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千葉地方裁判所 平成9年(わ)1329号 判決 1998年12月24日

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中二六〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、有限会社甲野産業の代表取締役であるが、

第一  平成三年一月中旬ころから同年三月下旬ころまでの間、数回にわたり、千葉市若葉区《番地略》所在の同社事務所等において、B子(当時四五歳)に対し、真実は、同市若葉区《番地略》乙山マンション乙田第三-四〇一号室を株式会社丙川から買い受ける意思はないのに、これがあるように装い、同女から同室の買受代金、売買契約諸費用として交付を受けた金員等は、自己の用途に充て、同室の所有者Cから同室を賃借して同女を入居させる意思であるのに、その情を秘し、「丙川のD常務が、八〇〇〇万円くらいの価値があるマンションがバブルで買い手がつかないので格安の五〇〇〇万円でいいと言ってくれている。君も三〇〇〇万円くらい出せるだろう。差額分はわしが出す。」「諸費用分も君がもってくれ。」「D常務との関係でいきなり君名義にはできない。いったん、甲野産業の会社名義にして、七月に君名義に移す。」「一〇〇〇万円は、五〇〇万円の小切手二枚にしてくれ。諸費用として一一〇万円を現金で用意してくれ。」などとうそを言い、同女をして、被告人に交付する金員等は同室の買受代金等に充てられるものと誤信させ、よって、同年三月二八日、同室において、同女から同室の買受代金内金及び売買契約諸費用として金額五〇〇万円の小切手二通及び現金一一〇万円の交付を受け、

第二  平成三年三月二〇日ころ及び同月二九日ころ、前記甲野産業事務所、前記乙山マンション乙田第三-四〇一号室の前記B子方において、右B子に対し、真実は、借受金名下に交付を受けた金員を丁原建設株式会社又はその専務取締役であるEに貸し付ける意思はなく、自己の用途に充てる意思であるのに、その情を秘し、約束どおり金員を返済する意思がないのに、これがあるように装い、「丁原建設のE専務が税金も払えないと悩んでいる。」「Eがわしにお金を貸してくれと泣きついてきた。貸してやりたいが、一時用立ててくれないか。一か月で返す。三〇〇万円だ。」などとうそを言い、同女をして、被告人に交付する金員は右丁原建設株式会社又は右Eに貸し付けられ、かつ、同年五月一日ころまでに被告人から同女に確実に返済されるものと誤信させ、よって、同年四月一日、同女方において、同女から被告人に対する貸付金として現金三〇〇万円の交付を受け、

第三  平成三年六月初旬ころから同月一七日ころまでの間、数回にわたり、前記乙山マンション乙田第三--四〇一号室の前記B子方において、右B子に対し、真実は、新たに株式会社を設立する計画はなく、交付を受けた金員は株式会社の設立に用いずに前記有限会社甲野産業の運転資金など他の用途に費消する意思であり、かつ、約束どおり金員を返済する意思も能力もないのに、これがあるように装い、「今の甲野産業は税務対策上のダミー会社にする。新しい会社を作って事業展開を図る。新会社の名前は、株式会社戊田だ。そのためには銀行に二、三週間お金を積んでおかなければいけない。甲田証券に一五〇〇万円あるだろう。そのお金を貸してくれ。銀行に積んでおくだけの金だから途中で必要になったら下ろすことができるから頼むよ。」などとうそを言い、さらに、同女の甲田証券株式会社千葉支店における取引口座の残高が約一四〇〇万円しかないことを知るや、「一〇〇万円はわしの方で用意する。借りた一四〇〇万円は一五〇〇万円にして返す。」「返済期限は余裕をみて一か月先の七月二〇日としておく。」などとさらにうそを言い、同女をして、被告人に交付する金員は株式会社を設立するために銀行に預託することのみに用いられ、かつ、同年七月二〇日までに同女へ確実に返済されるものと誤信させ、よって、同年六月二〇日、同女をして、同市若葉区《番地略》株式会社乙野興業銀行都賀支店に開設された株式会社戊田代表取締役A名義の普通預金口座に、被告人に対する貸付金として現金一四〇〇万円を入金させ、

第四  前記B子が、被告人が千葉県成田市《番地略》に約七二六平方メートルの土地を所有している旨の被告人の虚偽の話を真実と誤信していることに乗じ、その土地の所有権確認訴訟に要する費用の借受名下に金員を騙取しようと企て、平成四年九月二二日ころから同月二四日までの間、前記乙山マンション乙田第三--四〇一号室の前記B子方において、右B子に対し、真実は、被告人又は被告人経営の前記甲野産業が右土地を所有している事実も被告人又は同会社を訴訟当事者として右土地に係る所有権確認訴訟等が千葉地方裁判所に係属している事実もなく、また、同女から借受名下に交付を受けた金員を返済する意思もないのに、これがあるように装い、「成田の土地について所有者の確認の裁判のため、お金がいる。一四〇万円何とかならないか。その裁判が終われば、君にこれまでの分をまとめて返すことができる。」「一〇〇万円作ってくれれば、四〇万円は女房に出させる。」「一〇月一〇日までに、金利一割を付けて返す。」「裁判は、千葉地裁の民事部で、一〇月七日の午後三時にある。」などとうそを言い、同女をして、被告人に交付する金は右民事訴訟の費用に充てられ、かつ、同年一〇月一〇日までに確実に返済されるものと誤信させ、よって、同年九月二四日、同女方において、同女から、借受金として現金一〇〇万円の交付を受け、

