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千葉地方裁判所 平成8年(行ウ)8号 判決 1998年7月31日

茨城県稲敷郡河内町羽子騎一二一二番地

原告

宮本雪江

右訴訟代理人弁護士

清水健夫

安部公己

菊地宏

中嶋靖史

茨城県竜ヶ崎市川原代町一一八二番地の五

被告

松戸税務署長事務承継者 竜ヶ崎税務署長 小林等

右指定代理人

加島康宏

石井富信

宮崎芳久

細谷秀和

平出正良

櫻井勉

山田文恵

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

松戸税務署長佐藤一益が原告の昭和六二年分及び昭和六三年分の所得税についての更正の請求につき平成六年一二月五日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分、平成元年分の所得税についての更正の請求につき平成六年七月四日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を、いずれも取り消す。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1(一)  原告は、父宮本虎雄(以下「虎雄」という。)及び姪宮本洋子(以下「洋子」という。)とともに、昭和六二年二月ころから、千葉県松戸市小金五〇番一号において、「三栄不動産」の屋号で共同して不動産業を営んでいた。

原告は、現実に外交員として稼働していた虎雄及び洋子に対し、外交員報酬を支払っていた。したがって、この外交員報酬は、原告の事業所得の計算上、経費となるものであった。

(二)  山田江(以下「山田」という。)は、原告の友人であり、昭和六三年において、三栄不動産の被傭者として現実に稼働し、原告から外交員報酬を受け取っていた。

2(一)  原告は、昭和六三年三月一二日、松戸税務署長に対し、昭和六二年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の1記載のとおり確定申告をした。

(二)  原告は、法定申告期限内である平成元年三月一七日、松戸税務署長に対し、昭和六三年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の2記載のとおり確定申告をした。

(三)  原告は、平成二年三月一五日、松戸税務署長に対し、平成元年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の3記載のとおり確定申告をした。

3(一)  虎雄は、(1)昭和六三年二月一六日、被告に対し、昭和六二年分の所得税について、別表1の1「昭和62年分宮本虎雄の課税処分等の経緯」(以下「昭和六二年分虎雄課税表」という。以下同じ。)の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(2)平成元年三月一五日、被告に対し、昭和六三年分の所得税について、別表1の2「昭和六三年分虎雄課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(3)平成二年三月一五日、被告に対し、平成元年分の所得税について、別表1の3「平成元年分虎雄課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

(二)  洋子は、(1)昭和六三年二月一六日、被告に対し、昭和六二年分の所得税について、別表2の1「昭和六二年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(2)平成元年三月一五日、被告に対し、昭和六三年分の所得税について、別表2の2「昭和六三年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(3)平成二年三月一五日、被告に対し、平成元年分の所得税について、別表2の3「平成元年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

(三)  山田は、平成元年三月一五日、被告に対し、昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

4  原告は、松戸税務署の税務調査を受け、そのしょうように従って、平成三年三月四日、昭和六二年分の所得税について別紙「原告申告表」の「修正申告」欄の1記載のとおり、昭和六三年分の所得税について同2記載のとおり、平成元年分の所得税について同3記載のとおり、それぞれ修正申告をした。

その各修正申告の内容は、いずれも、先の確定申告において事業所得の必要経費として計上した虎雄ら三名に対する外交員報酬を給与に変更し、かつ、その金額を減額したものであった。

5  被告は、原告の右修正申告に対応して、虎雄ら三名の所得税につき、それぞれ、その事業所得(外交員報酬)を零円とした上その一部を給与所得として認めることとし、平成四年二月二六日、

(一) 虎雄の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下、まとめて「本件係争年分」という。)の所得税について、それぞれ、別表1の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の虎雄課税表の「更正(4・2・26)」欄のとおり更正をし、

(二) 洋子の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表2の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の洋子課税表の「更正(4・2・26)」欄のとおり更正をし、

(三) 山田の昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表」の「更正(4・2・26)」欄のとおり更正をした。

6  ところが、被告は、平成四年一二月二五日、虎雄ら三名の本件係争年分の所得税について、これらを元の確定申告額どおりに戻す(すなわち、給与所得を否認して元の事業所得をその申告額どおりに復活させる)左記の更正(再更正)をした(以下、これを「本件再更正処分」という。)。

