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千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)78号 判決 2003年4月22日

原告

上記訴訟代理人弁護士

村上忠義

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松本昌道

被告

柏税務署長 近江紳二

上記指定代理人

植田浩行

畑山茂樹

藤崎清

江沢正明

岡靖彦

上村剛

板垣浩

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が、平成7年3月31日付けで原告の相続税について行った更正(平成10年8月31日付け更正による減額後のもの)のうち、課税価格120億9986万1000円、納付すべき税額75億2419万3400円を超える部分及び平成10年8月31日付けでした過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  被告が、平成7年3月31日付けで原告の平成6年分地価税について行った更正(平成10年6月30日付け裁決により減額後のもの)のうち、課税価格51億2512万0910円、納付すべき税額1087万5300円を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

本件は、相続税及び地価税の更正処分に違法があると主張する原告が、相続税及び地価税の更正処分等の取消しを求めた事案である。なお、立証は証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

1  争いのない事実等

(1)  原告は、乙(以下「乙」という。)の子である。乙は、平成5年12月26日死亡し、原告及び丙、丁、戊がその権利義務を承継した(以下「本件相続」という。)。

(2)  原告は、本件相続により、柏市南柏一丁目及び同市南柏二丁目所在の別表1記載のAからTまでの土地(以下「本件土地」といい、そのうち、柏市南柏一丁目に所在するものを「一丁目土地」、同市南柏二丁目に所在するものを「二丁目土地」という。)を含む土地、有価証券、現金等を相続した。

(3)  本件相続にかかる相続税の申告から審査請求にかかる裁決までの経緯(その後、別表2の(10)の更正がされた。)及び地価税の申告から審査請求にかかる裁決までの経緯は別表2、3のとおりである(以下、別表2の順号(4)の更正処分を「本件相続税更正処分」、別表3の順号(2)の更正処分を「本件地価税更正処分」といい、両者を併せて「本件各更正処分」という。)。

原告は、平成10年10月2日、本件訴えを提起した。

(以上の事実は、当事者間に争いがないか、証拠〔甲2、3〕及び弁論の全趣旨によって認める。)

2  争点

(1)  本件土地の評価単位について。

ア 原告の主張

(ア) A、B土地について

A、B土地は、全体としての利用形態及び経済的見地から、公図どおりの区画ごとに評価されるべきである。被告は、A、B土地を公図とは異なる線で区切って評価するべきものと主張するが、これは、A土地上の平面図における形にとらわれて店舗の裏側壁面に沿って線引きしようとしたものであり、このように区分すると、建ぺい率は81.83%となり、建築基準法所定の建ぺい率80%を超過することになる。これに対し、原告の主張によると、建ぺい率は71.29%になるから、原告主張が合理的というべきである。

(イ) N、O、P土地について

O土地については、現場がパイプフェンスで仕切られていること、出入口が完全に別であること、舗装方法も異なることなどから、別紙原告主張図のように、O1部分とO2部分に区分して評価すべきである。また、N土地とO2土地は、被告主張のように店舗裏側壁面に沿って線引きすると、商品の搬出入、梱包、荷解き、包装品の一時置き等に困難を来すから、営業活動に必要な範囲で(別紙原告主張図参照)区分すべきである。

イ 被告の主張

土地の取引は、通常利用単位ごとに行われ、その取引価格も利用単位を基に形成されている以上、利用の単位ごとに土地の価額を評価するべきである。そして、A、B土地及びN、O、P土地の利用単位は別紙利用図のとおりであるから、そのような区分に基づいてした被告の本件各更正処分に違法はない。

(2)  本件土地の時価はいくらか。

ア 原告の主張

(ア) 路線価方式の不当性

被告は、本件土地の評価に関し、路線価を基にその価額を主張している。しかし、路線価は、毎年1月1日時点で算定されているところ、本件相続は平成5年12月26日であって、限りなく平成6年に近いうえ、当時の地価が毎年10%以上の下落傾向にあったことを考慮すると、本件相続時の土地評価について平成5年の路線価を用いることは不合理である。また、路線価は、公道に面する整形の標準的な面積の土地を評定しているが、本件土地の大部分は、通常の宅地の規模からみて著しく広大であり、実際に取引される場合の価格は通常の路線価よりはるかに低くなると考えられる。

