千葉地方裁判所 平成5年(行ウ)21号 判決 1998年4月23日
千葉県市川市北方二丁目一番一三号
原告
島村好子
東京都江戸川区平井四丁目七番一三号
原告
島村康雄
同右所
原告
島村克之
同右所
原告
島村孝之
右四名訴訟代理人弁護士
岩﨑精孝
千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号
被告
市川税務署長 太田佳孝
東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号
被告
江戸川北税務署長 田村愼太郎
被告ら訴訟代理人弁護士
古屋紘昭
被告ら指定代理人
清野正彦
同
関澤節男
同
宮崎芳久
同
藤木照雄
同
河村康之
同
櫻井和彦
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求(ただし、二の請求については、被告変更許可後のものである)
一 被告市川税務署長が、原告らに対し、平成二年一二月二五日付でした昭和六三年五月一一日相続開始にかかる相続税の各更正処分(ただし、原告島村好子、原告島村康雄及び原告島村孝之については、国税不服審判所長が平成五年七月九日付でした採決により減額された後のもの)のうち、
1 原告島村好子については課税価格金一五九万四〇〇〇円、納付すべき相続税額金八七万九八〇〇円を、
2 原告島村康雄については課税価格金八億九四一二万二〇〇〇円、納付すべき相続税額金四億八一六一万九四〇〇円を、
3 原告島村克之については課税価格金四億九九九一万二〇〇〇円、納付すべき相続税額金二億六九三二万八一〇〇円を。
4 原告島村孝之については課税価格金六億四八五二万〇〇〇〇円、納付すべき相続税額金三億四九一四万七七〇〇円を、
それぞれ超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(ただし、原告島村好子、原告島村康雄及び原告島村孝之については、国税不服審判所長が平成五年七月九日付でした採決により減額された後のもの)をそれぞれ取り消す。
二 被告江戸川北税務署長が、原告島村康雄、原告島村克之及び原告島村孝之に対し、平成二年一二月二五日付でした昭和六〇年分贈与税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
三 被告市川税務署長が、原告島村好子に対し、平成二年一二月二五日付でした昭和六〇年分贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
第二事案の概要等
本件は、原告らが、相続税(被相続人島村延壽、昭和六三年五月一一日死亡)の税額に関し、被告市川税務署長による遺産評価額(東金の土地を売買契約額による、浦安の土地を広大宅地減価せず一部しか借地権付としない、平井の駐車場を賃借権付としない、平井の借地を借地人組合との長期紛争を考慮した減価不十分、平井の薬局の土地を遺産に含めた、平井の借地の賃料供託額を遺産に含めた、被相続人の所得税等の滞納税を相続開始日以降分を相続債務にしない各評価をした点)に誤りがあると主張して、同被告の平成二年一二月二五日付更正処分(以下「本件更正処分」という)による額(但し、原告島村克之以外の原告らについては東京国税不服審判所長の一部取消採決による減額後のもの)のうち原告らの評価に基づく税額を超える部分、及び、過少申告加算税賦課決定処分(但し、原告島村克之以外の原告らについては東京国税不服審判所長の一部取消採決による減額後のもの)の各取消を求め、かつ、昭和六〇年分贈与税の課税につき、当該みなし贈与の発生原因とする土地賃借権設定は昭和四九年であって事実誤認があると主張して、被告ら(江戸川北税務署長、但し、原告島村好子につき市川税務署長)の贈与税決定処分(以下「本件決定処分」という)及び無申告加算税賦課決定処分の各取消を求める事案である。
一 基礎的事実
1 相続関係等
島村延壽(被相続人)は昭和六三年五月一一日死亡し、原告ら四名がこれを共同相続(以下「本件相続」という)した。(争いがない)
原告島村好子は被相続人の子(三女)であり、原告島村康雄・同島村克之・同島村孝之はいずれも被相続人の養子(原告島村好子の子)であり、昭和六三年当時原告島村孝之は未成年であった。(弁論の全趣旨)
有限会社進円商会(代表者原告島村好子)(以下「進円商会」という)は、被相続人所有不動産の管理運営をする為の会社として、原告らが出資(全出資口数三〇〇〇口につき、原告島村好子六〇〇口、その他の原告ら各八〇〇口各出資)して昭和四九年五月二〇日設立した会社である。
(弁論の全趣旨)
2 本件各課税処分の経過等
(一) 本件相続に関する原告らの相続税の申告から課税処分の経過は、次のとおりであり、各申告・課税処分等における課税価格と税額は別紙1の<1>乃至<10>に記載のとおりである。(争いがない)
<1> 昭和六三年一一月一一日相続税の申告(原告ら)
<2> 平成元年四月二一日第一次更正の請求(原告ら)
<3> 平成元年五月一五日更正処分(被告市川税務署長、<2>の請求どおり)
<4> 平成元年九月二五日第二次更正の請求(原告ら)・修正申告(原告島村好子)
<5> 平成元年九月二五日再更正処分(同被告、<4>の請求どおり)
<6> 平成二年一二月二五日更正及び賦課決定処分(同被告、別紙1<6>どおり)
<7> 平成三年二月二五日異議申立(原告ら、別紙1の<7>の額を主張)
<8> 平成三年五月二〇日異議棄却(東京国税局長)
<9> 平成三年六月二〇日審査請求(原告ら、別紙1の<9>の額、<7>と同額を主張)
<10> 平成五年七月九日一部取消採決(東京国税不服審判所、右被告の原処分<6>を原告島村克之以外の原告らにつき別紙1の<10>の額に減額)
(二) 本件贈与に関する課税処分等の経過は、次のとおりであり、各課税処分等における課税価格と税額は別紙2の<1>乃至<5>に記載のとおりである。(争いがない)
<1> 平成二年一二月二五日決定処分及び賦課決定処分(被告江戸川北税務署長、但し、原告島村好子につき被告市川税務署長)
