千葉地方裁判所 昭和54年(ワ)44号 判決 1980年8月27日
原告
千葉航
ほか二名
被告
渡辺和夫
主文
一 被告らは各自、原告千葉幸子に対し金七〇一万七五七二円および内金六三一万七五七二円に対する昭和五三年五月三一日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員、原告千葉航、同千葉夕貴子に対しそれぞれ金七三一万七五七二円および内金六六五万七五七二円に対する昭和五三年五月三一日以降右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決第一項は仮りに執行できる。
事実
(申立)
第一原告ら
一 被告らは各自、原告千葉航、同千葉夕貴子に対し各金一一五三万四二七五円、原告千葉幸子に対し金一一四一万四二七五円および右各金員に対する昭和五三年五月三一日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二被告ら
請求棄却、訴訟費用は原告らの負担。
(主張)
第一請求原因
一 事故の発生
(一) 日時 昭和五三年五月三〇日午前零時二〇分
(二) 場所 千葉県市原市島野一〇五二番地先道路
(三) 加害運転者 被告 渡辺和夫
(四) 加害車両 普通乗用自動車(品川ち一三八〇―以下加害車という。)
(五) 被害者 亡千葉義昭(死亡―以下被害者という。)
(六) 被害車両 足踏式自転車(以下被害車という。)
(七) 態様 被告渡辺は、加害車を運転して、五井方面より姉崎方面に向けて進行中、同方向に向けて進行していた被害者運転の被害車に追突し、同車を同所付近に転倒させ、同人を頭蓋底骨々折等により死亡させた。
二 責任原因
(一) 被告渡辺は、加害車を運転進行するにさいし、前方を注視し、進行中の被害車の有無・動静を確認して進行する注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約五〇キロメートル位の速度で進行した過失により、被害者に追突したものであり民法七〇九条の不法行為責任がある。
(二) 被告国吉利文は、本件加害車を所有し、かつ被告渡辺を雇用していたものであつて、自賠法三条による運行供用者責任がある。
三 損害総額 金四九三三万七〇二六円
(一) 逸失利益 金三八七六万七〇二六円
1 昭和五二年度給与所得 金三〇〇万六四三一円
2 就労可能年数 三一年間(被害者は昭和一七年五月二〇日生の死亡時三六歳、六七歳まで就労可能とみる。)
3 ホフマン係数 一八・四二一
4 生活費控除 三〇パーセント
300万6431×0.7×18.421=3876万7026円
(二) 慰藉料 金一〇〇〇万円
被害者は、一家の支柱として生計を支えてきたものであるから、その慰藉料は金一〇〇〇万円を下らない。
(三) 葬儀費 金五〇万円
原告幸子は、葬儀費として、金五〇万円相当の支出を余儀なくされた。
(四) 弁護士費用 金七万円と認容額の一割
被告らは、前記損害賠償につき、誠意ある示談交渉に応じなかつたため、原告らは、原告代理人に本訴提起を依頼せざるを得なくなり、着手金の内金として財団法人法律扶助協会が原告らに代つて金七万円を支払い、成功報酬として認容額の一割を支払うことを約した。
四 原告らの相続
原告航、同夕貴子は、被害者の子であり、原告幸子は同人の妻であり、同人らは前記損害賠償(一)、(二)の各三分の一を相続により取得した。
五 損益相殺
(一) 原告幸子は、被告渡辺から損害金の内金として、合計金六九万円の支払を受けた。右支払分は原告幸子分から控除する。
(二) 原告らは、自賠責保険から各金四七二万一四〇〇円(合計一四一六万四二〇〇円)を受領したので、本訴請求から右金額を控除する。
六 むすび
よつて原告航、同夕貴子は、それぞれ金一一五三万四二七五円、原告幸子は金一一四一万四二七五円および右各金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五三年五月三一日から右支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、被告ら各自に対し支払うよう求める。
第二被告渡辺の答弁
一 請求原因一項のうち(一)ないし(六)は認め、(七)の被害車の進行方向は否認する。実際には被害者は、加害車の進行方向に向つて右側から左側に道路を横断中であつた。
