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千葉地方裁判所 昭和44年(ワ)596号 判決 1970年11月24日

原告 山口義雄

原告 山口キミ

訴訟代理人弁護士 大塚喜一

同 子安良平

同(復代理人) 田中一誠

同(同) 渡辺真次

被告 東邦自動車鈑金株式会社

代表者代表取締役 山口敞

訴訟代理人弁護士 菅原隆

主文

被告は原告らに対しそれぞれ金八八万三四〇四円とこれに対する昭和四四年七月二二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その一を被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、(事故の発生) 原告ら主張の日時場所で亡道明と加害車が衝突し、そのため同人が死亡したことは当事者間に争いがない。

二、(帰責事由) 請求原因2の事実は当事者間に争いがなく、後記のように被告の免責事由は認められないから、被告は自賠法三条による賠償責任を負う。

三、(原告らの身分関係) ≪証拠省略≫によると原告義雄は亡道明の父で、原告キミは亡道明の母であることを認めることができる。

四、(双方の過失) ≪証拠省略≫を総合すると次の事実を認めることができる。すなわち、事故現場付近の道路は幅員約五・一メートルの砂利道で、加害車の進行方向(以下同じ)左側には住宅のブロック塀が設置され、右側には私鉄京成電鉄の軌道が敷設されていて、直線状である。訴外高橋は加害車を運転し、習志野市実籾町方面から京成大久保駅方面へ向かい時速約四〇キロメートルで事故現場付近にさしかかったが、衝突地点から約一二・七メートル手前の道路左側に荷台に幌が取付けられた訴外車が駐車していて、道路の左側部分約二・一メートルをふさぎ、その前方の見通しをさえぎっていた。訴外高橋は訴外車から約一〇〇メートル手前で訴外車の右側後部付近に子どもが数人いるのを認めたが、その子どもらが加害車の接近に気付いていたように思われたので、警音器を吹鳴せず、時速約四〇キロメートルのまま訴外車の右側を通過しようとした。訴外高橋は訴外車の右側に進出して訴外車の約二分の一車身付近まで走行したとき、左斜め前方約一一・五メートルの地点の道路左側から約一・九メートル離れた地点に亡道明が道路左側から中央部分に向って小走りに進んでいたのを発見し、直ちに急制動の措置をとったが間に合わず、道路左側から約三・一メートル離れた地点で加害車の左前照灯付近を亡道明に衝突させた。以上の事実によると訴外高橋は訴外車のため左側前方の見通しを妨げられた場所にさしかかって、訴外車の右側約三メートルの部分を通過しようとしたのであり、しかも、訴外車の右側後部付近に数人の子どもを認めていたのであるから、訴外車のため見えなくなった部分に留意し、その陰から加害車の接近に気付かない者が飛び出してくるかも知れないことを予測し、減速して警音器を吹鳴するなどの措置を講ずるべきであったといえる。訴外高橋がその義務を尽さなかったため事故が発生したとみることができるから、同人には過失があったといえる。また、亡道明は訴外車のため右方の見通しを妨げられた場所で道路の中央部分に出ようとしたのであるから、訴外車の陰から自動車が走行して来ないかどうかを確認したうえ急がないで進むべきであったといえる。同人がその義務を尽さなかったため事故が発生したとみることができるから、同人にも過失があったといえる。その過失割合は訴外高橋の方が七割、亡道明の方が三割とみるのが相当である。

五、(被告の負担すべき賠償額)

(一)  亡道明の慰藉料一五〇万円

≪証拠省略≫によると亡道明は昭和三五年七月七日生まれで、事故当時小学三年生であったが、事故後直ちに救急車で習志野市津田沼町の三橋耳鼻科整形外科に収容され、医師の診察を受けてその数時間後に同市泉町の国立習志野病院に転医し、昭和四四年七月二〇日腹膜炎、腸管破裂のため手術を受けるなどしたものの、翌二一日午前九時〇五分死亡したことを認めることができ、≪証拠省略≫によって認められる亡道明の学業成績や前記の事故の態様、同人の過失など諸般の事情を考慮すると同人の受けた精神的苦痛を慰藉する額は一五〇万円とみるのが相当である。

(二)  付添料四二〇〇円

≪証拠省略≫によると亡道明が国立習志野病院に入院して死亡するまでの六日間後記の家業に従事していた原告キミがその付添看護にあたったことを認めることができ、その看護料は一日あたり一〇〇〇円とみるのが相当であるところ、亡道明の過失を考慮し、その三割を減額した四二〇〇円を被告に負担させるのが相当である。