もって、これらをいずれも騙取したものである。

(証拠の標目)《略》

(補足説明)

弁護人は、判示各事実につき、被告人は、B子に対し虚言を弄して同女から金員及び小切手を騙取したことはなく、無罪である旨主張し、被告人もこれに沿う供述をするので、以下、当裁判所の事実認定を補足して説明する。

第一  判示第一の事実について

一  弁護人は、B子において準備した額面五〇〇万円の小切手二枚と現金一一〇万円のうち、小切手一枚は、B子によって乙野興業銀行都賀支店の有限会社甲野産業(以下「甲野産業」という。)名義の当座預金口座に入金されたが、これはB子が甲野産業の運転資金として工面したものである、また、右現金は甲野産業振出の額面一一〇万円の小切手となって、もう一枚の額面五〇〇万円の小切手とともに戊原銀行千葉支店の被告人名義の普通預金口座に入金されたが、これは被告人がB子と同行して行ったもので、同支店側からの要請に基づいてした協力預金である、被告人はB子に対しマンション購入資金の出捐を求めたことはなく、右計一一一〇万円の小切手・現金等も右のとおりB子によって他の目的で出捐されたものであるから、被告人は無罪である旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

二1  そこで検討するに、この点に関するB子の供述は、大要以下のとおりである。

<1> B子は、平成二年一〇月ころ、被告人との交際等が原因で前夫と離婚した。B子は、財産分与用の現金を準備するため当時の自宅(以下「旧宅」という。)を売却することとし、その手続を被告人に依頼したところ、被告人は、不動産業者丁川ハウジングを紹介し、結局、旧宅は七八〇〇万円で売却されることとなった。B子は、平成三年三月末日に旧宅を明け渡すこととし、その売却代金については、初回三〇〇万円、二回目一〇〇〇万円、旧宅明渡し時に六五〇〇万円を受け取ることとなった。

B子は、そのころ、被告人に対し、「中古でいいから、三LDKで犬が飼えるマンションを探してほしい。予算は三〇〇〇万円くらいで場所は千葉市内にしてほしい。勝手に離婚したので、子供たちのためにマンションを残したい。」と依頼した。

<2> B子は、平成二年一二月下旬ころ、被告人から、「いいマンションをキープした。」と言われ、千葉市若葉区《番地略》乙山マンション乙田第三--四〇一号室(以下「本件マンション」という。)を見せられた。

<3> B子は、平成三年一月中旬ころ、被告人から、千葉市若葉区《番地略》所在の甲野産業の事務所(以下「都賀の事務所」という。)において、「丙川のD常務とは仲間だ。この間のレンガ色のマンションがあっただろう。八〇〇〇万円くらいの価値のあるマンションがバブルで買い手がつかないので、Aさんだったら格安の五〇〇〇万円でいいと言っている。君も三〇〇〇万円は出せるだろう。差額分はわしが出すから、三〇〇〇万円と諸費用分は君がもってくれ。」と言われ、これを承知した。

<4> B子は、同月下旬ころ、被告人から、都賀の事務所において、「わしは丙川のD常務には、わしと君の関係を何も言っていないから、いきなり君名義にするとD常務が不審に思うので、君名義にすることはできない。いったん、会社名義にして、七月に君名義に移す。」と言われ、さらに、「丙川のD常務にお金を渡さないといけないけど、いつ出せるか。とりあえず一〇〇〇万円出してほしい。いつ払える。」と言われた。そこでB子は、被告人に対し、既に甲野産業の運転資金の名目で被告人に貸し付けてあった約二〇〇〇万円をその頭金に充ててほしいと言ったところ、被告人はこれを承知し、平成三年一月二四日付で額面二〇〇〇万円の借用書を作成した。

<5> B子は、同年二月一九日ころ、被告人から、電話で、「丙川のD常務に二〇〇〇万円の小切手を届けるから切ってくれ。それと別口で二五〇万円の小切手を切ってくれ。」と指示された。B子は、その翌日、被告人に額面二〇〇〇万円及び二五〇万円の各小切手を手渡した。このときB子は、被告人から、「残金一〇〇〇万円と諸費用は旧宅の売却代金が入金されてからでいい。」と言われた。被告人は、この後一人で外出し、しばらくしてから、B子に、「終わったから。」と電話をしてきた。B子は、本件マンションの売買契約手続が終了したのだと思った。

<6> B子は、同年三月初旬の土曜日に、被告人に連れられて、初めて本件マンションの部屋に入った。このとき被告人は、本件マンションの鍵を持参しており、丙川の従業員など他の人は同行していなかった。

