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千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)84号・平9年(行ウ)72号 判決

A・B事件原告 佐野雅幸

右訴訟代理人弁護士 菅野泰

同 藤代浩則

A・B事件被告 眉山俊光

A事件被告 須賀博一

B事件被告 岡本忠也

B事件被告 熊田仁一

B事件被告 鈴木孝夫

B事件被告 伊原優

B事件被告 渡邊義正

B事件被告 三日尻輝昭

B事件被告 後藤勉

B事件被告 田中人實

B事件被告 竹光隆

右被告ら訴訟代理人弁護士 市川巖

主文

一  被告熊田仁一に対する本件訴えを却下する。

二  原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(A事件)

被告眉山俊光及び被告須賀博一は、流山市に対し、各自、二四〇万円及びこれに対する平成九年一〇月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(B事件)

一  被告眉山俊光、被告岡本忠也、被告熊田仁一及び被告鈴木孝夫は、流山市に対し、各自、二九六万一〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告伊原優、被告渡邊義正、被告三日尻輝昭、被告後藤勉、被告田中人實及び被告竹光隆は、流山市に対し、各自、四二万三〇〇〇円及びこれに対する被告伊原優、被告渡邊義正、被告三日尻輝昭、被告田中人實及び被告竹光隆については平成一〇年一一月一八日から、被告後藤勉については同月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、千葉県流山市の住民である原告が、流山市、柏市、松戸市、野田市、我孫子市及び鎌ヶ谷市のいわゆる東葛六市の市議会議員や市議会事務局職員が参加し、東葛都市議会連絡協議会の主催により平成八年度及び平成九年度に各実施された海外研修視察について、右各研修視察の実質は観光旅行であり、千葉県流山市が右旅行に参加した同市議会議員や同市議会事務局職員の旅行費用を支出したことは違法な公金の支出であるなどと主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、流山市に代位して、平成八年度の海外研修視察が実施された当時の同市市長及び同市議会事務局長に対し、不法行為に基づく損害賠償として、同市の支出した全旅行費用相当額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求め(A事件)、また、平成九年度の海外研修視察が実施された当時の同市市長、同市助役及び同市市議会議長並びに平成九年度の海外研修視察に参加した同市市議会議員六名に対し、不当利得に基づく返還請求として、それぞれ一人分の旅行費用相当額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた(B事件)住民訴訟である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) A・B事件原告(以下「原告」という。)は、千葉県流山市(以下、単に「市」ともいう。)の住民である。

(二) A・B事件被告眉山俊光(以下「被告眉山」という。)は、東葛都市議会連絡協議会(以下「六市協議会」という。)の主催による平成八年度及び平成九年度の海外研修視察(以下、各年度ごとに「平成八年度海外研修視察」又は「平成九年度海外研修視察」といい、両者を合わせて「本件海外研修視察」という。)が実施された当時、市長であった。

(三) A事件被告須賀博一(以下「被告須賀」という。)は、平成八年度海外研修視察が実施された当時、市議会事務局長であった。

(四) B事件被告岡本忠也(以下「被告岡本」という。)は、平成九年度海外研修視察が実施された当時、市助役であった。

(五) B事件被告熊田仁一(以下「被告熊田」という。)は、平成九年度海外研修視察が実施された当時、市議会議長であった。

(六) B事件被告鈴木孝夫(以下「被告鈴木」という。)は、平成九年度海外研修視察が実施された当時、市議会事務局長であった。

(七) B事件被告伊原優、B事件被告渡邊義正、B事件被告三日尻輝昭、B事件被告後藤勉、B事件被告田中人實及びB事件被告竹光隆は、いずれも平成九年度海外研修視察が実施された当時、市議会議員であった。

2  本件海外研修視察の実施

六市協議会は、流山市、柏市、松戸市、野田市、我孫子市及び鎌ヶ谷市(以下、右六市を単に「六市」という。)が、東葛飾地域における地域開発、広域行政、関連事業等に関する共通の事項について相互に意見を交換し、関係各市の理解を深めるとともに、親睦を図ることを目的とし、六市の議長及び副議長で構成される団体であるところ、六市協議会は、その事業として、毎年一〇月ころ、六市の市議会議員の海外研修視察旅行を行っていた(その運営は輪番制による当番市の議長が当たる。)。

平成八年度海外研修視察は、我孫子市が当番市となり、六市の市議会議員及び議会事務局職員が参加して、平成八年一〇月一日から同月九日まで、オランダ、デンマーク及びスイスの欧州三か国を視察する八泊九日(アムステルダム二泊、コペンハーゲン二泊、チューリッヒ三泊、機内一泊)の日程で実施された。右視察先等の日程の詳細は別紙一「平成八年度東葛都市議会連絡協議会欧州視察予定日程表」のとおりである。

また、平成九年度海外研修視察は、鎌ヶ谷市が当番市となり、六市の市議会議員及び議会事務局職員が参加して、平成九年一〇月一日から同月九日まで、オーストリア及びフランスの二か国を巡る八泊九日(ウィーン五泊、パリ二泊、機内一泊)の日程で実施された。右視察先等の日程の詳細は別紙二「平成九年度東葛都市議会連絡協議会欧州視察日程表」のとおりである。

