千葉地方裁判所 昭和58年(ヨ)235号
債権者
中村栄
右代理人弁護士
渡会久実
同
守川幸男
同
白井幸男
同
高橋勲
同
高橋高子
同
後藤裕造
同
藤野善夫
同
中丸素明
債務者
株式会社藤田運輸
右代表者代表取締役
藤田忠太郎
右代理人弁護士
土屋英夫
主文
債権者が債務者に対し雇用契約上の地位を有することを仮に定める。
債務者は、債権者に対し、昭和六〇年八月から本案判決言渡しに至るまで、毎月八日限り月額金一八万円の割合による金員を仮に支払え。
債権者のその余の本件申請を却下する。
申請費用は、債務者の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 債権者
1 債権者が債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。
2 債務者は、債権者に対し、昭和五八年七月から本案判決の確定に至るまで毎月八日限り金一八万二一四八円を仮に支払え。
3 申請費用は、債務者の負担とする。
二 債務者
1 本件申請は、却下する。
2 申請費用は、債権者の負担とする。
第二当事者の主張
一 申請理由
1 被保全権利
(一) 債権者は、昭和五六年一月八日、一般区域貨物自動車運送事業等を営む株式会社である債務者に雇用され、貨物自動車の運転手として稼働してきた。
(二) 債務者の運転手に対する賃金は、当月一日から起算し、その月末に締切って算定して原則として翌月八日に支払われており、債権者の賃金は、昭和五八年一月分金一八万〇九四〇円、二月分金一二万三三四〇円(もっとも、債務者のガソリンスタンドから自家用車に給油を受けたガソリン代金六万〇五八八円を控除されたため、実際に受領したのは金六万二七五二円であった。)、三月分金一八万二九六二円、四月分金二四万一三五〇円で、月平均賃金額は、金一八万二一四八円である。
(三) 債務者は、昭和五八年五月二日、債権者に対し、解雇予告をし、三〇日を経過した同年六月二日以後の債権者、債務者間の雇用契約の存在を争っている。
2 保全の必要性
債権者は、現在アルバイトをして生計を維持しているが、不安定な雇用であり、いつ収入の道が閉されるかもしれないうえ、預貯金はほとんどなく、特段財産もない。また、他からの援助もほとんど期待できない。
なお、債権者が求めている賃金仮払いの請求は、減給処分がなされたり、病欠による減収の生じた期間の給与を算定の基礎とした極めてひかえめなものである。
3 よって、債権者は、債務者との間で債権者が債務者の従業員の地位にあることを仮に定めるとともに、債務者に対し、昭和五八年七月から本案判決の確定に至るまで毎月八日限り月平均賃金一八万二一四八円を仮に支払うことを求める。
二 申請理由に対する認否
1 申請理由1の(一)ないし(三)の事実は、認める。
2 同2の事実は、不知。
債権者は、現在、市原市にある新出運輸株式会社に勤務し、一日金一万円以上の収入を得ており、その収入は、本件申請で債権者が債務者に対し求めている仮払給料を上廻るもので、保全の必要性はない。
三 抗弁
1 債務者は、昭和五八年五月二日、債権者に対し、口頭で解雇する旨の予告をした。
2 右解雇予告(以下、本件解雇予告という。)の理由は、次のとおりである。
(一) 就業規則一八条三号該当事由
(1) 債権者は、昭和五七年七、八月ごろ、債務者から配車を受けている貨物自動車後部荷台の扉内側一杯に債務者の得意先であるメロス化粧品を名指して「メロスの仕事はきつい。給料上げろ。」、「メロスはいやだ。」等と落書きをし、これがメロス化粧品の担当者と債務者の最大の顧客である東京佐川急便株式会社の責任者の目にとまり、債務者は、佐川急便の係長から叱責を受けた。このようなことで債務者にとって最も依存度の高い佐川急便から取引を停止されると、債務者は倒産の危険が大きく、右のような債権者の行為は、就業規則六九条四号の「業務を妨害するような言動のあった者」に該当し、同一八条三号の懲戒事項に当る。
(2) 債権者は、昭和五七年一二月一一日午後一一時ごろ、乗車していたトラックを佐川急便東京店内に駐車させて、同僚二名と翌一二日午前二時三〇分ごろまで同店内の飲食店で飲酒したうえ、店主の自動車を強引に借り受け、数ヶ所飲み歩いて最後は、亀戸方面まで赴き、飲酒代を払えなくなって無銭飲食で警察沙汰になった挙句、佐川急便東京店に引取られるなど債務者及び佐川急便の信用を著しく傷つけた。債権者を含む三名の右行為は、債務者の信用を著しく失墜した悪質なものとして懲戒解雇事由に該当する。
