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千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)55号 判決 2000年1月12日

主文

一  原告が、平成九年一一月一〇日付けで被告に対してなした廃棄物再生事業者登録申請について、被告が平成一〇年三月一六日付けで右登録を拒否した処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成三年法律第九五号による改正後のもの。以下「廃棄物処理法」という。)二〇条の二第一項、二項及び同法施行令一四条に基づき廃棄物再生事業者の登録申請をした原告が、右登録を拒否した被告に対し、当該登録拒否処分の取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者に争いがない。)

1  当事者

原告は、住宅用建築物等の解体、廃棄物処理などを業とする株式会社であり、千葉県印旛郡αに事業所及び事業場を有する者である(甲一の1)。

被告は、原告の右事業場を管轄する都道府県知事である。

2  原告の事業内容等

原告が登録を申請した廃棄物再生事業者としての事業内容等は次のとおりである。

(一) 原告の廃棄物再生事業の内容(甲一の1、6)千葉県その他関東地区全域の建設現場で発生した廃棄物であるガラスくず及び陶磁器くず(廃棄物処理法施行令二条七号)並びにがれき類(同条九号)を、鉄片等の除去を経て、破砕機により三センチメートル未満に破砕したものと土砂の混合したもの(以下「混合再生砂」という。)に再生し、これを建設現場その他盛土を必要とする場所において使用する事業(以下「本件破砕再生事業」という。)を行う。

(二) 事業の用に供する施設の種類、数量破砕機一台、振動ふるい機二台、鉄片除去機二台、鉄片検知機一台、プレートフィーダー付ホッパー一台、ベルトコンベアー八本

(三) 設備の概要

(1) ガラスくず及び陶磁器くずとがれき類に土砂が混入されているものを受入れし、保管場所で保管する。

(2) 保管場所で保管している(1)のがれき類等を投入用重機でプレートフイーダー付のホッパーに投入し、定量ずつ第一振動ふるい機に送り、この第一振動ふるい機で三センチメートル未満の破片類と三センチメートル以上の破片類に分別する。

(3) 三センチメートル以上の破片類は、第一鉄片除去機と鉄片検知機で鉄片を除去し、目視による監視を経て、破砕機で三センチメートル未満に破砕する。

(4) 破砕機で破砕されたも

のと、第一振動ふるい機で三センチメートル未満に分別されたものは、第二鉄片除去機で更に鉄片を除去し、再度第二振動ふるい機で三センチメートル未満と三センチメートル以上五センチメートル未満及び五センチメートル以上の三種類の破片類に分別する(前記(3)により破砕機で三センチメートル未満の破片に破砕しようとしても、全部がこの大きさに破砕しきれず、それ以上の大きさのものが出てしまうため。)。

(5) 前記(4)により三種類に分別されたもののうち、三センチメートル未満に破砕されたものは、再生利用のため、混合再生砂保管場所に保管され、三センチメートル以上五センチメートル未満のものは、再度第一振動ふるい機に運んで再破砕され、五センチメートル以上は木くずが多いので焼却される。

(四) 運搬施設運搬施設はない。

(五) その他他に、ホッパーへの投入用重機一台、混合再生砂積込用重機一台がある。

3  本件登録拒否処分

(一) 原告は、平成九年一一月一〇日付けで、被告に対し、廃棄物処理法二〇条の二第一項、二項及び同法施行令一四条に基づき、廃棄物再生事業者の登録を申請した(以下「本件申請」という。)。

(二) 被告は、原告に対し、平成一〇年三月一六日付けで、原告が廃棄物からの再生品であるとする混合再生砂については、有償売却を証するものが確認できず、廃棄物の再生とみなせないから、原告を廃棄物処理法二〇条の二第一項に規定する廃棄物の再生を業として営んでいる者に該当すると認めることはできないとの理由により、原告を廃棄物再生事業者に登録しないことを通知した(以下「本件登録拒否処分」という。)。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件登録拒否処分の適法性であり、具体的には、原告が、廃棄物処理法二〇条の二第一項の「廃棄物の再生を業として営んでいる者」に該当するか否かである。この点に関する当事者の主張は、大要、以下のとおりである。