(一) 虎雄の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表1の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の虎雄課税表の「更正<1>(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

(二) 洋子の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表2の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の洋子課税表の「更正(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

(三) 山田の昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表」の「更正(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

7  そこで、原告は、国税通則法(以下「法」という。)二三条二項二号により、平成五年二月二三日、松戸税務署長に対して、別紙「嘆願書」と題する書面(以下「本件嘆願書」という。)を郵便により提出し、本件係争年分の各所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の1ないし3記載のとおりに更正する旨の請求をした。

8  原告は、平成五年二月二六日にも、松戸税務署長に対して、同様の更正請求書を持参提出した。

9  松戸税務署長は、右8の更正請求に対して、平成元年分の所得税の更正請求については平成六年七月四日付けで更正をすべき理由がない旨の通知を原告にし(以下、これを「本件通知処分<1>」という。)、昭和六二年分及び昭和六三年分の所得税の更正請求については同年一二月五日付けで更正をすべき理由がない旨の通知を原告にした(以下、これを「本件通知処分<2>」という。)。

10(一)  原告は、平成六年九月五日、松戸税務署長に対し、本件通知処分<1>につき異議を申し立て、松戸税務署長は、同年一二月五日付けでこれを棄却する旨の決定をした。

(二)  原告は、平成七年一月五日、国税不服審判所長に対し、本件通知処分<1>につき審査請求をした。

11  原告は、平成七年二月三日、松戸税務署長に対し、本件通知処分<2>につき異議を申し立て、松戸税務署長は、原告の右異議申立てを審査請求として取り扱うことが適当であると認め、原告も右取扱いに同意したため、同年三月三日、原告の右異議申立ては国税不服審判所長に対する審査請求とみなされることとなった。

12  国税不服審判所長は、平成七年一二月一五日付けで、右各審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決謄本は同月一六日ころ原告に送達された。

二  被告の主張

1  法二三条二項二号について

被告がした虎雄ら三名に対する平成四年一二月二五日付けの本件再更正処分は、原告の所得税額を計算する上ではその必要経費に関連するものにすぎず、原告に帰属させた課税標準を他の者に帰属するものとする処分ではないから、法二三条二項二号の「更正」には該当しないものである。

2  原告の更正の請求について

仮に、本件再更正処分が法二三条二項二号の「更正」に該当するとしても、次のとおり、原告の更正の請求は不適法である。

(一) 原告の平成五年二月二六日の更正の請求について

虎雄ら三名に対する本件再更正処分は平成四年一二月二五日になされており、その処分通知書は同日に虎雄ら三名に送達されているから、原告が松戸税務署長に対して更正の請求をし得るのはそれから二か月以内である平成五年二月二五日までであるところ、原告が更正の請求をしたのは平成五年二月二六日であるから、原告の更正の請求が法定の期限経過後になされたものであることは明かである。

(二) 原告の平成五年二月二三日提出の本件嘆願書について

原告が平成五年二月二三日に郵便により松戸税務署長に到達させた本件嘆願書は、法二三条三項が規定する更正請求書としての必要的記載事項の記載を欠くものであるから、本件嘆願書は適式な更正請求書とみることができない。

第三当裁判所の判断

一  認定

証拠(甲六、七、八の1ないし3、九の1ないし3、乙一ないし七、八の1ないし6、九ないし一一、一二の1ないし8、一三ないし一九)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1(一)  原告は、昭和六二年二月ころから、千葉県松戸市小金五〇番一号の事務所において、「三栄不動産」の屋号で不動産業を営んでいた。

(二)  原告は、昭和六二年ないし平成元年において、原告の父親である宮本虎雄と原告の甥の妻である宮本洋子に対し、「外交員報酬」として金銭を支払い、また、昭和六三年においては、原告の友人である山田江に対しても、「外交員報酬」として金銭を支払っていた。

2(一)  原告は、松戸税務署長に対し、法定申告期限内である昭和六三年三月一二日、昭和六二年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の1記載のとおり確定申告をした。