3  本件海外研修視察費用の支出

(一) 平成八年度海外研修視察費用の支出

平成八年度海外研修視察には、流山市から、市議会議員五名が参加し、市議会事務局職員一名が随行した。

流山市は、平成八年度の六市協議会の当番である我孫子市議会議長に対し、平成八年七月三一日、平成八年度一般会計予算の議会費のうちの「負担金、補助金及び交付金」から、平成八年度海外研修視察に流山市から参加する予定であった原告を含む市議会議員七名及び市議会事務局長一名の研修参加負担金として、一人当たり四〇万円の合計三二〇万円を支払った。なお、右負担金の内訳は、往復の国際航空運賃が二二万円、各国国内経費(ヨーロッパ内交通費、宿泊費、食費、視察費用等)が一五万九〇〇〇円、渡航諸経費が二万一〇〇〇円である(甲七、九の1、2、一〇の1、2、乙一九の1、2、四〇)。

その後、参加を予定していた原告ほか一名の市議会議員が参加を辞退したため、我孫子市議会議長から流山市議会議長に対し、同年一〇月二九日、前記三二〇万円から、参加者六名分の研修参加負担金二四〇万円(以下「平成八年度負担金」という。)及び参加辞退者二名分の取消料金一八万二五〇〇円を差し引いた六一万七五〇〇円が返納された(乙三の1、2、一一、一三、二〇)。

(二) 平成九年度海外研修視察費用の支出

平成九年度海外研修視察には、流山市から、B事件被告伊原優、B事件被告渡邊義正、B事件被告三日尻輝昭、B事件被告後藤勉、B事件被告田中人實及びB事件被告竹光隆の六名の市議会議員が参加し(以下、右六名の参加議員を「被告参加議員」という。)、市議会事務局職員一名が随行した。

流山市は、平成九年度の六市協議会の当番である鎌ヶ谷市議会議長に対し、平成九年八月一五日、平成九年度一般会計予算の議会費のうちの「負担金、補助金及び交付金」から、平成九年度海外研修視察に参加した被告参加議員六名分及び市議会事務局職員一名分の研修参加負担金として、一人当たり四二万三〇〇〇円の合計二九六万三〇〇〇円(以下「平成九年度負担金」といい、平成八年度負担金と合わせて「本件各負担金」という。)を支払った。なお、平成九年度負担金の内訳は、研修費が四〇万八〇〇〇円、研修諸雑費が一万五〇〇〇円であり、右研修費の内訳は往復の国際航空運賃(団体運賃適用)が一八万一〇〇〇円、各国国内経費(ヨーロッパ内交通費、宿泊費、食費、視察費用)が一九万七〇〇〇円、渡航諸経費が三万円である(乙二八、三〇)。

4  監査請求

(一) 原告は、平成九年七月一八日、市監査委員に対し、平成八年度海外研修視察を公費で賄うことは違法、不当であるとして、市長に対し右海外研修視察に要した費用の返還等を求める住民監査請求を行ったが、市監査委員は同年九月四日付けで、右監査請求を棄却した(甲一、二)。

(二) 原告は、平成一〇年八月一四日、市監査委員に対し、平成九年度海外研修視察を公費で賄うことは違法・不当であるとして、市長、市助役、市議会議長及び被告参加議員に対し右海外研修視察に要した費用の返還を求める住民監査請求を行ったが、市監査委員は同年一〇月一二日付けで、市議会議長及び被告参加議員に対する請求を却下し、その余の者に対する請求を棄却した。

二  本案前の主張

1  被告熊田が地方自治法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当するか否か

(被告熊田の主張)

被告熊田は、平成九年度海外研修視察が実施された当時の市議会議長であるが、被告熊田は、住民訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして権限を有するに至った者ではなく、平成九年度海外研修視察に関し公金の支出を行う権限を有しない者であるから、地方自治法(以下、単に「法」という。)二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当せず、被告熊田に対する本件訴えは不適法である。

2  被告須賀及び被告鈴木が法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当するか否か

(被告須賀及び被告鈴木の主張)

被告須賀は、平成八年度海外研修視察が実施された当時の市議会事務局長であり、被告鈴木は、平成九年度海外研修視察が実施された当時の市議会事務局長であるが、被告須賀及び被告鈴木は、いずれも平成八年度負担金及び平成九年度負担金の支給について専決処理を任されていなかったから、法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」には該当せず、本訴について被告適格を有しないので、被告須賀及び被告鈴木に対する訴えは不適法である。

3  原告の当事者適格の有無

(被告らの主張)

法二四二条及び二四二条の二における「住民」について、法文上特に制限はされていないが、市町村議会の活動は民主主義の基本理念である多数決原理に基づいて運営されており、市議会において議決すべき事項について、ある議員が反対票を投じたとしても、当該事項について賛成票が過半数を占めれば、当該事項が市議会全体の意思として確定し、市議会を構成する市議会議員は、少なくとも当該事項についてこれを遵守すべき拘束を受けるのであるし、市議会議員は監査請求をするよりも、一般住民にはない強力な権限、たとえば市議会における質問権、質疑権、討論権、表決権、意見書・決議提出権などを有するのであるから、法は、少なくとも市議会活動の一環として実施された事項については、市議会議員が、一住民として改めて監査請求の上、住民訴訟を提起することを予定していないというべきであり、このような者を住民訴訟の原告として認めることは民主主義の否定である。

原告は、平成九年度海外研修視察が実施された当時、流山市の市議会議員であったが、右視察は、市議会内の各党・会派代表者会議において実施内容、参加者等を決定した上で市議会の活動の一環として実施され、かつ、市議会において決算の認定を得るなど、民主主義のルールである多数決原理に従って支出がなされているのであるから、このような事柄について、原告が監査請求ないし住民訴訟の提起をすることは認められない。

したがって、市議会議員の立場にあった原告は、本件につき、法二四二条及び二四二条の二の「住民」とはいえず、そもそも原告としての当事者適格を欠くというべきである。

(原告の主張)

