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千葉地方裁判所 昭和39年(レ)21号 判決 1968年1月22日

控訴人 中嶋亮輔

右訴訟代理人弁護士 中野高志

脱退被控訴人 千商証券株式会社

右代表者代表取締役 鈴木長治

右訴訟代理人弁護士 山田勝利

参加人 新日本証券株式会社

右代表者代表取締役 三ツ本常彦

右訴訟代理人弁護士 渡辺法華

主文

控訴人は参加人に対し、金四万八、八二六円およびこれに対する昭和三八年八月一四日から右支払いずみに至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決は、参加人において控訴人に対し金一万六、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、参加人

主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、控訴人

参加人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも参加人の負担とする、との判決。

第二、当事者の主張

一、

(一)  参加人の請求原因

1 脱退被控訴人千商証券株式会社は大蔵大臣の免許を受けて有価証券の売買委託の媒介、取次等を業とする会社であって、東京証券取引所の会員である参加人の特約店であるところ、控訴人から昭和三八年五月三〇日訴外株式会社三越の株式および同石川島播磨重工業株式会社の株式につき、同日の最終値段すなわち前者は一株につき金二三八円、後者は一株につき金一五四円の各指値で各々一、〇〇〇株買付けの注文を受け、同日右申込みを承諾した。

2 そこで、脱退被控訴人は翌三一日、参加人に対し、右各株式について買付委託をなしたところ、同日株式会社三越の株式一株につき金二三八円、石川島播磨重工業株式会社の株式一株につき金一五三円で各一、〇〇〇株の買付約定が成立したので、同日、控訴人にその旨の売買報告書を郵送した。

3 そして、同年六月六日脱退被控訴人は参加人から右買付け株券を受領したので、その頃参加人に右買付の株式会社三越の株式一、〇〇〇株合計金二三万八、〇〇〇円、この手数料金二、二〇〇円の合計金二四万二〇〇円および石川島播磨重工業株式会社の株式一、〇〇〇株合計金一五万三、〇〇〇円、この手数料金二、〇〇〇円の合計金一五万五、〇〇〇円、以上合計金三九万五、二〇〇円を控訴人のため参加人に対し立て替えて支払った。

4 そこで脱退被控訴人は、控訴人に対し右立替金の支払請求をしたが、同人はその支払いに応じないので、同年七月二〇日同人に対し書留内容証明郵便をもって、同月二四日までに右立替金の支払いがない場合には東京証券取引所の定めた受託契約準則に基づき前記二銘柄株式の売却処分をする旨通告した。

5 しかし、控訴人は右通告に従ってその支払いをしなかったので脱退被控訴人は当時アメリカ大統領ケネデイ教書の発表により株式相場の暴落の徴候が現れたのでそれによる損害の増大をおそれ前記通告どおり同月二四日参加人に委託して前記二銘柄全部を売却した。そしてその売却価格は、株式会社三越の株式が金二二万五、〇〇〇円(一株につき金二二五円)・石川島播磨重工業株式会社の株式が金一二万六、〇〇〇円(一株につき金一二六円)であって、右各金額から、前者につきその手数料金二、二〇〇円・取引税金三三七円、後者につきその手数料金一、九〇〇円・取引税金一八九円をそれぞれ控除した残金合計金三四万六、三七四円が控訴人に支払われるべき金額となり、控訴人は脱退被控訴人に対し右金額と前記脱退被控訴人の立替金三九万五、二〇〇円との差額金四万八、八二六円を支払う義務を負ったのである。

6 脱退被控訴人が右二銘柄の株式を控訴人の計算で売却処分し、かつ、その不足金を請求しうる根拠は次のとおりである。すなわち、

脱退被控訴人は東京証券取引所受託契約準則に準拠して控訴人買付けの株式を処分したのである。ところで証券取引所の会員である証券業者は証券市場における売買取引の受託については所属する証券取引所の定める受託契約準則によらなければならないものであるが、参加人の所属する東京証券取引所の受託契約準則によれば、(イ)顧客は売買取引成立の日から起算し四日目の午前九時までに買付代金を会員に交付することを要し(同準則第七条)、(ロ)顧客が右時限までに買付代金を会員に交付しないときは会員は任意に当該取引を決済するために当該顧客の計算において売付または買付契約を締結することができる、(ハ)また会員が右により損害を被った場合には顧客のために占有する金銭および有価証券をもってその損害賠償に充当し、なお不足ある時はその不足額の支払を顧客に対して請求することができる(同準則第一三条の九)と定められており、証券取引所の会員でない証券業者の顧客に対する有価証券の売買取引の受託についても右準則に準拠して処理される慣習がある。したがって、控訴人は、脱退被控訴人が右準則に基づいて前記二銘柄を売却処分しその結果生じた損害を賠償すべき義務を負うのである。

7 その後、参加人は昭和四一年三月三一日(当時脱退被控訴人から控訴人に対する前記差損金請求の訴えが提起され、該訴訟が当審に係属中)脱退被控訴人から前記差損金およびこれに対する遅延損害金債権の譲渡を受け、脱退被控訴人は同年八月一一日付内容証明郵便を以って控訴人にその旨通知し、該通知は同日頃控訴人に到達した。

