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千葉地方裁判所 平成7年(行ウ)14号 判決 2000年3月13日

主文

一  原告の請求中、被告鴨川土木事務所長が原告に対し平成七年三月一日付けでした公共用財産使用不許可の無効確認及び取消しを求める各訴え並びに被告千葉県知事が原告に対し平成七年三月一日付けでした千葉県建築基準法施行条例五〇条の四第一項但書による許可申請の却下の無効確認及び取消しを求める各訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1(一)  (主位的請求)

(1) 被告鴨川土木事務所長が原告に対し平成七年三月一日付けでした千葉県鴨土指令第四号の一道路位置不指定処分は無効であることを確認する。

(2) 被告鴨川土木事務所長が原告に対し平成七年三月一日付けでした千葉県鴨土指令第一号の一六公共用財産使用不許可処分は無効であることを確認する。

(3) 被告千葉県知事が原告に対し平成七年三月一日付け千葉県建指令第一二号でした千葉県建築基準法施行条例五〇条の四第一項但書による許可申請を却下する旨の処分は無効であることを確認する。

(二)  (予備的請求)

(1) 被告鴨川土木事務所長が原告に対し平成七年三月一日付けでした千葉県鴨土指令第四号の一道路位置不指定処分を取り消す。

(2) 被告鴨川土木事務所長が原告に対し平成七年三月一日付けでした千葉県鴨土指令第一号の一六公共用財産使用不許可処分を取り消す。

(3) 被告千葉県知事が原告に対し平成七年三月一日付け千葉県建指令第一二号でした千葉県建築基準法施行条例五〇条の四第一項但書による許可申請を却下する旨の処分を取り消す。

2  被告千葉県は原告に対し、金八八〇〇万円及び内金五〇〇〇万円については平成五年一一月七日から、内金三八〇〇万円については平成七年三月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  請求の趣旨2につき仮執行宣言

二  被告ら

(本案前の申立て)

1 原告の請求1の(一)の(2)、(3)、(二)の(2)、(3)をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案についての申立て)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 請求の趣旨2につき仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位と原告の行為の概要

(一) 原告は、訴外株

式会社サンリゾート(以下「サンリゾート」という。)に対して千葉県安房郡α一二八八番地の二山林 九一八平方メートルの土地を分譲した者であるが、平成五年四月三日、サンリゾート所有の右土地を敷地とするカラオケ営業用建物の新築工事を同社から請け負い、右請負契約上の義務として、サンリゾートが右建物の建築等について確認申請をするに際し、右申請に係る建築物の敷地につき建築基準法四三条一項に定める接道義務が充足され、同社が右建築確認を受けることができるようにすべき債務を負い、前記建物の敷地に接する区域等につき後記道路位置指定の申請をし、かつ右申請区域内のうちの国有地にかかる区域につき後記公共用財産の使用許可申請をしたものである。

(二) また、原告の道路位置指定の申請に伴い、被告鴨川土木事務所長から開発行為の許可申請を要請されたことにより、原告は平成五年九月ころから、原告が所有する土地及び訴外中央建設株式会社(以下「中央建設」という。)が所有する土地の各一部から成る別紙図面記載の「日影規制解除許可申請地」内の土地を敷地とする高層マンションの建築を計画し、そのため、当分の間はキャンピングカーの駐車場とする目的で中央建設に請け負わせていた土地造成の目的の変更を迫られるとともに、右地域に係る千葉県建築基準法施行条例(平成七年三月一〇日第二五号改正前のもの。以下「旧条例」という。)五〇条の四第一項に基づく日影による中高層の建築物の高さの制限(以下「日影規制」という。)につき、同項但書に基づく後記日影規制解除の許可申請をしたものである。

2  行政処分の存在

(一) 原告は、被告千葉県知事を通じて被告鴨川土木事務所長に対し、平成五年一月二〇日、建築基準法四二条一項五号に基づき、次の(1)の各土地の全部又は一部を含む区域について、次のとおり道路位置の指定を申請した(以下「本件道路位置指定申請」という。)が、被告鴨川土木事務所長は原告に対し、平成七年三月一日、同日付千葉県鴨土指令第四号の一をもって、原告の右申請に係る道路位置を指定しない旨の通知(以下「本件道路位置不指定」という。)をした。

(1) 道路敷地の地名地番(括弧内は所有者)

千葉県安房郡β一二〇三番地の一(原告)、同所一二〇五番地の二(中央建設)、同番地の三(A)、同番地の四(中央建設)、同所一二〇七番地(中央建設)、同所一二五二番地の二(原告)、γ三二五六番地(原告)、α一二八八番地の二(原告)

(2) 道路の概要

九メートル道路 延長一三一・八一メートル

八メートル道路 延長四四・八〇メートル

(3) 道の築造とあわせて行おうとする開発行為の規模

二七四〇・六二平方メートル

(二) 原告は、被告千葉県知事を通じて被告鴨川土木事務所長に対し、平成五年八月二六日、国有財産法一八条三項及び建設省所管公共用財産管理規則(以下「本件管理規則」という。)四条に基づき、本件道路位置指定申請をした区域内に含まれる国有地について公共用財産の使用許可を申請した(以下「本件使用許可申請」という。)が、被告鴨川土木事務所長は原告に対し、平成七年三月一日、同日付千葉県鴨土指令第一号の一六をもって、原告の右申請に係る公共用財産の使用を許可しない旨の通知(以下「本件使用不許可」という。)をした。

(三) 原告は、被告千葉県知事に対し、平成五年一〇月一八日、

千葉県安房郡β一二〇七番地

γ三二五六番地の一、同所三二六一番地、同所三二六二番地の二

α一二八八番地の四

のうちの各一部を含む別紙図面記載の「日影規制解除許可申請地」について、旧条例五〇条の四第一項但書による許可を申請した(以下「本件日影規制解除許可申請」という。)が、被告千葉県知事は原告に対し、平成七年三月一日、同日付千葉県建指令第一二号をもって、本件日影規制解除許可申請を却下する旨通知した(以下「本件却下」という。)。

3  行政処分の違法性

被告鴨川土木事務所長及び被告千葉県知事が原告に対してした各処分は、いずれも以下の各事由により、重大かつ明白な瑕疵を有するものとして無効であり、仮に無効でないとしても違法なものとして取り消されるべきである。

(一) 本件道路位置不指定について

(1) 被告鴨川土木事務所長は、建築基準法施行規則九条の規定による道路の敷地となる土地の所有者の承諾書の添付がないことを理由の一つとして、本件道路位置不指定をしたものであるところ、右所有者の承諾書の添付のない土地とは本件道路位置指定申請区域内の国有地のことであり、これについては被告鴨川土木事務所長が管理権限を有し、従って右承諾の権限も有するものである。

そこで、原告は同条所定の要件を具備するため、鴨川土木事務所管理課の指示により、右国有地につき本件使用許可申請をしたものであり、かつ右許可申請書の書式等申請の形式についてはすべて鴨川土木事務所管理課の指導に従ったものである。したがって、右国有地の使用については原告と被告鴨川土木事務所長との間に事前の合意が成立しており、被告鴨川土木事務所長は右使用について承諾したものというべきであるから、本件道路位置不指定には、同条所定の要件を具備した原告の本件道路位置指定申請につき右要件を具備しないものとして右指定を拒否するとの処分をした違法がある。

(2) また、本件道路位置不指定のもう一つの理由として、建築基準法施行令一四四条の四第一項五号の規定による排水基準に適合しないことが挙げられているが、原告は同条項の基準に適合する排水設備を、千葉県安房郡β一二五二番地の二、同所一二〇六番及び一二〇七番地の一先ほかの国有地に接続する形で設置したところ、雨排水を国有の水路敷に排水させないとの方針に基づく被告鴨川土木事務所長の指導により撤去し、また同所一二〇三番地の一先の県道の側溝に接続する排水路の設置工事に着手したところ、これも県道の側溝にも排水させないとの方針に基づく右所長の指導により中断させられている。右経緯における被告鴨川土木事務所長の一連の行為は国有財産管理権の濫用に当たり、建築基準法施行令一四四条の四第一項五号の規定による排水基準に適合する排水設備を設置できないことの責任は原告にはないから、同条項に適合しないことを理由とする本件道路位置不指定は違法である。