(イ) 規準公示地の不当性

被告は、本件土地の時価算定に当たって柏市南柏一丁目に所在する土地(以下「柏5-4」という。)を規準公示地としている。しかし、柏5-4の公示価格は、平成5年が1平方メートル当たり156万円、平成6年が127万円であり、最も類似した取引事例が86万2000円であることと比較して、あまりにも格差がありすぎる。一方、本件土地は、核となる大型商業施設もなく、商業地として高度に発展する余地もないから、これと類似した松戸市馬橋字西条に所在する土地(以下「松戸5-2」という。)を規準公示地として採用すべきである。

(ウ) 借地権の存在

乙は、昭和36年5月11日、有限会社A(以下「A」という。)との間で、一丁目土地のうち、H、I土地を除いた土地を賃貸ビル敷地として賃貸する内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。そうすると、少なくともB、K、L、O2の各土地についてはAの借地権が存在するから、それを前提とした評価をすべきである。

(エ) 貸家建付地としての評価

I土地は、かつて同土地上に存在した建物の所有権について争いがあったが、平成6年11月23日、原告とB(以下「B」という。)との間で、原告が所有権を有し、Bが借家権を有することを確認し、原告が立退料2520万円を支払うことで合意した。これによれば、I土地は貸家建付地であるので、これを前提とした評価をすべきである。仮にこれが認められないとしても、上記立退料を債務として評価し、あるいは個別事情に基づく評価損として算定すべきである。

(オ) 生産緑地の評価減割合

S土地は、生産緑地に指定されているが、生産緑地の指定を受けた農地は、30年間は転用、譲渡ができず、30年が経過しても、市に買取りを請求するには、改めて不動産鑑定士等に時価を算定してもらう必要があり、さらに、時価についての意見が整わなかった場合には、土地収用委員会の裁決を得るという複雑な手続きを経なければならない。このように、生産緑地については全くといっていいほど市場性がないのであるから、70%の評価減をすることが相当である。

イ 被告の主張

(ア) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)に定める路線価方式は、各年の1月1日時点を基準として評定される路線価に基づきその年に相続により取得した宅地の評価を画一的に行うという評価手法であるから、路線価方式により算定される価額が客観的交換価値を上回らない限り、相続税法22条、地価税法23条所定の「時価」としての合理性を有するものである。一方、路線価の評定時点以降に地価の大幅な下落等の特別な事情により、路線価方式により算定される評価額が客観的な交換価値を上回ることとなる場合には、個別的な評価の合理性を尊重すべきこととなる。

被告は、JR常磐線南柏駅(以下「南柏駅」という。)の北西約400メートル付近に位置する既成住宅地域の2つの近隣地域内に標準的画地を想定し、取引事例比較法により算出した比準価格と公示価格を規準させた規準価格を関連づけて、2つの各近隣地域内の標準的画地の標準価格を求め、次に、こうして算出した標準価格を基礎に、画地条件を除く個別的要因に基づく格差修正を行い各土地の、1平方メートル当たりの個別標準価格を算出し、その結果、各土地の路線価が個別標準価格を上回ると認められる土地については、個別標準価格に各土地の画地条件に係る個別的要因に基づく格差修正を行い各土地の価額を算定し、また、その土地の路線価が個別標準価格を下回ると認められる土地については、路線価方式により評価した価額により、各土地の評価額を算定したもので、その算定に違法はない。

(イ) 原告は、B、K、L、O2の各土地についてAの借地権が存在すると主張しているが、同土地は建物の敷地として利用されているA、E、F、Nの各土地とは明確に区分されており、建物の敷地として使用されたことは一度もなく、いずれもアスファルト敷きで整地され、又は立体駐車場の敷地として利用されていることからすると、B、K、L、O2の各土地についてAの借地権が存在するということはできない。

(ウ) 貸家建付地とは、現に借家の目的となっている家屋の敷地の用に供されている土地のことをいうが、I建物に関する乙とBとの使用関係については使用貸借というべきであるから、被告が評価に当たり、借家権の価額を考慮せず、自用地として評価したことは合理的である。

(エ) 市街化区域内にある農地が生産緑地に指定されると、その利用が制限されるものの(生産緑地法8条)、一定期間を経過すれば、利用制限がない場合の時価で市町村長に対して買取りの申出ができるのであるから(同法10条)、その意味の価格面での不利益は存しないのであり、原告主張のような大幅な評価減が相当であるということはできない。