8 よって、参加人は控訴人に対し右譲受金四万八、八二六円およびこれに対する本件支払命令正本が控訴人に送達された日の翌日の昭和三八年八月一四日から右支払いずみに至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二)  控訴人の主張に対する答弁

控訴人主張事実は否認する。

二、

(一)  控訴人の請求原因に対する答弁

1 請求原因(一)の1の事実中、控訴人が昭和三八年五月三〇日脱退被控訴人に対し、株式会社三越の株式および石川島播磨重工業株式会社の株式各一、〇〇〇株の買付けの注文をなした点は認めるが、脱退被控訴人が大蔵大臣の免許を受けて有価証券の売買委託の媒介、取次等を業とする会社であって東京証券取引所の会員である参加人の特約店であった点は不知、その余の点は否認する。控訴人は、脱退被控訴人に対し昭和三八年五月三〇日、株式会社三越の株式、一株金二二五円、石川島播磨重工業株式会社の株式、一株金一二五円で各一、〇〇〇株の買付委託の取次ぎを依頼したものである。、

2 同(一)の2、3の各事実は否認する。

3 同(一)の4の事実中、参加人主張の書留内容証明郵便が控訴人に到達した点は認めるが、その余の点は不知。

4 同(一)の5は争う。

5 同(一)の6の事実は不知。

6 同(一)の7の事実中、参加人主張の内容証明郵便が控訴人に到達した点は認めるが、その余の点は不知。

(二)  控訴人の主張

仮に控訴人が脱退被控訴人に対し参加人主張のとおりの各指値で注文し、脱退被控訴人が参加人主張の株価で各株式の買付をし、その代金を参加人に立て替え、支払ったとしても、同年七月中旬頃、控訴人と脱退被控訴人との間で、同年同月一七日に控訴人の住居において、右二銘柄の株券と右脱退被控訴人の立て替えた株式買付代金とを引替えに授受する旨の約定が成立した。ところが脱退被控訴人は右同日社員をして控訴人方を訪問せしめ、控訴人に対し右株式買付代金(立替金)の請求をしたが、約定に反し右二銘柄の株券を持参しなかったので、控訴人は右金員を支払わなかったものであり、もとより株券の引渡しを受けていない。したがって、控訴人は、脱退被控訴人に参加人主張のような差損金が生じ、その債権を参加人が譲り受けたとしても、控訴人には右差損金の支払義務はないものである。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、控訴人が昭和三八年五月三〇日、脱退被控訴人千商証券株式会社に対し、株式会社三越の株式および石川島播磨重工業株式会社の株式各一、〇〇〇株の買付委託の注文をしたことは当事者間に争いがない。

二、右買付けの注文につき、控訴人は、参加人主張のように株式会社三越の株式一株につき金二三八円、石川島播磨重工業株式会社の株式一株につき金一五四円の各指値で注文をした事実はなく、控訴人の各指値は前者につき金二二五円、後者につき金一二五円であったと主張するのでこの点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すれば、控訴人は、昭和三八年五月三〇日脱退被控訴人の店頭においてその社員訴外恩田和夫に対し、当日の最終値と同額の株式会社三越の株式一株につき金二三八円、石川島播磨重工業株式会社の株式一株につき金一五四円の各指値で前記買付委託の注文をし、右恩田が買付注文伝票(≪証拠の表示省略≫)に控訴人の注文どおりの銘柄、一株の指値、数量等を記入した事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

三、≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  脱退被控訴人は、控訴人の前記各指値による買付委託注文どおり昭和三八年五月三一日、同人が証券取引所の会員でないため、証券取引きにつき同人との間において特約を結んでいた右会員である参加人に前記各株式の買付委託をなしたところ、同日株式会社三越の株式一株につき控訴人の指値どおり金二三八円、石川島播磨重工業株式会社の株式一株につき控訴人の指値より金一円安の金一五三円で各一、〇〇〇株を買付けることができたので、同日、控訴人に対しその旨の買付報告書(二通)を作成して郵送した。

(二)  その後、同年六月六日参加人から脱退被控訴人に右買付けにかかる株券が到達したので、同人はその頃参加人に対し右買付の株式会社三越の株式一、〇〇〇株合計金二三万八、〇〇〇円、この手数料金二、二〇〇円合計金二四万二〇〇円および石川島播磨重工業株式会社の株式一、〇〇〇株合計金一五万三、〇〇〇円、この手数料金二、〇〇〇円合計金一五万五、〇〇〇円、以上合計金三九万五、二〇〇円を控訴人のため立替え払いをした。