市議会議員は、議員である以前に住民であり、地方公共団体を構成する基礎となる地位にあるのであるから、議員であるから住民になれないとする解釈は誤りである。また、議会が違法な決定をした場合でもそれに従うべきであるとはいえないし、そのような誤りを正すために監査請求や住民訴訟の制度があるのであるから、市議会議員である原告も住民訴訟の原告適格を有する。

三  本案の争点及びこれに関する当事者の主張

本案の争点は、平成八年度負担金の支出が違法なものとして、被告眉山又は被告須賀につき不法行為を構成するか否か、また、平成九年度負担金の支出が違法なものとして、被告眉山、被告岡本、被告熊田又は被告鈴木につき不法行為を構成し、あるいは被告参加議員らにつき不当利得を構成するか否かであり、具体的には、<1>本件海外研修視察が実質的に観光旅行であるか否か、<2>本件各負担金の支出手続が違法であるか否かであるが、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(原告らの主張)

1 本件海外研修視察の違法性について(争点<1>)

(一) 六市協議会の海外研修視察は、毎年九月の議会会期が終了した一〇月初旬に行われる恒例の事業であり、本件海外研修視察への参加者が決定する以前にその実施内容のほとんどを観光旅行会社が企画した上で、六市協議会の構成員である各市の議長らが決定し、六市協議会により運営される仕組みとなっており、各議員に対し、視察に関する目的、内容、方法等の意向調査や、調査研究への具体的要望や意見は全く聴取されず、非公式の場である会派代表者会議と称する場で一、二回、ただ実施する旨の簡単な報告がなされるだけであるし、参加者が決定した後に当該参加者から出された意見や要望についても全く取り入れられることはない。このように、本件海外研修視察は、調査研究すべき参加当事者が、目的、内容、方法について周知検討できないまま進められるもので、公費の有効な運用とその効果はほとんど得られないものとなっている。

(二) 平成八年度海外研修視察の目的は、高齢者福祉行政を中心に、先進都市の行政機構、施策を調査研究することとされていたが、その日程において右研修目的の要素を含むものは、別紙一の日程表記載のとおり、一〇月二日のアムステルダムの老人ホーム「ドウダー・ライ」の表敬訪問(二時間三〇分程度)、同月四日のコペンハーゲン市内の老人ホーム「プラインセントレット・シュールンド」の表敬訪問(三時間三〇分程度)、同月七日のチューリッヒの老人ホーム「アルターズハイム・レビース」の表敬訪問(三時間程度)の三か所だけであり、所要時間はわずか九時間程度である。これは全体の視察時間(五六時間)に対し二〇パーセントにも満たない時間であり、他の八〇パーセントの時間は、スイスのユングフラウヨッホの観光など、単なる観光旅行であった。

しかも、右の福祉施設の視察についても、研修目的とはかなり遊離した表敬訪問であり、福祉施設で行われた質疑応答はインタビュー的でかつ単調な質問のやりとりであって、視察研修に値する重要な調査研究を行った形跡がほとんどみられず、現地に旅行しなくても容易に知り得る内容であったし、現在の日本の施設や福祉政策といかなる差異があるかを現地で習得できるような内容でもなかった。また、視察地の事前調査はほとんど実施されていないし、視察目的とされている先進都市の行政機構や施策の調査研究については、このような調査研究を行った形跡が全く窺えず、本来の研修目的が果たされていない。なお、視察後に作成された「千葉県東葛都市議会連絡協議会議員海外研修視察報告書」の内容のほとんどは視察前に配布された「東葛都市議会連絡協議会海外研修・参考資料」を転記したものであるなど、調査研究にかかる報告書としてはあまりにお粗末であるし、この報告書の編集、作成のほとんどは、実地に視察調査研究を体験していない議会事務局の職員が行ったものである。

(三) また、平成九年度海外研修視察の目的は、福祉行政、環境行政を中心に、先進都市の行政機構、施策を調査研究することとされているが、その日程において右研修目的の要素を含むものは、別紙二の日程表記載のとおり、全体の視察時間の二〇パーセントにも満たない時間であり、他の八〇パーセントの時間は、視察目的にない観光旅行であった。また、右福祉施設等の視察が研修目的とかなり遊離した表敬訪問であることは平成八年度海外研修視察と同様であり、その視察報告書も一見して議会事務局の職員が作成したと思われるようなものである。

(四) このように、本件海外研修視察の実質は観光旅行であるから、このような本件海外研修視察に本件各負担金を支出することは、法二条、一四九条、地方財政法一条、二条、四条に違反し、違法である。

2 本件各負担金の支出手続の違法性について(争点<2>)

(一) 本件海外研修視察は六市協議会の事業として行われたものであるところ、任意団体である六市協議会には市議会議員の海外研修視察を企画立案する権限はなく、その決定に何らの拘束力もないから、六市協議会が本件海外研修視察に関し、各市から「負担金」として公金を徴収することは許されない。それにもかかわらず、本件各負担金は、六市協議会による右のような決定に従って徴収されたものであり、本件海外研修視察の目的、実施内容、事前調査、全体予算等については、正式議決機関である市議会において全く協議議論されておらず、議会内の懇談会的存在にすぎない各党・会派代表者会議と称する非公式の場で一、二回簡単な説明がなされただけであるから、本件各負担金の支出は違法である。

(二) 市議会議員及び市議会事務局職員が公務として海外出張をする際に支給される旅費等の請求は、旅費法等の関係法令に則り、「旅費」として厳格適正に処理されなければならないところ、本件海外研修視察に関し、市議会は、これら本来採るべき手続を一切省略し、海外研修視察費用を六市協議会の経費すなわち「負担金」として処理する扱いをしており、かかる扱いは旅費法等の関係法令の規定を潜脱するものであり、重大な手続違反である。