債権者の右行為については、債務者の方でその情状を考慮して債権者を諭旨解雇にすることを一旦決めたが、債権者が同僚七名を保証人とする始末書を提出してきたので、債務者は、債権者を諭旨解雇にすることを保留し、これまでのように無断欠勤ないし乗務直前欠勤あるいは債務者の信用を傷つけることがあれば解雇する旨債権者に伝えたうえ、減給処分にした。
(3) 債権者は、昭和五八年三月一二日出勤した際、債務者の課長代理である大木一功(以下、大木という。)から「あまり休みが多いので注意してほしい。」旨注意されると、これに反抗して大木と口論となり、当日のトラックの乗務を拒否した。
債権者の右の所為は、上司の命令に従わない越権専断の行為であって職場の秩序を乱したものとして就業規則六九条五号の懲戒事由に該当する。
(二) 就業規則一八条五号該当事由
(1) 債権者が所属している佐川急便部門(債務者の業務部門の一つ)の運転手は、佐川急便が速配を旗印にして全国ネットによる翌日配達を基本としていることから、予め決められた乗車日、配送経路を遵守し、事務処理を確実に遂行することが要求され、同部門所属の運転手でないと確実に職務を遂行できない面があり、欠勤する場合には、予め余裕をもって欠勤届をするなどしてもらわないと代替要員を確保することが難しく、同部門では予め決められた乗車日の欠勤は、許されないのに債権者には他の従業員と比較して無断欠勤(昭和五七年六月三〇日から七月一日にかけての千葉―木更津便(後日、話し合いで有給休暇とした)、昭和五八年四月二六日、同月三〇日(勝手に休んだもの))、乗務直前欠勤が極めて多く、そのために他の従業員に労働強化を強いることになる。
右のような佐川部門の特殊性を考慮すると、債権者の無断欠勤、乗務直前欠勤を許容放任した場合には、職場の規律を維持することはできない。
(2) 右の事情に加えて債権者に前記(一)の(1)ないし(3)の懲戒事項に該当する事由があることを勘案すると、債権者には就業規則一八条五号の会社の都合によるやむを得ない事由が存在する。
(三) タイヤの横流し行為
債権者は、その乗務車両の債務者のタイヤを横流し(不法に処分)していた事実もあり、右事実は、古舘巌(以下、古舘という。)が作成した昭和五八年八月五日付の報告書によって明白となったものであるが、債務者としても本件解雇予告時に既に債権者の行為であるとの認識はもっていた。
3 債務者は、昭和五七年一二月の飲酒事件(前記2の(一)の(2))の処分について債権者から始末書が提出されたため、債権者の解雇処分を保留していたが、昭和五八年三月一二日の大木問題(前記2の(一)の(3))や同年四月下旬の欠勤状況を踏え、それまでの債権者の行為全般を評価して保留していた解雇処分を執行せざるを得ないと考えて本件解雇予告をしたものである。
四 抗弁に対する認否と主張
1 抗弁1の事実は認める。
2 同2の(一)の(1)の事実は否認する。
もっとも、債権者が債務者主張のころ、債務者から配車を受けている貨物自動車後部荷台の扉内側に落書きしたことはあるが、それは「藤田は何を考えているんだ。金もうけよ。」、「メロスの仕事までやっているのに給料が上がらないのはなぜか。藤田に金がないからです。」という内容のみであって、給与等についての債務者への不満を書いたものに過ぎず、メロス化粧品、佐川急便への非難の意味は全く含まれていない。
そして、債権者は、右落書きについて債務者から注意を受けたことは一回もなく、右のような落書きは従業員の間では常態化しており、債務者から特に問題とされ、懲戒処分を受けた例もない。債務者が債権者の右落書きのみをとらえて懲戒解雇事由があるとするのは、差別的取扱いである。
そもそも、債権者は、右落書き直後、落書き箇所に荷造り用テープを貼って見えないようにしておいたもので、本件解雇予告の理由にもなっていないにもかかわらず、今回債務者の方でわざわざ右テープをはがして新たに解雇理由に付け加えてきたもので、これをもって本件解雇理由とすることはできない。
