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千葉地方裁判所 平成14年(行ウ)2号 判決 2003年1月24日

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成13年12月19日付けでした,千葉県東葛飾郡a町議会議員Aの資格決定処分を取り消す旨の裁決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,千葉県東葛飾郡a町(以下「a町」という。)議会議員A(以下「A議員」という。)の被選挙権を認めない旨のa町議会の決定を被告が取り消した裁決について,同議会議員である原告らが被告に対し,その取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実等

(1)  A議員は,平成12年4月16日に行われた選挙により選出されたa町議会議員である。

(2)  a町議会は,平成13年9月11日,A議員について,地方自治法(以下「法」という。)127条1項に基づき,同人が住所として届け出ている住所地には同人の居住の実態がないことを理由として,(1)記載の町議会議員選挙における被選挙権を有しないとの決定をした。

(3)  A議員は,(2)の決定を不服として,平成13年9月12日,法127条4項,118条5項に基づき,被告に対し,(2)の決定の取消しを求めて審査申立てをした。被告は,同年12月19日,(2)の決定を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

(4)  原告らは,平成14年1月8日,本件訴えを提起した。(以上の事実は,当事者間に争いがないか,証拠〔甲1,乙1〕及び弁論の全趣旨によって認める。)

(関係法令の定め)

法127条1項 普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき(中略)は,その職を失う。その被選挙権の有無(中略)は,(中略)議会がこれを決定する。この場合においては,出席議員の3分の2以上の多数によりこれを決定しなければならない。

4項 第118条第5項(中略)の規定は,第1項の場合にこれを準用する。

法118条1項 法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体の議会において行う選挙については,公職選挙法第46条第1項及び第4項,第48条,第68条第1項並びに普通地方公共団体の議会の議員の選挙に関する第95条の規定を準用する。その投票の効力に関し異議があるときは,議会がこれを決定する。

5項 第1項の規定による決定に不服がある者は,決定があった日から21日以内に,都道府県にあっては総務大臣,市町村にあっては都道府県知事に審査を申し立て,その裁決に不服がある者は,裁決のあった日から21日以内に裁判所に出訴することができる。

2  当事者の主張

(1)  本案前の主張

ア 被告の主張

本件訴えは,法127条4項が準用する法118条5項に基づくものであるところ,同項により裁判所に出訴することのできる「その裁決に不服がある者」に原告らは該当しないことが明らかであり,行政事件訴訟法9条により,原告らには,裁決の取消しを求める法律上の利益はない。すなわち,法127条4項が同条1項の決定について法118条5項の規定を準用しているのは,単にこの決定に対して不服申立てが可能なこと及びその方法,手続が法118条5項の規定と同様であることを定めたにとどまり,民衆訴訟的な不服申立手続をこの場合にも採用した趣旨ではなく,不服申立てをすることができる者の範囲は,行政処分の一般の例によるべきであるから,その適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定されることになる。そして,この理は,法118条5項にいう「その裁決に不服がある者」の解釈にも当然妥当するものであり,裁判所に出訴することができるのは,専ら裁決によってその職を失うこととなった当該議員に限られると解すべきである。原告ら主張のように,法118条5項の「不服がある者」の解釈について,「決定に不服がある者」には当該議員しか含まれないが,「裁決に不服がある者」には当該議員以外の議員も含まれるとするような解釈は,解釈の一貫性を欠く不合理なものである。

イ 原告らの主張

法118条5項の「裁決に不服がある者」については,当該議員だけでなく,全ての議員がこれに該当するというべきである。被告の主張によると,議会の特別多数決により議員の資格が否定され,都道府県知事がその決定を取り消した場合,もはやその決定を争う手段はなくなり,極めて不当な結果となる。同種事案に関する最高裁判決(最高裁昭和55年(行ツ)第119号同56年5月14日第一小法廷判決・民集35巻4号717頁)は,議会において3分の2という特別多数決で当該議員に資格があるという結論が出ている以上,議会の自主的判断を尊重するという立場をとったものと解すべきであり,本件のように,議会が特別多数決により,当該議員の資格を否定し,それを県知事が取り消す旨の裁決を行った場合の不服申立てについては何ら言及していないというべきである。

(2)  本案の主張

ア 原告らの主張

A議員が住所地として届け出ている場所は市街化調整区域内にあり,都市計画法29条1項2号により農業,林業等を営む者が住居の用に供する目的で建築物を建設できることとなっている場所であるが,A議員は農業や林業を営む者ではなく,当該土地上に居住用建物を建築することはできない。また,A議員は,当該土地上に学習塾を開設している事実はあるものの,その業務終了後は,同所を生活の本拠としている形跡はない。そうすると,A議員はa町町議会議員選挙の被選挙権がないことは明らかであり,これに反する本件裁決は違法である。

イ 被告の主張

A議員は,当該住所地に住民票を移転し,寝室,家財道具等も存し,その地で納税をし,郵便物もそこに配達されるなどしており,生活の本拠としている形跡がある。

第3当裁判所の判断

1  本案前の主張について

法127条4項は,同条1項の決定につき法118条5項の規定を準用している。この趣旨は,上記決定に対し不服申立てが可能なこと,及びその方法,手続は法118条5項のそれと同様であることを定めたと解することができる。そして,法118条5項の規定は,一般の公職選挙法に基づく選挙に関する争訟の制度と同様に,専ら議会における選挙の適正な執行を担保する趣旨に出た民衆争訟の性格を有するものと考えられる。しかし,法127条1項の決定は,特定の議員について上記条項の掲げる失職事由が存在するかどうかを判定する行為であって,積極的な判定がされた場合には当該議員につき議員の職の喪失という法律上の不利益を生ぜしめる点において一般に個人の権利を制限し又はこれに義務を課す行政処分と同視せらるべきものであって,議会の選挙における投票の効力に関する決定とは著しくその性格を異にしている。そうすると,法127条1項,4項,法118条5項の適用については,違法な決定によって上記のような不利益を受けた当該議員が行政処分により権利を制限し又は義務を課されたことに対する救済手段として不服申立てを認める必要は肯定できるものの,進んで,選挙の適正な執行というような公益上の目的からこれに対する民衆争訟的な不服手続を設けるべきものと当然にいうことはできず,その他,法が民衆争訟的な不服手続としたことを窺わせる根拠も必要性も薄弱である。そうすると,上記裁決について,不服申立てをすることができる者の範囲は,一般の行政処分の場合と同様,その適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定され,専ら決定によってその職を失うこととなった当該議員に対して上記の方法による不服申立ての権利を付与したに過ぎないというべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第119号同56年5月14日第一小法廷判決・民集35巻4号717頁参照)。

これに対し,原告らは,上記のように解すると,議会の決定で議員の資格が否定され,都道府県知事がその決定を取り消した場合,もはやその決定を争う手段はなくなり不当であると主張する。しかし,法127条の規定に基づく司法審査は,違法な選挙の結果の排除,更正という公益上の要請から認められている法118条の場合と異なり,議会の決定によって議員の職を喪失した議員が自己の権利を回復,擁護するために,特に認められた抗告訴訟的性格を有するものと解され,自己の利害に関係のない議員にその効力を争わせるまでの必要はないとするのが法の趣旨というべきである。そうすると,原告ら主張のような場合にこれを争う手段がないことは,法の予定したものというべきである。

2  以上によれば,議会の決定によって職を失うこととなった議員ではない原告らには,本件訴えを提起する原告適格がない。

第4結論

よって,本件訴えは不適法であるからこれを却下し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条に従い,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部秀穗 裁判官 弓場佳多子 裁判官 向井邦生)

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