<7> B子は、同月二五日、旧宅を明け渡して本件マンションに引っ越すこととし、丁川ハウジングに電話したところ、同月二七日に旧宅売却代金の残金六五〇〇万円を同女名義の丙山銀行稲毛支店の預金口座に振り込む旨連絡を受けた。そこでB子は、被告人に対し、「お金が二七日に入るので残金を払います。」と言ったところ、被告人は、「一〇〇〇万円は五〇〇万円の小切手二枚にしてくれ。諸費用として一一〇万円を現金で用意してくれ。」と言った。

<8> B子は、同月二八日、一人で丙山銀行都賀支店に行き、同女名義の同銀行稲毛支店の前記預金口座から一一一〇万円を引き出し、それを額面五〇〇万円の小切手二枚と現金一一〇万円で受け取った。B子は、それを持って本件マンションへ行き、被告人に手渡した。

<9> B子は、同年七月ころ、被告人と交際のあったF子から、本件マンションが賃貸物件であることを初めて聞き、被告人から、一一一〇万円を本件マンション売買名下に騙し取られたと悟った。

2  B子の右供述は、捜査段階から一貫し、その内容も具体的かつ詳細であり、当公判廷における弁護人の反対尋問にも全く揺らぐことがなかったもので、それ自体信用できるものである。

また、関係各証拠によれば、

(一) 平成三年三月二七日、B子名義の丙山銀行稲毛支店の普通預金口座に、丁川ハウジングから六五〇〇万円が入金され、翌二八日には同口座から一一一〇万円が払い戻されたが、そのうち一〇〇〇万円は額面五〇〇万円の小切手二通で払い戻されたこと、

(二) 同月二八日、甲野産業名義の乙野興業銀行都賀支店の当座預金口座に、小切手で五〇〇万円が入金されたこと、

(三) 前同日、被告人が、戊原銀行千葉支店において、現金九〇万円を入金して自己名義の普通預金口座を開設し、額面五〇〇万円及び一一〇万円の小切手で合計六一〇万円が右口座に入金されたこと(右額面五〇〇万円の小切手は、前記(一)の小切手のうち一枚と同一のものである。)、

(四) 被告人は、平成二年一二月ころから平成三年一月ころにかけて、被告人の知人である甲川不動産株式会社の代表取締役・Gに対し、「社員に分譲マンションを買ってやりたいので、二〇〇〇万円から二五〇〇万円の予算で適当な物件を紹介してほしい。」と依頼したこと、

(五) 被告人は、B子と本件マンションを下見に行く際、Gに対し、「場所は分かっているから。鍵を貸してくれれば俺が見てくる。」などと言って鍵を預かり、その下見にGは同行しなかったこと、

(六) B子は、平成三年七月ころ、被告人と交際のあったF子から、本件マンションを明け渡すよう申し向けられたが、その際、「分譲という形で自分が一一一〇万円を出した。」と言ったところ、右F子は「丁川のマンションは、分譲ではなく賃貸だよ。」と話したこと、

(七) 本件マンションは、甲野産業を借主とする賃貸物件であったこと

などが認められるところ、これらの事実は、一一一〇万円(小切手を含む。)がB子側から被告人側に交付された状況、被告人が分譲マンションを物色していたこと、本件マンションの下見には業者が立ち会わなかったこと、B子が本件マンションが自分が買い受けたものであると誤信していたことなどの点で、B子の供述とよく符合する。

また、被告人が平成三年一月二四日付で作成した「但、会社運営資金として。無利息とする。」との記載のある二〇〇〇万円の借用書なども、「会社運営資金として既に貸し付けてある二〇〇〇万円をマンション代の頭金に充ててほしいと言った。」旨のB子の供述を裏付けるものといえる。

三1  以上に対し、被告人は、当公判廷において、「額面五〇〇万円の小切手が、平成三年三月二八日、甲野産業名義の乙野興業銀行都賀支店の当座預金口座に入金されていたことは知っていたが、それは、B子が、会社の資金繰りが苦しいことを知り、同女の判断で入金したものである。また、額面五〇〇万円の小切手が、同日、自己名義の戊原銀行千葉支店の普通預金口座に入金されたことも知っていたが、当時、甲野産業の赤字補填を代表者である自分が会社に貸し付けるという形で行っていたので、B子の判断で、甲野産業名義の口座と同額の五〇〇万円を入金したものだと思う。」旨弁解する。しかし、この内容は、一〇〇〇万円以上の大金を頼みもしないのにB子が自主的に入金するというもので、その内容自体不自然であって到底信用することができない。そのうえ被告人は、当公判廷において、戊原銀行千葉支店に入金された五〇〇万円について、当初は、「私が、平成三年三月二八日、自己名義の戊原銀行千葉支店の預金口座に五〇〇万円の小切手、額面一一〇万円の小切手の合計六一〇万円を入金したのは、B子の承諾を得たうえで、戊原銀行千葉支店のH課長の要請に応えて年度末の預金に協力したものである。」などと弁解していたところ、その直後に右のような弁解をし、かつ、その変遷の理由について何ら合理的な説明をしていないのであるから、この点からも、被告人の弁解は全く信用に値しないというべきである。

