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千葉地方裁判所 平成9年(わ)1004号 判決 1997年12月19日

本籍

秋田県横手市上境字南大倉小屋七七番地

住居

千葉市若葉区都賀三丁目一六番四号サンライズ都賀三〇二号室

職業

無職(元会社役員) 堀江吉五郎

昭和五年一一月二日生

右の者に対する税理士法違反、法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官秋山仁美及び弁護人池下浩司各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役三年に処する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、千葉県佐倉市山崎三一五番地において矢部会計事務所を経営していたものであるが、

第一  税理士の資格がなく、かつ税理士法に別段の定めがある場合でないのに、別紙1記載のとおり、平成六年八月下旬ころから平成八年一一月下旬ころまでの間、前記矢部会計事務所において、宮嶋造園株式会社ほか二五社の納めるべき法人税等に関し、同会社からの依頼に係る法人税確定申告書等の税務書類を作成し、これを同県成田市加良部一丁目一五番地所在の成田税務署ほか七か所の各税務署に提出し、もって税理士業務を行った。

第二  同県四街道市物井八六五番地一に本店を置き、ガス及び上下水道工事の請負等を目的とする浅木水道株式会社(ただし、平成七年八月二九日以前は、資本金五〇〇万円の有限会社。平成七年八月三〇日に資本金一〇〇〇万円に変更。平成七年九月一七日に株式会社に組織変更し、資本金は一〇〇〇万円。)の代表取締役浅木榮一と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の製品製造原価を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  平成四年一一月一日から平成五年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二八〇一万五二六八円(別紙2の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一二月二八日、同県成田市加良部一丁目一五番地所在の成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八八四万九三三三円で、これに対する法人税額が一八三万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九〇二万三六〇〇円と右申告税額との差額七一八万七二〇〇円(別紙2の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

二  平成五年一一月一日から平成六年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が四三六八万一五二二円(別紙3の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一二月二八日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六三四万〇五八八円で、これに対する法人税額が五〇二万〇九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一五二七万三七〇〇円と右申告税額との差額一〇二五万二八〇〇円(別紙3の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

三  平成六年一一月一日から平成七年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二三七二万四三四二円(別紙4の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成八年一月四日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三三一万〇八七七円で、これに対する法人税額が八九万三五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八一〇万三二〇〇円と右申告税額との差額七二〇万九七〇〇円(別紙4の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  同県佐倉市石川五七七番地一に本店を置き、クレーン運転実技教習等を目的とする株式会社佐倉クレーン学校(資本金五〇〇〇万円。ただし、平成七年一一月八日以前は、資本金一六〇〇万円)の代表取締役網仲正孝と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の福利厚生費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五四一六万三六五八円(別紙5の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年四月一日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五二一万四〇三六円で、これに対する法人税額が一二二六万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一九三七万一一〇〇円と右申告税額との差額七一〇万五九〇〇円(別紙5の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

二  平成六年二月一日から平成七年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が七四四一万八一七〇円(別紙6の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月三一日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三二七〇万二九二九円で、これに対する法人税額が一一三七万五三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二七〇一万八八〇〇円と右申告税額との差額一五六四万三五〇〇円(別紙6の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

三  平成七年二月一日から平成八年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五七〇五万六四四八円(別紙7の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年四月一日、前記成田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四〇九七万七七五六円で、これに対する法人税額が一四四七万五七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇五〇万五三〇〇円と右申告税額との差額六〇二万九六〇〇円(別紙7の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

第四  同県東金市山田一二九六番地の二に本店を置き、土木建築資材の製造及び販売等を目的とする有限会社平賀建材(資本金三〇〇万円)の代表取締役平賀一男と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の製品製造原価を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  平成五年六月一日から平成六年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五〇三五万二八〇七円(別紙8の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年八月二日、同市東新宿一丁目一番一二号所在の東金税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇五七万一五三三円で、これに対する法人税額が一五五六万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二二九八万〇三〇〇円と右申告税額との差額七四一万七九〇〇円(別紙8の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

二  平成六年六月一日から平成七年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億三九五三万二二九七円(別紙9の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年七月三一日、前記東金税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四七八二万六五八四円で、これに対する法人税額が一七〇三万二五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五一四二万二二〇〇円と右申告税額との差額三四三八万九七〇〇円(別紙9の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

第五  千葉市花見川区三角町二三〇番地一一に本店を置き、電灯、電力工事の請負等を目的とする有限会社北原電気(資本金三〇〇万円)の代表取締役北原光秋と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の製品製造原価を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一〇六一万三五九六円(別紙10の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一二月一日、同区武石町五二〇番地所在の千葉西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五四万九三九七円で、これに対する法人税額が二一万〇八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二九九万七〇〇〇円と右申告税額との差額二七八万六二〇〇円(別紙10の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

二  平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二三〇三万一八九八円(別紙11の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一二月一日、前記千葉西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四八〇万三九四二円で、これに対する法人税額が一一九万九七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七七三万一五〇〇円と右申告税額との差額六五三万一八〇〇円(別紙11の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

三  平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一三八六万六二三一円(別紙12の(1)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一二月一日、前記千葉西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三七二万四二四五円で、これに対する法人税額が九〇万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四三〇万一一〇〇円と右申告税額との差額三三九万七一〇〇円(別紙12の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)(括弧内の甲乙の各番号は、証拠等関係カード及び書証に記された検察官請求の証拠の番号を表す。)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙5、6)