二 二項責任原因について(一)は否認もしくは争う。(二)のうち加害車の所有者が被告国吉であり、被告渡辺が同人に雇われていたことは認める。
三 三項の損害についてはいずれも否認もしくは争う。
四 四項のうち原告らの被害者との身分関係、相続開始の事実は認めるが、その余は争う。
五 五項は認める。
六 六項は争う。
第三被告国吉の答弁
一 一項の(一)ないし(六)は認め、(七)は不知。
二 二項の(一)は否認もしくは争う。(二)のうち加害車を被告国吉が所有することは認めるが、運行供用者責任があるとの点は争う。
三 三項の(一)ないし(三)はすべて争う。なお中間利息の控除はライプニツツ方式によるべきものである。(四)のうち原告らが原告代理人に訴訟委任をしたことは認めるがその余の点は不知。
なお被害者は、本件事故前、甲第四号証の作成者である千代田鉱産株式会社を退職(会社の倒産による)し、事故当時月収金一七万円で稼動していたものである。
四 四項中相続の点は不知。請求額は争う。
五 五項は認める。
六 六項は争う。
第四被告渡辺の抗弁(過失相殺)
一 現場付近の道路構造、交通環境
(一) 道路構造
本件事故が発生した現場付近の道路は、加害車の進路方向(市原市五井方面から同市姉崎方面に向つて)に右にカーブし、片側一車線、歩車道の区別のない道路である。夜間には、街路灯は設置されず、道路右側には数軒の家屋があるものの、左側は田畑であつて、暗い場所である。
(二) 交通環境
本件事故の発生は、深夜〇時二〇分ころであり、当時の交通量は少なかつた。ただ事故発生直前対向車線を走行していた車両があり、右車両の前照灯による照射によつていわゆる蒸発現象が発生し、被害者もしくは被害車を発見することができず、または発見を極めて困難にした。なお加害車はいわゆる外車であり、運転席が左側にあり、道路が右にカーブしている関係で道路中央部を注視した場合には、対向車両の前照灯を真正面に受けやすい状況にあつた。
二 被害者の動静
(一) 飲酒酩酊
被害者は、本件事故直前まで、現場付近のスナツク「智江」で飲酒し、相当に酩酊していた。なお現場付近には加害車以外のスリツプ痕も残され、かつ、急ブレーキの音を聞いた者もおり、加害車以外に酩酊した被害者を避けるため、緊急措置を採つた車がいたことは明らかであり、そのことも被害者の酩酊していたことを裏付ける。
(二) 被害者の事故直前の動静
被害者は、スナツク「智江」を出てから、本件道路を加害者の進行方向右側より左側に横断したが、右横断は本件道路を最短距離でしたものではなく、一旦道路中央部付近を五井方面から姉崎方面に向けて相当距離走行した後、衝突地点の直前に至り、左方への横断を再開したものである。
三 右に述べた如く、本件事故は、事故発生の道路、交通環境ならびに被害者の自殺行為にも等しい行動が複合して発生したもので、仮りに過失があつたとしても、その程度は極めて軽微なものである。
深夜、交通の閑散とした道路上を、車両が接近してくる危険を無視し、本件道路を突然横断する車両のあることまで予測し得ない。車両の運転者にそのような注意義務を前提として、周到な運転をしなければならない義務はない。
四 損害額の算定にあたり、被害者の前記過失は充分斟酌されるべきである。
第五被告国吉の抗弁
一 被告国吉は、中古車販売業を営なみ、本件加害車を販売目的で購入し、保管していた。しかし右車両は、本件事故の約一ケ月前に車検が切れ、強制保険の保険期間を徒過していたため、本件事故当時これを運行の用に供することはできず、現に被告国吉も現にこれを運行の用には供していなかつた。被告渡辺は、右の事実を知りながら、被告国吉の留守中に、同被告所有の鞄を勝手に開き、その中から加害車の鍵を取り出し、これを運転したものである。右はいわゆる泥棒運転に相当し、被告国吉は加害車の運行供用者に該当しない。
二 本件交通事故は、被害者が飲酒酩酊のうえ、交通量が多く、夜間で照明もなく、雨のため路面も黒く濡れている現場を、紺色の服装で自転車に乗車し、左右の安全を確認することなく、加害車の直前を横断した重大なる過失により惹起されたものである。本件事故現場は横断者は少なく、かつ右事故当時対向車のライト等で蒸発現象ないしはこれに近い状態が生じていたものと推認され、被告渡辺が被害者を発見することは不可能であつた。従つて同被告に運転手としての過失はない。
なお加害車の前照灯は、本件事故により下向きになつたが、事故前は保安基準に合致し、機能上の障害も構造上の欠陥もなかつた。
