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千葉地方裁判所 平成17年(行ウ)4号 判決 2006年6月20日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成16年12月22日付けで原告に対して行った「平成13年2月20日付けの千葉県知事による産業廃棄物収集運搬業許可のうち被告の行った許可とみなされたもの」についての取消処分は,これを取り消す。

第2事案の概要

本件は,平成13年2月20日付けで千葉県知事から産業廃棄物収集運搬業の許可(同許可のうち船橋市の区域に係るものは,平成15年4月1日の同市の中核市移行に伴い,被告の行った許可とみなされた。以下,被告の行った許可とみなされたものを「本件みなし許可」という。)を受けた原告が,平成16年11月1日に埼玉県知事から埼玉県の区域(さいたま市及び川越市の区域を除く。)における産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消されたところ,同年12月22日付けで被告からこの事実が廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成17年法律第42号による改正前のもの。以下「法」という。)14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,7条5項4号ニに当たるとして本件みなし許可を取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)を受けたことを不服として,その取消しを求める事案である。

1  法の定め

(1)  法14条の3の2第1項1号は,産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が,法14条5項2号イからヘまでのいずれかに該当するに至ったときは,都道府県知事(法8条1項により,保健所を設置する市又は特別区にあっては,市長又は区長。以下同じ。)はその許可を取り消さなければならない旨を規定している。

法14条の3の2第1項は,平成15年12月1日から施行された平成15年法律第93号(以下「15年改正法」という。)により加えられた規定であるが,15年改正法の施行前に生じた事項にも適用するものとされている(15年改正法附則2条)。

(2)  法14条5項2号は,産業廃棄物収集運搬業の許可の申請者が同号イからヘまでのいずれにも該当しないときでなければ,都道府県知事はその許可をしてはならない旨を規定し,同号イからヘまでにおいて,いわゆる許可の欠格要件を定めている。同号イ,ニの規定は,次のとおりである。

「イ 第7条第5項第4号イからトまでのいずれかに該当する者

ニ 法人でその役員又は政令で定める使用人のうちにイ又はロのいずれかに該当する者のあるもの」

(3)  法7条5項4号は,一般廃棄物収集運搬業の許可の申請者が同号イからヌまでのいずれにも該当しないときでなければ,市町村長はその許可をしてはならない旨を規定し,同号イからヌまでにおいて,いわゆる許可の欠格要件を定めている。同号ロ,ニの規定は,次のとおりである。

「ロ 禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者

ニ 第7条の4若しくは第14条の3の2(第14条の6において読み替えて準用する場合を含む。以下この号において同じ。)又は浄化槽法第41条第2項の規定により許可を取り消され,その取消しの日から5年を経過しない者(当該許可を取り消された者が法人である場合においては,当該取消しの処分に係る行政手続法(平成5年法律第88号)第15条の規定による通知があった日前60日以内に当該法人の役員(業務を執行する社員,取締役,執行役又はこれらに準ずる者をいい,相談役,顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず,法人に対し業務を執行する社員,取締役,執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この号及び第14条第5項第2号ニにおいて同じ。)であった者で当該取消しの日から5年を経過しないものを含む。)」

(4)  以上の法の各規定を文言どおりに解釈すると,産業廃棄物収集運搬業者が法人である場合に,当該法人の役員が法7条5項4号ロ(禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者)に該当するに至れば,都道府県知事は,当該法人に対する法14条1項の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消さなければならず(法14条の3の2第1項1号,14条5項2号ニ,イ),ある都道府県知事が,この理由により同許可を取り消せば,他の都道府県知事は,当該法人が「法14条の3の2の規定により許可を取り消され,その取消しの日から5年を経過しない者」に該当するに至ったとして,法14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,7条5項4号ニにより,当該法人に対する法14条1項の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消さなければならないこととなる。

2  前提となる事実(証拠等によって認定した事実については,末尾に当該証拠等を掲記した。その余の事実は当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,平成13年2月20日,千葉県知事から法14条1項の産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた。

