千葉地方裁判所 昭和54年(行ウ)11号 判決 1979年10月01日
原告 宮川淑 ほか二名
被告 千葉県選挙管理委員会
代理人 玉田勝也 山口三夫 春田一郎 大池忠夫 ほか三名
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
一 原告らの請求の趣旨及び請求の原因は、別紙(一)記載のとおり。
二 被告の申立及び主張は別紙(二)記載のとおり。
理由
一 原告らの請求原因の要旨は、
「原告らは、衆議院議員の選挙につき、公職選挙法別表第一(以下単に「別表第一」という。)に定める千葉県第四区の選挙権者である。そして、別表第一に定める各選挙区においてはどの選挙人の一票も他のそれと均等な価値を与えられることが憲法第一四条第一項、第一五条第一項の要求するところである。しかるに千葉県第四区の選挙人の投票価値は他区のそれに比べて低く、その間には合理的理由を欠いた著しい格差が存在するため、別表第一のうち千葉県第四区の選挙区並びに議員定数の定めは、「法の下の平等」を保障した憲法第一四条第一項に違反して無効である。
従つて、別表第一に基づいて行なわれる、来るべき衆議院議員の総選挙の千葉県第四区に関するすべての選挙手続は違法であつて、これがなされるときは、他区の選挙権者と平等の投票価値を以つて投票しうべき原告らの選挙権が侵害されることとなるので、これを防止するため、事前に右選挙区に関するすべての選挙手続の差止を求める。」というにある。
二 よつて考えるに、原告らは本件訴訟を抗告訴訟として構成しようと試みるものであるけれども、原告らが侵害のおそれがあるとして本件訴によつて保護を求める権利は、もともと千葉県第四区の選挙人のすべてに等しくかかわる利害であつて、本件訴訟の実体は、帰するところ選挙に関する法規の違憲無効を主張して、選挙制度の適正な運用を維持するため、原告らが千葉県第四区の選挙人たる資格において提起したものと解され、結局本件訴訟は民衆訴訟に該当するものと解さざるを得ない。(もつとも、昭和五四年九月一日現在の自治省発表の選挙人名簿登録者数によれば兵庫県第五区と千葉県第四区の一票の格差は三・八八対一にまで達し全国平均と千葉県第四区のそれも既に二対一を越えた現状において、選挙人が自己の参政権の侵害を憲法に違反するとしてなさるべき選挙の効力を争おうとするときに、公職選挙法に定める選挙訴訟以外には絶対的に許されないと断定することができるかは問題がないわけではないけれども、少なくとも本件におけるような原告らの主張事実の限度では、現段階において民衆訴訟以外の訴訟、すなわち無名抗告訴訟としての予防的不作為命令訴訟が許されるというには未だ熟していないというべきであるから、右訴訟としての適法性を認めることは困難であると解さざるを得ない。)そして、このような民衆訴訟は法律に定める場合に法律に定める者に限り提起することができるにとどまるのである(行政事件訴訟法第五条、第四二条参照)。しかるに、本件訴訟のごとき訴訟を提起することができる旨を定めた実定法上の規定は存しない。
三 よつて本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奈良次郎 鈴木経夫 吉田健司)
別紙(一)
請求の趣旨
一 被告が、現行の公職選挙法別表第一にもとづいて第三五回衆議院議員選挙の千葉県第四区に関して行うすべての選挙手続きを差止める。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因<略>
別紙(二)<略>