1  被告の主張

(一) 廃棄物処理法における廃棄物の再生の目的は、廃棄物の排出を抑制し、廃棄物の減量化・再資源化を積極的に推進して廃棄物の適正処理をすること等により、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることにある。

そして、同法二〇条の二における廃棄物再生事業者登録制度は、廃棄物の再生利用を業として営んでいる者について、一定の登録基準を充足していることを要件とする登録制度を設けることにより、これらの事業を営む者の資質の向上及び市町村における一般廃棄物の再生の協力体制の整備を図ることを目的としたものであり、このことから、廃棄物再生事業者として登録された者は税制の優遇を受け、また、登録事業者の再生品は廃棄物に該当しないものとして法令上の埋立基準の制限を免れることとなる。

(二) ところで、廃棄物とは占有者にとって不要となって捨てられた物であり、再生とは廃棄物を再び製品の原材料等の有用物とするため必要な操作をすることであるが、廃棄物か否か、あるいは有用物か否かについて、その物の占有者の意思のみにより判断されるとすれば、法の適用の有無がきわめて主観的なものとなって、生活環境の破壊ないし公衆衛生の低下・劣悪化を招来することとなるし、脱法的な処理が事実上許容されることになって、廃棄物の適正な処理の徹底や適切な再生利用がなされないこととなり、前記(一)の廃棄物処理法の目的及び廃棄物再生事業者登録制度の趣旨を没却することとなってしまう。

したがって、廃棄物か否か、あるいは有用物か否かを決するためには、廃棄物として処分場に埋立てをするのではなく、有用物として自由に処分することを許容しても不適正処理が行われることがないような客観的な基準が必要であるというべきであり、そのため、有用物といえるためには、当該再生品について第三者が価値を認め、なおかつそれを購入する者が当該再生品の性状等を確実に把握した上で購入するかどうかを判断できるような性質を有する物でなければならないというべきである。

もし、ある物に真に価値を見出し、占有したい者がいれば、その価値に見合った費用を負担することは当然であるし、有用物として購入したものである以上は、その後それが不要物となったとしても、その処理責任は当該購入者にあるとみなすことができる。

そして、第三者が価値を認めるか否かについての、客観性を有する唯一のメルクマールは当該再生品が有償で売却できる物か否かであるから、廃棄物とは、占有者が自ら利用し又は他人に有償で売却することができないため不要になった物をいい、他方、有用物とは、廃棄物に手を加えた結果、占有者が自ら利用でき又は他人に有償売却できる物をいうと解すべきであり、その有償売却性は、現実の有償売却を証する書面によって証明される必要がある。

(三) 本件申請において、原告は、被告に対し、混合再生砂の有償売却を証明する書面として、自社の解体工事現場における見積書(原告請負に係る解体工事代金の見積りであり、現況復旧のための盛土として混合再生砂を項目に掲げている書面)、注文書(右見積書に対応して発注の金額が記載された書面)、回答書(再生利用目的で受け入れた建設廃材等の量、混合再生砂を原告請負に係る解体工事に使用し、あるいはそれ以外の場合に盛土材料として使用した量がそれぞれ記載された書面)及び売上伝票などを提出した。しかし、これらは現況復旧のための技術料等を含むものであって、混合再生砂自体の価格が明示されていないし、果たして混合再生砂自体に価値があるか否かも不明である上、購入者たる注文主がその性状等を確実に把握した上で注文しているか否かも不明であって、これらによっては原告が有用物とする混合再生砂の有償売却を確認することはできないというべきである。なお、原告が自社の解体工事で有償売却できる製品であるなら自社の解体工事以外でも有償売却できるはずであるが、右以外の混合再生砂につき第三者が有償で購入していることの証明は全くない。

(四) なお、混合再生砂が試験報告で細粒分まじり礫と判定されたとしても、それはあくまでも土質材料の工学的な試験結果であるし、その中に廃プラスチック類、又は木くず等が混入し、明らかに廃棄物とされる場合でも土質選定基準を満たすことが考えられるのであるから、その場合でも、有償売却できない以上は廃棄物として扱うべきである。また、混合再生砂が土質工学的指標に基づき、残土と定義されたとしても、それはあくまでも土質工学的指標に基づく定義であり、その施工性や、強度的に使用できる残土の土質工学的な範囲を述べているにすぎず、廃棄物か否かの定義とは関わりない。