船橋市は,平成15年4月1日に中核市となり,地域保健法5条1項により,法8条1項にいう「保健所を設置する市」となった。これに伴い,前記許可のうち船橋市の区域に係るものは,指定都市,中核市又は特例市の指定があった場合における必要な事項を定める政令8条,2条1項により,被告の行った許可とみなされた(本件みなし許可)。

(2)  Aは,平成16年2月10日に辞任するまで原告の取締役であったが,平成15年2月3日,道路交通法違反の罪により,○の有罪判決を受け,同判決は,同月18日に確定した。同判決の認定した罪となるべき事実は,「Aは,酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,平成14年6月14日午前1時5分ころ,茨城県つくば市α16番地付近道路において,普通乗用自動車を運転した。」というものである。(甲4,17)

(3)  原告は,埼玉県知事から平成13年1月29日付けで埼玉県の区域(さいたま市及び川越市の区域を除く。)における産業廃棄物収集運搬業の許可を受けていたが,埼玉県知事は,平成16年11月1日,これを取り消す旨の処分(以下「別件取消処分」という。)をした。取消しの理由は,Aの前記(2)の有罪判決が平成15年2月18日に確定したことにより,Aは,法14条5項2号イに規定する法7条5項4号ロの欠格要件に該当するに至ったが,Aが平成16年2月10日に辞任するまで役員として原告に在籍していたことは,原告にとっては,法14条の3の2第1項1号に規定する許可取消要件である「法14条5項2号ニに該当するに至ったとき」に当たるというものであった。

(4)  被告は,埼玉県環境防災部長作成の平成16年11月1日付け通知文書により,別件取消処分が行われたことの通知を受けた。(乙1)

(5)  被告は,平成16年12月22日付けで,原告に対し,本件みなし許可を取り消す旨の処分(本件取消処分)をした。その理由は,前記(3)のとおり原告が埼玉県知事から産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消されたことが,法14条の3の2第1項1号に規定する許可取消要件である「法14条5項2号イ(法7条5項4号ニの欠格要件に該当する者)に該当するに至ったとき」に当たるというものであった。

被告は,本件取消処分に当たって,原告に対する聴聞等の意見陳述のための手続を執らなかった。

(6)  なお,原告は,埼玉県知事を被告として別件取消処分の取消しを求める訴えを提起したが(さいたま地方裁判所平成17年(行ウ)第1号),平成18年3月22日,同裁判所において請求を棄却する判決の言渡しを受けたため,これを不服として控訴した。(弁論の全趣旨)

3  争点

(1)  別件取消処分が違憲,違法,無効であることによって,本件取消処分が違法となるか。(争点1)

(2)  他の都道府県知事が法人の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した場合に,その取消事由が法人の業務に関係のない役員の私的行為によるものであっても,法14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,7条5項4号ニにより,産業廃棄物収集運搬業の許可の必要的取消事由となるか。(争点2)

(3)  本件取消処分に当たって原告に告知,聴聞の機会を与えなかったことが,行政手続法に違反するか。(争点3)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(別件取消処分が違憲,違法,無効であることによって,本件取消処分が違法となるか。)について

(原告の主張)

ア 法は,法人の役員に産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件がある場合を,それが法人の業務に関係がないものであっても,法人に欠格要件があるものとして,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消す旨の規定を置いている。しかし,法人の業務に関係のない役員の私的行為については,法人に管理,監督の義務はないから,上記の役員の私的行為を理由として,法人に産業廃棄物収集運搬業の許可についての欠格要件及び取消要件があると解するのは,相当ではない。

本件において,Aは○に処せられたものの,その行為は深夜の私的な行為であって,原告の業務としての行為ではなく,原告に帰責性はないから,このような原告の役員の行為を理由として,原告の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消すのは,制裁として不合理である。

この不合理を回避するためには,法人の役員が禁錮以上の刑に処せられたとしても,法人の業務に関係がある場合に限って,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件又は取消要件となると解すべきである。

イ 仮に前記アの解釈を採ることができないのであれば,法人の役員が禁錮以上の刑に処せられたことを,その犯罪の内容にかかわりなく,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の取消要件として定めている法の規定は,憲法に違反する。

