千葉地方裁判所 平成14年(ヨ)52号 決定 2003年6月04日
主文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。
事実及び理由
第1本件請求
債務者は,別紙2「設置場所目録」(省略,以下同じ)記載の各土地において,産業廃棄物最終処分場を建設,使用及び操業してはならない。
第2事案
1 前提事実(争いのない事実のほか,疎明資料により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 債務者は,産業廃棄物の運搬収集業,産業廃棄物処理業などを営業目的とする株式会社である。
イ 債権者らは,千葉県海上郡海上町,同県銚子市,同県香取郡東庄町の1市2町に居住している者である。
(2) 産業廃棄物処理施設設置計画
債務者は,千葉県海上郡海上町,同県銚子市,同県香取郡東庄町の1市2町にまたがる別紙2「設置場所目録」記載の各土地(以下「本件予定地」という。)において,別紙3「本件処分場の概要」記載の内容の管理型産業廃棄物最終処理施設(以下「本件処分場」という。)を設置することを計画しており,平成13年3月1日,千葉県知事より,別紙4「許可の条件」(省略,以下同じ)記載の条件付きで本件処分場の設置許可を得て,同年12月10日,建設工事に着手した。
なお,本件処分場の建設工事は,本件仮処分命令の申立てがなされたことから,債務者において,防災工事を除き一時中断している。
(3) 本件処分場の概要
ア 本件処分場の基本的な設計思想は,重金属類,化学物質等の有害物質が水に溶け込み水とともに移動することから,産業廃棄物と接触した水(以下「浸出水」という。)を処分場の外に漏らさない遮水システムを構築することによって,本件処分場に持ち込まれた産業廃棄物により周辺環境(河川,地下水等)が汚染されることを防止するというものである。
イ 上記設計思想を受けて実際に設計された本件処分場施設の遮水システムの概要は次のとおりであり(別紙3「本件処分場の概要」の5 施設概要参照),施設の複合的機能により,遮水を目指すものである。
すなわち,本件処分場は,(ア)本件予定地に横たわる沢状(谷間)の地形を利用し,谷底の地盤を約10メートル程度掘削して,その底部及び法面部(法面勾配1:1.0)を二重の遮水シート及び難透水性の粘性土ライナー等で構成され,かつ,電気的漏水検知システムを組み込んだ遮水工(シートに破損等の不具合が生じても,漏水検知システムの作動により早期にこれを探知して補修することにより,遮水工の遮水性機能を維持する。)で覆い,これを産業廃棄物の埋立区域とするとともに,(イ)遮水工が地下水によって浸食等されることがないよう,処分場周辺には地下水集排水管を張り巡らせ,地下水を集めて排水することにより,地下水位を強制的に下げて地下水が遮水工に接触するのを防止し,(ウ)遮水工内に張り巡らせた集水管によって浸出水を集め,処分場が冠水して浸出水が遮水工によって包まれた埋立区域外に溢れ出ることを防止し,他方,(エ)集めた浸出水を貯留槽で蓄え,順次,水処理設備で浄化し(以下,水処理設備によって浄化処理された水を「処理水」という。),更に,処理水を全て蒸発散装置等によって蒸発処理するという構造である。そして,(オ)浸出水全量の浄化,蒸発処理を可能とするために,浸出水の発生量を抑制する。
具体的には,埋立区域の外周に沿って高さ1メートル以上(地中の深さ15メートル以上)のコンクリート製遮水壁及びこれに沿ってその外側に外周U字側溝を設置することにより,上記埋立区域外に降り注ぐ雨水が表層水となって埋立区域内に流入するのを防止するとともに,埋立区域内の法面部に階段状の小段を等間隔に4段形成し,各小段に設置される場内小段側溝により,埋立区域内に降り注ぐ雨水のうち,法面部への降雨を産業廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導して排水し,かつ,後述するとおりの埋立手順をとり,埋立作業を5000平方メートル以下のブロックに細分化して行い,埋立区域内に降り注ぐ雨水のうち,埋立作業未着手部分への降雨は廃棄物に接触させずに浸出水集排水管(雨水切替管)によって雨水排水室を経て防災調整池へと誘導し,また,埋立が終了したブロックの上部を雨水遮水シートで一時的に覆い,このブロックへの降雨を横断勾配により地下に浸透させずに側方へと流し,法面部の小段側溝によって廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導するなどの措置により,浸出水の発生する面積を常時5000平方メートル以下に限定するというものである。
ウ なお,本件埋立区域全ての埋立完了後は,最終覆土として,砂と礫等の天然素材を用いたキャピラリーバリアー型覆土をするとともに,地表面に樹木等を植栽することが計画されている。
(4) 本件処分場の埋立手順の概要
本件処分場における廃棄物の埋立処理は,ア 本件埋立区域を2つの工区に分け,まず,第1工区を,底部から順次,埋立作業を行うブロックと他の部分とを区分する仕切土堰堤(各ブロックは5000平方メートル以下)を築造しながら,1ブロックずつ埋立てを行い,1層目の埋立が終わると,上層階の埋立てをするということを繰り返した後,第2工区を底部から上記同様に埋め立てること,イ 1つのブロックの埋立てが終了すると,中間覆土をした後,その上部を雨水遮水シートで一時的に覆い,埋立てが終了したブロックの上層部分の埋立作業に移行する場合には,上記のとおり敷設した雨水遮水シートを新たな仕切土堰堤の築造後に除去して,その上に廃棄物を埋立処理し,更に当該ブロックの埋立てが終了すると,その上部を雨水遮水シートで一時的に覆うこと,以上の手順を繰り返して実施する計画である。
(5) 産業廃棄物の有害性
本件処分場に搬入が予定されている産業廃棄物には,以下のとおり,人体に有害な物質が含まれている。なお,これら有害物質が水に溶ける程度に差があるにしても,溶解すること自体については,債務者も特に争わない。
ア 煤じん(焼却煤,飛煤)
煤じんには,ダイオキシン類(ダイオキシン,ダイベンゾフラン,コプラナ-PCBの総称)が含まれるところ,ダイオキシン類は,急性毒性,発ガン性,生殖毒性等を有している。
イ 廃プラスチック類
廃プラスチック類には,フタル酸化合物(プラスチックに添加される可塑剤として汎用されている。)が含まれるところ,フタル酸化合物には,発ガン性があるほか,生殖,発生毒性,免疫毒性等がある。また,廃プラスチック類には,活性剤や安定剤として用いられるノニルフェノール,ビスフェノールAが含まれ,これら物質は発ガン性を有している。プラスチックにはカドミウムや鉛が安定剤として,シアンが添加剤の原料としてそれぞれ使用されており,人体に中毒症状を引き起こす。
ウ 金属くず
金属くずには,鉄,銅が多く含まれるところ,これらも一定限度を超えて摂取されると人体に中毒症状を引き起こす。また,金属くずには,カドミウム,鉛,合金に添加されるヒ素,水銀,シアンが含まれており,これらは人体に中毒症状を引き起こす。また,ニッケルは,肺ガンの原因となる。
エ がれき類,木くず,紙くず
がれき類,木くずは主として建築廃材であるところ,鉄などの金属や,塩化ビニール製品等が使用されているから,金属くず,廃プラスチック類と同様の有害物質が含まれている。また,建築廃材には,シロアリ駆除剤や防腐剤等に使用されるヒ素が付着していることが多い。
2 争点の概要
(1) 債権者らは,本件予定地に本件処分場が建設され,その使用,操業が開始されると,本件予定地内に大量の産業廃棄物が持ち込まれることから,産業廃棄物の搬入のためのトラック等により,交通事故という急迫の危険に曝されるほか,産業廃棄物に含まれる有害物質が,大気,河川,地下水等の周辺環境を汚染して拡散し,債権者らが生活し,又は農業を営む地域に到達することにより,債権者らの生命,身体(健康)を害し,債権者らに回復困難な著しい損害を及ぼす等と主張して,何人も生命,身体(健康)を害されず,平穏な生活を侵害されないという人格権に基づき,上記急迫な危険及び著しい損害の発生を避けるために,本件処分場の建設,操業等の差止めを求めている。
そして,債権者らは,本件処分場の安全性は債務者において主張,立証すべきである旨主張するとともに,本件処分場の遮水システムには様々な問題がある旨指摘し,かつ,埋立完了後の本件処分場の維持管理体制の不十分及び本件事業計画の経済的基盤の脆弱性を強調する。
(2) 他方,債務者は,本件処分場の建設,操業等にあたっては,十分な安全管理及び最先端の技術を採用した極めて信頼性の高い環境汚染対策等を講じるから,埋立期間中はもちろん,埋立完了後,処分場閉鎖後においても,産業廃棄物に含まれる重金属や化学物質等の有害物質が処分場外に漏れ出す危険性は一切ないため,本件予定地周辺の環境を汚染することはなく,したがって,有害物質が債権者らの生活圏等に到達することも,債権者らの生命,身体(健康)を害することもない等と主張するとともに,本件埋立事業の採算性等を根拠に,上記万全の対策を講じるための経済的裏付けも確保されている旨主張する。
(3) 双方当事者の主張の要旨は上記のとおりであって,本件の争点は,ア 本件処分場の建設,使用及び操業による債権者らの人格権侵害の具体的可能性の有無,すなわち,(ア) 交通事故による危険の存否のほか,(イ)本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物に含まれる有害物質が本件処分場から流出し,本件予定地周辺の大気,河川,地下水等の環境を汚染するか,仮に本件処分場から有害物質が流出した場合,大気,河川,地下水等を経由して,実際に債権者らの元に到達することがあるか,(ウ)債務者に本件事業計画を遂行するに足りる経済的基盤があるか,イ 保全の必要性の存否である。
3 主要な争点に関する当事者の主張
(1) 交通事故の危険性について
ア 債権者らの主張
本件処分場の操業が開始されると,産業廃棄物を搬入する大型車両が,センターラインもなく,幅員4ないし5メートル程度の狭い地域の県道,町道を1日に48台余り往復する状況になるため,これら道路を通学または生活のために利用しているEグループの債権者ら(別紙1「債権者目録」(省略,以下同じ)グループ欄中「E」と記載されている者,すなわち,全債権者。以下,同目録グループ欄の記載により,債権者らを,A,B,C,D,Eの5つのグループに分けて呼称する。)は,交通事故の危険にさらされ,平穏な生活を営む権利を侵害される。
イ 債務者の反論
本件処分場の建設,操業等によって,交通量が増加することになるからといって,直ちに,許容し難い危険が生じるとはいえない。
(2) 大気汚染の可能性について
ア 債権者らの主張
(ア)大気汚染の可能性
本件予定地に産業廃棄物を搬入するトラックから,産業廃棄物が落下することにより,日常的に大量の有害物質が周辺地域に飛散することになるし,産業廃棄物の積み降ろしや埋立作業の際などには,特に,焼却煤に多量に含まれているダイオキシン類が本件予定地の周辺地域に飛散する。また,埋立後も,覆土が風雨によって剥がされ,産業廃棄物が地表にあらわれる事態となることから,焼却煤等が風に乗って地上に飛散し,いずれにしても大気が汚染される。
(イ)被害発生の可能性
Eグループの債権者ら(全債権者)は,本件予定地の周辺において,居住し又は農業に従事している者であって,有害物質によって汚染された大気を日々吸入することになり,自己の生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
イ 債務者の反論
(ア)大気汚染が生じないこと
産業廃棄物を運搬する車両には,有蓋車を使用し,あるいは産業廃棄物を積載した荷台をシートで覆うとともに,飛散し易い煤じん等は,予め,加湿,固化を行うほか,積み降ろしや埋立作業の際には,散水や覆いをする等の飛散防止の措置をとる予定であるから,大気中に有害物質が飛散,拡散することはなく,本件予定地に持ち込まれる産業廃棄物によって大気が汚染されることはない。
(イ)被害発生の可能性がないこと
煤じんのうち,ダイオキシン類が特に多く含まれる飛煤については,特別管理処分場において処理されることが法定されており,本件処分場の受入品目ではないから,債務者が本件処分場に受け入れることはないし,煤じんのうち,焼却煤については,発生元である焼却炉の機能と管理が十分になされている事業者からのみ受け入れる。つまり,焼却炉が連続して800度を超える温度で焼却するとダイオキシンは発生しないところ,受入先は,このような管理がされている焼却炉のみに限定するから,本件予定地に持ち込まれる焼却煤にダイオキシン類が含まる可能性があるとしても,微量であり,万一大気中にダイオキシン類が飛散し,債権者らの生活圏に到達するとしても,大気中で希釈されることをも考慮すれば,債権者らの健康を害することはない。
