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千葉地方裁判所 平成22年(ワ)2362号 判決 2011年7月25日

原告

X1 他2名

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、各自、

(1)  原告X1に対して、二三〇五万一七四一円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(2)  原告X2に対して、九八六万七四九〇円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(3)  原告X3に対して、九九〇万五八七〇円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、

(1)  原告X1に対し、三五一八万二三六八円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(2)  原告X2に対し、一三八九万八七八六円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

(3)  原告X3に対し、一四〇五万八三七八円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、被告Y2(以下「被告Y2」という。)が、被告Y1(以下「被告Y1」という。)所有の自家用普通乗用自動車を運転して交差点を右折した際、一時停止義務及び右方の安全確認義務を怠った結果、右方道路を自転車で走行中の亡A(以下「亡A」という。)に自車を衝突させ、同人を死亡させた交通事故について、亡Aの相続人である原告らが、被告らに対し、被告Y2については民法七〇九条の不法行為責任に基づき、被告Y1に対しては自動車損害賠償保障法三条の損害賠償責任に基づき、亡Aに生じた損害及び原告らに生じた損害に係る損害賠償並びにこれらについての不法行為日である平成二一年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

(1)  交通事故

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

ア 発生日時 平成二一年八月三〇日午後七時二〇分ころ

イ 発生場所 兵庫県姫路市飾磨区城南町一丁目七番地先路上

ウ 加害車両 自家用普通乗用自動車(番号<省略>)

エ 加害車両運転者 被告Y2

オ 加害車両保有者 被告Y1

カ 被害車両 自転車

キ 被害車両運転者兼被害者 亡A

ク 態様 被告Y2が、加害車両を運転して上記場所の交差点を右折進行したところ、右方道路から進行してきた被害者運転の自転車と衝突し、被害者は頭部外傷等により、平成二一年九月五日に死亡するに至った。

(2)  責任原因

ア 被告Y2

被告Y2は、前記の交通整理の行われていない交差点を右折進行するに当り、一時停止の標識があるにもかかわらず一時停止を怠り、かつ、右方の交通の安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と時速一〇キロメートルの速度で右折進行した過失があり、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害の賠償責任を負担する。

イ 被告Y1

被告Y1は、加害車両の保有者として、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故による損害の賠償責任を負担する。

(3)  損害の発生

亡Aは、本件事故の治療費として、順心病院に対し五二万六九〇七円を支払い、また、入院雑費として一万〇五〇〇円の損害を被った。

(4)  損害の填補

亡Aの損害の内、治療費五二万六九〇七円は、填補された。

(5)  相続

亡Aの死亡により、その有する損害賠償請求権については、夫である原告X1が二分の一、子である原告X3及び原告X2が各四分の一の割合で、それぞれ相続した。

二  争点

(1)  亡Aに係る損害の有無及び額(争点一)

(2)  原告X1に係る損害の有無及び額(争点二)

(3)  原告X2に係る損害の有無及び額(争点三)

(4)  原告X3に係る損害の有無及び額(争点四)

(5)  過失割合(争点五)

(6)  原告X1に係る弁護士費用の請求の当否及び額(争点六)

三  争点に関する当事者の主張

(1)  争点一(亡Aに係る損害)について

ア 休業損害

(原告らの主張)

事故日(平成二一年八月三〇日)から死亡日(同年九月五日)までの七日間の主婦としての休業損害につき、基礎収入三〇四万二五〇〇円(賃金センサス女子・学歴計・七〇歳以上による。)として算出すると、五万八三四九円が本件事故による損害となる。

一般的に家事従事者とは、性別、年齢に関わりなく、家事を専業にする者を言うのであって、日常の家事をこなしていること自体を就労と考え、事故による受傷のため家事ができなかった場合に、休業損害を認め得ること自体、議論の余地はない。

(被告らの主張)