3 同2の(一)の(2)の事実のうち、債権者が昭和五七年一二月一一日午後一一時ごろ、乗車していたトラックを佐川急便東京店内に駐車したこと、同店付近の飲食店主の自動車を借りたこと、亀戸方面まで赴いて飲酒したこと、債務者に対し、同僚七名を保証人とする始末書を提出したこと、債務者が債権者を減給処分にしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
債権者は、債務者主張の日時ころ、佐川急便東京店内の食堂で食事だけをし(同食堂で飲酒はしていない。)その後、同僚の古舘、小山内と飲酒しに行ったが、最初に行った店は閉店するところだったので、結局、飲酒したのは亀戸のスナックで、三〇分程の間に薄い水割りウイスキーを二、三杯飲んだだけで一二日午前一時ごろ、先に戻って当日午前九時からの業務に備えて就寝したもので、飲酒したのは、勤務終了後であり、しかも職場外のことであって業務中ではない。
無銭飲食で警察沙汰になったと債務者が主張する事実の真相は、次のとおりである。すなわち、亀戸で飲酒した際、債権者は、二万五〇〇〇円程所持し、飲酒代を払うといったが、一緒に飲酒していた古舘が妻が金を持ってくることになっているといって断わったので、支払いを古舘にまかせて小山内とともに先に帰ったところ、古舘の妻が来店しなかったため、古舘が飲酒代を払えず、警察に届けられたが、「東京店に戻って同僚に金を借りる。」ということで、パトカーに乗せられて佐川急便東京店に戻ってきたにすぎない。債権者は、このとき既に寝入っていて右のことは後に聞いて知ったものである。
債権者は、飲酒していながら、亀戸のスナックから佐川急便東京店まで自動車を運転して戻ったが、運転した自動車は、債務者のものではなく、しかも飲酒の悪影響もとくに出ず、このときの運転行為は、何らの刑事事件にもなっていない。
そして、債権者は、右のことについて同僚七名を保証人とする始末書を提出したが、これは、債務者からの解雇を避けるためにやむなく提出したもので、既に、就業規則六六条三号所定の「七日以内」を超える昭和五七年一二月一三日から二七日までの一五日間の出勤停止処分と同条二号所定の上限に当る一か月の賃金総額の一〇分の一の減給処分を本件解雇予告による解雇まで受けており、債務者が右のことを理由に本件解雇予告による解雇をするなら処分ずみの行為につき更に処分することになり、到底、解雇の正当な理由とはいえない。
なお、債務者は、債権者の右の行為につき懲戒解雇事由に該当するところ、情状を考慮して諭旨解雇にしたとするが、そうであるならば、著しい事実誤認であり、また、債権者からの嘆願があったので諭旨解雇処分を保留して減給処分にしたとする点も債権者には全くそのような告知がなされていない。
4 同2の(一)の(3)の事実のうち、債権者が昭和五八年三月一二日出勤した際、トラックに乗務しなかったことは認めるが、その余は否認し、争う。
債権者は、同日、出勤した際、大木に対し、乗務車両を変更した理由を糺し、従前の車両に戻すよう要求し、大木の方で一旦はこれを承諾しておきながら債権者の右要求を拒否したものであり、非は大木の方にあり、しかも、そのやりとりも、双方からの意見の出し合いといったもので、債権者が大木に反抗して口論したものではない。確かに、当日債権者はトラックの乗務をしなかったが、これは、債権者が大木に対し、「今日は、まだ頭も痛いし、気持もいらいらしているので、慣れない車に乗って事故でも起こしたらいけないので、休ませて下さい。」と伝えて休もうとしたが、大木の方で聞き入れようとしなかったというのが実態であり、債権者の方で上司の命令に服従しなかったものではなく、職場の秩序を乱す行為とは言い難い。
そして、債権者は、同日、大木と小川仁(以下、小川という。)から出勤停止を言い渡され、同日から一七日までの六日間もの出勤停止処分に付されるとともに始末書もとられたので、右一二日の債権者の言動が仮に、懲戒事由に該るとしても、右処分により十分な制裁が加えられたというべきであり、本件解雇予告による解雇の理由として債権者の右の言動を加えることは二重の処分を行うことになって許されない。
因みに、本件解雇予告に当っては債権者の大木に対する右言動については全く指摘されなかった。
