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千葉地方裁判所 平成9年(行ウ)20号 判決 1999年10月27日

原告

池内一雄

被告

千葉県知事 沼田武

右訴訟代理人弁護士

滝田裕

川戸淳一郎

右指定代理人

木村澄男

小林守男

鎌田真人

武藤迪彦

斉藤冨士夫

中嶋洋一郎

主文

一  被告が、原告に対し、平成八年一〇月二九日付け及び平成一〇年七月一四日付けでした、別紙文書目録記載一及び二の文書の非公開決定処分のうち、懇談会の目的、出席者、相手方、相手方の住所、氏名、電話番号、債権者印、相手方コードを非公開とした部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が原告に対し、平成八年一〇月二九日付け及び平成一〇年七月一七日付け(同月一四日付けの誤りと認められる。)でした、別紙文書目録記載一及び二の文書に記載された情報の一部非公開決定処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が、千葉県公文書公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき、被告に対し行った、千葉県土木部管理課の懇談会の支出(食糧費)の支出金調書、請求書、参加者名簿等の資料の公開請求に対し、被告が、右各請求に対応する公文書として、支出負担行為支出伝票、見積書及び請求書の各文書が該当するとし、その公開を決定したが、その際、右文書に記録された懇談会名、出席者、相手方(懇談会の開催された飲食店)の住所・氏名・相手方の利用する金融機関名・口座名義人・預金種目・口座番号、相手方コードの情報については、本件条例一一条二号、三号及び八号の公開しないことができる情報に該当するとして、その部分を非公開とする決定を行ったところ、原告が、右非公開決定処分は、非公開事由がないにもかかわらずなされた違法な処分であると主張して、その各処分の取消しを求めた事案である。

一  本件条例の定め(〔証拠略〕)

(目的)

第一条 この条例は、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、公文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県政の公正な運営の確保と県民参加による行政の一層の推進を図ることを目的とする。

(解釈及び運用)

第三条 実施機関は、県民の公文書の公開を請求する権利を十分尊重してこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

(公開を請求することができるもの)

第五条 次の各号に掲げるものは、実施機関に対して公文書の公開を請求することができる。

一  県内に住所を有する個人及び県内に主たる事務所を有する法人その他の団体

二  前号に掲げるもののほか、県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体

(公開しないことができる公文書)

第一一条 実施機関は、次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書については、公開しないことができる。

一  (略)

二  個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって特定個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ  法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報

ロ  実施機関が作成し、又は収受した情報で、公表を目的としているもの

ハ  法令等に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は収受した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの

三  法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用を損なうと認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ  事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体及び健康を保護するために、公開することが必要であると認められる情報

ロ  違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の財産及び生活を保護するために、公開することが必要であると認められる情報

ハ  イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの

四ないし七(略)

八 実施機関が行う交渉、取締り、立入検査、監査、争訟、入札、試験等の事務事業に関する情報であって、当該事務事業の性質上、公開することにより、実施機関と関係者との信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の実施の目的が失われるおそれがあるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの

二  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、千葉県内に住所を有する者である。

(二) 被告は、千葉県知事であり、本件条例の実施機関である。

2  公文書公開請求と本件非公開決定処分

(一) 公文書公開請求(平成八年分)

原告は、被告に対し、平成八年一〇月一五日、本件条例五条一号に基づき、千葉県土木部管理課(以下「土木部管理課」という。)の主催により、平成三年度(同年四月から翌年三月末まで。以下同じ。)から平成七年度までの各三月に実施された懇談会の支出金調書、請求書、参加者名簿その他懇談会実施に関する一切の資料の公開(写しの交付)を請求した。

(二) 一部非公開決定処分(平成八年分)

被告は、平成八年一〇月二九日、原告の右公開請求に対応する公文書として、平成四年から平成七年までの各三月に実施された懇談会(平成四年三月分八回、平成五年三月分八回も平成六年三月分一回、平成七年三月分一四回の計三一回)についての支出に関する支出負担行為支出伝票及びその添付書類である見積書並びに請求書の公開を決定したが、右各文書のうち後記3(二)の各部分については、本件条例の一一条二号、三号及び八号に該当するとの理由により、非公開とする決定を行った。

なお、平成八年三月分の懇談会の資料については、該当文書が不存在とされた。

(三) 公文書公開請求(平成一〇年分)

原告は、被告に対し、平成一〇年六月三〇日、本件条例五条一号に基づき、平成三年度から平成九年度までの奇数月に実施された土木部管理課の懇談会の支出(食糧費)に関する公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求した。

(四) 一部非公開決定処分(平成一〇年分)

被告は、平成一〇年七月一四日、原告の右公開請求に対応する公文書として、前記(二)の三一回の懇談会及び平成七年度分として平成七年五月、七月、九月及び一一月に実施された懇談会(五月分四回、七月分九回、九月分九回、一一月分一六回の計三八回)並びに平成八年度分として平成八年七月及び九月に実施された懇談会(各月一回の計二回)の支出に関する支出負担行為支出伝票及びその添付書類である見積書並びに請求書の公開を決定したが、これらの文書(以下、前記(二)の文書と合わせて「本件文書」という。)のうち後記3(二)の各部分については、前記(二)と同様の理由により、非公開とする決定を行った(以下、前記(二)の一部非公開決定処分と合わせて「本件非公開処分」という。)。