<2> 平成三年二月二五日異議申立(原告ら)
<3> 平成三年五月二〇日異議棄却(東京国税局長)
<4> 平成三年六月二〇日審査請求(原告ら)
<5> 平成五年七月九日請求棄却採決(東京国税不服審判所)
(三) 本件各処分(一部取消の採決を含む)により、原告らは、次の額の贈与税・無申告加算税及び相続税(贈与税分税額控除済)・過少申告加算税の課税を受けることとなった。(争いがない)
<1> 原告島村好子(贈与税五三二万四八〇〇円、無申告加算税五三万二〇〇〇円。相続税一億二六二〇万五一〇〇円、過少申告加算税一八七五万四〇〇〇円)
<2> 原告島村康雄(贈与税七八〇万三八〇〇円、無申告加算税七八万円。相続税二一億七〇〇七万〇二〇〇円、過少申告加算税二億二九一八万六五〇〇円)
<3> 原告島村克之(贈与税七八〇万三八〇〇円、無申告加算税七八万円。相続税九億〇六九二万五六〇〇円、過少申告加算税八二一七万二〇〇〇円)
<4> 原告島村孝之(贈与税七八〇万三八〇〇円、無申告加算税七八万円。相続税九億四九五二万一二〇〇課、過少申告加算税七二五九万八〇〇〇円)
(四) そこで、原告らは、右2<1>の贈与税決定及び無申告加算税賦課決定処分、右1<6>の相続税更正及び賦課決定処分(但し、右1<10>で一部取消後のもの)、の各取消を求めて、平成五年一〇月八日本訴訟を提起した。(記録上明らか)
二 争点
1 遺産の評価
(一) 東金の土地(甲二九各号)につき、被相続人が売買契約(甲二六の1)後に登記・代金決済未了のまま死亡した場合の相続財産としての評価は、土地評価額(原告ら)か売買価額(被告市川税務署長)か。
(二) 浦安の土地(乙一の別票2、乙一六の9参照)につき、
<1> 進円商会(同族による土地管理会社)の土地借地権の範囲は、浦安の土地全部(後記本件土地A・B・C)(原告ら)か、本件A土地の約半分(進円商会の建物の敷地部分等)(被告市川税務署長)か。
<2> 広大な宅地として一割の減価をすべき(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
(三) 平井の駐車場(乙一の別表4)につき、進円商会の土地借地権が設定されている(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
(四) 平井の貸地(乙一の別表3)につき、
<1> 借地人組合との長期紛争があることを考慮して更に大幅な減価をすべき(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
<2> 借地人による供託金(一億一七〇四万余円)の還付請求権は相続財産に含まれない(原告ら)か含まれる(被告市川税務署長)か。
(五) 平井の薬局の土地(甲五五の4、5)につき、島村欣志の所有(被相続人名義による同人の取得又は時効取得)で相続財産に入らない(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
(六) 被相続人の滞納税(昭和五八乃至六〇年分の所得税・住民税未納分に対するもの)につき、相続開始日以降分も相続債務とすべき(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
2 贈与の時期
当該贈与の原因とされる浦安の土地の賃借権設定は昭和四九年(原告ら)か否(被告市川税務署長)か。
3 各税額の計算
右1、2の検討とその他の事実に基づく各税額が、本件各処分による額を下回るか否か。
第三相続税についての検討・判断
一 東金の土地について
1 東金の土地の遺産としての評価に関し、前記基礎的事実、並びに、本件証拠(原告島村好子、甲二六各号、二九各号、六〇、乙一五、二七)、及び、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被相続人(島村延壽)は、昭和六三年四月五日、有限会社祐光産業から東金の土地(東金市田間字六ツ島七四八番一乃至三、七四七番一乃至三、七四六番一、二、七四五番二)を、代金九億〇五〇〇万円で、次の約定で買受ける旨の売買契約を締結した。(甲二六各号、乙一五、二七)
<1> 代金支払方法 手付金三〇〇万円(支払期日契約日)、中間金二七〇〇万円(支払期日昭和六三年一一月三〇日)、残金(変更後の支払期日昭和六三年一二月二八日)。
<2> 違約金 買主・売主のいずれかが契約に違反したときは、違約した者は相手方に対し売買代金の二割を違約金として支払う。
<3> 所有権移転時期 売買代金全額の授受が完了すると同時に売主から買主へ移転するものとする。
(二) 被相続人は、右契約締結日(昭和六三年四月五日)に、右売主に対し、手付金三〇〇万円を支払ったが、昭和六三年五月一一日死亡して、右売買契約上の地位は、被相続人の共同相続人である原告ら四名が相続した。
(三) 右売買代金は、昭和六三年一一月三〇日に中間金二七〇〇万円、同年一二月二七日に残金八億七五〇〇万円が売主に対し支払われ、右売買された土地につき平成元年一月一三日受付で昭和六三年四月五日売買を原因とする被相続人に対する所有権移転登記がなされた。(甲二六の五、二九各号、六〇)
(四) なお、右売買契約は、仲介者が介在せず売主が直接売買するものであったことから、仲介手数料がかからない取引であった。(原告島村好子)
(五) その後、右売買された土地は、原告らの遺産分割協議により、原告島村克之が単独で相続取得した。(原告島村好子)
2 右事実関係によれば、右東金の土地を目的とする売買契約は契約締結後残代金完済前に被相続人が死亡して相続開始となったものであるところ、当該売買契約によれば所有権移転時期は代金完済時とされているから、手付金しか支払われておらず代金の大部分の支払は未了の状態であった相続開始時には、右東金の土地の所有権は被相続人に移転していなかったということになり、被相続人が有していた権利として相続財産(遺産)を構成するものは買主としての地位であって、具体的には右東金の土地につき未払代金(契約による中間金と残金)の支払と引換に所有権の引受を受ける請求権(債権的権利)であった、といえる。