賃金センサスは、七〇歳以上の平均賃金を一括して算出しているが、これは、七二、七三歳が就労の限界だからであり、七五歳以上で就労している人はほとんどいないからである。そして、家事労働とは、当該家族を構成するものがなす場合には対価性がないものであり、就労という概念は当てはまらない。したがって、一般的な就労年数の限界である七五歳を超えている者については、家事労働について対価性を認めるべきではないから、亡Aの休業損害は、〇円と考えるべきである。

イ 逸失利益(家事従事者分)

(原告らの主張)

亡Aは、本件事故当時八〇歳であったとはいえ、健康で、身体に障害のある夫の食事の支度をはじめ、家事をこなしていたものであり、家事従事者としての逸失利益は、基礎収入を三〇四万二五〇〇円(前記アと同じ。)、就労可能年数を四年(ライプニッツ係数は三・五四六)、生活費控除を三割として算定すると、七五五万二〇九三円となる。

なお、亡Aは、夫のX1において年金収入等で年額約三二一万円の収入があったため、生活費は夫の収入で十分に足りていたのであり、ことさら生活費控除率を通常よりあげる必要はなく、三割で足りる。

(被告らの主張)

前記アで述べた理由から、八〇歳の亡Aの基礎収入は〇円と考えるべきである。なお、家事労働につき、生活費控除割合は、五割とするべきである。

ウ 逸失利益(年金喪失分)

(原告らの主張)

亡Aは、本件事故当時、国家公務員共済組合法に基づく共済年金(年額二五一万六七〇〇円)及び通算老齢年金(年額八四万二四〇〇円)を受給しており、平均余命年数九年(ライプニッツ係数は七・一〇八)、生活費控除を三割として計算すると、年金喪失による逸失利益は、一六七一万三五三七円となる。

(被告らの主張)

年金喪失分につき、年金のみで生計を立てているものについては、生活費に当てられる部分が大きいものと推測されるから、生活費控除率は、通常よりも高率の〇・七を用いるべきである。

エ 逸失利益(年金保険分)

(原告らの主張)

亡Aは、本件事故当時、旧郵政省(現株式会社かんぽ生命保険)との間に、簡易生命保険契約(終身年金保険契約)を締結していたため、本件事故により死亡しなければ、平成二一年度分の未受領額四万〇三一七円のほか、平均余命年数の九年の間、年金保険金を受け取ることができた。本件事故発生の平成二一年度の年金額は年額二四万一九〇二円であり、同年金額は、毎年前年度の年金額の三%複利計算により逓増するものであり、平成二二年以降の逸失利益は、一九二万二三四六円(二四万一九〇二円に、年三%の逓増による九年間のライプニッツ係数七・九四六八を乗じた金額)となる。

なお、死亡時に亡Aが受領していた年金は、亡Aが平成一〇年一一月までに支払った保険料(合計二四六万一九三六円)の対価として支払がなされていたもので、かつ、本件事故により死亡しなければ平均余命の間は支払を受けられたものであるから、逸失利益の対象となる。

(被告らの主張)

年金保険分につき、逸失利益の対象となるか否かは、年金掛金との対価性の有無の見地から判断するべきであるが、本件は、年金の保証期間後の死亡であるので、年金掛金との対価性がなく、逸失利益の対象とならない。

オ 慰謝料

(原告らの主張)

二二〇〇万円が相当である。

死亡による精神的苦痛は若い人も高齢者も同じであり、その間に差異はないから、高齢者との理由で慰謝料が減額されると考えることは、相当でない。

(被告らの主張)

高齢者については、余命も短く、死亡による精神的苦痛の程度は、青年や壮年の者に比べて減少すると考えられる。よって、慰謝料は、金一五〇〇万円が妥当である。

(2)  争点二(原告X1に係る損害)について

ア 葬儀費用

(原告らの主張)

原告X1が葬儀を主催し、三二六万四七一五円を支払ったところ(甲一六)、うち二〇〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と考えられる。

(被告らの主張)