(3)  本件各更正処分に禁反言ないし信義則違反があったか。

ア 原告の主張

乙らの従前の所得税、贈与税、地価税、相続税の各申告において、B、K、L、O2の各土地について借地権が存在しているとして申告がなされ、長年にわたる被告の調査においてもこれが容認されてきたのであり、本件各更正処分において、突如としてその一部についてこれを否認し、更正処分をしたことは、禁反言ないし信義則に反する。

イ 被告の主張

乙らの従前の申告は、Aが原告主張のような借地権を有していることを前提にしていたが、これらの申告においては、Aの借地権は当然の前提とされていたものであり、借地権の存否自体は全く問題とされていなかった。よって、従前の被告の調査において、Aが借地権を有するか否かについての検討、判断が行われたことはなく、被告が「Aが借地権を有する」との公的見解を表示したものということはできないから、禁反言ないし信義則に反するものではない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

証拠(甲1〔枝番を含む。〕、2、3、7、15、16、19、39、乙6ないし12)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  一丁目土地の状況

一丁目土地の所在する地域は、南柏駅の西口駅前に位置し、西口駅前広場から国道6号線に至る幅員18メートルの公道及びその裏面道路沿いに展開する駅前商業地域である。同地域には、中小規模の小売店舗、飲食店や中層の店舗兼共同住宅が多いが、当該地域の大部分はいわゆる青空駐車場に占められ、総じて繁華性は低い。各街区は、土地区画整理事業が施行され幅員18メートルの公道を中心に6メートルの公道を標準として配置され、また、都市計画法上の用途地域は商業地域となっており、容積率は400%、建ぺい率は80%(街区の角にある敷地等については、建築基準法53条3項2号10%加算される。以下同じ。)である。

一丁目土地のうち、A土地は、柏市南柏一丁目5番地1に位置する南側南柏駅前広場、東側18メートルの市道及び北側6メートルの市道に接面したカギ状の面積693.46平方メートルの不整形の土地であり、本件相続開始時には、店舗兼住居として使用されているA所有建物の敷地の用に供されていた。

B土地は、柏市南柏一丁目5番地の1の内A土地以外の部分及び前記5番地の1から分筆された同一丁目5番地の3に位置する土地から成る西側及び北側6メートルの市道に接面した面積564.54平方メートルのほぼ長方形の土地であり、建物が存する隣地のA土地とは明確に区分されていた。本件相続開始時には、Aに賃貸され、アスファルト敷きで、月極及び時間貸しの駐車場として使用されていた。

K土地は、柏市南柏一丁目10番地1面積451.32平方メートルの土地であり、本件相続開始時には、Aに賃貸され、立体駐車場の敷地として使用されていた。

L土地は、柏市南柏一丁目10番地の土地内の立体駐車場の敷地として利用されているK土地を除いた部分の土地であり、面積は1124.68平方メートルである。本件相続開始時には、Aに賃貸され、アスファルト敷きで、時間貸しの駐車場として使用されていた。

N土地は、柏市南柏一丁目11番地1内に位置する東側18メートルの市道及び南側6メートルの市道に接面した面積708.01平方メートルのほぼ長方形の土地であり、本件相続開始時においては、店舗兼住居として使用されているA所有の建物の敷地の用に供されていた。

O、P土地は、柏市南柏一丁目11番地1の内N土地以外の部分及び同一丁目11番地2に位置する土地から成る東側18メートルの市道及び北側、西側、南側6メートルの市道に接面した面積2338.99平方メートルのL字型の土地であり、本件相続開始時には、Aに賃貸され、駐車場として使用されていた。

(2)  二丁目土地の状況

二丁目土地のうち、Q土地、R土地及びS土地が所在する地域は、南柏駅の北西約400メートルに位置する、国道6号線沿いの商業地域であり、レストラン、コンビニエンスストアー、ガソリンスタンドなどの施設があり、独立した商業地域を形成している。都市計画法上の用途地域は住居地域で、容積率は200%、建ぺい率は60%である。

二丁目土地のうち、T土地の所在する地域は、南柏駅の北西約400メートルの国道6号線北西側の背後地に位置し、画地規模の比較的大きな一般住宅及びアパート等が混在する既成住宅地域である。都市計画法上の用途地域は第一種住居専用地域であり、容積率は150%、建ぺい率は60%である。