三 仮に右免責の主張が採用されないとしても、本件事故に関しては、被害者にも重大な過失があつたので、損害の算定に当つて過失相殺されるべきである。
第六抗弁に対する原告の答弁
加害車が事故当時車検切れであつたとの点は不知、その余の抗弁の趣旨はすべて争う。
(立証)〔略〕
理由
一 請求原因一項の(一)ないし(六)の事実ならびに加害車の所有者が被告国吉であり、かつ被告渡辺が本件事故当時同人に雇われていたことは当事者間に争いがない。
二 よつて次に本件事故に関し被告渡辺に運転手として過失があつたかどうかにつき判断する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証、第五号証の一ないし五、乙第一号証、第三ないし八号証、丙第一号証によると、次の事実を認めることができる。
1 本件事故現場付近の道路は、加害車の進行方向からみてゆるやかな右カーブを画く、幅員約六メートルの、歩車道の区別のない舗装された道路であるが、見通しは悪くなく、加害車の進行方向一〇〇メートル以上手前から衝突場所を充分見通しできる状況である。なお付近に街路灯は設置されていなかつたが、本件事故当時まだ付近のスナツク等は営業しており、その看板灯等の光で、現場付近は真暗ということはなかつた。また当時は雨上りの曇天であつたが、路面は既にいちおう乾いていた。
そして現場付近は、時速四〇キロメートルの速度制限がなされ、道路中央に黄線がひかれ、右側へのはみ出し通行および駐車禁止の場所に指定されていた。当時は夜中でもあり、対向車が時々通る程度で、交通量は少なかつた。
2 被告渡辺は、事故現場に時速五〇キロメートル以上の速度で加害車を走行させてきた。そのさいライトは下向きで、被害者(もしくは被害車)に衝突するまで、前方に被害車のあることにはまつたく気付かず、従つてブレーキを踏むなどの措置を採らず(現場付近に薄く残つていたスリツプ痕は加害車のではない)、衝突後そのまま運転を続け、現場から逃走した。
なお同人は、当夜午後一一時ころまでの間に少なくともウイスキーの水割り五、六杯位を飲み、酒気を帯びて運転していた。
3 一方被害者も事故直前まで、付近のスナツクで飲み、被害車である自転車に乗つて、対向車線を加害車と同一方向に少しふらつきながら走行した。その間に右車線を走る一台の車両が衝突を避けるため、急ブレーキをかけたようである。そして続いて被害車はやや斜めに道路を横断しようとして、反対車線のほぼ真中辺まで進んで、後輪の中心部付近左側面を加害車の前中央部と衝突させた。当時被害車(原告幸子本人尋問の結果によると、被害者が通勤に使用していたもので、前照灯は点燈できた。)は、無灯火であり、かつ被害者は紺色の作業衣を着用していた。そして右事故により、被害者はボンネツトの上にはね上げられ、さらに農業用水路に転落し、顔面および頭部打撲による延髄離断・脳挫傷・くも膜下出血に伴なう脳障害により、その場で死亡した。
4 本件事故当時ちようど対向車がライトを下向きにして時速四〇キロメートル位で現場付近を通りかかつたが、同車の運転者は五・六〇メートル手前で被害車に気付き、ブレーキをかけ減速して進行し、加害車が被害車に衝突したときには、対向車線上その五、六メートル位手前の道端寄りをゆつくり走行していて、右運転者らは本件事故の様子を目撃した。
5 加害車は、昭和五三年三月二七日でいわゆる車検切れとなつていた外車(ポンテイアツク)で、左ハンドルであり、また、ライトを下向きにした場合直接前方の物体が明るく照らし出せる距離は、一四・五メートル以下というものであつた。
(二)1 以上1ないし5の事実に、右(一)冒頭掲記の各証拠を総合すると、本件事故は、被害者にも左右の安全確認なしにもしくはその判断を誤まつて、かつ無灯火の自転車に乗つて道路を横断・走行した点で過失があるのは否めないが、被告渡辺にも、制限速度に違反するのみならず、現場の照明、前照灯の状況からして、速度を出し過ぎかつ前方に対する注意を十分に払わないまゝ進行した点で過失が存することは明らかである。
