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千葉地方裁判所 昭和30年(ワ)191号 判決 1955年12月21日

原告 石橋たゑ

被告 株式会社日本相互銀行

主文

被告の原告に対する千葉地方法務局所属公証人亀崎弘尚作成第五千四十二号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行は之を許さない。

当裁判所が昭和三十年九月八日別紙目録<省略>記載の不動産に対する強制執行につき為した強制執行停止決定は之を取消す。

前項に限り仮に執行することが出来る。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項並第四項同旨の判決を求め其の請求原因として被告は主文第一項掲記の債務名義正本に基き債権残元金十五万及び之に対する昭和二十九年一月六日から完済まで日歩五銭の割合による損害金を請求金額として別紙目録記載の不動産に対し競売申立を為し御庁は昭和二九年(ヌ)第二二号不動産強制競売事件として昭和二十九年九月二日強制競売開始決定を為し爾来右事件は進行中である、然しながら原告は昭和三十年九月三日までに分割払の方法により被告の請求金額並に夫までの手続費用の全部の支払を了したので、右債務名義の執行力を排除致したく、本訴に及んだと述べ尚前記強制競売事件に於ては昭和三十年八月四日前記不動産に対する競落許可決定が為され右決定は確定し同年八月中代金支払期日を同年九月六日午前十時と指定したが同期日に代金の支払がなく同月八日再競売が命ぜられた段階に於て同日主文第二項掲記の停止決定により手続が停止されていると附陳した。

被告訴訟代理人は原告の請求を却下するとの判決を求め、答弁として原告の陳述する事実はすべて之を認める。被告に於ては競落人の同意が得られないので競売申立の取下困難な次第であると述べた。

理由

被告が原告主張の通りの債務名義に基き別紙目録記載の不動産に対し競売申立を為し、右事件が進行して原告主張の通りの経過を採り原告主張の通りの段階に於て手続が停止決定により停止されていること、原告が昭和三十年九月三日までに被告の請求金額並にその時までの手続費用全部の支払を了したことはいずれも当事者間に争がない、以上当事者間に争のない事実によれば原告が請求金額並に手続費用の支払を完了したのは競落許可決定確定後代金支払期日の前であり、一方競売手続に於ては代金の支払がなく再競売が命ぜられたが民事訴訟法第六百八十八条第三項に所謂「再競売期日の三日前」が未だ到来しない時期に於て手続が停止されているのであるから、考えて見るのに、競落人は競落許可決定の確定により競落物件の所有権を取得したが、代金支払期日に於て代金を支払わなかつたことにより右所有権取得は解除され再競売を命ぜられたのである、併しながら右解除は終局的のものでなく、競落人は再競売期日の三日前までは買入代金等を支払うことが出来、右支払を為したときは再競売手続は取消されて、再び解除なかりし時の状態に復り競落人は決定的に目的物件の所有者となること民事訴訟法第六百八十五条乃至第六百八十八条の規定に照らし明である、而して右競落人の権利を保護する為め競売法第二十三条を準用して競売手続の上記の段階に於て強制競売申立を取下げるには、右取下が競落許可決定確定後請求金額並に手続費用全部の支払があつた事由によると否とに拘らず、競売代金の支払をしなかつたがまだ「再競売期日の三日前」までを徒過していない競落人の同意をも必要とすると解すべきであると共に、右競売法第二十三条により宣明せられている競落人保護の立場は下の場合にも一貫すべきであるすなはち競落許可決定確定後再競売期日の三日前までの間に請求金額並に手続費用全額の支払があり、之によつて仮執行の宣言を付した本案判決が変更せられ又は強制執行を許さないとの判決が為される等のことがあつて、其の執行力ある判決正本が提出されたときと雖も、競落人保護の為め例外として民事訴訟法第五百五十条第五百五十一条を直に適用すべきではなくその侭手続を進め競落人が再競売期日三日前までに支払を了したときは、爾後配当手続を為して競売手続を完結すべく、若し競落人がその支払をしないで再競売期日三日前を徒過した場合に初めて競売手続を取消すべきものと解するのを相当とする。

果して以上の結論が正しいとすれば、原告の希望する、この段階に於ける競売手続の取消は、原告の請求認容の裁判を為したとしても直には達せられないと云う外ないが、尚右裁判を為す利益が全くないとは云い得ないので前記当事者間に争のない事実に基く原告の本訴請求は之を認容すべきものとし、尚前段説明の理由により強制執行停止決定は之を取消すべきものとし、仮執行の宣言につき民事訴訟法第五百四十八条訴訟費用につき同法第八十九条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 内田初太郎)

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