一  大蔵事務官作成の報告書(甲15)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙2、4、6から32まで)

一  矢部茂(甲1、2)、宮嶋茂(甲16)、宮嶋節子(甲17)、西真範(甲19)、園田清美(甲21)、篠田要(甲23)、関根幹男(甲25)、斉藤直太郎(甲28)、下田祥三(甲30)、下田泰正(甲31)、関幸雄(甲33)、網仲正孝(甲35)、山崎重雄(甲37)、牧瀬清(甲39)、川口一郎(甲41)、長島正雄(甲43)、星弘光(甲46)、松崎良夫(甲48)、松崎愛こと李眞姫(甲49)、村田訓己(甲52)、岩澤豊(甲54)、青木昇(甲55)、青木みね(甲56)、和田仲(甲58)、橋本秀夫(甲60)、伊藤勝彦(甲62)、八重樫淑子(甲64)、芝沼孝光(甲65)、小山内丸一(甲66)及び細谷定生(甲67)の検察官に対する各供述調書

一  東京国税局総務部税理士監理官作成の「税理士登録の有無等について」と題する書面(甲14)

判示第二の事実全部について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙33から35まで、37、38)

一  浅木榮一の検察官に対する各供述調書謄本(甲103から106まで、108、109)

一  大蔵事務官作成の各調査書(甲85から93まで)

一  登記官作成の各登記簿謄本(甲83、84)

判示第三の事実全部について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙39、41、42)

一  網仲正孝の検察官に対する各供述調書謄本(甲141、142、144から146まで)

一  大蔵事務官作成の各調査書(甲113から128まで)

一  登記官作成の各登記簿謄本(甲110から112まで)

判示第四の事実全部について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙43)

一  平賀一男の検察官に対する各供述調書謄本(甲174、176、177)

一  大蔵事務官作成の各調査書(甲148から162まで)

一  登記官作成の各登記簿謄本(甲147)

判示第五の事実全部について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙44)

一  北原光秋の検察官に対する各供述調書謄本(甲191から193まで)

一  大蔵事務官作成の各調査書(甲179から188まで)

一  登記官作成の各登記簿謄本(甲178)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は包括して税理士法五九条、五二条に、判示第二の一及び二、第三の一及び二、第四の一並びに第五の一及び二の各所為はいずれも平成七年法律第九一号(以下、「改正法」という。)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第二の三、第三の三、第四の二及び第五の三の各所為はいずれも刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は改正法附則二条二項により刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第四の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、改正法附則二条三項によって情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、被告人が、税理士の名義を借りて税務申告等の税理士業務を無資格で行ったのみならず、顧問会社の代表者らと共謀の上、合計四社延べ一一事業年度の法人税につき、合計一億〇七九五万一四〇〇円をほ脱したという税理士法違反及び法人税法違反の事案である。

被告人は、多数の従業員を雇い入れた上、会計事務所を実質的に経営して税理士業務を営み、多数の顧問先から報酬を得るなどしていたものであって、遵法精神の欠如が著しく、その犯行の態様においても大胆かつ悪質なものがある。被告人が、長期間にわたって税理士を詐称していた点は、税理士制度に対する国民の信頼を著しく損ねたものというべきであり、犯情において軽視し得ないものがある。一方、租税ほ脱事犯の態様は、あらかじめ申告所得額と納付税額を計算した上、それに見合った架空経費の計上をして脱税を図り、粉飾決算に当たっては架空の領収書や請求書をわざわざ入手した上、相応の脱税報酬を得るなどしたものであって、計画的かつ巧妙である。しかも、本件全体の脱税額は多額であり、ほ脱率も五七・二パーセントと決して低いとはいえない。この種ほ脱事犯は、放置するとまん延しやすく、国民の健全な税負担の感覚を鈍磨させるとともに、国家の財政的基礎をも危うくする犯罪である。

そうすると、被告人の刑事責任をゆるがせにすることはできない。

しかしながら、本件で法人税をほ脱した判示各会社は、いずれも国税当局の指導に従って本件各事業年度分の法人税を修正申告しており、有限会社平賀建材以外の各会社については、加算税及び延滞税を含めた額を完納しており、有限会社平賀建材も、ほ脱した法人税の本税については完納している。また、被告人は、本件発覚以来、事実をすべて認めて捜査等に協力し、当公判廷においても反省の態度を示している。被告人には道路交通法違反等の罪による罰金前科一犯のほかには前科がない。そのほかにも被告人の年齢及び家族の状況など、被告人にとって有利に酌むべき事情がある

以上の諸事情を総合して考慮すると、被告人に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役三年)

(裁判長裁判官 田中康郎 裁判官 荒川英明 裁判官 佐藤卓生)

別紙1

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別紙2の(1)

修正損益計算書

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別紙3の(1)

修正損益計算書

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別紙4の(1)

修正損益計算書

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別紙2の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙3の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙4の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙5の(1)

修正損益計算書

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別紙6の(1)

修正損益計算書

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別紙7の(1)

修正損益計算書

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別紙5の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙6の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙7の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙8の(1)

修正損益計算書

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別紙9の(1)

修正損益計算書

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別紙8の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙9の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙10の(1)

修正損益計算書

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別紙11の(1)

修正損益計算書

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別紙12の(1)

修正損益計算書

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別紙10の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙11の(2)

ほ脱税額計算書

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別紙12の(2)

ほ脱税額計算書

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