千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)33号 判決 1996年10月11日
原告
三門カントリークラブ株式会社
右代表者代表取締役
溝田伴治
右訴訟代理人弁護士
田村徹
被告
千葉県知事
沼田武
右訴訟代理人弁護士
古屋絋昭
右指定代理人
大木邦夫
外七名
被告
岬町長
江澤嘉彦
右訴訟代理人弁護士
古屋絋昭
右指定代理人
魚地政雄
外三名
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告が平成三年一二月二〇日に被告岬町長に提出した被告千葉県知事宛の「夷隅郡岬町三門・東小高地区のゴルフ場等の開発事業事前協議申出書」について、被告岬町長がこれを審査せず被告千葉県知事に進達しないことが違法であることを確認する。
二 原告が平成三年一二月二〇日に被告千葉県知事にした事前協議の申請に対し、被告千葉県知事がなんらの処分をしないことが違法であることを確認する。
第二 事案の概要
一 原告の主張
1(一) 原告は、千葉県の「宅地開発事業等の基準に関する条例」(以下「本件条例」という。)五条四項及び「宅地開発事業等の基準に関する条例施行規則」(以下「本件施行規則」という。)二条の二第四項に基づき、平成三年一二月二〇日、被告岬町長(以下「被告町長」という。)に対し、被告千葉県知事(以下「被告知事」という。)宛の「夷隅郡岬町三門・東小高地区のゴルフ場等の開発事業事前協議申出書」(以下「本件協議申出書」という。)を差し出し、もって、被告町長に対し、本件施行規則二条の二第四項に定められた「経由」としての「提出」をして、本件協議申出書の審査及び被告知事への進達の「申出」(申請)をするとともに、被告知事に対し、本件条例五条四項に定められた協議申出書の「提出」をして、同条一項の事前協議の「申出」をした(以下「本件事前協議の申請」という。)
(二) 被告町長は、右「提出」を受けたことにより、本件協議申出書を審査して被告知事に進達する処分をなすべき法的義務を負った。
(三) 被告知事は、右「提出」を受けたことにより、本件事前協議の申請に対してなんらかの処分をなすべき法的義務を負った。
2 しかるに、被告町長は、現在まで、本件協議申出書について審査及び進達の処分をせず、被告知事も、現在まで、本件事前協議の申請に対してなんらの処分をしない。
3 よって、原告は、被告町長が本件協議申出書について審査及び進達をしないことが違法であることの確認を求めるとともに、被告知事が本件事前協議の申請に対してなんらの処分をしないことが違法であることの確認をもとめる。
二 被告らの主張
1 本案前の主張
(一)(1) 原告が本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」したがって本件条例五条四項にいう事前協議申出としての「提出」をしたことはない。したがって、原告は原告適格を有しないから、被告らに対する本件訴えはいずれも却下されるべきである。
もっとも、原告は、平成三年一二月二〇日、岬町役場に本件協議申出書を置いていったことはあるが、しかし、これをもって右「提出」ということはできない。なぜなら、「提出」とは、到達した文書が「収受」されることをいい、「収受」とは収受印を押印して文書の到達を確認することをいうのであるが、被告町長は本件協議申出書の到達を確認していないからである。
そもそも、本件協議申出書はその内容が不備であり、本件施行規則で定められた添付書類も不足していたのであって、本件条例及び本件施行規則にいう「協議申出書」とはいえないものであった。
(2) 仮に、本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」したがって本件条例五条四項にいう事前協議申出としての「提出」があったとしても、本件協議申出書は未だ「受理」されていない。
被告町長が本件協議申出書を審査して被告知事に進達すべき義務を負うというためには、また、被告知事が事前協議の申請に対してなんらかの処分をなすべき義務を負うというためには、右「提出」のほかに、被告町長が本件協議申出書を「受理」することが必要であるが、被告町長は未だ右の「受理」をしたことはないのである。ちなみに、「受理」とは、申請等を有効なものとして受け取ることをいう。
そもそも、本件協議申出書はその内容が不備であり、本件施行規則で定められた添付書類も不足していたのであって、到底「受理」され得ないものであった。
(二) 仮に、原告が被告町長に本件協議申出書を「提出」し、これが「受理」されたとしても、原告の主張する本件協議申出書の審査及び被告知事への進達は、本件条例五条一項の事前協議の前提たる事実行為であって、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないから、原告の被告町長に対する本件訴えは却下されるべきである。
(三) また、仮に、被告町長に対する本件協議申出書の「提出」及び「受理」があったとされ、被告知事になんらかの処分をなすべき義務が発生したとすれば、被告知事(実際には被告町長)は、平成四年六月二九日、原告に対して本件協議申出書を受け取れない旨を説明し、もって、本件事前協議の申請を拒否する処分をした。したがって、被告知事には原告の主張する不作為はないから、原告の被告知事に対する本件訴えは却下されるべきである。