(3) 河川汚染について
ア 債権者らの主張
(ア)河川汚染の可能性
豪雨などの際には,浸出水の浄化処理及び処理水の蒸発処理の能力が追いつかなくなり,処分場内に浸出水が貯留された挙げ句,浸出水が場外に溢れ,表層水となって地上を伝わり,本件予定地付近を水源地とする忍川等の河川に流入してこれを汚染する。
また,浸出水処理設備の能力は不十分であり,有害物質を完全に除去することはできないから,蒸発処理能力が追いつかない場合,有害物質が残存した処理水が放流されることになり,忍川等の河川を汚染する。
(イ)被害発生の可能性
Cグループの債権者らは,忍川その他の河川を農業用水に利用しているから,上記のとおり汚染された河川水を使用した農作物の販売ができなくなり(風評被害も深刻である。),生活の基盤である収入源を奪われる上,自ら作った農作物を家庭内において食用することから,自己の生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
Dグループの債権者らは,銚子市水道事業団が供給する水道水を使用しているところ,同事業団が忍川を将来水道水源とすることを予定しているから,上記のとおり汚染された忍川を水源とする水道水の供給を受けた場合,自己の生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
イ 債務者の主張
(ア)河川汚染が生じないこと
浸出水の処理施設及び処理水の蒸発散装置については,過去20年間の降雨データ等をもとに余力をもたせて設計しているから,処理能力は十分である。浸出水を浄化処理するまでの間,浸出水をためておく貯留槽及び処理水を蒸発処理するまでの間,処理水をためておく貯留槽の各容量についても,十分余裕をもたせて設計しているから,処分場内に浸出水が24時間以上滞留することはなく,本件処分場が冠水する可能性は全くない。
(イ)被害発生の可能性がないこと
松ヶ谷地区には,利根川から農業用水が引かれているが,Cグループの債権者らは,忍川の河川水を農業用水として利用しているという農地を特定していないから,同グループの債権者らの耕作する農地に忍川の河川水が到達する可能性を認めることはできない。
また,忍川は,水質の悪化により10年以上前から法的に水道水源ではなく,将来においても,水道水源になる可能性はないから,Dグループの債権者らが,将来,忍川を水道水源とする水道を利用する可能性はおよそない。
(4) 地下水汚染について
ア 債権者らの主張
(ア)地下水汚染の可能性
産業廃棄物が本件予定地に搬入されると,埋立処理の過程及び埋立後も永久に雨水等と接触するから,産業廃棄物に含まれているダイオキシン類,鉛及びカドミウム等の重金属類等の有害物質がいずれも水に溶け出し,浸出水となって本件予定地外に漏れ出して,本件予定地を包み込むように存在している透水性の高い地層の中で地下水に混入し,地下水を汚染する。
(イ)被害発生の可能性
本件予定地を包むように存在する上記透水性の高い地層は,A,Bグループの債権者らの多くが居住し又は耕作する農地が所在する地域全体をも包み込んでおり,処分場周辺の地下水とこれら地域の地下水は一体の関係にあるから,汚染された地下水が,A,Bグループの債権者らが使用している井戸に到達することになる。
したがって,生活用水及び飲料水を井戸水に依存しているAグループの債権者らは,汚染された井戸水の摂取により,生命,身体(健康)を害される危険性が高い。また,農業用水として地下水を使用しているBグループの債権者らは,Dグループの債権者らと同様に,収入源を奪われるとともに,自己の生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
なお,債務者は,本件処分場西側において行った地下水位測定の結果,A,Bグループの債権者らの多くが居住し又は耕作する農地が所在する松ヶ谷地区側の地点における測定値が,同測定地点より東側(本件処分場側)に位置する地点における測定値より高かったことを根拠にして,本件処分場と債権者らの多くが居住し又は農業に従事している松ヶ谷地区との間には,地下水の分水嶺が存在する旨主張するのであるが,そのような測定の結果は部分的な難透水層の上にある地下水溜まり(宙水)の存在により矛盾なく説明できる程度のものであり,分水嶺の存在を証する理由にはなり得ない。
イ 債務者の主張
(ア)地下水汚染が生じないこと
本件処分場の埋立期間中はもちろん,埋立完了後も処分場閉鎖までの間(事業計画上,少なくとも10年間を予定)は,遮水システムを維持し,浸出水及び地下水等の処理を続けるとともに,漏水検知システムの機能を保持して,徹底した安全管理を実施するから,本件処分場内で産業廃棄物に接触した浸出水が本件処分場外に流出する可能性は一切ない。
また,積極的に散水や送風を施し,本件処分場を空気と水が循環する準好気性の環境に置くことにより,産業廃棄物に含まれる有害物質の安定化を促進し,浸出水の水質を遅くとも10年以内には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃掃法」という。)に定められている最終処分場の廃止時における都道府県知事の確認制度における基準(共同命令により,ガスの発生量の増加が2年以上認められないこと,浸出水の水質が2年以上排水基準に適合していることなど,具体的な基準が示されている。)を充たす状態となるよう対策を講じるほか,埋立完了後の最終覆土には半永久的な機能を有するキャピラリーバリアー型覆土を採用することにより,処分場の閉鎖後に浸出水が発生しないようにする計画である。つまり,水処理システム等の維持管理を止める処分場閉鎖後においては,キャピラリーバリアー型覆土の効果により浸出水が発生しないから,浸出水が本件処分場外に流出することはないし,万一流出することがあっても,有害物質は排水基準を充たす状態にまで十分に安定化しており,人体を害するほどの有害性はなくなっている。
(イ)被害発生の可能性がないこと
a 水道への切り替えの必要性及び容易性
Aグループの債権者らの多くが居住している松ヶ谷地区の地下水は,周辺住民の社会生活(農業,畜産業)によって既に飲料には適さない状態にまで汚染されている上,松ヶ谷地区には既に水道が引かれており,多くの住民が水道を利用している状況にあって,水道への切り替えが容易なのであるから,同債権者らは,地下水を利用する必要性はないし,利用すべきではない。同債権者らが既に汚染されている地下水の利用を止めさえすれば,本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物の影響により,債権者らの生命,身体(健康)が害される可能性などもとより考える余地はないのである。
b 本件予定地から松ヶ谷地区に向かう地下水の流れがないこと
A,Bグループの債権者らの多くが居住し又は農業に従事していると主張する松ヶ谷地区は本件予定地の西側に位置しているところ,本件予定地の西側約150メートル付近からは,東側(松ヶ谷地区とは反対側)に向かって地下水位が低下しているから,地下水は,本件処分場に向かって流れていることが明らかである。つまり,本件予定地と松ヶ谷地区の間には,地下水位の最も高い部分があることが確認されており,これが地下水のいわゆる分水嶺となっている。
したがって,本件予定地を通過した地下水が重力に反して松ヶ谷地区に向かって流れていくことはあり得ないし,万一浸出水が処分場外に漏れ出し,周辺の地下水を汚染することがあったとしても,汚染された地下水が松ヶ谷地区に所在する井戸に到達することなどない。
(5) 本件処分場施設の安全性・信頼性について
ア 債権者らの主張
本件処分場の事業計画には,次のとおりの問題点が存在しており,有害物質が浸出水とともに処分場外に流出することは明らかである。
(ア)遮水工関係
a 粘性土ライナーについて
粘性土ライナーは地下水(湧水)によって容易に洗い流されるほか,酸又はアルカリによって溶解するから,粘土層中の空隙が増加して透水性が増大し,遮水機能を喪失する。また,粘性土ライナーに混合されるベントナイトは水に触れると膨潤するから,水に接触する部分と接触しない部分が生じることにより,粘性土層の間に空隙や亀裂を生じるし,水にほとんど触れない部分については乾燥によって亀裂が生じ,遮水機能を失う。
b 遮水シートについて
遮水シートは早期に破損するか,シートの接合部分が剥離して遮水性機能を失う可能性が高い。すなわち,遮水シートは,現段階では10年程度の耐久性しかない上,埋立作業中は重機,産業廃棄物等との接触により,埋立後は自然状態における熱,圧力,湿度,紫外線,流出した可塑剤,産業廃棄物や埋立場所に存在する様々な化学物質による化学的作用,生物的作用等に曝されることにより,破損する。また,遮水工の支持地盤が不等沈下を起こし,遮水シートを破損する可能性があるほか,上記の様々な要因が複合的に作用し,破損を招く。
遮水シートは,遮水性はあっても,ある種の有害物質を通すから,地下水汚染の防止には効果がない。
c 漏水検知システムについて
漏水検知システムが作動した時点では,漏水が発生しているのであるから,既に有害物質が浸出水とともに処分場外に漏れ出し,地下水を汚染していることになる。広大な処分場に敷設された遮水シートのどの部分が破損したのかを正確に特定することができるかは甚だ疑問である上,特定できたとしても,産業廃棄物が埋め立てられた後に遮水シートの破損を修復することは到底不可能である。結局,漏水検知システムは,地下水汚染の防止には効果がない。
また,漏水検知システムが故障したり,システムの劣化により機能を十分に発揮することができない状況もあり得る。
(イ)水処理システム関係
a 浸出水処理施設について
浸出水処理施設の設計の前提となった降雨量の設定に誤りがあるほか,浸出係数(降雨量と天然蒸発の割合)も低めに算定されているから,本件処分場に溜まる浸出水全量を処理することはできない。
なお,浸出水処理施設により,ダイオキシン類,フタル酸,重金属類等を完全に除去することは不可能であるし,そもそも,施設設計の前提とされた原水(浸出水)の水質設定に誤りがあるから,その浄化性能はあてにならない。
b 蒸発散装置について
蒸発散装置は,設計の前提とされた水収支に誤りがある上,浸出水処理設備の処理能力が日量20立方メートルであるのに対し,蒸発散装置の処理能力は日量15立方メートルしかなく,処理水全量を蒸発処理する能力がない。蒸発散装置が目詰まりを起して機能しなくなるおそれもある。
また,債務者の事業計画上,蒸発処理に必要な経費が確保されていないから,処理水全量を蒸発処理することはできない。
(ウ)施設の施工及び維持管理体制関係
本件処分場施設の設備等の施工及び維持管理にミスがあれば,いかなる設備も役に立たないことになるが,過去の事故事例からも明らかなように,施工及び維持管理等にミスがないことなどあり得ないから,本件処分場が環境汚染を招かないとは到底いえない。
(エ)キャピラリーバリアー型覆土関係
債務者は,本件処分場の埋立作業が完了し,処分場を閉鎖した後の維持管理については,キャピラリーバリアー型覆土をもって処分場内への雨水の浸透を防ぐ旨強調するのであるが,完全に雨水の浸透を防ぐことなどできるはずもないから,遮水シートが破損しない場合には,歳月の経過により,いずれは処分場内に浸出水が溢れ,表層水となって河川に混ざり,又は地下に浸透して地下水に混入することになる。
また,本件処分場を準好気性の環境状態とすることにより有害物質の安定化を図ることができる旨をも強調するが,現代のゴミは,生ゴミ主体の時代とは異なり,ダイオキシン類,重金属類等の他,未知の様々な物質が含まれているのであって,時が経っても無害化ないし安定化することはない。本件予定地に持ち込まれた産業廃棄物の有害性が喪失し,無害化したことを確認した上で管理を打ち切るというのであれば格別,そのような説明はなく,債務者は,埋立完了後の維持管理期間を10年と想定して,10年分の維持管理費用の積み立てをするとの説明に終始している。
イ 債務者の主張
(ア)遮水工関係
a 粘性土ライナーについて
本件処分場においては,前記第2の1(3)説示のとおり,地下水の排水処理を行うから,遮水工に地下水が接触することはなく,地下水によって粘性土ライナーが流出することはない。
また,ベントナイトが酸やアルカリの影響を受けるのは,ベントナイトそのものの膨潤性に依存して遮水性を発揮するいわゆるジオセンティックライナーについてであるところ,本件処分場で使用する粘性土ライナーは,難透水性の現地で採取される土にベントナイトを混合して作出される別種のものであるから,酸又はアルカリによって粘性土ライナーが遮水機能を失うとの債権者らの批判はあたらない上,受入審査等の管理を徹底することにより,強酸や強アルカリが本件処分場に持ち込まれることを防止することを予定している。