5 同2の(二)の(1)の事実のうち、債権者が他の従業員と比較して無断欠勤、乗務直前欠勤が極めて多く、そのために他の従業員に労働強化を強いることになる点、職場の規律を維持することができない点は否認ないし争う。
債権者が無断欠勤や乗務直前欠勤をしたことはない。
債務者が明確に指摘する債権者の無断欠勤とは、昭和五八年四月二六日の一回のみである。昭和五七年六月三〇日から七月一日にかけての後日話し合いで有給休暇としたとするもの及び昭和五八年四月三〇日の勝手に休んだとするものを加えてもたかだが三回にすぎないが、右の三回は、いずれも債権者において届出をしたうえ、欠勤したものである。
また、乗務直前欠勤についても、その用語自体、債務者の就業規則上も社内慣行上も使われていず、もちろん、その定義もないばかりでなく、債権者の欠勤のほとんどは、欠勤の届出が乗務時刻よりも二、三時間以上の余裕をもってなされており、そうでない場合でも業務中に体調が悪くなって運転を継続できる状態でなくなったためやむなく債務者に申出てその了解を得てその後の乗務を交替してもらったとか、債務者の事務所の始業時刻との関係でその二、三時間前の届出が不可能であるとか、内妻の父の急病という突発事態の連絡が出勤直前にあったためであるとかといった事情があり、債権者の欠勤届出には就業規則四七条に定める手続に反するところはない。仮に、債権者に無断欠勤や乗務直前欠勤があったとしても、他の従業員と比較して極めて多いとは到底いえないし、債権者の欠勤につき届出が遅かったため代わりの運転手の手配ができず、仕事に支障をきたしたということも全くなかった。
6 同2の(二)の(2)は争う。
7 同2の(三)の事実は、否認する。
債権者は、昭和五七年九月ごろ、古舘から「タイヤがパンクしたのでスペアタイヤをくれないか。」といわれて、これを承諾し、乗務車両のスペアタイヤ一本を古舘に渡したことはあるが、これ以外には古舘にスペアタイヤを渡したことはない。
このタイヤ横流しの問題は、本件解雇予告時には債務者の方で問題としていなかったものである。
8 同3の事実のうち、債権者が始末書を提出したことは認めるが、その余は否認し、争う。
五 再抗弁
1 債権者は、全日本運輸一般労働組合(以下、運輸一般という。)の組合員であるが、債務者の債権者に対する本件解雇予告は、債権者らが昭和五八年四月ごろ行った組合活動を嫌悪して組合結成を妨害し、これを切り崩そうとしてなされた数かずの不当労働行為の一環としてなされたもので、無効である。
2 すなわち、債権者は、昭和五八年三月中、下旬ごろ、同僚の呼び掛けを受けて組合活動のあり方等について話し合ったりする「働く仲間の会」の活動に加わり、同年四月三日、同僚の須田を誘い、従来からあった千葉一般同盟藤田支部(以下、同盟藤田支部という。)とは別に、新たに運輸一般の下に運輸一般藤田運輸分会(以下、分会という。)を作る分会準備会を結成し、斉藤勝美(以下、斉藤という。)が右準備会の分会長に、債権者が副分会長の一人に選出された。
そして、昭和五八年三月下旬ごろから四月上旬にかけて同盟藤田支部に所属していた右準備会参加者は、債権者も含めて同盟藤田支部を集団的に脱退し、分会の正式な結成をめざして毎週日曜日に会合を持ち、学習したり、組合員を増やす活動をし、債権者は、斉藤とともにその先頭に立って活動し、公然と分会の組合員の集金を行った。
3 債務者は、遅くとも昭和五八年四月中旬、債権者らの分会結成に向けての組合活動の動きを察知し、同月下旬、急拠、これに対する対応策を練り始め、その一つが同月二七日夜、開催され、本件解雇予告による債権者の解雇を決定した臨時の会議であり、その会議での決定は、直ちに実行に移された。
4 まず、右会議の翌日の二八日、斉藤について解雇等の不利益処分の口実を発見できなかった債務者は、斉藤を社長秘書室長にして同僚から切り離し、組合活動を妨害しようとして社長秘書室長になれと攻撃を開始し、次いで、同年五月二日、債権者に対し、本件解雇予告をし、同月一〇日、斉藤をして社長秘書室長になることを余儀なくさせ、また、他の組合員に対する各個撃破の攻撃を開始した。その結果、債権者らは、分会の結成の予定を遅らさざるを得なくなったものである。
5 以上のとおり、本件解雇予告は、債務者の不当労働行為の一環としてなされたものであって、無効である。
