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千葉地方裁判所 昭和39年(行ウ)8号 判決 1966年10月27日

原告 石井惣治

被告 国 外一名

訴訟代理人 上野国夫 外四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告訴訟代理人は「(一)被告国は原告に対し、別紙目録記載の各土地につき千葉地方法務局松戸支局昭和三八年一二月二三日受付第一九、三四九号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、(二)被告松丸きちは原告に対し、同目録記載の各土地につき千葉地方法務局松戸支局昭和三九年三月二日受付第三、四二九号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、(三)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求めた。

二、被告国指定代理人および同松丸きちの訴訟代理人はそれぞれ主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告訴訟代理人は請求原因として次のとおり述べた。

(一)  原告は、別紙目録記載の各土地(以下本件各土地という。)の所有者であつたが、千葉県知事は、右各土地につき、昭和三八年一一月一日農地法第九条により買収処分をなし、同年一二月二三日千葉地方法務局松戸支局受付第一九、三四九号をもつて、被告国にその旨の所有権移転登記手続をなし、さらに右各土地につき昭和三九年三月一日同法第三六条により被告松丸きちに売渡処分をなし、同月二日同支局受付第三、四二九号をもつて、同被告にその旨の所有権移転登記手続をなした。

(二)  しかしながら、前記の買収処分は次のような重大かつ明白な瑕しがあるので無効である。

1、千葉県知事は原告を本件各土地の所在する市町村の区域外に住所を有するものと認めて右買収処分をなしたが、原告は右買収処分のあつた昭和三八年一一月一日当時右各土地の所在する市町村の区域内である松戸市高塚新田に住所を有していたから、本件各土地は農地法第六条第一項に該当しないものである。

すなわち、原告は以前市川市曽谷町三六五番地に居住していたが、昭和三八年一月下旬以来松戸市高塚新田二四七番地松丸幸作方に住所を移転し、同所で現実に起居寝食し、生活したものであつて、住民票作成の届出は勿論、選挙人名簿への登録、納税令書の送達場所、農業委員会からの書類の送達場所、土地登記簿上の住所記載その他の関係においてすべて原告の住所は前記松戸市高塚新田二四七番地になつており、昭和三八年一〇月一日以後は同市高塚新田一九六番地に新居を建築して同所に移転し、そこに居住して生活し、同所を生活の本拠としたものである。

2、さらに千葉県知事は本件各土地につき農地法第六条第五項所定のいわゆるみなし小作地と認めて前記買収処分をなしたけれども、右各土地は通常の小作地でないのは勿論みなし小作地にも当らないものである。すなわち、

被告松丸きちの亡夫松丸清は従来から本件各土地を権限なく占有し耕作していたものであるが、原告が昭和二二年一一月七日右松丸清に対し、松戸市高塚新田字木戸前一六六番の二山林(現況畑)一六一・九八平方メートル(一畝一九歩)ほか二筆の土地を売り渡した際、同人は本件各土地の耕作が不法のものであることを認め、原告に対し、遅くとも一年以内に右各土地上に栽植されている梨の木を収去して明け渡すことを確約し、原告はその後再三同人およびその死亡後同じく本件各土地を不法に占有耕作している被告松丸きちに対し右の明渡しを迫つたけれども、これを履行しないので、遂に原告は昭和三八年八月二七日松戸簡易裁判所に同被告に対し右の明渡しを求める訴え(同庁昭和三八年(ハ)第六七号事件)を提起した。したがつて、本件各土地は、松丸清および被告松丸きちにおいてこれを平穏、かつ、公然と耕作に供していたものとはいえないから、みなし小作地には該当しないものである。

(三)  以上の理由により千葉県知事のなした本件各土地に対する買収処分が無効である以上、右買収処分を前提とする被告松丸きちへの売渡処分も無効であるので、前記千葉地方法務局松戸支局昭和三八年一二月二三日受付第一九、三四九号および同支局昭和三九年三月二日受付第三、四二九号による各所有権移転登記はいずれも有効な登記原因を欠くものであるから、前者の登記につき被告国に対し、後者の登記につき被告松丸きちに対し、それぞれ各抹消登記手続をすることを求めて本訴請求に及ぶ。