(三) 仮に、本件各負担金が法二三二条の二の補助金として支出されたものであるとしても、前記1のとおり、本件海外研修視察の実質は観光旅行にすぎないものであるから、およそ「公益上必要がある場合」という要件は満たさないものであるし、地方公共団体の財政がひっ迫している状況での費用対効果という観念からしても、本件各負担金の支出は違法である。

3 被告眉山、被告須賀、被告岡本、被告熊田及び被告鈴木の責任原因並びに損害

(一) 被告眉山は、市長として、本件各負担金の支出について財務会計上の権限と責任を持ち、財政全般について厳正かつ適法な執行の監督権を行使すべき者でありながら、故意又は重大な過失により財務会計責任者としての監督、是正、管理を怠り、本件各負担金を違法に支出して、市の財政に損害を与えた。

(二) 被告須賀は、市議会議長として、平成八年度負担金の支出についての専決処理をした者であり、被告眉山と同様に、故意又は過失により右負担金を不正に支出して、市の財政に損害を与えた。

(三) 被告岡本は、市助役として、平成九年度負担金の支出について財務会計上の権限と責任を持ち、財政全般について厳正かつ適法な執行の監督権を行使すべき者でありながら、故意又は重大な過失により財務会計責任者としての監督、是正、管理を怠り、右負担金を違法に支出して、市の財政に損害を与えた。

(四) 被告熊田は、市議会議長として、六市協議会の違法な平成九年度海外研修視察の決定に参画し、かつ流山市議会においてこれへの参加決定を行い、参加議員らを選考して出張命令を発出し、当該参加議員らの海外出張経費である平成九年度負担金を違法な負担金扱いとして当番市議長宛に出金、送金させ、これにより市の財政に損害を与えた。

(五) 被告鈴木は、市議会事務局長として、議会事務局の一切の事務を掌理する者であるが、市議会議長である被告熊田の命を受け、平成九年度負担金を違法な負担金扱いとして当番市議長宛に出金、送金させ、これにより市の財政に損害を与えた。

(六) したがって、被告眉山と被告須賀は、連帯して、平成八年度負担金相当額の損害二四〇万円を、また、被告眉山、被告岡本、被告熊田及び被告鈴木は、連帯して、平成九年度負担金相当額の損害二九六万一〇〇〇円をそれぞれ賠償する責任がある。

4 被告参加議員の不当利得

被告参加議員は、いずれも平成九年度海外研修視察に参加した者であるところ、前記のとおり、本件各負担金の支出は違法であるにもかかわらず、それを看過してこれを右海外研修視察の経費として受領したものであるから、それぞれ本件各負担金のうち一人当たりの額である四二万三〇〇〇円を不当利得として流山市に返還する義務がある。

(被告らの主張)

1 本件海外研修視察の適法性について(争点<1>)

(一) 現在の地方行政は複雑多岐にわたり、市議会の審議を充実したものにするには、議員に国内外の事情を視察させる必要が高いのであるから、市議会がその活動の一環として議員を国内外に派遣することは当然許容されるべきである。

(二) 近年における国際化、情報化、高齢化のめざましい進展や、市民の行政に対する要望のますますの複雑化・多様化に加えて、流山市が国際情報拠点である東京都と国際研究都市つくばとの中間に位置するという立地条件などから、流山市の都市機能は今後飛躍的に発展することが予想されるため、流山市としては、国際化の一層の進展に対応した街づくりを進めるとともに、国際理解の高揚を図るための交流事業や国際化に対応できる人材の養成に努めているところである。そこで、市議会としても、国内のみならず諸外国の状況について積極的に行政視察研修を行い、具体的な理解を深めることが必要不可欠であるし、しかも諸外国の施策情報については施策の背景にある文化、国民性、生活習慣、社会情報などを実地に見極めることが極めて有意義であり、その生きた体験が今後の行政及び議会活動に寄与することから、市議会議員の海外研修視察を実施しているのである。

(三) ところで、平成八年度海外研修視察の目的は、六市協議会を構成する各市の共通課題でもある高齢者福祉行政を中心に、先進都市の住環境等の施策に関する調査、研究であり、その日程は別紙一のとおりであるが、右目的及び日程を決定するについては、運営の当番である我孫子市議会議長が、先進ヨーロッパ諸国で高齢者福祉等を実地に見聞し、議会人としての見識を高め、幅広い視野を養い、もって東葛地区の各市共通の課題解決に努めようという目的に沿って、福祉国家として知られる先進諸国のうち、その効果や日程等を考慮し、訪問先にオランダ、デンマーク、スイスを選定し、また、各都市の選定に関しては、受入れ側の状況をも考慮しながら、老人ホームを中心に、入居者と直接接することのできる施設ということや、各都市の交通の利便性や行程等を考え合わせ、旅行業者と調整を図りながら精査した結果、アムステルダム、コペンハーゲン及びチューリッヒの三都市を選定したものである。老人ホームの視察は、当該都市の老人福祉等の説明をはじめとして、六市協議会からの事前の質問に答える形で行われ、参加者の熱心な質疑が交わされ、参加者全員が施設をくまなく見聞するという充実したものであった。なお、行程の移動日を利用して、老人ホーム以外に、アムステルダムでは運河活用状況、都市景観、文化施設、コペンハーゲンでは歴史的建造物、文化施設など、チューリッヒでは河川環境保護、中世都市保存状況などの市内視察や自然環境保護状況視察を行っているが、これらはいずれも、平成八年度海外研修視察の目的の一つである「先進都市の住環境等の施策に関する調査研究」に含まれるものであるし、視察団の時間の有効活用や、訪問都市の歴史的背景、風土、文化、国民性、各視察国の国情を十分把握することで当該訪問都市の福祉制度自体をよりよく理解し得るとの考えから行われたものである。