なお、平成三年度から平成六年度までの各三月分を除いた奇数月に実施された懇談会についての文書は、右公開請求時に当該文書の保存期間を経過していたことから、該当文書が不存在とされ、また、平成七年度以降の奇数月分のうち、平成八年一月、三月、五月、一一月分、平成九年一月、三月、五月、七月、九月、一一月分、平成一〇年一月、三月分については、いずれも懇談会の実施がないため、該当文書は不存在とされた。

3  本件文書の内容及び非公開情報

(一) 本件文書の内容(〔証拠略〕)

支出負担行為支出伝票は、予算に基づいて支出の原因となる契約その他の行為をしようとするときに決裁を受ける文書であり、その説明欄には、決済を求める部課名、懇談会の目的となった会議や打合せ等の名称、実施日、出席者の内訳、参加者数、予算科目、執行金額、執行限度額、履行期限、相手方(懇談会の開催された飲食店、以下「債権者」ともいう。)の住所・氏名・コード番号・口座情報(金融機関名・口座名義人・預金種目・口座番号等をいう。以下同じ。)、伝票番号、支払(予定)日、支出命令額及び支出残額等が所定の欄に記録されている。

見積書及び請求書には、料理等の品名、数量、単価とその合計金額、債権者の住所・氏名・電話番号・口座情報・債権者印等が記録されている。

(二) 本件非公開情報

本件非公開処分により非公開とされた情報(以下「本件非公開情報」という。)及びその非公開事由は次のとおりである。

(1) 出席者に関する情報(本件条例一一条二号及び八号に該当)

支出負担行為支出伝票の説明欄に記載された、出席者(千葉県の関係者を除く。)の所属団体名ないし役職名についての情報

(2) 債権者に関する情報(同条三号に該当)

支出負担行為支出伝票、請求書及び見積書に記載された以下の情報

<1> 債権者の住所・氏名・電話番号・債権者印についての情報

<2> 相手方コードについての情報(支出負担行為支出伝票のみ)

<3> 債権者の口座情報

(3) 会議や打合せ等の名称に関する情報(同条八号に該当)

支出負担行為支出伝票の説明欄に記載された、懇談会の目的に関する情報

三  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件非公開処分の適法性であり、具体的には、本件非公開情報が、本件条例一一条二号、三号又は八号の公開しないことができる情報に該当するか否かであるが、これについての被告の主張及び原告の反論は以下のとおりである。

1  出席者に関する情報の本件条例一一条二号該当性

(一) 被告の主張

(1) 一般に、地方自治体の制定する公文書公開条例には、非公開情報としての個人情報について「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」旨の限定が条文上規定されている場合(プライバシー型)もあるが、本件条例一一条二号は、単に「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とのみ規定しており(個人識別型)、その趣旨は、個人のプライバシーについては、その具体的な内容や範囲が人それぞれによって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別され、又は識別され得る情報をすべて非公開情報とするものである。

右のような本件条例一一条二号の趣旨に照らせば、同号によって非公開とされる「個人に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報に限定されるものではなく、「特定個人が識別され、又は識別され得る」限りは、当該個人と関連性を有する情報が広く含まれると解すべきであり、また、実施機関は、ある情報が特定の個人を識別し得るものである限りは、当該情報が個人のプライバシーに関する情報に該当するかどうかを判断することなく非公開としなければならないのである。

(2) 本件文書は、土木部管理課が、事業推進、制度推進、業界指導、現地調査、意見交換を目的として行った中央省庁との打合せ会議、中央省庁の現地調査・視察、中央省庁や各種公団との事業調整・調査会議、各種公団や民間団体との連絡調整会議、その他各種会議等の後に開催された懇談会に関するものであるが、右懇談会の出席者は、中央省庁、各種公団、各種委員会、団体役員、研修講師、市町村の職員等であり、民間団体の職員等の私人のみならず、公務員も含まれる。

しかし、右出席者が公務員の場合でも、そのプライバシーは保護されるべきである。すなわち、本件条例は、公務に関する情報と私生活上の情報とを区別しておらず、本件条例一一条二号の条文中にも公務員を適用除外とする旨の文言は存しないし、実質的に考えても、公務員の氏名は、当該公務員の私生活においても当該人を識別して特定する基本的な情報であるため、公開することによって、公務を離れた私生活等の場面において影響を受ける可能性があることからして、本件非公開情報が公務員に関する情報である場合についても、同号にいう「個人に関する情報」に当たるというべきである。

(3) 本件公文書のうち、支出負担行為支出伝票には、懇談会に出席した者の所属団体名や役職名が記載されており、これらが公開された場合、他の情報(日付、外部に公表している名簿、公文書公開の請求人が入手し得る情報等)と照合することにより、出席した個人を識別することが可能となる情報であるから、本件文書に記載された出席者に関する情報は、本件条例一一条二号にいう「個人に関する情報」に当たるというべきである。

(4) なお、本件条例一一条二号は、ある情報が個人に関する情報に当たる場合であっても、同号イ、ロ、ハに該当する情報については非公開情報から除外する旨規定しているが、土木部管理課が事務事業を執行する上で、必要に応じて関係諸機関等と協議、意見交換等の場を持つことは、一般的にその実施について積極的に広く知らせる性格のものではなく、関係者等の間のみで承知されていることが通常であるから、このような懇談会の出席者に関する情報は、同号イ、ロ、ハの定める非公開除外事由のいずれにも該当しない。