(3)  Aの設立と本件賃貸借契約

昭和36年5月11日、本件土地を効果的に運用することなどを目的として、不動産賃貸を業とするAが設立され、原告が代表取締役に就任した。Aは、同日、乙との間で同人が所有する下記の対象土地を賃借する本件賃貸借契約を締結した。その概要は以下のとおりである。

対象土地 一丁目土地のうち、H、I土地を除いた土地

期間 50年

地代 坪20円

使用目的 賃貸ビル敷地

権利金 1000万円

そして、Aは、昭和36年から42年ころにかけて、A、F、N、Eの各土地上に店舗建物を建築した。

(4)  公正証書

昭和47年2月から3月にかけて、Aと乙の間で、乙を貸主、Aを借主として、下記対象土地欄記載の土地を賃貸目的欄記載の目的で賃貸するとの内容の土地賃貸借契約公正証書が作成された。

対象土地 賃貸目的 公正証書番号

A土地 鉄筋コンクリート造店舗敷地 昭和47年205号

F土地 木造建物敷地 同年207号

C、D土地 車両置場敷地 同年208号

E土地 木造建物敷地 同年209号

O土地 仮設物置、駐車場敷地 同年210号

N土地 鉄筋コンクリート造店舗敷地 同年211号

B土地 仮設物置、駐車場敷地 同年408号

(5)  I土地について

I土地は、もと乙が所有し、土地上に乙が建物を建築したうえ、C(乙の妹。以下「C」という。)が占有使用していた。なお、同建物の登記簿の表題部には、所有者としてCの名前が表示されていた。

同建物は、平成2年9月4日付けでB(Cの養子)名義の所有権保存登記がされ、平成6年11月29日付で真正な登記名義の回復を原因として、原告に所有権移転登記がされた。これは、Cの死亡後、乙とBとの間で同建物の所有権の帰属について紛争が生じ、平成6年11月23日、原告とBとの間で、同建物の所有権が原告に帰属すること及びBが同建物の借家権を有することを確認するとともに、原告がBに対して2520万円の立退料を支払うとの合意に基づくものであった。なお、乙が同建物をC及びBに使用させるに当たり、C及びBとの間で建物の賃貸借契約書は作成しておらず、賃料の授受も行われなかった。

2  争点(1)について

土地の取引は、通常利用単位ごとに行われ、その取引価格は利用単位を基に形成されていることは公知の事実であり、そうだとすれば、利用の単位となっている1区画の宅地又は一団の雑種地ごとに土地の価額を評価するのが合理的であり、課税時期現在の土地の利用状況に応じ、宅地については、利用の単位となっている1区画の宅地ごとに、雑種地については、利用の単位となっている一団の雑種地ごとに評価すべきである。よって、課税時期において評価単位に争いのある土地の評価に際しては、必ずしも1筆の土地の範囲に拘泥することなく、その土地の利用状況に照らし、1区画の宅地又は一団の雑種地ごとに評価することが相当である。

本件では、1で認定したように、A土地及びN土地は建物の敷地の用に供されている宅地であり、B土地及びO、P土地は月極ないしは時間貸しの駐車場の敷地として利用されている雑種地である。そうすると、隣接するA土地とB土地の利用状況は異なるし、同じくN土地とOP土地(1で認定したように、O土地とP土地については、利用状況が同一であり、1評価単位と扱うのが相当である。)の利用状況も異なるのであり、駐車場が建物の利用に供されていたと認められる証拠もない本件では、それぞれ別個の評価単位とするのが相当である。そして、上記のように、宅地についても雑種地についても、利用状況ごとに評価単位とするのが相当であるところ、証拠(甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、A、B土地及びN、OP土地の課税時期における利用状況はいずれも別紙利用図のとおりであると認められるから、これと同様の被告の主張には理由がある。

原告は、A土地とB土地については、筆ごとに区分すべきであり、また、O土地については、パイプフェンスで仕切られている状況に応じて評価すべきであると主張する。しかし、上記説示のとおり、利用単位ごとではなく筆ごとに区分すべきとの主張には合理性は認められないし、N、OP土地に関しては、弁論の全趣旨によれば、N土地上に所在する建物の壁面に沿って区分していることが認められるところ、これが建物敷地と駐車場用地の区画として不合理であるとはいえない。

