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千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)51号 判決

原告 笠井裕之

原告 田中家成

被告 庄司厚

被告 小幡清之

被告 兵藤恭一

右被告ら訴訟代理人弁護士 松崎勝

右訴訟復代理人弁護士 桑原紀昌

同 川井重男

主文

一  被告小幡清之は、館山市に対し、金一三〇〇円及びこれに対する平成一〇年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告兵藤恭一は、館山市に対し、金三三〇〇円及びこれに対する平成一〇年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告小幡清之及び被告兵藤恭一に対するその余の請求並びに被告庄司厚に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一と被告小幡清之及び被告兵藤恭一に生じた費用を被告小幡清之及び被告兵藤恭一の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告庄司厚に生じた費用を原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、館山市に対し、四六〇〇円及びこれに対する被告庄司厚及び被告兵藤恭一については平成一〇年七月二六日から、被告小幡清之については同月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、千葉県館山市が千葉県市議会議員野球大会に随行した館山市議会事務局職員に対してした旅費の支出は、公務のための旅行に対するものではなく違法であるなどと主張して、館山市の住民である原告らが、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき、被告らに対し、館山市に代位して、右旅費相当額の損害の賠償と訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた住民訴訟である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告らは、千葉県館山市(以下、単に「市」ともいう。)の住民である。

被告庄司厚(以下「被告庄司」という。)は市長であり、被告小幡清之(以下「被告小幡」という。)は市助役であり、被告兵藤恭一(以下「被告兵藤」という。)は市議会事務局長の職にある者である。

2  本件野球大会の開催

館山市議会議員により構成される野球チーム(以下「館山チーム」という。)は、平成九年七月二三日、千葉県鴨川市で開催された千葉県市議会議長会主催の第四三回千葉県市議会議員野球大会(以下「本件野球大会」という。)の第三ブロック予選に参加した。

館山チームには、市議会事務局から、市議会事務局長被告兵藤、市議会事務局長補佐鈴木哲、市議会事務局係長四ノ宮朗及び市議会事務局運転手山田一昭(以下、右鈴木哲ら三名を「鈴木ら三名」という。)が随行した。

3  本件旅費の支出

本件野球大会の随行者は、平成九年七月二九日、被告兵藤は一三〇〇円、鈴木ら三名は各一一〇〇円の合計四六〇〇円を前記2の随行の旅費(以下「本件旅費」という。)として支給を受けた。

本件旅費の支出負担行為は、被告兵藤については被告小幡が、鈴木ら三名については被告兵藤がそれぞれ専決しており、また、本件旅費の支出命令についてはいずれも被告兵藤が専決している(甲三の4、5、乙三、弁論の全趣旨)。

4  監査請求

原告らは、平成一〇年四月二三日、市監査委員に対し、本件旅費の支出は違法であるとして住民監査請求を行ったが、市監査委員は同年六月二二日付けで右監査請求を棄却した。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件旅費の支出が違法なものとして不法行為を構成するか否か及び右不法行為が成立するとした場合に、本件旅費の支出行為について権限を委任している被告庄司が指揮監督上の責任を負うか否かであるが、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(原告らの主張)

1 本件旅費の支出の違法性

地方公務員法二四条六項に基づく館山市職員等の旅費に関する条例一条一項によれば、公金から旅費が支給されるのは、市職員が公務のため旅行した場合に限られる。

ところで、本件野球大会は、千葉県市議会議長会という任意団体の主催によるもので、参加する野球チームは各市議会の議員有志により構成されているばかりでなく、各市の野球チームがこれに参加するか否かも任意である。本件野球大会に出場した館山チームも、構成員は市議会の議員の有志であり、その経費は議員のポケットマネーにより賄われている。

このように、本件野球大会は、市議会議員の有志の交流、親睦、レクリエーション等を目的とするもので公務といえないのであるから、本件野球大会に市職員が同行する合理的な理由はなく、公務のための旅行に該当しないことは明らかであり、本件野球大会に市議会事務局職員を同行させた旅行命令には裁量権を著しく逸脱又は濫用した違法がある。