(四) 平成九年度海外研修視察についても、議会人としての見識を高め、幅広い視野を養い、これを議会活動に反映させ、また東葛地方の各市共通の課題解決に努めようという公益上の目的に基づいて行われているものであるところ、平成八年度と同様、参加者の研修態度は真剣であり、非常に充実した内容のものであった。

(五) 以上のとおり、本件海外研修視察は、議会人としての見識を高め、幅広い視野を養い、議会活動に生かし、市民福祉に還元するという目的に従い準備され、実施されたものであるから、適法である。

2 本件各負担金の支出手続の適法性について(争点<2>)

(一) 六市協議会は親睦団体ではあるが、議員研修会や議員海外研修視察等のような研修をも目的とする団体である。六市は、東京近郊という立地条件にあり、行政上の課題や市民意識も共通していることから、定例議会をはじめとする六市協議会の事業を、連携して、共同で運営し、かつ、各市議会において、六市協議会での決定事項をお互いに尊重し合い、各市議会に反映させているのであり、本件各負担金の支出も右の趣旨に基づくもので、徴収などというものではない。また、本件海外研修視察は、市議会で承認された六市協議会の会則に基づき、当時の市議会議長及び副議長が主催する市議会の各党・会派代表者会議で協議され、承認決定されたものであるから、その決定手続は適法である。

(二) 本件海外研修視察は六市協議会の行う事業の一つであり、本件各負担金の実質は右事業を補助育成する目的でなされた法二三二条の二の補助金であるところ、海外研修視察は、議会人としての見識を高め、幅広い視野を養うもので、これを議会活動に反映することにより東葛地区における各市共通の課題の解決に資するものであるから、これに参加する市議会議員各人の実費分につき補助金を支出することには、公益上の必要性がある。

なお、流山市においては、平成四年度までの海外研修視察の費用は旅費として支給されていたが、旅費として支給する場合には、旅費のほかに日当及び支度金等が加算されるのに対し、負担金の場合には実費額そのものだけの一括支給となり、これを超える分については各自の個人負担となるため、市の財政上、できるだけ出費を抑える配慮から、これを負担金に変更したものである。

第三当裁判所の判断

一  被告熊田、被告須賀及び被告鈴木に対する訴えの適法性について

1  法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」とは、住民訴訟制度が法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正しもって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものと解されることからすると、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当しないと解するのが相当である(最高裁昭和六二年四月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁)。

2  そこで、右1の観点から、被告熊田、被告須賀及び被告鈴木が法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当するか否かを検討する。

(一) 被告熊田が、平成九年度海外研修視察が行われた当時、流山市の市議会議長の地位にあったことは当事者間に争いがないところ、法の規定によると、市議会議長は、議会の事務の統理権(法一〇四条)、議会の庶務に関する事務局長等の指揮監督権(法一三八条七項)を有するものの、予算の執行権は普通地方公共団体の長に専属し(法一四九条二号)、また、現金の出納保管等の会計事務は出納長又は収入役の権限とされているから(法一七〇条一項、二項)、一般に市議会議長の統理する事務には予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務は含まれておらず、市議会議長はかかる事務を行う権限を有しないものというほかない。

もっとも、市長は、その権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任することができ(法一五三条一項)、議会事務局の事務局長その他の職員を市長の補助機関たる事務吏員に併任した上、その者に対し支出命令等予算執行に関する事務の権限を委任することは可能であるが、市議会議長は、その地位に鑑みると、市長においてかかる権限の委任を行い得る相手方としても予定されていないというべきである。

(二) 他方、被告須賀及び被告鈴木については、それぞれ平成八年度負担金及び平成九年度負担金の各支出がなされた当時、市議会事務局長の地位にあった者であるが、前記(一)のとおり、市長は、その権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任することができ、市議会事務局長を市長の補助機関たる事務吏員に併任した上、その者に対し予算執行に関する事務の権限を委任することは可能であるところ、証拠(乙一、二)によれば、流山市では予算執行上の規程において、議会費のうちの負担金、補助金及び交付金については、その支出金額の多寡に応じ、助役又は議会事務局長が専決により処理するものとされ、議会事務局長は右財務会計上の行為をなし得る権限を付与されているのであるから、本件各負担金の支出がなされた当時市議会事務局長の地位にあった被告須賀及び被告鈴木は、実際に本件各負担金の支出を専決処理したか否かを問わず、右各支出の適否が問題とされている本件訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものというべきである(もっとも、右被告らが本件各負担金の支出につき現実に専決処理をしていなければ、右被告らに対する損害賠償請求が棄却されることはいうまでもない。)。

3  以上によれば、市議会議長は、本件海外研修視察について公金を支出する権限を何ら有しないものであって、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当しないというべきであるから、市議会議長であった被告熊田に対する本件訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法というべきであり、被告熊田に対する本件訴えは、却下を免れない。

これに対し、被告須賀及び被告鈴木は、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するというべきであるから、これらの者に対する訴えは適法であり、被告須賀及び被告鈴木の前記主張は理由がない。