また、原告は、被告の主張するA土地の評価単位面積を基準とするならば、建ぺい率違反になる旨主張する。しかしながら、相続により取得した土地の価額は、相続開始日における現実の利用状況に基づき評価単位を判定し評価するものであるから、建ぺい率の算定とは自から次元を異にするものであるから、この点に関する原告の主張も採用できない。

3  争点(2)について

ア  相続税法22条は、相続財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定し、地価税法2条4号、23条は、土地の価額はその年の1月1日午前零時における時価によるものとしているが、ここにいう時価とは、いずれも客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。

ところで、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、課税実務上、各種財産の時価評価に関する原則を明らかにした評価通達が定められていること、これによれば、市街地的形態を形成する地域にある宅地については、原則としてその宅地の面する路線に付された路線価を基とし、奥行価格補正等の画地調整を施して計算した金額によって評価する路線価方式が採用されていること(評価通達11、13)、平成4年分以降の路線価は、評価時点である毎年1月1日以後の1年間の地価変動に耐え得るよう、地価公示価格と同水準の価格の8割程度を目途に価額決定されていることが認められる。

このような路線価方式による財産の評価は、相続税の課税対象となる財産が多種多様であり、時価を適正に把握することは必ずしも容易ではないことなどから時価の範囲内で画一的な評価を行うものであって、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から合理的なものといえ、相続税法22条もこのような評価方法を許容しているものというべきである。よって、路線価を基に評価した価額が相続開始時点の時価を上回っているような特別の事情が認められない限り、路線価方式による評価は合理性を有するというべきである。

イ  そして、証拠(甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件土地について、正面路線価、側方路線価等を基に、奥行価格補正、側方路線影響加算、不整型地補正等を行い、路線価方式による評価額を算定し、また、以下のとおり、取引事例比較法等を用いて、本件各土地の時価を算定したうえで、別表1のとおり、路線価方式により算定された評価額が時価を上回ると認めたA土地及びE土地については個別標準方式で、それ以外の土地については路線価方式で評価額を算定したことが認められる。

(ア) 一丁目土地の取引事例比較法に基づく比準価格

一丁目土地の同一需給圏内の類似地域に存すると認められる不動産の取引事例を基礎として、一丁目土地の1平方メートル当たりの比準価格を92万9953円又は104万2380円と算定した。

(イ) 一丁目土地の公示価格に基づく規準価格

柏5-4が一丁目土地の属する近隣地域に所在することから、同土地の規準価格を基礎に1平方メートル当たりの規準価格を106万6800円と算定した。

(ウ) 一丁目土地の標準価格の決定

被告は、これらをもとに、一丁目土地の標準価格を102万円と算定した。

(エ) 一丁目土地の個別標準価格の決定

上記(ウ)において算定した一丁目土地の標準価格102万円を基礎に、土地価格比準表の定めに準じて画地条件を除く個別的要因の格差を判定し、一丁目土地の1平方メートル当たりの個別標準価格を査定したところ、A土地は150万9000円、B土地は86万7000円、E土地は154万円、F土地は128万5000円、I土地は102万円、K土地は78万5000円、L土地は102万円、M土地は102万円、N土地は112万2000円及びOP土地は104万円と求められた。これを各正面路線価とを比較して検証したところ、A土地及びE土地の個別標準価格(A土地150万9000円、E土地154万円)は、正面路線価(A土地220万円、E土地220万円)を下回っていると認め、路線価方式によらず、それぞれの個別標準価格を基礎に、土地価格比準表に準じて画地条件に関する個別的要因の格差率を算定し、当該個別的要因格差率を乗じてその価額を算定した。

(オ) 二丁目土地の公示価格に基づく規準価格及び標準価格の算定

1(2)で認定したとおり、二丁目土地の所在する地域は、比較的規模の大きい一般住宅及びアパート等の混在する住宅地域であり、これと利用状況及び立地条件の類似した柏市南柏二丁目に所在する公示地を基礎として、規準価格を37万9200円と算定し、これに基づき、標準価格を38万円と算定した。

(カ) 二丁目土地土地の個別標準価格の決定

二丁目土地のうち、T土地については、同土地が属する近隣地域内の標準的画地と比較して個別的格差が認められなかったことから、(オ)の1平方メートル当たり38万円をもって、T土地の個別標準価格とした。そうすると、T土地の個別標準価格は路線価を上回っていることから、路線価方式により評価するものとした。その他の二丁目土地についても、いずれも個別標準価格が路線価を上回っていたことから、路線価方式により評価するものとした