3 次に、右東金の土地の所有権引渡請求権の評価額は、未払代金債務を除けば、右請求権の行使により取得すべき右東金の土地の価格というべきである。
そして、本件では、右東金の土地の価格については、当該売買代金額が正常な取引価格ではなかったとは窺えず、契約から相続開始時までは約一か月しか経過しておらず、その間に価格変動があった様子も窺えないし、売買の目的物が土地であって購入により直ちに中古品価格に低下するという性質のものでもないから、当該売買代金額相当額とするのが適当であるといえる。
そうすると、被相続人の遺産(原告らの相続財産)となる右東金の土地の売買契約に基づく所有権引渡請求権の評価額は、未払代金債務を除けば、売買代金額相当額である九億〇五〇〇万円と評価でき、これを遺産分割で右1(五)のとおり原告島村克之が単独で相続取得したことになり、これは相続税等の課税における被告市川税務署長の評価と同額である。
なお、相続開始時に存した右未払代金債務九億〇二〇〇万円については、その後約定の期日までに完済されているが、被相続人の遺産(原告らの相続財産)額の計算においては、相続開始時の被相続人の債務となっているものとみられる。
4 これにつき、原告らは、本件では売主が巨額の違約金特約等で売買契約の履行せざるを得ない状況にあること等を考慮すれば、課税の公正な適用の見地からも、右東金の土地の所有権は売買契約締結と同時に被相続人に移転していたと扱うべきであって、相続財産を構成するものは土地所有権自体ということになり、これに応じた評価(路線価による評価)をすべきである、と主張する。
しかし、売買契約による所有権移転時期については、右2のとおり解されるのであって、税法上これと別に解する根拠はないし、右東金の土地につき所有権評価額としてもその引渡請求権の評価額(未払代金債務は除く)としても、右3のように評価する限り本来は評価額に差異が生ずるものとはならない筈のものである。
また、土地所有権自体の評価の場合には、本件の場合のように当該土地につき間近の売買契約に基づく評価ではないことが殆どであることから、直近の売買契約の代金額よりも低く評価されることがあったとしても、それは当該売買契約の代金額によらず、時間が経過した取引事例や他の場所の取引事例との比較を基本とする評価方法に伴う許容される誤差の範囲内の問題に過ぎず(路線価による評価もそのような評価の簡便な手法といえる)、当然に土地所有権自体の評価の方が売買契約の代金額より低いものであるとはいえない。却って、売買する土地の評価額が売買前後で変動する事情がないのに土地所有権の評価額を売買契約の代金額より低く評価することとすれば、売買契約をすることにより計算上は直ちに代金額(買主はその額相当の債務の増加或いは資金の減少となる)と土地所有権の評価額の差額だけ財産が減少することになって、不合理であるともいえる。
そして、本件では、右東金の土地の価格とこれによる所有権引渡請求権の評価額が売買契約代金額とすることが適当であるのは右3のとおりであって、これを覆すに足りる事情・証拠は見出せないから、右東金の土地についての評価に関する原告らの右主張は採用できない。
二 浦安の土地について
1 (借地権について)
(一) 前記基礎的事実、並びに、本件各証拠(原告島村好子、甲二乃至四、三三、三四各号、三六、三九乃至四七、五四、六一乃至六三、乙三、八乃至一〇、一四各号)、及び、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
<1> 被相続人は、浦安の土地(浦安市東野一丁目二一一番、同二丁目二九一番一及び同番二、同二丁目六一番)(順次、本件A・B・C土地という)を所有していた。
原告島村好子は、被相続人から江戸川区平井にある被相続人所有の貸地等の管理運営等を依頼され、昭和四九年五月二〇日、駐車場の経営、不動産の賃貸借・管理・売買を目的とする有限会社進円商会(代表取締役原告島村好子)を設立した。
被相続人は、進円商会に対し、同社設立の頃、右平井の貸地の管理の外に、浦安の土地(本件土地A・B・C)の管理も委託した。
右委託した管理の内容は、浦安の土地については、進円商会が、被相続人から全権限を委ねられて第三者に対し賃貸する等して収益を上げ、その収益を公租公課の支払や管理費用に充てる、という趣旨のものであった。
<2> 被相続人と進円商会との間では、右浦安の土地について、昭和四九年六月一日付土地賃貸借契約書二通(甲四=乙九、乙八)、昭和五〇年一二月一五日付土地賃貸借契約書(乙一〇)が作成されている。
しかし、当該各契約書では、進円商会が被相続人の所有する右浦安の土地に関する固定資産税等の公租公課の支払や管理費用の負担をすることになっているけれども、賃料につき確定額の記載はなく、賃貸借契約の賃料といえるような支払義務の記載は見出せない。
<3> そして、進円商会は、右浦安の土地を直接或いは株式会社秀倫(代表者原告島村好子で実質的には進円商会と同一会社)を間に介在させる形にして、第三者に対し一時使用として土地を賃貸して収益を上げ、右浦安の土地の固定資産税等の公租公課や雑草除去・ゴミ残土除去等の管理費用を負担していた。
しかし、進円商会が被相続人に対し土地の賃料名目による金員の支払いをしたことはないし、賃料とみられる定期的な支払・負担をしていたことは窺えない。
なお、本件では、進円商会は、右浦安の土地に投機されたゴミ等の処理費用に相当多額の負担をしたとみられるけれども、これは定期的に賃貸人(被相続人)に対し支払うべき土地使用の対価としての賃料とは性質の異なる支出であり、金額的にも右ゴミ等の処理費用以上の土地賃貸収益があることが窺えるところであって、右ゴミ等の処理費用を負担したからといって当該土地の賃料の支払をしたことと同視することはできない。
