千葉地方裁判所 昭和35年(行)13号 判決 1961年4月24日
原告 河端清太
被告 千葉県知事
訴訟代理人 江口禎一
主文
被告千葉県知事が別紙目録第一、第二記載の各土地につき昭和二二年七月二日付をもつて、又同第三記載の土地につき同年一〇月二日付をもつて、それぞれなした自作農創設特別措置法第三条に基く買収処分のうち、原告の二分の一の共有持分に関する部分に限り、無効なることを確認する。
右各買収処分に対するその余の無効確認、及び被告千葉県知事が訴外武藤つぎに対し、別紙目録第一、第二記載の各土地につき昭和二二年七月二日付をもつて、又同第三記載の土地につき同年一〇月二日付をもつて、それぞれなした自作農創設特別措置法第一六条に基く売渡処分の無効確認を求める原告の各訴はいずれも之を却下する。
訴訟費用は之を二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告千葉県知事が別紙目録第一、第二記載の土地につき昭和二二年七月二日付をもつて、又同第三記載の土地につき同年一〇月二日付をもつて、それぞれなした自作農創設特別措置法第三条に基く買収処分、及び右各土地につきそれぞれ前同日付をもつて、訴外武藤つぎに対してなした右同法第一六条に基く売渡処分はいずれも無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
一、原告はもと河端為友と称していたが、その後昭和二一年一〇月三日その名を清太と改めた。ところで別紙目録第一乃至第三記載の三筆の土地はいずれも原告及び訴外川口常五郎の共有土地であつて、登記簿上も右原告の改名前の河端為友及び訴外川口常五郎の共有名義に登記されていたところ、被告千葉県知事は、
(1) 右第一、第二記載の土地全部につき、同土地は右川口常五郎の単独所有地であるとして、同人に対し、昭和二二年七月二日付をもつて自作農創設特別措置法「以下「自創法」という」第三条に基き買収処分をした上、同日付をもつて訴外武藤つぎに対し、同法第一六条に基き売渡処分をなし、
(2) 同第三記載の土地全部につき、前同様同土地は右川口常五郎の単独所有地であるとして同人に対し同年一〇月二日付をもつて同法第三条に基き買収処分をした上、同日付をもつて右訴外武藤つぎに対し同法第一六条に基き売渡処分をなした。
二、しかしながら右各土地は前述の如く原告及び川口常五郎の共有土地であつて、その旨の登記もなされているのであるから、これを買収するには同時買収をするか又は持分の分割による特定部分の買収をすべきところ、被告千葉県知事は前記の通り右土地は訴外川口常五郎の単独所有地であるとしてその全部を同人から買収したから、右買収処分には真実の所有者でない者に対してなされた重大かつ明白な瑕疵があり、したがつて右処分は当然無効である。
従つて右買収処分の有効なることを前提になされた前記売渡処分も当然無効である。
よつて原告は右買収処分及び売渡処分の無効確認を求めるため本訴請求に及んだと述べ、
立証として甲第一号証乃至第四号証を提出した。
被告訴訟代理人及び指定代理人は、本案前の申立として「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決及び右申立が容れられないときは予備的に「本件土地中持分二分の一については原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として
原告は別紙目録第一乃至第三記載の土地はいずれも原告と訴外川口常五郎との共有地である旨主張して、右各土地に対してなされた本件買収処分及び売渡処分の無効確認を求めているところ、右の如き共有物に関する訴訟は、総共有者全員が共同で訴を提起すべき所謂必要的共同訴訟であるから、本件の如く共有者の一人である原告が単独で提起した訴は不適法であつて却下さるべきである。
仮りに本件訴全部が不適法でないとしても、前記原告の主張によれば各共有者の持分は相均しいものと推定され、したがつて右土地中二分の一の持分は訴外川口常五郎の所有であると解せられるから、本件訴のうち右川口常五郎の共有持分二分の一については、原告は本件買収処分及び売渡処分の無効を求める訴の利益を有しない。よつて本件訴のうち右二分の一の持分に関する部分は不適法であるから却下さるべきであると述べ、
本案に対しては「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、原告がもと河端為友と称していたが、昭和二一年一〇月三日その名を清太と改めたこと、別紙目録第一乃至第三の土地が原告及び訴外川口常五郎の共有土地であつて、登記簿上も右原告の改名前の川端為友及び川口常五郎の共有名義に登記されていたこと、被告千葉県知事が右土地につき、その全部を右訴外川口常五郎の単独所有地として原告主張の日時にその主張の如き買収処分及び売渡処分をなしたことはいずれも認めるが、右買収処分及び売渡処分がその全部につき当然無効であるとの主張は否認する。