乾燥によるひび割れの懸念についても,粘性土ライナーの敷設の際に水分に十分配慮して施工することができる上,遮水工の最下部として地中に埋め込まれる粘性土ライナーが,全くの乾燥状態となることなどあり得ない。
b 遮水シートについて
本件処分場で使用する遮水シートは,紫外線等に対する耐性を十分有するものであり,その耐久性が10年程度という根拠は全くなく,考えられるあらゆる破損原因に対する防止対策を徹底して実施する計画であるから,遮水シートが破損する可能性は極めて低い上,仮に破損しても,十分な検査体制及び漏水検知システムにより早期に発見できるから,これを補修することによって,シートの遮水性能を維持することができる。
また,遮水シートが有害物質を透過する旨の債権者らの主張は,特殊な条件下の実験結果を基にしているのであって,本件処分場において,そのような条件を充たすことはおよそないから,債権者らの懸念はあたらない。
c 漏水検知システムについて
漏水検知システムは,二重の遮水シート及び粘性土ライナーを挟み込むように電流源電線を配するとともに,二重のシートの間にリード線(抵抗線)を配し,遮水シートが絶縁物質であることを利用して,シートの破損等により絶縁性が損なわれて電流が流れる原理をもって検知するというシステムであるから,仮に腐食等により一部の線が機能しなくなる事態があるとしても,これを補完することは,技術的に十分可能である。
(イ)水処理システム関係
浸出水処理設備の有害物質除去性能については問題はないし,処理能力並びに浸出水貯留槽及び処理水貯留槽の容量についても,厚生省水道環境部監修「廃棄物最終処分場指針解説」(社団法人全国都市清掃会議)に準じ,過去20年間(1976年~1995年)の銚子気象台観測の降水量データを基礎としながらも,本件処分場より数値が高くなる東京の浸出係数を用いて,より安全性に配慮するように設計されているのであって,十分な能力を有している。
なお,蒸発散装置の処理能力については,計画散水,強制蒸発装置の運転により補完される部分がある。
(ウ)施設の施工及び維持管理体制関係
遮水工の施工については,各層毎に千葉県の確認検査を受けることが設置許可の条件となっていること,処分場施設の完成後は,千葉県による使用前検査を受け,これに適合すると認められた後でなければ営業許可を受けることができないこと等によって,本件処分場施設が適切に施工されることについては担保されている上,施設の維持,運転管理については,本件処分場の設計,施工を担当しているX株式会社に業務委託する等の方法をもって,徹底することが予定されている。
(エ)キャピラリーバリアー型覆土関係
キャピラリーバリアー型覆土が雨水浸透抑制効果を有し,かつ,有害物質の安定化に資する準好気性の環境を維持するのに有効であることは,多くの研究によって実証され,放射性廃棄物処理場において実用化されている上,その素材が半永久的に変質しない天然の土,石等であることから,長期的安定性を十分に有している。
(6) 事業計画遂行能力(経済的基盤)について
ア 債権者らの主張
(ア)債務者には,合計24億0500万円もの簿外債務があるところ,債務者は,現在本件処分場の設置事業を行っているのみで収入がないのであるから,上記債務の利息等をも考慮すると,本件処分場の操業開始時点においては,さらに巨額の債務を負担している状況となることは必至であり,債務者が主張する金融機関からの事業資金の借入れが仮に実現できたとしても,上記債務の弁済にあてられるなどして資金が尽きる可能性が極めて高く,結局は,計画どおりの施設を建設することができず,不完全な施設が出来上がることとなる可能性が極めて高い。
(イ)また,債務者の主張する本件処分場事業の収支計算は何度も訂正されている点でそもそも信用できない上,仮に本件処分場事業によって一定の利益を上げることができたとしても,上記負債の状況に鑑みれば,処分場事業による利益の大半は上記負債の返済にあてられることになるから,債務者は,施設の維持管理及び環境汚染対策等の安全管理等のために必要な費用を捻出することができず,結局は,適正な施設の維持管理及び環境汚染対策等の安全管理を実行することができなくなる可能性が極めて高い。
(ウ)しかも,本件予定地に設定されている抵当権等の担保権に係る被担保債権の合計額は57億円を超えるまでに至っているところ,当該被担保債権の主債務者が債務の履行をしない場合には,債務者においてこれを肩代わりせざるを得ない事態も予想され,埋立完了後の維持管理に必要とされる管理費用を内部留保することもできず,本件処分場は,埋立完了後,何の維持管理も行われないままに放置されることとなる。
イ 債務者の主張
債務者は,現時点において,合計約22億円の債務を負担しているのみであり,これらは,主として工事費及び本件予定地の買収費等である。
本件予定地には,債務者が土地の買収作業等を依頼したY株式会社が,土地の買収過程等において,同社の都合により抵当権等を設定して資金調達を図っていたこと等から,本件予定地には同社等を債務者とする多額の担保権が設定されているが,これらはいずれも物上保証にとどまっており,連帯保証債務を負担しているものはない上,同社との間で,債務者が本件処分場の営業許可を受けるまでに上記各種担保権を抹消することが合意されている。しかし,債務者としては,事業計画の確実な実現のため,最悪の場合には上記担保権の抹消費用等を負担することもあり得ることを想定した上で,必要な総事業費を99億2000万円とする事業計画及びキャッシュフローを作成したが,現時点までに負担している工事費等の負債返済資金,施設の施工及び維持管理費並びに埋立事業に関する安全管理等の費用や不測の事態に対応できるようにするための保険加入に要する費用のほか,埋立完了後処分場閉鎖までの間に必要な維持管理費(積立金)等を十分に確保した上で,採算のとれる事業計画となっており,債権者らの批判はあたらない。
4 保全の必要性
(1) 債権者らの主張
本件処分場が建設され,使用,操業が開始されると,本件予定地に有害物質を含む産業廃棄物が次々と埋め立てられることになるが,一度埋め立てられた産業廃棄物を後日除去することは,経済的・物理的におよそ不可能である上,有害物質が流出した場合には,生命,身体(健康)に深刻な被害を及ぼすことになるが,これを後日において回復することもまた困難であるから,本案訴訟による審理・判断を待つ時間的余裕はない。
よって,債権者らには,有害物質を含んだ産業廃棄物の本件予定地への持ち込みの原因となる本件処分場の建設,使用及び操業自体を,事前に差し止める必要性がある。
(2) 債務者の主張
本件処分場の建設すらなされていない現時点において,処分場の建設,使用及び操業を差し止めなければならないような差し迫った必要性はない。
第3当裁判所の判断
1 差止要件と立証責任について
(1) 高度に発達した現代社会においては,社会生活を営む上で産業廃棄物が発生することは避けられず,産業廃棄物の減量化や再資源化の取り組みが進められているとはいえ,産業廃棄物を全く出さない社会を構築するには相当の歳月を要するのであって,現時点においては,本件処分場のような埋立処理施設の社会的必要性を認めざるを得ず,また,廃棄物処理事業の必要性についても,これを認めざるを得ない。
他方,埋立処理施設が建設され,その操業が開始された場合には,持ち込まれた産業廃棄物は地中深くにとどまることになるから,廃棄物に含まれる有害物質が流出しない措置が講じられない限り,環境汚染を招き,周辺地域を生活圏とする住民らに対し健康被害を及ぼし続ける事態となることが,埋立処理施設の宿命である。そのため,埋立処理施設の操業等が開始された後の事後的禁止措置では,人の生命・身体(健康)という最も尊重すべき権利を害する原因となる環境汚染を阻止することができない合理的根拠が認められる場合には,周辺住民らは,その生命,身体(健康)を害されない権利としての人格権に基づき,埋立処理施設の建設,操業自体を事前に差し止めることができるものと解するのが相当である。
(2) ところで,本件申立ては,債権者らの生命,身体(健康)を害される具体的危険性があることを理由として,本件処分場の建設,操業等の差止めを求めるものであるから,本件処分場の建設,操業等によって債権者らの生命,身体(健康)が害される具体的危険性があることについては,その合理的根拠をもって,債権者らにおいて主張,立証するべきであり,環境汚染による健康被害を理由とする事前差止めの事案においては,ア 人体に有害な物質を特定した上,同物質が処分場に搬入されること,イ 搬入された有害物質が処分場から外部に流出又は拡散すること,ウ 流出・拡散した場合には,有害物質が債権者らの生活圏に達し,債権者らの体内に吸収される状態が発生することを主張・立証しなければならないのを原則とする。
しかしながら,本件処分場については,設置者である債務者がその施設の設計内容,構造等を最もよく知り,多くの技術的・専門的資料を手中にしているのに対し,債権者らは周辺住民に過ぎず,施設の設計・施工及び管理等の具体的内容を詳細に知り得る立場にはないこと,しかも,一度搬入された有害物質が流出した場合には,人の生命・健康という最も尊重すべき権利に対する,半永久的,かつ,継続的侵害行為となること,一度生じた環境汚染を除去することは極めて困難であること等の事情に鑑みれば,当事者間の実質的な公平を図るためには,環境汚染防止のための措置が専ら施設の構造・内容自体にかかわることとなる河川汚染,地下水汚染を理由とする主張に関しては,債権者らにおいて,上記ア及びウの事実,すなわち,債務者が有害物質を本件処分場内に持ち込む可能性があること,万一有害物質が処分場外に流出した場合には,有害物質が債権者らの元に到達し,体内に摂取される具体的可能性があることを立証した場合には,債務者において,有害物質が本件処分場外には流出しないこと,すなわち,本件処分場の安全性を高度の蓋然性をもって立証すべきであり,これが尽くされない限り,本件申立てを許容するのを相当とする。
(3) 本件では,債権者らは健康被害を生じる原因として,交通事故の危険のほか,大気,河川及び地下水等の環境汚染を主張しているので,上記に従い,これらについて,順次検討する。
2 交通事故の危険を主張する債権者らについて(Eグループの債権者ら関係)
Eグループの債権者らは,本件処分場の建設工事,埋立事業が開始された場合,頻繁に工事車両や運搬車両が往来することになり,交通事情が悪化する旨主張するところ,前記第2の1(2)説示のとおり,本件処分場の事業計画上,産業廃棄物の運搬だけでも,本件処分場への出入りは10トン車両で1日あたり48台の往復(年間9600台)が予定されていることが一応認められるから,本件処分場の建設,操業等により,本件予定地の周辺道路の交通量が増加するであろうことは容易に予測することができる。しかし,交通量の増加という交通事情の変化に対しては,交通整理員を配置するとか,債務者が協力を予定しているという道路の整備拡張等の措置を講じるなどの方法によって対処することが可能というべきであり,本件処分場の建設,操業等自体を事前に禁止しなければならないほどの回復困難な損害が発生することを窺わせるべき特段の事情は疎明されていないというほかない。また,そもそも,同債権者らが交通事故の危険に曝されると主張する道路についての具体的な特定はなされておらず,その具体的状況及び同債権者らの当該道路の利用状況等を疎明すべき資料はなく不明であるから,交通量の増加によって交通事故の危険に曝されることを前提とする同債権者らの主張は,その余の点について検討するまでもなく,是認することができない。
3 有害物質の特定及び本件処分場への搬入可能性について
本件処分場に受入予定の産業廃棄物には,前記第2の1(5)説示のとおり人体に有害な物質が含まれる可能性が高く,本件処分場が操業を開始すると,産業廃棄物とともに上記有害物質が本件処分場内に搬入されることになることは,容易く認めることができる。
なお,債権者らは,本件処分場に搬入される産業廃棄物には,上記以外にも未知の物質を含め,多種多様の有害物質が混入する可能性がある旨主張するが,特定されていない物質についての有害性を論じることはできないし,債権者が有害であると主張する前記第2の1(5)に説示した物質以外のものについては,人体に有害であることの疎明は不十分である(以下においては,上記有害性を認めた物質をもって,「有害物質」という。)。
4 大気汚染による健康被害を主張する債権者らについて(Eグループの債権者ら関係)
(1) 本件予定地周辺の大気が有害物質によって汚染された場合には,有害物質が風に運ばれるなどして債権者らの生活圏に到達し,債権者らの健康被害を引き起こす可能性を否定することはできない。