2 被告らは、対向車のライトでいわゆる蒸発現象があつた旨主張するが、対向車もライトを下向きにして、中央線寄りではなく、その速度もゆつくりと進行していたのであるから、いわゆる蒸発現象とか、対向車の燈火で目がくらむということがあつたとしても、それはほんの一瞬の間で、被害者が道路を横断しようとして、対向車線を横切り、加害車線内にはいり、その前方に来るまでの大部分は見えた筈であるので、被告らの主張は採用できない。(なお成立に争いのない乙第四号証には自転車の速度を時速一五キロメートルとして、加害車が接触を避け得なかつたかのような計算がなされているが、発見し得る地点の設定の根拠がないうえに、なるほど被告渡辺の主張する点で制動をかけても加害車が衝突地点では停止できなかつたとの仮定が成立つとしても、それは被害車がその間に横断してしまつているとの時間的経過を無視した計算である。実際にも被害車が約一メートル余分に走行する時間差―時速一五キロメートルとしても〇・二五秒弱―があれば、もしくは対向車は中央線寄りを走行していなかつたので、少しハンドルを右側に切れば、本件事故は防げたのであつて、従つて前記計算も採用できない)
その他成立に争いのない丙第三号証、被告渡辺本人尋問の結果中には、右(二)の1の認定に反すると考えられる部分があるが、前掲の各証拠と対比して採用できず、他に右認定を覆えすだけの証拠はない。
三 被告国吉は、加害車が同人の所有でありかつ被告渡辺を雇用していたにも拘わらず、運行供用者に当らない旨主張するので、以下その点につき判断する。
前認定のとおり加害車の車検が昭和五三年三月二七日で切れていたことは明らかである。しかし、前記甲第五号証の一、同号証の三ないし五、被告渡辺本人尋問の結果によると、被告国吉は中古車の販売業を営なみ、その事務所に常時一五台前後の車を展示していたこと、本件加害車もその内の一台であり、ガソリンを入れたまま展示されていたこと、従業員は被告渡辺一人であり、従つて同人は営業、車両の運転その他すべての雑用に従事していたこと、そして右渡辺は、客に車を見せる場合、自分で右展示車を運転したり、さらには通勤にもそれを使用していたこと、もつとも通勤用の車は通常は被告国吉から指定されていたこと、そして昭和五三年四月から同人は通勤用にオートバイを購入したが、それでも雨の日や展示車を客に見せそのままそれを運転して自宅に帰つたような場合には、それに乗つて通勤していたこと、もとより被告国吉もそれを了承していたこと、なお車の鍵は営業時間中は事務所に、右時間外は事務所と同じ棟の工具室のアタツシユケースに置かれていたが、被告渡辺はいずれの場合も鍵を取り出し自由に運転できたこと、本件加害車についても、車検の切れた後においても他の展示車同様、被告渡辺は客に見せる目的で二、三度運転していること、もつとも本件事故時は、会社の業務に関係なく加害車を運転していたのであるが、当日通勤用のオートバイは修理に出してあつたので、本件加害車に乗つていつたん帰宅し、それからさらに運行したこと、以上の事実が認められる。右事実からすると、事故時の運行自体被告国吉の具体的な許可を得ていなかつたとしても、右運行はいわゆる「泥棒運転」とはまつたく事案を異にし、被告国吉の運行供用にかかるものと認めるのが相当である。
もつとも被告国吉は、被告渡辺は本件加害車が車検切れであることを承知で運転した旨主張する。しかし前認定の事実によれば、仮りにそうであつたとしても被告国吉が加害車の運行供用者であるとの認定を妨げない。それに前記主張に沿う成立に争いのない丙第二号証の記載や被告国吉本人尋問の結果も、前掲の甲第五号証の一および三ないし五、被告渡辺本人尋問の結果と対比すると、そのとおり採用することもできず、結局本件事故時被告渡辺が本件加害車が車検切れであつたことを知つていたと認めるのは困難である。
その他本件全証拠をもつても、他に被告国吉が本件加害車の運行供用者でないとの主張に沿う事実を認めることはできない。
四 よつて以下損害につき判断する。
(一) 逸失利益
成立に争いのない甲第二号証、被告国吉との間では成立に争いがなく、被告渡辺との間では弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証に原告幸子本人尋問の結果によると、被害者は、昭和一七年五月二〇日生れで事故時三六歳であり、会社に勤務し、ガス配管などの仕事に従事し、心身共に健康であり、六七歳まで就労可能であると推認され、さらに昭和五二年度の年間所得は金三〇〇万六四三一円であり、右給与で妻と二人の幼児を養つていたと認められるので、その生活費控除は三〇%が相当である(もつとも被告幸子本人尋問の結果によると、被害者は昭和五三年三月から前の会社が倒産したため、同じ建物内に事務所を置いた別の会社に移り、差当つては若干給料が下つたものの、社長同志の約束で将来は同じ給与を保証するとの約束であり、かつ被害者はそれに見合うだけの技術も資格も有していたことが窺えるので、仮りに会社勤務をやめ独立して営業するとしても、右就労可能期間の年収は、少くとも昭和五二年度の年収分程度はあるとするのが相当である。)。