したがって、本件旅費の支払は、館山市職員等の旅費に関する条例に違反して支出されたもので、違法な公金の支出である。

なお、本件野球大会の随行者に関する旅行命令には、公務として最も重要である用務内容に関して一切具体的に記されておらず、起案用紙(兼伺書)自体が提出されていない上、復命書等も作成されていないし、被告らが旅行命令簿として取り扱った本件野球大会開催の通知文書は、各市議会議長宛の野球大会開催の通知であって、館山市職員に対しての参加依頼通知ではないなど極めてずさんなものであり、このことからも本件野球大会への随行が公務といえないことは明らかである。

2 被告らの責任及び損害

被告小幡は市助役として、また、被告兵藤は市議会事務局長として、いずれも本件旅費の支出負担行為の専決権者であり、職員への旅費の支給に関しては、厳格にその実情を把握した上で検討評価し、違法な支出負担行為及び支出命令をすることを阻止すべき義務と責任があるにもかかわらず、単に旅行命令権者の旅行命令があることを確認するのみで慣例に従いこれを容認し、また、被告庄司は市長として、違法な公金支出が行われないように被告小幡及び被告兵藤を指揮監督すべき義務があったところ、その義務を怠り、いずれも何ら是正措置を採ることなく、本件旅費につき違法な公金支出を行った。

そして、館山市においては、平成八年当初から、公費不正支出の問題が明るみに出、公費不正支出問題につき市民が強い関心を抱いていたその最中に、本件旅費が不正に支出されたのであり、したがって、被告らは、いずれも本件旅費の支出が違法であることを知り、又はこれを知らなかったことにつき重大な過失があったのであるから、これにより館山市が受けた本件旅費相当額の損害四六〇〇円を賠償する責任がある。

(被告らの主張)

1 本件旅費支出の適法性について

(一) 本件で、原告らは、被告らに対し、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき損害賠償を請求しているが、同条一項四号前段の「当該職員」に対する損害賠償請求において、先行する原因行為を行った者と、右原因行為を前提として財務会計上の行為をなした者とが異なる場合、仮に、先行する原因行為に違法事由が存在したとしても、右原因行為を前提としてなされた財務会計上の行為を行った職員については、右職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限り、当該職員に対して損害賠償責任を問うことができると解すべきである。

そして、本件野球大会への出張を命じた者は市議会議長であり、これに基づく本件旅費の支出行為を行った者は市議会事務局長などであって、両者が異なる以上、仮に、原因行為である本件野球大会への出張が違法であるとしても、市の財務会計上の行為である本件旅費の支出行為自体が法令の規定に基づき適正に行われ、右財務会計上の行為が著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在するものといえないときは、財務会計法規上の義務に違反しているとはいえないというべきである。

(二) 本件野球大会は、千葉県市議会議長会の主催による行事であるところ、千葉県市議会議長会は、地方自治法二六三条の三第一項所定の全国連合組織である全国市議会議長会の下部組織(全国市議会議長会関東部会千葉県支部)であり、その存立根拠は基本的に同法に由来するものであるから、千葉県市議会議長会の主催する行事は、同法が想定する地方自治の確立と都市の興隆・発展に寄与するものと評価できる。

そして、本件野球大会は、千葉県内の市議会議員の親睦を図り、情報や意見の交換、さらには連携や協調を深めることで議会活動の充実に寄与することを期待するという目的から開催されているものであり、市議会議員の娯楽、レクリエーションを目的とする行事ではなく、千葉県市議会議長会の目的を達成する重要な事業の一つとして位置づけられるものである。

また、本件野球大会をはじめとする千葉県市議会議員野球大会は、千葉県下の議会事務局職員が一堂に会する数少ない場であり、日頃、他市の職員と接触することの少ない事務局職員が千葉県下の他市の職員との交流を深める絶好の機会といえるのであり、この人脈を通じて地方自治体職員としての見聞・見識を高めることにもなるのである。このことは、すなわち、本件野球大会への事務局職員の出張が、円滑かつ適切な議会運営という見地において地方自治の発展に資するということである。

以上のように、市議会事務局職員の本件野球大会への出張が実質的にも公務性を帯びていることは明らかというべきであるから、本件旅費の支出が著しく合理性を欠き、そのために館山市の予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在するとはいえない。

