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千葉地方裁判所 昭和59年(ワ)251号 判決 1986年9月03日

原告

三枝駿次

被告

富田久則

ほか一名

主文

一  被告富田久則は原告に対し、金三六七万三〇七五円および内金三一七万三〇七五円に対する昭和五六年六月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告富田久則に対するその余の請求ならびに被告利根コカコーラボトリング株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告富田久則との間に生じた分はこれを三分し、その一を被告富田久則の負担とし、その余は原告の負担とし、原告と被告利根コカコーラボトリング株式会社との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金一〇〇八万四六七一円および内金八八八万四六七一円に対する昭和五六年六月三〇日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  本件事故の発生

1 発生年月日 昭和五六年六月三〇日午前八時ころ

2 発生場所 千葉市富士見二丁目一一番二号先路上

3 被告車 普通乗用自動車(千葉五七て五七六〇)、運転者被告富田久則(以下被告富田という。)

4 態様 原告は、前記日時ころ、前記場所道路を自転車を運転走行して交差点にさしかかつたところ、交差道路に停止していた被告富田運転の被告車が前方を確認しないまま突然発進し、被告車両の前部を原告運転の自転車左側に衝突させ、原告を被告車両のボンネツトの上に押し上げたうえ、落下させたものである。

二  本件事故による原告の受傷と治療経過

1 傷病名 頭部外傷、頸部捻挫、左肩から上肢にかけての挫傷

2 治療経過

(一) 入院期間 昭和五六年七月七日から同年一一月一八日まで一三五日間石橋外科、整形外科病院入院

(二) 通院期間

(1) 昭和五六年一一月一九日から昭和五七年四月三日までの一七二日間(うち実治療日数六〇日)右石橋外科・整形外科病院

(2) 昭和五七年八月四日から昭和六〇年四月五日までの九七六日間(うち実治療日数六〇日)千葉大学医学部付属病院

三  責任原因

1 被告富田は被告車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから、後記原告の損害につき自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条本文による賠償責任がある。

2 被告利根コカコーラボトリング株式会社(以下被告会社という。)は、被告富田を雇傭しており本件事故は、同被告が被告会社に出勤のため走行中のものであるから、被告会社も民法七一五条により賠償責任がある。

3 なお被告らはその答弁第三項で、原告が一方通行の道路を逆走したことが本件事故の原因である旨主張するが争う。本件事故現場は、原告が通行していた道路は、一般自動車は千葉方面からパルコ方面に向かつての一方通行であるが二輪車は除かれている。従つて足踏式の二輪自転車を運転していた原告が、パルコ方面から千葉駅方面に向つて走行して現場に差し掛つたとしても、一方通行を逆走したこととならないのは明らかである。

むしろ被告が右のように主張するのは、本件事故当時、被告富田は、被告のいうB道路が全車両について一方通行であると認識しており、同被告は一時停止した後、交差道路の左方のみを確認し、通行車両が存しないため、右方は確認しないまま、漫然と右方からは車両が走行して来ないものと思い込み発進したため、本件事故を誘発したことを示すものである。

四  原告の損害(後記1ないし6の総合計一、二八二万四七九五円)

1 治療費(合計 二四四万〇八三六円)

石橋外科・整形外科病院分 二一六万八〇六一円

都立墨東病院分 五万六五九五円

千葉大学医学部付属病院分 二一万六一八〇円

2 入院諸雑費(合計 一三万五〇〇〇円)

入院期間一三五日、一日あたり一〇〇〇円

3 休業損害(合計 六一七万五一二五円)

原告は危険物取扱主任の資格を有し、本件事故直前の昭和五六年四月までは根本観光グループ千葉事業部設備課の従業員として一〇年間勤務したが、右事業部が閉鎖されたためそこを辞め、同年五月七日から本件事故時までは、東京都墨田区江東橋四―三二―一三所在の株式会社錦美社において駐車場の管理人として勤務していた。原告は当時五五歳であつたが、身体的にはすこぶる健康で根本観光グループ勤務中は殆んど欠勤等はなかつた。しかし本件事故による傷害のため前記のとおり一三五日間の入院を余儀なくされ、その後も通院治療を受けたが現在に至つても頭部、頸部に強い痛みがあり、さらにしばしばめまいの為倒れることもあり、かつ左大腿部の痛みのため歩行も困難な状況である。以上のような状況のため、本件事故後現在まで具体的な勤務は不可能である。