(3) 原告の本件道路位置指定申請に係る道路はδの地元町民にとって農作業等に必要な道路である。

また、原告の本件道路位置指定申請は、前記のとおりサンリゾートを建築主とする建築物の敷地について接道義務を充足し、同社が右建築物の建築確認を受けることができるようにするために、右建築確認申請と同時にされたものであり、かつ右道路の敷地は原告の所有する土地のほか、中央建設及びAの所有する土地にかかるものである。

被告鴨川土木事務所長が原告の本件道路位置指定申請に対し、当該位置の指定又は不指定を行うに当たっては、原告以外の右第三者らの利害を考慮すべきことが手続上の要件と解すべきであり、本件においてはこれらの者の意見を聴く機会を設ける必要があったところ、本件道路位置不指定をするに際し、被告鴨川土木事務所長はこれらの利害関係人の意見を聴取する手続を全く採らなかったものであるから、本件道路位置不指定は行政手続法一〇条(公聴会の開催等)に違反する。

(4) 被告鴨川土木事務所長は、行政手続法一一条(複数の行政庁が関与する処分)に基づき、千葉県、同県建築主事等と相互に連絡をとり、原告からの本件道路位置指定申請に係る説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努める義務があったにもかかわらず、本件道路位置不指定をするに際しこれを怠ったものであるから、右不指定は行政手続法一一条に違反する。

(二) 本件使用不許可について

(1) 被告鴨川土木事務所長は、本件使用不許可の理由として、「使用許可申請部分の水路敷の境界が確定できず、占用面積の特定ができない」ことを理由としているが、これは事実誤認に基づく処分である。

(2) 原告は、本件使用許可申請の後、被告鴨川土木事務所長に対し、公共用財産の使用に関する許可基準又は条件の開示を求めたが、被告鴨川土木事務所長は原告の右開示要求に全く応じなかったものである。また、被告鴨川土木事務所長は、原告が本件使用許可申請後これに対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を問い合わせたのに対して回答を拒否し、さらに原告が右許可の基準又は条件等について過去の事例その他申請に必要な情報の提供を求めたのに対しこれを拒否した。

このような手続及び経緯を経てされた本件使用不許可は、行政手続法五条(審査基準)、同法六条(標準処理期間)、同法九条(情報の提供)に違反する。

(三) 本件却下について

(1) 本件却下は原告の旧条例五〇条の四第一項但書による許可の申請に対してされたものであるところ、旧条例五〇条の四による日影規制は建築基準法四〇条に基づき附加されたものである。

しかし、同法四〇条は、建築基準法又はこれに基づく命令の規定が全国共通の最低基準を定めているが、地方の実情からこれらの規定だけでは不十分な場合に、地方公共団体が、都市計画区域の内外を問わず、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途・規模により、建築物の安全、防火、又は衛生上の目的を充分達し難いと認める場合に、条例で同法第二章の規定の目的を達成するために、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができるとしたものであり、同条によって地方公共団体が同法を超える規制を附加することができるのは同法第二章(建築物の敷地、構造及び建築設備)に掲げる事項についてのみであって、同条の規定をもって、同法五六条の二(日影による中高層の建築物の高さの制限)を含む同法第三章(都市計画区域等における建築物の敷地、構造及び建築設備)に定める制限を附加することはできない。

そうであるとすると、旧条例五〇条の四は、建築基準法四〇条の授権に基づき定められたものではあるが、同条の目的と矛盾抵触し、地方自治法一四条一項、憲法九四条に違反し無効である。したがって、本件却下は、違法無効な条例に基づくものであるから違法である。

(2) また、旧条例五〇条の四は平成七年三月一〇日付けで改正され(条例第二五号、同年七月一日施行)、同条は建築基準法四〇条に基づく条例から同法五六条の二に基づく条例に改正されたが、右改正は同法四〇条に基づいて日影に係る規制をする旧条例五〇条の四が違法であったからこそなされたものである。

そもそも平成四年改正に係る建築基準法(法律第八二号)の公布が平成四年六月二六日であり、施行が同五年六月二五日であることからすると、被告千葉県知事は同五年六月二五日までに違法な条例の改正の措置を採るべき義務を負っていた。それにもかかわらず、被告千葉県知事は平成七年三月一〇日の前記改正時まで違法な条例の改正の措置を採ることを怠り、平成四年改正建築基準法の公布日から一年八か月余にわたり旧条例五〇条の四を違法な状態のまま放置し、その間同七年三月一日付けで本件却下をしたものであるから、本件却下が違法であることは明白である。

(3) 仮に旧条例五〇条の四が有効であるとしても、同条一項但書において、「特定行政庁が、土地の状況等により、住宅、学校、病院その他の規則で定める建築物で、当該対象建築物の敷地外にあり、かつ、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において当該対象建築物により日影となる部分が生じるものに係る環境を害するおそれがないと認めて千葉県建築審査会の同意を得て許可したとき」は、同項本文に定める日照の確保に係る規制は解除される旨を定めており、原告は右規定に従って被告千葉県知事に対し本件日影規制解除許可申請をしたものであるところ、被告千葉県知事は右許可申請が同項但書所定の要件に該当するか否かについて審査することなく、許可の対象となる敷地が確定されていないこと、当該敷地と周辺土地との高低差が不明であること、右許可申請の対象地域に対する開発許可の手続が開始されていないこと等を理由として本件却下をしたものである。

そうすると、本件却下は、旧条例五〇条の四第一項但書所定の要件に従って原告の申請を審査しなかった点において同項但書に違反する。

また、本件日影規制解除許可申請時に、旧条例五〇条の四第一項但書に規定する「住宅、学校、病院その他の規則で定める建築物」は申請に係る敷地の周辺に存在していなかったにもかかわらず、日影規制の解除を不許可とすることは著しく財産権を侵害するものであり、本件却下は正当な理由なき処分である。

(4) さらに、被告千葉県知事は本件却下をするに際し、右却下決定の理由とされた当該敷地と周辺土地との高低差や開発許可との関連についての具体的な審査基準を何ら原告に対し示していないので、本件却下は行政手続法五条に違反する。

4  損害賠償請求について

(一) 道路位置指定に係る違法な不作為による損害について

(1) C及びDは、千葉県の公務員であり、建築基準法上の特定行政庁である被告千葉県知事から権限の委任を受けた行政庁として建築基準法の事務を行う千葉県鴨川土木事務所長として、原告の本件道路位置指定申請を受理し、かつ本件道路位置不指定をした者である。

(2) 被告鴨川土木事務所長の違法な不作為

被告鴨川土木事務所長は、平成五年一月二〇日付けで原告がした本件道路位置指定申請に対し、本件道路位置不指定をするまでの二年一か月余りの期間にわたり、行政手続法七条(申請に対する審査、応答)に違反して正当な理由を示さないまま不作為を継続し、かつその間原告が前記のとおり右申請区域内の国有地の使用に関する許可基準又は条件の開示を要求しても、同法五条に違反してこれに全く応じなかったものである。

(3) 損害の発生

被告鴨川土木事務所長の前記違法な不作為によって、原告は国有地の使用許可に必要な条件を具備することができず、道路位置の指定も受けられなかったので、サンリゾートが建築基準法四三条の接道義務を充足し、建築確認を受けられるようにすべき工事請負契約上の義務は履行不能となった。その結果、サンリゾートは平成五年一一月四日、原告との工事請負契約を債務不履行解除したので、右契約において原告のサンリゾートに対する融資を条件として、原告の本件工事に基づく利益として保障されていた五〇〇〇万円の利益を失った。

(二) 本件却下による損害について

(1) Bは、建築基準法上の特定行政庁として同法に基づく国の事務を行う千葉県知事として、違法な旧条例五〇条の四について、改正の措置を採ることなくこれを違法に放置し、また右違法な条例に基づいて本件却下をした者である。

(2) 損害の発生

原告は、別紙図面記載の「日影規制解除許可申請地」の工事代金三億八〇〇〇万円を中央建設に支払済みであるところ、本件却下処分により右工事代金相当額の損害を被った。

(三) 被告千葉県の責任

このように被告鴨川土木事務所長及びBが、建築基準法に基づく国の事務を行い、公権力の行使に当たる公務員として、その職務を行うにつき、それぞれ故意又は過失により違法に原告に前記のとおりの各損害を与えたものであるから、被告千葉県は、国家賠償法一条一項、三条一項により右損害を賠償すべき義務がある。