すなわち,法は,役員が産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件に該当すれば,その理由を問わず,法人も許可の欠格要件及び取消要件に該当するとしており,過ちに対する制裁として不均衡であるから,憲法31条に違反する。また,役員の欠格要件が法人の業務に関係のない役員の私的行為による場合には,法人には役員の私的行為に対する管理,監督権はないから,法人に産業廃棄物収集運搬業の許可の取消しを回避するための手段が認められていない点においても,同条に違反する。

そして,上記法の規定は,国民の生活環境の保全や公衆衛生の向上を図ることを目的とし,不法投棄や不適正処理の未然防止措置の一環として,産業廃棄物収集運搬業者の資格を許可制として制限し,不法投棄等するおそれのある悪質業者を排除する趣旨のものであり,消極的,警察的目的規制である。したがって,上記規定による人権の制限は,当該法律の目的を達成するための手段として合理的な内容といえる範囲に限られなければならないところ,法人の業務と関係がない役員の犯罪についても法人の許可取消事由とする上記法の規定は,規制の手段として合理的な範囲を超えているから,営業の自由及び職業選択の自由を著しく不当に制限するものとして,憲法22条1項に違反する。

さらに,産業廃棄物収集運搬業者に対する監督事務は,各都道府県の法定受託事務であるから,産業廃棄物収集運搬業の許可やその取消しは,各都道府県の主体的な判断によって行われるべきところ,各都道府県知事の裁量を認めず,産業廃棄物収集運搬業の許可の取消義務を定めた法14条の3の2第1項の規定は,憲法の保障する地方自治の本旨に基づく権限を侵害するものである。

ウ したがって,別件取消処分は違法,無効と解すべきところ,別件取消処分は,本件取消処分の前提となるものであるから,これが違法,無効であれば,本件取消処分も違法となる。

(被告の主張)

ア 法14条の3の2第1項は,所定の許可取消要件に該当する場合には必ず産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消さなければならないと規定しているところ,本件取消処分は,原告が埼玉県知事から産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消されてその取消しの日から5年を経過しないことが,同項1号に規定する許可取消要件である「法14条5項2号イ(法7条5項4号ニの欠格要件に該当する者)に該当するに至ったとき」に当たることを理由としてされたものであって,法に基づく適法な処分である。原告の違憲主張は,別件取消処分の取消訴訟において審理判断されるべき事柄であり,本訴において審理の対象となるものではない。

イ 別件取消処分は,法の規定に基づいてされたものであり,憲法31条に違反しない。原告は,制裁が重大であると主張するが,否認されるべきである。役員は,法令を熟知し,自ら欠格要件に該当し,それに伴い法人が欠格要件に該当する可能性がある事態が発生した場合には,欠格要件となることが確定する前に辞任すれば,法人が欠格要件に当たることを免れることができるのであるから,許可の取消しを回避するための手段がない旨の原告の主張は,失当である。

法14条の3の2の許可取消し事務は,地方自治法2条9項1号の第1号法定受託事務とされているが(法24条の4),同事務は,国が本来果たすべき役割に係るものであり,国において特にその適正な処理について高い関心と責任を有し,適正な処理を確保する必要があることから,その事務処理について国がよるべき基準を定め,全国的に同一の基準で行われるべきものである。15年改正法により,許可取消しを義務化することにより,不均衡を排除したことが,憲法に定める自治権を侵害するものではない。

(2)  争点2(他の都道府県知事が法人の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した場合に,その取消事由が法人の業務に関係のない役員の私的行為によるものであっても,法14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,7条5項4号ニにより,産業廃棄物収集運搬業の許可の必要的取消事由となるか。)について

(原告の主張)

法14条の3の2の規定により産業廃棄物収集運搬業の許可が取り消されても,その取消しの理由とされた法人の役員に関する事由が当該法人の業務にかかわりがない場合もある。法14条の3の2の規定により産業廃棄物収集運搬業の許可が取り消された事実があれば,それだけで産業廃棄物収集運搬業の許可の必要的取消事由となると解するのは相当ではない。

被告による産業廃棄物収集運搬業の許可の取消しによって,許可を取り消された法人のみならず,その従業員にも悲惨な生活を強いることになるのであるから,被告は,他の都道府県知事から産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した旨の通知を受けた場合であっても,取消事由の内容を調査して,法人の役員の欠格事由が業務にかかわるものであることを確認しなければならず,業務に関連する場合に限って,産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消すことができると解すべきである。