(五) したがって、被告の本件登録拒否処分は適法である。

2  原告の主張

(一) 被告が、前記1(二)において主張する廃棄物ないし廃棄物の再生に関する定義は、昭和四六年一〇月二五日付けで厚生省環境衛生局環境整備課長から各都道府県及び各政令市の廃棄物関係担当部(局)長あてに行われた「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について」と題する環整第四五号通知(以下「環整第四五号通知」という。)を根拠とするものである。

しかし、廃棄物処理法二条一項は、廃棄物の定義として、単に汚物又は不要物とのみ規定しているのであって、有償売却できないことを廃棄物の要件とはしていない。そして、平成三年の廃棄物処理法の改正は、同法の目的に廃棄物の排出の抑制と再生を追加することにより、廃棄物を資源として活用することを目指したものであり、再生品が有償売却できるものであるかどうかは右の目的とは直接関係がないのであるから、同法が予定する再生とは不要物すなわち廃棄物ではない有用物にするものであればよいのであって、必ずしも有償売却できる物にする必要はないというべきである。

また、廃棄物処理法においては、廃棄物の再生事業者は、法令により、廃棄物処理施設や事業者の経営基盤等について厳重な規制がなされる一方で、同法施行令一五条においては、確実に廃棄物の再生利用を実現し、不法投棄の問題を起こすことがないような施設及び能力を備えていさえすれば廃棄物再生事業者として登録しなければならないとしているのであって、廃棄物再生事業者の施設及び能力のみを問題としている同法においては、再生品が有償売却されるか否かは問題としていないというべきである。かえって、再生品が有償売却できる物でなければならないとする解釈は、法律上の根拠を欠くばかりでなく、前記の法改正の目的に背馳し、廃棄物の適正な再生利用を図ろうとする時代の要請に逆行することとなる。

(二) 右(一)のように、廃棄物処理法が真に要求しているのは、再生品が有償売却できる物か否かではなく、再生品が現実に再生利用が可能な有用物であるか否かに尽きるが、再生品が品質に問題がなく、有害危険物でないのは当然の要件であるところ、本件申請に係る混合再生砂は、最大粒径約三センチメートル未満であり、また、約一センチメートル以下のものが全体の約七五パーセントを占めているものであって、土質材料の工学的分類においては細粒分まじり礫とされ、土質選定基準では第二種土質材料として、宅地造成、埋立等について適応性が認められるものであるし、建設省建設経済局建設業課監修の「建設業とリサイクル」の土質工学的指標によれば、最大粒径約三〇センチメートル以下かつ混入率三〇パーセント以下のものは残土とされ、それを超えるものは廃棄物とされているが、右指標でも混合再生砂は問題なく残土となる。

また、平成二年五月三一日衛産第三七号厚生省通知によれば、土砂(残土)には、砂、砂利、岩石を破砕した物、粘土、シルト等があるが、これらは工事現場の切り盛り等に使用され、汚物又は不要物には該当しないから、廃棄物処理法に定める廃棄物には該当しないとされている。

さらに、混合再生砂は、突固めによる土の締固め試験(締固め特性)では、建設工事で使用する一般的な山砂と比較して、より取り扱いやすいとされているし、普通の土と遜色なく作物の栽培もできるのである。

このように、混合再生砂は、品質等に問題がない上、再生利用が可能な物であるから、廃棄物ではなく有用物であることは明らかである。

(三) 仮に、有用物というためには有償売却できる物である必要があると解したとしても、以下のとおり、混合再生砂は有償売却できる物であるし、その売却実績もある。

(1) 前記(二)のとおり、混合再生砂は、土質工学会基準である日本統一土質分類による工学的分類方法で認められる細粒分まじり礫であり、それ自体立派な製品であるし、混合再生砂より品質において劣る再生砕石(がれき類を破砕したもの)は市販され、広く利用されており、混合再生砂が有償売却できる物であることは明らかである。原告が混合再生砂を単品として販売していないのは、原告の事業が建設業であり、単品を販売する再生砕石業者とは異なるからである。