5  よって、原告は本件道路位置不指定、本件使用不許可及び本件却下の無効確認を、右無効確認が認められないときはそれぞれの取消しを求めるとともに、被告千葉県に対し、国家賠償法一条一項、三条一項に基づく損害賠償として、金五〇〇〇万円及び金三億八〇〇〇万円の内金三八〇〇万円、並びに右金五〇〇〇万円については不法行為による損害の発生日である平成五年一一月七日から、右金三八〇〇万円については不法行為の日である平成七年三月一日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告鴨川土木事務所長、被告千葉県知事の本案前の主張

1  処分性の不存在

本件使用不許可は、行政事件訴訟法三条二項、四項にいう「処分」に該当しないから、これらの無効確認及び取消しを求める原告の訴えは不適法である。

本件使用不許可に係る国有地は、公共用の水路の機能の確保等の機能を有する行政財産であり、原告の申請目的は右国有地の目的外使用にあるところ、国有財産法一八条三項は「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」旨規定しており、国有財産部局長たる被告千葉県知事から管理権限の委任を受けた被告鴨川土木事務所長は、右規定に基づき行政財産の目的外使用希望者の申請を審査し、許可を与える等の事務を行っている。

しかしながら、国有財産法には行政財産の使用許可の申請権がある旨を定めた明文の規定やそれを前提とした手続的規定は存在せず、その他の法令上にもそれを前提とした手続的な規定はない。

本来、公共性の非常に高い行政財産は、その用途又は目的が阻害されてはならないのであり、原則的に私権の設定による使用収益は禁止されている(同法一八条一項)。それ故、同条三項による許可は、管理者が、申請目的が行政財産の用途又は目的を妨げず、かつ使用させることが必要やむを得ないと認めた場合においてのみ適用される例外的な措置であり、申請人に当該行政財産を使用するための手続的な権利を保障する趣旨までは含まれないのである。

したがって、原告は右国有地の目的外使用につき、法令による申請権を有せず、申請に対し許可の取扱いがされなくとも、それによって原告の法律上の地位に何ら影響を及ぼさないから、本件使用不許可は行政事件訴訟法に定める行政処分には該当しない。

2  訴えの利益の不存在

平成七年三月一日の本件却下当時、旧条例五〇条の四は、特定区域(総合保養地域整備法七条一項に規定する特定地域の区域及び知事が市町村の長の意見を聴いて指定する区域、旧条例五〇条の二第一項)内の建築物を規制する規定であったところ、平成七年三月一〇日、旧条例五〇条の四は改正され(条例第二五号、同年七月一日施行)、同条二項により日影に関する規制を受ける区域から都市計画区域が除外され、都市計画区域内においては、五〇条の四による特定行政庁の許可は不要となった。

本件日影規制解除許可申請の対象地が所在する千葉県安房郡δは、全域が都市計画区域であり、右条例の改正により、右申請地においては旧条例五〇条の四第一項但書による被告千葉県知事の許可は不要となったのであるから、本件却下について原告は、もはやその無効を確認し又はこれを取り消しても回復すべき法律上の利益を失うに至ったものであり、原告は本件却下の無効確認又は取消しを求める訴えの利益を有しないというべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者の地位と原告の行為の概要)のうち、原告が本件道路位置指定申請、本件使用許可申請及び本件日影規制解除許可申請をしたことは認め、その余の事実は知らない。

2  同2(行政処分の存在)の事実は認める。

3  同3(行政処分の違法性について)

(一) 同(一)(本件道路位置不指定について)のうち、原告の本件道路位置指定申請の経緯や右申請に係る道路の地元町民にとっての必要性については知らず、その余の事実は否認し主張は争う。

(二) 同(二)(本件使用不許可について)の事実は否認し主張は争う。

(三) 同(三)(本件却下について)のうち、旧条例五〇条の四第一項但書の規定は認め、その余の事実は否認し主張は争う。

4(一)  同4(損害賠償請求について)の(一)(道路位置指定に係る違法な不作為による損害について)の(1)は認め、(2)の事実は否認し主張は争う。同(3)は知らない。

(二)  同4の(二)(本件却下による損害について)のうち、Bが千葉県知事として本件却下をしたことは認め、その余の事実は否認し主張は争う。

(三)  同4の(三)(被告千葉県の責任)のうち、被告鴨川土木事務所長及びBが公権力の行使に当たる公務員であることは認め、その余の事実は否認し主張は争う。

四  被告鴨川土木事務所長、被告千葉県の本案についての主張

1  本件道路位置不指定、本件使用不許可等に係る事実経過

(一) 原告は、平成元年ころから、本件道路位置指定申請及び本件使用許可申請に係る各土地並びにその周辺地域において、大規模な造成工事を開始した。

(二) 平成五年一月二〇日付けで原告がした本件道路位置指定申請に対し、被告鴨川土木事務所長は、右申請の内容及び現地の状況から、原告が開発行為を目的とした土地の区画形質の変更を予定していると判断し、当時右造成工事に係る区域について市街化区域等に関する都市計画が定められておらず、三〇〇〇平方メートル以上の面積であれば開発行為の許可を受けなければならない場合に該当することから(都市計画法附則四項、同法施行令附則四条の二)、都市計画法の適正な施行を図るため原告に対し文書等による指導を行うとともに、前記造成地の所有者であるサンリゾート、中央建設等からも事情を聴取するなどした。

その後、被告鴨川土木事務所長は、都市計画法(開発許可)の主管課である千葉県都市部宅地課に右行政指導等の事務を引き継いだところ、原告及び中央建設が平成五年五月二八日付けで千葉県知事あてに報告書を提出し、建築等を目的とした開発を行う予定はなく、建築等の計画を持った場合には法令を遵守し、許可等の手続を終了した後に工事に着工することを誓約したため、同年六月二日付けで千葉県都市部長から原告及び中央建設に対し、右誓約書の内容を遵守するとともに、被告鴨川土木事務所長の指導に従い造成済地の防災対策を万全にすべき旨の通知がされた。

(三) 被告鴨川土

木事務所長は、右千葉県都市部長の通知をもって一応都市計画法関係の指導が終了したことから、本件道路位置指定申請の審査を続行することとし、平成五年六月以降、本件道路位置指定申請について、原告に対し、道路の敷地となる土地の所有者の同意、道路及びこれに接する敷地の排水のための側溝の設置について排水基準に適合させることなどの不備事項について補正を指示したが、現在に至るまで右補正はされていない。

(四) 一方、原告は造成工事を施工した際、被告鴨川土木事務所長が管理する国有財産である赤道及び水路を無断で埋め立て、潰廃した。

そこで、被告鴨川土木事務所長は平成元年一一月ころ、国有財産管理者の立場で原告に対し、右国有地を原状回復し、造成地内に存在する国有地と民有地の境界確定を申請し、通路に使用している水路部分については公共用財産の使用許可を受けた上で安全な構造の橋を架ける旨の指導をした。

その後、原告から平成五年一月二六日付けで、中央建設から平成五年五月一一日付けでそれぞれ境界確定申請がされたので、同年七月二二日までに三回にわたり、隣接地所有者である原告及び中央建設の立会いの下、境界確定協議を行ったが、現地の形質の変更が著しく境界の特定が不可能な状態であったため、境界を確定することができなかった。

そこで、同年八月ころ、被告鴨川土木事務所長は、公図の記載をもとに国有地の位置を復元し、これに基づいて現地にも木杭等で境界を表示するとともに、三回にわたる隣接地所有者の立会いを経ても境界確定協議が整わなかった経緯を考慮し、右のとおり現地に表示した境界について、隣接地所有者が確認した上で境界同意書を提出することをもって、隣接地所有者の意思を確認し、境界確定協議の成立を認める取扱いとする方針の下、建設省所管国有財産の境界確定事務取扱要領(昭和六一年三月千葉県土木部用地課制定)10の(3)但書に基づき、本件道路位置指定の申請者である原告に対し、隣接地所有者の境界同意書を取りまとめて提出するよう指導した。