ウ 原告は、一丁目土地の評価に当たっては、公示地として、松戸5-2が適当であると主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、松戸5-2は、南柏駅から三駅離れたJR馬橋駅前の近隣商業地域内に所在し、小売店舗が立ち並ぶなど繁華性は高く、一丁目土地とは地域内の用途性も商業圏域も異なることが認められ、これらによれば、原告主張のように、松戸5-2が公示地として適切であるということはできない。

また、原告は、B、K、L、O2の各土地について、Aの借地権が存在すると主張している。しかし、土地全体について建物所有目的の賃貸借契約が締結された場合であっても、当該建物所有に通常必要であると認められる範囲で借地権が及ぶものと解すべきであるところ、1で認定した事実、証拠(甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、B、K、L、O2の各土地は、建物の敷地として利用されているA、E、F、Nの各土地とは明確に区分され、本件賃貸借契約締結後、B、K、L、O2の各土地が建物の敷地として使用されたことは一度もないこと、これらの土地は、いずれもアスファルト敷きで整地され、又は立体駐車場の敷地として利用されるなど、明らかに建物所有を予定しているとはいえない形状であることが認められる。そうすると、B、K、L、O2の各土地については、建物所有に通常必要な範囲ということはできないから、本件賃貸借契約によって、これらの土地にAの借地権が及ぶものということはできない。のみならず、1(4)で認定したように、B土地及びO2土地については、昭和47年に作成された公正証書により、その賃貸目的が仮設物置及び駐車場敷地に変更されているから、同土地については、賃貸借の目的が建物所有であるということはできない。よって、B、K、L、O2の各土地についてAの借地権が存在するということはできない。

また、原告は、I土地は貸家建付地(現に借家の目的となっている家屋の敷地の用に供されている土地)であると主張するので検討するに、1(5)で認定したとおり、乙は、C及びBに対してI土地上の建物を使用させるに当たり、賃貸借契約書を作成していないばかりか、賃料の授受すらしていないのであって、これによれば、同建物の使用関係が賃貸借であったと認めることはできず、使用貸借であったというべきである。よって、被告がI土地の評価に当たり、借家権の価額を考慮せず、自用地として評価したことは適法である。なお、原告は、仮にI土地を貸家建付地と評価することができないとしても、立退料を債務として相続財産から控除すべきであるなどと主張する。しかし、証拠(甲16)によれば、原告がBに対して立退料支払義務を負担したのは、合意書が作成された平成6年11月23日であることが認められるから、原告が具体的な債務を負担したのは、本件相続開始時(平成5年12月26日)から約11か月後ということになる。以上の事実関係においては、本件相続開始時に、同債務が相続税法14条にいう「確実と認められるもの」に該当するということはできないし、他にこのことを窺い知る証拠もないから、これを債務等として相続財産から控除することはできない。

更に、原告は、S土地について、生産緑地に指定されたことによる評価減70%の主張をする。確かに、市街化区域内にある農地が生産緑地に指定されると、その地区内にある生産緑地については、建築物の新築、宅地の造成等を行うには市町村長の許可を受けなければならず(生産緑地法8条1項)、さらに、農産物の生産集荷施設等を設置する場合以外は、原則としてこの許可は下りないこととされているから(同条2項)、農地以外での利用は原則としてできなくなるなどの制限があり、市場性が減ずることは原告主張のとおりではある。しかし、被告主張の掛率0.65は、評価基準40-2(生産緑地の評価)に基づくものであるところ、アで判断したとおり、評価通達に基づく財産の評価は基本的には合理性を有するもので、上記のような生産緑地法に基づく種々の制限は、評価通達の中で一般に考慮されている性質のものである。ところが、本件では、原告は、生産緑地についての一般的な減額要因を主張するのみで、個別具体的な減価要因を主張していないし、本件全証拠をもってしても上記掛率を超える評価減が相当であるという事情を窺うことはできないから、上記掛率0.65が高すぎるということはできない。

エ 以上によれば、本件各土地の評価額は、相続税法22条及び地価税法23条の「時価」の範囲内といえ、本件全証拠によっても、本件土地の評価額が時価額を超えているとは窺えないから、その評価方法に違法な点はない。