六 再抗弁に対する認否と主張
1 再抗弁1ないし5の事実のうち、債務者が昭和五八年四月二七日夜、臨時の会議を開催して債権者に対する本件解雇予告を決めたこと(3の事実中)、同年五月二日債権者に対し本件解雇予告をしたこと(4の事実中)は認めるが、その余の事実は不知ないし争う。
2 債権者に対する本件解雇予告は、前記三の2、3の事由に基づいて行ったもので、不当労働行為ではない。
第三疎明関係
当事者双方の疎明関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一被保全権利について
一 申請理由1の(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について判断する。
1 抗弁1の事実は、当事者間に争いがなく、(証拠略)によると、次の事実が疎明される。
(1) 債権者は、昭和五六年一月八日、債務者に運転手として入社し、佐川部門に配属され、佐川急便の営業所間の貨物運搬の業務に従事していたが、債務者の乗務体制は、概ね一車一人制で、一車両を二人で一日おきに使用していたこと、
(2) 昭和五七年八月九日、債権者が欠勤して代替乗務員を確保できなかったところから、債務者の千葉営業所の車両管理を担当していた所長代理の大木が債権者の乗務車両に乗務して積荷場所のメロス化粧品に赴いたところ、車両荷台の後扉一杯にマジックインクで「藤田はつぶれる。」「メロスの仕事はきつい、給料上げろ。」「メロスはいやだ。」等と落書きがされていたためメロス化粧品の者は、「うちのことが書いてあるよ。そんなにきつければ、来なければいいのに……。」といい、その場にいた東京佐川急便株式会社の係長からも「うちの会社ならこんなことを書いたら直ぐ首だよ。藤田さん、よく会社は許しているね。」といわれて、早速債権者に注意をしたが、格別の処分はせず、当時債権者のところでは債権者の乗務車両ばかりでなく、他の車両にも落書きがしてあり、債権者自身、その乗務車両に「藤田は何を考えているんだ。金もうけよ。」「メロスの仕事までやっているのに給料が上がらないのはなぜでしょう。それは、藤田に金がないからです。」と落書きをしたことは認めていること、
(3) 昭和五七年一二月一一日午後一〇時ごろ、当日の佐川急便東京店での仕事を終えた債権者は、翌日の休日出勤に備えて、同所に駐車した乗務車両内に泊まることにしたが、当時同僚であった古舘が「一緒に飲もう。」と誘いにきたので佐川急便東京店の食堂に行き、同店で既に飲酒していた当時の同僚の小山内も含めて飲食後、同食堂店主の自動車を借りて三人で飲みに出かけ、亀戸のスナックで飲酒し、古舘が出掛けて来るように連絡していた同人の妻から行かれないという電話が入り、小山内がその連絡を受けたのに、その旨を古舘に伝えることなく、債権者とともに古舘を残したまま、債権者運転の自動車で佐川急便東京店に戻ってしまい、古舘は、無銭飲食の廉で警察沙汰となったことがあり、債務者は、同月一三日、債権者を含む右三名に対し、最終処分を決めるまで取り敢えず出勤停止にし、最終処分として懲戒解雇ないし諭旨解雇にすることに決めたが、結局は、古舘と小山内は自己都合による退職ということになり、債権者は、同僚七名が保証人として連署した始末書を提出したことから一旦決めた解雇処分に代えて一〇か月、一〇パーセント、但し、勤務態度等が好転すれば期間を短縮する減給処分を受け、同月二七日出勤停止処分も解除されて翌二八日から職場に復帰したこと、
(4) 債権者は、昭和五八年三月五日から一〇日まで風邪をひいたため欠勤し、翌一一日出勤したところ、欠勤前に乗務していた比較的新しい車両の配車がなかったため、翌一二日、車両管理をしている大木に対し、電話でもとの車両に戻すよう要請したうえ、出勤したが、大木から「あんまり休まないでくれ。」等といわれてもとの車両を戻してもらえなかったことから、大木と口論となり、「頭も痛いし、今日はこんないやな思いして乗るんだったら乗れませんから、事故でも起したらうまくないから今日休みます。」等といって乗務を拒否し、その場に居合わせた小川から出勤停止を申し渡されて出勤できなくなったが、業務部本社営業所長の内田哲雄(以下、内田という。)や総務部長兼業務部長代行の薬師村知(以下、薬師村という。)にこれから気をつけるから何んとか使ってもらえないかと申し出た結果、始末書を提出することで結着がつき、出勤停止処分も解けて同月一八日から職場に復帰したこと、
