大判例

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千葉地方裁判所 昭和23年(行)23号 判決

原告 水鳥川安爾

被告 千葉県農業委員会

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十三年五月二十二日附を以てなした裁決中原決定取消の部分を除いてその余のうち別紙目録記載の土地に関する部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その原因として

一、豊田村農地委員会は、昭和二十二年八月二十九日原告所有名義の土地一町二反一畝二二歩を市川市居住の不在地主の小作地であるとして小作農の請求のないまま遡及買収計画を立てたので、原告は異議申立並に訴願をなしたところ、被告は訴願に対し昭和二十三年五月二十二日附をもつて一部の土地については村農地委員会のなした決定を取消し、その余の土地(別紙目録記載の土地外二筆)については訴願を却下する旨の裁決をなした。

二、被告の主張に対し、

イ、本件は自創法附則二項(昭和二一年法律四三号)に基く買収計画であるから、その適否は附則二項自体から判断すべく、改正後の自創法六条の二ないし五に基いて判断すべきものではない(最高裁、昭和二七年一月二五日判決、集六巻一号二三頁参照)。而して附則二項には、「市町村農地委員会が、相当と認めるときは、命令の定めるところにより」遡及買収することができる旨定められているのであつて、「命令の定めるところ」とは「自創法施行令の定めるところ」であることは明かである。而して施行令四三条によれば小作農が請求したときに、はじめて農地委員会は遡及買収をなし得るものであるから、小作農からの請求なくしてなした本件買収計画は違法である。

ロ、また附則二項によれば、市町村農地委員会が「相当と認めるとき」に遡及買収の計画を立てることができる旨規定しているから、遡及買収について相当性の存することが要件となつているのに、本件にあつては之を欠いているからこの点からも本件買収計画は違法である。

以上いずれの理由によるにせよ、県農地委員会の裁決中原告の訴願を却下した部分は違法であるから別紙目録記載の部分の取消を求めると述べ、被告の訴却下の申立に対し裁決書の交付を受けたのは昭和二十三年六月十一日であつて、七月九日になされた本訴は適法であると答えた(立証省略)。

被告訴訟代理人は訴却下の判決を求め、裁決書は村農地委員会書記吹野尹が昭和二十三年六月二日原告方に持参交付したので自創法四七条ノ二により同年七月二日までに訴を提起しなければならないのに、本訴は七月九日に提起されたので出訴期間経過後の訴として却下さるべきであると述べ、本案に対し請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の一、の事実を認め、その主張として、

二、小作農から請求がなくとも市町村農地委員会は遡及買収計画を樹立できる。即ち、昭和二十一年十二月二十九日施行の自創法附則二項は「市町村農地委員会は、相当と認めるときは、命令の定めるところにより、昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基いて第六条の規定による農地買収計画を定めることができる。」と規定しており、請求による場合、職権による場合の区別はない。たゞ当時の自創法施行令四三条ないし四五条は主として請求による場合の手続について規定しているが、買収計画の基礎は前記附則二項によるのであるから、請求による場合ばかりではない。

そして昭和二二年法律二四一号附則二条は、「この法律施行前に改正前の附則二項の規定による農地買収計画に関してされた手続は、六条の二、六条の三又は六条の五の規定によりされた手続とみなす。」と規定した。六条の五が小作農の請求によらない場合の規定であつて、即ち本件の場合である。従前も請求買収、職権買収の定めがあつたので改正法の附則として二条に経過規定を設けたものである。

遡及買収計画は自作農創設を適正に行うため昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いてされるので、同日現在の事実に基けば不在である地主の農地については遡及買収計画を樹立することができる。本件にあつては同日現在の事実によれば原告が不在地主なるが故に豊田村農地委員会は職権により買収するを当然と認め三条一項一号附則二項により買収計画を樹立したのであると述べた(立証省略)。

三、理  由

被告は原告の訴は出訴期間後になされたもので不適法として却下さるべきであると主張するが、証人吹野尹の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証並に原告本人尋問の結果によれば、原告が裁決書を受領したのは昭和二十三年六月十一日であることがわかり、証人吹野尹の証言によつてもそう認められ、本訴は出訴期間内に提起されているから、被告の訴却下の申立は理由がない。

自創法は昭和二十一年十二月二十九日施行されたのであるが、いわゆる遡及買収計画は昭和二十年十一月二十三日の事実関係に対しその後施行となつた右法律を適用しようとすることである。しかるに人民に不利益を科する法律には遡及力はない(憲法第三九条)のであるから遡及買収計画に関する規定は法律としての効力を持たない。従つてこの規定によりなされた処分は無効であり、処分の有効を前提とする千葉県農地委員会の裁決は取消さるべきである。

よつて民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高根義三郎 須賀健次郎 貞家克己)

(目録省略)

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