一般に共有持分そのものの買収は可能であるから、訴外川口常五郎に対してなされた本件買収処分は、特にその持分二分の一を買収する旨表示しなかつたとしても、そのうち右同人の持分二分の一に対する部分は有効であると述べ、
甲号各証の成立を認めた。
理由
先ず被告の本案前の抗弁について判断するに、原告は本訴において別紙目録第一乃至第三記載の各土地が原告及び訴外川口常五郎の共有地であることを主張して、右各土地につきなされた本件買収処分及び売渡処分の無効確認を求めているところ、被告は右原告の訴は共有物に関する訴訟であつて、共有者全員が共同で提起すべき所謂必要的共同訴訟であるから、原告が単独で提起した本件訴は不適法であると主張するが、凡そ共有物につき共有者各自が単独で第三者に対し、自己の持分権即ち物の全部につき自己が他の共有者の権利により減縮された範囲において有する権利を主張して訴を提起することは適法であるところ、本件において原告は、原告及び訴外川口常五郎の共有土地であると主張する別紙目録第一乃至第三記載の土地につき、自己の持分権を主張して右土地に対する買収処分及び売渡処分の無効確認を求めていると解するを相当とするから、他の共有者と共同で提起しなかつた本件訴が不適法であるとの被告の主張は失当である。
次に原告が右共有持分権を主張して本件買収処分及び売渡処分全部の無効確認を求める訴の利益を有するか否かについて考えるに、一般に農地の各共有持分も自創法に定める要件を具備する限り、同法によつて適法に買収することができると解せられているところからすれば(同旨、最高裁昭和三〇・三・八・判決民集九巻三号二四五頁)、数人の共有に属する農地に対してなされた買収処分が有効であるか否かを判断するに際しても、右各共有者の共有持分につき、個別的にその効力を判断することができると解するを相当とするところ、一方各共有者はその共有持分の範囲を超えて共有物に対する権利乃至法律関係を主張し、訴を以てその部分迄の権利保護を求める利益乃至必要はないと解すべきであるから、別紙目録第一乃至第三記載の各土地に対する自己の共有持分権を主張して右土地に対する買収処分及び売渡処分の無効確認を求める原告の本件訴のうち、訴外川口常五郎の共有持分に関する部分については、原告にその無効確認を求める訴の利益はないと云うべきである。よつて右部分に対する訴は不適法として却下すべきである。
そこで次に原告その余の本件買収処分の無効確認を求める本案請求について判断するに、原告がもと河端為友と称していたが、その後昭和二一年一〇月三日その名を清太と改めたこと、別紙目録第一乃至第三記載の各土地はいずれも原告及び訴外川口常五郎の共有であつて、登記簿上も右原告の改名前の河端為友及び訴外川口常五郎の共有名義に登記されていたことはいずれも当事者間に争いなく、右両名の共有持分の割合については何等の主張・立証がないから相均しきもの、即ち右両名各二分の一づつの持分を有していたものと推定すべきである。ところで被告千葉県知事が右原告及び訴外川口常五郎の共有にかかる第一、第二の土地につき、その全部を訴外川口常五郎の単独所有地として同人に対し、昭和二二年七月二日付をもつて自創法第三条に基く買収処分をしたこと、及び同じく右第三の土地につき、前同様その全部を右川口常五郎の単独所有地として、同人に対し、同年一〇月二日付をもつて同法第三条に基く買収処分をしたことはいずれも当事者間に争いない。してみれば右各買収処分は、原告が右各土地に対し真実二分の一の共有持分権を有し、かつ登記簿上もその旨登記されていたにも拘らず、之を誤認し、右各土地全部を訴外川口常五郎の単独所有地として同人から買収したものであつて、右原告の持分に関する部分については、重大かつ明白な瑕疵あるものと云うべきであるから、その範囲で右買収処分は当然無効と云わなければならない。
次に原告は被告千葉県知事が右買収した土地につき、同法第一六条に基き訴外武藤つぎに対してなした売渡処分の無効確認を求めているが、農地買収処分の無効なることが確認されれば、被告千葉県知事は右無効とされた買収処分の有効なることを前提にしてその後になした売渡処分についても、之を当然無効として取り扱わねばならない法律上の拘束を受けると解すべきであるから、農地の被買収者が農地法第八〇条に基き買収土地の売払資格あることを理由に売渡処分の無効確認を求める場合は格別、それ以外には、一般に買収処分の無効確認と合わせて、売渡処分の無効確認を求める訴の利益を有しないものと云わなければならない。よつて前記原告の二分の一の共有持分権に関する部分についても、本件売渡処分の無効確認を求める原告の訴は不適法として之を却下すべきである。
よつて原告の本訴請求中、被告千葉県知事が別紙目録第一乃至第三記載の土地につきなした本件買収処分のうち、原告の二分の一の共有持分に関する部分についてその無効確認を求める部分は理由があるから之を認容し、右買収処分のその余の無効確認、及び本件売渡処分の無効確認を求める原告の各訴はいずれも不適法であるから之を却下し、訴訟費用につき民事訴訟法第九二条本文を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 猪俣幸一 後藤勇 遠藤誠)
(別紙目録省略)