(2) 原告は、混合再生砂を、原告が下請けとして行っている建物解体工事の現場において、当該土地を次の建築等の用に適するよう土盛りをするための土(以下「現況復旧土」という。)として対価を得て使用している。右単価である一立方メートル当たり五〇〇〇円の中には、技術料も含まれているが、そうであったとしても、再生砂が有償売却できる製品であることに変わりはない。

(四) 以上のとおり、混合再生砂が有用物であることは明らかであり、かつ、原告は、その処理施設及び能力の点においても廃棄物処理法及び同法施行令の定める登録基準を充たしているのであるから、被告は、同法施行令一五条に従い、申請を受理し、原告を再生事業者として登録する義務があるというべきである。

(五) したがって、本件申請を拒否した本件登録拒否処分は違法である。

第三当裁判所の判断

一  本件登録拒否処分は、廃棄物の再生、すなわち、廃棄物を再び製品の原材料等の有用物とするため必要な操作をすることにつき、有用物とは、占有者が自ら利用でき又は他人に有償売却できる物でなければならず、かつ、その有償売却性は、現実の有償売却を証する書面によって証明されなければならないとの解釈を前提とするものである。これに対し、原告は、廃棄物処理法の予定する再生とは、不要物すなわち廃棄物ではない有用物にするものであればよいのであって、必ずしも有償売却できる物にする必要はないと主張するので、以下この点につき検討する。

1  廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするものであるところ、同法は、右の廃棄物の適正な処理の方法として、廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、処分を掲げるとともに、廃棄物の適正な再生を挙げる(同法一条)。これは、我が国の経済発展や国民生活の向上等に伴う現今の廃棄物の排出量の増大や最終処分場の逼迫等の状況に鑑み、廃棄物の適正処理をはかっていくためには、廃棄物を収集等した後にこれを適正に最終処分(埋立や海洋投棄)するのみならず、一方で廃棄物の排出自体を抑制するとともに、他方で分別した廃棄物を再び製品の原材料等の有用物として再活用できるよう必要な操作を加えて再生し、廃棄物の減量を積極的に進めていくことが緊急の課題となっているとの現状認識に基づくものである。

そして、右の廃棄物の減量を積極的に推進していくためには、廃棄物を再生する優良な事業者の育成を図るとともに、地方公共団体と右の事業者との連携・協力態勢を確立することが必要不可欠であることから、廃棄物処理法は、平成三年の改正で、同法の目的に従前の廃棄物の適正な処理に加えて廃棄物の排出そのものの抑制を併記するとともに、廃棄物の処理についても、従前から規定されていた廃棄物の適正な保管、収集等と並んで分別・再生を加え(同法一条)、さらに、廃棄物の再生を業として営んでいる者が、その事業の用に供する施設及び能力において当該再生事業を的確かつ継続して行うに足りるものとして一定の基準に適合するときには、右再生事業を行う場所について、当該事業場の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けることができるものとし(同法二〇条の二第一項)、右の登録を受けた事業者は「廃棄物再生事業者」の名称を独占使用することができるとし(同条三項)、かつ、税制上も特別土地保有税の非課税措置及び事業所税の軽減措置といった優遇措置を講じつつ(地方税法五八六条二項四号の二、七〇一条の四一第一項四号の二)、その反面、市町村は右の登録を受けた事業者に対し、当該市町村における一般廃棄物の再生に関して必要な協力を求めることができる(廃棄物処理法二〇条の二第四項)ものとしたのである。

2  ところで、廃棄物処理法は、廃棄物については、同法二条一項において、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のものをいうとしつつ、廃棄物の再生については明らかにするところがないが、前記1のとおり、廃棄物処理法の改正の趣旨が廃棄物の再生利用等により廃棄物の減量を目指すものであることに鑑みると、廃棄物の再生とは、廃棄物に必要な操作を加えてこれを廃棄物以外の有用物にすることを意味するものであるということができる。

問題は、ある物が右の「有用物」であるか「不要物」であるかの判断基準であるが、ある事業者が廃棄物再生事業者として登録されると、当該事業者が廃棄物に加工して生成された再生品は、それ自体、既に廃棄物ではないとして、その処理につき、当然には廃棄物処理法上の規制が及ばないこととなるのであるから、有用物に当たるか否かを、当該事業者の事業目的という主観的側面からのみ決することとした場合は、廃棄物の再生を隠れ蓑とした脱法的な廃棄物の不適正処理を回避し得ないおそれが生じ、廃棄物の減量を目指した同法の趣旨は没却されることになりかねない。