(四) 仮に然らずとするも、原告は、平成四年六月三〇日、被告知事に対する本件事前協議の申請を取り下げた。
2 本案の主張
(一) 「原告の主張」1に対して
(1) 前記のとおり、原告が本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」したがって本件条例五条四項にいう事前協議申出としての「提出」をしたことはない。
そもそも、本件協議申出書はその内容が不備であり、本件施行規則で定められた添付書類も不足していたのであって、本件条例及び本件施行規則にいう「協議申出書」とはいえないものであった。
(2) 仮に、本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」したがって本件条例五条四項にいう事前協議申出としての「提出」があったとしても、本件協議申出書は未だ「受理」されていない。
そもそも、本件協議申出書はその内容が不備であり、本件施行規則で定められた添付書類も不足していたのであって、到底「受理」され得ないものであった。
(二) 「原告の主張」2に対して
(1) 被告町長が本件協議申出書を審査せずかつこれを被告知事に進達していないことは認めるが、「提出」及び「受理」がない以上当然である。
(2) 被告知事がなんらの処分もしていないことは認めるが、本件協議申出書の「提出」及び「受理」がない以上当然である。仮に、本件協議申出書の「提出」及び「受理」があったとされ、被告知事になんらかの処分をなすべき義務が発生していたとすれば、被告知事は、平成四年六月二九日に本件事前協議の申請を拒否する適法な処分をしている。
三 原告の再主張(被告らの本案前の主張に対し)
1 「本案前の主張」(一)の解釈主張は争う。
2 「本案前の主張」(二)も争う。被告町長がなすべき本件協議申出書の審査及び被告知事への進達は行政処分性を有する。
3 「本案前の主張」(三)の内、被告知事(実際には被告町長)が平成四年六月二九日に原告に対して本件協議申出書を受け取れない旨を説明して、本件事前協議の申請を拒否する処分をしたことは認めるが、その余の主張は争う。
4 「本案前の主張」(四)の事実は否認する。
第三 当裁判所の判断
一 本件協議申出書の「提出」について
1 弁論の全趣旨によれば、原告の代理人ないし使者は、平成三年一二月二〇日、岬町役場に赴き、同町企画課長に対し本件協議申出書を差し出し、これを置いて帰ったことが認められる。
そうとすれば、右は被告町長に対する本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」にあたるものというべきである。なぜなら、被告町長への「提出」は、被告知事に提出する趣旨で協議申出書を被告町長に差し出してこれを被告町長の支配下に置くことで足りるものと解されるからである。
被告らは、「『提出』とは到達した文書が「収受」されることをいい、『収受』とは収受印を押印して文書の到達を確認することをいう。」旨を主張するが、それは内部処理の問題であって、採用することができない。
また被告らは、「そもそも、本件協議申出書はその内容が不備であり、本件施行規則で定められた添付書類も不足していたのであって、本件条例及び本件施行規則にいう『協議申出書』とはいえないものであった。」旨を主張するが、もし本件協議申出書の内容が不備であったのであれば、「提出」を受けた上で補正を命ずれば足りるのであって、それをもって「提出」を受けることを拒むことはできない。
2 原告から被告町長への本件協議申出書の「提出」によって、被告町長は、本件協議申出書を速やかに被告知事に進達すべきこととなるに至り、また、被告知事は、原告からの本件事前協議の申請に対して、速やかに原告と事前協議をなすべき義務を負うに至ったというべきである。
被告らは、「仮に『提出』があったとしても、本件協議申出書は未だ『受理』されていない。被告町長が協議申出書を審査して被告知事に進達すべき義務を負うというためには、また、被告知事が本件事前協議の申請に対してなんらかの処分をなすべき義務を負ったというためには、右『提出』のほかに『受理』のなされることが必要であるが、被告町長は未だ右の『受理』をしたことはないのである。ちなみに、『受理』とは、申請等を有効なものとして受け取ることをいう。」旨を主張するが、本件条例五条四項は別紙のとおり「提出」とのみ規定しているところであって、被告らの右主張は採用することができない。
3 そして、被告町長に対する本件施行規則二条の二第四項にいう「経由」としての「提出」があった以上、それは同時に本件条例五条四項にいう被告知事への事前協議の申請があったものと解すべきである。なぜなら、本件条例五条一項及び四項並びに本件施行規則二条の二第一項及び第四項は別紙のとおり規定しているところ、右規定を総合して考えると、被告知事は本件条例によって与えられた事前協議申出書の提出を受ける権限の内の受付権限を地方自治法一五条一項に基づいて市町村長等に授与したものと解されるからである。