(三) そして、本件旅費の支出については、旅行命令については、館山市職員等の旅費に関する条例に基づき市議会議長が発布しており、支出負担行為については、館山市事務決裁規程に基づき、被告兵藤に対する関係では市助役である被告小幡が、鈴木ら三名については市議会事務局長である被告兵藤が専決をなしており、支出命令については、館山市事務決裁規程に基づき、市議会事務局長である被告兵藤が専決をなしているところ、市長である被告庄司は、本件旅費の支出行為に何ら関与しておらず、右支出につき責任を負うものではない。

また、一般に、助役は、議会の自主的判断を尊重するという建前から、市議会議長の要求する公金の支出につき、当該支出が予算配当額の範囲内で行われるものであるか否かという点のみを形式的に判断するにとどまり、支出自体の実質的適否まで判断すべき義務を負うものではないと解すべきところ、被告小幡は、本件旅費の支出負担行為につき、当該支出が予算配当額の範囲内であることを確認した上で専決しているのであるから、助役としての義務を果たしている。

さらに、市議会事務局長は、地方自治法一〇四条の議会事務統理権を有する市議会議長の旅行命令に従った支出負担行為及び支出命令の専決をすることこそが、市議会事務局長としての職責を果たすことにほかならないところ、被告兵藤は、右職責を果たすために本件旅費の支出負担行為及び支出命令の専決を義務的に処理したにすぎないのであり、いずれの専決においても、被告兵藤の裁量の余地は存しなかったのである。

以上のように、本件旅費の支出については、何ら関与をしていない被告庄司が責任を負わないのは無論のことであるが、形式的な専決権しか持たない助役や、議会事務統理権を持つ市議会議長の命令に従わざるを得ない議会事務局長も、本件旅費の支出行為を市の財務会計法規に従い適切に処理しているのであるから、被告小幡及び被告兵藤も責任を負わないというべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件旅費の支出の違法性について

1  地方自治法二四二条の二の規定に基づく住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為等の是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決・民集三二巻二号四八五頁)。そして、同法二四二条の二第一項四号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は、このような住民訴訟の一類型として、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならない。したがって、当該職員の財務会計上の行為をとらえて右の規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、右原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である(最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二七五三頁)。

2  ところで、地方自治法上、議会の事務局長その他の常勤の職員に対する給料、旅費及び諸手当については普通地方公共団体の長が支給する(同法二〇四条)など、議会事務局職員に対する旅費の支出を含む地方公共団体の財務会計上の権限一般は、原則として地方公共団体の長の権限とされているが、他面で、地方公共団体の議会の自律性・独立性に鑑みると、地方公共団体の長は、地方公共団体の議会の運営その他の事務について広範な権限を有する議会の議長の有する固有の権限内容にまで介入し得るものではなく、地方公共団体の長の有する予算の執行機関としての職務権限にはおのずから制約が存するものというべきである。

したがって、地方公共団体の長又は専決により財務会計行為をする権限を有する者は、議会の議長の権限行使については基本的にその裁量を尊重しなければならないというべきであるが、議会の議長の権限も絶対無制約のものではないから、議会の議長のなした処分あるいは命令がその裁量の範囲を逸脱するなどして著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合には、もはや右処分あるいは命令に応じた財務会計上の措置を採ることは許されず、かえってこれを阻止すべき義務を負い、かかる義務に違反して公金の支出がなされた場合には、当該公金の支出は違法なものとなるといわざるを得ない。

この点に関し、被告らは、助役は形式的専決権しか有せず、支出自体の実質的適否を判断すべき義務はないとか、市議会事務局長は議会事務統理権を持つ市議会議長の命令に従わざるを得ず、支出行為をすべきか否かにつき裁量の余地はないなどと主張するけれども、財務会計行為をする権限を有する者が前記のような職務上の行為義務を負担することは前記平成四年の最高裁判決からも明らかであり、右主張は採用し難い。

3  そこで、右2のような観点から、本件旅行命令が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するといえるか否かを検討する。