(三)  その後控訴人は脱退被控訴人に何の連絡もせず、そのため同年六月中旬頃、脱退被控訴人の社員が右買付けにかかる株券を持参して控訴人宅を訪問し、右立替金の支払請求をしたが、控訴人は土地売却代金の入金があるまでと称してその支払猶予を求めるだけでその支払いをせず、また同年七月一三日頃控訴人は脱退被控訴人方において、同人からの支払請求に対し、土地売却代金の入金があると称して同年七月一七日まで支払猶予を求め、その旨の支払契約書を作成して交付した。しかし、右期日が到来しても控訴人は何の連絡もせず脱退被控訴人の社員の請求にも応じなかった。そこで脱退被控訴人は同年七月二〇日控訴人に対し書留内容証明郵便で同年同月二四日までに右立替払金の支払いがない場合には東京証券取引所の定めた受託契約準則に基づいて前記二銘柄の株式を売却処分する旨通告した(かかる書面が控訴人に到達したことは当事者間に争いがない)。

(四)  これに対し控訴人は右立替金を右通告どおり支払わなかったので、脱退被控訴人は、当時の株式相場の暴落による損害の増大を恐れ、同月二四日前記二銘柄の売却処分を参加人に委託して行なった。その結果、右売却価格は、株式会社三越の株式一、〇〇〇株金二二万五、〇〇〇円(一株金二二五円)であり、これからその手数料金二、二〇〇円、取引税金三三七円の合計金二、五三七円を控除すると金二二万二、四六四円となり、石川島播磨重工業株式会社の株式一、〇〇〇株金一二万六、〇〇〇円(一株金一二六円)であり、これからその手数料金一、九〇〇円、取引税金一八九円の合計金二、〇八九円を控除すると金一二万三、九一一円となり、以上合計金三四万六、三七四円と脱退被控訴人の前記立替金金三九万五、二〇〇円との差額金四万八、八二六円が右二銘柄の売買の差損金となった。

以上の事実を認定することができ(る。)≪証拠判断省略≫

四、そこで、前認定の脱退被控訴人のなした前記株式の売却処分の適否についてみると、≪証拠省略≫によれば、東京証券取引所の定める受託契約準則には、株券の普通取引きにおける売買取引きの委託については、顧客は売買成立の日から起算し四日目の日の午前九時までに売付け証券または買付け代金を会員に交付するものとする、ただし、会員が本所の定める時限までに当該売買取引きを本所を通じて決済するために必要と認めて、受託に際して別に日時を指定した場合には、顧客はその日時までに売付け証券または買付け代金を会員に交付するものとする(第七条)、顧客が所定の時限(株券の普通取引きにおける売買取引きの委託にかかる売付け証券、または買付け代金の会員への交付については、第七条第一項本文に規定する時限)までに、売付け証券または買付け代金を会員に交付しないとき、発行日決済取引きにつき差し入れるべき委託保証金、または損失計算となった場合において、損失額に相当する金銭を会員に預託しないとき、および信用取引きに関し会員に預託すべき委託保証金、もしくは支払うべき金銭を預託せず、もしくは支払わないとき、またはその貸付けを受けた買付け代金もしくは売付け証券の支弁を行なわない場合は、会員は任意に当該売買取引きまたは信用取引きを決済するために、当該顧客の計算において売付けまたは買付け契約を締結することができる、会員が前項により損害を被った場合においては、顧客のために占有する金銭および有価証券をもって、その損害の賠償に充当し、なお不足があるときはその不足額の支払いを顧客に対し請求することができる(第一三条の九)との定めがあり、右準則については、東京証券取引所に所属しない証券業者においてもこれに従ってその業務を行なうべき旨大蔵省から指示され、大蔵省が右証券業者に対して行なう定期(一年一回)あるいは不定期の検査においても、右準則に従って業務を行なっているかどうかが検査され、もし右に違反している場合には当該証券業者の登録の取消等の制裁がなされるため、東京証券取引所の会員でない証券業者においても、右準則に従ってその業務を行なう慣習となっていることを認めることができ、以上の認定に反する証拠はない。そして、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は大正一二年頃から株式の売買をし、脱退被控訴人とは昭和三七年一〇月頃からその取引きがあることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。以上認定の事実によれば、前認定の脱退被控訴人がなした前記株式の売却処分は適法であって、これによって生じた前認定の差損金の支払いを控訴人に請求することができるものというべきである。

五、なお、控訴人は、脱退被控訴人において控訴人に対し前記株券を提供しなかったので、前記差損金の支払義務を負担しないものである、と主張するが、前認定のように、脱退被控訴人は控訴人に対し右株券を持参してその立替金の支払いを求めたところ、控訴人がその支払いに応じなかったため、右株券を交付しなかったものであるから、控訴人の右主張は理由がなく採用することができない。

六、≪証拠省略≫によれば、脱退被控訴人は昭和四一年三月三一日参加人に対し、前記差損金請求債権およびこれに対する遅延損害金請求債権を包括して譲渡し、同年八月一一日付内容証明郵便を以って控訴人にその旨通知し、該通知は同日頃控訴人に到達したこと(かかる内容証明郵便が控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。)を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

七、以上の次第で、控訴人は参加人に対し前記差損金四万八、八二六円およびこれに対する本件支払命令正本が控訴人に送達された日の翌日たること本件記録上明らかな昭和三八年八月一四日から右支払いずみに至るまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべきである。

よって、参加人の本件請求は理由があるので正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中隆 裁判官 渡辺昭 片岡安夫)

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