(二)  原告は、松戸税務署長に対し、法定申告期限内である平成元年三月一七日、昭和六三年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の2記載のとおり確定申告をした。

(三)  原告は、松戸税務署長に対し、法定申告期限内である平成二年三月一五日、平成元年分の所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」欄の3記載のとおり確定申告をした。

3(一)  虎雄は、被告に対し、(1)昭和六三年二月一六日、昭和六二年分の所得税について、別表1の1「昭和六二年分虎雄課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(2)平成元年三月一五日、昭和六三年分の所得税について、別表1の2「昭和六三年分虎雄課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(3)平成二年三月一五日、平成元年分の所得税について、別表1の3「平成元年分虎雄課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

(二)  洋子は、被告に対し、(1)昭和六三年二月一六日、昭和六二年分の所得税について、別表2の1「昭和六二年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、(2)平成元年三月一五日、昭和六三年分の所得税について、別表2の2「昭和六三年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をし、」(3)平成二年三月一五日、平成元年分の所得税について、別表2の3「平成元年分洋子課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

(三)  山田は、被告に対し、平成元年三月一五日、昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表」の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

4(一)  松戸税務署長は、原告の本件係争年分の所得税について税務調査を実施し、その結果、原告が不動産事業の必要経費として計上していた虎雄ら三名に対する外交員報酬について、虎雄ら三名が役務の提供をしていた事実は薄いとして、これを否認し、外交員報酬額をそれぞれ零円とする修正申告をするようしょうようした。しかし、原告は、虎雄ら三名は若干の役務を提供しているとして、外交員報酬の一部を虎雄ら三名に対する給与として必要経費に計上し得ることを主張したため、松戸税務署長は、これを受け入れ、虎雄ら三名に対する外交員報酬の一部を同人らに対する給与として必要経費に計上した修正申告をするようしょうようした。

(二)  原告は、これに従い、平成三年三月四日、松戸税務署長に対し、昭和六二年分の所得税について別紙「原告申告表」の「修正申告」欄の1記載のとおり、昭和六三年分の所得税について同2記載のとおり、平成元年分の所得税について同3記載のとおり、それぞれ修正申告をした。

5  被告は、原告のした右修正申告に対応して、虎雄ら三名の所得税を更正することとし、同人らの事業所得(外交員報酬)を零円とした上その一部を給与所得と認め、平成四年二月二六日、

(一) 虎雄の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表1の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の虎雄課税表の「更正(4・2・26)」欄のとおりに更正をし、

(二) 洋子の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表2の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の洋子課税表の「更正(4・2・26)」欄のとおりに更正をし、

(三) 山田の昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表」の「更正(4・2・26)」欄のとおりに更正をした。

6(一)  ところが、被告は、平成四年一二月二五日に至り、虎雄ら三名の本件係争年分の所得税について、これらを元の確定申告額どおりに戻す(すなわち、給与所得を否認して元の事業所得をその申告額どおりに復活させる)左記の更正(再更正)をした(本件再更正処分)。

(1) 虎雄の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表1の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の虎雄課税表の「更正<1>(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

(2) 洋子の本件係争年分の所得税について、それぞれ、別表2の1ないし3の昭和六二年分ないし平成元年分の洋子課税表の「更正(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

(3) 山田の昭和六三年分の所得税について、別表3「昭和六三年分山田課税表の「更正<1>(4・12・25)」欄のとおりに更正(再更正)

(二)  さらに、被告は、右平成四年一二月二五日、虎雄の昭和六三年分及び平成元年分の所得税について、課税総所得額の計算上、老齢者控除(所得税法八〇条)を適用して、納税額を減額する別表1の2及び3の昭和六三年分及び平成元年分の虎雄課税表の「更正<2>(4・12・25)」欄のとおりに更正(再々更正)をした。

(三)  被告は、右平成四年一二月二五日、本件再更正処分及び右再々更正処分の各処分通知書を虎雄ら三名に職員の使送により送達した。

7  原告は、平成五年二月二三日、松戸税務署長に対し、別紙「嘆願書」と題する書面(本件嘆願書)を郵送により到達させた。

8  原告は、平成五年二月二六日、松戸税務署長に対し、更正請求書を提出し、本件係争年分の各所得税について、別紙「原告申告表」の「確定申告」v欄の1ないし3記載のとおりに更正する旨の請求をした(以下、これを「本件更正の請求」という。)