二  原告の当事者適格について

被告らは、原告は、平成九年度海外研修視察が実施された当時、流山市の市議会議員であったところ、右視察は市議会の活動の一環として実施され、市議会内の各党・会派代表者会議において実施内容、参加者等を決定した上で実行し、かつ、市議会において決算の認定を得るなど、民主主義のルールである多数決原理に従って支出がなされているから、その議決を遵守すべき議員という立場にあった原告には原告としての当事者適格がないと主張するので、この点について検討するに、法二四二条の二第一項に基づく住民訴訟は、原告となり得る資格として「普通地方公共団体の住民」であることのみを挙げ、特段の制限を設けておらず、また、議員としての活動や議員としての資格に基づく財務会計行為者に対する政治的な責任追及と住民としての資格に基づく住民訴訟による法的な責任追及とはその性質が全く異なるのであるから、議員であるからといって住民訴訟の当事者適格を欠くものでないことは明らかである。

したがって、被告らの右主張は理由がない。

三  本件海外研修視察の適法性について(争点<1>)

1  普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することができるが(最高裁昭和六三年三月一〇日第一小法廷判決・裁判集民事一五三号四九一頁)、右のような議会の権能も絶対無制約のものではなく、その裁量を濫用又は逸脱し、合理的な必要性がないにもかかわらず所属議員を海外に派遣したり、研修や視察の名のもとに遊興を主目的とする観光旅行を実施するなどした場合には、右派遣に要した費用の支出が違法になる場合があるというべきである。

2  そこで、本件海外研修視察が前記1の観点から違法なものといえるか否かについて検討する。なお、原告は、本件海外研修視察の実質は観光旅行であり、これについての費用の支出が法及び地方財政法に違反すると主張するところ、右主張の趣旨が、その原因行為ないし市議会による被告参加議員らの派遣決定の違法が財務会計行為に承継されることをいうものであるのか、本件各負担金の支出自体の違法をいうものであるのか明らかではないが、その点についてはひとまずおいて判断を進める。

前記第二の一の事実に加えて、証拠(甲一三、一四、一五ないし一七の各1ないし3、二四ないし二七、乙一二、一四、一五の1ないし5、三五、三六、三九、原告本人、証人大塚喜重)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 六市協議会は、その前身である県北六市正副議長連絡協議会を名称変更したものであり、東葛飾地方における地域開発、広域行政、関連事業等共通の事項について相互に意見を交換し、関係市の理解を深めるとともに、親睦を図ることを目的として六市の市議会議長及び副議長で構成される団体であり、各事業の運営は、輪番制で当番市の市議会議長が行っていた。

(二) 六市協議会(その前身団体を含む。)の事業の一つに海外研修があったが、その主催による海外研修視察は、昭和六一年度の中華人民共和国への視察を皮切りに、毎年一〇月ころ行われるようになり、平成四年度からはヨーロッパの先進都市を主に視察対象とするようになった。

(三) 六市協議会は、平成八年度の海外研修視察につき、当番市である我孫子市の提案に基づき、その目的を高齢者福祉行政を中心に、先進都市の住環境等の施策に関する調査、研究とした。その後、運営の当番である我孫子市議会議長は、右目的に沿うよう、訪問国を決定し、旅行会社と旅行日程、期間、視察先などを折衝して、平成八年度の海外研修視察を企画・立案し、また、参加予定の各市議会議員に対し、高齢者福祉施設の視察に関し、事前に質問事項を提出するよう要請し、それを取りまとめて、関係視察先に質問書として送付した。

(四) 平成八年度海外研修視察の参加者は、六市の市議会議員三〇名及び随行職員八名の総勢三八名であったところ、右参加者は、別紙一「平成八年度東葛都市議会連絡協議会欧州視察予定日程表」のとおり所定の視察等を行った。これらのうち、視察目的の中心である高齢者福祉に直接合致する対象施設は、一〇月二日午前のアムステルダム市営老人ホーム、同月四日午後のコペンハーゲンの老人ホーム、同月七日午前のチューリッヒ市立老人ホームであるところ、これらの施設においては、参加各議員らは、前記の質問事項に基づき質疑応答を行ったり、市の担当職員からレクチャーを受けるなどした。右各施設の見学・視察時間は、計一一時間弱くらいであった。

(五) また、平成八年度海外研修視察の日程には、自然環境保護・状況視察、歴史建造物保存状況視察、住宅環境保護・状況視察等として、アムステルダム、コペンハーゲン、チューリッヒの市内視察等も入っており、参加した各市議会議員らは、アムステルダムにおいてはダム広場、王宮、スキニー橋、国立博物館等の見学をし、コペンハーゲンにおいてはローゼンボ宮殿、国立博物館等の見学をし、チューリッヒにおいてはユングフラウヨッホ等の見学のほか、シュタイン・アム・ライン地区やルツェルン地区の視察をした。これらの見学・視察時間は計三五時間くらいであった。もっとも、チューリッヒにおける市内視察及びユングフラウヨッホ等の見学は、一〇月五日、六日の土、日曜日になされたものである。

(六) 平成九年度の海外研修視察についても、当番市である鎌ヶ谷市の提案に基づき、その目的を福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設の視察とし、その後、運営の当番である鎌ヶ谷市議会議長は、平成八年度と同様、平成九年度の海外研修視察を企画・立案し、また、参加予定の各市議会議員に対し、高齢者福祉施設及びリサイクル関連施設の視察に関して事前に質問事項を提出するよう要請し、それを取りまとめて、関係視察先に質問書として送付した。