(5) しかし、債務者は、昭和五八年四月二七日、毎月一回開催し、重要事項について協議する定例会議の構成員からなる臨時会議を開いて同月二二日、二三日、二五日、二六日と欠勤した債権者の解雇問題について協議し、その席上、債権者の直属の上司である内田課長から債権者の出勤率が悪く、乗務直前の届出欠勤も多く、また、無断欠勤もあることや、前記(2)ないし(4)の債権者の行跡も報告され、結局、会議では解雇すべきであるという結論となったが、懲戒解雇になし得るか否か明確でなかったこともあって諭旨解雇することとし、債務者代表取締役の決裁を得て、同年五月二日、薬師村が内田の立会のもとに債権者に対し、出勤状態がよくないこと、再三にわたって処分を受け、いわば謹慎中の身分でありながら、勤務態度が改善されないこと、会社の都合といった理由を伝えて解雇予告をしたこと、
(6) 債権者は、他の従業員と比較して欠勤が多く、これまでに業務車両の出庫時や出庫二、三時間前に欠勤の連絡をしてくることも間間あり、債務者の配車担当者は、代替乗務員を確保するのに苦労し、時には代替乗務員の確保ができず、車両管理を担当している大木が債権者に代って乗車したりしたこともあり、債権者自身も出勤率が悪いことを自認しているが、債務者の方で無断欠勤であるとする昭和五七年六月三〇日から七月一日にかけては、欠勤届を提出してあるとし、また同じく無断欠勤とされている昭和五八年四月二六日についても債務者から連絡があった際、債権者の方で医者に行っていて留守にしていたところから無断欠勤扱いにされたが、前日の二五日に債権者の妻が欠勤する旨の連絡をした際、治るまで休ませてもらいたい旨伝えたので、債権者としては無断欠勤にはならないと考えているとし、更に本件解雇予告を実質的に決定した臨時会議の後である同月三〇日については、前もって家事都合で休暇をとる旨債務者に連絡していたが、二八日の時点で休暇をとらなくてもよいかも知れなくなったので三〇日の休暇を取消したが、その後休暇をとる必要がはっきりしたので二八日の夜、ホワイトボードの三〇日の欄に「中村」と記載して三〇日に休暇をとる趣旨を表示し、三〇日に小川から休暇の確認の電話が入ったのに勝手に休んだとして無断欠勤扱いにされたとしていること、
(7) 昭和五八年四月二二日、二三日、二五日、二六日の欠勤(以下、四日間の欠勤ともいう。)は、十二指腸炎もしくは十二指腸潰瘍に罹患したことによるもので、二二日、二三日、二五日は昼ごろまでに債権者の妻から債務者の方に電話で胃痛のため欠勤する旨連絡し、二六日の欠勤については当日、債務者の方に連絡しなかったが、前記のとおり、前日の二五日に債権者の妻が治るまで休ませてもらいたい旨伝えたので、債権者としては無断欠勤にはならないと考えていること、
以上の事実が疎明され、(証拠判断略)、他に右認定を左右するに足る疎明はない。
2 而して、右の疎明事実のもとで、本件解雇予告による解雇の理由の有無について検討する。
(一) 就業規則一八条一項三号事由について
(1) (証拠略)によれば、債務者の就業規則一八条一項には解雇事由の一つとして三号で「懲戒事項に該当する行為のあったとき」と規定(以下、三号事由という。)され、六七条ないし六九条に懲戒処分に応じた懲戒事由が列挙(懲戒解雇事由は一四号に亘って列挙されている。)され、網羅的に定められていることに照らすと、三号事由を解雇事由とした趣旨は、右の懲戒事由が存する場合に懲戒処分に代えて、もしくは一時的、暫定的な処分とともに解雇することができる旨を定めたものであって、懲戒事由が存するからといって、既に、処分済みの事由ないしは処分しないこととした事由に基づいて解雇することまでも認めた趣旨ではないと解するを相当とする。
(2) 前記疎明事実によれば、債権者は、本件解雇予告を受けるまでに飲酒事件で出勤停止処分、始末書提出及び減給処分、大木問題で出勤停止処分、始末書提出という懲戒処分を受けたほか、落書き問題でも注意を受けたが、処分そのものはなかったのであるから債務者の方で三号事由に該当すると主張する解雇事由は、いずれも既に処分済みの懲戒事項に基づくものないしは、注意を受けただけで何らの処分もなかった事項に係るものであって三号事由には該当しないといわざるを得ないところである。