したがって、廃棄物処理法における廃棄物再生事業者として登録を受けるためには、当該事業者の事業によって生成される再生品が単に事業者の主観において廃棄物ではないと認識されているだけでは足りず、当該再生品を保管、収集、運搬、処分等をするに際し、廃棄物処理法上の規制を及ぼさずに処理をしたとしても、これにより生活環境又は公衆衛生を害するおそれがあるものではないと客観的に判断できるものでなければならず、その該当性を判断するに当たっては、その物の品質、性状、再生品としての利用可能性及び利用価値並びにその現実の利用状況等を総合的に勘案し、これが社会的に有用な物として客観的に一定の価値を有するものであると認められなければならないというべきである。

3  右の点に関し、被告は、再生品とされるものが右のような一定の価値を有するか否かを判断するためには、その物が第三者に有償で売却できる物か否かを基準とすべきであるし、その判断基準を充足しているか否かは現実の有償売却を証する書面によって証明されなければならない旨主張する。

たしかに、ある再生品とされる物が、客観的に無価値であり、およそ他人に有償で譲渡することができないようなものであるため、事業者にとって不要物であるとしか観念できない場合には、当該事業者はこの物を廃棄するほかないのであるから、このような物を廃棄物処理法上の廃棄物とみて、同法の規制のもと、適正な処理を図る必要があることは当然である。その意味で、当該再生品の客観的価値を判断する上で、それが有償売却できる物であるか否かを判断基準とする考え方にはそれなりの根拠があると考えられるし、右基準を充足しているか否かは、その売却実績の資料で判断するのが簡便な方法ではある。

しかし、ある再生品を当該事業者が一定の用途のもとに自ら利用する場合には、これを現実に第三者へ有償で売却していなくとも廃棄物の処理とはされないこと、また、客観的に一定の価値を有し、有償売却が可能な物であっても、再生品の有効活用と流通促進等の見地から、あるいは経営効率上の観点から、あえて無償で譲渡、頒布される場合があることは容易に想定されることであるし、そのような場合を廃棄物処理法の予定する廃棄物再生事業の対象外とすることは、廃棄物を無害化し、有用な用途へと再活用していくことにより廃棄物の減量を推進することを目的とする廃棄物処理法の改正の趣旨にそぐわないこと、また、廃棄物の再生事業は、一旦排出された不要物に何らかの加工をすることによりこれを有用な物にすることを目的とするものであって、これにより当該事業者が利潤を得ることを目的としているものではないことなどに照らすと、有償売却の可能性を再生品の有用性の判断の際考慮すべき基準と考えるにしても、その基準の充足の有無を現実の有償売却、すなわち売却実績の資料で証明しなければならないとする必然性はないというべきである。

また、有償売却の可能性という基準それ自体についても、そもそも前記2のような判断基準を充たし、社会的に有用であるとして客観的に一定の価値を有すると認められるような物について、有償売却の可能性が全くないとは考えられないのであるから、それを右基準とは別個独立の判断基準として定立する意味はほとんどないと考えられる。

したがって、たとえ当該再生品の全部又は一部につき有償売却の事実が証明できない場合であっても、その再生品の品質、性状、再生品としての利用可能性及び利用価値並びにその現実の利用状況等に照らして当該再生品に一定の客観的価値が認められる場合には、そのような再生品は有用物であると認めるべきであり、そのような再生品を生成する事業者は、廃棄物処理法二〇条の二の廃棄物再生事業者の登録基準を充足しているとみて妨げない。

したがって、被告のこの点に関する主張は採用できない。

二  そこで、右一の解釈を前提に、本件申請に係る混合再生砂が有用物に当たるか否かを検討する。

1  前記第二の一の事実に加えて、証拠(甲一の1ないし一の14の8、七、八、一八、一九、二二、二四、乙三の1、2、一五、一六、一八、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和四七年に創業し、当初は白蟻防除工事を行っていたが、その後建設現場での解体工事を施行するようになり、昭和六三年以降は、廃棄物の焼却事業(木くず、紙くず、繊維くずを焼却して最終処分する事業)や生ごみ等の再生事業(生ごみ等を家畜のえさとして再生する事業)、また、本件破砕再生事業といった各種廃棄物処理業を行うようになった。原告の事務所は東京都台東区βに、営業所は神奈川県相模原市、埼玉県越谷市及び千葉県八千代市にあり、本件破砕再生事業の処理施設である固定式破砕機等は千葉県印旛郡αにある。

