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千葉地方裁判所 平成11年(行ウ)16号 判決 2000年4月26日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  地方公務員法二四条五項は、職員の勤務時間その他職員の給与以外の勤務条件を定めるに当たっては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならないとし(均衡の原則)、同条六項は、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定めるとするところ(条例主義)、右各規定の趣旨は、同条三項の「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」との規定と相まって、地方公共団体の職員の勤務条件を一定の水準に保つことによって人材を確保し、併せて国民・住民の理解、納得を得ようとするとともに、このことを住民の代表である議会の条例制定を通じて、地域の実情を反映しつつ、手続的にも公明正大に行おうとするものである。また、同法一四条は、地方公共団体は、給与、勤務時間その他の勤務条件が社会一般の情勢に適応するように、随時、適当な措置を講じなければならないとするところ(情勢適応の原則)、その趣旨は、地方公務員は、勤務条件が法律や条例に基づき決定されるため、社会、経済の動きに弾力的に対応することが比較的困難な仕組みとなっているという特殊性から、地方公共団体のそれぞれの機関が、社会情勢の変化に対応して、適時適切な措置をとるように努力すべき義務を課し、これによって、硬直的になりがちな職員の勤務条件を弾力化しようとすることにあると解される。

このように、地方公務員の勤務条件に関する現行法は、地方公共団体の自主性を確保しつつも、事柄の性質上、できるだけ全国的な統一・均衡を図る趣旨で立法されており、地方公務員法二四条五項が地方公共団体の職員の勤務時間を定めるについて、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮を払うべきことを求めているのも同趣旨に出たものと解されるから、右規定の趣旨は最大限に尊重されるべきであるが、他方、同条六項が、地方公務員の勤務時間の決定を条例に委ねることにより、各地方公共団体の自主性、自律性を尊重していることや、同条五項の文言が、「権衡を失しないよう」に「適当な考慮」を払うというように、ある程度の幅を持たせた表現になっていることなどを総合考慮すれば、同条五項は、地方公務員の勤務条件についての自治立法に対する基本的な指標を示した訓示規定であると解するのが相当であるから、勤務時間に関する条例の定めが、国や他の地方公共団体の定めと異なり、いささかでも権衡を失するからといって、直ちに当該条例やこれに基づく給与の支出等が違法あるいは無効となるものではないというべきである。

二  これを本件についてみるに、国家公務員の場合には、「職員の勤務時間は、休憩時間を除き、一週間当たり四〇時間とする。」(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律五条)とされているのに対し、八千代市においては、前記第二の一2のとおり、平成五年二月二八日から完全施行された週休二日制の導入に当たり、同市職員の一週間についての勤務時間は四〇時間とされていたのが、平成六年の勤務時間条例の一部改正により、一週間についての勤務時間は四〇時間以内とされ、さらに、同条例の平成一〇年の改正により、一週間についての勤務時間は三八時間四五分とされるに至ったことが認められ、国家公務員の一般職員の勤務時間と、八千代市職員のそれとの間には、一週間当たり一時間一五分の差があることが認められる。

しかし、〔証拠略〕によれば、一般職員の一週間についての勤務時間の状況は、千葉県下においては、平成一一年一一月現在、館山市、木更津市、野田市、茂原市、成田市、佐倉市、東金市、八日市場市、旭市、勝浦市、市原市、我孫子市、君津市、富津市、四街道市、袖ケ浦市、八街市及び印西市の計一八市が四〇時間であるものの、千葉市をはじめ銚子市、市川市、松戸市、佐原市、習志野市、柏市、流山市、鴨川市、鎌ケ谷市及び浦安市の計一一市が八千代市と同じ三八時間四五分であり、船橋市は三七時間三〇分であること、また、埼玉県下においても、同年一二月現在、四〇時間であるものは一四市であり、浦和市をはじめとする二九市が四〇時間未満であること(そのうち、八千代市と同じ三八時間四五分である市は二八市)、神奈川県下においては、同年一二月現在、四〇時間である市は一つもなく、一九市全部が八千代市と同じ三八時間四五分であることが認められ、八千代市の職員の勤務時間の定めと同様である地方自治体が他にも多数存在していること、また、国の職員と八千代市の職員との勤務時間の格差は一週間につき一時間四五分、一日当たり一五分であり、このために八千代市における行政に明白な悪影響が生じていると認めるに足りる証拠もないこと、さらに、〔証拠略〕によれば、平成一〇年の勤務時間条例の改正は、八千代市の行っていた職免措置に基づく実質的な勤務時間の短縮が違法である旨の一審判決(その後、控訴審では適法とされた。)を受けて、勤務時間についての疑義をなくし、これを現実の執務時間(窓口開庁時間)に合わせるために行なわれたものであり、実勤務時間は、それ以前から一週間当たり三八時間四五分となっていたこと、なお、労働時間の短縮による自由時間の創設は、長い目で見れば望ましい事柄であり、社会的な趨勢となっていることなどに鑑みれば、八千代市における勤務時間を、平成一〇年の勤務時間条例の改正により一週間について三八時間四五分とし、これによって、国や千葉県内あるいは近隣の他県の市の一部との間に、勤務時間についての多少の格差が生じたからといって、直ちにそれが地方公務員法二四条五項あるいは一四条等に違反して、違法あるいは無効となるものではない。

三  その他、本件支出を違法とすべき事由は見当たらない。

第四 結論

よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 澁谷勝海)

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