ところで,債権者らは,大気の具体的な汚染物質としてダイオキシン類を挙げているところ,審尋の全趣旨(債務者の説明)によると,焼却煤その他の産業廃棄物については,予め加湿するか又は固化した上で,有蓋車両を使用するか,又は荷台をシートで覆って運搬し,運搬中の産業廃棄物の落下,飛散を防止する対策を講じること,加湿するにあたっても,水分が過剰となって汚水が漏水しない配慮もすること,埋立作業中には適宜散水して産業廃棄物の乾燥を防止すること(この散水に処理水を用いることにより,蒸発処理のコストを削減することができる。),産業廃棄物を場内に投入した当日には覆土すること等の対策をとる計画であることが一応認められる。
また,前記第2の1(3)(4)に説示したとおり,埋立作業を終えたブロックについては,その都度中間覆土の上に雨水遮水シートをかけること,埋立区域全体の埋立完了後は,厚さ1.5メートル以上の最終覆土を施した上で,樹木を植栽する計画であること,埋立完了後も処分場閉鎖までの維持管理期間中(少なくとも10年間)は場内の点検が続けられるから,植栽された樹木等が安定するまでの間に覆土が剥がれ,産業廃棄物が露出するようなことがあれば,点検時に発見して再覆土等の措置をとることができるのであって,以上の事実を総合すれば,埋立完了後に焼却煤が大気中に飛び散る可能性は極めて乏しいものというべきである。
なお,大気汚染の原因が,主として産業廃棄物の搬入及び埋立作業の方法に由来するものである以上,搬入及び埋立作業を監視し,債務者に対し,これら作業,方法等の改善を求めていくことも可能であり,本件処分場の建設,操業等自体を現時点において禁止しなければならないほどの深刻な損害の発生を疎明する資料もない。
(2) 債権者らは,ダイオキシン類が常温で気化する旨を強調するが,これを裏付けるべき疎明資料はなく,かえって,審尋の全趣旨によると,ダイオキシンの融点は150℃,沸点はそれ以上の400℃であることが一応認められるのであって,ダイオキシン類が産業廃棄物の搬入,埋立等の過程において,気体となって大気に混合する可能性はないものというべきである。ちなみに,ダイオキシン類が多量に含まれる飛煤については,特別管理処分場への廃棄が法定されており,本件処分場の受入品目から除外されているのであるから,飛煤が本件処分場に持ち込まれる可能性は乏しいものと推測できる。
(3) 以上によれば,大気汚染が生じることを理由とするEグループの債権者らの主張は,是認することができない。
なお,債権者らは,処分場施設の建設工事中にも大気汚染が生じる旨主張するようであるが,一件記録を精査しても,その具体的根拠を見出すことはできないから,理由がない。
(4) Eグループの債権者らは,これまで,多数の希少種が生息する忍川の水質環境という豊かな自然を生活の一部として享受してきたのであり,忍川の水質を汚染されない権利としての環境権を有しているから,忍川が汚染されることによって環境権を侵害されるとも主張するのであるが,Cグループの債権者らが忍川の河川水を農業用水として使用しているというほかには,各債権者らと忍川との日常的な関わり合いについては,何ら具体的な主張及び疎明はないから,上記主張も理由がない。
5 河川汚染による健康被害を主張する債権者らについて(C,Dグループの債権者ら関係)
(1) Cグループの債権者らについて
Cグループの債権者らは,有害物質により汚染された河川水を農業用水として利用した農作物を食することにより,健康被害を受ける旨主張する。しかし,汚染された河川水を農業用水として利用することにより,農作物にいかなる有害物質が取り込まれ,どのような影響を及ぼすかについての具体的主張及び疎明はいずれもないから,同債権者らの主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(2) Dグループの債権者らについて
Dグループの債権者らは,将来,有害物質により汚染された忍川を水道水源とする水道水の供給を受けることにより,健康被害を受ける旨主張する。しかし,提出された疎明資料を検討しても,忍川が将来水道水源となる具体的可能性を裏付ける根拠を見出すことはできないから,同債権者らの主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
6 地下水汚染による健康被害を主張する債権者らについて(A,Bグループの債権者ら関係)
(1) Bグループの債権者らについて
Bグループの債権者らは,有害物質により汚染された地下水を農業用水として利用した農作物を食することにより,健康被害を受ける旨主張する。しかし,汚染された地下水を農業用水として利用することにより,農作物にどのような有害物質が取り込まれ,どのような影響を及ぼすかについての具体的主張及び疎明はいずれもないから,同債権者らの主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(2) Aグループの債権者らについて
ア 被害発生の可能性(有害物質が債権者らの使用する井戸に到達する可能性)
疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件予定地は,飯岡台地(周囲を急崖に囲まれ,台地面の高度は全体として南側から北西側に傾いている。)と呼ばれる洪積台地が忍川によって開析された沖積低地に向かう谷の部分に該当し,その西側にAグループ債権者らの多くが居住する松ヶ谷地区が所在すること,松ヶ谷地区の地下水は,本件処分場方向の台地中核部から供給されていることが一応認められる。
債務者は,本件処分場西側450メートル地点及び300メートル地点において行ったボーリング調査の資料を基礎として,後者の水位が前者の水位より低いこと,債権者らも認めるように宙水が存在すること等を主たる根拠として,松ヶ谷地区と本件予定地の間には地下水の分水嶺が存在する旨主張するのであるが,債務者の主張を前提とした場合,松ヶ谷地区に湧く地下水の供給源は分水嶺以西の約300ないし400メートル程度の狭い帯状地域に降った雨に限定されることになるが,疎明資料から認められる松ヶ谷地区の豊富な井戸水及び崖端にみられる湧水の状況に照らせば,債務者が主張するような分水嶺の存在を認めることは困難というべきであり,他に上記認定を左右する疎明資料はない。
従って,Aグループ債権者らのうち,松ヶ谷地区に居住し,かつ,地下水を飲用していることが疎明資料によって一応認められる債権者ら61名(別紙1「債権者目録」備考欄○印記載の者)については,本件処分場から有害物質が流出した場合には,これが到達し,有害物質が吸収される具体的可能性があるというべきであり,上記以外の債権者らの主張は,有害物質が吸収される具体的可能性についての疎明がないから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
イ 本件処分場の安全性(地下水汚染対策について)
本件処分場の浸出水が場外に流出した場合には,地下水を飲用等に使用している上記61名の債権者らの生命,身体(健康)に深刻な影響を与えることになるから,債務者においては,前記第3の1(2)に説示したとおり,有害物質が処分場の外部に流出しないこと,すなわち,本件処分場が安全であることについて,高度な蓋然性をもって立証する必要がある。
そして,本件処分場施設の概要は,前記第2の1(3)説示のとおりであり,本件処分場施設が計画どおり建設され,埋立区域を遮水しつつ,浸出水を集めて浄化処理し,これを放流せずに全量蒸発処理するという施設が当初予定どおりに機能すれば,有害物質が処分場外に流出する具体的可能性はないものということができる。したがって,本件の最大の争点は,本件処分場施設が計画どおり建設され,予定どおり機能を発揮するか否かということになるところ,双方当事者が,前記第2の3に摘示したとおり,本件処分場施設を構成する諸設備の安全性及び信頼性,施設の維持管理体制や埋立事業等における安全管理体制等について主張を展開しているので,順次検討を加える。
(ア)遮水工の安全性
a 粘性土ライナーについて
(a)本件処分場で遮水工として設置する粘性土ライナーについては,現地のDs2層(難透水層)を母材とし,ベントナイトを添加したものを使用することが予定されているところ,疎明資料(乙56)及び審尋の全趣旨によると,現設計の透水係数1×10(-6乗)cm/secの性能を充たすものを製作することは可能であることが一応認められる。
(b)債権者らは,粘性土ライナーは地下水によって浸食されて流出し,遮水性を維持できない旨主張するが,前記第2の1(3)イに説示したとおり,埋立区域を包み込むように地下水集排水管が枝状に敷設される計画であり,地下水を処分場中央の集水塔へ集め,埋立期間中はもちろん,埋立完了後も処分場閉鎖までの間は排水ポンプによる排水管理を続けて地下水位を強制的に低下させ,地下水が粘性土ライナーに直接接触させないようにすることによって,浸食を防止することができることが一応認められる。そして,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,粘性土ライナーを埋立区域の底部及び法面部に敷設する際には,地下水集排水管の敷設工事後に地下水位を計測し,かつ,湧水及び地下水が処理できることを目視確認した上で(不完全な場合には,地下水排水工の設計を見直して,施工し直す。),粘性土ライナーを施工する手順をとる予定であること,毎分0.8立方メートルの処理能力を有する排水ポンプ2台を設置し,交互に運転する予定が組まれており,地下水量の予測が毎分0.5立方メートル程度であることが一応認められることに鑑みても,排水能力不足等の問題を窺わせる事情もなく,これらの事実からすると,債権者らの主張する事態を想定することは困難である。
債権者らは,パイピング現象によって粘性土ライナーが損傷する旨主張するが,その趣旨は,地中に水が通りやすい鬆(穴)が存在しており,その鬆を水が勢いよく流れる現象を指称するものと解されるから,上述のとおり,地下水が粘性土ライナーと接触しないよう地下水位を強制的に下げる措置をとることによって,防止することができるというべきである。
排水ポンプが故障するとの懸念については,予備ポンプ,予備電源を設置することによって対応可能であり,審尋の全趣旨によれば,本件処分場においてもこれら設備の設置が計画されていることが一応認められる。
(c)処分場閉鎖後,排水ポンプが停止された場合には,地下水位が上昇することになるから,粘性土ライナーが地下水と接触する事態も想定されるが,本件処分場において使用される粘性土ライナーは,前述のとおり,Ds2層(難透水層)を母材とするベントナイト混合土であり,かかる混合土については,地下水による浸食量は1万年でベントナイト混合土の厚さ2メートルの内2センチメートル程度に止まると算定されるとの報告があることが疎明資料により一応認められるのであって,粘性土ライナーが地下水により浸食されて遮水性を失う可能性は極めて低いというべきである。なお,債権者らは,排水ポンプの停止による地下水の上昇(水圧)によって遮水工が破壊されるとも主張するのであるが,埋立完了時点では遮水工内の圧力も増大しているのであるから,上記主張のような事態が生じる具体的可能性は想定し難いというべきである。
(d)債権者らは,粘性土ライナーに亀裂を生じた場合には遮水性が損なわれる旨主張するが,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,ベントナイト混合土については,変形することがあったとしても,ベントナイトが有する膨潤性自己修復作用により遮水性が維持されることが確認された旨の実験報告があることが一応認められ,遮水性が損なわれることはないというべきである。
(e)債権者らは,浸出水が酸又はアルカリであると,粘性土ライナーの成分が破壊される旨強調するが,前述のとおり,粘性土ライナーは遮水工の最下層に敷設されるのであって,浸出水に直接接触する構造ではないし,遮水シートが2枚とも破損した事態を想定しても,本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物は前記第2の1(2)に説示したとおりであり,強酸,強アルカリ,有機溶剤等の液状の産業廃棄物を本件処分場に受け入れることはそもそも許されず,後記(ウ)bに説示するとおり受入審査等を実施することによって,液状の産業廃棄物が持ち込まれることを防止することができるから,粘性土ライナーが酸,アルカリの影響を受けることはないというべきである。
なお,疎明資料によると,全国7カ所の最終処分場の事例においては,浸出水の水質が強酸(pH2以下)や強アルカリ(pH12.5以上)を示したデータは見当たらない。
b 遮水シートについて