ところが、原告は平成五年八月二六日付けで本件使用許可申請をしたが、右同意書を提出せず、被告鴨川土木事務所長が再度同意書の提出を要求したところ、本件使用許可申請に対し許可をすること及び本件道路位置指定申請に係る指定をすることを交換条件として同意書を提出するなどと回答し、現在に至るまで同意書を提出していないので、被告鴨川土木事務所長としては原告ら隣接地所有者の意思確認ができず、境界確定協議が整ったとは到底認められない状態にある。

(五) また、原告は前記(二)のとおり、建築等の計画を持った場合には法令を遵守し、許可等の手続を終了した後に工事に着工する旨の誓約書を被告千葉県知事に提出したにもかかわらず、右許可の手続を経ることなく、平成五年一〇月一八日付けで本件日影規制解除許可申請を被告千葉県知事に対してした。

2  本件道路位置不指定について

(一) 本件道路位置不指定の適法性

被告鴨川土木事務所長は、建築基準法上の特定行政庁である被告千葉県知事から権限の委任を受けた行政庁として、建築基準法に基づく国の事務を行うものであるところ、原告の本件道路位置指定申請に対し、建築基準法施行規則九条の規定による道路の敷地となる土地の所有者の承諾書の添付がなく、また建築基準法施行令一四四条の四第一項五号の規定による排水基準に適合しないものであったことから、本件道路位置不指定をしたものであり、右不指定は適法である。

(二) 行政手続法違反について

原告の主張する行政手続法違反については、同法一〇条は「申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ」意見を聴かなければならない旨定めているところ、サンリゾート他二名については、被告鴨川土木事務所長は本件道路位置指定申請の際、原告に対しこれらの者の承諾を求めているのであるから、別途右三名の意見を聴く必要はないし、本件道路位置不指定は、申請に係る土地の権利者であり、道路位置指定がされれば権利が制限される右三名の利害には何ら影響を及ぼさないのであるから、同法一〇条の適用はないというべきである。

また、行政手続法一一条二項は、「同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請」についての定めであって、原告は本件道路位置指定申請に関連する申請を千葉県、建築主事のいずれに対してもしていないから、同条の適用はない。

したがって、本件道路位置不指定に行政手続法一〇条、一一条二項違反はない。

3  本件使用不許可について

(一) 本件使用不許可の適法性

被告鴨川土木事務所長は、建設省所管国有財産部局長である被告千葉県知事からその権限の委任を受けた行政庁として、本件管理規則に基づく国の事務を行うものであるところ、本件管理規則は公共用財産を損傷し又は損傷するおそれのある行為を禁じ(同規則三条三号)、公共用財産の目的を妨げ若しくは保全を害する行為又はそのおそれのある行為をしようとするときは、知事の許可を受けなければならない(同四条四号)旨定めている。

ところが、原告は前記1(四)のとおり本件使用許可申請に係る国有地及びその周辺地域において大規模な造成工事を実施し、公共用財産である赤道及び水路を無許可で潰廃して本件管理規則に違反し、なおかつ右国有地等の原状回復を怠っているのであるから、そのような者の使用許可申請が建設省所管国有財産取扱規則二一条一項三号の「特に必要やむを得ないと認めるとき」に該当しないのは明らかであって、本件使用不許可は適法である。

(二) 行政手続法違反について

被告鴨川土木事務所長は、建設省所管公共用財産の使用許可申請に関して、行政手続法施行以前から既にその審査基準及び標準処理期間を千葉県鴨川土木事務所に備え付けて公にしているし、行政手続法五、六条は、申請者の問い合わせに対する回答を義務付けた規定ではない。

また、行政手続法九条は、「処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。」という訓示規定であるから、結果的に右見通しを示せなかったとしても、直ちに同条違反にはならない。

しかも、原告の本件使用許可申請は、前記1(四)のとおりの経緯により、審査対象たる申請土地が確定していないのであるから、右見通しを示せないのは被告鴨川土木事務所長ではなく原告自身の責に帰すべき事由によるものである。

以上により、本件使用不許可に行政手続法五条、六条及び九条違反はない。

4  本件却下について

(一) 旧条例五〇条の四の適法性

(1) 旧条例五〇条の四は建築基準法四〇条に基づく規定であるところ、同法四〇条では地方公共団体の条例によって建築物の敷地、構造又は建築設備に関して衛生上必要な制限を附加することが認められる。衛生上の制限とは日照及び採光の確保により得られるものも含まれ、旧条例五〇条の四はこれを目的として制定されたものである。

(2) ところで、建築基準法五六条の二の日影規制は、建築物の日影時間を規制し隣地の日照時間を確保することを目的としたものであり、同法二八条は住宅、病院等の居室の採光の確保、同二九条は住宅の居室の日照の確保について義務付けており、同法五六条の二の日影規制等は同法二八条、二九条を実現するための特則と解することができる。

(3) また、建築基準法は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資すること」を目的としている(同法一条)ところ、都市計画区域等のように建築物が密集する地域については個々の建築物及びその敷地単体について規定した同法第二章の規制だけでは不十分であり、他の建築物に対する影響を考慮した法的規制が不可欠であるとして規定されたのが同法第三章の規制であるから、同法第三章の規定は同法第二章の特則であると考えられる。

ところで、同法五六条の二の規定は住宅等の集中した市街地を予想して、そのような地域にマンション等の高層建築物が建築されることによって日照に関する紛争が生じることを防止するための規定であるところ、千葉県においてはリゾート地域におけるリゾートマンションの建設がブームとなったが、千葉県のリゾート地域は概ね市街地から外れた過疎地域であり、同法五六条の二はこのような地域における高層建築物の建設等を規制対象として予定していない一方、住宅等の集中した市街地のように建ぺい率、容積率等の規制がある地域よりも全般的に規制が緩かったため、かえって都市計画区域等よりもリゾートマンション等の高層建築物の乱立による日照被害が激化し、対応が急がれていた。

そこで、日照、採光の確保が建築基準法二八条、二九条で義務付けられている住宅、病院等の建築物の建築された地域等において、地域性にそぐわない高層建築物等が建築されることを防止するために制定されたのが旧条例五〇条の四である。

(4) したがって、旧条例五〇条の四は、高層建築物等の建築によって日照採光の確保を阻害される隣接地の建築物等からみれば建築基準法一条の趣旨に沿うものであり、また前記のとおり同法五六条の二を含む同法第三章の規定を同法二八条、二九条を含む同法第二章の特則と考えれば、同法四〇条を根拠として旧条例五〇条の四によって日影規制を行うことは何ら違法性がない。

(二) 旧条例の改正に係る措置の適法性

平成四年改正建築基準法の公布日は平成四年六月二六日であるが、その施行は平成五年六月二五日からとなっており(同法附則一条、平成五年政令第一六九号)、また用途地域に関する経過措置として同法附則二条以下において三年の経過措置が設けられている。この措置は、用途地域の見直しや新たな規制の追加のための調査、調整等にそれだけの時間的猶予の必要性があったことから設けられたものである。

そして、新用途地域や新たな都市計画区域の指定及び特定区域の見直し等の作業に相当期間が必要であること、またその作業中に旧条例を改正することは特定区域等の規制に関し空白期間が生じるなどの混乱を招くなどの理由から、新用途地域や新たな都市計画区域の指定及び特定区域の見直し等の作業を見据えて条例の改正を行うことが、行政上最も適切であると判断し、被告千葉県知事としても前記のとおりの期間をもって旧条例を改正したものであり、旧条例の改正に係る措置につき何ら違法性はない。

(三) 本件却下の適法性

被告千葉県知事は、建築基準法上の特定行政庁として同法に基づく国の事務を行うものであるところ、本件日影規制解除許可申請においては、許可の対象となる建築物の敷地が確定されておらず、また当該敷地と周辺土地との高低差が不明のため日影の確定及び周辺への日影の影響等について判定できなかった。さらに、右申請によれば建築物の敷地面積は七五六九平方メートルを予定しており、その規模から三〇〇〇平方メートル以上の開発行為として都市計画法上の開発許可の手続との整合性が問題となるところ、右開発許可申請等の手続が開始されていなかった。

さらに、本件日影規制解除許可申請の図書等には記載不足等の不備があり、許可の審査対象となるべき具体的建築計画が明確でないため、図書等の不備を是正するよう指示したにもかかわらず原告が指示に応じず放置したことから、被告千葉県知事は是正意思がないと判断して本件却下をしたものである。