(一) 証拠(乙四、五、七、証人山中金治郎、被告兵藤恭一)及び弁論の全趣旨によれば、千葉県市議会議員野球大会は、千葉県市議会議長会の主催により、千葉県各市の市議会議員により構成される野球チームが参加して開催される野球大会であり、昭和三〇年に千葉市において第一回大会が開催された後、昭和四五年の第一六回大会が中止されたのを除き毎年一回開催されているものであること、本件野球大会は、千葉県内三一市のうち、二七市の市議会議員のチームが参加し、平成九年五月七日及び八日に第一ブロック予選が千葉県八千代市で開催されたのを皮切りに、同年八月七日、同県柏市で準決勝及び決勝戦が開催されたものであること、館山チームは、平成九年七月二三日、千葉県鴨川市で行われた第三ブロック予選に出場したものであるが、本件野球大会に参加した市議会議員には旅行命令は発せられず、旅費の支給(費用弁償)はなされなかったこと、本件野球大会の日程、行事計画において、参加した市議会議員ら及びそれに随行した市の職員らが、野球大会とは別に交流を持ったり意見交換をする機会は設けられておらず、館山チームの構成員及び本件野球大会の随行者は、館山チームが初戦で敗退したため、右試合後すぐに館山市に帰ったことが認められる。

(二) 被告らは、本件野球大会は、千葉県内の市議会議員の親睦を図り、情報や意見の交換、さらには連携や協調を深めることで議会活動の充実に寄与することを期待するという目的から開催されているものであり、地方自治法二六三条の三第一項所定の全国連合組織である全国市議会議長会の下部組織たる千葉県市議会議長会の目的を達成する重要な事業の一つとして位置づけられるものであること、また、千葉県市議会議員野球大会は、千葉県下の議会事務局職員が一堂に会する数少ない場であり、日頃、他市の職員と接触することの少ない事務局職員が千葉県下の他市の職員との交流を深める絶好の機会でもあり、この人脈を通じて地方自治体職員としての見聞・見識を高めることにもなるから、本件野球大会への事務局職員の出張は、円滑かつ適切な議会運営という見地において地方自治の発展に資するものであって、公務性を帯びると主張する。

しかしながら、千葉県市議会議長会が地方自治法に基づく連合組織である全国市議会議長会の下部組織としての性格を有するからといって、その主催する行事が直ちに議会活動の充実等に寄与する公的活動といえないことは明らかであり、その行事が公的性格を有するか否かは、その内容によって決せられるべきところ、前記(一)の認定事実からすれば、本件野球大会においては、各市議会議員チームによる野球競技以外に特に何らかの研修、意見交換等の機会が設けられていたわけではないのであるから、それが議会活動に資する面があるとしても、せいぜい他市の市議会議員と多少面識ができるという程度のものであり、これをもって本件野球大会が公的活動といえないことは明らかである。とすれば、本件野球大会は市議会議員有志の娯楽と親睦を目的としたレクリエーション行事であるといわざるを得ず、本件野球大会に参加した市議会議員に旅費の支給(費用弁償)がなされていないのもこのような事情によるものと考えられる。

また、被告らの主張する市議会事務局職員の他市の職員との交流という点についても、前記(一)の認定事実からすれば、本件野球大会の参加者の日程、行事計画の上で、特に他の議会の職員との交流の機会は設けられず、現実に接触する他市職員の範囲及び時間は相当限られたものであると推認されるのであるから、それだけで前記随行の公務性を基礎付けるような事情とはなり得ないというべきである。

(三) このようにみてくると、本件野球大会への随行は、公務のための旅行というような性質を有するものとは認め難く、市議会議長に議会の運営に関し広範な権限があることを考慮に入れても、その権限に基づく合理的な裁量の範囲を逸脱するものであり、このような随行を命じた本件旅行命令は著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するというべきである。

4  したがって、本件旅行命令に基づく旅費の請求があった場合、これに対する支出をなす権限を有する者は右支出を阻止すべき義務があるところ、右の義務に違反して本件旅費の支出行為をしたことは、財務会計上の義務に違背する違法なものといわなければならない。