(a)債権者らは,紫外線,オゾン,温度上昇等により遮水シートが劣化し,遮水機能を喪失する旨主張する。
しかし,疎明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び加硫ゴム系シート共に,約24年間に相当する4800時間までにおいては大きな物性変化を起こさない耐候性紫外線劣化性能があることが促進暴露試験によって裏付けられいること,本件遮水工の構造は前記第2の1(3)に説示したとおりであり,上層の遮水シート(高密度ポリエチレンシート:HDPEシート)の上には保護層(法面部は遮光性短繊維不織布〔遮光率95パーセント以上〕,底盤部は500ミリメートルの保護覆土)が敷設され,下層の遮水シート(加硫ゴム系シート:EPDMシート)については,上層のHDPEシート及びこれと下層のEPDMシートとの間に敷設される保護層(法面は短繊維不織布,底盤部は300ミリメートルの砂層)によって更に紫外線の影響が低減されることが認められるのであるから,敷設工事中に一時的に遮水シートが陽光に曝される可能性があることを考慮しても,紫外線が原因で遮水シートが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
債権者らは,温度上昇により遮水シートの強度が失われるとして,気温の上昇や産業廃棄物が処分場内で化学反応を起こして発熱することを懸念する。しかし,気温の上昇は摂氏40度程度が上限であること,本件処分場に埋め立てられる産業廃棄物は,焼却煤等の無機物が主であって,後述するとおり受入審査等の搬入管理を行うことにより,熱源となるような生ゴミ及び有機汚泥等の許可品目外の産業廃棄物の持込みを防止することができること,疎明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び加硫ゴム系シートについては,熱安定性試験(試験片を80℃に保持された恒温槽に240時間静置した後,引張試験を実施)の結果では,規格値80パーセント以上の性能を保持したことが確認されたことが一応認められること等をも併せ考慮すると,温度上昇により遮水シートが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
また,債権者らは,オゾンによる劣化の可能性をも指摘するが,遮水シートが上記手順で施工され,長時間外気に曝される可能性がないことに照らせば,そのような可能性は否定せざるを得ない。
(b)債権者らは,pH4を下回る酸性雨が降ることはめずらしくなく,これによりシートが硬化して引っ張り強度,伸び,剪断強度を失って破損し易くなる旨主張する。しかし,本件予定地周辺において,どの程度の酸性雨がどの程度の頻度で降るのかについての具体的な主張はないところ,疎明資料によると,高密度ポリエチレンシート及び加硫ゴム系シートについては,耐薬品性(酸)試験(試験片をpH3の酸試験液に浸漬させ,240時間静置した後,引張試験を実施)の結果,規格値80パーセント以上の性能を保持したことが確認されたことが一応認められる上,前記第2の1(3)及び後記c(a)に説示するとおり,遮水工の動水勾配及び集排水管によって,浸出水は速やかに排出される構造であることからすると,遮水シートが酸性雨によって破損する可能性は極めて低いというべきである。
なお,債権者らは,様々な物質により遮水シートが溶解するとか,微生物により生物分解される等とも主張するが,具体的な物質なり生物の特定もなされていない以上,そのような可能性を論じることはできないというべきである。
(c)遮水シートは,遮水工設置工事中や埋立作業中の重機や産業廃棄物の接触により損傷する可能性があるところ,審尋の全趣旨によると,敷設工事に際しては,下地の突起物は除去する予定である上,遮水シートの設置作業中の事故については,シートに作業機械等を載せないこと,慎重に作業すること等の施工管理を徹底することによって防止できること,埋立作業中の破損事故についても,後記(ウ)bに説示するとおり受入審査等を徹底して行うことにより,廃プラスチック及び金属くず等の産業廃棄物は小さく破砕したものに限定することができるから,遮水シートの上部に設置される保護層(法面部では保護不織布,底盤部では50センチメートルの砂層)を突き抜けるような長めの突起物が混入するとは想定し難いこと,車両の走行による破損の可能性に対しては,車両の走行の際に,法面部では保護布の上に古畳を,底盤部では50センチメートルの保護砂層の上に更に鉄板を敷くことにより荷重を分散させるという防止策をとることが計画されている。
また,遮水シートがカラス等の動物や昆虫類等によって損傷される旨主張するが,前記(a)に説示したとおり,底盤部には50センチメートルの保護砂層が,法面部には保護不織布が設けられることからすると,動物による損傷の可能性は低いし,仮にそのような事態が生じたとしても,敷設作業は,作業員が目視しながら,手作業で行うことが予定されているから,表面部を日常的に点検することにより容易に発見し,修復することができる。土中に生息するモグラ等の動物や植物の根による損傷の懸念についても,遮水工の設置にあたっては,前記第2の1(3)説示のとおり,地盤を約10メートル程度掘削するから表土は除去された状態になる上,埋立区域全体を囲むコンクリート製遮水壁が地下15メートル以上埋め込まれるのであるから,遮水工の周囲に遮水シートを破損させるような動物や昆虫類等が生息したり,植物の根によって損傷を受けるような事態は想定し難いというべきである。
(d)債権者らは,遮水工支持地盤の強度不足により,不等沈下が起こり,遮水シートに過剰な負担を与え,遮水シートの引き裂き,接合部の剥離等の原因となるとも主張する。
疎明資料(によると,本件予定地は前記6(2)に説示したとおり,忍川によって開析された谷の部分にあたり,付近一帯の地質は,第3紀中新世から鮮新世にかけて堆積した三浦層群を基盤とし,上位には第4紀洪積世に堆積した上総層群,成田層群が分布し,表層には関東ローム層や段丘堆積物等が分布すること,開析谷低地においては開析作用により関東ローム層や段丘層,成田層上部が欠層となり,これにかわって第4紀沖積世に堆積した沖積層が分布すること,沖積層には,一部軟弱な腐食土層(Ap層)がみられること,その下層には,洪積砂質土層(Ds1層,Ds2層)が厚く分布していること,本件処分場建設工事の際には谷底の部分を更に10メートル程度掘削し,上記沖積層を除去する計画であること,これにより,遮水工の支持地盤はDs2層となり,法面部はDs1層に囲まれることが見込まれること,以上の事実が一応認められる。
そして,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,債務者が実施した孔内水平載荷試験(ボーリング孔内載荷試験-掘削前に地盤の支持力を推定する試験)の結果によると,本件遮水工の支持地盤となる底部計画高さ(標高27メートル)付近に対応するDs2層における地盤強度は,降伏圧が112.5t/m2を示しており,埋立高75メートルの産業廃棄物の加重に耐えられる計算になること,本件処分場埋立完了時における荷重をかけた場合の沈下量は0.14ミリメートルと推定されるところ,本件処分場における埋立高は25メートルとなる計画であり,限界加重の3分の1程度に止まる見込みであることが一応認められる。さらに,疎明資料によると,掘削後床付け完了時点で,千葉県立会いの下で平板載荷試験(地盤に設置した円状の鉄板に荷重を加え地盤の沈下量を測定するという作業を,荷重を増やしながら繰り返し行い,そのデータから地盤の支持力を算定する試験)を実施し,地盤強度及び沈下量を直接測定して確認する予定であること,平板載荷試験の結果,孔内水平載荷試験による予測に反し,強度不足等の問題があることが確認されれば,良質土に置き換える等の補強工事を行い,必要な強度及び連続性を確保した支持地盤を構築することが可能であることが一応認められるのであって,上記の事実を総合すると,遮水工の支持地盤の安定性については立証されたものというべきであり,遮水シートの破損を引き起こすほどの不等沈下が起きる可能性は極めて低いといわざるを得ない。また,Ds1層に囲まれる法面部の安定性についても,疎明資料により一応認めることができる。
(e)疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場では,遮水シートの接合は熱溶着接合施工により行うこと,溶着部については全箇所負圧試験を行って溶着状況を検査することが予定されているほか,遮水シートを貫通する集水管との接合部分には工場加工の一体成型品(シルクハットの上部が開口したようなシート)を使用すること,遮水シートとコンクリート,遮水シートと貫通管との接合には接着剤及び固定金具を用いること,遮水シートと岩盤との接合は処分場で行わないこと等,接合部分の弱点となるような特殊箇所についての対応策も計画されていること,以上の事実が一応認められ,かかる対策を実施することによって遮水シートの接合不良をなくし,剥離事故を防止できるというべきである。
(f)なお,債権者らは,実験報告を示す書面をもとに,遮水シートが化学物質を透過する旨主張するようであるが,同書面においても,本件処分場で使用予定のHDPEシートとEPDMシートの組み合わせにおいて双方を透過する化学物質はないことが示されている上,化学物質が遮水シートを透過するには,化学物質が溶け込んだ浸出水の圧力が長時間シートにかかることを前提条件(実験の設定条件は,シートの片側が真空である。)としているところ,本件処分場においては,浸出水が長時間処分場内部に貯留されることがないように設計されていることは前記(b)に説示したとおりであって,上記のような前提条件が充たされる状態は想定し難く,他に,化学物質がHDPEシート又はEPDMシートを透過する可能性を示唆するような疎明資料もない。なお,ダイオキシン類がHDPEシート又はEPDMシートを透過するとの債権者らの主張についても,その具体的根拠は不明である。
c 漏水検知システムについて
(a)債権者らは,漏水検知システムが作動した時点では,既に浸出水が処分場外に流出していることになるから,地下水汚染の防止には効果がない旨主張する。
しかし,遮水工の構造は,別紙3「本件処分場の概要」5(2)のとおりであって(別添図面⑧参照),浸出水が処分場外に流出するためには,浸出水が上層遮水シート破損部からシート間にある保護層に流入し,その後下層遮水シート破損部に到達し,更に粘性土ライナーを通過するという経過を辿らなければならないところ,各遮水シートの上層にある保護層(底盤部は砂層,法面部は不織布)は透水性が高いため,遮水シート双方に破損が生じた場合,浸出水は,上層のHDPEシート破損部からシート間にある保護層に流入することになるが,下層のEPDMシートの破損部に到達した浸出水は,粘性土ライナーへは浸透せず,はるかに透水性の高い保護層を動水勾配に沿って流れ,底盤に敷設された遮水シート集水管へと集水されると考えられる上,集排水管及び遮水工の勾配により速やかに排出されることから,粘性土ライナーを通過する圧力が働く可能性は低く,双方の遮水シートが近接する場所において同時に破損した場合を想定しても,浸出水が直ちに外部に漏れ出すことはないと推測することができる。
そして,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件漏水検知システムは,上層の遮水シートの上側及び下層の遮水シートの下側のそれぞれに電線源電極線を張り巡らせるとともに,双方のシートの間に抵抗線(リード線)を配する構造となっており,電流源の電力端子(線電極)と抵抗線が電気的に短絡したときに抵抗線の両端に発生する電圧が短絡位置から測定端までの距離に比例する性質及び遮水シートの絶縁性を利用して,上記のとおりシートを挟むような形で配された電線源電極線と抵抗線がセンサーとなって,絶縁体である遮水シートの破孔等による漏電を感知し,線方向の短絡位置を電気抵抗によって直接検出するシステム構成であること,複数の電圧測定箇所のデータをコンピュータ解析することによって,上下いずれのシートのどの部分が破損したかを特定することができること,本件遮水工と同様の素材を用いて模擬処分場で行われた実験では,漏水状態を生じさせた場合において,約1.0メートルの精度をもってシートの破損位置を特定することができたこと等の事実が一応認められ,以上のシステム内容に照らすと,広大な範囲の遮水シートを常時リアルタイムで監視することや,目視では発見困難な小さな異常を検出することも可能というべきであるから,本件漏水検知システムは,遮水シートの破損箇所の早期発見に有効なシステムであり,粘性土ライナーの遮水性により外部漏出が防止されている間に速やかに破損個所を補修することと相俟って,浸出水の外部漏出を防止し,地下水汚染を防止する効果があるものと認めることができる。