したがって、本件日影規制解除許可申請について旧条例五〇条の四第一項但書の要件を具備するかどうか審査することが不可能だったのであり、被告千葉県知事のした本件却下は適法である。

5  損害賠償請求について

(一) 道路位置指定に係る違法な不作為による損害について

(1) 行政手続法の不適用

行政手続法の施行期日は、平成六年一〇月一日(平成六年政令第三〇二号)であって、原告とサンリゾートとの工事請負契約が解除された平成五年一一月四日の時点では同法は未だ施行されておらず、本件道路位置指定申請に対する審査、対応及び本件使用許可申請についての審査基準の開示には、同法の適用はなかったのであるから、行政手続法違反の問題は生じない。

(2) 被告鴨川土木事務所長の審査の適法性

本件道路位置指定申請が受理された平成五年一月二〇日から前記工事請負契約が解除された平成五年一一月四日までは九か月余りであり、本件使用許可申請については平成五年八月二六日からは三か月足らずであり、その間被告鴨川土木事務所長は原告の右各申請に対し、以下のとおり適法かつ正当に対応していた。

① まず、被告鴨川土木事務所長が本件道路位置指定申請の審査を前記のとおり平成五年六月まで留保していたのは、原告が施行していた前記造成工事が開発行為、すなわち「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更」(都市計画法四条一二項)に該当する可能性があり、都市計画法施行に関する事務の委任を受けている被告鴨川土木事務所長としては、本件道路位置指定申請の審査の前に、当事者から事情を聴取し、都市計画法に違反する開発行為等の有無を確認し、違法行為があればその是正を勧告することが、行政庁として当然の行為であり、合理性もあったためであり、また、原告の前記造成工事の範囲は原告所有地だけではなかったため、被告鴨川土木事務所長が受任している開発行為面積を超える可能性もあったので、委任庁である千葉県知事(千葉県都市部宅地課)に当該案件を引き継ぎ、前記1の(二)のとおりの千葉県都市部長の原告等に対する通知がされるのを待って本件道路位置指定申請の実質的審査を開始したためである。

右審査開始後は、速やかに補正箇所を文書等で原告に指示しており、補正事項にも違法な点はない。

② 本件使用許可申請に係る審査についても、違法な不作為は存在しない。

(3) 因果関係の不存在

サンリゾートが原告との工事請負契約を解除した原因は、本件道路位置不指定のために、サンリゾートが申請した建築確認が受けられなかったことによるとされるが、右工事請負契約においては、設計変更に伴う行政上の手続は原告が行うとの定めはあるが、道路位置指定の成否によってサンリゾートが解除権を行使できるという約定はなく、債務不履行によるサンリゾートの法定解除権も発生しない。

したがって、右解除は原告とサンリゾートとの合意解除であるから、被告鴨川土木事務所長の行為と、原告が右解除によって被ったと主張する五〇〇〇万円の損害との間には因果関係がない。

(二) 本件却下による損害について

前記4のとおり、旧条例五〇条の四は適法であり、またBが千葉県知事としてした旧条例の改正に係る措置及び本件却下もいずれも適法である。

また、原告が前記造成工事に投じた資金が仮に損害に当たるとしても、本件却下との間に因果関係はない。

五  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  処分性について

本件使用不許可は国有財産法、同法施行令、建設省所管国有財産取扱規則のほか、千葉県における建設省所管公共用財産管理規則等に基づく公権力の行使としてなされたものであるから、行政庁として国民に対する優越的地位に基づく公権力の行使としてなされた処分に該当する。

また、国有財産法一八条に基づく公共用財産の使用許可申請については、行政庁に対する国民の申請権を具体化した規定である行政手続法七条が適用されるものであるから、国有財産法に行政財産の使用許可の申請権がある旨を定めた明文の規定やそれを前提とした手続的規定が存在せず、その他の法令上にもそれを前提とした手続的な規定がないとして本件使用不許可の処分性を否定するのは誤りである。

2  訴えの利益について

被告千葉県知事は前記のとおり、旧条例五〇条の四の改正により、同条に基づく日影規制を受ける区域から都市計画区域が除外され、都市計画区域内においては、特定行政庁の許可が不要となったので、本件却下の無効確認又は取消しを求める訴えの利益は失われたと主張するが、建築基準法五六条の二第一項但書によれば、特定行政庁が土地の状況等により周囲の居住環境を害するおそれがないと認めて建築審査会の同意を得て許可した場合においては同項本文に定める日影規制は適用されないとされ、改正後の本件条例五〇条の四第二項においても同様の但書が明記されている。この但書からすると改正後においても、日影規制を無視した高層マンション等の建築は不可能であり、本件却下に係る敷地部分について日影規制解除の許可申請が必要となるから、未だ本件却下の無効確認又は取消しを求める訴えの利益は失われていないというべきである。

六  被告らの主張に対する原告の認否・反論

1  本件道路位置不指定、本件使用不許可に係る事実経過について原告が被告鴨川土木事務所長が管理する国有財産である赤道及び水路を無断で埋め立て潰廃したこと、被告鴨川土木事務所長が原告に対し、国有地を原状回復し、造成地内に存在する国有地と民有地の境界確定を申請し、通路に使用している水路部分については公共用財産の使用許可を受けた上で安全な構造の橋を架ける旨の指導をしたことは否認する。

2  本件使用不許可について

原告は鴨川土木事務所担当者との間で、三回にわたり現地の水路敷との境界を確定する作業を行い、平成五年八月二六日、鴨川土木事務所担当者は、千葉地方法務局鴨川出張所保管の確定測量図に基づいて、確定済みの境界点を現地において表示した。本件使用許可申請は、鴨川土木事務所担当者が表示した上記境界を測量した面積を計算した上でなされたものであるから、被告鴨川土木事務所長が水路敷の境界が確定できないことなどを本件使用不許可の理由とすることはできない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  証拠(甲一ないし六、一〇、一二の1・2、一三、一六、一七ないし二〇、二三の1・2、二八ないし三〇、三一の1ないし3、三二、三三の1ないし3、三四、三五の1・2、三六の1・2、三七、三八の1・2、三九の1・2、四二、四三、四四の1・2、五六の1ないし3、五八、五九、六二、六三、六五、七〇ないし七二、八〇ないし八二、八四、乙一ないし三、四の1ないし5、五ないし七、八の1・2、九ないし一五、一六の1ないし3、一七ないし二一、二二の1ないし5、二三ないし二五、二六の1・2、二七及び二八並びに証人E及び証人F)によれば、次の各事実が認められる。

1  本件使用不許可に至る経緯

(一)  昭和六三年七月一四日付けで、千葉県安房郡β一二〇五番地と同地先の国有地との境界について、訴外Gから被告鴨川土木事務所長に対し境界確定申請がなされ、同年七月二二日に境界立会いを実施し、同年八月九日に隣地所有者から境界同意書が提出され、右申請部分の境界が確定した。

(二)  平成元年六月ごろ、鴨川土木事務所に原告の造成地から土砂が流出して困っているとの地元住民からの苦情があり、当時、鴨川土木事務所の開発行為の担当者であった訴外Hが現地調査したところ、原告が中央建設に請け負わせてα一二八八番二ないし四、γ三二五六番一ないし四の各土地一帯の造成工事を施工しており、その造成地から大量の土砂が流出し、造成地に接する県道を越えて反対側の田まで土砂が流入し、田が埋まっている状況が確認された。

(三)  そこで、担当者らが原告代表者に対し、造成工事の中止と復旧及び防災対策を講じるよう指導したが、原告代表者は単なる整地作業にすぎないとして造成工事を強行した。そのため、被告鴨川土木事務所長は、原告に対し、平成元年一〇月一七日付け文書で、原告の行っている造成工事の工事部分の面積及び土地利用計画、防災対策等について報告を求めたところ、同年一一月一七日付け文書で、原告から、造成工事の目的は、訴外I所有の前記各土地の谷間を埋めるだけであること、土地利用計画は、現在のところはないこと、防災対策としては、五〇〇ミリないし一〇〇〇ミリのヒューム管を埋設して水路機能を維持し、ヒューム管の取水口には、砂利層を設けて水の濁りを薄めるつもりであること等の報告を得た。

