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千葉地方裁判所 平成11年(行ウ)60号 判決 2000年4月26日

原告

中島修

右訴訟代理人弁護士

山下清兵衛

被告

柏税務署長 橋本文男

右指定代理人

小池充夫

安岡裕明

円山了

富永鐘治

大矢勝昭

佐藤謙一

江口克介

西垣均

近藤高史

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告に対し、平成一〇年四月二八日付けでした平成九年度所得税の無申告加算税の賦課決定を取り消す。

二  被告が、原告に対し、平成一〇年四月二一日付けでした平成九年度所得税の督促処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成九年度の所得税の確定申告を確定申告書の郵送により行った原告が、右申告書送付の際の消印が法定申告期限後であったため、右確定申告は期限後申告に当たるとして、無申告加算税の賦課決定及び所得税の督促処分をした被告に対し、確定申告書を法定申告期限内に郵便ポストに投函したことが証明される場合は期限内申告に当たるなどと主張して、右賦課決定及び所得税の督促処分の取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  原告は、被告に対し、原告の平成九年度所得税の確定申告について、総所得金額を一八五六万三五〇〇円、納付すべき税額を七七万一二〇〇円と記載した確定申告書(以下「本件申告書」という。)を郵送して提出した(以下、右申告を「本件申告」という。)。

2  被告は、平成一〇年三月一八日、本件申告書を受領したが、本件申告書が郵送された際、封筒に表示された通信日付は、同月一七日となっていた。

3  被告は、本件申告書は法定申告期限後に提出されたものとして、平成一〇年四月二一日付けで、前記1の納付すべき税額から予定納税額(一三万九二〇〇円)を控除した額である六三万二〇〇〇円に係る督促(以下「本件督促処分」という。)を行い、また、同月二八日付けで、右の六三万二〇〇〇円を基礎として、無申告加算税額を三万一五〇〇円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)を行った。

なお、所得税の確定申告書の提出期限は、翌年の二月一六日から三月一五日までとなっているが、平成九年度の所得税の確定申告については、平成一〇年三月一五日が日曜日であることから、同月一六日が法定申告期限であった。

4  原告は、平成一〇年六月二〇日、被告に対し、本件督促処分及び本件賦課決定を不服として異議申立てをした。

5  被告は、平成一〇年九月一七日付けで、右異議申立てを棄却する決定をし、右決定は、同月二四日、原告に送達された。

6  原告は、平成一〇年一〇月二二日、国税不服審判所長に対し、右異議申立棄却決定を不服として審査請求をした。

7  国税不服審判所長は、平成一一年六月七日付けで、右審査請求を棄却する裁決をした(甲一)。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件賦課決定及び本件督促処分の適法性であり、具体的には、本件申告が期限内申告となるか否かであるが、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

1  原告の主張

国税通則法二二条は、納税申告書が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなし、また、その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日にその提出がされたものとみなすと規定しているところ、右規定の趣旨は、郵便により納税申告書を提出する場合、納税申告書を発信した時点、すなわち、納税申告書を郵便局が設置したポストに投函した時点に提出がされたとする発信主義を採用することを明確にしたものであり、法定申告期限内に納税申告書を郵便局に提出すれば、同期限内に申告したことになるという実体的要件を定めたものである。

そして、原告は、本件申告書を、法定申告期限内である平成一〇年三月一六日に郵便ポストに投函している。

また、同条が通信日付印により表示された日などを納税申告書の提出日とみなすとしているのは、前記の実体的要件に関する発信日の証明を緩和したものであって、その他の証拠により発信日を証明することを禁ずるものではないと解すべきであるところ、原告は、本件申告において、郵便ポストへの本件申告書の投函をビデオテープに録画しており、法定申告期限内に本件申告書を発信した事実を客観的に証明している。なお、租税法律主義によれば、納税義務者の権利を失権させるためには、明確な法の規定が必要であるところ、国税通則法二二条には、客観的に発信した日を証明している場合まで、期限内申告の利益を失権させるとする明文の規定はない。

以上のように、本件申告は期限内申告であり、柏税務署が原告の委託した金融機関に納付書を送付することにより納付を完了し得たのであるから、これをせずに本件申告を期限後申告として取り扱った本件賦課決定及び本件督促処分は違法である。