9(一)(1) このような中、被告は、虎雄の昭和六三年分の所得税について、平成四年一二月二五日にした前記6記載の本件再更正処分及び再々更正処分が法七〇条一項一号所定の期限の経過後になされたものであって無効であると判断し、平成六年四月二〇日、虎雄に対しその旨を告げて、同人の昭和六三年分の所得税は平成四年二月二六日になされた更正処分のとおりである旨を告げた。

(2) 被告は、虎雄の平成元年分の所得税について、平成六年五月九日、別表1の3「平成元年分虎雄課税表」の「更正(6・5・9)」欄のとおりに更正(再々々更正)をした。

(二)(1) 被告は、洋子の昭和六三年分の所得税についても、平成四年一二月二五日にした前記6記載の本件再更正処分が法七〇条一項一号所定の期限の経過後になされたものであって無効であると判断し、平成六年四月二七日、洋子に対しその旨を告げて、同人の昭和六三年分の所得税は平成四年二月二六日になされた更正処分のとおりである旨を告げた。

(2) 被告は、洋子の平成元年分の所得税について、平成六年五月九日、別表2の3「平成元年分洋子課税表」の「更正(6・5・9)」欄のとおりに更正(再々更正)をした。

(三) 被告は、山田の昭和六三年分の所得税についても、平成四年一二月二五日にした前記6記載の本件再更正処分が法七〇条一項一号所定の期限の経過後になされたものであって無効であると判断し、平成六年四月二七日、山田に対しその旨を告げて、同人の昭和六三年分の所得税は平成四年二月二六日になされた更正処分のとおりである旨を告げた。

10  松戸税務署長は、原告からの前記8記載の本件更正の請求に対し、平成元年分の所得税に関する更正の請求については平成六年七月四日付けで更正をすべき理由がない旨の通知をし(本件通知処分<1>)、昭和六二年分及び昭和六三年分の所得税に関する更正の請求については平成六年一二月五日付けで更正をすべき理由がない旨の通知をした(本件通知処分<2>)。

11(一)  原告は、平成六年九月五日、松戸税務署長に対し、本件通知処分<1>について異議を申し立て、松戸税務署長は、同年一二月五日付けでこれを棄却する旨の決定をした。

(二)  原告は、平成七年一月五日、国税不服審判所長に対し、本件通知処分<1>について審査請求をした。

12  原告は、平成七年二月三日、松戸税務署長に対し、本件通知処分<2>について異議を申し立て、松戸税務署長は、原告の右異議申立ては審査請求として取り扱うことが適当であると認め、原告もこの取扱いに同意したため、同年三月三日、原告の右異議申立ては国税不服審判所長に対する審査請求とみなされることとなった。

13  国税不服審判所長は、平成七年一二月一五日付けで、右各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同月一六日ころ、右裁決謄本は原告に送達された。

以上の事実が認められる。

二  争点に対する判断

1  法二三条二項二号について

(一) 法二三条二項本文は、「納税申告書を提出した者・・・は、次の各号の一に該当する場合(略)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に掲げる期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(略)をすることができる。」旨を規定し、同項二号は、「その申告・・・に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし・・・た者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正・・・があったとき」と規定して、その場合には、当該更正があった日の翌日から起算して二か月以内に更正の請求をすることができる旨を規定している。

(二) そこで、虎雄ら三名に対する被告の本件再更正処分が右にいう「原告に帰属するものとされていた所得が虎雄ら三名に帰属するものとする虎雄ら三名に係る所得税の更正」にあたるか否かについて検討する。

法二三条二項は、同条一項の期間(法定申告期限から一年)を経過した後であっても、一定の事由が生じた場合にはなお更正の請求をなし得ることとして、納税者の権利救済の途を拡充したものであり、二項二号は、その一として、申告の際にその者に帰属するものとされていた所得がその後に他の者に帰属するものとする他の者の所得税についての更正がなされた場合には、これをそのまま放置すると、その者と他の者との両方に課税することとなることから、これを防止するため、その者の所得税について、他の者の所得税の更正内容と整合させるためにその者からの更正の請求を認めたものである。