(b)債権者らは,遮水シートの破損箇所が特定できたとしても,その補修は物理的及び経済的に不可能である旨主張するが,遮水シートの破損が埋立初期段階で発見された場合には,破損箇所も埋立作業も半ばであり浅いのであるから,補修が困難というべき理由はないし,他方,埋立完了後に破損が発見された場合などで,破損箇所が深い位置にある場合についても,疎明資料によると,下水道工事で一般的に使用されているライナープレート工法を用いて埋立区域を掘削することが技術的に可能であり,かつ,後記ウ(ア)に説示するとおり,この工法を採用し得るだけの費用についても,事業計画上確保されている(処分場閉鎖前稼働中については年間1400万円の予備費による。閉鎖後については後述の維持管理積立金による。)ことが一応認められるから,補修は実現可能であると判断することができる。
漏水検知システムが導線の腐食等により故障する事態があり得ることは否定できないが,遮水シートの破損を検知する原理が上記のとおりであり,電極線及び抵抗線が張り巡らされる状況となることに照らすと,一部の配線に支障が生じても,他の線により補完することができるし,抵抗線の支障については,新たな抵抗線を突き入れる方法により補完することも可能である。
なお,債権者らは,漏水検知システムにより遮水シートの破損が検知されたとしても,これを早期に修復をせずに放置される事態が生じる旨懸念するようであるが,このような事態は,後記(ウ)に説示する安全管理を徹底することによって防止することが可能である。
d まとめ
以上のとおりであって,遮水工に用いられる粘性土ライナー,遮水シート自体の品質,耐久性については格別の問題はなく,十分性能的に信頼できること,遮水工の施工にあたっても,不等沈下の障害を除去するため支持地盤の確認調査等が予定されていること,粘性土ライナーの機能を保護するために地下水の集排水管を埋立区域の周囲に張り巡らし,地下水による浸食を防止すること,粘性土ライナーの乾燥防止策が講じられること,遮水シートの敷設作業も,粘性土ライナーを敷き詰めた後に手作業で慎重に実施すること,シートの溶着箇所について不具合が生じていないかを全箇所負圧検査をして確認すること等が予定されており,更に,各層毎に千葉県による確認検査を受けることが設置許可の条件として義務づけられているため,その適切な施工についての担保があるものといえること,埋立作業においても,搬入車両,埋立作業用重機等との接触によって遮水シートが破損しないよう十分な注意を払う一方,万一遮水シートが破損した場合であっても,破損箇所を早期に探知できるよう漏水検知システムが構築され,破損箇所を迅速に修復できる態勢がとられる予定であること等が認められるほか,遮水工の構造についても,浸出水が破損箇所に滞留しないよう遮水工自体に緩やかな勾配を設けるほか遮水シートと透水性の高い保護層を組み合わせるなどの工夫がされており,埋立区域に枝状に敷設された集排水管により速やかに一箇所に導く構造を採用するなど,遮水部材については十分信頼できる上,同部材の機能低下,破損事故の発生を防止するような配慮が予定されているのみならず,破損した場合の早期発見,修復を可能とする措置が構築されていること等の諸事情からすると,安全性に対しては,二重,三重の対策が講じられているとみることができ,遮水工の信頼性は極めて高いものと評価することができる。
(イ)水処理システムの安全性
a 浸出水発生量の抑制について
埋立区域の外周部に,地上高さ1メートル以上の連続遮水壁(鉄筋コンクリート製鉛直壁)が設置されるほか,遮水壁を囲むように場外U字側溝(雨水排水用管渠)が設けられること,埋立区域の法面部には,階段状の小段が形成され,各小段ごとに雨水排水用の場内U字側溝が設けられること,これにより,埋立区域内への直接降雨以外の水は埋立区域に流入せず,法面部への降雨も産業廃棄物に接触することなく場内U字側溝により防災調整池へと誘導されること,埋立作業が5000平方メートル以下のブロックに分割(土堰堤によって埋立完了及び着手区画と埋立未着手区画を分離する。)して,1ブロックずつ順次埋め立てる方式を採用し,埋立作業未着手のブロック部分への降雨は産業廃棄物に接触させずに浸出水集排水管(雨水切替管)によって雨水排水室を経て防災調整池へと誘導すること,埋立が完了したブロックは雨水遮水シートで上部を覆い,このブロックへの直接降雨を側方へと流し,法面部の小段に設けられた側溝によって産業廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導すること等が予定されていることは既に認定したとおりであり,これによって,浸出水の発生面積を,現に埋立作業中の1ブロック(5000平方メートル以下)部分に限定することができるというのであり,以上の計画を前提とした本件処分場における浸出水の発生見込量は,1日平均13.2立方メートル(Q=〔1/1000〕×I×C×A)。Q:浸出水発生量〔立方メートル/日〕,A:産業廃棄物が雨水と接触する面積〔m2〕,C:浸出係数,I:降雨量〔mm/日〕。浸出水発生量の算定にあたっては,1976年から1995年までの銚子気象台の降水量データ及び厚生省水道環境部監修「廃棄物最終処分場指針解説」P125表Ⅱ-31中の東京の月別浸出係数を採用。)となることが一応認められる。
債権者らは,上記側溝(雨水排水用管渠)の設計において前提とされた降水量の設定に誤りがあるから,豪雨の際には側溝が溢れ,浸出水発生量の抑制は計画どおりにはならない旨主張するが,1887年から2000年までの114年間の銚子市の降水量データによると,1時間あたりの最大降水量は1947年8月28日の140.0ミリメートルであって,埋立区域内法面部の小段側溝の排水能力は毎時180.5ミリメートルであることから,排水能力は十分であるといえる。
また,審尋の全趣旨によれば,場外側溝及び埋立完了時の場内側溝の排水能力は毎時104.0ミリメートルのところ,これを超える降雨は上記データによれば過去109年間に3回あり,希有な豪雨の際に側溝が溢れる可能性があることは否定できないが,上記データによる1日あたりの最大降水量が311.4ミリメートルであることを考慮すれば,側溝が溢れる(すなわち,浸出水の発生面積を現に埋立作業中の小分けブロックに限定できない事態となる)のは,109年間に3回程度の確率で起こりうる極めて希なことであり,起きたとしても一時的な現象に止まると予測されるから,浸出水発生量の抑制を目的とする設備としては,その排水能力は十分であるというべきである。なお,場外U字側溝(場外雨水排水管渠)については,仮にこれが溢れたとしても,高さ1メートル以上の外周遮水壁があることから,処分場周辺が冠水して,埋立区域外への降雨が埋立区域内に流入してくる事態はおよそ想定し難い。
以上のとおりであって,本件処分場施設の構造からすると,浸出水発生量の抑制措置は十分に効果を発揮するものであると認めることができる。
b 浸出水処理施設について
債権者らは,本件水処理施設では,有害物質が完全には除去できない旨主張する。
しかし,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場において採用予定の水処理設備は,管理型産業廃棄物最終処分場における浸出水処理設備の納入実績を有するZ株式会社が設計・施工するシステムであること,本件処分場の操業前に水処理設備の試運転調整を行い,後記(ウ)において説示するとおり,千葉県知事による使用前検査においてその性能を確認することが予定されていること,操業開始後の水処理設備の運転管理については,同社の関連会社がX株式会社とともに担当する計画であること,前記第2の1(3)に説示したとおり,処理水の水質については継続的に確認し,その結果を常時公開できるようにすることが本件処分場の設置許可の条件となっており,債務者がこれを遵守する義務があること等に照らすと,放流基準水質(廃掃法15条の2第1項1号並びに一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令参照)を充たせないような性能のまま,水処理施設が稼働する具体的可能性は極めて低いというべきである。
そもそも,本件処分場では処理水を河川に放流せず,全量を自然蒸発,人工蒸発する計画となっており,後記dに説示するとおり,処理水貯留層の容量も十分といえるから,処理水の蒸発処理が追いつかずに処理水が河川に放流される可能性は極めて低いというべきであって,処理水の水質を問題にする債権者らの主張は前提を欠き,採用できない。
c 蒸発処理設備について
疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場において設置が予定されている蒸発処理設備は,水処理施設の場合と同様にZ株式会社が設計・施工を担当する自然エネルギーによる蒸発散装置であり,直径100ミリメートル(送水管)及び直径300ミリメートル(送風管)のメッシュ状のパイプを1.5メートル間隔で配置し,送風設備4台を備えた蒸発散面積(地表部)を2500平方メートルとする仕様であり,同設備内に雨が降り注ぎ蒸発を要する水量が増加することを防止するため,透光性の自働開閉式屋根を伴うものであること,地表面及び地中管内への送風による蒸発量の合計として,1日あたり年間平均4.5リットル/m2を処理する能力があることが一応認められる。
債権者らは,本件蒸発散装置では,処理水を処理しきれない旨主張するが,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場では,上記蒸発散装置による蒸発処理に加え,計画散水(晴れて日照エネルギー,風力エネルギーの大きい時に埋立対象ブロックへ処理水を散水すること)を行うとともに,1日あたり15トンの蒸発処理能力を有する強制蒸発設備(電力を利用したドライヤー方式)を併設して,上記蒸発散装置による蒸発処理を補完する計画であること,また,後述のとおり,十分な容量を確保した処理水貯留槽が設置されること等が一応認められ,これらの事実に照らすと,蒸発処理が追いつかなくなる可能性は極めて低いというべきである。
また,債権者らは,蒸発散装置が目詰まりして機能しなくなる旨主張するところ,塩類等の付着が予想されなくはないが,かかる付着物は水溶性が高いので水をかけることにより除去することが考えられるほか,保守管理を行うことにより性能を維持することは十分可能というべきであり,蒸発散装置の致命的な問題とはならない。
d 浸出水貯留槽,処理水貯留槽について
審尋の全趣旨によると,本件浸出水処理設備の設計規模算定において用いられた過去20年間(1976年から1995年)の平均降水量1640.5ミリメートルを前提とすると,必要となる最大浸出水調整量は992.8立方メートルとなることが一応認められるところ,その4倍程度にあたる4070立方メートルの貯留槽が本件処分場においては確保されていることは前記第2の1(3)に説示したとおりであるから,上述した浸出水発生量の抑制措置を行う前提で本件処分場における浸出水の発生量を計算すると,1日平均13.2立方メートル,年間平均4818立方メートルとなることに加え,疎明資料により一応認められる過去114年間(1887年から2000年)の銚子市の降水量データ(年間最大降水量2352ミリメートル,日最大降水量311.4ミリメートル等)及び浸出水集排水管の能力(本件直径600ミリメートル)等に照らすと,埋立区域内に浸出水が滞留することはないものというべきであり,また,処理水貯留槽の容量も3990立方メートルが確保されているのであって,上述した蒸発処理の能力及び降水量データと対比した場合,容量は十分なものといえる。
なお,債権者らは,債務者が施設設計の際に採用した浸出係数(浸出係数とは,降雨量の内,覆土や産業廃棄物中の水分が日照や風によって蒸発する量を考慮し,実際に埋立区画に浸透して浸出水となる水量を算定する為の係数であり,降水量を分母とし,降水量から蒸発量を差し引いた量を分子として求められる数値である。)は不当に低く,0.9の数値を使用すべきであって,同数値を基礎とした場合には,本件水処理設備では埋立区域内に浸出水が滞留することになる旨主張する。しかし,疎明資料によると,2000年の東京都における年間降雨量1603.0ミリメートルに対して,蒸発量は911.8ミリメートルであり,降雨量の約56パーセントは自然蒸発することが一応認められること,埋立てにあたっては,容量を有効に利用する意味合いもあるが,空隙の大きい産業廃棄物群には焼却煤を組み合わせるなどして埋め立てることが予定されている上,前記第2の1(3)において説示したとおり,2メートルの産業廃棄物層に対して50センチメートルの中間覆土を繰り返す埋立計画であるから,埋立区域内の透水性が特別高いとはいえないこと,債権者らが主張する上記数値は,北海道旭川市から南は那覇市までの主要23都市の毎月の浸出係数の内最も高いものを月別に採用して1年の平均浸出係数を求めているものであって,安全性に十分配慮して算定するという要請があるとはいえ,日照時間,風速,気温等の気象条件を全く異にしている地点の数値を採用して算定している点において,本件処分場に適用すべき浸出係数としての合理性を見出すことができない。債務者は,東京の数値を採用しているが,日照時間,風速,気温等の気象条件に鑑み,東京における浸出係数が銚子におけるよりも大きくなるといえる点において,安全側に配慮したものといえ,合理的なものと一応認めるべきである。