(5) したがって、本件文書のうち、支出負担行為支出伝票に記載されている出席者に関する情報は、本件条例一一条二号の公開しないことができる情報に該当する。

(二) 原告の主張

(1) 一般に、「個人に関する情報」とは、思想、信条、心身の状況、学歴、成績、職歴、家族状況、親族関係、所得、財産等個人に関するすべての情報をいい、また、「特定の個人が識別され得るもの」とは、その情報から特定の個人が識別される可能性のあるもので、<1>氏名、住所等、その情報から直接的に特定の個人が識別されるもの、<2>その他の情報と組み合わせることにより、間接的に特定の個人が識別され得るものをいうとされる。

しかし、本件条例一一条二号の趣旨がプライバシーの保護にあることからすれば、「個人に関する情報」とは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報を意味すると解すべきであり、また、本件条例が憲法二一条の表現の自由に含まれる「知る権利」に立脚するものであることや、右権利の重要性に鑑みれば、公開することによって個人のプライバシー権の侵害が生じないような場合には、開示義務は免除されないと解すべきである。

(2) また、確かに、本件条例一一条二号は、開示の対象となる個人の情報が公務員に関するものである場合について適用除外としていない。しかし、公務員の地位にある個人のプライバシーが問題となるのは、その公務員の私人としての側面についてであり、本件のように、土木部管理課主催の懇談会に出席した場合は、職務としての参加であり、しかも、懇談会費用は税金で賄われている以上、プライバシーが問題となる余地はないものと考えざるを得ない。さらに、懇談会の相手方が県に関係する委員等の私人であっても、公費による土木部管理課職員との懇談会は、公的会合であり、懇談会に出席したとの情報は、通常、私生活上の事実に関する情報ではないから、懇談会に出席したことについての情報が公開されても、個人のプライバシーの権利が侵害されるとはいえず、右情報は公開されるべきである。

(3) また、仮に、右出席者に関する情報が、特定個人が識別されるため、形式的に本件条例一一条二号に該当するとしても、同号ロの「実施機関が作成し、又は収受した情報で、公表を目的としているもの」に該当すると解すべきである。

(4) したがって、出席者に関する情報は、本件条例一一条二号により公開しないことができる情報には該当しない。

2  債権者に関する情報の本件条例一一条三号該当性

(一) 被告の主張

(1) 本件文書には、各食糧費の支出ごとに、債権者(飲食業者)の住所・氏名や電話番号、飲食代金の振込口座等が記録されているところ、各請求書及び見積書では、飲食にかかる料理等の品名、数量、単価、金額等が公開されていることから、非公開部分である債権者の住所・氏名や電話番号、口座情報等を公開することによって、当該債権者(飲食業者)の土木部管理課という特定の顧客に対する営業の実態が明らかになる。そして、料理等の価額の設定などは、飲食業者の営業方針の基本となるものであり、また、特定の飲食業者が誰を顧客としているか、その顧客にどのようなものをいくらで提供し、支払はどのように行われているかといった取引の内容は、営業の実態そのものを形成する情報であるから、右のような情報を公開すれば、特定の法人又は事業を営む個人の経営状態や経営方針を事実上公表するも同然となり、公文書公開制度が存在する結果、各債権者たる飲食業者は、自己の経営実態を、競争相手である同業地者を含む不特定多数の第三者に公開してしまうことになり、今後の事業運営に支障を来すことが十分考えられる。なお、口座情報に関しては、その開示範囲は当該個人又は法人が自ら選択できるものであって、自ら開示した以外の者に対しては公開せずに内部情報として管理するのが通常であり、自らの取引と何ら関係のない第三者が直接当該個人又は法人に対して公開を求めることはできない情報というべきものであるから、公開することにより当該個人又は法人の事業運営上の地位に不利益を与えるものであることは明らかである。

このように、本件非公開情報のうち、債権者に関する情報を公開することは、債権者の競争上の地位に不利益を与えるおそれがある。

(2) なお、本件条例一一条三号は、ある情報が法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当する場合であっても、同号イ、ロ、ハに該当する一定のものについては非公開情報から除外する旨規定しているが、本件非公開情報のうち債権者に関する情報は、特定の債権者に関する営業の実態を明らかにする通常の取引の内容を記録した事業活動情報であって、同号イ、ロ、ハの定める非公開除外事由のいずれにも該当しない。

(3) したがって、債権者に関する情報は、本件条例一一条三号により公開しないことができる情報に該当する。

(二) 原告の主張

(1) 本件条例一一条三号は、法人又は事業を営む個人の営業の自由の保障や、公正な競争秩序維持の観点から、競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、また、社会的信用を損なうと認められるものを非公開とすることができるとしたものである。

ところで、同号の「競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用を損なう」との文言からすれば、同号で非公開とされる情報は、秘密としている生産方法、販売方法、その他事業活動に有利な技術上、営業上の情報で公然と知られていないものであって、公開されることによって法人等に実質的な被害が客観的に生じる場合に限られるというべきである。

(2) 本件文書には、懇談会の開かれた場所(飲食店名)が記録されているが、これらの飲食店では一般の人も飲食しており、このような情報は通常知られている一般的な情報であるから、本件文書における債権者名などを公開しても、営業上のノウハウや秘密、店の格式や営業の基本方針、営業の実態等が明らかになることはあり得ないし、また、口座番号や債権者印についても、当該飲食店が発行する見積書、請求書に記載されており、一般的に明らかにされているものであるから、これらの債権者に関する情報を公開したとしても、当該飲食店を経営する法人ないし個人の競争上の地位が不利になったり、社会的評価が低下し、正当な利益を害されることはあり得ない。

(3) したがって、本件文書に記録された飲食店の名前、住所、債権者印、口座情報等の債権者に関する情報については、本件条例一一条三号に該当すると認められる余地はない。