<4> 被相続人と進円商会の間では、右浦安の土地につき、昭和六〇年三月に公正証書(甲三三)による昭和四九年五月二〇日付売買契約が結ばれ、これに基づき、昭和六〇年三月二七日受付で売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記が為されたが、同年七月二二日受付で本件土地Aにつき解除を原因とする右仮登記の抹消登記が為されている。
しかし、当該売買が履行された形跡はなく、売買契約と仮登記は進円商会が所有者と同様な立場で土地の管理を進める為の便宜上のものであったとみられる。
<5> 進円商会は、右浦安の土地につき、直接或いは前記秀倫を介在させる形で第三者に一時使用として土地を賃貸し、賃借人らはプレハブ建物を設置する等して資材の置場等として使用していたが、相続開始当時の使用状況は次のとおりである。
本件土地Aは、西半分(五七六八平方メートル)に進円商会が昭和六〇年七月二三日に新築した二階建の事務所・店舗、平屋建車庫の敷地となっており、中古車置場として使用されている車半分とともに、(株)日産ユーズドカーセンターに契約日昭和五九年一一月から一五年間の期間保証により賃貸されていた。
本件土地Bは、第三者に期間一年更新で資材置場等に賃貸された後、その一部が昭和六二年三月にダイハツ南東京販売(株)に車両置き場・車両管理事務所として、一部が昭和六三年四月に日正運輸にコンテナ等の置場として、いずれも期間一年更新で賃貸され、また、その一部には秀倫所有の簡易プレハブ建物が二棟建っていて車両管理事務所に使われていた。
本件土地Cは、昭和五〇年六月に鉄建建設に事務所・従業員宿舎用地として期間一年更新で賃貸され、そこに鉄建建設の簡易プレハブ建物が建っていて事務所・従業員宿舎に使用され、建物敷地以外は車両置場等に使用されていた。
<6> 進円商会が本件土地Aの西半分に自ら右のとおり建物を建てて当該土地を敷地等に使用したことにつき、進円商会から被相続人に権利金・賃料が支払われた形跡はないが、建物所有しての使用につき被相続人から特段の異議はなく黙認していたものとみられる。
進円商会は、会計処理上、右浦安の土地の使用権につき何ら資産計上をしていない。
また、進円商会は、本件土地Bの一部(二九一番二)が平成元年三月六日建設省により買収された際に、土地に設置した設備等の工作物につき移転補償を受けているけれども、借地権等の利用権の補償は受けていない。
(二) 右事実関係によれば、進円商会は、被相続人から、浦安の土地につき、第三者に一時使用として賃貸して収益を上げることも含めた管理一切を委ねられておりその内容は所有権の権限を代行するに近いものであったとみられる。
そして、右浦安の土地につき、被相続人と進円商会の間では、売買契約書や土地賃貸借契約書が取交わされているけれども、その対価(代金・賃料)といえるものが支払われた形跡はなく、これらの契約書は進円商会が右浦安の土地を所有者の権限を代行するに近い形で管理する為の便宜上のものであったとみられるから、被相続人と進円商会の間で当該契約書にあるような土地売買・賃貸借があったということはできない。
しかし、進円商会が昭和六十年七月に本件土地Aの西半分(五七六八m2)に二階建の事務所・店舗、平家建車庫を建築して、この建物と土地部分を第三者に賃貸し、これにつき被相続人が黙示の承認をしていたとみられることについては、当該土地部分につき、進円商会が被相続人から右建物所有の為の土地の借地権の設定を無償で受けたものということができる。
(三) そうすると、右浦安の土地については、相続開始当時は、本件土地Aの西半分(五七六八m2)につき進円商会の借地権の負担があり、その余の土地(部分)につき進円商会の借地権の負担はなかったが、第三者の前記一時使用の土地賃借権の負担があった、といえるから、この権利関係に基づき、右浦安の土地について相続開始時の時価を算定すべきことになる。
2 (広大宅地減価について)
(一) 前記基礎的事実、並びに、本件各証拠(原告島村好子、甲三四各号、三五、乙六、一四の九)、及び、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
<1> 広大宅地減価について、昭和五五年六月二四日付東京国税局長通達(乙六の9頁)によれば、その地域における標準的な宅地の面積の概ね五倍以上でかつ一〇〇〇平方メートル以上であるもので、当該地域における宅地としての通常の用途に供することができないと認められる場合は、宅地全体のうち利用価値の低下を認める部分につき一割を減額して評価するものとされている。
<2> 右浦安の土地については、本件土地A・B・C(一〇九八八m2、一一九八八m2、二一三三m2)はいずれも一〇〇〇平方メートルを超えていく
<3> 相続開始当時の当該地域の土地利用状況は、住宅敷地としての利用もみられるが、それ以上に、工場敷地、資材置場、駐車場等として利用されており、住宅敷地としての利用の場合は本件土地の五分の一以下の面積であることが窺えるけれども、それ以外の利用の場合は、本件土地A・B・C程度の面積で利用されていた。
(二) 右事実によれば、右浦安の土地(本件土地A・B・C)は、いずれも宅地としては広大ではあれけれども、当該地域の当時の土地利用状況からみれば、宅地としてよりも、工場敷地、資材置場、駐車場等として、右浦安の土地の程度の広さで利用されている方が多いといえるもので、むしろ広大なことによって利用価値が生じているともいえるものであって、宅地としては広大であるからといってその利用価値が減少するような事情は見出せないから、右浦安の土地の評価をするにつき右東京国税局長通達に沿った特段の減価を要する事情があるとはいえない。
3 (浦安の土地の評価について)
そうすると、右浦安の土地については、相続開始時点での評価額に関し、広大宅地減価を要する土地ではないし、進円商会の借地権(建物使用目的)の負担による減価を要するのは本人土地Aの西半分(五七六八m2)だけであり、その他の土地(部分)には進円商会の借地権が存在したとはいえないけれども、第三者の賃借権(一時使用目的)が存することから、相続税法二三条に従った五パーセントの減価をすべきことになる。