e まとめ
以上のとおりであって,埋立手順等を含めて計画されている浸出水の発生量の抑制措置は十分に効果を発揮することが認められ,これを前提にすると,本件処分場における浸出水処理設備,蒸発処理設備,浸出水貯留槽及び処理水貯留槽等の能力もかなり余裕をもって設けられているものといえるのであって,本件水処理システムは,本件処分場において発生する浸出水全量の浄化,蒸発処理を可能にしているものというべきであり,その信頼性は高いものと評価できる。
(ウ)施設の施工,事業運営における管理体制について
a 本件処分場施設が計画どおりの性能を発揮するためには,施設の施工,維持管理及び埋立事業の運営管理等がいずれも適切になされることが必要不可欠であるところ,産業廃棄物最終処分場の設置許可を受けた者は,当該許可にかかる施設について都道府県知事の検査を受け,その設置に関する計画に適合していると認められた後でなければ,これを使用してはならない旨法定されており(改正廃掃法15条の2第5項),本件処分場施設についても,債務者が千葉県知事による使用前検査を受ける必要があることは明らかである上,特に,遮水工の施工については,粘性土ライナー,漏水検知システム,二重シート,不織布または保護土層の5層構造の各層の施行毎に千葉県の確認検査を受けること,産業廃棄物の埋め立てにあたっても,覆土厚及び施工高について,千葉県の確認検査を受けること等が本件処分場の設置許可の条件となっていることは,前記第2の1(3)において説示したとおりであって,かかる事実からすると,本件処分場は,計画どおり適正に施工されない限り,操業を開始することができない等という規制を受けているものといえる。
b また,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件処分場の維持,運転管理は,最終処分場技術管理者の資格を有する技術者を長とした組織で行い,運営管理の主たる業務である技術関連業務(計画・調査・設計・施工に関する資料の管理,産業廃棄物搬入管理,埋立作業管理,施設の点検・維持管理,モニタリング等の環境管理,埋立完了後の維持管理,上記の管理に関して必要なデータの計測等を行い,これを整理・保管しておくための情報管理)は,すべて本件処分場の設計及び施工を担当しているX株式会社へ業務委託する予定であること,本件処分場においては,受入基準(営業許可申請時点で決定する。少なくとも,法的に特別管理産業廃棄物に該当する飛煤,pH2以下の強酸及びpH12.5以上の強アルカリを受け入れることがないのはもとより,汚泥等の含水率については,85パーセント以下に脱水したものに限定すること,燃えがら及び可燃性の産業廃棄物〔木くず,紙くず等〕は熱しゃく減量10パーセント以下に焼却したものに限定すること,物理的に遮水工を損傷する可能性のある廃プラスチック及び金属くず等の産業廃棄物は小さく破砕したものに限定すること等が予定されている。)を設ける計画であること,また,産業廃棄物の受入れについても,マニュフェスト制度を採用し,排出事業者からの申告を受けて審査を行い,申告時に産業廃棄物の種類,量,サンプル及び受入基準に適合していることを証明する分析結果(公的機関による証明)を提示させること,継続して受け入れる場合は,排出事業者に上記分析結果を定期的に提出させること,事前検査として,排出事業者に対する書類検査,立入検査を行うほか,搬入管理を徹底すること,すなわち,受入管理職員を4名置き,処分場入口に設置する管理棟受付において,目視検査,展開検査,抜き取り性状検査を行い,事前申告と異なる産業廃棄物が搬入されていないかを確認し,違反の疑いが生じた場合には,当該産業廃棄物の受入れを留保した上で公的機関による産業廃棄物の分析試験を行い,違反が確認されれば,当該産業廃棄物の受入を拒否するとともに,以後は当該排出事業者からの産業廃棄物の受入れを拒否すること,GPS車両運行システムを採用することにより,産業廃棄物の積換えという違反行為を予防する計画であること,搬入された産業廃棄物毎に埋立位置を特定して記録するシステムを採用することにより,後日違反が発覚し産業廃棄物を除去する必要が生じた場合にも対応できるようにすること等,埋立事業に関する運営管理体制をとる計画であること,以上の事実が一応認められ,これによると,遮水工を物理的又は化学的に損傷する可能性のある産業廃棄物の持ち込みを予防することができるというべきである。
また,平成9年6月の法改正により,生活環境の保全上利害を有する者(付近住民)に対する,搬入産業廃棄物の種類,量,浸出水水質試験結果及び地下水水質試験結果等の維持管理情報の開示制度が法定されているところ,本件処分場については,浸出水,処理水,地下水の水質を常時観測し(モニタリング設備として,集水塔及び地下水観測井戸6箇所が設置される計画である。),その結果を常時公開できるようにすることが設置許可の条件となっていることは前記第2の1(2)説示のとおりであって,債務者はこれを遵守する義務があり,遮水工及び水処理システムの状況を第三者が監視する体制も整備されること,埋立作業についても,債務者において,地元住民等の見学を積極的に受け入れる用意がある旨述べていること,後記ウ(ア)に説示するとおり,適正な維持管理を行うに足りる資金的な裏付けもあること,以上の事実を一応認めることができる。
c まとめ
以上のとおりであって,本件処分場については,計画に従った処分場施設の適切な建設,施工が実践され,かつ,施設の適切な維持管理及び埋立事業の適切な運営管理が行われるものとの立証があったというべきである。
(エ)処分場閉鎖後の対策
a キャピラリーバリアー型覆土について
本件処分場においては,埋立区域全ての埋立てが完了した後は,上部を遮水シートで覆うことをせず,最終覆土にキャピラリーバリアー型覆土を施し,地表面に樹木等を植栽する計画であることは前記第2の1(3)において説示したとおりである。ところで,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,キャピラリーバリアー型覆土とは,境界面の間隙水圧が一定数値以下の不飽和領域では「礫よりも砂の方に水が流れる」という性質に基づき,異なる土質材料(粗粒土,細粒土,粘性土)を用いて覆土を構築し,覆土中間層を通じて雨水を排水することにより,遮水性を発揮することを目的とする覆土であり,二,三十パーセント程度の浸出水を発生させる粘性土覆土と比較した場合,その4パーセント程度に浸出水の発生量を抑制できることが実証実験によって裏付けられていること,実際に原子力の廃棄物管理施設等において実用段階にあることが一応認められるのであって,このキャピラリーバリアー型覆土に樹木等の蒸発効果を併用することにより,キャピラリーバリアー型覆土の下層にある産業廃棄物群への雨水の浸入,すなわち浸出水の発生を防止することを目指す上記計画は,その効果を否定する疎明資料も見あたらないから,相応の有効性を有するものと評価することができる。
b 有害物質の安定化について
疎明資料によると,これまで埋立てがされた産業廃棄物処分場における浸出水を測定した結果から,経年変化により,浸出水のpH,BOD,COD,NH4-N等の数値がいずれも基準値以下に減少する傾向が見られとの報告があることが一応認められ,他方,経年変化の観察結果として,浸出水の水質が顕著な悪化傾向を示したことを疎明する資料はない。上記傾向の原因については,重金属類は硫化物や炭酸塩を形成し埋立地内に固定するとの説明,大気からの焼却煤層への炭酸ガス侵入の結果である可能性があるとの説明等がされていることが一応認められ,有害物質が無害化することはないとしても,歳月の経過とともに,産業廃棄物中の有害物質の溶出量が低減する傾向にあることは否定しがたく,本件処分場においても,歳月の経過とともに,浸出水中の有害物質の量が次第に減少し,安定化に向かうものと推測することができる。
そして,最終処分場の設置者は,当該処分場の状況が一定の基準(廃止基準)を充たしていることについて都道府県知事の確認を受けたときに限り,処分場を廃止することができる旨法定されている(廃掃法15条の2の4第3項,同法9条5項)ところ,管理型処分場に関する廃止基準については,平成10年6月16日付総理府・厚生省令(一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の一部改正について。以下「共同命令」という。)により,地下水などの水質部分については,「5 地下水等の水質検査の結果,次のいずれにも該当していないこと。ただし,水質の悪化が認められない場合においてはこの限りではない。 イ 現に地下水質が基準に適合していないこと。ロ 検査結果の傾向に照らし,基準に適合しなくなるおそれがあること。」,「6 保有水等集排水設備により集められた保有水等の水質が,次ぎに掲げる項目・頻度で2年以上にわたり行った水質検査の結果,排水基準等に適合していると認められること。(1) 排水基準等6月に1回以上,(2) BOD,COD,SS3月1回以上」と規定されており,事業者の都合のみでは処分場を閉鎖することができず,上記排水基準を充たさない場合には,その後も浸出水の処理等を含む施設の維持管理が義務づけられること,後述のとおり,埋立完了後処分場閉鎖までの相当期間に必要とされる維持管理費用については,廃掃法に基づく維持管理積立金制度及び埋立完了までに内部留保された資金によってこれを確保でき,かつ,適切に使用されるよう管理できる見通しであり,財政的基盤の裏付けもあること等に照らすと,本件処分場については,浸出水の水質が排水基準を充たさないような状態のまま閉鎖されたり,維持管理費用がないために水処理システムが停止されるような事態が生じる可能性は極めて低い上,排水基準を充たしてもなお,人体への有害性があるものと認めるべき疎明はないから,結局,本件処分場が閉鎖され,水処理システム等の機能が停止される時点においては,埋め立てられた産業廃棄物は十分に安定化していることが見込まれるというべきである。
c まとめ
以上のとおりであって,埋立完了後に浸出水の発生防止を目的とするキャピラリーバリアー型覆土が採用され,樹木等の植栽効果が定着していくことにより,処分場閉鎖までの10年間に浸出水の発生がなくなる状態に向かって,外部流出の可能性は極めて低いものになるものと推測される上,処分場閉鎖の時点においては,本件処分場の浸出水水質は排水基準を充たしていることが予測されるから,処分場閉鎖後においても,本件処分場から人体を害するほどの有害物質が流出することはないとの立証があったものと認めるのが相当であり,将来的な安全性も確保されていると評価することができる。
ウ 債務者の経済的基盤について
(ア)施設の設計,施工,維持管理及び運営管理等がいずれも適切に行われるためには,これを支える資金的な裏付けが必要不可欠であるところ,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,債務者は,現在,本件処分場設置の事業を行っているのみで収益事業には着手しておらず,本件事業計画の遂行過程において,主として工事費及び土地関連費用(本件予定地の買収費用等)の債務合計22億0408万5890円を負担している状況であること,その内訳は,甲相続人に対する債務2億8300万円,V株式会社に対する債務2000万円,乙に対する債務2億円,株式会社Wに対する債務2億円,Y株式会社に対する債務3億4108万5890円,丙に対する債務11億6000万円であること,これに匹敵する積極財産を有していないことが一応認められる。