二、被告国指定代理人は請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因(一)記載の事実はすべて認める。

(二)  同(二)の1、2記載の事実中、千葉県知事が原告を本件各土地の所在する市町村の区域外に住所を有するものと認めて右各土地の買収処分をしたこと、原告が昭和三八年六月一三日以後松戸市高塚新田二四七番地松丸幸作方を、また、同年一〇月一六日以後同市同所一六九番地を住民票の上で住所として届け出ていること、千葉県知事が本件各土地につき農地法第六条第五項所定のいわゆるみなし小作地と認めて買収処分をしたこと、本件各土地が通常の小作地でなく、従来から被告松丸きちの亡夫松丸清が、その死亡後は同被告がこれを占有し耕作していたこと、原告が昭和二二年一一月七日松丸清に対し原告主張の土地を売り渡したこと、原告が昭和三八年八月二七日松戸簡易裁判所に同被告に対し本件各土地の明渡しを求める訴えを提起したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。すなわち、

原告の本件各土地の買収処分のあつた当日である昭和三八年一一月一日当時の住所は、本件各土地の所在する市町村の区域外である市川市曽谷町三六五番地に依然としてあり、原告が同年六月一三日以後ことさらに住民票の上で松戸市高塚新田に住所を移転した旨届け出たのは、同年五月二九日松戸市農業委員会が原告および被告松丸きちらの立会いの上で、本件各土地付近の境界確定と測量をし、また、同年六月八日分筆手続のため本件各土地の実測を行なつたことから、右各土地を不在地主の所有する小作地として買収されることを察知して、急遽形式上松戸市に住所を移転したごとくに糊塗したものであつて、現実には、原告が同市高塚新田二四七番地松丸幸作方に住所を移したことはなく、同所には原告は家財道具は一品たりとも置いておらず、依然として市川市で世帯主として家族とともに生活しており、右松丸幸作方には本件各土地に隣接する松戸市高塚新田字木戸前一六九番の一の農地を耕作するため同市に来た際に、時折立ち寄つていたにすぎなかつたものであるから、右松丸幸作方が到底原告の生活の本拠地であるとはいえず、原告が松戸市に生活の本拠を移したのは、前記買収処分後である昭和三九年夏頃に同市高塚新田字木戸前一六九番の土地上に家屋を新築して移住した以後であつて、それまでの原告の住所は依然として前記市川市曽谷町三六五番地である。したがつて、千葉県知事が原告の住所を本件各土地の所在する市町村の区域外にあるものと認めてなした買収処分は適法であつて、これが無効であるとする原告の主張は失当である。

また、本件各土地はもと松丸清の先代松丸太郎吉の所有であつたが、大正五年二月一二日太郎吉から原告の先代石井惣蔵に譲渡され、昭和九年一〇月二〇日原告が家督相続によつてその所有権を取得したものであるが、太郎吉が原告の先代惣蔵に右各土地を譲渡した際、太郎吉は惣蔵からその後も引続き耕作してもよい旨承諾を受けて、右各土地を同人から賃借し、太郎吉の死亡後松丸清において右賃借権を承継して引続きこれを耕作し、小作料も昭和二二年までは支払つていた。しかし、同年一一月七日原告と松丸清との間で松戸市高塚新田字木戸前一六六番の二山林(現況畑)一六一・九八平方メートルほか二筆の土地の売買があつたとき、清は本件各土地をも右売買契約により買い受けてその所有権を取得したものと思い、爾来これを占有耕作して来たものであつて、原告主張のような右各土地の明渡しの約束を清が原告との間でしたようなことはなく、清の死亡後は被告松丸きちにおいて、同様に既に所有権を取得しているものと思つて占有耕作して来たり、その間原告においても右各土地の明渡しを迫つたような事実はなく、これを買収されることを察知して昭和三八年八月に至つて初めて松戸簡易裁判所に明渡しの訴えを提起するに及んだものであつて、清および被告松丸きちは本件各土地を平穏、かつ、公然と耕作していたものである。したがつて本件各土地は農地法第六条第五項所定の「小作地以外の農地でその所有者又はその世帯員でない者が平穏に、且つ、公然と耕作に供しているもの」(いわゆるみなし小作地)に該当するものというべく、千葉県知事が右各土地をみなし小作地と認めてなした買収処分は適法であつて、これが無効であるとする原告の主張は失当である。