2  また被告人は、捜査段階において、「私とB子とは、甲川不動産の従業員と一緒に本件マンションの下見に行って間取りの説明などを受けたが、そのとき右従業員は、B子に対し、本件マンションが賃貸物件であることを話したと思う。」旨弁解していたが、それは、「被告人は、物件下見の際、私に対し、場所は分かるから、鍵を貸してくれれば自分で見てくると言っていた。私は、平成三年九月ころ、B子と顔見知りになったが、そのころにB子が本件マンションの入居者であるとは気が付かなかった。」というGの供述内容(二2(五))と明らかに矛盾する。

3  さらに、被告人は、捜査段階において、B子は、甲野産業が借りたマンションの賃料を振り込み送金する手続を甲野産業の事務員として行っていたものであるから、このマンションが賃貸物件であることを承知していたはずである旨弁解するが、関係各証拠によれば、被告人は、平成三年四月三〇日、自ら本件マンションの家賃を振り込んでいることが認められ、「当時、会社の事務系統はB子が一人で取り仕切っていた。」とする被告人供述と矛盾する(かえって、B子の入居直後の賃料は被告人がB子に秘して振り込んだものともみることができる。)。

四  以上によれば、B子の、本件マンション購入代金名下に一一一〇万円(小切手を含む。)を被告人に交付した旨の供述が信用できる一方、被告人のこれを否認する弁解は、その内容自体不自然であるうえ、理由なく変遷していて信用できないことなどから、前記「罪となるべき事実」の第一のとおり認定できるというべきである。弁護人のこの点に関する主張は採用できない。

第二  判示第二の事実について

一  弁護人は、被告人が平成三年四月一日に三〇〇万円を受領したことはない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

二1  そこで検討するに、この点に関するB子の供述は、大要以下のとおりである。

<1> B子は、平成三年三月二〇日ころ、被告人から、都賀の事務所で、「今、不動産の景気が悪くて、丁原建設のEが税金も払えないと悩んでいる。Eも大変だよな。」と言われ、さらに、同月二九日か三〇日ころ、被告人から、本件マンションにおいて、「Eがわしにお金を貸してくれと泣きついてきた。貸してやりたいが、一時用立ててくれないか。一か月で返す。三〇〇万円だ。」と言われた。B子は、ここにおいて、被告人に、Eへの融資目的で三〇〇万円を貸すこととした。

<2> B子は、同年四月一日、自己名義の丙山銀行稲毛支店の普通預金口座から、三〇〇万円を現金で引き出し、本件マンションにおいて、右三〇〇万円を被告人に手渡した。このとき被告人は、B子に対し、「Eはわしに言ってきているんだから、君から金が出ていることはこれにしてくれよ。」などと言って、口にチャックをするような仕草をした。B子は、その翌日ころ、被告人から、現金一五万円を前払いの利息などとして受け取った。

<3> B子は、同年七月二〇日、後記第三に説示の一四〇〇万円が期限どおりに返済されなかったことから、この三〇〇万円も騙し取られたと悟った。

2  B子の右供述は、前記説示のとおり、それ自体信用できるものである。また、関係各証拠によれば、

(一) 平成三年四月一日、B子名義の前記丙山銀行稲毛支店の預金口座から、現金三〇〇万円が支払われ、同日、被告人名義の戊原銀行千葉支店普通預金口座に、現金三〇〇万円が入金されたこと、

(二) 丁原建設株式会社のEは、被告人に対し、三〇〇万円の借用方を申し込んだことはないこと

などが認められるところ、これらは、三〇〇万円がB子側から被告人側に交付されたこと、Eに対する三〇〇万円の貸付話が存在しなかったことなど点で、B子の供述によく符合するものである。

また、後記第三の二2に説示の、二九二七万円の借用書を作成する際に金額を算出するために用いたもので、「四月一日三〇〇万円(丁原建設貸付)」などと記載されたB子作成に係るメモも、B子の供述を裏付けるものといえる。

三  以上に対し、被告人は、当公判廷において、「私が、平成三年四月一日、自己名義の戊原銀行千葉支店の普通預金口座に、B子が工面した三〇〇万円を入金したことは認めるが、それは、同女の承諾を得たうえで、同支店のH課長の要請に応えて年度始めの預金に協力したものである。」旨弁解する。しかし被告人は、捜査段階において、この三〇〇万円については、「私が所持していた現金の中から出したものかもしれないし、B子が入金したものかもしれないし、他の取引先などから受け取ったものかもしれない。」と極めて曖昧な供述をしていたにもかかわらず、何ら合理的な説明をすることなく、右のように供述内容を変遷しているもので、そもそも、前記第一の三1に説示のように、B子の承諾のもとに協力預金をしたということ自体疑わしいことを併せ考えれば、被告人の供述は、到底信用できない。

四  以上によれば、B子の、丁原建設のEに三〇〇万円を貸し付けるために被告人に金銭を交付した旨の供述が信用できる一方、被告人のこれを否認する弁解は信用できず、また、右Eに対する貸付予定がなかったことも明らかであるから、前記「罪となるべき事実」の第二のとおり認定できるというべきである。弁護人のこの点に関する主張も採用できない。