(二) 原告の本件破砕再生事業は、千葉県その他関東地区全域における自社又は他社の建設・解体工事現場等で発生した廃棄物であるガラスくず及び陶磁器くず並びにがれき類(以下、これらを「混合廃材」といい、これに土砂の混合したものを「混合廃材等」という。)を前記(一)の処理施設に搬入又は受入れし、これに前記第二の一2(三)のとおり破砕処理を加え、混合再生砂にするというものであり、原告が混合廃材等を他社から受け入れる際には、再生利用費という名目で一立方メートル当たり五〇〇〇円の対価を受領している。

(三) 混合再生砂は、混合廃材等から鉄片除去機で鉄片を除去し、さらに目視等の監視により廃プラスチックや木くずを可能な限り除去し、これを破砕したものである。なお、廃プラスチック類は、破砕後も選別機械でふるいにかけ、回収する。

このようにして生成された混合再生砂は、その最大粒径が三センチメートル未満であり、そのうち一センチメートル未満のものが全体の七五パーセン以上を占めており、土質工学会編の土質試験法に基づく土の化学的性質試験においては、分類上、細粒分まじり礫(分類記号G―F)であり、第二種土質材料として路床、路体、河川堤防、宅地造成、埋立等の用途に適用性を有するとされ、また、その特性において道路敷設の際の路盤用材料として市販されている再生砕石に比しても決して遜色がなく、突固めによる土の締固め試験(締固め特性)では、山砂に比して締め固めに適しているとされる。なお、前記のような除去作業を行っても、混合再生砂内に廃プラスチック類や木くずが若干量混入する可能性は避けられないが、右のような混合再生砂の用途に影響はない。

また、その安全性については、昭和四八年環境庁告示第一三号による溶出試験において、水銀、カドミウム、鉛、有機りん、六価クロム、ヒ素、銅、亜鉛又はそれらの化合物やシアン化合物、PCBの含有量は、いずれも基準値を下回るものであった。

(四) 原告は、前記のようにして破砕加工して生成された混合再生砂を混合廃材等を持ち込んだ業者等に無償で引き渡すほか、一部を原告の解体工事等における現況復旧土として使用している。原告が混合再生砂を自社の解体工事現場において現況復旧土として使用する場合には、混合再生砂の代金、現場への運賃、盛土の技術料を含む現況復旧盛土代につき、一立方メートル当たり五〇〇〇円の単価計算で見積りを出し、元請会社のマージンとして一定割合を控除した額について代金を受領している。平成八年七月一日から平成九年六月三〇日までの一年間に、原告が処理施設に受け入れた混合廃材等の量は合計約七〇五一立方メートル(混合廃材の受入量が約二八二〇・四立方メートル、土砂の受入量は約四二三〇・六立方メートル)であり、これらを破砕処理して混合再生砂とした後に原告の請け負った解体工事等の現場で現況復旧土として使用した分が約一九七五立方メートル、他の業者に無償で提供した分が約五〇七六立方メートルであった。原告が生成された混合再生砂を持ち込み業者に無償で交付しているのは、これを有償で販売するとすれば、専用の資材置き場(ストックヤード)を設けるとともに、販売用の施設を整備し、事務員も配置しなければならないが、そのコストを考えると、対価は無償とする代わりに、持ち込んだ翌日くらいに、当該持ち込み業者にそれを引き取ってもらうこととした方が原告の事業戦略上、効率的であるとの経営判断に基づくものであり、混合再生砂がおよそ有償で売却不可能だからという理由によるものではない。なお、東京、千葉方面では、本件の混合再生砂より品質において劣るものも、建設資材たる再生砕石として一立方メートル当たり二〇〇〇円以上で販売されている。