3  会議や打合せ等の名称に関する情報及び出席者に関する情報の本件条例一一条八号該当性

(一) 被告の主張

(1) 本件条例一一条八号の趣旨は、実施機関が行う交渉、取締り、立入検査、監査、争訟、入札、試験等の事務事業は、本来的に機密を要する事業であって、これに関する情報が外部に知られることによって、関係者との信頼関係や実施目的が損なわれ、又は公正若しくは円滑な執行に支障が生じ、当該事務事業の実施不可能、公正さの確保不能あるいは成果が無に帰する等の事態を招来し、ひいては、本件条例の目的の一つである「県政の公正な運営の確保」(一条)という趣旨をも没却することとなるから、このような障害を惹起する情報については非公開とすることができるとしたものである。

(2) 千葉県土木部は、道路、河川、港湾等の社会資本の整備を柱とする土木行政に関する事務を所掌する部署であるが、土本部管理課は、部内各課に跨る事業や計画の連絡・調整、部内人事、部内組織、部内の予算編成、また、全庁の建設工事にかかる入札・契約に関する事務、そして建設業者等の関係諸団体との調整等に関する事務を一手に所掌している。

土木部管理課の右所掌事務は、土木部各課の調整をはじめ、千葉県が補助金等を受けている事業等に深く関わりを持つものであり、これらの関係諸機関及び団体等と情報、意見の交換を行うという事務の性格上、秘密の保持が強く要求され、場合によっては、非公開で行われるものもある。また、土木部管理課が事務を推進する必要から設定した懇談会等においても、秘密を保持しなければ情報の伝播の可能性を否定し得ない。

(3) ところで、本件文書に記録された懇談会等に関する情報及び出席者に関する情報は、これらを公開することにより、誰と誰が、どのような場面、目的で、どのような事柄について懇談しているのかが明らかとなってしまう情報であり、このような情報を公開することによって次のような支障が生じる。

第一に、土木部の事業は、道路整備では一つの路線について工区をいくつにも分け、数年にわたって工事を実施したり、河川整備でも同一の河川について複数の事業を投入し、あるいは工区を分けて数年間にわたって工事を実施するなど、計画から実施段階、さらに完成に至るまで長期を要する事業が多い。このような場合、用地交渉で地権者との個別の話合いや会合等が行われていたといった情報など、いわば公共事業政策の過程の一部を明らかにするような情報が公開されることは、その後に新たな事業を実施する工区の地権者から同様の会合の設営を求められたり、既に用地買収済みの地権者との条件の比較をされ、過大な要求を突き付けられたり、過去の用地買収について無用な憶測を生じさせることになる。また、どの懇談会が行われた後に、どのような事業計画が具体化していったかといった観点で分析されれば、今後の事業の計画が外部に明らかとなる可能性も否定できず、用地の買占め等、事業の実現にとって支障となる事態を招来しかねない。さらに、当該事業自体は完了していたとしても、類似の、あるいは同種の事業は常に継続して行われているため、関係者との調整や関係機関との事業の手法等について協議していた事実が外部に知られることとなる結果、必要以上の反対運動等の端緒ともなりかねない上、青写真段階における公共事業の計画等が何らかの形で外部に漏れた場合には、周辺地価の高騰等、千葉県全体の社会、経済に多大な影響を及ぼす可能性があるなど、土木部事業の公正、円滑な遂行に支障が生ずる。

第二に、災害の復旧をはじめとして、国庫からの補助金を必要とする事業は多く、その実施のためには千葉県の実情を正確に把握してもらう機会を設ける必要があり、その中での人間関係の形成や情報交換の果たす役割は大きいのであるが、そのような場面は、通常、公開を予定しておらず、千葉県が出席者名を公開すれば、相手方との信頼関係を損ない、今後の懇談会等の予定が組めず、その結果、千葉県の公共事業政策にとって必要不可欠な情報交換の場を失い、公共事業の遂行に必要な情報、助言等が得られなくなることになり、土木部事業の公正、円滑な遂行に支障が生ずる。

第三に、本件文書に記録されている情報は、単に経費の支出関係のみならず、当局が実施した懇談会の目的や相手方、その内容等も記録されていることから、他の該当部分と相まって公開されることにより、その記録内容から出席者等に対する評価、位置づけ、懇談の程度など、懇談会の相手方に対する当局の認識の重要度をも示す結果となってしまう。この場合、出席者等によっては、地者との比較により、不満、不快の念を抱き、その結果、信頼関係が損なわれることが考えられ、ひいては、今後も当局が行うこの種の会合への出席を避けたり、あるいは率直な意見の表明を控えたりするなどのことが生じて、会合それ自体の目的を達成できなくなるおそれがあり、土木部における事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に著しい支障を生ずる。

(4) したがって、本件非公開情報のうち、支出負担行為支出伝票に記載された「会議等の名称・目的及び出席者名」についでの情報は、本件条例一一条八号の公開しないことができる情報に該当する。

(二) 原告の主張

(1) 本件条例一一条八号は、主として千葉県の行政運営上の利益の保護を図って制定されたものであるが、一般に、これまで、行政機関が保有する文書は、ややもすると恣意的、濫用的に秘密扱いにされ、住民の知る権利を阻害しできた。しかし、本件文書に記載された情報は、懇談会費の支出に関する事実の情報であり、その費用は、本来、県民にその使途を明確にすべき公金(県民の税金)から支出されており、しかも、食糧費の支出は厳格な服務規律により職務を執行する公務員に関するものである。このような情報を非公開とすることは、行政事務事業の「公正若しくは円滑な執行」の趣旨を必要以上に一般化するものである。