(三)  亡道明の逸失利益二九二万六二四〇円

亡道明は事故当時九才の健康な男子であり、同年令の男子の平均余命は六一・三五年(昭和四一年簡易生命表)であるから、同人は二〇才に達するころから六〇才に達するところまでの四〇年間就労できたものとみるのが相当である。昭和四三年賃金構造基本統計調査報告によると二〇才の男子の一か月の平均給与額は臨時給与を含めて四万二五〇〇円と推計するのが相当であり、亡道明はその就労期間中右金額程度の収入を得たものと推認できる。同人の生活費は右収入の五割にあたる一か月あたり二万一二五〇円とみるのが相当である。そうすると、同人は一か年あたり二五万五〇〇〇円の得べかりし利益を失ったということができ、その総額からホフマン式(複式年別)計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡時における現価を算出すると四一八万〇三四三円となる(二五万五〇〇〇円カケル二四・九八三六ヒク二五万五〇〇〇円カケル八・五九〇一)。同人の過失を考慮し、その三割を減額した二九二万六二四〇円を被告に負担させるのが相当である。

(三)  亡道明の損害の相続

原告らは亡道明に生じた(一)ないし(三)の合計四四三万〇四四〇円の損害賠償請求権の各二分の一にあたる二二一万五二二〇円の損害賠償請求権を相続により取得したといえる。

(五)  原告らの慰藉料各四五万円

≪証拠省略≫によると原告らは長男、二男、長女の三人の子どものうち二男の道明を失い、精神的苦痛を受けたことを認めることができ、事故の態様、亡道明の過失など諸般の事情を考慮すると原告らの精神的苦痛を慰藉する額はそれぞれ四五万円とみるのが相当である。

(六)  弁護士費用各一〇万円

≪証拠省略≫によると被告が後記(八)の賠償額を任意に支払わなかったので、原告らは原告ら訴訟代理人弁護士に対し本訴の提起と追行を委任し、昭和四四年九月一日着手金として二〇万円を支払ったことを認めることができ、訴訟活動の難易、賠償認定額その他の事情を考慮すると原告らの支払った弁護士費用は本件事故と相当因果関係にある損害とみるのが相当である。

(七)  亡道明の養育費教育費の控除

原告らは亡道明が二〇才に達したのち六〇才に達するまで四〇年間就労できたはずであるとしてその間の逸失利益賠償請求権を相続したと主張し、その賠償を訴求している。そうだとすれば、亡道明は二〇才に達するまで養育と教育を受けなければならなかったはずである。同人の養育費教育費を負担する者は原告らであって、逸失利益賠償請求権を取得した亡道明とは人格が異なるといえるから、いわゆる損益相殺の法理をそのままこれに適用するのは相当でない。しかし、未就労者であった死者の逸失利益賠償請求権を承継したと主張してこれを訴求する場合には死者が就労年限に達するまでその養育と教育を必要としたことを当然の前提としているのであるから、損失の公平な分担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念に照らし、公平の見地からこれに要する養育費教育費を逸失利益から控除するのが相当である。≪証拠省略≫によって認められる原告らの職業(原告義雄は工作機械製造業者、原告キミはその従業員)その他の事情を考慮すると亡道明の養育と教育に要すべきであった費用は同人が二〇才に達するまでの間一か月あたり五〇〇〇円とみるのが相当である。そうすると、その年額は六万円となり、その総額からホフマン式(複式年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡時における現価を算出すると五一万五四〇六円となる(六万円カケル八・五九〇一)。これを原告らが二分の一ずつ負担するとみるのが相当であるから、原告らの損害額からそれぞれ二五万七七〇三円を控除する。

(八)  損害の填補

原告らが自賠責保険から三一四万三九八〇円の給付を受けたこと、被告が亡道明の入院治療費一三万一九八〇円と同人の葬儀費二一万五五一〇円を支払ったことは当事者間に争いがない。被告はそのほかに見舞三万円、香典三万円を支払ったと主張するが、仮にそうであるとしてもこれを損害の填補にあてるのは相当でない。亡道明の過失を考慮すると被告の支払った入院治療費葬儀費のうちその三割にあたる合計一〇万四二四七円を本訴の損害の填補にあてるのが相当である。これと保険金三一四万三九八〇円を(四)と(五)の損害額から(七)の費用を控除したものに二分の一ずつ充当すると原告らの損害の残額はそれぞれ七八万三四〇四円となる。

六、(結論) そうすると、被告は原告らに対しそれぞれ八八万三四〇四円とこれに対する事故発生ののちである昭和四四年七月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告らの請求のうち右各金員の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤一隆)

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