(二) 就業規則一八条一項五号事由について
(1) (証拠略)によれば、債務者の就業規則一八条一項には、その五号で「その他会社の都合によりやむを得ない事由があるとき」を解雇事由の一つと規定(以下、五号事由という。)されているが、その二号に解雇事由として「経営の合理化による職制の改廃、経営の簡素化、事業の縮少等により剰員を生じたとき」と規定されていることからすると、右の五号事由は、経営の合理化、簡素化、事業の縮少といった会社の経営面の事情に基づく会社都合を意味するものではなく、職場の規律維持、業務の円滑な遂行といった業務運用面からみた会社都合をいい、勤務不良、顕著な作業遅滞等の業務運用面の支障により職場の規律維持、業務の円滑な遂行が阻害され、解雇以外にそれを回避する適当な方法がない場合をいうものと解するを相当とする。
(2) 前記疎明事実によれば、債権者は、他の従業員と比較して出勤率も悪く、欠勤届も乗務二、三時間前のものが多く、債務者の配車担当者に代替乗務員を確保するため苦労をかけ、しかも、前記のとおり、始末書の提出及び出勤停止処分を各二回、うち一回は更に減給処分を受けるなどその勤務状況は必ずしも芳しいものではなく、しかも、本件解雇予告決定の直前に四日間、間欠的に欠勤しているのであって、これらの事情からすると、債権者の所為は、五号事由に該当すると考えられなくもないが、しかし、四日間の欠勤は、債権者が十二指腸炎もしくは十二指腸潰瘍に罹患したことによるもので、四日間のうち、三日は債権者の妻から債務者に対し電話で胃痛により欠勤する旨届出ており、あと一日は、債権者が医者にいっていて留守にしていたため債務者からの連絡に即応できず、無断欠勤とされたが、債権者としては、その前日に妻が債務者に連絡した際、治るまで休ませてもらいたい旨伝えたので無断欠勤にならないと考えているというのであり、債権者の右欠勤によって債務者の業務運営に具体的、現実的な支障が生じた事跡の認められない本件においては、債権者がこれまで二回にわたって懲戒処分を受けたりしたことを考慮しても、右の四日間の欠勤を機縁としてなされた本件解雇予告には五号事由があったとはいえない。
(三) タイヤの横流し行為について
債務者は、債権者が行ったとする乗務車両のタイヤの横流し行為(債務者財産の不法処分)をも本件解雇予告による解雇理由とし、証人薬師村知の証言から成立の認められる疎乙第二四号証(作成者古舘)中には、債権者が二回に亘って古舘との間で乗務車両の新しいタイヤ三本を他のタイヤと交換した趣旨の記載があり、証人薬師村知の証言中にも前前から債権者らが新しいタイヤを処分したことは薄薄知っていたが、昭和五八年八月五日の古舘の報告書(疎乙第二四号証)によって明確になったとする証言部分が存するが、一方、前掲疎甲第三二号証中には、債権者は、古舘から「タイヤがパンクしたのでスペアタイヤをくれないか。」といわれて乗務車両のスペアタイヤ一本を渡し、翌日大木にその旨を報告したとし、乗務車両にはスペアタイヤは一本しかついていないので二回で三本交換するということはありえないといい、債権者本人尋問の結果から成立の認められる疎甲第三三号証(作成者貝柾良幸)中には、古舘が債権者の知らない間に勝手に債権者の乗務車両のタイヤ(スペアタイヤ)をはずして古舘のトラックに積み込んだ、再三注意したがいうことをきかなかった趣旨の記載もあって債権者が実際に債務者が主張するようなタイヤの横流しをしていたか否か必ずしも、明確でないばかりでなく、証人薬師村知の証言によれば、右のタイヤ横流しの問題は、債務者が債権者に対する本件解雇予告を決定した際、解雇理由には加えていなかったことが疎明されるところであって、いずれにしても右のタイヤ横流しの問題をもって本件解雇予告の解雇理由とはなし得ないことは明らかといわなければならない。