したがって、本号の非公開事由に該当するか否かの判断は、非公開の範囲が必要最小限となるよう、<1>非公開で保護されるべき県の利益が、実質的に保護に値すべき正当性を有するか、<2>公開によって県に生ずるとされる障害の程度が、実施機関により恣意的、主観的に評価されていないかを、客観的に検討すべきである。

(2) 本件非公開情報のうち、会議等に関する情報及び出席者に関する情報は、懇談会の概括的・抽象的目的や出席者名(しかも、相手方は機関名のみと推測される。)であって、懇談会の実質的な内容ではなく、外形的事実に関する情報にすぎないのであり、これらの情報の公開により、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなったり、公正又は円滑な執行に支障が生じることは考えられない。

(3) したがって、会議や打合せ等の名称に関する情報及び出席者に関する情報は、本件条例一一条八号の公開しないことができる情報に該当しない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(出席者に関する情報の本件条例一一条二号該当性)について

1  被告は、本件文書のうち、支出負担行為支出伝票(以下「本件支出負担行為支出伝票」という。)に記録された出席者に関する情報(前記第二の二3(二)(1))は、本件条例一一条二号の「個人に関する情報」であって、「特定個人が識別され、又は識別され得る」情報であるから、公開しないことができる旨主張するので、この点を検討する。

2  千葉県の作成した「公文書公開の手引(改訂版)」(〔証拠略〕、以下「公文書公開の手引」という。)によれば、本件条例一一条二号は、基本的人権を尊重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーに関する情報の範囲は明確になっていない状況であるため、同号では、広く個人に関する情報について、特定個人が識別され、又は識別され得る情報を公開しないことができることとしたとされており、右「個人に関する情報」とは、具体的には、<1>思想、信条、信仰、意識、趣味等個人の内心の秘密に関する情報、<2>職業、資格、学歴、犯罪歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報、<3>収入、資産等個人の財産状況に関する情報、<4>健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報、<5>家族関係、生活記録等個人の家庭、生活関係に関する情報など、個人に関するすべての情報をいうとされている。

確かに、「プライバシー」の意義は多義的であり、プライバシーの主体によっても個人差のあり得る相対的な概念であるから、本件条例の実施機関において、公開請求された公文書に記録された個人的な情報ごとに、逐一、プライバシー侵害の有無を個別的、実賢的に判断することは著しく困難であり、その意味では、当該情報を公開することによって私人のプライバシーが現実的に侵害されるか否かを問わずに、抽象的に侵害される可能性のある限りはこれを公開しないとすることは、公文書公開請求権の制約としては合理的な範囲内のものであるということができる。

しかし、公文書に記録される情報は、それ自体、意思的活動の所産として作成されるものであるから、多かれ少なかれ個人的情報としての側面を帯有しているのであって、このような情報のすべてを非公開とすることは、実質的に公文書の公開請求の途を閉ざすこととなるし、また、プライバシーの概念が、本来的に私人の私的事項に関する情報の保護を意味するものであることを併せ考えれば、本件条例一一条二号にいう「個人に関する情報」とは、個人の私的事項に関する情報であって、その性質上、公開に親しまないような個人情報をいうものと解すべきであり、他方、公務員の公務に関する情報や、私人に関する情報であっても私的事項に関するものでないことが明らかな情報など、実施機関においてこれを公開してもプライバシーの侵害の生じないことが明らかであると判断し得る情報については、同号にいう「個人に関する情報」には該当しないというべきである。

3  〔証拠略〕によれば、本件支出負担行為支出伝票の説明欄に記録されている懇談会の目的となった会議や打合せ等は、土木部管理課が、事業推進、制度推進、業界指導、現地調査、意見交換を目的として行った中央省庁との打合せ会議、中央省庁の現地調査・視察、中央省庁や各種公団との事業調整・調査会議、各種公団や民間団体との連絡調整会議、その他の各種会議や打合せであり、具体的には、「○○○打合せ後の懇談会」、「○○○との懇談会経費」、「○○○現地調査後の懇談会経費」などと記載されていること、そして、その出席者に関する情報は、「○○○五人、県土木部四人、計九人」というような形で、中央省庁、市町村、委員会、各種公団、民間団体等の出席者の所属する団体名あるいは役職名・地位が極めて簡略に記録されているが、出席者個人の氏名は記載されていないこと、右出席者に関する情報のうち「○○○」部分が本件で非公開とされた情報であることが認められる。

4  前記3のような本件の懇談会の出席者に関する情報が、特定個人が識別され、又は識別され得る情報に当たるか否かはともかく、このうち、中央省庁関係者、市町村関係者、各種公団関係者等、公務員ないし公務員に準ずる者との間で開催された懇談会に関するものについては、それらの出席者にとって、それ自体公務であり、個人の私的事項に関する情報に当たらないことは明らかであるから、これらは、同号の「個人に関する情報」には当たらないというべきである。

これに対し、被告は、本件条例が、公務に関する情報と私生活上の情報とを区別せず、同号にも公務員を適用除外とする旨の文言が存在しないこと等を根拠に、出席者が公務員の場合でも、右のような情報は非公開として保護されるべきであると主張するが、前記2で述べたところに照らし、採用し難い。