原告らが指摘する葬儀費用の支出の事実は認めるが、うち、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては一五〇万円が相当である。

イ 介護費用

(原告らの主張)

亡Aは、心筋梗塞症等の後遺症、高血圧症、糖尿病等の疾患並びに変形性膝関節症等のために日常生活に支障のある原告X1の生活の一切の面倒を見ていたのみならず、看護師としての経験を活かして、同人の介護に当たっていた。

亡Aの死亡によって、原告X1は、日常生活の世話や介護をする者がいなくなり、精神的打撃も加わって、食事も一人で摂れない状況となったため、原告X2の妻や原告X3が交替で、原告X1の住所に赴き、日常の世話と介護をしてきており、当該介護に係る費用は、近親者による介護として本件事故と相当因果関係のある損害である。これまでに、合計三〇〇日につき、半日介護として、日額八〇〇〇円で計算すると、一二〇万円の損害が既に生じている。

(被告らの主張)

損害賠償の対象となることについて、否認する。亡Aが原告X1の介護をしていたとしても、同人の介護費用は、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

ウ 固有の慰謝料

(原告らの主張)

原告X1は身体に障害を抱えており、亡Aが生前原告X1の日常生活の世話をしていたため、亡Aの死亡による精神的苦痛は甚大であるので、二〇〇万円が相当である。

(被告らの主張)

慰謝料の額については、争う。

(3)  争点三(原告X2に係る損害)について

ア 緊急見舞いのための通院費用

(原告らの主張)

原告X2は、本件事故の連絡を受けて、救急搬送された加古川市内の順心病院に、取り急ぎ、家族(妻及び二人の子供)と共に駆け付けた際の交通費として、一二万三六四〇円を支出した。

(被告らの主張)

見舞いのための交通費用は、本件事故と相当因果関係はない。

イ 亡A死亡後の原告X1の介護のための交通費

(原告らの主張)

本件事故までは、亡Aが夫である原告X1の介護をしていたが、亡Aの突然の死亡により、原告X1が受けた精神的打撃は甚大で、食事も一人でとれない状況となったため、原告X2の妻と原告X3が交替で○○に赴き、生活の支援及び介護を行ったところ、原告X2は、その際の交通費二七万四三六二円(△△から○○まで、新幹線で一一回の往復分)を支出した。

(被告らの主張)

亡Aが原告X1を介護していたとしても、その介護は亡Aがしなければならないものではなく、また、亡Aが死亡したため職業付添人を解雇しなければならなかったとしても、その介護費用や交通費は本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

ウ 文書料等

(原告らの主張)

文書料等として、九六〇〇円を支出した。

(被告らの主張)

原告ら主張に係る損害については、知らない。

エ 固有の慰謝料

(原告らの主張)

一〇〇万円が相当である。

(被告らの主張)

慰謝料の額については、争う。

(4)  争点四(原告X3に係る損害)について

ア 緊急見舞いのための通院費用

(原告らの主張)

原告X3は、本件事故の連絡を受けて、救急搬送された加古川市内の順心病院に、取り急ぎ、家族(夫及び四人の子供)と共に駆け付けた際の交通費として、一八万八五二〇円を支出した。

(被告らの主張)

見舞いのための交通費用は、本件事故と相当因果関係はない。

イ 看護のための通院交通費

(原告らの主張)

亡Aは入院後も意識不明で危篤状態が続いており、いつ死亡してもおかしくない状況であったため、近親者としては片時も離れず容態を見守る必要があった。そこで、亡Aの子である原告X3は、亡Aが死亡するまでの間の平成二一年九月一日から同月五日まで、看護のため通院し、そのための交通費(タクシー代)として、七万九三七〇円を支出した。

(被告らの主張)

亡AはICUに入っていたので、完全看護であり、近親者の看護は不要であったと思われる。また、交通費の額については、知らない。

ウ 亡A死亡後の原告X1の介護のための交通費

(原告らの主張)