そして、被告市川税務署長が本件公正処分等において行った右浦安の土地の評価は、その他の評価の基礎となる価格や評価方式については、相続税の通常の評価基準に基づき行った(別表2参照)ものといえる(乙一、三、弁論の全趣旨)から、他に特段の問題が見出せない本件では、同被告による評価(別表2の算定)は合理性を有するものでこれによる評価額は時価を上回る額ではない、と推定される。(なお、東京国税不服審判所の前記採決<乙三の別表2>では、浦安の土地につきこれと異なる評価をしているが、それは進円商会の借地権が本件土地A全体に及ぶとして評価したことによるもので、右被告による評価に疑義を生じさせるものではない。)
これによれば、右浦安の土地の相続開始時点での評価額を、計三七億九五八九万〇五一五円(本件土地Aの西半分五七六八m2につき建物所有目的借地権の四割、及び、浦安の土地の残り全体につき一時使用賃借権分の五分の各減価済)とした被告の算定額は、時価を上回るものではないと推認できる。
三 平井の駐車場について
1 平井の駐車場の土地の借地権に関し、前記基礎的事実、本件各証拠(原告島村好子、甲五、九、五五各号<但し五五の四を除く>)、及び、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 右平井の駐車場の土地(江戸川区平井一丁目一三七番一、同二丁目九四九番一)は、相続開始当時、被相続人の所有の土地であったが、前記平井の貸地や浦安の土地と同様に、被相続人からの委託を受けて前記進円商会が管理していた。
(二) 平井の駐車場の土地は、進円商会が舗装して駐車場の施設を作り、相続開始当時、貸駐車場として運営し、駐車料収入を取得し、固定資産税等の公租公課の負担をしていた。なお、駐車場に現存する建物は相続開始後に建てられた。
なお、右平井の駐車場の土地にはかつて奥村組等に貸して建物が建っていた土地もあったがいずれも進円商会設立当時には取毀され土地賃貸借関係も終了していたものとみられる。
(三) 右平井の駐車場の土地については、被相続人と進円商会の間で昭和四九年六月一日付土地賃貸借契約書(甲五)が作られているところ、当該契約書には賃料額の記載はなく、現実に進円商会が被相続人に右賃貸借の賃料とみられるような定期的な或いはまとまった支払はみられず、また、右土地賃貸借の権利金の授受もみられない。
(四) 進円商会は、法人税の申告その他の会計処理において、右平井の駐車場の土地の使用権につき資産として計上した処理をしていない。
2 右事実関係によれば、右平井の駐車場の土地につき、進円商会は、被相続人から委ねられて、貸駐車場に供して収益を上げて公租公課の負担をして、その管理を行っていたとみられる。
そして、被相続人と進円商会の間では土地賃貸借契約書が取交わされているけれども、賃料の取決めも定かではなくこれが支払われた形跡はなく、進円商会の会計処理上も土地使用権を資産として計上した処理をしていない等の事情からすると、被相続人と進円商会の間で当該契約書にあるような土地賃貸借があったということはできない。
3 そうすると、右平井の駐車場の土地には相続開始時点で評価額に影響を与えるような進円商会の借地権が存在したとはいえないところ、当該土地の評価の基礎となる価格や評価方式については、被告市川税務署長が相続税の通常の評価基準に基づき行った(別表3参照)ものといえる(乙一、三、弁論の全趣旨)から、その他に特段の問題が見出せない本件では、同被告による評価(別表3の算定)は合理性がありこれによる評価額は時価を上回るものではない、と推定される。
これによれば、右平井の駐車場の土地の相続開始時点での評価額を、計二三億九七四五万七八六九円とした被告市川税務署長の算定額は、時価を上回るものではないと推認できる。
四 平井の貸地について
1 (借地人組合との紛争による減価について)
(一) 前記基礎的な事実、前記基礎的事実、本件各証拠(原告島村好子、甲九乃至一八<各号含む>、乙三六各号、三七各号)、及び、弁論の全趣旨によれば、次の事実関係が認められる。
<1> 被相続人は、江戸川区平井に多数の貸地(別表4のとおり五八筆、但し、内一〇筆は私道)を所有し、この貸地に多数の借地人が存していたところ、右借地人らが昭和三八年頃から借地人組合を結成し殆どの借地人がこれに加入した。
<2> 右借地人組合は、被相続人に対し、借地関係の問題につき、個々の賃借人と交渉するのではなく、借地人組合を通じて交渉するよう申入をし、被相続人と賃料の支払・値上問題の交渉をしたりした。
そして、右借地人組合の結成以降、借地人らは被相続人からの賃料増額の申入れに対し、これに応ぜず賃料を供託するようになって、借地人の殆どと被相続人との間で賃料増額を巡る紛争状態が継続するようになった。
なお、借地人の供託にかかる賃料額は、固定資産税と都市計画税の合計額の二・五倍前後の水準であったことが窺われ(弁論の全趣旨)、右供託額の水準からみて、右紛争状態によって賃料額が著しく低廉な水準に止まっているとまではみられない。
<3> 被相続人は、右<2>のような借地人組合との紛争状態に対し、平井の貸地を含めた所有土地の管理を原告島村好子に全部委ねることとし、原告らが昭和四九年五月二〇日設立した前記進円商会にその頃当該土地の管理一切を委託した。
<4> その後も、借地人組合との紛争状態は継続し、被相続人は、昭和五二年頃、賃料を供託する借地人の一部に対し土地賃貸借契約解除の通知をし、一部の者に対しては更に右解除による土地明渡請求の訴訟を提起したが敗訴で終わったものもある。
<5> そして、借地人の被相続人に対する賃料供託(供託場所東京法務局)は引続き行れて、相続開始時には、総額一億一七〇四万二一六九円(別表8の1参照)になっていた。
<6> 右平井の貸地につき、被告市川税務署長は、相続税の評価において、借地権割合を六割乃至八割、底地割合を二割乃至四割として評価した。