原告の事故三か月の給与は、

昭和五六年四月 一五万一七〇〇円

同年五月 一二万五〇〇〇円

同年六月 一三万二〇〇〇円

であるから一日当りの平均賃金は四四九一円である。従つて本件事故日である昭和五六年六月三〇日から後遺障害認定時の前日である昭和六〇年四月四日まで、一三七五日間の休業損害は、合計六一七万五一二五円となる。

4 治療期間中の慰謝料(二五〇万円)

本件事故時から後遺障害認定時の前日である昭和六〇年四月四日までの間前記のとおり、入院一三五日、通院一一九日間に相応するものである。

5 後遺障害分(合計 九七万三八三四円)

(一) 逸失利益

四、四九一円(前記原告の事故前三か月の平均給与日額)×一〇〇分の五(一四級労働能力喪失率)×三六五日×二・七三一(三年に相当する新ホフマン係数)の計算結果である二二万三八三四円が後遺障害による逸失利益となる。

(二) 慰謝料

原告は高齢であり、本件事故後は様々の症状が発生しており、そのような状態で老後の生活を送らざるを得ず、原告の後遺障害による慰謝料は七五万円を下廻らない。

6 弁護士費用(合計 六〇万円)

原告は本訴の追行を本件原告訴訟代理人に委任し、着手金および報酬として各三〇万円を支払う旨約した。

五  被告らから受領した金額(合計 二七四万〇一二四円)

1 被告富田から都立墨東病院の治療費分として 五万六五九五円

2 グレート・アメリカン保険会社から

治療費分として 二一六万八〇六一円

休業損害分として 五一万五四六八円

六  よつて原告は被告らに対し、各自前記四項の合計額から五項の金額を控除した一〇〇八万四六七一円および内金八八八万四六七一円に対する本件事故時である昭和五六年六月三〇日から完済まで民法所定率による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項の各事実中、4の態様の点につき次のとおり答弁するほか、その余の各事実は認める。即ち、原告が前記日時ころ、前記場所道路を自転車を運転して走行し交差点にさしかかつたこと、被告富田運転の車両が交差道路に停止していたことは認め、同被告が前方を確認しないまま突然発進したことは否認する。半クラツチ状態でロー発進した被告富田運転車両の右ボンネツトと原告自転車が衝突し、原告が被告富田運転車両のボンネツトの上に押し上げられたものである。

二  同第二項の各事実中、1の傷病名は認めるが、2の治療経過中、石橋外科、整形外科病院に入院したことは認めるが、入院期間の点は否認し、通院期間は不知。

三  同第三項中、1の被告富田の賠償責任は認めるが、具体的の責任範囲は争う。

2の被告会社の責任は争う。被告会社が被告富田を雇傭しており、本件事故が同被告が被告会社に出勤途上のものであることは認めるが、被告富田は当時同被告の父親をその勤務先である千葉市中央三―二―二所在のヤエスプラザ千葉支店に送り届け、その直後に本件事故が発生したものである。

なお、本件事故現場は、二本の一方通行路が交差する交差点で被告富田が進行してきた一方通行路(以下A道路という。)に右への一方通行路(以下B道路という。)が交差している。原告はB道路を右から左に向け、一方通行路を逆走して本件交差点に至つている。被告富田はA道路を走行して本件交差点にいたり、一時停止して前方と左側を確認し、右側の見通しが悪いので、半クラツチ状態でロー発進した直後に、前記のとおり右方から交差点に自転車で直進してきた原告が被告富田車両に衝突したものであり、その際原告はブレーキもかけずに衝突している。以上のとおり原告には前方不注視等の著しい過失があるので相当の過失相殺がなされるべきである。

四  同第四項の各事実中、

1および2の点は不知。

3のうち、原告が本件事故後に勤務を継続できない状況となつたことおよび、事故後現在に至るまで労働不能になつたことは否認し、その余は不知。原告は石橋外科・整形病院を退院後、ほどなく就労可能な状態になつていたものというべきである。後遺障害認定も、乙第一号証のとおり、当初は原告の症状から非該当とされていたほどである。

4および5のうち、逸失利益の点は否認し、その余は争う。

五  同第五項の各事実は認める。

六  同第六項は争う。

第三証拠

記録中の証拠等関係目録記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一  請求原因が一項の各事実中、事故態様の点を除くその余の各事実は当事者間に争いがない。そして原告本人尋問の結果、被告富田本人尋問の結果(但し後記一部措信しない点を除く。)、成立について争いのない甲第一号証、同第五号証の一、二、同第六号証と乙第九号証、本件現場を原告代理人が撮影した写真であることについては当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によつて撮影日が本訴提起後の昭和五九年五月一九日であるものと認められる甲第五号証の三ないし八および弁論の全趣旨によつて真正な成立を認める甲第一三号証とを総合すると、本件事故態様は以下のとおりであると認められる。即ち