所得税の課税標準となる総所得金額の内の事業所得の金額は、事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされているから(所得税法二七条)、本件において、原告が虎雄ら三名に支払った外交員報酬の内いくらを必要経費として計上し得るかは、直接、原告の事業所得の金額に影響を及ぼすものであり、他方、虎雄ら三名においても、原告から支払いを受けた外交員報酬の内のいくらかを給与の収入金額として計上するかは、直接、その給与所得の金額(所得税法二八条)に影響を及ぼすものである。そこで、いま、本件再更正処分のように、例えば、虎雄の昭和六二年分の所得税について、その事業所得の金額を零円から四七三万五七九六円に更正し、給与所得の金額を二一〇万八六〇〇円から零円に更正した場合、虎雄の総所得金額は二六二万七一九六円ほど増額したこととなり、この増額部分二六二万七一九六円を課税の対象とする以上、その金額は、原告の事業所得の計算上、必要経費として控除されなければならない理である。もし、そのようにしなければ、右二六二万七一九六円については、虎雄(他の者)と原告(その者)の両方に課税することとなるであろう。

そうとすれば、虎雄ら三名に対する被告の本件再更正処分は、前記「原告に帰属するものとされていた所得が虎雄ら三名に帰属するものとする虎雄ら三名に係る所得税の更正」にあたるものというべきである。

したがって、原告は法二三条二項二号により、本件再更正処分がなされた平成四年一二月二五日(その処分通知書が送達された日も平成四年一二月二五日である。)から二か月以内(平成五年二月二五日まで)に本件係争年分の所得税について更正の請求をなし得るものであったのである。

2  本件更正の請求について

しかし、原告が松戸税務署長に対して本件更正の請求をしたのは、前記一8に認定したとおり、平成五年二月二六日であったのであるから、そうとすれば、本件更正の請求は期限経過後になされた不適法な請求というべきであり、本件更正の請求に対して松戸税務署長のした更正をすべき理由がない旨の本件通知処分<1>及び<2>は適法であるというべきである。

3  本件嘆願書について

(一) 原告は、「平成五年二月二三日に松戸税務署緒に対して「嘆願書」と題する書面(本件嘆願書)を提出しており、本件嘆願書の提出は更正の請求にあたるものである。」旨を主張する。

しかし、法二三条三項は、「更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細その他参与となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない。」と規定しており、更正の請求は書面によってしなければならないことを規定するとともに、その書面の必要的記載事項を定めている。これは、更正の請求がなされた場合、税務署長はその内容について調査する義務を負い、理由があると認めるときは更正の処分をし、理由がないと認めるときは更正をすべき理由がない旨の通知をするものとされていることから(法二三条四項)、手続の明確性を図るために、口頭による更正の請求を認めず、必ず書面によることとし、かつ、税務署長をして右調査を容易ならしめるため、必要的記載事項を法定したものである。右の趣旨にかんがみれば、ある書面が法二三条三項所定の更正請求書と認められるためには、その書面に更正を求める趣旨が明確に記載されているとともに、右必要的記載事項が具体的に記載されていることが必要であるというべきである。

これを本件嘆願書についてみるに、たしかに、本件嘆願書には「竜ヶ崎税務署の方で更正された別紙添付の(宮本虎雄分、宮本洋子分、山田江分)内容に基づき当然のことと存じますが、貴松戸税務署も同じ内容で当初の申告で更正していただきたく心より嘆願書を以ってお願い致します。」と記載されており、更正を求める趣旨が明確に記載されていることは否定できないけれども、しかし、本件嘆願書の標題はあくまでも「嘆願書」であって「請求書」とは記載されておらず、また、たしかに、本件嘆願書には虎雄ら三名に対する更正通知書が添付されていたことが推認され、かつ、前記「その更正の請求をする理由」及び「当該更正の請求をするに至った事情の詳細」についての記載もあったものと認められるけれども、しかしながら、前記「更正前の課税標準等又は税額等」及び「当該更正後の課税標準等又は税額等」の記載がないことは明らかであり、本件嘆願書を総合的に判断する限り、それは未だ法二三条三項所定の更正請求書とはいえないものというべきである。原告自身、本件更正の請求が期限経過後の不適法な更正の請求であるとして審査請求を棄却された後に提出した本訴の訴状においても、なお、本件嘆願書により更正の請求をした旨の主張はしていなかったのであり、したがって、原告自身も本件嘆願書を更正請求書とは考えていなかったと推認されるのである。