(七) 平成九年度海外研修視察の参加者は、六市の市議会議員三一名及び随行職員九名の総勢四〇名であったところ、右参加者は、別紙二「平成九年度東葛都市議会連絡協議会欧州視察日程表」のとおり所定の視察等を行った。これらのうち、視察目的に直接合致する対象施設は、一〇月二日午前のウィーン市廃棄物経済局と福祉局、同日午後のオーストリア・リサイクリング社、同月三日午前のウィーン市立医療センター、同月七日のマルネ市立老人ホームであるところ、これらの施設においては、参加各議員らは、前記の質問事項に基づき質疑応答を行った。右各施設の見学・視察時間は、計八時間くらいであった。

(八) また、平成九年度海外研修視察の日程には、自然環境保護・状況視察、歴史建造物保存・状況視察、道路整備状況・街区整備状況視察等として、ウィーンやパリの市内視察も入っており、参加した各市議会議員らは、ウィーンにおいてはウィーンの森、リヒテンシュタイン城、ベルベデーレ宮殿、シェーンブルン宮殿等の見学をし、パリにおいてはベルサイユ宮殿や ノートルダム大聖堂等の見学をした。これらの見学・視察時間は計一九時間くらいであった。もっとも、ウィーン市内の視察は、一〇月四日、五日の土、日曜日になされたものである。

(九) 本件海外研修視察の流山市からの参加者は、帰国後、連名で本件海外研修視察の報告書を作成した。もっとも、これらの報告書は、一般に公開されているものではなく、一般市民は公文書公開条例に基づき請求しない限り、その内容を知り得ないものである。

3  以上の事実によれば、本件海外研修視察は、平成八年度については高齢者福祉行政を中心に、先進都市の住環境等の施策に関する調査、研究をすること、平成九年度については福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設を研修視察することを一応の目的としており、これらの行政施策等が一般的に各地方公共団体の市政において重要な問題であることに鑑みれば、一概にその目的が不合理であるとか、不必要であるということはできない。

そして、本件海外研修視察の内容についても、平成八年度については視察先としてアムステルダム、コペンハーゲン、チューリッヒの各都市の老人ホームなどを選定しており、一応右の中心目的に沿うものであるし、平成九年度については研修視察先としてウィーン福祉局、ウィーン市立医療センター、マルネ市立老人ホーム、ウィーン市廃棄物経済局、オーストリア・リサイクリング社など、右研修視察目的に沿うものを選定しており、平成八年度及び平成九年度のいずれについても事前に質問事項を検討した上でこれを視察先に送付し、実際の視察時においては質疑応答を行うなど、一応前記目的に沿った内容を伴うものであるということができる。

4  もっとも、本件海外研修視察においては、このような福祉行政等の視察目的に関連する視察先のほか、市内視察などとして、平成八年度はユングフラウヨッホなど、平成九年度はウィーンの森やリヒテンシュタイン城などいわゆる観光地と目される場所をも視察しており、しかも、このような視察に充てられた時間は前記の平成八年度の視察目的の中心とされる高齢福祉行政や、平成九年度の視察目的である福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設に直接関連する施設等に対して充てられた時間をかなり上回っていることなどからすると、これらのいわゆる観光地と目される場所の視察の多くが、訪問先国の公的機関が休みである土曜日及び日曜日に行われたことを考慮に入れたとしても、本件海外研修視察が実質的には遊興目的ではないかとの疑念を生じかねさせない内容のものであり、さらに、六市協議会の海外研修視察が昭和六一年以降、慣例行事のように毎年実施され、しかも、平成四年度以降はヨーロッパの先進都市を毎年訪れていたという経緯などを併せ考えると、本件海外研修視察の内容に相当性が欠ける側面があったことは否定できない。なお、この点に関し、被告らは、平成八年度海外研修視察の副次的な目的に先進都市の住環境等の施策に関する調査、研究が含まれ、各国市内視察などは右副次的な目的に含まれるものであると主張するが、市内視察のすべてが住環境等の施策に関する調査、研究のためになされたものであるとは考え難いのであるから、この点も右相当性の判断に影響を及ぼすものではない。

5  しかしながら、訪問国の歴史、文化、市民生活等に直接触れることが、視察目的である当該訪問国の福祉行政や環境行政等の背景を理解する上で有益となる側面があることも一概に否定できず、前記1のとおり、普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有していること、その権能を適切に発揮するためには、諸外国の歴史、文化、市民生活等を実地に見聞し、幅広い見識と国際的な視野を養い、それを立法政策に反映させる必要性もあながち否定できないことなどを併せ考えると、前記4のように本件海外研修視察の内容に相当性が欠ける面があったことを考慮しても、本件海外研修視察が全体としてみて合理的必要性がないとまでいい切ることはできず、流山市議会に裁量の濫用又は逸脱があったとまでいうことはできないというべきである。

6  したがって、本件海外研修視察の違法性に関する原告らの主張が、その原因行為の違法をいうにせよ、支出自体の違法をいうにせよ、いずれにしても右主張は理由がない。

四  本件各負担金の支出手続の適法性について(争点<2>)

1  原告らは、本件海外研修視察は、市議会議員の海外研修視察を企画立案する権限のない任意団体である六市協議会の事業として行われたものであり、このような六市協議会の決定に従ってなされた本件各負担金の支出は違法であるなどと主張するのでこの点について検討する。

2  証拠(甲七、八ないし一〇の各1、2、一一の1ないし5、乙三の1、2、六ないし一一、一六、一七、一八及び一九の各1、2、二四、二八ないし三〇、三四ないし三六、証人大塚喜重)及び弁論の全趣旨によれば、本件海外研修視察の決定及び本件各負担金の支出の経緯について、以下の事実が認められる。