原告は足踏式自転車を運転してパルコ方面から千葉駅方面に向かつて走行し、本件事故現場である千葉市富士見二丁目一一番二号先の交通整理の行なわれていない交差点にさしかかつた。他方被告富田は同市本千葉町方面から新千葉方面に向かい被告車を運転走行してきて同交差点に至り、直進しようとして同交差点入口付近で一時停止後発進するに当たり、左方道路の安全を確認したのみで右方道路を確認しないまま漫然時速約五キロメートルで発進して同交差点に進入して、おりから同交差点に走行進入してきた原告運転の足踏み自転車の左側に自車前部を衝突させて原告を被告車両のボンネツトの上に押し上げたうえ落下させる本件交通事故を惹起した。なお原告が走行してきた道路は、四輪車については逆方向への一方通行の規制がなされているが、二輪車および自転車については何ら規制されてはおらず、被告富田もこのことは知つていた。また原告は前記のとおり同交差点に差しかかり、進入するに際し、数メートル左前方の、同交差点の左方道路からの入口付近に、被告車が一時停止したのに気付いてその動静を注意していたが、進入するときは動き出してはいなかつたためそのまま同交差点に直進進入して前記のとおり被告車に衝突したものである。

本件事故は態様については、以上のとおりであることが認められ(ただし、右のうち、原告が前記日時ころ前記場所道路を自転車を運転走行して本件交差点に差しかかつたことおよび被告富田運転の車両が交差道路に停止していたことについては当事者間に争いがない。)、右認定に反する被告富田本人尋問の結果の一部は前記各証拠に照らして採用できず、ほかにこれを左右するに足りる証拠はない。

二  本件事故による被告富田の自賠法三条本文による賠償責任の存することについては、当事者間に争いがなく、また前項で認定したところによれば、原告は、被告らが主張するように、一方通行路を逆走したものでもなく、また前方不注視の過失があるものとも認められないから、被告らがその答弁第三項で主張する過失相殺の主張は理由がない。従つて被告富田は後記認定の原告に生じた損害の賠償義務を負担すべきものである。

次に、被告会社の責任について考えてみるのに、同会社が被告富田を雇傭しており、本件事故は同被告が被告会社に出勤のため走行中に惹起されたものであることは当事者間に争いがない。しかしながら本件においては右被告車の運行が被告富田の通勤目的以上に、使用者たる被告会社の業務と何らかの密接な関連性を有すると認むべき特段の存在については何ら主張立証はなく、前記のように単に出勤途上であることのみをもつては、被告会社の事業執行中の事故と考えることはできないから、その余の点について判断するまでもなく原告の被告会社に対する本訴請求は失当として棄却を免れない。

三  そこで請求原因第二項および第四項で原告が主張する本件事故による原告の受傷と治療経過および損害について順次判断する。

1  本件事故による受傷、治療経過、治療費

原告が本件事故により頭部外傷、頸部捻挫、左肩から上肢にかけての挫傷の傷害を負い、その期間は別として石橋外科・整形外科病院に入院したことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、原告本人尋問の結果、成立について争いのない甲第四号証の一ないし三、同第一四号証、同第一五号証の一、二、同第一六ないし三六号証、同第三七号証の一、二、同第三八号証の一、二、同第三九ないし第四三号証、同第四四号証の一、二、乙第一号証、同第一〇号証の一、二、同第一一号証の一、二、原本の存在とその成立について争いのない乙第二、第三号証、弁論の全趣旨によつて原本の存在とその真正な成立とを認める甲第二号証の一、二、同第三号証、弁論の全趣旨によつて真正な成立を認める甲第二号証の三、四、同第七号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証の一ないし四、同第一一号証の一ないし七とを総合すると、原告は右傷害により、本件事故日である昭和五六年六月三〇日から同年七月一〇日まで都立墨東病院に(実通院日数五日)に通院して治療を受け、その間の同年七月七日から同月一九日まで石橋外科、整形外科病院(実通院日数六日)に通院して治療を受けた後、引き続き同月二〇日から同年一一月一八日まで一二二日間同病院に入院して治療を受け、退院後も引続き同病院で同月一九日から昭和五七年四月三日まで通院(実通院日数六〇日)治療を受けた後、同年八月四日から昭和六〇年四月五日まで千葉大学医学部付属病院(実通院日数六〇日)通院して治療を受け、その間の治療費として都立墨東病院に五万六五九五円(前記甲第一一号証の一、二によれば同病院への支払額は六万〇四九五円であるが、成立について争いのない乙第四号証と被告富田本人尋問の結果によれば、同被告は原告の請求に応じ右五万六五九五円を右病院での治療費分として支払つたことが認められるうえ、原告も同額を主張している。)、石橋外科、整形外科病院に合計二一六万八〇六一円(これについても前記甲第一一号証の三ないし七の合計額と相違するが、同号証によれば同病院に対しては全てグレートアメリカン保険において支払い済みであり、原告も同旨を主張している。)、千葉大学医学部付属病院に対しては合計二一万六一八〇円を、それぞれ支払つた。