本件事故までは、亡Aが夫である原告X1の介護をしていたが、亡Aの突然の死亡により、原告X1が受けた精神的打撃は甚大で、食事も一人で摂れない状況となったため、原告X2の妻と原告X3が交替で○○に赴き、生活の支援及び介護を行ったところ、原告X3は、その際の交通費二九万九三〇四円(△△から○○まで、新幹線で一二回の往復分)を支出した。

(被告らの主張)

前述のとおり、亡Aが原告X1を介護していたとしても、同人の介護費用や交通費は、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

エ 固有の慰謝料

(原告らの主張)

一〇〇万円が相当である。

(被告らの主張)

慰謝料の額については、争う。

(5)  過失割合(争点五)

(原告らの主張)

本件事故は、一時停止義務違反の右折四輪車と直進自転車との事故であり、基本的な過失割合は、自転車が一〇%、四輪車が九〇%であると考えられるが、亡Aが高齢者であるため、亡Aの過失が五%減少する。また、本件事故現場の道路は、住宅街の中の幅員約六メートルの道路であるため、自転車が必ずしも道路左側を走行するとは限らず、左端寄り不十分な状況で走行すること自体、十分に予想し得る道路状況であることからすれば、被告Y2が重大な前方注視義務違反を犯していることを直視すると、亡Aによる左寄り不十分の過失をあえて考慮する必要もない。

(被告らの主張)

一時停止義務違反の右折四輪車と直進自転車との事故においては、基本的な過失割合は、自転車が一〇%、四輪車が九〇%である。そして、亡Aが高齢者であり過失が五%減少したとしても、左側通行義務違反により亡Aの過失が五%増加するので、差し引きすると過失割合は亡A・一〇%、被告Y2・九〇%となる。

(6)  原告X1に係る弁護士費用の請求の当否及び額(争点六)

(原告らの主張)

提訴前に加害車両に付保されている任意保険会社から提示された金額はきわめて低額であり、提示額に了解できない旨通知したにもかかわらず、その後、加害者側から何の連絡もなかったため、やむを得ず提訴に及んだものである。

(被告らの主張)

被告らは、本件の損害については、妥当な金額の請求であれば支払う意思があったのであり、本件は、弁護士に委任することや訴え提起など不要であった。

第三当裁判所の判断

一  亡Aに係る損害について(争点一関係)

(1)  治療関係費について

治療関係費として、五三万七四〇七円が生じたことについては、当事者間に争いがない。(前記第二の一(3)参照)

(2)  休業損害について

証拠(甲一七から二一まで(枝番号があるものについては、各枝番号を含む。以下同じ。)、甲三六)によれば、亡Aは、本件事故当時八〇歳であったが、健康な状態であり、夫と二人暮しで、家事全般を行うとともに、身体に障害(身体障害者等級表による級別の四級)のある夫の原告X1の介護に当たっていたこと等の事情に照らせば、基礎収入(年額)としては、賃金センサス(平成二〇年・女子・学歴計・七〇歳以上)三〇四万二五〇〇円の八割に相当する二四三万四〇〇〇円をもって、本件事故により家事労働に従事することができなかった損害を算定するのが相当であると解される。

よって、治療により家事労働に従事することができなかった期間である七日間(平成二一年八月三〇日から同年九月五日まで)につき、四万六六七九円の損害が生じたことになる。

(計算式 2,434,000×7÷365=46,679(円))

(3)  逸失利益(家事従事者分)について

上記(2)のとおり、亡Aの家事労働に関する基礎収入としては、年額二四三万四〇〇〇円をもって相当であると解される。そして、就労可能年数としては四年(ライプニッツ係数は、三・五四六)、また、証拠(甲九から一二まで、甲三〇)によれば、亡A夫妻は、共に年金収入を得ており、その額についてもほぼ同等であったことをふまえると、亡Aの生活費控除率については四割とするのが相当であると解される。