2  被告の主張

税法上、所得税の確定申告等の効力発生時期に関する一般的基準を定めた規定はなく、一般原則である到達主義(民法九七条一項)により、納税申告書が被告に到達した時に、申告等の効力が発生するものと解されるところ、国税通則法二二条は、現在の郵便事情等を考慮し、また、納税者と関係税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正する必要性をも勘案して、郵送により提出された納税申告書等について、その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出があったものとみなし、その日に申告等の効力が発生したとするものであり、その限度で到達主義の例外を設けたものであるが、これは、特定の書類についてのみ、同条の規定の範囲内で到達主義を緩和するものであって、発信主義を採用したものではない。

また、国税通則法二二条は、納税申告書が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなす旨規定している以上、その郵便物の通信日付印が明瞭に付されている限り、右通信日付印により表示された日を提出日としなければならず、これに関する当事者間の取り決めや反証によりこれと異なる日を提出日とすることは許されないところ、本件申告書を郵送するために使用した封筒に表示された通信日付印の日は平成一〇年三月一七日なのであるから、本件申告書の提出日は法定申告期限の後であることは明らかである。

そして、被告は、本件申告書がその申告期限内に提出されなかったことにつき、国税通則法六六条一項ただし書の定める正当な理由がある場合であると認められなかったことから、本件賦課決定として同条三項の規定に基づき計算された無申告加算税額の賦課決定をし、また、本件申告書は期限後申告書であるから、所得税の納付は、同法三四条の二に定める口座振替納付の手続ではなく、同法三四条一項の定める納付手続によらなければならないところ、原告は法定納期限内にこれをしなかったことから、本件督促処分をしたものである。

したがって、本件賦課決定及び本件督促処分には何ら違法はない。

第三当裁判所の判断

一  税法上、税務官庁に対する書類の提出を郵便等により行う場合に、当該書類の提出に伴う効力の発生時期に関し一般的に定めた規定はなく、原則的には、隔地者間における意思表示の一般原則である到達主義(民法九七条一項)に従い、その到達時期により決すべきこととなるが、国税通則法二二条は、納税申告書等を郵送に付した場合であっても郵便物の紛失や配達の著しい遅延の生ずる蓋然性が相当低くなった現在の郵便事情や、納税者と関係税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正する必要性などにかんがみ、郵送により提出された納税申告書等については、その郵便物の通信日付印により表示された日などにその提出があったものとみなし、その日に申告等の効力が発生したとするものであり、実質的には到達主義の例外を設けたものということができる。

二  ところで、原告は、国税通則法二二条は、法定申告期限内に納税申告書を郵便局に提出すれば、同期限内に申告したことになるという実体的要件を定めたものであり、また、同条は、右要件に関する発信日の証明を緩和したものであって、その他の証拠により発信日を証明することを禁ずるものではないところ、原告は、本件申告において、郵便ポストへの本件申告書の投函をビデオテープに録画しており、法定申告期限内に本件申告書を発信した事実を客観的に証明できるのであるから、本件申告は期限内申告に当たる旨主張する。

しかし、前述のところからすれば、国税通則法二二条が右のような実体的要件を定めたものとは必ずしも解されないし、その点はさておいても、同条の法文上、反証を許さない「みなす」との文言が用いられていることに加えて、同条の趣旨が、申告納税方式による納税申告は、比較的短期間に定められた法定申告期限内に大量の事務を処理しなければならない性格を有し、効率的な事務処理の観点から提出日の判定を画一的な基準で行う必要性が高いことから、納税申告書の郵便物に付された通信日付印等を提出日の判定基準としたものであると解されることに照らせば、同条に定められた通信日付印等の方法以外の証拠等により個別的に提出日を証明し、これに基づき提出日を判定することは許されないというべきである。なお、同条は、右郵便物に通信日付印の表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日にその提出がされたものとみなすと規定しているのであるが、このような規定があるからといって、通信日付印の日と実際の提出日が異なる場合に、右規定を準用すべきであるとか、実際の提出日がいつであるかの証明を認めるべきであるとはいえないし、このように同条の規定を解釈したからといって、それが租税法律主義の趣旨に反することになるものでもない。

三  そして、前記のとおり、本件申告書を郵送するために使用した封筒に表示された通信日付印の日は法定申告期限後の平成一〇年三月一七日である以上、本件申告は期限後申告とみなすべきであるから、原告の主張は理由がない。

四  その他、本件賦課決定及び本件督促処分を違法とすべき事由は見当たらない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結した日 平成一二年二月一七日)

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

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