さらに、被告は、公務員であっても、特定の個人として識別される場合には、公務を離れた私生活等の場面において何らかの影響を受ける可能性がある旨主張し、本件非公開情報が公務員に関する情報である場合についても、本件条例一一条二号にいう「個人に関する情報」に当たると主張するが、前記3から明らかなとおり、本件文書から推知し得るのは、出席者が、土木部管理課の主催する会議等及び懇談会に出席したという情報にとどまるところ、それらは公務としての活動であって、私的領域に属する活動としての側面は全く含まれていないのであるから、そのような情報が公開されることによって出席者の私生活に何らかの影響が生ずるとは考えにくいし、他に、右のような情報の公開により、右会議等の出席者たる公務員の私生活に何らかの影響が生ずるおそれがあることについての具体的な主張、立証はない。

したがって、この点に関する被告の主張も理由がない。

5  また、前記3の冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記懇談会の出席者の中には、中央省庁の関係者や各種公団等の関係者以外に、各種委員会の委員や、研修講師、民間団体の役員等の私人も含まれていると考えられる。

しかし、右のうち、各種委員会の委員や研修講師等、土木部管理課の公務の執行を補助する立場から、土木部管理課が行った会議や打合せ及びそれに引き続く懇談会に出席した者については、その活動自体、公務に準ずるものというほかなく、また、右のうち、土木部管理課の事業に関係する民間企業等の私的団体からの出席者についても、当該団体の事業活動の一環として、土木部管理課が公益的見地から開催する会議や打合せ及びそれに引き続く懇談会に出席したのであり、その活動は、必ずしも個人の私的領域に属する事項とはいえないから、前記4で述べたところがそのまま妥当するというべきであるし、これらの出席者についても、右のような会議や懇談会等への出席の情報が公開されることにより、その私生活に何らかの影響が生じるおそれがあることについての具体的な主張、立証はない。

6  したがって、本件支出負担行為支出伝票に記録された出席者に関する情報は本件条例一一条二号の公開しないことができる情報には該当しないというべきである。

二  争点2(債権者に関する情報の本件条例一一条三号該当性)について

1  被告は、本件文書のうち、債権者に関する情報(前記第二の二3(二)(2))は、本件条例一一条三号に規定する事業活動情報であり、公開することにより当該債権者の競争上又は事業運営上の地位に不利益を与える情報であるから、公開しないことができる旨主張するので、この点を検討する。

2  前記一で述べたとおり、本件条例一一条二号は、個人の私的事項に関する情報を公開しないことができるとしたものと解されるが、同号は、「個人に関する情報」から事業を営む個人の当該事業に関する情報を除外し、また、社会的実在として独立の人格を認められ、それ自体のプライバシーを観念することができる法人に関する情報についても同号の適用除外とし、これら事業を営む個人の当該事業に関する情報や、法人に関する情報については、同条三号によって保護されるものとしている。その趣旨は、本来であれば、法人や事業を営む個人の事業活動に関する情報についてもプライバシーを観念できるのであるが、今日の社会経済状況の進展により、法人・個人を問わず、その事業活動が住民生活の多方面に浸透した結果、住民の社会生活上、これらの事業活動との接触が不可避となっているところ、右のような事業活動の浸透に照らすと、事業活動に関する情報は、個人の私事に関する情報に比して住民生活に及ぼす影響が大きく、住民にとって重大な関心事であるということができ、そのため、行政機関の保有するこれらの事業に関する情報については、これら法人や事業を営む個人の実質的な営業の自由を侵害しない限度において原則的に公開することとし、他方、右情報が公開されることにより、営業の自由が侵害される具体的な危険生のある情報については公開しないことができるとしたものと解される。

本件条例一一条三号は、公開しないことができる事業に関する情報として、<1>競争上又は事業運営上の地位に不利益を与える情報と、<2>社会的信用を損なうと認められる情報を挙げているが、右のような同号の趣旨に鑑みれば、右<1>及び<2>の不利益ないし危険は抽象的なおそれでは足りず、具体的な危険性を伴うものでなければならないというべきである。

3  〔証拠略〕によれば、本件文書のうち、本件支出負担行為支出伝票には、相手方の住所、氏名、金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号、相手方コードを記載する欄があり、これらの欄には懇談会が開催された飲食店の住所、飲食店名、懇談会費用を振り込むための飲食店の利用する金融機関名、その口座名義人、預金種目、口座番号、行政事務処理上の便宜のため飲食店ごとに付された識別番号である相手方コード番号がそれぞれ記載されていること、また、請求書及び見積書には、懇談会の開催された飲食店の住所、飲食店名、電話番号、料理等の内訳及び金額が記載され、中には飲食店の印(債権者印)が押印されているものや口座番号等の口座情報が記載されているものがあること、そして、これらの記載のうち、料理等の内訳及び金額を除いた部分が、本件条例一一条三号に該当するとして非公開とされた情報であることが認められる。

4  これらの非公開情報のうち、債権者の住所・氏名や電話番号についての情報は、飲食店を営業する上で一般的に開示されることが常態の情報であって、これらの情報や、債権者の印についての情報それ自体は、当該飲食店の生産技術上ないしは販売・営業上のノウハウに関する情報あるいは事業活動を行う上での内部管理に属する情報ではなく、また、社会的信用といった評価に関わる情報でもあり得ないから、右のような情報が公文書の公開によって開示されたとしても、直ちに当該飲食店の競争上の地位等に不利益が生じるとか、その社会的信用が損なわれるおそれがあるということはできない。なお、本件非公開情報のうち、相手方コードについては、行政事務処理上の便宜の観点から債権者識別のために千葉県が一方的に付した内部情報にすぎず、それが右のような地業者との競争関係上秘匿を要する性質の情報あるいは社会的信用に関わる情報に当たらないことは明らかである。