4  争点(3)について

証拠(甲25、26)及び弁論の全趣旨によれば、乙は、平成4年5月25日の被相続人内海Dにかかる相続税申告の際、Aが本件土地に借地権を有しているとの前提としてAの出資を評価して申告したこと、その後、Aの有する借地権の評価額が過大であることを理由として更正の請求をしたことが認められる。しかし、相続税の申告及び更正の請求については、Aが上記のような借地権を有していることが前提とされていたのであり、借地権の存否自体は問題とされていなかったものということができる。その他、本件においては、Aが借地権を有するか否かについて被告の判断が行われたことを窺うべき証拠はないし、被告が「Aが借地権を有する」との公的見解を表示したと認めるに足りる証拠もない。以上のとおり、被告において納税者が信頼すべき見解を表示していない本件においては、信義則違反等をいう原告の主張を採用することができない。

5  本件の当てはめ

争いのない事実、証拠(甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、原告の納付すべき相続税及び地価税の額は、以下のとおりである。

(1)  相続税について

ア 課税価格の合計額 157億3042万6000円

(ア) 相続により取得した財産の価額 158億4610万9809円

a 土地 154億7133万3815円

上記金額の内訳は、別表1記載のとおりである。

b 家屋及び構築物 5439万402円

c 有価証券 2億183万2104円

d 現金・預貯金 8600万3519円

e その他の財産 3254万9969円

(イ) 控除すべき債務等の金額 1億1568万1298円

上記金額は、相続税法13条及び14条の規定に基づき、相続人らが相続により取得した財産の価額から控除すべき債務の金額である。

なお、未納公租公課については、次のとおりである。

a 相続税 5475万8700円

上記金額は、平成4年8月25日に死亡した亡Dの相続に係る乙の相続税額(ただし、平成7年3月31日付けの更正処分により一部減額後のもの。)である。

b 地価税 2964万4300円

上記金額は、相続税にかかる確定申告書に記載された地価税額1009万1000円、乙の平成7年3月31日付け平成4年分地価税の更正処分に係る納付すべき本税の額426万9000円及び乙の平成7年3月31日付け平成5年分地価税の更正処分に係る納付すべき本税の額2736万1700円(ただし、平成10年6月30日付け裁決による減額後のもの。)と平成6年8月12日付け平成5年分地価税の更正処分に係る納付すべき本税の額1207万7400円との差額1528万4300円の合計額である。

c 所得税 79万2100円

上記金額は、乙の平成6年8月11日付け平成5年分の所得税の修正申告書による申告納税額であり、平成7年1月19日付けの本件相続に係る相続税の更正の請求書に記載された金額と同額である。

イ 原告の納付すべき相続税額 94億8260万8100円

上記金額は、相続税法15条ないし同17条(ただし、同法15条及び16条については、いずれも平成6年法律第23号による改正前のもの。以下同じ。)の各規定に基づき、次のとおり算定したものである。

(ア) 課税価格の合計額 157億3042万6000円

(イ) 基礎控除額 8600万円

上記金額は、課税価格の合計額から控除すべき遺産に係る基礎控除額であり、相続税法15条の規定に基づき、4800万円と950万円に乙の法定相続人の数である4を乗じて算出した3800万円との合計額である。

(ウ) 課税遺産総額 156億4442万6000円

上記金額は、上記(ア)の金額から上記(イ)の金額を控除した金額である。

(エ) 法定相続分に応ずる取得金額

<1> 原告(4分の1) 39億1110万6000円

<2> その他の相続人(4分の3) 117億3331万8000円

上記金額は、相続税法16条の規定に基づき、相続人らが法定相続分に応じて取得した場合の課税遺産額であり、上記(ウ)の金額に相続人らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出したもの(国税通則法〔以下「通則法」という。〕118条1項の規定により、相続人ら各人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

ウ 相続税の総額 104億1689万6800円

上記金額は、上記エの各相続人ごとの金額に、相続税法16条に定める税率を適用してそれぞれ算出した金額の合計額である。

エ 租税特別措置法70条の6第2項適用後の金額

<1> 原告 96億4863万3298円

<2> その他の相続人 7億6826万3502円

上記金額は、租税特別措置法70条の6第2項適用後の金額であり、その算出経緯は、次のとおりである。

(ア) 農業相続人がいる場合の課税遺産総額 148億1241万1000円

弁論の全趣旨によれば、原告は租税特別措置法70条の6の適用のある農業相続人に該当するものと認められるところ、本件相続により原告の取得した土地の価額146億8225万3398円から農業投資価格超過額8億3201万4456円を控除した138億5023万8942円に、その他の相続人の取得財産である11億6385万6411円を加算した金額。