第三  判示第三の事実について

一  弁護人は、被告人は、B子から、一四〇〇万円を受け取ったが、それは、被告人が、B子に対し、新会社設立の話とLに対する融資の話をしたところ、B子自身が、自らの判断として、一四〇〇万円を被告人に渡したものである旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

二1  そこで検討するに、この点に関するB子の供述は、大要以下のとおりである。

<1> B子は、旧宅を売却した代金の保管方法について被告人に相談したところ、被告人から甲田証券千葉支店従業員のJを紹介され、平成二年一二月に五〇〇万円、平成三年五月一日に一八〇〇万円をそれぞれ同支店に入金し、その旨被告人に伝えた。

<2> B子は、平成三年六月上旬ころ、被告人から、本件マンションにおいて、「今の甲野産業は税務対策上のダミー会社とする。新しい会社を作って事業展開を図る。新会社の名前は株式会社戊田だ。新会社を作るために二、三週間、銀行にお金を積んでおかなければならない。甲田証券に一五〇〇万円あるだろう。その金をわしに貸してくれ。」などと言われた。B子は、当初はこれを拒否していた。

<3> B子は、同月一七日ころ、被告人から、本件マンションにおいて、「新しい会社の話だが、融資実行日も決まったので、二、三週間でいいから、甲田証券にある一五〇〇万円を貸してくれ。二、三週間積んでおくだけなんだから、途中、必要になったら少しだったら降ろすこともできる。銀行融資も新しい会社の設立を条件に決まったんだから頼むよ。」などと言われた。B子は、銀行の融資実行日が決まった以上、自己が被告人に金を貸さないと銀行に迷惑をかけるのではないかと思い始めた。そこでB子は、被告人に対し、融資実行日はいつかと聞いたところ、「戊原銀が七月一一日、乙野興銀が七月一八日になっている。」と聞かされた。

B子は、ここにおいて、「株式会社戊田」設立のために銀行へ金を積み立てる目的で被告人に金を貸すこととし、被告人に対し、「分かりました。でも、一五〇〇万円はありませんよ。一四〇〇万円しかありませんよ。」などと言った。これに対し、被告人は、「一〇〇万円はわしの方で用意する。借りた金は三週間したら一五〇〇万円にして返す。今日はおろせるか。」などと言ったので、B子は、「二〇日なら大丈夫です。」と答えた。

<4> B子は、被告人から、同月二〇日午前中、「興銀の都賀支店に行って、戊田の口座を作ってきてくれ。今、J次長がいて、全部話してあるから。株式会社戊田だ。片仮名で戊田にする。住所はみつわ台の自宅にしてくれ。」などと言われたので、千葉市若葉区《番地略》所在の乙野興業銀行都賀支店に行き、戊田名義の預金口座を開設したうえ、一四〇〇万円を入金した。

<5> B子は、被告人に対し、その日のうちに戊田名義の預金通帳と実印を手渡した。このときB子は、被告人に対し、借用書の作成を求めたところ、被告人はこれを了解した。被告人は、「二、三週間でいいけど、余裕をもって一か月にしよう。」などと言いながら本件一四〇〇万円の借用書を作成し、B子に手渡した。

<6> B子は、右の際、被告人に対し、既に被告人に対し融資していた金についても、自己がノートにメモをしていた金額を被告人に確認させたうえ、新たな二九二七万円の借用書を差し入れてもらった。

<7> B子は、被告人が、右貸付の後、些細なことでB子を怒鳴りつけるようになったことに不信感を持つようになった。そこでB子は、同年七月五日ころ、被告人に対し、金が必要になったなどとして、右一四〇〇万円のうち一〇〇〇万円を返すように求めたところ、被告人は、七月八日に返す旨約束した。しかし、被告人はその日を過ぎても返さなかった。

<8> B子は、平成三年一〇月三〇日、被告人の指示する所用で被告人の自宅に行った際、株式会社戊田の預金通帳があったので、それを見たところ、B子が戊田名義で開設した前記預金口座に一四〇〇万円を入金した翌日である六月二一日に、小切手や現金で一四〇〇万円が同口座から引き出されていたことが分かり、会社設立目的で銀行に現金を積んでおくという被告人の説明は虚偽であると悟った。

2  B子の右供述は、前記説示のとおり、それ自体信用できるものである。また、関係各証拠によれば、

(一) B子は、平成三年六月二〇日、甲田証券から同女名義の丙山銀行都賀支店の普通預金口座に入金された一四一二万一五二七円のうち、一四〇〇万円の払い戻しを受けたうえ、乙野興業銀行都賀支店において、株式会社戊田(代表取締役・被告人)名義の普通預金口座を開設し、そこに一四〇〇万円を入金したこと、

(二) 乙野興業銀行都賀支店次長のJは、被告人から、事前に、株式会社戊田を設立したいので戊田名義の口座を開設させて欲しい旨を聞いていたこと、

(三) 甲田証券千葉支店従業員のIは、被告人の紹介でB子を知り、同女との取引をするようになったこと

などが認められるところ、これらの事実は、一四〇〇万円がB子側から被告人側に交付された状況、その交付と同時期に、被告人が、金融機関との間で、新会社設立準備のための口座開設につき積極的に相談をしていたことなどの点で、B子の供述とよく符合する。