したがって,本件取消処分は違法である。

(被告の主張)

法は,役員が禁錮以上の刑に処せられた原因について,公私,業務内外の区分をしていない。法14条の3の2第1項は,許可の欠格要件に該当するに至った以上,許可を取り消さなければならないと規定しており,許可を取り消すか否かについての裁量を認めていない。原告が主張するように業務との関連性について考慮する余地はない。

(3)  争点3(本件取消処分に当たって原告に告知,聴聞の機会を与えなかったことが,行政手続法に違反するか。)について

(原告の主張)

被告が,本件取消処分に当たって原告に告知,聴聞の機会を与えなかったことは,行政手続法15条に違反する。

(被告の主張)

法14条の3の2第1項に基づく産業廃棄物収集運搬業の許可の取消しは,所定の要件に該当する場合には必ず取り消さなければならないとされている処分である。そして,別件取消処分がされた旨を被告に通知する埼玉県からの文書は,原告が埼玉県における産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消されたことを直接証明する客観的資料である。したがって,行政手続法13条2項2号により,被告は,本件取消処分に際して,原告に聴聞及び弁明の機会を付与する必要はない。

第3争点に対する判断

1  争点1(別件取消処分が違憲,違法,無効であることによって,本件取消処分が違法となるか。)について

(1)  前記のとおり,本件取消処分は,原告が別件取消処分により埼玉県の区域(さいたま市及び川越市の区域を除く。)における産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消され,その取消しの日から5年を経過しないという法14条5項2号イ,7条5項4号ニ所定の欠格要件に該当するに至ったことを理由として,法14条の3の2第1項1号に基づいてされたものである。

このように,本件取消処分は,別件取消処分が効力を有することを前提としてされたものということができるが,別件取消処分には公定力があり,また,その違法性を本件取消処分が承継すべき事情も認められないから,別件取消処分に取消事由となる違法があることが,本件取消処分の違法事由となるものではない。

もっとも,別件取消処分に重大かつ明白な違法がある場合には,別件取消処分は当然無効となるから,原告が前記の欠格要件に該当するに至ったということはできず,本件取消処分は違法であることになる。

そこで,以下,別件取消処分が無効であるかどうかを検討する。

(2)  前記のとおり,別件取消処分は,Aが道路交通法違反の罪による○の有罪判決の確定後も取締役として原告に在籍していたことが,原告において,法14条5項2号ニ所定の欠格要件である「法人でその役員のうちに同号イに該当する者(法7条5項4号ロにいう禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者)のあるもの」に該当するに至ったことを理由として,法14条の3の2第1項1号に基づいてされたものである。

これに対し,原告は,法人の役員が,法人の業務に関係のない私的な行為を理由として禁錮以上の刑に処せられても,法人にこの行為を管理,監督すべき義務はないから,これをもって,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件であると解し,これを理由として同許可を取り消すことは許されないと主張する。

しかしながら,法14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,ニ,7条5項4号ロのいずれの規定にも,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件及び取消要件となる役員の確定有罪判決について,その対象となる犯罪行為を法人の業務に関係する場合に限定する旨の文言はない。

そして,法が,7条5項4号ロにおいて「禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」を一般廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件として定め,14条5項2号イにおいてこれを産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件として定めているのは,人の信頼を裏切る行為を行うおそれのある者をその業の遂行から排除するためであり,法14条5項2号ニが「法人でその役員のうちに同号イに該当する者(法7条5項4号ロにいう,禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者)のあるもの」を法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件として定めているのは,法人の業務執行に責任を持つべき役員に上記事由がある場合を法人自体の欠格要件とすることによって,人の信頼を裏切る行為を行うおそれのある者を確実にその業の実質的な運営から排除して,産業廃棄物収集運搬業者の一層の資質の向上と信頼性の確保を図ったものと解される。

