千葉地方裁判所 昭和34年(ワ)268号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕借地法の規定に基く賃料値上請求権を実体法上の形成権と解する法的根拠は存在せず、あくまでも請求権であるから、賃料額が適正額まで値上されるに至る時期は、賃料値上請求権の行使によつて生じた賃借人の承諾義務の履行を命ずる判決が確定したときであり、仮に右請求権が実体法上の形成権であると解しても、その提起する訴は、適正賃料額の確定を求める訴であつて、これに対する判決は確認判決となるものであるから、値上の効力が生ずることになるのは、値上賃料額を確定する判決が確定した時からである。
〔判決理由〕併しながら、賃料値上の請求権の行使によつて、法律上、当然に、適正賃料額まで、その額が値上されるに至るものではない。
当事者双方は、その一致した法的見解として、賃料値上請求権を実体法上の形成権であると解し、その行使によつて、法律上、当然に、適正賃料額まで増額されるに至る旨を陳述して居るのであるが、賃料値上の請求権を実体法上の形成権と解すべき法的根拠は存在せず、借地法の規定を検討して得られるところのその法的性質は、あくまでも請求権であつて、その行使によつて生ずる法的効果は、賃借人に、賃貸人の請求を承諾すべき義務を負担せしめるに過ぎないものであり、従つて、賃借人がその義務の履行を為さないときは、その履行を求める訴を提起し、確定判決を得て、その履行に代えしめる外に方法はないのであるから、結局に於て、賃料額が適正賃料額まで値上されるに至る時期は、賃料値上請求権の行使によつて生じた賃借人の承諾義務の履行を命ずる判決が確定したときであると解せざるを得ないものであり、仮に、右請求権が実体法上の形成権であると解し得られるものであるとしても、その提起する訴は、適正賃料額の確定を求める訴であつて、それに対する判決は、確認判決となるものであるところ、その判決は、その性質上、現在の権利関係を確定するに過ぎないものであつて、過去の権利関係に対して、その効力を及ぼし得ないものであるから、その確定の効力は、右請求権行使の時までは遡ることを得ないものであり、従つて、この場合に於ても、値上賃料額を確定する判決が確定した時から、値上の効力が生ずることになるものであるから、何れにしても、判決の効力は、右請求権行使の時までは遡らないものである。
(尚、賃借人たる被告に対し、義務の履行を求める訴は、給付の訴に外ならないものであり、而して、賃借人たる被告の負担して居る義務は、前記の通り、承諾を為すことにあるのであるから、その訴は、賃借人たる被告の承諾の意思表示を求める訴となるものであり、而して、その承諾義務は、借地法上、適正賃料額に対するそれとなるものであるから、その訴は、結局、値上された適正賃料額に対する承諾の意思表示を求めるそれとなるものである。)
然る以上、賃借人は、判決確定に至るまでは、値上賃料額(適正な値上賃料額)の支払を為すべき義務はないものであると云はざるを得ないものであるから、右判決の確定に至るまでの間に於て、賃借人が、支払を為すべき義務を負担して居る賃料額は、従前のそれであると云はざるを得ないものである。(田中正一)