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千葉地方裁判所 平成19年(む)1383号 決定 2007年12月27日

主文

本件裁定の申立てを棄却する。

理由

1  申立ての趣旨及び理由

本件裁定の申立ての趣旨及び理由は,主任弁護人作成の「証拠開示に関する裁定請求書」記載のとおりであり,その要旨は,A及びBに対する各不起訴裁定書(以下「本件各不起訴裁定書」という。)がいずれも刑事訴訟法316条の20第1項により開示すべき証拠に該当するが,検察官がその開示に応じていないので,上記各証拠の開示を求めるというものである。

2  当裁判所の判断

・ 弁護人は,本件公判前整理手続において,検察官及び捜査当局は,Aらに対して,事前に刑事免責の付与(不起訴の密約)等を与えて捜査に協力させた上で,同人らの供述調書を作成したり,第1回公判期日前の証人尋問を実施し,かかる事実を隠蔽するため,Aらが退去強制処分に付されることを十分に認識しながら,ことさらそのような事態を利用しようとして,Aらを不起訴処分としたものであり,本件公訴提起に至るまでの一連の違法捜査にかんがみれば,その関係証拠の排除はもちろんのこと,本件公訴提起自体が不適法であり,棄却されるべきであるとの主張をしている。他方,検察官は,本件捜査は,適法なライブ・コントロールド・デリバリーによる捜査を端緒として,正当な手続の下で行われたものであり,上記主張には理由がないとしてこれを争っている。

そして,一件記録及び当事者の主張に照らすと,Aらが,いずれも平成18年11月11日に逮捕され,翌同月12日に勾留されたこと,その後,順次,Aらの供述調書が作成されていき,同月27日にはBの,翌同月28日にはAの検察官による取調べがそれぞれ行われ,それぞれその検察官面前調書が作成されたこと,同月30日にAらに対し,第1回公判期日前の証人尋問が行われたこと,その後,検察官が上記両名を不起訴相当と認め,同年12月1日,両名を釈放して同日東京入国管理局に引き渡したこと,Aらは,同月8日に退去強制となり,同月28日に不起訴処分となったことについては,いずれも動かし難い事実として各当事者が前提としている。したがって,Aらの出国に至るまでの客観的外形的事実は,当事者の攻防の対象となっていない。

・ そこで検討するに,上記弁護人及び検察官の各主張を前提とすると,本件では,Aらの検察官面前調書等の証拠能力や,公訴提起の効力の観点から,捜査の過程における違法性の有無及びその程度が争点となり,特に,刑事免責等の付与の有無と,Aらが釈放されて退去強制となった経緯が問題となる。そして,これらの点に関連して,本件では,検察官がAらを起訴しなかった理由が問題となり得るところ,一般に不起訴裁定書が不起訴処分の前提となる捜査の結果及びこれに対する検察官の評価を明らかにするものであることからすると,本件各不起訴裁定書が弁護人の上記主張に関連しないということはできない。

しかしながら,検察官は,捜査機関が収集した証拠資料や,捜査の経緯等を検討した上で,起訴するかどうかの判断をするものであり,不起訴裁定書は,これらの原証拠等に基づいて検察官が意見を付して作成した事件処理手続上の書面にすぎないところ,本件では,検察官が,Aらを不起訴処分とした担当検察官を証人申請していて,これが取り調べられる見込みであり,その証人尋問の結果が上記不起訴の理由に関する最も直接的な証拠となるべきものである上,弁護人は,Aらの検察官及び警察官に対する各供述調書,財務事務官に対する各供述調書並びに各証人尋問調書のほか,両名の捜査経過等に関する報告書など,担当検察官の証言の信用性を検討する上で必要となる原証拠の開示を受けていることからすれば,本件各不起訴裁定書を開示する必要性は乏しいといわざるを得ない。

加えて,本件各不起訴裁定書は検察の内部資料として本来的に開示が予定されているものではなく,捜査の秘密や,Aらを含む関係者のプライバシーに関する情報が記載されている可能性があることからすると,これらを開示した場合に生じるおそれのある弊害も軽視することができない。

・ 以上検討したとおり,弁護人の主張との関連性の程度,必要性の程度及び開示することにより生じるおそれのある弊害等を考慮すると,本件各不起訴裁定書を開示することが相当とは認められないので,刑事訴訟法316条の20第1項の要件を満たさない。

よって,本件裁定の申立てには理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 彦坂孝孔 裁判官 作田寛之 裁判官 甲斐雄次)

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