そのうえ被告人は、平成三年六月二〇日付で、「但(株)戊田設立資金として。設立準備期間の後、七月二〇日までに返済いたします。」との記載のある一四〇〇万円の借用書のほか、同日付で二九二七万円の借用書も別に作成したこと、B子は、備忘録として使用していたビジネスダイアリーの平成三年六月二〇日の欄に「一四〇〇万出資金としてA社長に貸し付け。七月一一日、七月一八日返済」、同年七月五日の欄に「一〇〇〇万返済するよう依頼。七月八日に返すとのこと。」、同月一一日の欄に「戊原銀融資実行日」、同月一八日の欄に「興銀融資実行日」と記載していることなどもB子の供述を裏付けるものといえる。

三1  以上に対し、被告人は、当公判廷において、「株式会社戊田名義の口座は、B子が自主的に開設したものであって、私がその口座に一四〇〇万円が入金されていることを知ったのは、平成三年六月二〇日の夕方である。B子は、建前としては会社への出資ということで金を出していたが、本音では融資話の出ていた丙田木材への融資の金に使いたいようであった。この一四〇〇万円のうち、一〇〇〇万円は、B子の承諾のもと、自己の妻であるP子名義で定期預金をし、その後、丙田木材への融資金等として使った。B子は、丙田木材への融資について積極的であった。また、三〇〇万円については、B子に保管を頼み、残り一〇〇万円は、五〇万円ずつ、甲野産業の当座預金口座と普通預金口座に振り分けたうえ、同社の経費等として使った。なおB子は、三〇〇万円を、実家の新築資金に使いたいと言っていた。」旨供述する。

2  しかし、そもそも、被告人が妻名義の口座に一〇〇〇万円を振り替える必要はないうえ、不倫相手であるB子がそれを承諾するとも到底考えられないから、被告人の右公判供述は、その内容自体合理性を欠くものといえる。また、被告人は、捜査段階の当初においては、一四〇〇万円の交付を受けた経緯について、「当時、不動産業を中心として株式会社戊田という名称の会社を設立する話が具体化していたが、宅建の資格を取ってから本格的に行おうとしていたので、とりあえず将来の会社設立手続の準備金としてB子から借りたものである。B子は乙原学院都賀校に通って宅建の勉強をしていた。」旨供述していて、丙田木材への融資金に充てるためのものであるとは全く供述していなかったのであるが、その後、特に合理的な説明をすることなく、丙田木材に対する融資目的などという弁解をするに至ったものであるから、結局、被告人が丙田木材への融資目的のもとに、B子から一四〇〇万円を受け取ったのかは、相当疑わしいといわざるを得ない。

3  また、丙田木材への融資に関し、丙田木材への融資を仲介したKは、「私は、平成三年九月二四日、被告人がLに手形割引をするに際し、被告人にLを紹介した。この経緯は、被告人が、私に、『金儲けの話はないか。』と言ったので、私は、『金儲けをするには金がないとできないよ。』と言ったところ、被告人は、『金ならある。一五〇〇万円かそこらの金ならある。』と言った。」旨供述し、また、丙田木材社長・Lの妻であるM子は、『B子は、被告人が使っている事務員であると紹介された。B子は、被告人に連れられて丙田木材の事務所に来たことはあったが、被告人と夫との話には加わらず、乗りつけた車の中で待つなどしていた。私は、被告人から、『B子には、お金の貸し借りのこととか、利息をいくら取っているとか、よけいなことは言わないでほしい。』と口止めされていた。夫が被告人から借りていた金がB子から出ているということは、被告人からもB子からも聞いたことはなかった。」旨供述し、右Lの娘であるQ子は、「私は、Kから被告人を紹介されたが、それは、平成三年の夏か秋ころだと思う。被告人は、B子という女性と一緒に来たことがあるが、私に対し、『B子には金貸しのことは言わないでくれ。』と言ったことがある。」旨供述しているところ、以上三名の供述は、被告人が丙田木材に接触したのは平成三年六月よりは後であるという点で一致しているうえ、右三名が、被告人が丙田木材に融資をした経緯につき敢えて虚偽の供述をしなければならない理由はないから、右各供述は十分信用することができるというべきである。そうすると、被告人が平成三年六月の時点で丙田木材への融資を具体的に検討していたとの事実、あるいは、B子がこの融資に積極的に関与していたなどという事実はなかったものと断ぜざるを得ない。

4  また、関係各証拠によれば、B子が乙原学院都賀校に入学した事実がないこと、前記乙野興業銀行都賀支店次長のJが、「被告人は、株式会社戊田を設立したので、同社名義の預金口座を乙野興業銀行都賀支店に開設したいと言ってきた。当銀行は、甲野産業のメインバンクなので、新会社設立の際の株式払込金保管事務を扱いたいと思っていたが、被告人からは、その後特にそのような話はなかった。」旨供述しているというところからすれば、被告人が、B子を予備校に通わせたり、右Jと設立事務の詳細について打ち合せたりしたことは認められないし、被告人が、真に会社設立を準備していたかどうかは極めて疑わしい。現に、被告人自身、捜査段階の後半では、「私は、B子に対し、平成三年六月二〇日の時点で新会社を設立するために資金を出してくれという話はしていない。その時点でB子が一四〇〇万円の金を出したのは丙田木材への貸付のためだった。」旨供述していたのであるから、結局、会社設立の話も虚偽のものであるといわざるを得ない。