(三)  以上のように千葉県知事のなした本件各土地の買収処分にはなんら瑕しはなく有効であり、したがつて、右買収処分が無効であることを前提とする原告の被告国に対する本訴請求は理由がない。

三、被告松丸きち訴訟代理人の請求原因に対する答弁は、次の点を除き、請求原因に対する被告国の前記答弁と同様である。

(一)  本件各土地は昭和二二年六月六日松丸清が原告から前記の松戸市高塚新田字木戸前一六六番の二山林(現況畑)一六一・九八平方メートルほか二筆の土地を買い受けたときに、代金合計二万七、〇〇〇円を原告に支払つて、それと併せて買い受けたものであるが、本件各土地は地目および現況とも畑であつたため千葉県知事の許可がなければ、所有権移転登記手続ができないため、登記名義は原告にとどめたままにしておいたものである。したがつて、右売買契約後は原告は清および被告松丸きちに右各土地の小作料の請求をせず、また、同人らもその支払をしていない。そして原告は昭和三八年八月二七日松戸簡易裁判所に本件各土地の明渡しの訴えを提起するまでは、なんら右の明渡しの請求をなさずに経過したものであつて、清および被告松丸きちにおいて右各土地を平穏、かつ、公然と耕作に供していたものであり、したがつて、千葉県知事が本件各土地をみなし小作地と認めてなした買収処分は適法であつて、これが無効であるとする原告の主張は失当である。

(二)  以上のように千葉県知事のなした本件各土地の買収処分にはなんら瑕しはなく有効である以上、右買収処分が無効であることを前提とする原告の被告松丸きちに対する本訴請求は理由がない。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、原告が本件各土地を所有していたこと、右各土地につき千葉県知事によつて、昭和三八年一一月一日農地法第九条により買収処分がなされ、千葉地方法務局松戸支局同年一二月二三日受付第一九、三四九号をもつて被告国にその旨の所有権移転登記がなされ、さらに昭和三九年三月一日同法第三六条により被告松丸きちに右各土地の売渡処分がなされ、同支局同年同月二日受付第三、四二九号をもつて、同被告にその旨の所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがない。

二、千葉県知事が原告を本件各土地の所在する市町村の区域外に住所を有するものと認めて右各土地の買収処分をしたことは当事者間に争いがなく、原告は、同人が右買収処分がなされた昭和三八年一一月一日当時右各土地の所在する市町村の区域内である松戸市高塚新田に住所を有していたと主張するので、まずその点につき判断する。

原告が昭和三八年六月一三日以後松戸市高塚新田二四七番地松丸幸作方を、また、同年一〇月一六日以後同市同所一六九番地を住民票の上で住所として届け出ていることは当事者間に争いがなく、成立につき争いのない甲第二、三号証の各一、二、第五、六、七号証、原告本人尋問の結果により成立を認めうる同第四号証によると、原告が市川市曽谷町九三五番の七の農地を永井義忠に売渡しの際作成した土地売買契約書(作成月日昭和三八年七月一六日付)記載の原告の住所表示、市川市農業委員会からの右農地転用許可申請についての原告宛の呼出状二通(発送月日同年九月三日および同月二〇日付)の送達場所、原告所有の同市曽谷町五一二番の農地についての千葉県知事作成の分筆代位登記嘱託書(作成月日同年八月五日付)記載の原告の住所表示、松戸市選挙管理委員会作成の補充選挙人名簿(同年一一月一日現在)登録の原告の住所表示の各関係で松戸市高塚新田二四七番地または同市同所一六九番地が原告の住所として記載されていること、原告が昭和三八年度第三期分の所得税の納付を松戸税務署でしていることをそれぞれ認めることができるが、右事実に証人松丸幸作の証言により成立を認めうる甲第九、一〇号証、成立につき争いのない同第一二号証の一、二を併せもつてしても、原告の前記主張事実を認めるに十分でなく、証人松丸正次、同加藤種次郎の各証言および原告本人尋問の結果中右主張に副う部分は後記証拠に照らしてたやすく信用することができず、他に右原告主張事実を認めるに足る適当な証拠はなく、かえつて前記甲第九、一〇号証、証人杉山寛の証言によつて成立を認めうる乙第一号証に証人松丸幸作、同松丸参治、同鈴木穰、同杉山寛、同高橋孫の各証言、および被告本人松丸きち尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