他方,疎明資料によると,千葉県を含め首都圏では産業廃棄物の排出量に比して最終処分場が不足している現状があること,産業廃棄物の減量化や再資源化が進んでいることを考慮しても,今後も本件処分場のような管理型最終処分場の需要がなくなることはなく,本件処分場については,安定した売上高(収入)が見込まれる社会事情があること,本件処分場における有償による処理容量は63万7480立方メートルであるところ(不法投棄された産業廃棄物を中間処理後に無償で受け入れることを予定している5万5520立方メートルを除いた分),千葉県における管理型処分場の廃棄物処理料金は事業計画当初において想定していたより若干上昇しており,平成13年10月から11月当時において1立方メートルあたり2万円から3万5000円(平均2万7500円)となっていることが一応認められ,上記平均値2万7500円を受入単価とし,インフレ率を1パーセントとして試算すると,総収入は181億9255万2000円に達する(上述の事情に鑑みれば,上記平均値を採用することには合理性がある。)。そして,債務者は,本件事業遂行過程において,次のとおりの各種保険,すなわち,土木工事保険及び請負賠償責任保険のほか,天災・不可抗力による施設の保全や補修のためなど,天災により施設の稼動ができない場合の収入を補填する天災保険・不稼動保険(年間保険料2000万円程度の見込み),営業開始後処分場閉鎖までの間の雨による有害物質の漏出や有害物質汚染による実害発生に対する補償,汚染を浄化するための費用や汚染防止の補修費用について,補償額5億円を限度とする環境保険(埋立完了後は30年間を想定。年間保険料は埋立期間中は1200万円,埋立完了後は300万円から100万円に漸減する見込み。)等に加入して事業資金を保全するとともに,環境事業団積立(廃掃法15条の2の3,8条の5に基づき,最終処分場の設置者が埋立完了後も必要となる維持管理費用を埋立期間中に積み立てるもの。埋立金額は都道府県知事が決定し,積立金の管理は環境事業団が行うため,処分場設置者が事由に処分することはできない仕組みとなっている。)が法律上義務付けられていることから,これによっても埋立完了後処分場閉鎖までの間の維持管理資金(事業計画上8億4000万円を予定)を保全し,更に,平成3年度税制改正により創設された租税優遇措置のある特定災害防止準備金制度を利用して,10年間の埋立期間中に年間3000万円宛て総額3億円を事業準備金名目で積み立て,かつ,事業準備金として総額3億円を開業後の6年間に年間5000万円宛て積み立てることによって,上記保険と合わせて危険防止,環境汚染防止のための原資とすることを計画しているところ,これを前提として,上記総収入額を基礎に債務者が作成した事業計画書及びキャッシュフローの内容によれば,10年で埋立を完了をした時点において,負債を全部返済した上で9億4470万1000円が残るほか,災害防止準備金としての積立金3億円,事業準備金3億円,環境事業団積立金8億4000万円が残る見通しであることが一応認められ,上記事業計画の内容については,本件処分場の規模,施設内容,事業内容及び管理体制等,本件一件記録から疎明される一切の事情に鑑み,施設の補修等を含む維持管理費,安全管理のための費用等の事業経費が過小であるとはいえず,収支の採算性のある合理的な計画であると評価することができる。
(イ)なお,上記事業計画は,債務者が金融機関から99億2000万円の一括借入れを起こすことが前提となっているところ,審尋の全趣旨によると,かかる事実を一応認めることができる。債権者らは,債務者が借入先の金融機関を明らかにしない以上,そのような健全な低利の借入れが可能であるとの裏付けがなく,信用できない旨主張するが,疎明資料及び審尋の全趣旨により一応認められる事実,すなわち,債権者らのうちの一部の者が,債務者がかつて本件事業資金の借入れのために融資交渉をしていた金融機関を訪れた際の経緯等に鑑みれば,債務者が借入先の金融機関を直ちに公表しないことをもって,上記認定を左右するものではない。
(ウ)また,疎明資料及び審尋の全趣旨によると,本件予定地には,現在,債務者が本件事業のために本件予定地の買収等を依頼したY株式会社等を債務者とする抵当権等の担保権(被担保債務元本合計20億7500万円)が設定されていること,他方,債務者は,当該被担保債権の主債務者でも連帯保証人でもないこと,債務者とY株式会社の間では,債務者が土地代金の支払いをするのと引き換えに,同社において債務者に対し,担保権の設定登記を抹消した上で土地所有権の移転登記をする旨の合意が成立していることが一応認められる上,債務者は,Y株式会社が上記担保権の設定登記の抹消をしなかった場合に備え,その抹消費用として,元本合計額に相当する20億7500万円の予備費を事業計画中に計上して,これを確保しているのであるから,上記担保権の存在が,本件事業計画に支障を与えるようなことはないものとの評価するのが相当である。この点につき,債権者らは,上記被担保債務には当然利息が発生していることをも考慮すると,上記元本合計額が確保されているというだけでは不十分である旨主張するが,債務者は上記債務を支払う法的な義務はない上,担保権が設定されていることにより直ちに土地の利用が阻害されるものではなく,更に,本件処分場の営業を開始して産業廃棄物の搬入をするためには,千葉県の使用前検査を受けた後,千葉県知事の営業許可を得る必要があるのであって,その際,事業遂行能力に関連して経済的審査もなされ,上記担保権の設定登記の抹消状況等についても考慮されることが見込まれるのであるから,債権者らの批判をそのまま採用することはできない。
(エ)以上に加え,疎明資料によると,債務者は,本件処分場の事業運営,本件処分場施設の設計及び施工を担当し,かつ,技術関連業務の委託を予定しているB株式会社から,資本参加を前提として適正な運転維持管理体制の確立に協力する旨の確約を得ていることが一応認められること,債務者は,債権者らの不安を解消するために,埋立完了後処分場閉鎖までの間の維持管理費の経済的裏付けとなる財団法人環境事業団積立金について,10年間の埋立期間中に毎年8400万円ずつ積み立てることを予定している合計8億4000万円を,営業許可を受けた後,本件処分場への産業廃棄物受入開始前までに,千葉県と協議の上,財団法人環境事業団又はこれと同等の信用力,拘束力を有する機関に一括して積み立てること,この積立てが完了するまでは,本件処分場に産業廃棄物を受け入れないことを約束する趣旨の確約書を当裁判所に提出していること等の一切の事情を総合すると,債務者は,本件事業計画を十分に遂行するに足りる経済的な基盤を有しているものと評価するのが相当である。
(オ)まとめ
以上のとおりであって,本件処分場事業は,採算性を保ちながらも,必要な処分場施設の維持管理費,埋立作業等の安全管理費等を賄うことができるものといえる。
エ Aグループの債権者らについてのまとめ
以上説示したところを総合すると,本件処分場については,計画どおりの施設が建設,施工され,施設の適切な維持管理及び埋立事業に関する安全管理がなされるものとの立証がされたものと認めることができるから,前記Aグループの61名の債権者らの,本件処分場の建設,使用,操業により生命,身体(健康)を害されるとの主張については,理由がない。
第4結論
本件処分場の建設,操業,使用によって発生すると債権者らが主張する生命,身体(健康)に対する被害の可能性について,交通事故の危険に基づく主張については,被害発生の具体的可能性を裏付ける主張及び疎明がなく,大気汚染に基づく主張については,債務者において大気汚染防止策を講じるのであって,債権者らにおいて生命,身体(健康)を害される可能性を認めることができず,河川汚染に基づく主張については,債権者らにおいて有害物質を摂取する具体的可能性についての疎明がない。また,地下水汚染に基づく主張については,地下水を介して健康被害を被る可能性が認められた61名の債権者らに関し,本件処分場の操業,使用による地下水汚染の可能性の有無,すなわち,本件処分場から有害物質が流出するか否かを,本件処分場施設の構造,処理能力等の観点から考察を加え,さらに債務者の経済的基盤及び事業計画における収支の内容についても検討した結果,本件処分場施設が計画どおりに建設,施工され,かつ,施設の適切な維持管理及び埋立作業等における適切な安全管理がなされること,施設の維持管理を停止する処分場閉鎖時においては,浸出水の水質が人体に対する有害性を喪失したことが確認される制度的保障があること等の立証がなされたので,かかる事実を総合し,本件処分場の操業,使用等により有害物質が処分場外に流出し,地下水が汚染される可能性はないものと認めるのが相当である。したがって,債権者らの本件申立ては,被保全権利が認められないから,いずれも理由がないものとして,これを却下することする(なお,本件処分場施設が付帯設備を含めて計画どおり建設,施工されることはもとより,各施設の適切な維持管理及び産業廃棄物の受入審査等の安全管理等が適切になされ,搬入作業管理等の環境汚染防止対策が確実に履行され,かつ,これらを担保する情報公開等の監視システムが機能すること等の全てが本件処分場の安全性の根幹をなすものである以上,上記のいずれかでも履行されず,または不十分であった場合には,本件処分場の安全性の根拠,すなわち,有害物質が外部流出しないことについての根拠を失うことになるから,改めて,本件処分場の操業等の差止めが認められる場合があり得ることを付言しておく。)。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 井上稔 裁判官 安藤裕子 裁判官 木目田玲子)
別紙3「本件処分場の概要」
1 施設の種類
産業廃棄物最終処分場(管理型)
2 処理する産業廃棄物の種類
汚泥,燃え殻,ばいじん,鉱さい,がれき類,金属くず,廃プラスチック類,ガラスくず及び陶磁器くず,木くず,紙くず,上記の廃棄物を処分するために処理したもの
3 設置場所 本件予定地
4 処理能力 埋立面積 4万7854平方メートル
埋立容量 74万2838立方メートル
5 施設の概要(別添図面①ないし⑦参照)
(1) 貯留構造物
土堰堤(高さ5メートル4段嵩ね)高さ18メートル
他に中仕切堰堤1箇所
(2) 複合型遮水工(別添図面⑧参照)
<5層構造部>
底盤部 保護覆土(砂層。厚さ500ミリメートル)
高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメートル)
砂層(厚さ300ミリメートル)
加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメートル)
粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル,透水係数1×10(-6乗)cm/sec以下)
法面部 保護層(厚さ10ミリメートル)
高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメートル)
不織布(厚さ10ミリメートル)
加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメートル)
粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル,透水係数1×10(-6乗)cm/sec以下)
<漏水検知システム>
電流源電極線
リード線
解析用モニター等一式
(3) 雨水排水設備
場内小段側溝,外周U字側溝,場内U字側溝
洪水調整池(本設1箇所,仮設1箇所),放流施設一式
仮設沈砂池
(4) 浸出水集排水設備
浸出水集排水管本管(口径600ミリメートル)
浸出水集排水管その他
(5) 水処理施設
処理施設一式(集水塔,送水設備,水処理装置,蒸発処理施設,浸出水・処理水調整槽)
水処理装置(方式)1工程:第1凝集沈殿処理
2工程:生物処理(接触ばっ気)
3工程:第二凝集沈殿処理
4工程:砂濾過処理
5工程:活性炭吸着処理
6工程:キレート樹脂吸着処理
7工程:滅菌処理
(処理量)水収支計算に用いる処理水量
20.0立方メートル/日
地下式貯留槽 浸出水原水貯留槽 4070立方メートル
浸出水処理水貯留槽 3990立方メートル
蒸発散装置 基準とする面積負荷 4.5リットル/m2以下
(蒸発量) 11.25立方メートル/日
(処理量)水収支計算に用いる処理水量
15.0立方メートル/日
(6) 外周遮水壁
コンクリート製連続遮水壁
地上高1.0メートル以上,地中部分深さ15メートル以上
(7) 地下水集排水設備
地下水集排水管本管(口径1000ミリメートル)
底盤部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
底盤部外周地下水集排水管(口径250ミリメートル)
法面部地下水集排水管(口径200ミリメートル)
小段部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
(8) 管理施設
管理塔
地下水観測施設 集水塔1カ所,地下水観測井戸6カ所の合計7カ所
(9) その他付帯施設一式
6 計画搬入量 10トントラックで1日あたり48台往復(年間9600台)
(以上)