5  さらに、B子の弟であるNは、「私の実家を新築したのは平成三年一月一〇日ころであり、そのときまでに建設業者への支払は終えているから、同年六月二〇日に新築資金は必要でなかった。」旨供述しているところ、これも、B子が三〇〇万円を実家の新築資金として使うと言っていたなどという被告人の前記供述と、内容において矛盾している。

6  以上の点からすれば、被告人がB子が一四〇〇万円を準備した理由について弁解している点は、全く信用できないというべきである。

四  以上によれば、B子の、一四〇〇万円を会社設立のために被告人に交付した旨の供述が信用できる一方、被告人のこれを否認する弁解が信用できず、会社設立の話は虚偽であるというほかないから、前記「罪となるべき事実」の第三のとおり認定できるというべきである(なお、関係各証拠によれば、甲野産業は、当期未処理損失として、平成三年三月三一日現在で四六三万四六六三円を、平成四年三月三一日現在で一二七八万四五〇円をそれぞれ計上していたうえ、所有不動産は全くなかったこと、被告人は、平成二ないし三年ころ、乙野興業銀行都賀支店に対し、甲野産業名義で二〇〇ないし三〇〇万円の融資を申込んだが、信用状態が悪化していたため、同支店から融資を断られていたこと、被告人自身、返済期限とした平成三年七月二〇日の時点で、B子に対し、一四〇〇万円の返済方法について何らかの弁解をしたとは認められないことなどからすれば、被告人は、本件一四〇〇万円をB子に返済する能力がなく、被告人自身それを認識していたことは明らかである。)。弁護人のこの点に関する主張も採用できない。

第四  判示第四の事実について

一  弁護人は、被告人は、B子から、一〇〇万円を受け取ったが、それは、平成四年九月一七日ころ、甲野産業が立て替えていた本件マンションの家賃をその借主であるB子から受け取ったものである、被告人が、B子に対し、成田の土地や裁判の話をしたことは一切ない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

二1  そこで検討するに、この点に関するB子の供述内容は、大要以下のとおりである。

<1> B子は、平成三年五月一八日ころ、被告人から、新東京国際空港付近の空き地(以下「成田の土地」という。)を案内され、それは被告人所有の土地で、二二〇坪あり、控えめに見積もっても六五〇〇万円の価値があると言われた。そして、B子は、被告人から、その土地の所在地が「成田市《番地略》」と聞いた。

<2> B子は、平成四年九月一七日ころ、被告人から、成田の土地は平成二年六月に蒸発した戊山党成田市議会議員Oが二〇〇〇万円、その仲間が四〇〇〇万円、被告人が六〇〇〇万円を出して買ったものだが、土地の所有名義を被告人に変更していなかったので、裁判で時間をかけて取り戻すしかないと聞かされた。

<3> B子は、同月二二日、被告人から、本件マンションにおいて、「成田の土地の所有者確認の裁判のためお金がいる。一四〇万円何とかならないか。その裁判が終われば、君にこれまでの借金をまとめて返すことができる。」と言われ、当時、丁野生命の一時払い保険が満期で一一〇万円くらい受け取れることとなっていたので、被告人に対し、「来月が満期になる保険で一〇〇万円くらいならできる。」と返事をした。すると被告人は、「作ってくれ。四〇万円くらいは女房に出させる。一〇月一日には返せる。心配だったら、小切手を切ってもよい。」などと言った。B子は、ここにおいて、成田の土地の問題が解決すれば、被告人にすでに貸し付けていた約六〇〇〇万円も返済されるだろうと期待し、被告人に金を貸すこととした。

<4> B子は、同月二四日、一人で丙山銀行稲毛支店に赴き、定期預金を担保にして現金一〇〇万円を借り、同日の夕方、本件マンションにおいて、被告人に一〇〇万円を渡した。B子は、被告人から、額面一〇〇万円とする借用書及び念書を受け取った。このとき被告人は、「一〇月一〇日までに金利一割を付けて返す。」「裁判は千葉地裁の民事部で一〇月七日午後三時に期日が入っている。」などと言った。

<5> B子は、その後、千葉地方裁判所に電話をしたところ、平成四年一〇月七日に被告人が当事者となっている口頭弁論はなく、また、登記簿を調査しようとしたところ、成田の土地の地番に相当する土地登記簿は存在しないことが分かり、被告人に、一〇〇万円を騙し取られたと悟った。