二  責任原因

そこで、以下、違法な本件旅費の支出についての被告らの責任について検討する。

1  前記第二の一3の前提となる事実及び証拠(甲三の4、5、乙一ないし三、五ないし七、被告兵藤恭一)によれば、館山市における旅費の支出負担行為は、館山市事務決裁規程により、議会事務局長の出張については市助役が、その余の市議会事務局職員については市議会事務局長がそれぞれ専決するものとされ、右旅費の支出命令は、館山市事務決裁規程により、市議会事務局長が専決するものとされているところ、被告小幡は市助役として被告兵藤の、また、被告兵藤は市議会事務局長として鈴木ら三名の、それぞれ本件旅費の支出負担行為をなし、また、被告兵藤は、自らに対し一三〇〇円、鈴木ら三名に対し各一一〇〇円の本件旅費を支給すべく支出命令をなし、その結果、本件野球大会の随行者は、平成九年七月二九日、それぞれ本件旅費の支給を受けたことが認められる。

2  そして、被告兵藤は市議会事務局長として本件野球大会の前記のような内容を熟知していたものと認められるから、本件旅行命令に、前記のような看過し得ない瑕疵があることを知り、あるいは知りうべきであったと考えられるし、また、被告小幡についても、本件旅費の要求票及び出金伝票(甲三の4、5)の記載からすれば、本件旅費の請求に係る旅行命令が本件野球大会への市議会事務局職員の随行を命じたものであることは明らかであり、多少の調査、確認をすれば、本件旅行命令に右のような瑕疵があることは容易に知り得たということができるから、被告兵藤及び被告小幡は、故意又は過失により違法な本件旅費の支出をなした者として、これにより生じた損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

そこで、その責任の範囲について検討するに、被告小幡は鈴木ら三名に対する本件旅費の支出行為には全く関与していないし、右支出行為につき被告兵藤との意思連絡があったとも認め難いのであるから、同被告が責任を負うのは、被告兵藤に対する本件旅費の支出行為のみであるといわざるを得ない。また、被告兵藤は、自らに対する本件旅費の支出については支出命令のみを行ったものであって、その支出負担行為は市助役である被告小幡が行ったものであるところ、先行する支出負担行為がある以上は、特段の事情がない限り、支出命令を拒むことはできないと解されるし、本件でそのような特段の事情は窺われないのであるから、被告兵藤は、自らに対する本件旅費の支出については責任を負わないというべきである。

3  他方、被告庄司は、本件旅費の支出当時の市長であり、地方自治法上、本来的に本件旅費に関する財務会計上の権限を有する者ではあるが、前記1のとおり、本件旅費の支出は補助職員が専決により処理しているところ、かかる場合には、市長は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解される(最高裁平成三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一四五五頁)。

そして、本件旅費の支出について、被告庄司は何ら関与しておらず、また、千葉県市議会議員野球大会への市議会事務局職員の随行は相当以前から慣行として行われていたことは窺えるものの、議会の運営事務については市長が直接所掌しているところではないし、被告庄司が右事実について認識があったことを窺わせるような状況や証拠も存しないから、本件旅費の支出について、補助職員に対し何らかの指揮監督上の義務に違反したとはいえないというべきである。

したがって、被告庄司は、本件旅費の支出について責任を負うものではない。

なお、原告らは、本件野球大会は、館山市において公金の不正支出が問題となった平成八年以降に行われたものである旨主張するところ、証拠(甲一八、一九の1、2、二〇)によれば、平成九年一月以降、館山市の公金支出に関する記事が新聞に掲載されこれが社会問題となっていたことが認められるが、右の報道には千葉県市議会議長会主催の野球大会に関するものは含まれておらず、右問題が生じていたことが直ちに本件旅費の支出に関する被告庄司の指揮監督上の義務違反があったことと結びつくものではないから、原告らの右主張は理由がない。

三  損害

以上のとおり、本件旅費の支出は違法であり、館山市は、右違法な本件旅費の支出によって、右旅費相当額である四六〇〇円の損害を被ったというべきであるから、館山市に対し、被告小幡は一三〇〇円、被告兵藤は三三〇〇円及び右各金員に対する不法行為の後である被告小幡については平成一〇年七月二八日(訴状送達の日の翌日)、被告兵藤については同月二六日(前同)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を賠償すべき義務がある。

第四結論

よって、原告らの請求のうち、被告小幡及び被告兵藤に対する請求は前記の限度で理由があるからこれを認容し、右被告らに対するその余の請求及び被告庄司に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

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