(イ) 農業相続人がいる場合の法定相続分に応ずる取得金額

<1> 原告(4分の1) 37億310万2000円

<2> その他の相続人(4分の3) 111億930万6000円

上記金額は、相続税法16条の規定に基づき、相続人らが法定相続分に応じて取得したとした場合の課税遺産額であり上記(ア)の金額に相続人らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出したもの(通則法118条1項の規定により、相続人ら各人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

(ウ) 相続税の総額 98億3448万5600円

上記金額は、上記(イ)の各相続人ごとの金額に、相続税法16条に定める税率を適用してそれぞれ算出した金額の合計額である。

(エ) 租税特別措置法70条の6第2項適用後の各相続人の算出税額

a 原告の算出税額 96億4863万3298円

上記金額は、次の(a)の金額と(b)の金額の合計額である。

(a) 上記(ウ)の金額に原告のあん分割合(148億9841万1000分の137億3455万7000)を乗じて算出した金額。 90億6622万2098円

(b) 納税猶予税額の総額 5億8241万1200円

b その他の相続人の算出税額 7億6826万3502円

上記金額は、上記(ウ)の金額に相続税法17条のあん分割合(148億9841万1000分の11億6385万4000)を乗じて算出した金額である。なお、その他の相続人は、農業相続人でないため納税猶予税額はない。

オ 相次相続控除額

<1> 原告 1億6602万5113円

<2> その他の相続人 1406万8847円

証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば、乙の長女Dは平成4年8月25日死亡し、乙が直系尊属として単独相続したことが認められるところ、これは相続税法20条1項所定の「本件相続の開始前10年以内に開始した相続」に該当するから、同項の規定に基づき、Dの相続に係る乙の相続税の総額2億0010万4400円に同項各号所定の割合を乗じて算出した金額。

カ 原告の納付すべき相続税額 94億8260万8100円

上記金額は、上記エの(エ)aの金額から上記オの<1>の金額を控除した金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

(2)  本件相続税更正処分の適法性について

被告が本訴において主張する原告の納付すべき相続税額は、94億8260万8100円であるところ、原告の納付すべき相続税額は、94億3786万8600円であるから、上記金額の範囲内でなされた本件相続税更正処分は適法である。

(3)  過少申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性について

原告は、本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、本件の全証拠によっても、過少に申告していたことについて通則法65条4項に規定する正当な理由の存在を認めることはできない。

したがって、本件相続税更正処分に係る納付すべき相続税額94億3786万8600円から、確定申告書に記載されている原告の納付すべき相続税額65億5597万5300円を控除した税額28億8189万円(通則法118条3項の規定により、1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に、同法65条1項の規定により、100分の10の割合を乗じて算出した金額2億8818万9000円を過少申告加算税として賦課決定したことは適法である。

(4)  地価税について

ア 課税価格 93億769万1847円

上記金額は、課税時期である平成6年1月1日において原告が所有する土地(地価税法6条ないし同法7条の規定により地価税が非課税とされる部分を除く。)の価額を合計した金額であり、その内訳は別表4のとおりである。

イ 原告の納付すべき地価税の額 2342万3000円

上記金額は、アの課税価格から地価税法18条に規定する基礎控除の額15億円を控除した後の金額(通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後の金額)である78億769万1000円に地価税法22条に定める税率(1000分の3)を乗じて算出した金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(5)  本件地価税更正処分の適法性

被告が本訴で主張する原告の平成6年分の納付すべき地価税の額は(4)イのとおり2342万3000円となるところ、本件地価税更正処分に係る原告の納付すべき税額は2323万4900円であり、上記被告主張額の範囲内であるから、本件地価税更正処分は適法である。

第4結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部秀穗 裁判官 向井邦生 裁判官弓場佳多子は、退官につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 園部秀穗)

別表1

土地価額の計算表(その1)

<省略>

土地価額の計算表(その2)

<省略>

措置法69条の3の小規模宅地等の課税価格の計算

<省略>

別表2

<省略>

別表3

<省略>

別表4

土地価額の計算表(その1)

<省略>

(その2)

<省略>

別紙原告主張図

<省略>

別紙利用図

南柏1丁目土地利用図

<省略>

南柏2丁目土地利用図

<省略>

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