被告は、本件では、各請求書及び見積書において、飲食にかかる料理等の品名、数量、単価、金額等が公開されていることから、右非公開部分を公開することは、特定の法人又は事業を営む個人の経営状態や経営方針を事実上公表するに等しく、各債権者が、自己の経営実態を、競争相手である同業他者を含む不特定多数の第三者に公開してしまうことになり、今後の事業運営に支障を来すことになるから、右非公開情報は、本件条例一一条三号の当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与える情報に該当する旨主張する。

確かに、料理等の価額の設定や顧客に対する取引内容は営業実態の一部を構成するものであり、一般論としていえば、これらとともに特定の飲食店名が開示された場合、両者を併せみることによって、当該飲食店の経営方針の一部が推知されることになる余地はある。

しかし、本件においては、右非公開部分と既に公開された部分とを併せみても、これによって明らかになるのは、土木部管理課という特定の顧客に対する、一定の期間内における極めて個別的・限定的な営業実態にすぎず、これらの飲食店の一般的・恒常的な経営状態ないし経営方針が明らかになるわけではないのであるから、このような情報をもって、ことさら秘匿を要する営業上のノウハウであるとか、事業活動を行う上での内部管理に属する情報であるとはいい難いし、右のような特定の顧客に対する限定的な情報が公開されることによって当該飲食店の競争上の地位に不利益が及ぶ具体的な危険生があるとも考えにくい。

したがって、本件非公開情報のうち、債権者の住所・氏名・電話番号・債権者印についての情報は本件条例一一条三号に該当しない。

5  次に、本件非公開情報のうち、債権者の金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号といった口座情報は、請求書や見積書の交付を受ける顧客に対する関係では一般に知られ得る情報ではあるが、これらの情報は、債権者たる当該飲食業者が自らの営業活動の中で使用するものであり、その開示範囲は当該業者が自ら選択できるものであって、それ以外の者に対しては公開せずに内部情報として管理するのが通常であるし、住所や電話番号等と異なり、本来的に外部への公表が予定されている情報でもない。

そして、これらの情報は、当該飲食業者の開設する預金口座等を特定する情報であり、当該欽食業者が日常的に利用している金融機関名に関する情報であるから、その情報の性質自体から、公開されることによって、当該飲食業者の営業のあり方や顧客層が推知されたり、当該口座の存在が明らかになることによって、第三者にその取引状況を把握されるなどして、当該飲食業者が具体的な不利益を被る可能性を否定できないものであるし、右口座情報が、本件条例一一条三号イないしハの除外事由に該当しないことも明らかである。

したがって、右口座情報は、本件条例一一条三号の公開しないことができる情報に該当する。

三  争点3(会議等の名称に関する情報及び出席者に関する情報の本件条例一一条八号該当性)について

1  被告は、本件文書のうち、本件支出負担行為支出伝票に記録された会議等の名称に関する情報及び出席者に関する情報は、本件条例一一条八号の実施機関が行う事務事業に関する情報であり、公開することにより、同号所定の支障等が生ずると認められる情報であるから、公開しないことができる旨主張するので、この点について検討する。

2  本件条例一一条八号の趣旨は、行政機関が行う事務等の中には、当該事務等の性質上、関係者間で継続的な折衝等を必要とし、あるいは、行政機関内部で意思統一をして対応策を検討する必要があるため、事前に、折衝等の過程で出された種々の意見等を逐一明らかにすると、自由な発言、意見交換等が妨げられ、交渉の有効適切な進行に支障を来し、ひいては最終的な合意の成立あるいは紛争の解決も困難になるものがあり、また、ある程度反復、継続して生ずる可能性のある交渉等の事務については、これが終了した後も、その情報を公開すると同種事案の処理に支障を及ぼす可能性があることから、本号によって、これらの事務事業情報を公開しないことができるとしたものである。

3  〔証拠略〕によれば、本件支出負担行為支出伝票は、予算に基づいて支出の原因となる契約その他の行為をしようとするときに決裁を受ける文書であり、本件では土木部管理課の主催する懇談会が開催されるごとに作成されるものであること、そして、右懇談会は、土木部管理課が、事業推進、制度推進、業界指導、現地調査、意見交換を目的として行う中央省庁との打合せ会議、中央省庁の現地調査・視察、中央省庁や各種公団との事業調整・調査会議、各種公団や民間団体との連絡調整会議、その他各種会議等の後に開催され、公式の会議等では時間等の制約から尽くせなかった議論等を補完する目的、懇談をする中で関係者との人間関係を強化する目的、あるいは情報を交換する目的で行われるものであること、その説明欄には、「○○○打合せ後の懇談会」、「○○○との懇談会経費」、「○○○現地調査後の懇談会経費」、「○○○との事業打合せ後の懇談会経費」、「○○○事業について打合せ及び現地視察後の懇談」、「○○○との事業調整会議後の懇談会経費」、「○○○事業実施状況調査後の懇談会経費」、「○○○事業進捗状況調査後の懇談会」、「○○○事業実施計画策定会議後の懇談会」などとして、その会議や事業等の名称及び懇談会の目的がその実施期日とともに記載されているほか、「○○○五人、県土木部四人、計九人」というような形で、その出席者の所属・地位・出席人数が記載されていること、そして、右のうち「○○○」の部分が本件で非開示とされた情報であることが認められる。

