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千葉地方裁判所 平成13年(わ)1560号 判決 2001年11月19日

上記の者に対する業務上過失致死傷被告事件について,当裁判所は,検察官清水博之及び弁護人外村隆各出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文

被告人を禁錮1年10月に処する。

未決勾留日数中50日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,平成13年7月27日午前4時20分ころ,業務として大型貨物自動車を運転し,千葉県習志野市ab丁目c番地京葉道路下りdキロポスト付近道路をeインター方面からfインター方面に向かい時速約80キロメートルで進行中,眠気を催して前方注視が困難になったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,前記状態のまま漫然運転を継続した過失により,千葉市g区hi丁目j番地京葉道路下りkキロポスト先道路において,仮眠状態に陥り,前方を同方向に進行していたA(当時25歳)運転の普通乗用自動車に自車を追突させて同人を車外に放出させ,よって,同人に加療約3週間を要する全身打撲,外傷性頭頚部障害,頭部挫創の傷害を負わせた上,自車を右前方に暴走させ,渋滞のために停止していたB(当時34歳)運転の普通乗用自動車に追突させて同車を炎上させ,よって,そのころ,同所において,同人を焼死させたものである。

(法令の適用)

罰条 被害者毎に刑法211条前段

観念的競合の処理 同法54条1項前段,10条(犯情の重いBに対する罪の刑で処断)

刑種の選択 禁錮刑選択

未決勾留日数の算入 同法21条

訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書

(量刑の理由)

本件は,被告人が,早朝,大型貨物自動車を運転して自動車専用道路を時速約80キロメートルで走行中,睡魔に襲われたのにそのまま運転を継続したため仮眠状態となり,前方を同方向に進行していたA運転車両に自車を追突させて同人を車外に放出させて同人に加療約3週間を要する傷害を負わせ,更に,自車を渋滞のために停止していたB運転車両に追突させて同車を炎上させ,同人を焼死させたという事案である。

自動車を運転する者は,体調管理を十全にすべきはもとより,万一眠気を催したときには運転を中止すべきことは当然中の当然であり,ましてや被告人のように大型貨物自動車を運転して自動車専用道路を高速度で走行する場合に居眠り運転をしたりすれば,重大な事故を引き起こすことは自明のことであるのに,被告人は,本件事故前日,心配事があって休憩時間中に十分な睡眠を取っていなかったために睡魔に襲われ,先を急ぐ余り,そのまま運転を続けたため仮睡状態に陥って本件事故を惹起したのであり,被害者らにとってはいかんともし難い事故態様であって,過失は重大かつ一方的なものである。その結果は5台の自動車を巻き込む玉突き事故であり,傷害被害者の傷害程度は決して軽いものではなく,また,死亡した被害者は,シートベルトをしていたことが災いして車外に逃れられず,炎に包まれて助けを求めながら絶命し,無惨な姿となったのであり,同人は,まだ34歳で,実母と同居してタクシー運転手として稼働し,人生これからという時期に本件事故により最後を迎えざるを得なかったのであり,その心中は察するにあまりあり,悲嘆にくれている遺族に対しては慰める言葉もない。このように本件の過失が重大であることやその結果もまた重大かつ悲惨であることにかんがみると,被告人の責任は相当に重い。そこで,被告人が死亡した被害者を助け出そうと努力はしたこと,遊興の結果による居眠り運転ではないこと,被告人が事実を素直に認め,自己の過失により重大な事故を起こし,尊い人命を奪ったことなどを深く悔い反省していること,これまで道路運送車両法違反による罰金前科のほかには前科がないことなどの事情を十分考慮して,被告人に対しては,主文のとおり量定するのが相当である。

(求刑 禁錮2年)

(裁判官 下山保男)

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