また原告は本件事故の直後ころは前記頭部打撲、頸部捻挫および左肩から上肢にかけての挫傷の傷害による頭部、項部痛、左上肢痛等があつて安静加療を要するとされていたが、都立墨東病院、石橋外科、整形病院での治療の結果右症状も漸次軽快し、右病院を退院した直後の昭和五六年一一月二〇日には、同年一二月には治ゆ見込みと診断されていた。しかし、原告は同病院を退院後も頸部の運動痛、頭重、頭痛発作等の自覚症状を訴えて、同病院での治療を継続して受けたが昭和五七年四月三日以降同病院に通院することをやめ、その後は前記のとおり同年八月四日以降千葉大学医学部付属病院での治療を受けてきた。同病院では原告の右(症状)疾患につき頭部外傷、むちうち症、頭痛と診断され、脳波検査でもCTスキヤンでも異常は認められなかつたが、最少限の投薬治療を継続してきたが、頭頸部痛、不眠等の自覚症状は依然として軽快しなかつた。そして同病院は昭和六〇年四月五日に至り、右の原告の自覚症状の訴は依然としてあり、今後も通院の必要があるが、前記のとおり脳波、CTスキヤン各検査では異常なく、また神経学的にも顕著な病変もなく客観的な所見では何らの異常も認められない状況であるとして同日付で右の症状は固定したものと診断してその旨の自賠責後遺障害診断書(乙第二号証)を発行し、これにもとづき原告に対する後遺障害認定は一旦は非該当とされた(乙第一号証)が、後に右乙第二号証を作成した千葉大学医学部脳神経外科の岡信男医師は、同号証につき、原告代理人に宛て、「一般に客観的所見に乏しい患者が頭頸部痛を訴えることはしばしばあり、客観的所見に乏しいからといつて右訴えにかかる症状と事故との関連を否定するものではない。」旨の書面(甲第一五号証の一、二)を提出し、これにもとづき原告に対する後遺障害認定は一四級一〇号該当と訂正されるにいたつた(甲第一四号証)。

本件事故による原告の受傷の治療経過(請求原因第二項)および治療費の損害(同第四項1)については、以上のとおりであると認めることができ(原告の入院期間一三五日の主張は前記のとおり一二二日の限度で理由があり、これを超える期間については失当である。)、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると本件においては事故時(昭和五六年六月三〇日)から症状固定時(昭和六〇年四月五日)まで、約三年九か月余とかなりの長期間を要した事案ではあるが、少なくとも各病院での治療に関する限りは本件事故との相当因果関係を肯定すべきものであることは前記で認定したところから明らかである。従つて原告が請求原因第四項1で主張する治療費の損害については全額理由があることとなるが、同項2の入院雑費については一日あたり一〇〇〇円の定額の一二二日分一二万二〇〇〇円の限度で理由があり、これを超える部分は失当ということになる。

2  休業損害

原告本人尋問の結果、右尋問結果によつて真正な成立を認める甲第八号証の一ないし四、原本の存在については当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によつて真正な成立を認める甲第五六号証と前記甲第二号証の三、四、同第一五号証の一、二、乙第二、第三号証とを総合すると、原告は大正一四年八月二六日生(事故当時五五歳)の男子で、本件事故直前の昭和五六年四月までは根本観光グループ千葉事業部設備課の従業員として殆んど欠勤もなく一〇年間勤務したが、同事業部が閉鎖されたためそこを辞め、同年五月七日から本件事故時までは東京都墨田区江東橋四―三二―一三所在の株式会社錦美社において駐車場の管理人として勤務し、勤務時から最後に勤務した同年七月二日までの間の五七日間で給与として合計二三万九一八四円(給与計算期間である一か月を全部勤務した同年六月における一日当り平均給与額は四、一五七円となる。)の支給を受けていたこと、原告は本件事故による受傷のため前記のとおりの治療を受けるため同年七月三日からは欠勤したまま同年八月末ころには退職し欠勤した右七月三日以降の給与は支払われてはいないこと、原告は前記のとおりその間都立墨東病院および石橋外科整形病院で通院及び入院して治療を受けたが、同病院を退院後今日まで何ら就職、稼働はしていないこと、原告は右病院を退院後は翌昭和五七年四月三日まで右病院に二週間に一回位の割合で通院して、あんま、首の牽引、投薬、注射等の治療を受けたが、同病院から交付された薬によつて幻視症状がでてきたとして右同日以降は同病院に通院せず、その後四か月位の間は自分で売薬のサリドン、アスピリンを服用したりなどし、同年八月四日以降千葉大学医学部付属病院に二週間に一回位の割合で通院して治療を受けるようになり現在にいたつていること、同病院においての診断は前記のとおり脳波やCTスキヤンの検査では何らの異常も認められず、また客観的所見もないとして、自覚症状である頭頸部痛、不眠等の訴えに応じた最小限の投薬治療でありその状況は終始同様であつたこと等の各事実を認めることができる。