以上によると逸失利益は、新ホフマン係数一八・四二一を用いて計算すると金三八七六万七〇二六円となる。
計算式 300万6431×0.7×18.421=3876万7026(円)
(二) 慰藉料
前認定の本件事故の態様、被害者の年齢、家族構成、被害者はいわゆる一家の主柱であつたこと、その他原告幸子本人尋問の結果から窺える諸般の事情を考慮すると、前記死亡による慰藉料は金一〇〇〇万円とするのが相当である。
(三) 葬儀費用
原告幸子本人尋問の結果によると、同人が主宰して被害者の葬儀を行ないそのため、金五〇万円を要したことが窺えるが、右は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが、相当である。
(四) 弁護士費用
原告幸子本人尋問の結果によると、被告らが損害賠償に応じないので、原告らは弁護士を依頼せざるを得ず、千葉弁護士会を通じ、財団法人法律扶助協会にその着手金の内金七万円の立替えを依頼し、同会が原告ら代理人にこれを支払つたことが認められる。なおそのさい報酬として認容額の一割を支払う旨(幸子以外の原告らの分は、その法定代理人として)契約したことが認められる。
五 過失相殺
前記第二項での認定事実、特に夜間で車の通行も多くなかつた本件事故当時、被害者としても加害車の接近には、前照灯の照射等により容易に気付いた筈であること、その他右第二項(一)冒頭掲記の各証拠を総合すると、その過失割合は加害者側七、被害者側三とするのが相当である。
よつて前項の損害について、右割合による過失相殺をすると、被告らの負担すべき、逸失利益、慰藉料の総額は金三四一三万六九一八円となり、葬儀費用は金三五万円となる。
六 相続
被害者と原告らとの身分関係は、被告渡辺との間では争いがなく、被告国吉との間では、成立に争いのない甲第二号証によりこれを認めることができる。そうすると、原告らは被害者の前記損害賠償債権を、相続により各三分の一づつ取得したものと認められる。
そうすると弁護士費用を別にして原告幸子の損害額は金一一七二万八九七二円、その余の原告らは各金一一三七万八九七二円となる。
七 損益相殺
請求原因五項(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。原告らにつきそれぞれ各支払分を控除すると、結局原告幸子の損害は金六三一万七五七二円、その余の原告らは各金六六五万七五七二円となる。
八 弁護士費用
前四項(四)の認定のとおり、原告幸子は、原告代理人に本件訴訟を依頼するにさいし、着手金として金七万円を立替えにより支払い、成功報酬として認容額の一割の支払いを約したことが明らかである。もつとも請求の趣旨との関係からすると、原告らは本件請求が全額認容される場合には、右のうち成功報酬分については、右請求額の内に算入していないことが認められる。しかし逆に過失相殺等で認容額が請求額より減額される場合には、右一割の報酬契約分についてはこれを算入し、最大限右請求額までの支払を求める趣旨と解するのが相当である。ところで本件訴えの事案の性質や前記四項(四)での認定の諸事情等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用はいずれも本件事故と相当因果関係のある損害と認められるので、結局弁護士費用分は原告幸子につき金七〇万円(着手金七万円を含む)、その余の原告らにつきそれぞれ金六六万円とするのが相当である。
九 むすび
そうすると、原告らの被告ら各自に対する各請求のうち、原告幸子については金七〇一万七五七二円と内金六三一万七五七二円について本件事故発生の翌日である昭和五三年五月三一日から右支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、原告航、夕貴子については各金七三一万七五七二円と内金六六五万七五七二円について昭和五三年五月三一日以降右支払ずみまで右同様年五分の割合による金員の各支払を求める限度において認容し、その余はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木経夫)