(四)  また、同年一一月一日、鴨川土木事務所の川名管理課長らによって現地調査が行われた結果、造成工事によって、国有地である赤道(田畑、山林等へ通じる道)や水路(田畑用水ないし排水路)等が無断で跡形もなく埋め立てられていることが判明した。そこで、右川名から原告に対して、境界確定の申請をした上で国有地の原状回復をすること、また防災対策を至急講じること、赤道や水路等については、国有財産法に基づいて公共用財産の使用許可を得た上で、安全基準を満たした構造の橋を設けることなどを指導した。これに対し、原告は、囲繞地通行権があるので右許可は不要であり、境界も確定済みであると主張して指導に従わず、造成工事を続行した。

(五)  平成二年九月にも台風二〇号の影響で土砂の流出があり、鴨川土木事務所で国有財産管理業務に従事していた訴外Eは、同年一〇月一日、原告に対し土砂の撤去と安全対策を指導した。また、右の前後を通じて、Eは原告に対し、原状回復のため境界の確定申請や公共用財産使用許可手続をとるよう求めたが、原告は応じなかった。

(六)  その後、平成五年一月二〇日になって、原告は、本件道路位置指定申請をし、その関係で原告、中央建設、Gら関係者から順次境界確定の申請がなされた。そこで、Eは、同年三月一八日、五月一二日及び七月二二日の三回、境界確定のために現地に赴いたが、造成工事による地形変更がひどく、原告代表者自身も自らの申請地を示すことが出来ない状態で確認できなかった。

そのため、鴨川土木事務所の側でGとの間の境界確定の際に作成された地積測量図等をもとに国有地の境界を現地で復元した上で、原告及び隣接地所有者らの境界同意書を得て境界を確定することとし、同年八月九日、現地において右復元の作業を行い、境界点に木杭やペイントで表示を施した。そして、原告に対し、現地を確認の上、異議がなければ他の隣接地所有者と共に境界同意書を提出するよう求めたが、原告は鴨川土木事務所が復元した境界は争わないと述べるばかりで、境界同意書を提出せず、そのため隣接地所有者をも含めての境界確認はなされなかった。

(七)  右のように境界が未確定のまま、平成五年八月二六日、原告から、安房郡β一二五二-二、同一二〇六、同一二〇七番地先の水路敷の使用許可申請(本件使用許可申請)がなされた。

これを受けて、鴨川土木事務所は原告に対し、右使用許可のためには境界の確定が必要であるとして、再度、境界同意書の提出を促したが、原告は、公共用財産使用許可及び道路位置指定許可との交換が条件であると主張して、結局、境界同意書は提出されなかった。

(八)  平成七年三月一日、被告鴨川土木事務所長は、水路敷が原告によって無断で埋められ、使用許可申請部分の水路敷の境界が確定できず、占用面積の特定ができないという理由で、本件使用不許可をした。

2  本件道路位置不指定に至る経緯

(一)  平成五年一月二〇日、原告から造成工事区域内の一部について本件道路位置指定申請がなされた。その申請書では、道路の申請とあわせて行う開発行為の規模は、二七四〇・六二平方メートルとされていたが、申請区域に隣接する原告、中央建設及びGの各所有地も既に原告によって造成されており、それを含めるとその規模は都市計画法による開発許可が必要な三〇〇〇平方メートルを超えており、都市計画法に違反しているおそれがあった。

(二)  そこで、道路位置指定の審査の前に、都市計画法違反の有無について確認する必要が生じたことから、被告鴨川土木事務所長は、平成五年一月二九日、原告に対し、直ちには指定ができず、また道路位置指定基準に適合しない部分については、都市計画法に適合した段階で別途補正を求める旨を通知するとともに、開発行為について事情を確かめるために原告、中央建設及びGに対し来所を求めた。

(三)  平成五年二月九日、原告代表者、サンリゾートの代表者林田浩一及びGとその親族二名が来所したので、当時、鴨川土木事務所において道路位置指定、開発行為許可等の業務担当者であった訴外Fは、造成工事の目的及び土地利用計画等について事情を聞くとともに、後日文書により報告するよう依頼した。なお、中央建設は原告代表者に委任するとして欠席した。右事情聴取の結果は左記のとおりであった。

中央建設が所有する土地は、前の土地所有者であるIが原告を通じて発注した工事代金の全額未払により、その代金立替えの代償として取得したものであるが、具体的な土地利用計画はなく開発するつもりはない。

原告が所有する土地は、原告が前所有者のIから買い取り中央建設に造成を請け負わせたもの及びIの依頼により中央建設に請け負わせ造成したが、工事代金不払となったために競売により原告が取得したものであり、サンリゾートに売るα一二八八‐二の土地、つまり今回の道路位置指定申請に係る関係土地以外は今後の造成工事の予定はなく土地利用計画も決めていないので、開発規模は三〇〇〇平方メートル未満であるから開発許可は不要である。

Gが所有する土地は、平成元年に原告により無断で埋めたてられたものであるが、具体的土地利用計画は持っていない。

(四)  さらに、鴨川土木事務所では、平成五年二月二五日、土地の前所有者であるI及び代理人のJ弁護士から造成工事の経過について事情を聞いたところ、原告らによる説明とは異なり、Iがその所有地から四〇〇〇坪を提供し、原告が造成してリゾートマンションを建築し、これを販売してIが原告から借りた融資金合計一億二五〇〇万円を返すという土地建物交換契約を結び、共同開発するために造成工事をしたものであることが判明した。

(五)  そこで、被告鴨川土木事務所長は、平成五年三月一日、一連の造成工事は建築物を建築する目的で行われた土地の区画形質の変更で、都市計画法で規定する開発行為に該当し、かつ、その規模が同法施行令で定められた三〇〇〇平方メートルを超えており、開発行為の許可手続を取らずに造成したことは同法に違反する行為であると判断し、原告に対して是正勧告書を交付し、同年三月一一日には、原告に対して同法に違反すると判断した根拠をより具体的に示して再勧告するとともに、中央建設に対しても是正勧告書を交付した。

(六)  そして、被告鴨川土木事務所長は、開発許可の主管課である千葉県都市部宅地課に指導を引き継いだところ、同課における原告からの事情聴取及び千葉県知事あて報告書によれば、原告は道路位置指定申請地以外は建築等を目的とした開発を行う予定はないとのことであったため、千葉県都市部長はこれを前提として、平成五年六月二日、原告及び中央建設に対し、造成済地全体の防災対策を万全にするよう通知し、鴨川土木事務所では、右千葉県都市部長の通知をもって開発行為に関する行政指導は終了したものと判断し、先に提出されている本件道路位置指定申請の実質審査を開始した。

(七)  その後、被告鴨川土木事務所長は、原告に対し、所要の補正を促し、平成五年七月一日には、原告に対し、道路周辺の土地の境界を確定すること、その上で、道路の敷地となる土地及び排水施設を設置することとなる土地の所有者の同意を得ること、建築基準法施行令一四四条の四第一項五号で必要とされる排水施設の位置及び放流先の表示等を内容とする補正を指示した。

これに対し、同年八月一八日、原告からヒューム管の埋設を内容とする道路の排水計画図が提示されたが、千葉県において定めた道路位置の指定に関する技術基準の「道に設ける排水設備はU字溝にあっては、内法幅一八センチメートル以上、L字溝にあっては、幅三〇センチメートル以上のコンクリート製で、かつ、排水に支障がないものであること。」及び「道又はこれに接する敷地内の排水設備の末端が、その他の排水施設に排水上有効に連結しているものであること。ただし、連結できない場合にあって道路等へ溢水するおそれのない容量の敷地内排水施設を設けているものであること。」に適合するものではなかったので、鴨川土木事務所では、再度技術基準に適合させるよう指導した。

しかし、原告は自らの排水計画どおりに施工してしまい、同年九月一日に、その旨が原告から鴨川土木事務所に報告された。

(八)  その後、平成六年四月二六日、原告代表者が鴨川土木事務所に来所し、造成地進入路付近の原告所有地に有料老人ホーム計画がある、その敷地面積は三〇〇〇平方メートル以下であり開発許可は不要であると述べ、計画図面の提示をした。