(二) 右事実関係によれば、右平井の借地は長年に渡って借地人組合との紛争が継続しているといえるけれども、供託された賃料額は著しく低廉とはいえない水準であるから、右紛争状態があるからといって直ちに借地の底地の価額を通常の水準より更に減額すべきものとはいえない。なお、右平井の土地につき、借地人組合との右紛争により被相続人の管理費用が嵩むことは考えられないではないが、本件では、当該費用がどの程度嵩むのかは不明であるうえ、右底地割合((一)<6>)において、これらの事情がある程度考慮されていることが窺えるところでもある。
そうすると、右平井の貸地の借地人組合との紛争状態は、相続開始時点で右平井の貸地(底地)の評価額を通常の借地権付土地の評価から更に減額する程の特別の事情があるとまではいえないところ、当該土地の評価の基礎となる価格や評価方式については、被告市川税務署長が相続税の通常の評価基準に基づき右紛争状態をある程度考慮して行った(別表4参照)ものといえる(乙一、三、弁論の全趣旨)から、その他に特段の問題が見出せない本件では、同被告による評価(別表4の算定)は合理性がありこれによる評価額は時価を上回るものではない、と推定される。
(三) これによれば、右平井の貸地の相続開始時点での評価額を、計九億一六五八万九一二六円とした被告市川税務署長の評価は、時価を上回るものではない、と推認される。
2 (供託金の帰属について)
(一) 右1(一)<5>のとおり、相続開始時に、右平井の借地人による被相続人に対する供託金として総額一億一七〇四万二一六九円(別表5各号参照)が存したものといえる。
(二) これについて、原告らは、借地人らに対し契約解除による明渡請求をしていて、借地人らに対する請求権が賃料か使用損害金か定まらないので供託金の還付を受けられないと主張して、相続財産からは除外すべきである旨の主張をする。
しかし、被相続人は、借地人らに対し、賃貸借契約の解除の有無に従って賃料相当額の使用損害金か賃料かの同額の請求権を有し、他方、借地人らは賃料相当額と自ら考える額を被相続人に対し供託し続けていたのであるから、被相続人が異議を留めて右供託金還付請求権を行使して供託金を取得するのに、本件で何らかの支障があったとはみられない。
従って、被相続人に右供託金につき還付請求権を有しその行使に支障がなかったのであるから、これを相続財産から除外する理由はなく、原告らのこの点についての主張は採用できない。
(三) そうすると、被相続人の有していた右供託金一億一七〇四万二一六九円の還付請求権は、同額で原告らの相続財産となり、これにつき特に分割協議をした形跡のない本件では、法定相続分に従って原告らが各四分の一ずつを相続により取得したことになる。
五 平井の薬局の土地について
1 平井の薬局の土地の帰属に関し、本件各証拠(原告島村好子、甲五五各号、乙二一乃至二四各号)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実関係が認められる。
(一) 被相続人は、姪の島村友子が薬局(一二三薬局)を営業中の土地(江戸川区平井二丁目九四九番四、五)(平井の薬局の土地)につき、大正九年二月家督相続し、昭和八年四月その旨の所有権移転登記をした。
(二) 島村友子の父島村欣志(被相続人の義兄)は昭和二四年頃被相続人から右平井の薬局の土地を無償で借りてそこに事務所を建てたが、昭和三一年頃その建物を増築して島村友子の薬局(一二三薬局)に提供していたところ、昭和六一年島村欣志死亡後、同建物は島村友子が相続取得した。
(三) 島村友子は、平成六年当時まで、平井の薬局の土地を被相続人から無償で借用したことを認めており、当該土地の所有権を主張したことはなかった。
原告島村好子は、相続開始後、島村友子に対し、平井の薬局の土地の明渡を求めたことがあり、島村友子は平成六年頃はこれに応じる意向を示していた。
また、原告島村好子は、平井の薬局の土地で建物の敷地以外の部分を次第に駐車場として使用するようになっている。
(四) 平井の薬局の土地の固定資産税等の公租公課は全部被相続人側で負担しており島村欣志や島村友子が負担したことはない。
2 右事実関係によれば、右平井の薬局の土地は、被相続人が家督相続で取得したものであって、これを島村欣志が譲受けたり時効取得したりしたことを窺わせる事情は、本件では見出せないから、右平井の薬局の土地が、原告らの相続財産(被相続人の遺産)であったことは明らかである。
3 これについて、原告らは、右平井の薬局の土地は島村友子が時効取得を援用すれば同人の所有となることが明らかであるから相続財産に含めるべきではない、と主張するけれども、志村欣志や島村友子の右土地の専有が自主占有でないことは明らかであるうえ、島村友子が取得時効を援用する意思を有していないとみられるから、原告らの右主張は採用できない。なお、これについては、仮に、原告らと島村友子の間の訴訟等が行われて島村友子が取得時効を援用し原告らが争わなかったとしても、所有権移転の効果を発生させた行為(時効援用)は相続開始後のことであって、相続開始時点では平井の薬局の土地が遺産であったことに変わりはなく、また、取得時効援用の形をとっても実質的には、原告らと島村友子の間の相続開始後の合意による所有権移転ともみられるから、右1の事情に基づく右2の認定を左右する事情とはならない。
4 そうすると、平井の薬局の土地は原告らの相続財産であるところ、被告市川税務署長によるその評価(別表6の算定)額一億八一九三万五〇七二円は、相続税の通常の評価基準に基づき行ったものてあり(乙一、三、弁論の全趣旨)、本件では他に特段の問題が見出せないから、合理性があるものであってこれによる評価額は時価を上回るものではない、と推定される。
六 公租公課について
1 被相続人の租税債務について、被相続人が昭和五八年、五九年、六〇年の所得税及び住民税の各本税の支払をしておらず(争いがない)、これにより相続開始の時点までに、別表9のとおり計五億五六八二万〇二二〇円の本税・加算税・延滞税が発生していたこと(乙二七、弁論の全趣旨)、本件更正処分とその賦課決定処分において、被告市川税務署長が右租税債務を相続債務としたが、相続開始以降の延滞税分は相続債務としなかったこと(争いがない)、が認められる(或いは当事者間に争いがない)。