(一) 六市協議会の平成八年度の運営の当番である我孫子市議会議長は、平成七年一〇月三〇日に開催された同協議会主催の県外視察の際、平成八年度の海外研修視察の視察目的を高齢者福祉行政に関するものを中心とすることを提案して、了承を得た後、訪問先としてアムステルダム、コペンハーゲン、チューリッヒを選定した海外研修視察の日程案を作成し、平成八年五月二〇日に開催された六市協議会定例会において提案し、承認された。

(二) 流山市議会議員で構成される各党・会派代表者会議は、平成八年五月二七日、市議会事務局職員から、同年度の海外研修視察が同年一〇月一日から九日までの九日間で、オランダ、デンマーク、スイスの三か国を訪問し、視察テーマは高齢者福祉であることなどの説明を受け、その後、同年六月四日、市議会事務局職員から、当番市の作成した平成八年度海外研修視察の実施要領に基づき、期間、研修地、研修目的、日程等について説明を受けてこれを了承し、参加希望者は同月二一日までに議会事務局宛申し込むこととされた。

(三) 流山市議会議長は、平成八年七月一日、平成八年度海外研修視察への参加申込みをした議員七名及び随行員として同議長に指定された市議会事務局職員の計八名が海外研修視察に参加する旨の参加申込書を我孫子市議会議長宛に送付した。

(四) その後、平成八年七月八日付けで、我孫子市議会議長から流山市議会議長に対し、本件海外研修視察の参加経費負担金は一人当たり四〇万円であるとして、流山市の参加人数分を我孫子市議会事務局宛に送金するよう依頼があり、流山市は、これに応じて参加者八名分の参加負担金を送金したが、右八名のうち二名が参加を辞退したため、最終的に流山市が支出した平成八年度負担金は六名分となった。なお、平成八年度負担金は、流山市の平成八年度の歳出予算に計上されていたところ、右予算は、市議会の平成八年の第一回定例会で可決承認された。

(五) 平成九年度海外研修視察については、六市協議会が、平成八年一一月一二日に開催された会議において、当番市である鎌ヶ谷市の提案した概括的な視察内容を了承し、その後、鎌ヶ谷市議会議長が、訪問国としてオーストリアとフランスを選定し、旅行日程、期間、視察先などの案をまとめて海外研修実施要領を作成して、平成九年五月一四日に開催された六市協議会定例会において提案し、承認された。その後の流山市議会内での参加決定手続や平成九年度負担金の送金手続などは、平成八年度の決定・送金手続と同様である。

3  以上の事実によれば、本件海外研修視察の日程等は、六市協議会の当番市が企画立案したものがそのまま実現されており、市議会は右日程等の企画立案には直接関与していないことが認められる。

しかしながら、前記第二の一(前提となる事実)の2のとおり、六市協議会は法令の規定に基づく団体ではなく、その意味で任意団体ではあるが、その構成員は六市の市議会議長と副議長という法一〇三条一項の定める公的機関であり、かつ、六市協議会の設立の目的が、前記二2(一)のように、六市の地域開発、広域行政、関連事業等に関する共通の事項について相互に意見を交換することにあることなどに照らせば、右市議会議長らは、事実上、各市議会を代表する形で六市協議会に参加しているものとみることができないではなく、このような者で構成される六市協議会が、六市の各議会に関わる公的な事柄を、その最終的な決定権を各市議会に留保しつつ、事実上討議し、一定の案を策定することが許されないとする理由はない。

そして、本件海外研修視察に流山市議会の議員を派遣するか否かについては、前記2(三)、(四)のとおり、流山市議会議員で構成される各党・会派代表者会議における派遣の決定を経ており、その日程等についても右派遣決定がなされる際の検討議事の内容に含まれているのであるから、本件海外研修視察への被告参加議員らの派遣は、六市協議会の策定した案に従うものではあるが、最終的には流山市議会の自律的な判断に基づくものということができるし、本件各負担金を予算に計上し、支出することについても市議会の承認を経ているのであるから、これら一連の手続に何らかの瑕疵があるということはできない。

したがって、原告の前記主張は理由がない。

4  また、原告は、海外研修視察が公務による出張であるならば、その費用については旅費として処理すべきであったにもかかわらず、負担金として支出することは旅費関係の諸法令を潜脱するもので違法であるなどと主張するので、この点について検討する。

本件海外研修視察の費用が、旅費という形態を採らず負担金という形で支弁されたのは、本件海外研修視察が六市協議会を構成する各市の市議会議員等の合同研修として企画立案され、旅行会社への支払も全参加者の総費用につき一括してなされるという特殊性から、本来であれば参加者一人一人につき格別に支払われるべき旅費という形態を採らず、総費用を各市の参加人員ごとに按分してその負担額を算出するという趣旨で負担金という形態を採ったものであると解されるところ、右はたしかに便宜的な措置ではあるが、そのような形で実質的に旅費を支弁することが法令上許されないとする理由はない。

そして、本件各負担金は、六市協議会に対する補助金としての性格を有するものであるが、前記二からすれば、本件海外研修視察は、その内容に相当性が欠ける面があり、費用対効果という観点からは問題があるにしても、一応公益上の必要性に基づくものとみることができるのであるから、右補助金の支出は、法二三二条の二の要件を満たすものといえる。

したがって、原告の前記主張は理由がない。

五  まとめ

以上のとおり、本件各負担金の支出の違法をいう原告の主張はいずれも理由がなく、その他右支出を違法とすべき事由も見当たらないから、原告の法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求は理由がない。

第四結論

よって、原告の請求のうち、被告熊田に対する請求は不適法であるから、これを却下し、その余の被告に対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

別紙<省略>

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