鴨川土木事務所では、当該有料老人ホームの計画区域と、原告から申請されている道路位置指定申請区域は一体の開発行為であると思われることから、再度、開発許可の要否の判断が必要であるし、提示された建築物の計画内容は県条例による日影規制解除の許可申請が必要になる旨伝えた。

(九)  平成七年三月一日、被告鴨川土木事務所長は、本件道路位置指定申請には、建築基準法施行規則九条の規定による道路の敷地となる土地の所有者の承諾書の添付がないこと及び排水設備が建築基準法施行令第一四四条の四第一項五号の規定による排水基準に適合しないことを理由に本件道路位置不指定をした。

前者の理由は、原告から申請されている道路の敷地には、被告鴨川土木事務所長が管理している国有地が含まれているため、公共用財産の使用許可を要するところ、前述したとおり同年三月一日付けで、本件使用不許可がなされたためであった。

3  本件却下に至る経緯

(一)  平成五年一〇月一八日、原告から、本件日影規制解除許可申請が、被告千葉県知事に対してなされた。

(二)  これに対し、鴨川土木事務所は、平成五年一一月二四日、申請に係る建築物の敷地面積が、七五六九平方メートルとされ、三〇〇〇平方メートルを超えていて、開発許可申請が必要であり、また当該許可申請地に隣接して、原告から道路位置指定申請が出されており保留中であるが、これらは一体の開発であると思われるとの意見を付して申請書を被告千葉県知事に進達した。

(三)  その後、千葉県都市部建築指導課は、平成五年一二月二八日、原告に対し、建築物の敷地設定及び隣接地等との土地の高低差を確認するため、文書及び図面の提出と、計画の建築物に係る開発行為について、すみやかに都市計画法による開発許可手続をするよう求めたところ、平成六年一月一二日、原告から、「敷地設定については、日影規制の解除を得た後、開発許可申請をする際に決定する。建築基準法施行条例の日影規制に関する規定は違法なので、当該土地に対する日影規制の解除を求め、解除が認められない場合は、同条例五〇条の四第一項但書の事項を調査し、該当した場合は規制緩和の処分を求める。条例但書には敷地の高低に関する記述がなく、高低差を記載した図面の提出義務はない。必要ならば敷地への立入りを認めるから自由に調査してほしい。開発許可申請は、日影規制が解除された後に検討する。」という内容の回答がなされた。

(四)  平成六年二月一七日、千葉県都市部建築指導課は、原告に対し、再度、前記の内容及び日影規制解除の許可は、開発行為の許可が下りて当該土地が宅地として利用可能なことが前提であることを通知したが、全く実行されず、平成七年三月一日、被告千葉県知事は、本件日影規制解除許可申請を、許可の対象となる建築物の敷地が確定されていないこと、当該敷地と周辺土地の高低差が不明のため、日影の確定及び周辺への日影の影響等について判定できないこと、本件許可申請に係る建築計画は、その規模からして開発許可との整合性が問われるところ、開発許可の手続が開始されていないことから、判定要件の確認ができないとの理由で却下した。

二  本件使用不許可の無効確認・取消請求について

1  本件使用許可申請のような行政財産の目的外使用について、国有財産法一八条三項は、その用途又は目的を妨げない限度で使用又は収益を許可できる旨定めているが、これは、同条一項で、行政財産の公共性の高さに鑑み、その本来の用途又は目的が阻害されないようにするため、原則として私権の設定による使用収益を禁止した上で、なおその使用又は収益の目的が当該行政財産の用途又は目的を妨げず、かつ当該行政財産の管理者が目的外使用の必要性を認めた場合には、例外的に目的外の使用又は収益を許可することができるとしたものと解されるのであって、これにより当該行政財産の使用又は収益を希望する者に対して何らかの実体法上の権利又は法的利益を認めたものということはできず、また許可を与えるか否かについても財産管理者の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

手続的な側面からみても、国有財産法その他の関連法令上、行政財産の目的外使用についての申請権を認めた明文の規定やそれを前提とした手続的規定は存在せず、行政手続法七条の規定も申請への対応を明確にすべきことを定めたもので、一般的に申請権を設定する趣旨の規定とは解されない。また建設省所管国有財産取扱規則及び建設省所管公共用財産管理規則も行政庁の内規にすぎず、これによって申請権が認められるものではなく、他に本件において解釈上特に右のような申請権を認めるべきであるといえるような事情の存在も窺えない。

以上によれば、原告には、本件使用許可申請に係る国有地の使用についての実体法上の権利や法的利益はなく、またその申請権も認められないのであって、被告鴨川土木事務所長がこれを拒否したからといって、原告の法律上の利益に何ら影響を与えるものではなく、したがって右拒否をもって処分ということはできず、その無効確認ないし取消しを求める原告の訴えは不適法である。

2  なお、実質的にみても、前記一1で認定した事実経過からすれば、被告鴨川土木事務所長が、本件使用許可申請の目的である水路敷が原告によって無断で埋められてしまったために、その境界が確定できず、占用面積の特定ができないと判断して、使用を許可しなかったことは相当と認められる。この点について、原告代表者は、造成工事に着手する前に鴨川土木事務所に対して国有地との境界の確定を求めたところ、拒否され、現地に来た同事務所の職員から、境界は分からないので、造成工事をした後、平らになったところで図面に基づいて境界を明らかにすればよいと言われたので工事を始めた旨供述しているが、当該職員の氏名も明らかでなく、前掲の各証拠やそれらから認められる前記事実経過等に照らしても右供述は信用できない。

三  本件道路位置不指定の無効確認・取消請求について

1(一)  建築基準法施行規則九条は、道路位置指定の要件として、指定を受けようとする道路の敷地となる土地の所有者の承諾書の添付を定めているところ、前記一の1及び2で認定した事実によれば、原告から申請されている道路の敷地には、被告鴨川土木事務所長が管理している国有地が含まれていたところ、平成七年三月一日付けで本件使用許可申請が認められずに不許可となったのであり、したがって本件道路位置指定申請は、その要件である敷地所有者の承諾書の添付を欠いていたこととなる。

(二)  原告は、右要件を具備するため、申請部分に係る国有地の使用について、鴨川土木事務所管理課の指導に従い、公共用財産使用許可申請をしたこと、右許可申請書の書式等形式については、すべて同管理課の指導に従ったことを根拠として原告と被告鴨川土木事務所長との間に国有地の使用許可に関する事前合意が成立していたと主張するが、仮に鴨川土木事務所の担当者が申請を促し、その書式等について教示したとしても、それによって申請に対する許可まで約束したものということはできず、原告の右主張を認めるに足る証拠も存しない。

2(一)  次に建築基準法施行令一四四条の四第一項五号は、建築基準法四二条一項五号に係る道路の基準として、「道及びこれに接する敷地内の排水に必要な側溝、街渠その他の施設を設けたものであること。」と規定している。

また、前述のとおり、千葉県の道路位置の指定に関する技術基準では、「道に設ける排水設備はU字溝にあっては、内法幅一八センチメートル以上、L字溝にあっては、幅三〇センチメートル以上のコンクリート製で、かつ、排水に支障がないものであること。」及び「道又はこれに接する敷地内の排水設備の末端が、その他の排水施設に排水上有効に連結しているものであること。ただし、連結できない場合にあって道路等へ溢水するおそれのない容量の敷地内排水施設を設けているものであること。」と定めている。

よって、右技術基準に適合した排水設備の設置が、道路位置指定のための要件であると解されるところ、前記一の2で認定したとおり、原告の提出した道路位置指定申請書には、右排水設備についての記載が十分でなく、そのため被告鴨川土木事務所長は、原告に対しその補正を求めたところ、原告は右技術基準を満たさない排水計画を示した上、一方的に施工してしまったものである。

(二)  原告は、建築基準法施行令一四四条の四第一項五号に適合する排水設備を、前β一二五二番地の二、同所一二〇六番地及び一二〇七番地の一先ほかの国有地に接続する形で設置したところ、雨排水を国有の水路敷に排水させないとの方針に基づく被告鴨川土木事務所長の指導により撤去し、また同所一二〇三番地の一先の県道の側溝に接続する排水路の設置工事に着手したところ、これも県道の側溝にも排水させないとの方針に基づく右所長の指導により中断させられたと主張するが、前掲の各証拠によれば、右排水設備ないし排水路の設置工事は原告が被告の承認を得ることなく、前記技術基準に適合しないまま行ったものであり、その結果として撤去ないし中断となったにすぎないことが認められるのであり、本件証拠上、他に被告鴨川土木事務所長に原告が主張するような国有財産管理権の濫用といえる事実を認めることはできない。