昭和三八年五月および六月にわたつて二回松戸市農業委員会によつて行なわれた買収の準備のための本件各土地の現地調査、実測、隣地との境界確定に原告が立ち会つたこと、原告は右各土地につき同委員会から調査を受け、所有権譲渡の勧告を受けたこと、原告は昭和三八年初夏の頃、知人の松戸市高塚新田二四七番地松丸幸作方の物置の二階を借り受け、同所に蒲団、蚊帳などの寝具、焜ろ、鍋などの簡単な炊事用具のみを持ち込んで一月に四、五回位同所に宿泊し、簡単な即席ラーメン、うどん、そばなどの食事を作つて食べていたこと、同所は農業資材等を納めている物置の二階で、畳も敷いておらず、薄暗い裸電球が取り付けてあるにすぎず、水道、風呂その他の設備は勿論なく、日常生活に極めて不便な場所であること、他方市川市曽谷町三六五番地の原告方は二棟一九八・三四平方メートル(六〇坪)もあり、原告は田畑併せて一九、八三四・七平方メートル(二町歩)近くも耕作し、家族六人とともにかなり富裕な生活をしていること、原告は松丸幸作との間で、同人方を昭和三八年四月一日から敷金三、〇〇〇円、賃料一か月二、〇〇〇円と定めた貸室契約書を昭和三八年三月二五日付作成し、家賃領収書に同年四月分から七月分までの賃料合計八、〇〇〇円を毎月右幸作が受領したごとくに、同人の受領印を押捺して貰つたが、実際には同人に敷金も賃料も一切支払つていないこと、原告は右幸作にも、また、同人方の近隣の人々にも出会う毎にことさらに自分は家族の者と意見が合わず、不仲になつたため家族と別居して単身同所に居住している旨話し、また、原告の家族も市川市農業委員などに原告は同年三月ごろから家族と別居し、単身松戸市で暮している旨話し、昭和三八年八月一日現在作成の所有地及び耕作地に関する申告書にも世帯主である原告が家事の都合のため一時家族と別居している旨記載して申告していること、原告は右幸作方に夜宿泊した日も、朝方から市川市へ帰り、同市曽谷町所在の原告所有の農地の耕作を行ない、日常生活の殆んどは市川市曽谷町三六五番地所在の原告方を中心として家族とともに過していたこと、原告は昭和三八年一〇月下旬頃までに松戸市高塚新田一六九番地の原告の所有土地上に家屋一棟を建築したが、右家屋はバラツク建で面積四九・五八平方メートル(一五坪)足らずの四部屋位の粗末な建物で、しかも右建物には親戚の二世帯を住まわせ、原告が使用したのは四畳半一室にすぎなかつたこと、原告が同所に普通建物を建築したのは、本件各土地の買収処分後である昭和三九年二月頃以降であること、以上の事実が認められる。

三、そうだとすると、原告は昭和三八年五月ごろ本件各土地がいわゆる不在地主所有の農地として買収されることを知つて、これを免れるべく、急遽、松戸市高塚新田に住所を移転したごとく外観を装うため、住民票上の届出、補充選挙人名簿への登録その他の関係でことさらに同所に住所を移転したように表示して形式面を整備し、また、松丸幸作と昭和三八年三月二五日付同人方一室を賃借したように契約書、家賃領収書の記載は整えたが、実際には時折同所に宿泊した程度で、日常生活の殆んどは依然として従前どおり市川市曽谷町三六五番地の原告方を中心として過し、前記買収処分当時の生活の本拠は同所にあつたものと認めるのが相当であつて、右認定に副つて原告を本件各土地の所在する市町村の区域外に住所を有するものと認めてなした千葉県知事の買収処分にはなんら瑕しは認められないから、この点に関する原告の主張は失当であつて到底採用し難い。