そうすると、亡Aの家事従事者としての逸失利益としては、五一七万八五七八円相当の損害が生じたことになる。

(計算式 2,434,000×3.546×(1-0.4)=5,178,578(円))

(4)  逸失利益(年金喪失分)

証拠(甲九から一二まで)によれば、亡Aは、生前、国家公務員共済組合法に基づく共済年金(年額二五一万六七〇〇円)と、通算老齢年金(年額八四万二四〇〇円)を受領しており、その年額合計は、三三五万九一〇〇円となる。

そして、平均余命年数九年間(ライプニッツ係数は、七・一〇八)につき、年金分に関する生活費控除率としては五割を相当として計算すると、亡Aが死亡によって受領することができなくなった年金に係る逸失利益は、一一九三万八二四一円となる。

(計算式 3,359,100×7.108×(1-0.5)=11,938,241(円))

(5)  逸失利益(年金保険分)

証拠(甲一三から一五まで)及び弁論の全趣旨によれば、①亡Aは、本件事故当時、簡易生命保険契約に基づき、年額にして二四万一九〇二円の年金保険金を受領していたこと、②平成二一年分のうち四万〇三一七円は未受領であったこと、③亡Aが本件事故により死亡しなければ、本件事故の翌年である平成二二年以降も、平均余命年数の九年間にわたり、当該年金保険金(年三%の割合で逓増するもの。甲一五参照)を受領することができ、その額は一九二万二三四六円となること、④これらの事情に照らせば、年金保険金に係る逸失利益は、一九六万二六六三円となることが、それぞれ認められる。

なお、被告は、保険料と対価性のない年金保険金は、本件事故と相当因果関係のある逸失利益に当たらないと主張して、その根拠として最高裁の裁判例(乙三、四)を指摘するが、当該裁判例は、社会保障的な性格が強く、厚生年金保険法、恩給法等の法令の規定に基づいて給付される遺族厚生年金等に係るものであり、亡Aに係る簡易生命保険契約に基づく年金保険金と同列に論じることができないものであるから、被告の上記主張は、理由があるとは認められない。

(6)  慰謝料について

証拠(甲三六)及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、本件事故当時八〇歳の高齢ではあったとはいえ、健康で、日常家事の全般を一人で行うとともに、夫である原告X1の介護を行っていたこと、各種の趣味を有していたこと等の事情があることが認められる。

これに加えて、本件に関してうかがわれる一切の事情を総合考慮すれば、亡Aの死亡による慰謝料としては、一八〇〇万円をもって相当であると解される。

(7)  小括

以上によれば、亡Aに生じた損害額の合計は、上記(1)から(6)までの合計三七六六万三五六八円であることになる。

二  原告X1に係る損害について(争点二関係)

(1)  葬儀費用

証拠(甲一六)によれば、原告X1は、本件事故により死亡した亡Aの葬儀関係費用として三二六万四七一五円を支出したことが認められるところ、そのうち一五〇万円をもって本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(2)  介護費用

証拠(甲三六)及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、生前、日常の家事の大半を行うとともに、夫である原告X1の介護を行っていた事実が認められるものの、この点については、亡Aに生じた逸失利益(家事従事者分)としての評価が別途されているところであり、原告X1は、これを相続人として承継することになるから、亡Aの死亡後に原告X1に介護のために要する費用が別途生じるとしても、当該費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と解するには足りない。

よって、この点に係る原告らの主張は、理由がないことになる。

(3)  慰謝料

亡Aの死亡によって、夫である原告X1に生じた精神的苦痛に係る慰謝料としては、本件に係る一切の事情を総合考慮すれば、二〇〇万円をもって相当であると解される。

(4)  小括

以上によれば、原告X1に係る固有の損害は、上記(1)及び(3)の合計である三五〇万円であると認められることになる。

三  原告X2に係る損害について(争点三関係)