3(一)  原告は、本件道路位置指定申請は、サンリゾートを建築主とする建築物の敷地について接道義務を充足し、サンリゾートが右建築物の建築確認を受けることができるようにするために、右建築確認申請と同時にされたものであり、かつ右道路の敷地は原告の所有する土地のほか、中央建設及びGの所有する土地にかかるものであるから、被告鴨川土木事務所長が道路位置指定の許可申請を審査するに当たっては、原告以外の右第三者らの利害を考慮すべきことが手続上の要件と解すべきであり、本件においてはこれらの者の意見を聴く機会を設ける必要があったところ、本件道路位置不指定をするに際し、被告鴨川土木事務所長はこれらの利害関係人の意見を聴取する手続を全く採らなかったものであるから、右不指定は行政手続法一〇条(公聴会の開催等)に違反すると主張する。

(二)  しかしながら、行政手続法一〇条は、その文言からも明らかなとおり、当該法令において申請者以外の者の利害を考慮すべきことが許認可等の要件とされているときには、行政庁が許認可を行うかどうかの判断に際しては、関係者から意見聴取に努める実益のないときなどを除き、必要に応じ関係者の意見を聴取することが望ましいとの観点から、行政庁に努力義務を課した規定である上、前記一の2で認定したとおり、被告鴨川土木事務所長は、本件道路位置指定申請について、原告に対し、道路の敷地となる土地所有者の承諾を得るよう求めていたことをも考慮すれば、原告の右主張は理由がない。

4(一)  また、原告は、被告鴨川土木事務所長は、行政手続法一一条に基づき、千葉県、同県建築主事等と相互に連絡をとり、原告からの本件道路位置指定申請に係る説明の聴取を共同して行うことにより審査の促進に努める義務があったにもかかわらず、本件道路位置不指定をするに際しこれを怠ったものであるから、右不指定は行政手続法一一条に違反すると主張する。

(二)  しかしながら、行政手続法一一条二項は、「同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請」についての定めであって、本件証拠上、原告が、本件道路位置指定申請に関連する申請を千葉県ないし建築主事のいずれかにしたことを認めるに足りる証拠がなく、原告の主張には理由がない。

5  よって、被告鴨川土木事務所長が、申請に係る道路の敷地となる土地所有者の承諾書の添付がなく、また排水設備が建築基準法施行令一四四条の四第一項五号による排水基準に適合しないことを理由として、本件道路位置不指定をしたことは違法ではない。

四  本件却下の無効確認・取消請求について

1  平成七年三月一〇日、旧条例五〇条の四が改正され(条例第二五号、同年七月一日施行)、改正後の同条二項により日影に関する規制を受ける区域から都市計画区域が除外され、都市計画区域内においては、特定行政庁の許可は不要となったこと、本件日影規制解除許可申請の対象地が存在する千葉県安房郡δは、全域が都市計画区域であることは当事者間に争いがない。

2  したがって、右条例の改正により、原告は、右対象地について旧条例五〇条の四第一項但書による千葉県知事の許可を得る必要はなくなったのであり、本件却下の無効確認ないし取消しによって回復すべき法律上の利益を失ったものと認められる。

五  損害賠償請求について

1  本件道路位置指定申請に対する不作為による損害について

(一)  前記一の認定事実によれば、本件道路位置指定許可申請がなされた当時、造成工事は、原告所有地だけではなく隣接地にも及んでいたことから、都市計画法四条一二項の開発行為に該当する可能性があるとして、被告鴨川土木事務所長が、必要な調査をなし是正勧告をした上、開発許可の主管課に指導を引き継いだことは相当であったと解され、また千葉県都市部長による開発行為に関する指導の終了後は、直ちに本件道路位置指定申請の実質的審査を開始し、必要な補正を原告に指示したにもかかわらず、原告においてこれに応じず、基準に適合しない排水設備を一方的に施工し、また道路敷地に含まれる国有地の本件使用許可申請においても、前述のとおり国有地との境界確定のために必要な手続にも応じず、さらには再び開発行為の許可を要すると思われる建築計画を提示するなどしていたために道路位置指定をすることができず、最終的に本件使用不許可がなされるに至ったことを受けて、本件道路位置不指定となったものということができる。

以上によれば、本件道路位置指定申請に対する決定に時間を要したのは、原告側の対応に主たる原因があったものと考えられるのであって、被告鴨川土木事務所長に原告主張のような違法な不作為が存したとは認められない。

(二)  よって、本件道路位置指定申請に対する不作為を理由とする原告の損害賠償請求は認められない。

2  本件却下による損害について

(一)  旧条例五〇条の四の適法性

(1) 証拠(乙二九号証の1・3)によれば、旧条例五〇条の四は、千葉県においてそのリゾート地域としての評価が高まり、都市計画区域以外の地域においても、既存の落ち着いた低層集落地に高層・高容積のリゾートマンション等が建つことにより、近隣に対して日照や採光障害等多くの問題を投げかけたことに鑑み、早急に生活環境の保全と安全の確保を図るとともに、衛生上の観点から近隣への日照障害を防ぐため、建築基準法四〇条に基づいて定められたものであることが認められる。

(2) そして、建築基準法の第二章は、個々の建築物の衛生、安全の見地から、個々の建築物及び敷地単体についての規定を設け、建築物の衛生、安全を図るため、全国共通の最低基準を定めているが、各地方の実情から右の規定だけでは不十分な場合には、法四〇条により、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途・規模により、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加しうるものとされている。そして、日照や採光の確保については、同法二八条、二九条に定められているところであるが、旧条例五〇条の四は前項に述べた理由から、風土の特殊性により衛生上必要な制限を附加するものとして同法四〇条に基づいて定められたものと解することができる。

(3) ところで、建築基準法第三章は、建築物の集合に伴う都市環境の悪化や火災等の危険に対処し、安全、快適な市街地を形成するため、都市計画区域内に存する建築物等につき必要な規制を施したものである。このうち、同法五六条の二は建築物の日影時間を規制し隣地の日照時間を確保することを目的としたものであり、住宅等の集中した市街地にマンション等の高層建築物が建築されることによって日照に関する紛争が生じることを防止するための規定である。

そうすると、旧条例五〇条の四は、建築基準法第三章の規定である同法五六条の二と同様の効果を生じることになるところ、同法五六条の二は、都市部における住宅地の日照権の確保を特に強化するために制定されたものであり、日照権の確保について全国一律に規制する趣旨ではないと解される上、効果においても同法五六条の二の規制と著しく均衡を失するようなものではなく、また旧条例五〇条の四による規制が同法五六条の二より重くなることがあったとしても、右条例の前記趣旨からすれば同法一条に定める目的に沿うものであり、同法五六条の二もこのような場合に条例によってその規制が加重されることを禁じているものとは解されない。

(4) よって、旧条例五〇条の四が違法であることを前提とする原告の主張は理由がない。

(二)  本件却下の適法性

本件日影規制解除許可申請に対しては、前述のとおり許可の対象となる建築物の敷地が確定されておらず、また当該敷地と周辺土地との高低差が不明のため日影の確定及び周辺への日影の影響等について判定できない上、建築計画の規模からして開発許可との整合性を要するところ、開発行為の許可手続がとられていないとして本件却下がなされたものであるが、前記一で認定した事実に照らせば、右理由により本件却下をなしたことはやむを得ないものと解され、これを違法と認めることはできない。

なお、原告の主張する損害についても、中央建設との間の造成工事請負契約が平成元年三月一日に締結され、工期も同年八月末日までの六か月間とされていること(甲一三)に照らして、本件却下と因果関係があるとは認められず、また実際に右請負代金が支払われた事実を認めるに足る証拠もない。

(三)  したがって、原告の本件却下に基づく損害賠償請求も理由がない。

六  よって、原告の本訴請求中、本件使用不許可及び本件却下に関する各訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、その余の請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法六条、民事訴訟法六一条を適用し、平成一一年一二月六日に終結した口頭弁論に基づき主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西島幸夫 裁判官 伊藤敏孝 裁判官 鈴木秀雄)

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