所の判断)
そこでまず戻し収容の適否について按ずるに、本件記録中前橋保護観察所長大沢寛芳より関東地方更生保護委員会宛の保護観察の経過状況報告書、保護観察官の少年及びI・O子に対する各質問調書、保護司今泉貞司より前橋保護観察所長宛の保護観察の経過状況報告書、仮退院証明書並びに誓約書各写、当裁判所における少年及びI・O子の各供述を綜合すれば前記戻し収容の申請理由とする事実関係は総てこれを認めることができ、本件戻収容申請は相当である。
なお少年には、右仮退院後昭和三八年一〇月二一日、他の少年が窃盗して来た清酒一本ピーナツ五袋をその情を知つて収受したり、他の少年と一緒に鳩五羽を窃取したのを初め、虞犯、住居侵入、道路交通法違反(無免許運転)等の保護事件で当裁判所に係属しているが、いずれも比較的軽微なためこれを事情として右戻収容申請事件に含め試験観察の中間決定をして少年の長兄I・K保護下における少年の職場復帰を期待していたものであるがその矢先、補導委託先を無断出奔し、空気銃窃盗並びにその不法所持等の保護事件で再び送致されたもので、その試験観察中の少年の動向把握や右長兄I・Kとの間の連絡不充分な点もあつたが、その試験観察後の経過から見て少年のいかにも短絡的で快楽原則に支配された自律性に乏しい生活態度にただあきれる外はない。事態の現況はかくの如くであつて見れば本少年を再び少年院に戻して強制教育を施すほか思索はない。しかして少年は知能低格(魯鈍級)であることよりしてその少年院は医療関係の設備のある特別少年院に戻すべきが相当である。
右のように少年を特別少年院に戻して収容する以上、本件に併合した前示各普通保護事件はいずれも少年を保護処分に付する要がないと思料する。
よつて犯罪者予防更生法第四三条第一項を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 石川季)