(1)  緊急見舞いのための通院費用

弁論の全趣旨によれば、亡Aが本件事故により瀕死の重傷を負ったため、原告X2は、家族(妻及び子供二人。甲二七参照)と共に、住所地から兵庫県加古川市所在の病院まで駆け付けるべく、新幹線等を利用し、移動したことが認められ(なお、証拠(甲三八から四四まで)及び弁論の全趣旨(前記第二の三(3)イ及び同(4)ウ参照)によれば、新幹線による片道交通費としては、少なくとも一万二四七〇円程度を要すると認められる。)、原告X2が要したと主張する費用のうち一〇万円をもって、本件事故と相当因果関係のある損害と解するのが相当である。

(2)  介護のための交通費

証拠(甲三六)及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、生前、日常の家事の大半を行うとともに、夫である原告X1の介護を行っていた事実が認められ、また、亡Aの死亡後は、原告X2の妻と原告X3が交替で、○○に赴き、原告X1の生活の支援及び介護を行っていると認められる。

しかしながら、亡Aにより原告X1の介護が行われていた点については、亡Aに生じた逸失利益(家事従事分)としての評価が別途されているところであり、原告らは、これを相続人として承継することになるから、亡Aの死亡後に、原告X1の介護のために要する費用が別途生じるとしても、当該費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と解するには足りない。

よって、この点に係る原告らの主張は、理由があるとは認められない。

(3)  文書料等

亡Aの死亡に関しては、本件訴訟の提起に先立って、診断書(甲五)の取得や、被告加入の保険会社との事前交渉(甲三一参照)等に伴い、一定の文書料等の支出があったことを推認することができるので、九六〇〇円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(4)  慰謝料

亡Aの死亡によって、子である原告X2に生じた精神的苦痛に係る慰謝料としては、本件についての一切の事情を総合考慮すれば、一〇〇万円をもって相当であると解される。

(5)  小括

以上によれば、原告X2に係る損害としては、上記(1)、(3)及び(4)の合計である一一〇万九六〇〇円であると認められる。

四  原告X3に係る損害について(争点四関係)

(1)  緊急見舞いのための通院費用

弁論の全趣旨によれば、亡Aが本件事故により瀕死の重傷を負ったため、原告X3は、家族(夫及び四人の子供。甲二六参照)と共に、住所地から兵庫県加古川市所在の病院まで、新幹線等を利用し、移動したことが認められ、前記三(1)と同様の理由に照らし、原告X3が要したと主張する費用のうち一五万円をもって、本件事故と相当因果関係のある損害と解するのが相当である。

(2)  看護交通費

証拠(甲二・一七枚目)によれば、亡Aは、本件事故後死亡するまで集中治療室にいたことが認められ、近親者において、看護のために毎日通院する必要があったと認めるには足りず、また、原告らの主張には、近親者としては、片時も離れず容態を見守る必要があったため、亡Aの自宅から通院していた旨の指摘もあるが、そのために、一日に二~三回タクシーを使用する必要があったこと(甲四五から五四まで参照)を直接にうかがわせる事情も見当たらないことからすれば、原告X3がその主張に係るタクシー代を支出したことが、本件事故と相当因果関係のある損害に当たると認めるには足りない。

(3)  介護のための交通費

前記三(2)と同様の理由により、この点に係る原告らの主張については、理由があるとは認められない。

(4)  慰謝料

亡Aの死亡によって、子である原告X3に生じた精神的苦痛に係る慰謝料としては、本件についての一切の事情を総合考慮すれば、一〇〇万円をもって相当であると解される。

(5)  小括

以上によれば、原告X3に係る損害としては、上記(1)及び(4)の合計である一一五万円であると認められる。

五  過失割合について(争点五関係)

(1)  本件事故は、前記争いのない事実で認定のとおり、交通整理の行われていない交差点において、被告Y2が、一時停止義務に違反し、かつ、安全確認義務を怠って、漫然と右折進行した過失により、自転車で走行中の亡Aに衝突し、死亡させたものである。