2  B子の右供述は、前記説示のとおり、それ自体信用できるものである。また、関係各証拠によれば、

(一) B子名義の丙山銀行稲毛支店の普通預金口座から、平成四年九月二四日、一〇〇万円が払い戻されていること、

(二) B子が、被告人に対し、裁判の期日がなぜ延期になったのか電話で問い合わせたところ、被告人がしどろもどろになりながら一一月七日に延期になった旨弁解していたこと(なお、B子は被告人と交わした会話をマイクロカセットテープに録音しており、その内容が捜査報告書〔甲三六ないし三八〕として当公判廷に提出されている。)

などが認められ、これらの事実は、一〇〇万円がB子側から被告人側に交付された状況、被告人とB子との間で裁判の話をしていたことなどの点で、B子の供述とよく符合する。

また、被告人作成にかかる平成四年九月二四日付の「但し金利一割を付して一〇月一〇日迄に返還するものとする。」「貴殿より融資を受けている金員については、別途土地等の担保を提供するものとする。」旨の記載がある一〇〇万円の借用書兼念書、被告人の前記二1<3>の言動を記載したB子作成に係るビジネスダイアリーも、B子の供述内容を裏付けるものである。

三  以上に対し、被告人は、当公判廷において、「受け取った現金一〇〇万円は、甲野産業が賃借し、B子が入居していた本件マンションの家賃について、B子が負担すべきであるにもかかわらず、受け取っていなかった半額分の支払を受けたものである。」旨弁解する。しかし、これは、被告人作成にかかる平成四年一二月三日付誓約書にある「現在居住の高品町の乙山マンションは引き続き会社負担で提供します。」との記載に矛盾するものである。

また、被告人は、捜査段階において、本件一〇〇万円の使途について、「滞納分の家賃を支払うとともに、翌年三月末までの家賃・共益費の支払いを会社として責任もって支払うために使いたいと考えていた。」旨供述するが、これは、本件マンションの家主であるCの「平成四年一〇月分から一二月分までは支払が大きく遅れ、ようやく平成五年一月八日になって支払われた。」旨の供述と矛盾する。Cが敢えて虚偽の供述をしなければならない理由は証拠上見当たらないから、C供述と反する被告人の供述は信用できない。

そして被告人は、平成二年七月一九日付で乙野興業銀行都賀支店に提出した信用調用紙に、被告人が成田市三里塚に四七〇〇坪(時価四億七〇〇〇万円)の土地を所有している旨の記載をしており、これに被告人の前記二2(二)の言動を併せ考えれば、被告人が土地の関係で虚言を弄していたことは優に推認できる。

したがって、被告人の前記供述は全く信用できないというべきである。

四  以上によれば、B子の、一〇〇万円を裁判費用のために被告人に交付した旨の供述が信用できる一方、被告人のこれを否認する弁解が信用できないうえ、被告人の言動の中に本件土地を所有していた旨の虚言を弄していることすら窺えるから、前記「罪となるべき事実」の第四のとおり認定できるというべきである。弁護人のこの点に関する主張も採用できない。

第五  結論

以上のとおりであるから、被告人は、B子に対する本件詐欺の罪責を免れない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法二四六条一項(以下、刑法はすべて右改正前のものをいう。)に該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二六〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に全部これを負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、かねてより愛人関係にあった被害者に対し、様々な虚言を弄したうえ、同女から、前後四回にわたり、小切手と現金を併せて総計二九一〇万円を騙し取ったという詐欺の事案である。

被告人は、被害者が旧宅を売却して大金を手に入れたことを奇貨として、マンション購入資金、第三者への貸付資金、会社設立資金などともっともらしい理屈を付けながら、次々と小切手や金員を騙取したうえ、あろうことか、被害者からそれら金員の返済を迫られるや、現実には存在しない土地を被告人が所有している旨誤信している被害者に対し、右土地の所有権が裁判で確定すればそこから金を返すなどとさらに虚言を弄し、四度金員を騙取したものであって、本件は、いずれも自己中心的で、執拗かつ悪質極まる犯行というべきである。被告人が本件各犯行により騙取した金員、小切手額面の合計額は二九一〇万円という多額にのぼっているが、未だ完全な被害弁償の目途は立っていない。被害者は、長期間にわたって被告人から騙され続けたうえ、被害弁償もほとんど受けていないのであるから、その処罰感情が極めて強いのも無理からぬところがある。しかるに被告人は、不合理な弁解を重ねて本件犯行を否認し続け、真に本件犯行を反省しているとは到底認められないのは、まことに遺憾なことというほかない。以上の諸点を考慮すると、被告人の刑事責任は重大というべきである。

したがって、本件は、そもそも被告人と被害者との不倫関係によって被害者が離婚したことに端を発するものであること、被害者も、いま一つの注意力と慎重さがあれば、容易に被害を回避できたと思われるのに、長期間にわたり、しかも、既に騙されていることを認識するに至った後にも、被告人のその場しのぎの言辞を軽信するなど、不倫のうえの油断があったとはいえ、大いに軽率な点があったといえること、被告人に前科前歴がないことなどの事情を被告人のために十分斟酌したとしても、被告人に対し、主文掲記の程度の刑を量定するのはやむを得ないというべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役五年)

(裁判長裁判官 小池洋吉 裁判官 原 啓 裁判官 千賀卓郎)

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