2 原告らは、これにつき、相続開始以降に発生した延滞税も相続債務に計上すべきであると主張する。
しかし、相続開始後の延滞税分は、相続開始時点には存しなかった債務であり、相続人である原告らが相続債務である被相続人の右1の租税債務を納付しなかったことにより発生したものであって、原告ら相続人の責に帰すべき事由により生じたものであることは明らかであって、これを相続債務とすることはできない。
従って、これについての原告らの右主張は採用できない。
3 そうすると、被相続人の租税債務(昭和五八年、五九年、六〇年の所得税及び住民税の各本税・加算税・延滞税)については、相続開始時点で発生していた税額五億五六八二万〇二二〇円の限度で相続債務として計算すべきであるといえるから、本件更正処分及びその賦課決定処分において右限度で相続債務とし相続開始以降の延滞税分は相続債務としなかった被告市川税務署長の計算は正当であるといえる。
七 相続税額について
1 (相続税の計算の基礎となる財産等とその評価額)
(一) 原告らの当該相続税に関する被告市川税務署長による本件更正処分とその賦課決定処分(前記東京国税不服審判所の採決による一部取消後のもの)においては、同被告が相続税の算定の基礎となる相続財産・相続債務とその評価に関して相続税の通常の評価基準に基づき行ったものといえるところ(乙一、三、弁論の全趣旨)、原告らが本件で主張する右一乃至六の点は、右各検討のとおり、いずれも原告らの主張を採用できず、これらの点に関する同被告による相続財産・財産債務の判定はいずれも正当で相続財産の評価額も時価を上回るものではない、といえる。
また、本件更正処分とその賦課決定処分においては、原告らが本訴で主張する右一乃至六以外の相続財産・相続債務及びその評価額は、原告らの申告した相続財産・相続債務とその評価額に基づいたもの(弁論の全趣旨)といえる。
(二) そうすると、被相続人の遺産(原告らの相続財産・相続債務)については、本件で争点となっている次の<1>のものがあり、これ以外に原告らの申告に基づくものとして、次の<2>の財産と<3>の債務があるといえる(債務につき金額の前に便宜上△印を付す)(別表1参照)。
<1> 東金の土地の所有権引渡請求権 九億九五八九万五一五四円。
平井の駐車場の土地 二三億九七四五万七八六九円。
平井の貸地 九億一六五八万九一二六円。
(平井の貸地を五分減価した場合) 八億七〇七五万九六六八円。
平井の貸地の供託金 一億一七〇四万二一六九円。
平井の薬局の土地 一億八一九三万五〇七二円。
公租公課の債務 △五億五六八二万〇二二〇円。
<2> その他の土地(別表7参照) 八億三八四五万九九二五円。
現金及び預金 三億〇〇〇一万八七〇九円。
預け金 五五三九万七二九〇円。
家庭用財産 三〇万円。
電話加入権 五万円。
<3> 預り保証金債務 △二億二六〇〇万円。
借入金 △四〇〇〇万円。
未払金(東金の土地残代金等) △九億〇三八五万二一七三円。
葬儀費用 △二一一万七七九一円。
(三) また、原告らの右相続税においては、後記第四のとおりの相続開始前三年以内のみなし贈与があることから、相続税法一九条により、みなし贈与額(原告島村好子一二六三万六六〇〇円、他の原告ら各一六八四万八八〇〇円)を相続財産に加算して計算した相続税額から、贈与税額(原告島村好子五三二万四八〇〇円、他の原告ら各七八〇万三八〇〇円)を控除し、更に、原告島村孝之につき未成年控除(一二万円の税額控除)(相続税法一九条の三)をして、相続税額を算定することになる。
2 (税額)
(一) そこで、右1の相続財産・相続債務とその評価額、及び、みなし贈与額とその贈与税額・未成年者控除額に基づき、原告らの相続税額について、基礎控除(四〇〇〇万円と相続人一人当り八〇〇万円の計七二〇〇万円)・税率・端数処理により計算し、各原告に弁論の全趣旨から窺われる遺産取得額に応じて配分し、贈与税額等を控除した納付すべき相続税額を算定すると、別紙税額計算表のとおりの計算で、原告島村好子一億二六七三万六三〇〇円、原告島村康雄二一億八〇二〇万六四〇〇円、原告島村克之一五億一五八七万三二〇〇円、原告島村孝之一三億〇六九〇万一八〇〇円となる。
(二) そして、本訴での検討結果を踏まえて右算定した原告らが納付すべきである相続税額は、本件更正処分(東京国税不服審判所の採決により一部取消された後のもの)により原告らが納付すべきとされた額、即ち、原告島村好子一億二六二〇万五一〇〇円、原告島村康雄二一億七〇〇七万〇二〇〇円、原告島村克之九億〇六九二万五六〇〇円、原告島村孝之九億四九五二万一二〇〇円、を下回らない額であることは明らかである。
(三) また、本件では、本件更正処分(右採決により一部取消後のもの)による相続税額と原告らの申告額(修正申告等を含む)に基づけば、国税通則法六五条一項(一〇パーセント)、同条二項(五パーセント加算)による加算税額(所定の端数処理をした額)は、原告らにつき賦課処分決定(右採決により一部取消後のもの)による税額(原告島村好子一八七五万四〇〇〇円、同島村康雄二億二九一八万六五〇〇円、同島村克之八二一七万二〇〇〇円、同島村孝之七二五九万八〇〇〇円)を下回る額とはならないものとみられる(乙三、弁論の全趣旨)。
3 (本件更正処分及び賦課決定処分)
そうすると、原告らが被相続人の遺産相続したことによる相続税及びその加算税についての本件更正処分及び賦課決定処分については、本件の主張立証を前提とする限りは、原告らの為に取消すべき違法は見出せない、といえる。
(なお、これに関し、原告らは、平井の薬局の土地につき、その後時効取得されたこと等を立証する為に弁論の再開を求めているところ、相続税においては、相続税法二二条のとおり、相続開始時の現況に従って評価すべきであって、原告らの立証しようとするところは右五の検討結果に影響を及ぼすものではないから、右弁論の再開は相当ではない。)
第四贈与税についての検討・判断
一 贈与時期について