(四) また、債務者は、飲酒事件の処分について債権者から始末書が提出されたため、債権者の解雇処分を保留していたが、大木問題や昭和五八年四月下旬の欠勤状況を踏え、債権者の行為全般を評価して保留していた解雇処分の執行をせざるを得ないと考えて本件解雇予告をしたものと主張するが、前記疎明のとおり、飲酒事件の債権者に対する処分は、出勤停止、始末書提出、更には一〇か月間一〇パーセント但し、勤務態度等が好転すれば、期間を短縮する減給処分といういわば最終処分としての形態でなされていることからすると、債務者の方で債権者の解雇処分を保留したという趣旨は、債権者において今後問題を起した場合には飲酒事件において一旦は解雇処分にすることが決まったという事情を爾後の処分の際斟酌するというにあると解するを相当とし、四日間の欠勤の事情が前記疎明のとおりであり、しかも(証拠略)によれば、四日間の欠勤は、格別何らの懲戒事由にも該当しないところであって、四日間の欠勤を契機としてなされた本件解雇予告はたとえ、飲酒事件で一旦は債権者に対し解雇処分に付することが決められた点を勘案しても、いささか唐突にすぎ、本件解雇予告による解雇に理由があるということはできない。
もっとも、債権者は、飲酒事件で減給処分等に付された後、大木問題を惹起しているが、これについて処分未了等の事情があるなら格別、前記疎明のとおり、既に出勤停止処分の後、始末書を提出させて職場に復帰させた以上、これをもって本件解雇予告による解雇理由を根拠づけることもできない。
3 以上の次第で、抗弁は、いずれも採用できない。
4 そうだとすると、その余の点について判断するまでもなく、一応債権者は、債務者との間で雇用契約上の地位を有し、債務者に対し、昭和五八年七月以降毎月八日限り月平均賃金一八万二一四八円の支払請求権を有するというべきである。
第二保全の必要性について
一 (証拠略)債権者本人尋問の結果によれば、次の事実が疎明される。
1 債権者は、昭和五八年五月二日、本件解雇予告を受けた後、同年六月から一二月ごろまで月額約一二万円程の失業保険金の給付を受け、昭和五九年初めごろからアルバイトをして生活を維持しているが、アルバイト先は転転とし、昭和五九年九月か一〇月ごろからは市原市にある新出運輸にトラック運転手として月平均二〇日前後稼働し、一日金一万円月平均金二〇万円前後の収入を得ていること、
2 債権者は、昭和五九年一二月、内妻の増山栄子やその子供と別居して現住所の借家に転居し、現在、三谷芳枝と同棲しているものの、三谷は現在働いていず、借家の賃料は月金二万七〇〇〇円で、借家するに当って新出運輸から金二〇万円借受け、更に、内妻であった右増山と生活していたころ、親しい人から借りた借金が金七〇万円程あり、新出運輸に対する借金は月づき給料から天引される形で返済し、金七〇万円程の借金は、親しい人から借りたので毎月一、二万円ずつ債権者の方で持参して返済しており、一応前記の収入で生計を維持しているが、預、貯金その他の財産といったものはないこと。
以上の事実が疎明され、右認定を左右するに足る疎明はない。
二 右の疎明事実によれば、債権者は、現在市原市にある新出運輸にトラックの運転手として勤め、月平均金二〇万円前後の収入を得て、一応の生計を維持しているが、その稼働形態はアルバイトであって安定したものではないことが窺われ、ある程度の借金もあるが、現在(本件口頭弁論終結時)まで、ともかく生活を維持し、借金についても月づき若干ずつ返済すればよい状況にあり、仮処分が一応の暫定的な措置であることを考慮すると、債権者が債務者との間で雇用契約上の地位を有することを仮に定める必要性はあるものの、賃金の仮払いについては、まずその仮払い額の点で債権者が請求する月額金一八万二一四八円の概算である月金一八万円をもって相当とし、期間の点でも本件口頭弁論終結時の属する月の翌月以降のいわゆる将来分については、保全の必要性が認められるものの、本件口頭弁論終結時の属する月以前のいわゆる過去分については仮払いの必要性はないと解するを相当とする。
第三結論
よって、債権者の本件申請のうち、債権者が債務者に対し、雇用契約上の地位にあることを仮に定めるとともに、債務者に対し、本件口頭弁論終結時である昭和六〇年七月一五日の属する月の翌月である同年八月から本案判決言渡しに至るまで毎月八日限り月金一八万円の仮払いを求める限度で理由があるので保証を立たてさせないでこれを認容することとし、その余の申請は失当として却下し、申請費用については、民訴法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 円井義弘)