原告の前記主張は採用することができない。

(二) 仮に右の点をしばらくおき、本件嘆願書の提出をもって更正の請求があったとみるとしても、

(1) そもそも、虎雄及び洋子の昭和六二年分の所得税についてなされた平成四年二月二六日の前記一5記載の更正処分は、納付すべき税額を増額させる更正処分であるから、法七〇条一項の期間制限に違反しており、本来これを行うことができなかったものであり、したがって、右更正処分及びこれを前提とする本件再更正処分はいずれも無効であるといわざるを得ず、そうとすれば、虎雄及び洋子の昭和六二年分の所得税については被告による何らの更正処分もなされていないことに帰着し、虎雄及び洋子に対して法二三条二項二号の「更正」はなされていないことになるから、結局、原告の更正の請求の内の昭和六二年分の所得税についての更正請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

(2) また、虎雄、洋子及び山田の昭和六三年分の所得税についてなされた平成四年一二月二五日の前記一6記載の本件再更正処分も、納付すべき税額を増額させる更正処分であるから、本来これを行うことができなかったものであり、したがって、右更正処分も無効といわざるを得ず、そうとすれば、虎雄、洋子及び山田の昭和六三年分の所得税については被告による本件再更正処分はなされていないことに帰着し、虎雄、洋子及び山田に対して原告の主張する法二三条二項二号の「更正」はなされていないことになるから、原告の更正の請求の内の昭和六三年分の所得税についての更正請求も、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

(3) 虎雄及び洋子の平成元年分の所得税についてなされた平成四年一二月二五日の本件再更正処分は、法定申告期限から三年以内になされており、有効であって、これが法二三条二項二号の「更正」にあたることは前記説示のとおりであるが、しかし、虎雄及び洋子の平成元年分の所得税については、前記一9に認定のとおり、その後の平成六年五月九日に再々々更正処分(洋子については再々更正処分)がなされており、それによって虎雄及び洋子の平成元年分の所得税は元の平成四年二月二六日の更正処分のとおりに更正されているから(この更正処分は減額の更正処分であるから、法七〇条二項により法定申告期限から五年以内であれば有効になし得る。)、そうとすれば、もはや原告と虎雄及び洋子の両方に課税するという前記のような事態は消滅したものというべきで、たとえ、原告の更正の請求が法二三条二項二号所定の二か月以内になされていたとしても、その更正請求の内の平成元年分の所得税についての更正請求は、その後にその基礎ないしは利益を失うに至ったものというべきであって、理由がないことに帰するものというべきである。

(三) さらに、また、仮に本件嘆願書の提出をもって更正の請求があったとみるとしても、この請求に対しては未だ松戸税務署長の応答(更正、又は、更正をすべき理由がない旨の通知)はなされていないのであるから、この点からも、原告の本訴請求はこれを容認することができないものである。松戸税務署長のした本件通知処分<1>及び<2>が本件嘆願書による更正の請求に対する応答でないことは、裁決書の記載及び弁論の全趣旨から明らかである。

三  結論

以上のとおりであり、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年四月二四日)

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 小宮山茂樹 裁判官 宮島文邦)

別紙

原告申告表

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別表1の1 昭和62年分 宮本虎雄の課税処分等の経緯

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別表1の2 昭和63年分 宮本虎雄の課税処分等の経緯

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別表1の3 平成元年分 宮本虎雄の課税処分等の経緯

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別表2の1 昭和62年分 宮本洋子の課税処分等の経緯

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別表2の2 昭和63年分 宮本洋子の課税処分等の経緯

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別表2の3 平成元年分 宮本洋子の課税処分等の経緯

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別表3 昭和63年分 山田江の課税処分等の経緯

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