千葉地方裁判所 昭和34年(ワ)88号 判決 1961年4月28日
原告 須藤一
右訴訟代理人弁護士 安達幸次郎
被告 国吉庸太郎
右訴訟代理人弁護士 石井麻佐雄
主文
一、原告の本訴請求並に被告の反訴請求は、孰れも、之を棄却する。
二、訴訟費用は、本訴のみについて生じた部分は原告の、反訴のみについて生じた部分は、被告の、各負担とし、本訴及び反訴に共通して生じた部分は、双方の平等負担とする。
事実
≪省略≫
理由
第一、原告の本訴請求について。
一、仮に、原告主張の事実が、全部、認められるとすれば、原告に於て、被告に対し、本件建物について取得し得べき権利は、第一に、その所有権移転登記手続を為すべきことを求める権利(登記請求権)であると解される。
従つて、原告に於て、被告に対し行使し得べき権利は、右建物に対する所有権移転登記手続請求権である。
然るところ、被告を名義人とする所有権取得の本登記は為されて居らず、為されて居るのは、被告を名義人とする所有権取得の仮登記だけであるから、被告に対し、右権利を行使する為めには、被告に、本登記上の名義人たるの地位(被告の為めの所有権取得の本登記)を取得せしめなければならないものであるところ、被告は、実体上の権利を失つたとは云へ、原告に対し、所有権移転の登記手続を為すべき義務があるから、訴外高石泰治に対し、右仮登記に基き、所有権移転の本登記手続を為すべきことを求める権利は、之を失つて居ないので、原告は、被告に対する前記登記請求権に基き、被告に代位して、被告の右訴外人に対する本登記請求権を行使し、同訴外人に対し、被告の為めに、所有権移転の本登記手続を為すべきことを求めることが出来る。而して、之によつて、被告に登記名義人たるの地位を得しめたならば、被告に対し、前記登記請求権を行使し得るから、原告は、この過程を経て、被告に対し、その権利を行使すべきである。
不動産登記法は、実体上の権利の変動に即応した登記を為すべきことを要求して居るのであるから、右の様に解することは、当然の事理であると云はなければならない。
二、次に、実体権の移転に伴い、前記仮登記上の地位も亦原告に移転したものと解し得られるから、原告は、被告に対し、前記登記請求権を取得すると共に、仮登記移転の附記登記手続を為すべきことを求める権利(附記登記請求権)をも取得したものであると云はなければならないから、原告は、被告に対し、右権利をも行使することが出来る。
而して、右権利を行使して、右仮登記移転の附記登記を得たならば、その仮登記権利者として、登記名義人である前記訴外人に対し、右仮登記に基く本登記手続を為すべきことを求め得ることとなる。
この過程によることも亦右法の要求に照し、正当な手続として認められ得るものである。
三、原告が、その主張の事実関係によつて、被告に対し、本件建物について、取得し得べき権利は、以上の権利を出ないものであつて、右事実関係によつては、被告に対し、前記仮登記の抹消登記手続を為すべきことを求め得る権利を取得したことは、之を認めることの出来ないものである。
四、尚、原告は、実体上の権利が原告に移転し、且、原告に於て、その主張の調停の成立によつて、その主張の中間登記を省略し、直接に、前記訴外人から、所有権移転の登記を受けたから、前記仮登記は、その必要性を失ひ、従つて、実質上、その効力を失ふに至つたものである旨を主張して居るのであるが、右中間登記を省略するについては、被告の同意を得て居ないことが、弁論の全趣旨と成立に争のない甲第一〇号証とによつて認められるので、右中間登記を省略して為された右登記は、無効であると云はざるを得ないものであり、而も原告が被告に対し取得し得べき権利は、前記の様な請求権であつて、被告の有する登記は、右仮登記のみであるから、その請求権行使の上から見ても、依然として、重要な登記であつて、その必要性が消滅したなどとは、到底、云ふことの出来ないものである。
五、以上の次第で、原告主張の事実が、全部、認められるとしても、原告には、本件仮登記の抹消を求める権利はないのであるから、原告の本訴請求は、その主張の事実の存否についての判断を為すまでもなく、失当として棄却されることを免れ得ないものである。
第二、被告の反訴請求について。
一、原告が被告主張の様な不法な行為を為し、因つて、被告の名誉を毀損したと云ふ事実については、之を認めるに足りる証拠がないので、その様な事実は、之を認めるに由ないところである。
二、而して、被告の反訴請求は、右の様な事実のあることを前提として居るものであるところ、その前提事実の認め得ないこと右の通りであるから、被告の反訴請求は、爾余の事実関係についての判断を為すまでもなく、失当として、棄却されることを免れ得ないものである。
第三、結論。
仍て、原告の本訴請求並に被告の反訴請求は、共に、之を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九〇条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 田中正一)