(五) 原告の本件破砕再生事業の収益は前記(二)の再生利用費及び右(四)の現況復旧盛土代等に基づくものであるところ、平成八年七月一日から平成九年六月三〇日までの一年間の同事業の総売上高は五八四八万四五四〇円、売上値引を差し引いた純売上高は五八四四万六〇六九円であり、これから諸経費等を控除した経常利益は一八八九万八一八四円であった。なお、右期間における原告の全事業(白蟻防除事業、家屋解体等事業、焼却事業、生ごみ等再生事業及び本件破砕再生事業)を合計した総売上高は八億五四五〇万五八四〇円、純売上高は八億五一九九万八三二一円、売上総利益は四億一七二三万九四六二円、経常利益はマイナス一六六万八八八九円であった。

2  右1の事実によれば、混合再生砂は、廃棄物であるガラスくず及び陶磁器くず並びにがれき類を一定の大きさ以下に破砕することによって生成された物であるところ、その性状は、宅地造成、埋立等に適応性を有する細粒分まじり礫であり、その特性において現在道路等の路盤用材料として使用されているものと比較しても決して遜色がなく、また、その安全性についても特に問題がないこと、そして、右のような再生砕石は一般的に建設資材として有償で取り引きされているものであるし、現実に、原告は、その一部を自社の解体工事等の現場において、現況復旧土として使用しており、それに見合う対価も得ていること、それ以外の混合再生砂については、建設廃材等を持ち込んだ業者等に無償で引き取らせているが、それは前記1(四)のような事業経営上の観点によるものであり、混合再生砂が有償で売却不可能だからという理由によるものではないことなどが認められる。

さらに、原告は、廃棄物を受け入れて、これを右のような性状等を有する混合再生砂に加工することを目的として、そのために必要とされる処理施設を保有し、稼働している実績を有していることが認められる。

したがって、以上を総合すれば、混合再生砂は、その品質、性状、再生品としての利用可能性及び利用価値並びにその現実の利用状況等に照らして一定の客観的価値を有するものであると認められるから、有用物であると認めるのが相当であり、このような再生品を生成する事業者である原告は、廃棄物処理法二〇条の二の廃棄物再生事業者の登録基準を充足しているとみて妨げない。

3  仮に、被告主張のように、再生品が有用物といえるためには、有償売却できるか否かを基準とすべきであり、かつ、右基準の充足は、現実の有償売却の事実によって証明されることが必要であったと解したとしても、前記1(四)のとおり、原告は混合再生砂を自社の解体工事等の現場で現況復旧土として相応の対価を得て使用しているのであるから、混合再生砂は有償売却できる物であるし、その有償売却の実績についても証明があるということができる。

なお、被告は、本件申請の際、原告の提出した見積書等では混合再生砂自体の有償性が明らかでない旨主張するところ、たしかに、原告が本件申請の際被告に提出した部門別損益構成表、見積書、注文書等(甲一の14の2)によっては混合再生砂自体の価格が明らかであるとはいい難いが、原告は混合再生砂を建設資材として単品で販売しているわけではなく、その営む解体工事等の現場において、資材の一つとして利用しているのであるから、その見積り等の単価が技術料その他の諸経費が含まれたことになるのはやむを得ないというべきであるし、前記1(四)のように、混合再生砂より品質において劣る再生砕石が一定の価格で販売されていることにも照らせば、右見積り等の単価の中には、混合再生砂自体の価格も含まれているとは明らかである。

また、被告は、右のような混合再生砂の利用につき、購入者たる注文主がその性状等を確実に把握した上で注文しているか否か不明であるとするが、注文主がそれらの点につき全く関心を払わないとは考えられないし、いずれにせよ、混合再生砂が客観的にみて、現況復旧土として十分な利用価値を有していることは前記1(三)のとおりであるから、この点も混合再生砂が有償で売却されているとの前記判断を左右するものではない。

さらに、被告は、原告が自社工事分で使用する以外の混合再生砂については有償売却の事実の証明がないと主張するが、前記被告主張のような前提に立った場合でも、当該再生品の全部について有償売却の証明が必要であるとは解し難いから、この点も混合再生砂につき有償売却の事実の証明があるとの前記判断に影響を及ぼすものではない。

三  以上のとおり、原告の本件破砕事業によって生成された物は有用物であると認められるのであるから、被告は、原告を廃棄物再生事業者として登録しなければならないにもかかわらず、これを拒否した本件処分は違法である。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

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