また,法14条の3の2第1項は,15年改正法により加えられた規定であるところ,従前は欠格要件に該当するに至った場合であっても産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消すかどうかは都道府県知事の裁量にゆだねられていたのを(15年改正法による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の3),欠格要件に該当するに至った場合には許可を取り消さなければならないとし,また,15年改正法の施行前に欠格要件に該当するに至った場合についても,同項の規定を適用するものとし(15年改正法附則2条),もって,悪質な廃棄物処理業者を速やかに排除し,廃棄物の適正な処理体制の一層の確保を図ろうとするものである。

このような法の各規定の文言及びその趣旨によれば,法は,法人の業務遂行における役員の責任の重要性を考慮して,法人の役員が禁錮以上の刑に処せられた場合には,対象となる犯罪行為を限定することなく,当該法人の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消して,適正な業の遂行や廃棄物の適正な処理体制の確保を図ろうとしたものというべきである。

(3)  ところで,一般廃棄物収集運搬業の欠格要件として「禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」を定める法7条5項4号ロの規定は,15年改正法による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律においては,7条3項4号ロとして規定されていたところ,同号ロの規定に関して,厚生省水道環境部編「新廃棄物処理法の解説・初版」(平成5年3月22日発行)は,「一般廃棄物収集運搬業者であって規則第2条の2の基準に適合し,収集計画に基づく器材,人員,設備等を備え,従来から市町村の一般廃棄物の処理事業の一環として適正に業を営んでいる者の場合には,業に関係のない軽微な犯罪で故なく許可が得られなくなることがないようにしなければならない。この場合において,業に関係のない軽微な犯罪とは,まず,廃棄物処理の業務と関係のない犯罪であって,それが過失又は業務上過失によるものである場合であり,例えば,禁錮以上の刑に処せられた場合であっても,過失激発物破裂罪(刑法第117条),業務上過失失火罪(刑法第117条の2),業務上過失致死傷罪(刑法第211条)のように,業務に全く関係のない過失又は業務上過失による場合が想定される。また,刑の執行猶予の言い渡しを受け,その取消を受けていない場合についても,業に関係のない軽微な犯罪に該当するものと考えられ,例えば,禁錮以上の刑に処せられた場合(中略)であっても,情状等によって執行猶予の言い渡しを受け,その取り消しを受けていない場合はこれに当たると考えられる。」と解説する(甲22)。

この解説は,前記欠格要件(禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者)に該当するかどうかの判断において限定解釈をすべきことを説明したものと読める。

しかし,前記解説書を改訂した廃棄物法制研究会編「廃棄物処理法の解説・平成15年増補版」(平成16年1月26日発行)においては,前記解説に相当する部分の記述はない(乙6)。

そして,前記解説書の発行された平成5年当時においては,産業廃棄物収集運搬業者が欠格要件に該当するに至った場合の許可取消しは都道府県知事の裁量にゆだねられていたのに対し,前記のとおり,15年改正法により,欠格要件に該当するに至った場合の許可取消しが義務化され,15年改正法の施行前に欠格要件に該当するに至った場合についても,許可取消しの対象とされ,廃棄物の適正な処理体制を図るものとされたのである。

このような厳格な法の執行を求める15年改正法による改正後の法の解釈としては,前記解説書の説明する欠格要件の限定解釈は妥当しないというべきである。

したがって,原告の主張する限定解釈は,採用することができない。

(4)  原告は,法人の役員が禁錮以上の刑に処せられても,法人の業務に関係がある場合に限って,法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件及び取消要件となると解することができないとすれば,そのような法の規定は,憲法31条,22条1項に違反し,憲法の保障する地方自治の本旨を侵害するものである旨をいう。

前記のとおり,法は,法人の業務遂行における役員の責任の重要性を考慮して,法人の役員が禁錮以上の刑に処せられた場合を,対象となる犯罪行為を限定することなく,当該法人の産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件と定め,事後的にこれに該当するに至った場合には必ずその許可を取り消すものとして,適正な業の遂行や廃棄物の適正な処理体制の確保を図ろうとしたものである。このように産業廃棄物収集運搬業の遂行に責任を有する者に厳格な法令遵守を要求し,遵法精神に欠ける者を役員とする法人を産業廃棄物収集運搬業から確実に排除することも,不法投棄等の悪質事案の増加がおさまらない昨今の社会情勢下においては,廃棄物の適正な処理体制を確立するための規制として必要性及び合理性を肯定することができるから,上記の法の定めが憲法22条1項に違反するということはできない。