4  ところで、右認定及び前記一3で認定した事実から明らかなとおり、本件文書から知ることのできる会議や事業及び懇談会の内容としては、その実施期日、会議等の概括的な開催目的、出席者の所属・地位、出席者数及び県側と相手方との人数の内訳のみであり、このうち出席者の所属・地位は前記のように極めて簡略な形で記録されているだけであって、その具体的な氏名等は記録されておらず、また、その会議や懇談会における具体的な会談の内容等も右文書には全く記録されていないのであるから、本件支出負担行為支出伝票に記録された情報は、懇談会開催のいわば外形的事実に関するものであり、このような情報からは、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるとはいえず、このような情報が公開されることにより、直ちに、出席者相互の信頼関係が損なわれ、当該若しくは同種の事務の目的が失われ、又はこれらの事務事業の公正・円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認め難い。

5  もっとも、右のように、本件文書に、懇談会の開催に関する外形的事実しか記録されていないとしても、一般人が通常入手し得る新聞等からの他の関連情報と照合することにより、懇談の相手方や懇談の具体的な目的、内容が分かる場合もないとはいえないと考えられる。そして、このような懇談会の中には、事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたもの(例えば、土木事業のための買収予定地の個々の地権者等に対する事前の意向打診、個別折衝等を目的とする会合)も含まれている可能性があり、これらの懇談会に関する本件文書を公開し、その記録内容等から懇談会等の出席者等が明らかになると、相手方において、不快、不審の念を抱き、また、懇談会の内容等につき様々な憶測等がされることを危惧するなどして、以後、懇談会への参加を拒否したり、率直な意見表明を控えたりすることが考えられないでもなく、その場合、当該又は同種の事務の公正、円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれが全くないとはいえない。

しかし、本件文書を公開することにより右のようなおそれがあるというためには、被告の側で、当該懇談会が事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された各情報について、その記録内容自体から、あるいは、他の関連情報と照合することにより、懇談会の相手方等が了知される可能性があることを具体的に主張、立証する必要があるというべきである。

6  本件において、被告は、前記第二の三3(一)(2)のとおり、本件文書に記録された懇談会が、前記5の、事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われた場合に当たる旨主張するところ、〔証拠略〕によれば、千葉県土木部は、道路、河川、港湾等の社会資本の整備を柱とする土木行政に関する事務を所掌する部署であり、このうち、土木部管理課の分掌事務は、<1>部内各課(室)の連絡調整に関すること、<2>部内(営繕課を除く)の予算経理に関すること、<3>建設工事にかかる契約事務の総合調整に関すること、<4>部内の所掌にかかる事業の進行管理に関すること、<5>建設統計に関すること、<6>建設機械抵当法に基づく建設機械の打刻及び検認に関すること、<7>千葉県建設工事等指名業者選定審査会に関すること、<8>建設業法、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律等の施行に関すること、<9>土木事務所、港湾事務所、ダム管理事務所等に関すること、<10>建設業審議会及び建設工事紛争審査会に関すること、<11>その他部内他課(室)の所掌に属しない事項に関することであること、右<1>ないし<11>のうち、<3>、<4>、<7>ないし<10>については、その事務の性質上、秘密の保持が強く要求される場合のあり得ることが推測できるところであるが、本件文書に記録された各懇談会のうち、そのいずれが右のような秘密の保持が強く要求される内密の協議を目的としたものに当たるか(右懇談会のすべてがそのような内密の協議を目的としたものに当たるとは考えられない。)、また、それが具体的にどのような場合であるか、さらに、本件文書中の、あるいは他のどのような情報からその懇談会の相手方等が了知される可能性があるのか等についての個別的な主張、立証はないから、これらの事務事業に関する情報であることのみを理由として、本件文書中の前記のような情報が本件条例一一条八号に該当するとはいえない。なお、被告は、前記第二の三3(一)(3)において、本件文書に記録された懇談会等に関する情報を公開することによって考えられる支障をいくつか例示し、それに対応する立証をしているが、それらが本件文書に記載された各懇談会と個別的にどのような対応関係にあるかについての主張、立証は全くなされておらず、単にその職務の性質上そのようなおそれがあるというだけの一般的・概括的な主張、立証にとどまっているのであるから、この点も右の判断に何らの影響を及ぼすものではない。

7  したがって、本件非公開情報のうち懇談会の目的及び出席者に関する情報が、本件条例一一条八号の公開しないことができる情報に当たるということはできない。

四  まとめ

以上によれば、本件非公開情報のうち、債権者の口座情報の記載された部分については、本件条例一一条三号の公開しないことができる情報であることが認められるが、その余の部分については、いずれも同条二、三及び八号の公開しないことができる情報には該当しないから、これらの部分を非公開とした本件非公開処分は違法である。

第四  結論

よって、原告の請求は、本件非公開処分のうち、懇談会の目的、出席者、相手方、相手方の住所、氏名、電話番号、債権者印、相手方コードを非公開とした部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、口座情報を非公開とした部分の取消請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 澁谷勝海)

文書目録

一 平成四年から平成七年までの各三月に千葉県土木部管理課が実施した懇談会に関する資料(支出負担行為支出伝票、請求書及び見積書)のうち、懇談会の目的、出席者、相手方、相手方の住所、氏名、電話番号、債権者印、相手方コード、金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号が記載されている箇所

二 平成七年五月ないし一一月のうちの奇数月並びに平成八年七月及び九月に千葉県土木部管理課が実施した懇談会に関する資料(支出負担行為支出伝票、請求書及び見積書)のうち、懇談会の目的、出席者、相手方、相手方の住所、氏名、電話番号、債権者印、相手方コード、金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号が記載されている箇所

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