1 被告江戸川税務署長(但し、原告島村好子につき被告市川税務署長)は、進円商会が昭和六〇年七月二三日に被相続人から本件土地Aの一部についての借地権を無償で取得したと認定し、右借地権無償取得により原告らの進円商会に対する出資の価額が増加するから、その限度で被相続人から原告らへの贈与を受けたことになる、として、原告らに対し、平成二年一二月二五日付で別紙2の<1>欄記載の額による贈与税決定処分(本件決定処分)及び無申告加算税賦課決定をしたことは、前記基礎的事実のとおりである。
そして、浦安の土地の借地権に関しては、進円商会が昭和六〇年七月に本件土地Aの西半分(五七六八m2)に自己所有建物を新築して第三者に賃貸した際に、被相続人から無償の借地権(右建物所有の為のもの)の設定を受けたもの、と認められることは、前記第三の二1のとおりである。
2 これにつき、原告らは、進円商会が本件土地Aを含む浦安の土地全部につき被相続人から借地権の設定を受けたのは設立当時の昭和四九年頃である、と主張するけれども、これに関しては、当時作成された契約書(甲四=乙九、乙八、一〇)には賃料といえるような取り決めがなく、実際にも賃料といえるような支払がみられず、当該契約書等は被相続人所有地を管理する為の便宜上のものとみられるもので、契約書にあるような土地賃貸借があったといえないことは、前記第三の二1の検討結果のとおりであって、原告の右主張は本件では採用できない。
3 そうすると、進円商会が昭和六〇年七月に右建物を新築した際に、被相続人から本件土地Aの西半分(五七六八m2)につき右無償の借地権を取得したことによって、原告らの進円商会に対する出資持分(原告島村好子六〇〇口、同島村康雄・同島村克之・同島村孝之各八〇〇口)の評価額が無償で増加して、原告らは当該持分評価の増加額相当の利益を被相続人から無償で取得した、といえるもので、これは相続税法九条所定のみなし贈与に該当する。
二 贈与税額について
1 (贈与額)
(一) 被告らは、本件各処分において、原告らが被相続人から受けた無償の利益(相続税法九条所定のみなし贈与)の額について、進円商会が無償取得した借地権(本件土地Aの西半分の建物所有目的による借地権)を相続税評価基準に基づき二億九一一二万二四九六円、借地権取得後の進円商会の出資一口を二万一〇六一円と各評価し、右取得前の出資一口を簿価に基づき〇円と評価のうえ、原告らの各持分口数を乗じた額の差額を増加額として、原告島村好子一二六三万六六〇〇円、その他の原告ら各一六八四万八八〇〇円、と算定している。(争いがない)
(二) そして、右進円商会の借地権無償取得による原告らのみなし贈与額については、被告らの右(一)の計算は、相続税評価基準に基づく一応の合理性を有するものとみられ、この計算自体に対しては原告らも特段の異議を述べていないとみられる(弁論の全趣旨)こと、及び、右借地権取得による進円商会の出資持分一口当りの資産純増加額は、右借地権の相続税評価額から法人税(五七%)分を控除して全出資持分数(三〇〇〇口)で除すると四万一七二七円と試算されること等からすれば、被告らの右(一)の算定額は当時の時価を上回るものではなかったと推認される。
(三) なお、進円商会の出資持分一口の評価額を、被告らが本訴で主張する方式に準じて、進円商会の貸借対照表を基礎にして、無償取得した借地権評価額二億九一一二万二四九六円を資産に加え、土地・建物の各評価額を相続税評価に基づく額(土地一億二四八七万八二七三円、建物一〇九万八九〇〇円)と訂正したうえで、被告ら主張の類似業種比準額三八六四円、借地権取得前の評価額二六七八円を用いて、借地権取得後の評価額を算定すると、一万八〇七二円となって、右(一)における被告らの算定を下回ることになるけれども、被告らの本訴で主張する方式自体が時価を上回るものではないとする簡略な算定方式であることからすれば、右方式による評価額が被告らの右(一)の評価額をある程度下回るとしても、右(二)の事情に照らせば、被告らの評価額が当時の時価を上回るものとなっているとはいえない。
2 (税額)
(一) 原告らの昭和六〇年の贈与税とその加算税(一〇%)の額については、右1(一)の評価額に基づき、基礎控除各六〇万円を行い、所定の税率と端数処理により計算すると、被告らの本件決定処分とその賦課決定処分における税額(原告島村好子は、贈与税五三二万四八〇〇円、無申告加算税五三万二〇〇〇円。他の原告らは、贈与税各七八〇万三八〇〇円、無申告加算税各七八万円)と同額になる。
(二) そうすると、原告らの昭和六〇年の贈与税と加算税の額は、その余の点を検討するまでもなく、被告らの本件決定処分とその賦課決定処分における税額を下回る額にはならないといえる。
3 (本件決定処分及び賦課決定処分)
そうすると、原告らの昭和六〇年の贈与税及びその加算税についての本件決定処分及び賦課決定処分については、本件の主張立証を前提とする限りは、原告らの為に取消すべき違法は見出せない、といえる。
第五結論
以上のとおりであるから、原告らの被告らに対する本訴各請求は、本件主張立証による限りは、いずれも理由がないことになるので、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六一条、六五条一項本文を各適用し、平成八年一一月六日終結した口頭弁論に基づき、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千德輝夫 裁判官 三島琢 裁判官大久保正道は、転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 千德輝夫)
別紙1 相続税の課税の経緯
<省略>
別紙2 贈与税の課税の経緯
<省略>
別表1 課税価格等の計算明細表
<省略>
別表2 浦安の土地
<省略>
別表3 駐車場の土地関係
<省略>
別表4 平井の貸地関係
<省略>
別表4 平井の貸地関係
<省略>
別表4 平井の貸地関係
<省略>
別表4 平井の貸地関係
<省略>
別表5の1 供託金関係
<省略>
別表5の2 供託金関係
<省略>
別表5の3 供託金関係
<省略>
別表5の4 供託金関係
<省略>
別表6 薬局の土地
<省略>
別表7 その他の土地
<省略>
税額計算表
<省略>