右認定の事実関係および前記1で認定した事実関係にもとづいて考えると、原告が本件事故による受傷の通院および入院による治療のため錦美社を退職せざるを得なくなつたことは本件事故と相当因果関係のあることは当然のこととしても、遅くともその後石橋外科、整形病院での通院治療をやめた翌日である昭和五七年四月四日以降も就職稼働しなかつたことが、本件事故による受傷による治療のため必要不可欠であつたとは、前記のような千葉大学医学部付属病院における診断と治療内容およびその後認定を受けた後遺症の程度も一四級該当であつてその症状の故に稼働に耐え得ない程重篤であつたとは認め難いこと等に照らすと、到底考えることは困難であり、従つて右同日以降就職稼働しなかつたことが本件事故と相当因果関係があるとは認め難く、後記のとおり労働力低下による逸失利益損害は別として、休業損害としては認めることができないものといわざるを得ない。

従つて原告が請求原因第四項3で主張する休業損害中、原告が錦美社より最後の給与を受けた日の翌日である昭和五六年七月三日から昭和五七年四月三日までの二七五日間、一日あたり四一五七円(なお原告は根本観光グループにおける昭和五六年四月分の給与も月額の算定にあたり計算すべきものと主張するが、原告は本件当時既に同社から解雇されているものであつて以後は同社から給与を受けることは無いことが明らかであるから、原告主張の算定方法は採らない。)の割合による合計一一四万三一七五円の限度で理由があり、その余は失当というべきこととなる。

3  後遺症による逸失利益

前記各認定にかかる原告の受傷部位、症状の程度および回復状況等を総合勘案し、原告は本件受傷による後遺症のため前記症状固定時である昭和六〇年四月五日以降、原告主張のとおり三年間にわたつてその労働能力が全期間を通じて平均五パーセント低下したものとみるのが相当であり、前記認定の原告が本件事故直前に受けていた給与日額四一五七円を基礎として右期間における原告の労働能力低下による逸失利益額を計算する(四一五七円×一〇〇分の五×三六五日×三年に相当する新ホフマン係数二・七三一)と、その数額が二〇万七一八八円となることは計数上明らかであり、原告の請求原因第四項5の(一)における逸失利益の主張は右限度で理由があり、これを超える部分は失当ということとなる。

4  慰謝料

原告が本件事故により前記のような傷害を負い、多大な精神的苦痛を受けたことは容易に推認されるところであり、前記のような原告の年齢、傷害の部位、程度、入院および通院の期間、後遺症の内容に鑑みると、この慰謝料は二〇〇万円が相当であり、原告が請求原因第四項4および5の(二)で主張する数額中右限度で理由があり、その余は失当というべきこととなる。

四  原告が本件事故にもとづく損害の填補として被告らから請求原因第五項に記載のとおり合計二七四万〇一二四円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、従つて原告が未だ填補を受けていない損害の残金は前項による認定額合計五九一万三一九九円から前記の額を控除した三一七万三〇七五円となる。

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の報酬の支払を約しているものと認められる。そして本件事案の性質、審理の経過、特に本件においては原告代理人の活動によつて本件係属中に原告の後遺障害の認定が非該当から一四級ではあるが該当と認定されるに至つたものであることは弁論の全趣旨によつて明らかであること、および前記認容額等を総合考慮し、被告に対し支払を求め得る弁護士費用は五〇万円をもつて相当と認めるものである。

六  以上のとおりであるから、原告の被告富田に対する本訴請求中、三六七万三〇七五円および内金三一七万三〇七五円に対する本件事故時である昭和五六年六年三〇日から完済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、同被告に対するその余の請求および被告会社に対する本訴請求は失当であるから棄却し、民訴法八九条、九二条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 手島徹)

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