4 仮に、千葉県においては、事前協議書の提出に先立ってそれを提出しようとする者と市町村長とで事前相談をし、市町村として受け入れることのできる開発事業についてのみ事前協議書を提出させ(但し、この場合でも、これはまだ正式な事前協議書の提出ではないとする。)、これに基づいて市町村長と知事とで内協議をし、県としても受け入れることができるものと判断した場合にのみ初めて正式な事前協議申出書を市町村長に提出させて受理させる扱いとしているとしても、それは行政庁内部での取扱いにしかすぎないのであるから、その扱いをもって、右事前相談等を経ない協議申出書を拒むことはできないものというべきである。
二 訴えの却下について
1(一) 弁論の全趣旨によれば、被告町長は、平成三年一二月二〇日に原告から本件協議申出書の提出を受けた後、これを被告知事に進達せず、翌平成四年六月二九日、原告に対して、本件協議申出書を受け取れない旨を説明して(この点は当事者間に争いがない。)、本件協議申出書を返戻したこと(以下「本件返戻行為」という。)が認められる。
(二) 被告町長の本件返戻行為は、前記一3と同様の理由により、被告知事の返戻行為とみるべきであるから、被告知事は、原告に対して、原告からの本件事前協議の申請に対しては以後これに応ずる意思はない旨の事前協議を拒否する処分をしたものということができる。
2 原告の被告町長に対する訴えについて判断する。
(一) 行政事件訴訟法三条五項にいう「処分」とは、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている行政庁の行為をいうものである(最高裁判所昭和三九年一〇月二九日第一小法廷判決等参照)。
そこで、これを本件についてみるに、被告町長のなすべき前記「進達」は、被告町長に本件協議申出書が提出された後の(したがって、被告知事に対して本件事前協議が申請された後の)行為であって、それは行政庁内部の行為とみるべきものであり、その進達行為自体によって直接国民の権利義務が形成され又はその範囲が確定されるものではないから、未だ行政処分性を有しないものというべきである。
(二) 原告の被告町長に対する本件訴えは、仮にその請求の趣旨の適否をしばらくおくとしても、この点から、不適法として却下を免れないものである。
3 次に、被告知事に対する訴えについて判断する。
(一) 原告は、前記のとおり、「被告知事は、本件事前協議の申請に対して、なんらの処分もしない。」旨を主張している。
(二) しかしながら、被告知事は、前記のとおり、原告からの本件事前協議の申請に対して以後はこれに応ずる意思はない旨の事前協議を拒否する処分をしているのであるから(被告知事が本件事前協議の申請を拒否する処分をしたことは当事者間に争いがない。)、そうとすると、被告知事はなんらの処分をしていないのではなく、右の拒否処分をしているのであるから、原告の被告知事に対する本件訴えは、その前提を欠き、不適法として却下を免れないというべきである。
なお、被告知事の右処分は、優に行政処分性を有するものである。なぜなら、本件条例七条三項によれば、知事と事前協議をしてその同意を得た者だけが同条一項の設計確認を申請する適格を有するものとされているからである。
三 結論
よって、原告の本件訴えをいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官原田敏章 裁判官木納敏和 裁判官武宮英子)
別紙本件条例
(協議)
第五条 十ヘクタール以上の開発区域に係る宅地開発事業及びゴルフ場等の開発事業(以下「大規模宅地開発事業等」という。)を行おうとする者は、当該大規模宅地開発事業等の計画について、あらかじめ、知事に協議し、同意を得なければならない。
2 十ヘクタール以上の開発区域に係る宅地開発事業に係る前項の同意は、次の各号に掲げる事項を勘案してするものとする。
一 当該開発区域において生活用水が確保されること。
二 当該開発区域についてバス、鉄道等による輸送の便が確保されること。
三 当該開発区域及びその周辺の区域における住民の利便に支障をきたさないように公共施設及び学校その他の公益的施設が整備されること。
四 当該開発区域及びその周辺の区域において、災害防止、自然環境の保全等が図られること。
3 ゴルフ場等の開発事業に係る第一項の同意は、前項第四号に掲げる事項を勘案してするものとする。
4 第一項の協議を申し出ようとする者は、協議申出書に規則で定める図書を添えて、知事に提出しなければならない。
5 知事は、第一項の同意をしたときは、協議を申し出た者にその旨を通知しなければならない。同意をしなかったときも、同様とする。
別紙本件施行規則
第二条の二 条例第五条第四項に規定する協議申出書は、宅地開発事業事前協議申出書(別記第一号様式)又はゴルフ場等の開発事業事前協議申出書(別記第一号様式の二)とする。
2 条例第五条四項に規定する規則で定める図書は、次のとおりとする。
一 開発区域位置図(縮尺二万五千分の一以上のもの)
二 土地利用現況図及び計画図(縮尺二千五百分の一以上のもの)
三 開発事業計画に関する概要書
3 前二項に規定する図書の提出部数は、正本一部及び副本三部とする。
4 条例第五条第四項の規定による協議申出書及び図書の知事への提出は、開発区域の所在する市町村の長及びその区域を管轄する支庁の長を経由して行わなければならない。
5 前項の場合において、開発区域が二以上の市町村又は支庁の管轄区域にわたるときは、前項の図書は、それぞれの市町村の長及び支庁の長を経由するものとする。
6 前項の場合における図書の正本の提出部数は一部、副本の提出部数は当該市町村又は支庁の数に一を加えて得た数とする。