(2)  ところで、証拠(甲二・一〇枚目の交通事故現場見取図)により、亡Aと被告車両の衝突地点は、亡Aが進行してきた道路のセンターライン寄りの地点であることが認められることからすれば、亡Aは車道のセンターライン寄りを走行していたと言うことができるのであって、この点につき、亡Aには、自転車を運転するに当たって、車線の左側を通行していなかった過失があることになる。

(3)  そして、亡Aが八〇歳の高齢であったこと、本件事故が発生した時刻その他の一切の事情を総合考慮すれば、本件事故の発生に係る被害者(亡A)と加害者(被告Y2)との過失割合は、前者が五%、後者が九五%と解するのが相当である。

六  各原告が被告らに対して有する損害賠償請求権について

(1)  亡Aに生じた損害について

前記一(7)のとおり、亡Aに生じた損害額の合計は、三七六六万三五六八円であり、この額について過失相殺割合である五%を減じると、三五七八万〇三八九円となり、さらに、前記争いのない事実(第二の一(4))記載のとおり、治療費五二万六九〇七円は填補済みであるので、同額を控除すると、残額は三五二五万三四八二円となる。

そして、同額を原告らが法定相続分に従って相続した結果、原告X1は、上記額の二分の一である一七六二万六七四一円を、原告X2と原告X3は、それぞれ上記額の四分の一である八八一万三三七〇円を取得したことになる。

(2)  原告X1が被告らに対して有する損害賠償請求権について

ア 原告X1に係る損害について

前記二(4)で述べたとおり、、原告X1に係る固有の損害額の合計は三五〇万円であり、この額について過失相殺割合五%を減じると、三三二万五〇〇〇円となる。

イ 弁護士費用について(争点六関係)

原告X1は、本件事故による損害として、弁護士費用五〇〇万円を請求しているところ、前述したところを総合すれば、弁護士費用としては、二一〇万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

ウ 小括

以上によれば、原告X1は、①亡Aに生じた損害の賠償請求権を相続により取得した分として一七六二万六七四一円(前記(1)参照)、②固有の損害として三三二万五〇〇〇円(前記ア参照)、③弁護士費用二一〇万円(前記イ参照)の合計である二三〇五万一七四一円の損害賠償請求権を有することになる。

(3)  原告X2が被告らに対して有する損害賠償請求権について

ア 原告X2に係る損害について

前記三(5)で述べたとおり、原告X2に係る固有の損害額の合計は一一〇万九六〇〇円であり、この額について過失相殺割合五%を減じると、一〇五万四一二〇円となる。

イ 小括

以上によれば、原告X2は、①亡Aに生じた損害の賠償請求権を相続により取得した分として八八一万三三七〇円(前記(1)参照)、②固有の損害として一〇五万四一二〇円(前記ア参照)の合計である九八六万七四九〇円の損害賠償請求権を有することになる。

(4)  原告X3が被告らに対して有する損害賠償請求権について

ア 原告X3に係る損害について

前記四(5)で述べたとおり、原告X3に係る固有の損害額の合計は一一五万円であり、この額について過失相殺割合五%を減じると、一〇九万二五〇〇円となる。

イ 小括

以上によれば、原告X3は、①亡Aに生じた損害の賠償請求権を相続により取得した分として八八一万三三七〇円(前記(1)参照)、②固有の損害として一〇九万二五〇〇円(前記ア参照)の合計である九九〇万五八七〇円の損害賠償請求権を有することになる。

第四結論

以上によれば、原告らの被告ら各自に対する請求は、

(1)  原告X1については、二三〇五万一七四一円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、

(2)  原告X2については、九八六万七四九〇円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、

(3)  原告X3については、九九〇万五八七〇円及びこれに対する平成二一年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を

それぞれ求める限度で理由があるから、当該限度で認容することとし、その余の請求の部分は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言については同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 花村良一)

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