このような見地からすると,上記の規制が制裁として不均衡であることを前提として憲法31条違反をいう原告の主張は,その前提を欠くものというべきである。また,原告は,法人の業務に関係のない役員の私的行為により法人の産業廃棄物収集運搬業の許可が取り消されることになると,法人にはこれを回避するための手段がないことを根拠として,憲法31条違反をいう。しかし,役員の有罪判決が確定する前に,役員が辞任し,又はこれを解任することにより,法人は許可取消しを免れることができるのであるから,所論は前提を欠く。

そして,産業廃棄物収集運搬業の許可及びその取消しの事務は,国が本来果たすべき役割に係る第1号法定受託事務(法24条の4,地方自治法2条9項1号)であるから,上記の法の定めが憲法の保障する地方自治の本旨を侵害する旨の原告の主張は,採用することができない。

(5)  以上によれば,別件取消処分に重大かつ明白な違法があるということはできないから,これが無効であるということはできない。したがって,別件取消処分が違法,無効であることを前提として本件取消処分に違法がある旨をいう原告の主張は,理由がない。

2  争点2(他の都道府県知事が法人の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した場合に,その取消事由が法人の業務に関係のない役員の私的行為によるものであっても,法14条の3の2第1項1号,14条5項2号イ,7条5項4号ニにより,産業廃棄物収集運搬業の許可の必要的取消事由となるか。)について

法7条5項4号ニは,法14条の3の2の規定により産業廃棄物収集運搬業の許可等を取り消され,その取消しの日から5年を経過しない者を,一般廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件として定め,法14条5項2号イは,これを産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件として定めている。そして,法14条の3の2第1項1号は,産業廃棄物収集運搬業の許可の欠格要件に該当するに至った場合にはその許可を取り消さなければならないと規定している。

産業廃棄物収集運搬業者が欠格要件に該当するに至った場合には,都道府県知事はそのことを理由として産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消さなければならないところ,法は,前記の各規定により,欠格要件に該当するに至ったことを理由として他の都道府県において産業廃棄物収集運搬業の許可が取り消されれば,この許可取消しを理由として産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消すものとして,悪質な業者をより迅速かつ確実に排除することとしたものと解される。

以上の法の規定の文言及びその趣旨によれば,産業廃棄物収集運搬業の許可取消要件とされている,他の都道府県における産業廃棄物収集運搬業の許可の取消しについて,これを限定的に解すべき理由はないというべきである。

したがって,原告の主張する限定解釈は,採用することができない。

3  争点3(本件取消処分に当たって原告に告知,聴聞の機会を与えなかったことが,行政手続法に違反するか。)について

行政手続法13条1項1号イは,行政庁が許認可等を取り消す不利益処分をしようとするときは,同法第3章の定めるところにより,その名あて人となるべき者について聴聞の手続を執らなければならないと規定するが,同条2項2号は「法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって,その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書,一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき」は,同条1項の規定を適用しない旨を定めている。

法14条の3の2第1項1号の規定は,産業廃棄物収集運搬業者が法14条5項2号イからヘまでのいずれかの欠格要件に該当するに至ったときは,都道府県知事はその許可を取り消さなければならないと定めており,この規定に基づいてされた本件取消処分は,行政手続法13条2項2号にいう「法令上必要とされる資格が失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分」に当たるというべきである。

そして,前記のとおり,被告は,別件取消処分がされたことについて,埼玉県環境防災部長作成の通知文書によって通知を受けたと認められるところ,同文書は同号にいう客観的な資料に当たり,これによって,原告が欠格要件(法14条の3の2の規定により許可を取り消され,その取消しの日から5年を経過しないこと)に該当するに至ったことが直接証明されたというべきである。

そうすると,被告が本件取消処分に当たって原告に対する聴聞等の意見陳述のための手続を執らなかったことが,行政手続法13条,15条に違反するということはできない。

第4結論

よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口博 裁判官 阪本勝 裁判官 佐々木清一)

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