四、さらに、千葉県知事が本件各土地を農地法第六条第五項所定のいわゆるみなし小作地と認めて買収処分をしたことは当事者間に争いがなく、原告は本件各土地については被告松丸きちの亡夫松丸清に昭和二二年一一月七日他の三筆の土地を売つた際同人から一年以内に明け渡す旨の確認を得て、その後再三その履行を迫り、右明渡しの訴えまで提起するに及んでいるのであるから、清および被告松丸きちにおいて右各土地を平穏、かつ、公然と耕作していたものとはいえず、右各土地はみなし小作地には該当しないと主張するので次にこの点を判断する。

原告所有の本件各土地が通常の小作地でなく、前記買収処分前に被告松丸きちの亡夫松丸清が、その死亡後は同被告がこれを占有し耕作していたこと、原告が昭和二二年にその主張の三筆の土地を松丸清に売り渡したこと、原告が昭和三八年八月二七日松戸簡易裁判所に被告松丸きちに対し本件各土地の明渡しを求めて訴えを提起したことは当事者間に争いがなく、松丸清および被告松丸きちは平穏、かつ、公然と本件土地を占有していたものと推定すべきであり、右の平穏とは、占有を取得または保持するために法律上許されない強暴の行為をしないことをいい、右の公然とは、占有を取得または保持するために特にこれを秘して世人の目に触れないようにしないことをいうものであるから、右のような訴えの提起がなされても、また仮に原告主張のような明渡しの特約請求をなしたとしても、これにより右占有が平穏かつ公然でないということはいえないものである。それのみでなく、右の明渡しの特約請求の点については、右主張に副う原告本人尋問の結果は後記証拠に照らし、たやすく信用することができず、他にこれを認めるに足る適当な証拠はなく、かえつて、成立につき争いのない丙第一、二号証に証人杉山覚、同鈴木穰、同高橋孫、同松丸参治の各証言および被告松丸きち本人尋問の結果を総合すると、松丸清は昭和二二年になされた前記三筆の土地の売買の際に原告に代金二万七、〇〇〇円を支払い、これにより右三筆に併せて、先代太郎吉の生前の頃より原告から賃借し耕作していた本件土地をも買い受けたものと信じて耕作し、昭和二四年八月右清が死亡した後、その相続をした同人の妻被告松丸きちもそのように信じて右各土地の耕作を継続し(清および被告松丸きちの右耕作の点は前記のように当事者間に争いがない。)、清および同被告は右金員の支払の日以後右各土地の賃料の支払をしていないこと、原告もまたこの日以後右賃料の請求も、また右各土地の明渡しの請求も同人らにしていないこと、原告は昭和三八年五、六月に二回にわたつて行なわれた右各土地についての買収のための調査、測量の場に立ち会つていながら、別段なんらの異議をも唱えなかつたことがそれぞれ認められる。

五、そうだとすれば、本件各土地は、その所有者またはその世帯員でもない被告松丸きちが平穏、かつ、公然と十数年にわたり耕作に供していたものであることが明らかに確かめられたものというべく、本件各土地は農地法第六条第五項所定のみなし小作地に該当するものと認めるのが相当であつて、右認定に副つてなした千葉県知事の買収処分にはなんら瑕しは認められないから、この点に関する原告の主張もまた失当であつて到底採用し難い。

六、以上認定のように千葉県知事のなした本件各土地の買収処分には原告主張の瑕しは認められないから、右瑕しが重大かつ明白でその買収処分が無効であることを前提とし、被告らに対し前記各登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は他の争点につき判断するまでもなくいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 堀部勇二 渡辺昭 片岡安夫)

(別紙省略)

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